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■オープニング本文 「あんた警備隊の人だろ? だったら早く来てくだせぇ!」 いきなり腕を掴まれて、喜助は事情も判らぬまま引っ張られる。 そして、喜助が連れ込まれた場所――そこは大きな旅館だった。 少し都から外れた場所に建てられたその旅館は老舗を思わせる風格がある。 「あっあれを今すぐ止めてほしいでさぁ!!」 男が指差した先には、小さな池のある庭。そこには女がいた。舞うように枝を切り揃えている。 歳の頃は二十歳過ぎ、金髪の長い髪を一本にまとめて、邪魔にならぬよう頭上でお団子に纏めている。うすピンクの作務衣を着ているが、少し小さいのか‥‥はたまた胸が大き過ぎるのか、胸元が露になっている。 そんな彼女を見守りながら、時折道具を受け渡しているのは十五歳位の少女である。こちらは銀色の短髪で、水色の作務衣がよく似合っていた。 「ほらっ、何ぼぉ〜〜としてるんでさぁ。早く止めてくだせぇ!」 そんな光景に思わず見入っていた喜助だったが、男の声にはっとして我を取り戻す。 「止めるったって、一体どうして?」 確かに奇抜は剪定作業ではあるが、別段変わった様子もなく、普通に声をかければすむ問題だと喜助は思う。しかし、男が指差した先を見て、喜助も合点した。 そこには、奇妙な形に切り揃えられた木が立ち並んでいた。 兎、熊、猪など――中には鵺のように色々な動物が複合されているものまである。 腕は確かなようだが、センスはいまいち。 「あれをあの二人が?」 何と言っていいのやら、喜助が控えめに尋ねる。 「はい‥‥あっしは庭掃除を頼んだだけなのに‥‥気がついたら、剪定を始めていて‥‥昨日から入った仲居見習いなんですが、止めに入ろうにも危なくて近寄れないんでさぁ」 肩を落としながら、男が言う。 「わかった。とりあえず行ってくる」 喜助はそう言って‥‥危険地帯へと足を踏み出すのだった。 「あ〜ちょっといいかって、おぉっ!!」 喜助が声をかけると同時に女の鋏が目の前を通過――思わず尻餅をつく。 女は目を閉じたまま、流れるように鋏を動かし作業を続けている。 喜助は仕方なく矛先を代え、隣の少女に声をかけてみる。 しかし、少女は少女で女の方をじっと見たまま微動だにせず、全く喜助に反応を示そうとしない。 「あぁ〜嬢ちゃん、ちょっと聞いてほしいんだが‥‥」 口元に手をそえて、大声で問う。 「うるさい!」 「はっ?」 「うるさいゆーとんねんっ!」 どすんっ 意味が判らず聞き返す間も無く、喜助はひっくり返っていた。 何が起こったかさえわからない。 (「転ばされた?」) 目の前に広がる世界は青一色である。 「一体、何事ですの?」 それに気付いて、女も動きを止めたようだ。 「あぁお姉さま、ごめんなさい。なんかこのおっさんが邪魔してきて‥‥」 素直にぺこりと謝る少女‥‥女の方はモデルのようなポーズでそれを聞いている。 「いいのよ、ライシン。――で、貴方は一体誰ですの?」 「あぁ、すまねぇ。俺は警備隊の喜助だ。あそこにいる男に頼まれてきた」 「え? 番頭さん??」 男の姿を見取って、女が意外そうに繰り返す。 「そうだ。あんた庭掃除を頼まれたらしいじゃねーか‥‥なのになんでこんなことを?」 ちらりと視線を木に移して、喜助が問うと、女は笑顔で切り返す。 「それは感謝の気持ちですわ。遥々遠くから来た私達を快く雇って下さったこちらの方々にお礼がしたくて‥‥私、これでもプロですのよ」 「プロ‥‥ですか。けど、ちょっと困ったことが‥‥」 「何ですの?」 「迷惑なんだよ!!」 喜助がどう説明すべきか迷っていると、いつの間にか駆けつけた番頭がストレートに言い放つ。 「ひっ‥‥ひどいですわっ!! 迷惑だなんて‥‥可愛いでしょう? 素敵でしょう? こんなに巧く、上手に、天才的に出来ているのに‥‥迷惑なんて有り得ませんわっ!」 オーバーなリアクションでその場に座り込み、女はハンカチ片手に涙を拭く。 「お姉様を泣かすなんて、許さないんだからぁ〜〜〜〜!!」 姉の様子を見取って、少女の拳が空を切る。 ばこっ 少女の拳は思いの他重かった。 「ちょっちょっと待て!! 何か間違ってるから!! とりあえず話そう‥‥暴力はいか〜〜〜〜ん!!」 少女の拳をその身で受け止めながら、必死で呼びかける喜助だった。 そして―――。 話は微妙な方向へと進んでいた。 「じゃあ、勝負しかないですわ」 女がそっぽ向いたまま言う。 「勝負って‥‥どうしてそうなるんで。こっち側としては、申し訳ないがあんたらがさっさと辞めてくれれば丸く収まると言ってるんだ。それに、あんたらもあっしらの言い分に納得が言ってないんでしょう?? だったら見限ってくれて構いませんって」 「駄目ですわ」 「何で」 番頭の言葉に即答で返した女に、一瞬困惑する。 「‥‥だって、私達は今一文無しですもの。ここで衣食住を保証して頂かないと死んでしまいますわ‥‥と言う訳で、勝負です」 「はぁ?」 「もし、私達が勝てばここにもう暫くおいて頂く‥‥いや、そうですわ!! 賞金として、十万文頂いて出て行きますわ。負ければ、何も言わずにただ出て行く‥‥お金なんて要りません。黙って、静かに、誰にも引き止められる事無く寂しく旅立つ。如何かしら?」 喜助と番頭を交互に見て、女が問う。 「どうするんだ、番頭さん?」 尋ねる喜助に、男は暫く考えて――。 「まぁ、どっちにしても出て行ってもらえるなら仕方ない。この勝負引き受けましょう」 渋々了承した番頭を尻目に、迷惑姉妹はかなり楽しげである。 「さて、そうと決まれば早速特訓ですわ。あっ、内容は三番勝負の二人一組のタッグマッチ。先に二勝した方が勝ちですわ!」 浮かれ気味の二人に、どうしてもついていけない喜助であった。 |
■参加者一覧
恵皇(ia0150)
25歳・男・泰
王禄丸(ia1236)
34歳・男・シ
水津(ia2177)
17歳・女・ジ
秋桜(ia2482)
17歳・女・シ
景倉 恭冶(ia6030)
20歳・男・サ
夏 麗華(ia9430)
27歳・女・泰 |
■リプレイ本文 ●挨拶 「それでは、皆様よろしゅうおたの申します」 番頭が集まった助っ人開拓者らに深々と頭を下げる。 「あら、あなた方が私達のお相手ですのね」 ――と、そこへ噂の迷惑姉妹が登場。姿を見せたくないのかマントで身体を覆っている。 「あぁ、そうだよ。まぁ今日はよろしく頼むわ」 普段と違った衣装でサムライの景倉恭冶(ia6030)が返事を返す。 「見違えました、恭冶様」 すると、今回のパートナーである秋桜(ia2482)が恭冶を見取って感想を述べた。 恭冶は、いつもなら着流しの着物を愛用しいてるのだが、今日は勝負とあって秋桜に合わせる様に執事服を用意していた。バタフライカラーのワイシャツにベスト、その上に燕尾ジャケットを着込み、胸元にはハンカチをあしらっている。そして、欠かせないのは白手袋。知的な雰囲気を出す為に伊達眼鏡も忘れず装備する念の入れ様である。 「秋桜様もとてもお奇麗ですよ」 にっこりと微笑んで見せて、さっきとは全く違う言葉使いに、思わず言葉を失くす。彼女の方は、元女中の本領発揮といつもの着物の上からフリル付きのエプロンとカチューシャを装備した和風メイドスタイル。大人しめの衣装ではあるが、濃い色の着物に白のエプロンが映えて、可愛さを増している。 「なるほど、ジルベリアスタイルという訳ね。けど、こちらも負けなくってよ」 「絶対負けへんからなぁ〜」 偵察のつもりだったのか、あっさりとそう言い姉妹は去ってゆく。 「全く何なんだか‥‥」 それを見ていた喜助がぽつりと呟いた。 ●接客対決 ルールはいたって簡単。今日予約している客の到着を待って各自接客するもよし、通りすがりの人を呼び込むもよし‥‥その様子を見てどっちのチームに接客されたいかを判断してもらうというものである。 多くの人が見守る中、先に動き出したのは開拓者組――恭冶を残して外に出る秋桜。 「さぁさ、いらっしゃいませ。当旅館は創業当初から真心篭った接客を心がけております。何と言っても、目玉は温泉。美人の湯と呼ばれる菊美の湯は浸かるだけで身も心もぴっかぴか。五歳‥‥いや、十歳は確実に若返るという秘湯中の秘湯です。入浴だけでも可能でございますから、ぜひお立ち寄り下さい!」 はきはきした元気な口調で事前に調べた旅館の長所をアピールすれば、行き交う人も思わず足を止めている。 「ん? なんか可愛いな、あの子」 「美人の湯ですって? 入ってく?」 行き交う人の声に手ごたえを感じる秋桜である。 「負けてられませんわっ、行くわよ。ライシン」 ――と、今まで衣装を隠していたウインが羽織っていた黒マントを派手に脱ぎ捨てる。 中は着物だった。それも普通のものではない。花魁よろしく、派手でごつい着物で高下駄がなんともあるき辛そうだ。 「あれで客引きって‥‥何か間違ってないか?」 それを見ていた開拓者の一人、恵皇(ia0150)が呟く。 「バカだな、あれは」 それに続いて、王禄丸(ia1236)も続ける。 「さぁ、行き交う皆様ご覧遊ばせ〜〜こちらの旅館にお泊り頂ければ、私のような素敵で可憐で美しい仲居がお相手させて頂きますわよ〜〜」 ゆっくりと重い着物を引きずりながら声をかけるが、その成りを見て振り返る者は限られる。時間は、まだお昼前――この時間にその衣装というのはあまりにも場違いであるし、口上からしても若干‥‥いや、確実に夜のお店に間違われかねない。 「あぁ〜〜〜あんな姿で出られては、ますますうちの看板がぁ〜〜」 頭を抱えながら、叫んだのは勿論番頭だった。たとえ勝負といえど、風俗なんて噂が流れてしまっては末代までの恥である。 「大丈夫、番頭さん。後数時間の辛抱だ‥‥」 喜助はそれを必死でフォローする。 「あっ、恭冶様。二名様よろしくお願いします」 と、そこに予約客の女性二人連れ――表のアレを目にしたらしく、そわそわしながら中へと入って来る。 「お嬢様方、本日は誠にありがとうございます。さぁ、こちらへ‥‥お疲れでしょう? お嬢様方の為に、本日はとっておきのお茶をご用意致しました。紅茶と緑茶、どちらがお好みでしょうか?」 きっちりと着こなしたその姿に、思わず二人の顔色が変わる。 「あっと、えっと‥‥じゃあ、紅茶で」 「お連れ様も、紅茶でよろしいでしょうか?」 「あっ、はい‥‥お願い、しま‥‥す」 顔を赤らめる二人に、恭冶は極上の笑顔を見せると用意していたティーポットに手をかけた。適切な蒸らし時間を守りカップに注げば、ほのかな香りと絶妙な色合いの紅茶の完成である。 「どうぞ。ごゆっくり御寛ぎ下さい」 差し出された紅茶を見つめる女性。 そんなこんなで、時間が過ぎて――結果は見るも明らかだった。 ライシンの方はサービス券をばら撒き奮戦していたようだが、接客としてどちらに着いてほしいかと聞かれれば、一部を除いて恭冶・秋桜組を押すのは必定。一番目の勝負をあっさりと勝利する開拓者組だった。 ●会席対決 「やっと、俺の出番か」 欠伸をしながら、第二の勝負の舞台――厨房に足を踏み入れたのは志士の王禄丸と夏麗華(ia9430)だった。次の勝負は会席料理対決であり、審査員の舌が鍵となってくる。 「次こそ負けませんわ」 さっきの勝負を引き摺ることなく気持ちを切り替えたウイン。料理には一層自信があるらしく、多くの食材を用意、器具も多種類に渡っている。 「それでは始め!」 番頭の言葉に、両者一斉に動き出す。 「お姉様っ、よろしくお願いしますっ」 「任せなさいっ!!」 妹は言葉と同時に、食材を次から次へと空中に放り投げてゆく。それを目にも留まらぬ速さで捌いてゆく姉。喜助が見た剪定時のそれの比ではない。あっという間に、あるものは千切りに、そしてあるものは半月切りにと切り揃えられてゆく。 「すごいです‥‥」 それを見ていた麗華が思わず声を出した。 「別にあんなのどうという事はない」 王禄丸の方は、至ってマイペースに作業を進める。じゃがいも、人参、牛肉に玉ねぎ‥‥ごく一般的は食材を黙々と大きさを揃えながら切ってゆく。 「麗華、おまえはいいのか」 手の止まっている彼女に声をかけた時には、もう一通りやり終えたらしい。椅子に腰掛けている。 「あっ、はい。すいません‥‥って、王禄丸様はもう終わりですか?」 「あぁ、後は適度に灰汁を取って仕上げれば完成だ」 「はぁ、そうですか。お早いですね」 知らぬ間に調理を終えた王禄丸を見て麗華も慌てて、作業に取り掛かる。 蟹や蛤、牡蠣といった魚介類が並べられた調理台。そのそれぞれに違った味付けを施してゆく。鉄鍋を自在に操って、麗華は七品もの料理を作り上げ――出来上がった料理を前に審査員の感嘆の声が上がる。 審査員は料理好きの年配から子供まで――年齢層は様々だ。 「さて、ではまず姉妹組の方から紹介を」 料理の説明を促すと、ばっと前に進み出る姉。 「私達が作り上げましたのは見ての通り、天儀のもの、泰のもの、ジルベリアのものと多種多様の三十品ですわ。これは会席対決です。一同が集まった時に召し上がるもの‥‥どんな方でも満足頂けるようにお好きなものをお好きなだけ召し上がって下さいな。私の国でいうバイキングという食し方です。決められた料理を食べさせられるなんてナンセンス。今は自由に頂く時代ですわ」 そう言うと、ライシンに空の皿を配らせる。 「成程、それはいい考えですな」 「おれ、アレ食べる〜」 サラダに始まり、饂飩・おにぎり・煮付けに天麩羅、ケーキなんかもある。そのどれもが美味かったようだ。好みのものが食べられるとあって、好評である。 「続いて、開拓者組どうぞ」 「あっはい。私のメニューは蟹入りフカヒレスープに、前菜の盛り合わせ、乾焼蝦仁(エビチリ)、蛤の牡蠣油風味、酢豚、炒飯、杏仁豆腐‥‥後、一応茉莉花茶を用意しました。どれも健康にいいメニューになります。ぜひご賞味下さい」 少しずつ、説明した順番に出していく麗華。 「んっ! この辛さたまらないねっ。この後の蛤も酸味が効いててうまいよ」 「ママ〜この白いの、甘くておいしー」 一通りのコースを食べ終えて、一息つきかけた審査員。しかし、まだ料理は残っていた。 「おい、ボウズ。俺のハヤシライスも味見しないか」 最後になってしまったが、鍋を開けた王禄丸。立ち昇る湯気と共にスパイスの効いたいい香りが会場を包む。 「ん? じゃあそっちの鍋はなんだね?」 横にあるもう一つの鍋を指差した男に、にやりと笑って――。 「こっちはカレーだ。なかなか刺激的な味に仕上がってる」 「へぇ〜私はそっちがほしいな」 その声に、応えて渡し‥‥数秒後。それを一口した男は―――。 「辛ぇ〜〜カレーだけに‥‥ってそんなことより、水水水ぅ〜〜〜」 激辛カレーに悶絶していた。 「だから言っただろうに‥‥」 王禄丸の冷めた一言。ハヤシライスの方は至って美味との好印象。じっくり炒め、煮込んだだけはある。灰汁取りを小まめにしていたのもポイントで、食べやすい味に仕上がっていたようだ。 「さぁ、それでは判定です」 どちらも味は一級品‥‥悩みに悩んだ審査員達。その結果、出した答えそれは――。 「七対三で、姉妹組の勝利!」 判定結果に驚く番頭。勝敗の決め手は、やはり自由性。確かに美味しい料理だったが、開拓者組はコースに主食のダブルコンビ‥‥少し詰め込み過ぎたのかもしれない。 「まっ、これで一対一。次で決めればいいだけだって」 焦る番頭を励ます喜助がいた。 ●格闘対決 舞台を庭に移してやっと出番を迎えた泰拳士の恵皇と巫女の水津(ia2177)。傾きかけた太陽の下、前には動きやすい服装に着替えた風雷姉妹が立っている。 「女は殴れないなんて生温い事は言わないから心配するな」 ぽきぽきと指を鳴らし余裕の恵皇。それに対して水津に周りの木を見つめている。 「あぁ〜‥‥あの熊、可愛いですね‥‥ゆっくり見て見たいなぁ‥‥」 「あら、あなた‥‥私の芸術が理解できるんですのねっ。嬉しいですけど、手加減はしませんことよっ」 妹の後ろに立って、ウインが言う。 「勿論です‥‥私の鋼の乙女たる所以を見せてあげますよ」 視線を外したままだが、自信はあるようだ。 「頑張れよ〜水津。応援してるぞ〜」 外野では、彼女を応援する王禄丸の姿がある。 「それでは、開始!!」 番頭の合図と共に、各自戦闘に。恵皇はまずは様子といった体勢。後方に位置取り、姉妹の動きを警戒している。 「お姉様、まずはあの女から‥‥」 そこで、全く動こうとしない水津に狙いを絞った姉妹である。ライシンが姉に飛びつくと、姉は腕を捕らえ勢いをそのままに半回転――妹を投げ飛ばす。 げしっ 投げ出されたライシンの蹴り――水津はそれを避けようとはしなかった。飛び来る蹴りを腕を交差する形で受け止め、押し戻す。 「おいっ、マジかよ!」 仲間である恵皇でさえ驚いた位だ。 「お姉様、あの女。なんか変ですっ」 戻されたライシンが姉に告げる。確かに足に体重を乗せたはずなのに、全く押し切ることができなかったのだ。 「大丈夫か?」 駆け寄った恵皇に、 「んっふふふふふ、痛くも痒くもないですが何か?」 交差していた手を解き微笑する。その笑みに姉妹は悪寒を感じ身震い一つ。 「全く何ですの‥‥」 肩を竦め呟く姉。 「恵皇さん、私の事は構いません‥‥隙をついてどっちでもいい、やってしまって下さい」 通常なら巫女は後衛ではずなのだが、彼女にそれは当てはまらないらしい。 まだ困惑している二人を捕らえて、恵皇が先手を打つ。 「いくぜっ、空気撃!!」 動揺している二人に向かって放たれた拳――波動が空気を押し出していく。 「落ち着いてライシン。きっと方法は‥‥って、きゃっ」 咄嗟に気付いて回避した姉妹だったが、完全に避け切れなかったらしくバランスを崩している。 「よし、もう一押しっ!!」 再び空気撃を放って、恵皇が目指すは姉の方――司令塔であると判断して、いっきに畳み掛けてしまおうという作戦である。 「悪いな、嬢ちゃん」 ライシンの横をすり抜けて、未だ起き上がってない姉の元へ。 「さぁ、これで終わ‥‥」 「まだですわっ! 奥義・地面割り!!」 いきなり発せられた言葉に驚いて、恵皇の動作が遅れたのをウインは見逃さなかった。 恵皇の股をすり抜けて素早く立ち上がると、拳を地面に叩き込む。地面が振るえ、轟音と共に表面が捲れ上がっている。 「おっおい、あんた志体もちかよっ」 聞かない名前の技であるが、何処かで見たことのある技――。 「さぁ、なんの事かしら?」 「てりゃあ〜〜〜」 姉の派手な技を囮に、ライシンが前に走り出る。しかし、そこは水津がカットしていた。 捲れ上がった地面の破片で食らったダメージは既に神風恩寵で癒してある。 「あなたの相手は私がしましょう」 巫女である事など全く感じさせない水津が、ライシンの拳を再び受け止めて――押し戻す際に、地味に脇腹に一撃。素手の対決という事で希望していた杖の使用は止められていたが、全く問題ないようだ。そんな攻防が続いて、夕日が沈み始めた頃決着を迎える。 姉妹は出来るだけ連携を保とうとしていたのだが、一度離してしまえばなかなか戻れず個々にじわじわダメージを与えて、最後は皇恵の気孔波がウインの足を捕らえて‥‥それまでだった。 「もう、疲れましたわ」 やたら地面割りを使用したからか、土塗れになったウインが呟く。 「姉様っ、でも」 「いいのよ、ライシン。この足じゃもって後、数十分。無駄な事ですわ」 「それではこの勝負は?」 「私達の負けでよくってよ」 地面に座り込んで、負けを認めて‥‥三番勝負の結果は二対一。 「やったなっ、番頭さん!! これで安心だぁ」 旅館側の勝利に喜んだ喜助だったが、番頭の顔色は優れない。 「あっ‥‥ああ、庭が‥‥さらに悲惨な事に‥‥」 番頭のその言葉に苦笑するしかない喜助であった。 ●宴会 何はともあれ、勝利した開拓者達は旅館側の好意により料理対決のあった大広間にて宴会が行われていた。二番勝負での料理が余ったこともある。姉妹も最後の夜になるとあって落ち込んでいるかと思いきや、思いの他明るい。 「このカレーなかなかいけますわね、レシピをお聞きしたいですわ」 平然と激辛カレーを口に運びながら、ウインが言う。 「麗華さん、この杏仁豆腐めちゃうまやんっ。麗華さんもうちの姉様になってぇ〜なぁ」 一方、ライシンは甘いものが好きらしい。杏仁豆腐ばかりを食しているようだ。 そんな中、こっそりと抜け出したのは秋桜だった。 美人の湯に浸かりながら、持ち込んだ冷酒を傾ける。 「うん、美味い」 静かな湯船で、至福の時を過ごす秋桜。 各々宴を楽しんで、翌日旅館を経った風雷姉妹が向かった先―― そこは開拓者登録の窓口だったという。 |