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■オープニング本文 ●失策 「菩提…大丈夫…?」 寺崩壊の際に少なからず怪我を負ったのだろう。男・菩提の足からは多量の血が流れている。 「私のせいで皆捕まっちゃった…ね、ね、次はどうしたらいい?」 少し前まではあれほど自信に満ちていたのに…少女・ルーベは今泣きそうだ。初めての失敗に焦りだけが先走る。 「まずは、支部に戻りましょう…そして、力を仰ぐのです。あなたは何も悪くない…責任は私にあるのですから…ここから一番近い支部に…いけますね?」 優しく彼女の頭を撫でて、菩提は精一杯の笑顔を見せる。 「菩提も一緒に行かなきゃ…ほっておけないよ〜。ここ熊出るもん…だから早く」 「大丈夫、後から追いかけますから…さあ、あなたは先に」 それでも彼は動かない。動けない訳ではないが、彼女を先に行かせなくては――。 後々の為にも、二人同時はまずい。彼女はそれでも渋った後、ようやく駆け出していく。 (「これでいい…さて、まずは報告ですが…どう言い訳したものか」) 洞穴と子供達が捕まってしまった件について――彼らが殺されない最善の策を考えねばならない。 真っ暗な山の中で彼は冷たい風に当たりながら、数刻そんな事を考えるのだった。 ●道場 「これでくたばったと俺は思っちゃいないぜ」 焼け落ちた寺の残骸の前に佇み、俺が呟く。 あの後、捕らえた子供達はギルド管轄の拘置所に引き渡す事となった。 ――と言うのも、彼らは今手配中の詐欺組織『百狩狂乱』と少なからず関係があると判断されたし、志体持ちであるという点でも一般人と同じと言う訳にはいかなかったからだ。しかし、彼らは百狩の事ついては余り詳しく無い様だった。 「…教えて。君達が見た『真実』を」 二人が逃亡した後、人が到着するまでの間意識を取り戻した子供達に仲間がそう尋ねていた。 しかし、その問いに子供達はこう答えている。 「僕達の居場所はあそこしかないんだ。なのに、なんで悪く言うの?」と――。 (「しかも百狩の名でなく、狩狂の名を出して初めて話し出したんだったか…」) その時の事を思い出して、俺は推理する。 つまりは子供達は狩狂の事は知っているのに、百狩という組織自体は知らないようなのだ。 それにその後の動きも微妙に以前の事件とは違う。あの猫又の絡んだ事件では子供達を奪還しにきているし、また別の貴族の屋敷襲撃事件では捕縛された百狩の部下達は獄中で服毒自殺を遂げている。なのに、今拘置所にいる子供達はそんな素振りは無いし、持ち物や歯を調べてみたがそれらしい薬も見つかっていない。 (「あの時、俺らを確実に仕留められると高を括っていたのか、あるいは…初めから持たされていなかったか?」) 色々腑に落ちない事が多過ぎる。 (「まさか、アレだけの人数を奪還に来る? いや、それはリスクが大き過ぎるよなあ…」) 何にして彼らの立居地が曖昧過ぎる。このまま思考を続けても推測だけが進むだけだ。 「ま、コレがある事だし…今度はこっちから出向いてやるぜ」 俺はそう言って懐から布の切れ端を取り出した。 実はこれ――あの菩提とか言う男と一緒に転倒した際に咄嗟に掴んでくすねていたものだ。何もしていなかったように見えて、こういう所には抜かりなく…さらに次の一手までの筋道は立てている。 ワン ワンッ 「おし、来たな」 そこで聞こえた声に俺はにやりと振り返る。そこには二匹の忍犬がいた。 その名も迅と爽。俺の里ではどちらもとびきり優秀な二匹であり、ついでに頼んでいた情報届けてくれたらしい。首に下げた封書に俺は早速目を通す。 「成程…少し見えてきたぜ。あれは訓練場、だったか。となるともしかすると…」 手紙の内容は以前俺が関わった事件の追加報告だ。山のある一定の場所から変な声が聞こえて、しかも山が揺れるというものだったが、それにも今回の子供達が絡んでいた。しかし、毒を盛られた関係で真実は有耶無耶に…怪しい洞穴は塞がれてしまったのだが、その後の掘り返し作業が急ピッチで行われ、中が明らかになったようだ。 (「そういやあいつ、からくり御殿を遊び場だと言っていたし…あの子供達の力はあの場で鍛えられている?」) 調べてみなければ判らないが、筋力や体力を増強する薬が使われている様子もなく、彼らは戦っていたように感じる。それに瘴気の気配もなかったから操られていたという線も消える。ならば、後はやはり自身の力の賜物…それを引き出す為の施設があれだとしたら…? 「この現場に遺体はなかった。行くぜ、靱、爽」 『ワンッ』 二匹の忍犬が元気に答える。 それから匂いを頼りにある場所に行き着くまでに、そう時間はかからなかった。 そこは一見して普通の建物――道場を思わせる外観で敷地はそれなりに広い。 中から聞こえる子供達の声はとても明るく、微塵も詐欺組織のアジトであるとは思えない。 しかし、二匹の忍犬はここから男の匂いがすると主張している。 (「あいつが逃げ込んだだけか、それとも本当にここがそうなのか…」) 外からでは判断が付かない。けれど、油断は出来ないだろう。相手は詐欺組織であるし、支部も各地にあると聞く。今まで世間の目に晒されていないのも、こう言った何の変哲もない建物だからこそばれていないだけではないだろうか。 闇に紛れて中を覗き……俺は眉を顰める。 (「あの板間の戸、二重構成になってるみたいだし、奥の天井も少し低い……それにあの池、何か変だ」) ガタンッ そこで音がして、俺は観察を中断した。どうやら、誰か外へと出てくるらしい。正面の門が開く。 (「ま、コレだけわかれば十分だぜ…」) ただの道場ではない。何かある事は確かだ。 俺は迅と爽を連れて人込みに紛れて――ギルドに報告と依頼の申請に向かうのだった。 |
■参加者一覧
睡蓮(ia1156)
22歳・女・サ
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
菊池 志郎(ia5584)
23歳・男・シ
蓮 蒼馬(ib5707)
30歳・男・泰
笹倉 靖(ib6125)
23歳・男・巫
ユウキ=アルセイフ(ib6332)
18歳・男・魔
レオーネール・セクメト(ic0042)
17歳・女・砂 |
■リプレイ本文 ●意思 『どうやらここが勘付かれたようです』 昨日その報告を受けてまさかと思ったが、門前にやってきた者達の気配に菩提は彼らが件の開拓者だと悟る。しかしこのままではこの場所が晒しものになってしまう。ここがばれれば各地にも調査の手が及ぶ。重ねて悪い事は続くものだと苦笑しつつ、ここでけりをつけなければ…あの方はこの失態を許しはしないだろう。 だが、この支部にいるのは僅かな大人と子供達のみ。戦闘要員は自分を含め僅か七名。慎重に考えなくては…しかしルーベはあの時のトラウマがあるようで紡がれた策はとても良策とはいい難い。けれど残された道はこれしかない。彼女も覚悟を決めている。ならば、 (「ここを守る為、やり抜いてみせる」) いつもは穏やかな菩提の瞳に決意の光が宿る。 「菩提…」 隣にいたルーベはその決意をしっかり感じ取っていた。 キサイの依頼を見つけて再び集まった者の思いは様々だが、中でも今回初めてこの件に関わるレオーネール・セクメト(ic0042)は内情よりも罠屋敷かもしれないという部分に興味があるらしい。 「私は天井よりも床の方に仕込みが多そうな気がするの」 キサイの報告に目を通し、目立つ耳と尻尾を隠した彼女が言う。 「とにかくまずは潜入からかなー」 そう言うのはルオウ(ia2445)だ。 「しかし、ここは慎重に行きませんとまた逃げられてしまう恐れもありますし…正直言えば僕はあまり戦いたくないんですよね」 相手が子供だから? それもあるだろうが、ユウキ=アルセイフ(ib6332)が気になっているのはあの二人が加担している理由だ。二人とも悪い人間には見えず、今までの子供達の様子からしても無理強いさせられている様子もない。ならばなぜ、彼らをアレと手を組んでいるのか? 「捕らえた子供達は百狩を知らず、服毒も義務付けられていない…あの菩提という人物が、子供達を守っていたのでしょうか?」 あの後の報告を受けて菊池志郎(ia5584)が推測する。 「もしそうだとしたら、あいつを生かす道を考えないとだねぇ。見たところ、ルーベは負けん気と思い込みの強そうな仲間思いっぽかったからな。あいつを捕まえて命を奪ってしまえば嬢ちゃんは投降しなくなる」 「となると自害や掟での死亡もまずいですね」 笹倉靖(ib6125)の言葉に志郎が付け加えて…元々彼らは二人を見つけたとして殺すつもりはない。 「何にせよ、件の道場の子供達がこれまでの子供達と同じなら早く何とかせんと」 ルーベのように罪を犯してからでは遅い。蓮蒼馬(ib5707)はかつての自分をも重ねてそう思う。暗殺を生業にする家に生まれ感情を切り捨て命を奪っていた記憶――一度は手放すも戻ったその時のそれは今彼の中に何を残しているのか。 「で作戦はどうする? あそこに入らなきゃ埒があかないぜ?」 その問いに志郎とルオウが提案する。そしてそれが実行に移される事となるのだがその前に――聞き込みも忘れない。人数や師範らしき人物の有無、何時から建てられたか等、蒼馬は手配書を切り抜いて二人の捜索を行っている。 そんな中キサイを捕まえて、道場に向かったのは睡蓮(ia1156)だった。彼女はどちらかと言えば中より外に重点を置きたいらしい。人目を気にしつつ、彼を連れて白塗りの壁を触れて回る。 「あの…隠し扉とか本当になかったのですか? 扉が一つって、退路がないのはおかしいですよね?」 かくりと首を傾げ彼女が問う。 「ん〜けども…その手の扉はなかったし…もし考えられるとすれば下じゃね?」 「した、ですか?」 ぺろりと舌を出して、これは彼女特有のボケだ。 「あ…いや、そうじゃなくて」 「わかってます」 目を点にしたキサイに言葉を返して彼女は地面を叩き出す。 よく判らないが何処か軽い音がした。 ●訳 「すみません。こちらの評判を聞きまして…少し見学させて頂きたいのですが?」 門の前に立ち志郎と靖、蒼馬とユウキが交渉に入る。 時間は巳の刻――丁度休憩の様で中からは評判通り子供達の楽しそうな声が聞こえる。 ちなみに彼らが聞き込みで得た情報は、ここに彼らがやってきたのは三年程前という事と子供達は孤児であり、そんな彼らをここは引き取り育てているという事位だ。内部人数までは掴めず、超越聴覚で特定を試みるが、子供達の声に混じりうまくいかない。ただ、菩提がいるのは間違いなさそうだ。 「私が行きましょうか?」 中では彼らの突然の訪問にどう出るか、相談する声が聞こえる。 「すんなり開けてくれるといいんだがねぇ」 そうぼやくも暫くの時間の後、門は開いた。 出来ればご連絡頂きたかったと言われて苦笑する一同。 『お早う御座いまーす』 そんな彼らを出迎えたのは子供達だった。彼らが以前対峙した者達より更に幼い子もいる。服装はそれなりで元気な笑顔が眩しくさえある。そんな彼らに挨拶を返してまず案内されたのは道場だった。皆が入り切ると同時にぴしゃりと扉が閉まり、中にいる意外な人物に目を見張る。 「観念したのか?」 道場の中央で座禅を組んでいる菩提に蒼馬が問う。 「そうですね…私もこれ以上犠牲を出したくはないですからね。向き合う事にしました…貴方方の望みは何ですか?」 目を閉じたままの彼から殺意は感じない。只それが逆に怪しくも見える。 「望みというか聞きたい事があるだけです。事を荒げる気はありません」 「成程。してその聞きたい事とは?」 「貴方達が狩狂に加担する理由…」 静かに問う彼に菩提が顔を上げる。 「…その理由は簡単です。彼らは子供達を保護してくれる。資金もある、力もある…不安なく彼らを育てる事が出来る」 「人殺しをさせるのにか?」 園遊会後の事件を思い出し蒼馬の言葉。 「それは彼らが選んだ事…ここにいるのは親を亡くし犯罪に手を染めねば生きていけなかった者達…それに強要等していません。彼らにはここで生きる術を教えているだけ。私は今日まで幾度と無く諸国を巡り世界を見てきた。しかしね、裕福な者程金を惜しむのですよ…孤児の為に寄付を募ってもびた一文出そうとはしない。それが罪を持つ子なら尚更です…けれど彼は違った。だから協力するのです」 理屈は通っている。けれどそれをよしとしてしまったら、犯罪を肯定してしまう。 「私を捕まえ連れて行くのは勝手ですが、彼らは関係ない」 「しかし…それだけでは済まないでしょう? 百狩狂乱はそんな優しい組織なんですか?」 百狩の行動をずっと見てきた志郎が問う。 「私が死ねばいいのです。全ての責任は私が担っている…それで彼らが守れるなら私は」 「それはどうだろう…あんたはそれでいいかもしれないがルーベはどうなるよ? 掟で死んで、後の事には無責任ってのは大人のすることじゃねーよなぁ?」 今度は靖が…しかし菩提は怯まない。 「彼女も解っていますよ。あれでも彼女は幹部の一人ですから」 『なっ!?』 その言葉には驚く四名。彼女はまだ子供だ。 「さあ、話は済みました。時間も稼げましたし…後は私が犬死しないよう力を出し尽くすのみ」 さっきまで微塵も見せなかった殺気が、今ここでむくむくと膨れ上がる。 「ここはね…特殊な造りになっていまして外に衝撃は伝わりません。つまり思う存分暴れていいという事です。もしあなた方が私に勝ったらどうぞ好きになさって下さい。私はどちらにしろ死ぬ運命ですから」 平然とそう言って菩提の先制。精霊力を凝縮し炎の幻影が彼らを襲う。 「くっ、やるしかないのか!」 その凄まじい攻撃に彼らも腹を括るのだった。 一方、母屋では子供達の移動が密かに行われていた。 「皆、ゆっくりでいいからこっちだよー」 ルーベと残っている大人とで――がその事はキサイの耳にも届いている。 (「大勢の足音…怪しいな。しかも中に入った奴らの声が聞こえなくなったし」) 一策に絞らなくて良かった。この分だともう一手打ってみる必要がありそうだ。早速残っている三人に合図を送り、第二の作戦を開始する。 「喰らいやがれー!」 それは球を使ったものだった。レオーネールが蹴った球をルオウが更に蹴り上げて、飛んだ先は塀の中。その直後の小さな悲鳴にしめたと笑みを浮かべる。 「あっちゃー! ごめんー誰かいねえか?」 これぞ近所の悪ガキ作戦。偶然を装って中に呼びかけ門を開かせる算段――四人が門に集まる。 「…もう、こんな時に…皆は早く行って! 私達が出るから」 中ではルーベが皆に声をかけ急がせ、門へは二名分の足音が近付いてくる。そして少しだけ扉が開いたのを見て、 「悪い! 入らせてもらうぜ!」 ルオウが割って入った。それにレオーネールとキサイ、睡蓮が続く。 「私は新手を警戒させて頂きます」 だが、睡蓮はそこまで。扉が一つである以上ここがネックだと彼女は見ている。 「あまり気がすすまねえんだ。大人しく捕まった方が身のためだぜぃ?」 手にした定規は殺人防止用、いつもの得物は置いてきたルオウである。 『なになにー!?』 そんな声が母屋の奥からしたが、そこはルーベが押し切った。ばたんと戸を閉めると彼らの前に現れる。 「よくここが判ったね…褒めたげるよ。だけど、もう通す訳には行かない…菩提も頑張ってるんだもん、私も頑張る!」 そう言うと同時に彼女は首に下げた笛を吹く。その間に残りの二人も彼らを止めに入る。 「ちっ、ま。子供相手じゃないだけマシか!」 「あの子がルーベちゃんだね! 負けないんだからー!」 構えた一同だったが、彼らを先に襲ったのは精霊力の塊。精霊の狂想曲らしい。 「二人共戻って。外は不利だよ!」 彼女の言葉に前衛二人は素直に従い、家の中へと消えていくのだった。 ●陥落 「いっててぇ」 殴られたような痛みに言葉が漏れる。 「んー、けど床は異常なしだねー…」 とこれはレオーネールだ。俯きついでに板間を調べている。ちなみに中の天井は確かに低かった。これはキサイ曰く、刃物を振り回せないようにする工夫らしい。二重戸には鉄が挟まれ防弾加工がなされている。 「先に行った奴らは道場かな…姿見えねぇし」 辺りの様子を窺いつつルオウが言う。 「だったら道場に…」 その時だった。レオーネール目掛けて一本の矢。何処かの罠が発動したのか? ただその矢は彼女の腕を捕らえて…慌ててナイフを構えたが鏃は彼女の二の腕を抉り、滴る血に慌ててキサイが止血に入る。 「くっ、そっちがこねぇならこっちから呼び寄せてやるぜ! 出てこいやー!」 ルオウの咆哮――だが、それにかかる程彼女も馬鹿ではない。 「私は大丈夫だから冷静にいこ…」 そういう彼女にルオウはどう返していいか判らない。だがその頃今度は門の睡蓮が、 (「…なんだか、またもや嫌な予感がしま…ッ!?」) 襲われていた。彼女の頬を矢が掠める。もう一歩、気付くのが遅ければやられていたかも知れない。更なる矢は刀を鞘ごと掴み上げて弾く。 「…逝って!」 その声に振り向いて――だが声は陽動。突如迫り来る二つの影。 「…私を狙って後悔しないで下さいね。手加減できませんので」 けれど彼女は動じなかった。あくまで冷静に二人をいなす。が腕は二本しかなく、次に飛び来た矢までは凌げない。 「まずは一人…」 ルーベが笑う。けれど彼女もまた狙われている一人だった。 「見つけたぜ!!」 キサイが門の異変に気付いて、音でルーベの場所を割り出しルオウが隼人を発動。彼女に飛び掛る。武器は物差しだったが、彼女の意識を奪うには十分だ。 「こっちは任せてー!」 そう言うとレオーネールは短銃を構え睡蓮の近くの二人の足を打ち抜いた。 一方道場内はではまさに死闘が繰り広げられていた。 中にいたのは菩提だけではなく、この道場で子供達の世話をしていたらしい大人が二名…勿論志体持ちだ。ユウキと靖は職業柄一歩下がった位置に場所を取り、二人の援護に回る。だが相手も一人が回復を担当し、もう一人が遠距離系を、そして菩提が前衛を担うバランス型。 「本当にいいのか! このままでは子供達は人の命を奪う事に何も感じなくなってしまうぞ!!」 戦闘中であっても彼の情に訴えかけようと蒼馬が叫ぶ。 「私は彼らを見守るのみ…例えどんな形であっても!」 だが菩提も譲らない。死を覚悟し恐れを失くした彼は以前とは気迫が違う。 蒼馬が八極天陣を使い攻撃を見切り追い討ちをかければ、菩提もまた雨絲煙柳で受け流す。その隙にユウキが蔦で彼の足を捕らえようとすれば、仲間が彼の術の邪魔をする。礫で妨害する志郎にはもう一人の銃が唸り、靖は兎に角加護結界が切れないよう皆に目を配るしかない。 「こういう事なら他の武器も持参しとけばよかったかねぇ」 殺すつもりはないから必要ないしやるべき事は判っている。けれどそれでも無力さは感じてしまう。 そんな隙を敵は逃さない。蒼馬に気を取られている間に取り出されたのはもう一丁の短銃。それは靖に向かって放たれて…発砲音が木霊する。慌てて被弾軽減に腕を上げたが、 「ツァッ!」 腕に強い衝撃――痛みを感じる前に身体が持っていかれそうになる。それを見て蒼馬が標的を変えた。菩提から一旦離れて向かったのは発砲した男の元。瞬脚で駆け寄り、爆砕拳をお見舞いする。念の為力はセーブしたが、彼は思いの外弾け飛びもう一人を巻き込んで転倒する。 「しっかり! 靖さん!!」 志郎が支えてユウキが彼の傷を癒しに入る。 「やってくれたな…」 さすがの蒼馬にも怒りの火が灯った。 ――がそこへ援軍が訪れ…事は終息に向かう。 「あんた、もう辞めろよな。こいつはこっちにおちたんだ」 壁を壊して現れた後続班のキサイがルーベを抱えて投降を促す。 「なぜ…なぜ逃げなかったんだ…」 菩提がガクリと膝を突く。 『ごめ、んね…』 気を失っている筈の少女の唇が微かにそう動いて見えた。 「子供達は何も知らない…あそこの責任者が狩狂様だという事だけだ」 前回捕まえた子供達もそうだったが、その事は本当らしい。ある一定の年齢に達するかあるいは才能を見込まれた者に初めて真実を告げられ、どうするかを判断させるのだと言う。その時掟についても語られて…だがあそこで育ちはみ出し者だという認識からか自動的に構成員になる事が多い。 「やってることは間違ってない気もするが…でも後が」 理由を聞いているだけに複雑さが隠せない。やはり地下に道があったようで逃がされた子供達の行方は迅と爽が追跡する事になっているが、見つけたとしてその後は…上はどんな決定を下すのか。ちなみに不自然だった池には武器の類が隠されていた。底の窪みがスイッチの手のこんだものだ。 そしてあの二人は…今のところ服毒や自殺行動は取っていないという。今は百狩自体も大仕事の真っ最中で彼らに手を回している暇もないのだろうが、これから彼らはどうなるのか。どうにも考えさせるキサイなのだった。 |