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■オープニング本文 ※このシナリオはエイプリルフール・シナリオです。 オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。 「これは何の真似だよ」 手を上げると同時に僅かな金属音がする。 それもその筈、俺の腕にはずしりと重い特注製の手錠がかけられている。そして、その鎖の先にはあれがいた。俺がもっとも会いたくない顔ダントツ一位のこの化け物。名前は確か南瓜大王とか言ったか。文字通り南瓜頭のその男は、いつもにまして見慣れない服装はしている。 「我輩を切望する云百万人のファンの為に…趣向を凝らすのは当り前だ。なんたって我輩は大王である…下々の希望に応え、世の中を明るくするのが我輩の務め。そこで今回はこのような姿となったのだ」 そう言って大袈裟に胸を開くと、彼は徐に薄い本を取り出す。 その表紙には百二十パーセント美化された似ても似つかない俺の姿が描かれていて、俺は思わず飛び出した。 「うわっ、おま、それ、どこでっ!!」 忘れたい記憶の一つ――南瓜からその本を引ったくる。 「こんなもん、抹消だ…殲滅だ、消えてしまえばいい」 中は見てはいなかったが、大体想像がつく。以前師匠に頼まれて行った即売会とやらで嫌というほど目にしたからだ。『一流罠師、闇夜に啼く』と書かれたタイトルからして、どうにも寒気が治まらない。 「最近はこのような本が密かに人気と聞く。そこでだ、我輩もそれを取り入れてみようと思ってな。みよ、この服を…南瓜学園高等部の制服だ。この手の恋愛ものでは学園ドラマは基本の基本。そして、やはり相手役というのは必要であろう、そこでおまえに…」 「断る」 何が学園だ。南瓜の相手役など願い下げだ。 だが気付いてみれば、俺の衣装までいつの間にか制服へと変化している。 「学習能力のない奴だなぁ、おまえは逃れられんのだよ」 くくくっと笑う南瓜。しかし、俺とて以前のまま好き勝手に主導権を握られる訳にはいかない。第一、このままではまた夢の中の出来事とはいえ誰かに馬鹿にされそうだ。 (「ここは夢の中だ…俺の世界でもある。だったらきっと願えば出てくる筈…」) 「いでよ、悪魔祓いセット一式!!」 「なにっ!!」 その言葉に南瓜は明らかに怯んでいた。それにいけると確信し、出現した十字架に聖水、そして大蒜を首にかけ、杭と木槌を握り南瓜に翳す。 「近寄るなよ…一歩でも近寄ってみろ、この杭で心臓を打ち抜いてやる」 体勢を低くして相手を牽制し俺が言う。 「うむむ、知恵をつけおって…しかし、この手錠がある限りおまえは我輩から離れられんぞ」 「んなの金切りバサミで」 続いて金切りばさみを出現させてみたが、どうにも硬く切り離す事は出来ないらしい。 「無駄無駄。特注だからね〜しかし…これでは、いやなかなかこれで乙なものかもしれんな」 必死になる俺を余所に南瓜は気にすることなく、自分の世界に入っている。 「言う事を聞くばかりでは面白くない。おまえはどうやら俗に言うツンデレらしいし、これもありかもしれん。よくやったな、下僕よ…我輩はこのまま始めるぞ」 「誰がけぼ…って、始める?」 何がお気に召してしまったのか。一刻も早くここから逃げ出したいのにそれはまたしても叶わない様だ。 (「とにかく意識はあるし行動も出来る。以前よりは進歩したか」) 今の状態を前向きに捉えて、俺は打開策を考え始める。 「この世界では我輩も人同然だ。そしてこのゲームのルールは誰かと恋に落ちる事。相手は男でも女でも構わん。我輩が先かおまえが先か…心に動きがあった時、この手錠は外れる仕組みになっておる。せいぜい頑張るのだぞ」 「え、ええっ!!!!!!!」 さらりと言ってのけた南瓜に俺は困惑した。 恋に落ちる、だと…手錠の鎖の長さは約五メートル。この状態であれを気にせず、どうしろというのだ。というか、そもそもそういう経験が乏しい俺である。しかし、鎖を外せるならやるしかない。南瓜の事だから何名かの候補参加者を呼び込んでくる事だろう。 「あ、我輩。このままだと不利だからこないだ同様若作りバージョンでいくからそのつもりで〜」 南瓜はそう言うとくるりと一回転して、お肌(?)艶々モードに変化する。 「ん〜、やっぱりこれが一番だね〜」 鏡を片手にそう言うが、俺には判断が付くはずもなく…。 (「ど、どどど、どうする? や、やるしか、手はないのか…」) 俺は沸騰しそうな頭で必死に思考を巡らせるのだった。 ーーーーー 【南瓜学院設定ステータス】 ・南瓜大王 高等部三年 変形後は『自称・南瓜王子』らしい すらりとした体格で頭脳明晰・スポーツ万能 特技というか特殊能力により相手にとって理想の顔に見えてしまうチート機能有 金持ちのボンボンで興味本位からキサイに手錠をつけ連れ回している ・キサイ 高等部一年 ツンデレだと周囲から言われているらしいが、本人は自覚なし 罠に対する判断力は高く、駆け引き等には力を発揮するが格闘は苦手 恋愛経験は乏しく、とにかく変な先輩に絡まれて苦労している |
■参加者一覧
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
リエット・ネーヴ(ia8814)
14歳・女・シ
蓮 神音(ib2662)
14歳・女・泰
シーラ・シャトールノー(ib5285)
17歳・女・騎
ユウキ=アルセイフ(ib6332)
18歳・男・魔 |
■リプレイ本文 ●会 シーラ・シャトールノー(ib5285)…高等部三年生。南瓜大王と同級ではあるが、これと言って彼を敵視している訳ではない。ただ、思うのは不憫な状態にあるキサイの存在。何かと南瓜に振り回されている姿を見ているとどうにも心が落ちつかない。 (「キサイさん…つくづく見込まれているのね。でも放っておけないわ」) 彼はただの後輩ではない。以前助けられた気がする。だから今度は自分が力になりたい。そこで焼き立てのクッキーを持ってシーラが彼に声をかける。振り向いたキサイの首にはなぜだか大蒜と十字架がぶら下がり、手には金槌と杭まで握られていた。 「ん…シーラかよ。脅かさないでくれよな」 彼は南瓜から提示された条件をまだ受け入れられていないらしい。なんとか抵抗しようとこんなヘンテコな装備を試みている様だ。 「ごめんなさいね。今日はこれを届けに来たの」 シーラはそんな彼を元気付けようとクッキーを手渡す。 「え、俺に? いいのかよ」 「ええ、勿論。試食して欲しくて…駄目かしら?」 「いや、俺腹減ってるし大歓迎だけども毎日だし」 彼女は彼と南瓜との間に交されているそれを知っている。だからこそ続けているのだが、彼は彼女の思いに全く気付いていない。お菓子のみならず、時には弁当を差し入れたりもしているのにだ。 「ふふっ、いいのよ。あたしが好きでやっている事だもの。けれど」 「けれど? 何かあるのか?」 思わせ振りに区切られた言葉にキサイが思案する。 普段の彼ならばとうに見抜いるだろうが、自身が関わるとてんでこの通り。不思議なものだ。 「シーラよ、我輩にはないのか?」 そこで奴が現れた。ぐいって鎖を引っ張ってキサイが体勢を崩した事をいい事に二人の間に割って入る。 「おお!! カボ先輩とキサイ先輩、やっと見っーけぇ!」 それに続いて、やってきたのはリエット・ネーヴ(ia8814)だった。突風の如く土埃を巻き上げて、三人の下に近付きまずは南瓜大王に握手を求める。 「今年は少し早いお出ましだねぃ。今回は南瓜畑じゃなくて残念残念。今度南瓜スープ飲みたいじょ」 キサイは余り彼女の事を知らないが、彼女自身は大王と面識があるらしい。 「そうかそうか。ならば我輩の下僕に南瓜スープを作らせよう。こら、我下僕…さっさとする」 再びぐいっと鎖を引っ張ってキサイを促すが、彼は動かない。 「誰が下僕だ」 「あれ〜、キサキサとカボカボ喧嘩中? 仲良くブレスレットしてるのに〜…って、それかっくいいねぃ♪ 僕の分もある? キサキサ♪」 だがリエットのペースは止まらない。くるくる興味の対象が移動するようで、首に下げていた悪魔祓いセットに気が移っている。 「でしたらこれを…どうぞ」 とそこにどこから現れたのか少し怯え気味なユウキ=アルセイフ(ib6332)が一式を揃えて彼女渡す。 「黒猫さん、ありがとー♪ これで僕もかっくいくなれるじぇい!」 「さんきゅー、ユウキ。いつも助かるぜ」 喜ぶリエットにハイタッチの二人。キサイとユウキは親友だった。いつも何処からともなくやってきてサポートしてくれる彼にキサイは感謝している。 「う! かっくいー♪ それでそれでこれから何して遊ぶじぇい?」 「そうだな、あの南瓜を打て…それが任務だ」 キサイの言葉にリエットの瞳が輝く。その言葉に南瓜は明らかに動揺する。 「え、我輩…生身だし」 「じゃあ、いくよーーー♪」 だが、その声は彼女に届かない。 「あぁーーーー!!!!!」 けれど、その姿はある人物の視界には捕われていた。 ●怒 遠目だった。この摩訶不思議世界に来てから探しに探して早数週間。 やっと見つけた。しかしいる筈の南瓜頭はおらず、そこにいたのは彼女が憧れてやまないセンセーの姿。そしてその師匠の横にはキサイとリエット、シーラの姿がある。加えてリエットは杭を構え、師匠に迫っている。 (「センセーのピンチだ!」) 蓮神音(ib2662)は慌てて駆け出した。 ぐんぐん彼らに接近して、知ったのは更に厳しい現実。キサイと師匠の腕にはお互いを繋いだ手錠が鎖で繋がれている。本当は南瓜なのだが、理想の誰かに見えてしまうよう南瓜が術を施しているのだ。 (「センセーとキサイさん、そんな関係だったの? よく一緒にお仕事をしているのは知ってたけど…」) ありえない、信じたくない。紅い糸よりも深く繋がれたそれが目に焼きつく。 「もうおまえの遊びに付き合ってられねえんだよ。早く消えろよな」 (「遊び? センセー遊んでたの?」) キサイの言葉から広がる怒り。それはふつふつと湧き上がり、口から出たのは捲くし立てるような激しい罵声。 「キサイさんの馬鹿! センセー盗らないでよ!」 強引に二人の間に入って神音が怒鳴る。 「ちょっと神音さん、落ち着いてこれは…」 「何々大声なら負けないじぇ!!」 それを止めに入ろうとしたシーラだったが、リエットの声に掻き消されてしまう。 「もう、センセーひどいよ! 神音って者がありながら…神音はずっとセンセーの事好きなんだよ! なのに、遊びで浮気でしかも男の人なんて、信じられないよー!」 そういうや否や一瞬で距離をつめて、まずは腹部に一発捻り込む。それには流石の南瓜も耐えられない。 「うぬぬ…なんという、ひでぶっ!?」 がそれだけでは終わらなかった。 「神音の方がずっと好きなのに…キサイさんの方がいいなら神音を倒してみるんだよ!」 涙を流しながら拳は止めない。目にも留まらぬ速さで偽師匠がサンドバックのように左右に揺れる。 「すっ、すごいわ…偽者とはいえあそこまで…」 「女性のそういうのって本当怖いですよね…」 神音にとっては偽者とは認識していないのだが、それはさておきユウキがぽそりと呟く。 「ばかばかばかばかーーーー」 そんな状態にキサイも徐々に引き始める。 「ちょ、これは…さすがに」 「キサイさんは黙ってて!」 思わず零れた言葉を一喝されてキサイも身を強張らせる。 どかーーん そこで勝負が決まった。止めのアッパーカットが炸裂し、南瓜が真っ青な空にこうを描く。それに伴い不穏金属音。キサイの隣だ。 「これってもしかし…てッ、あーーー!!」 南瓜に続いて繋がれたキサイも宙を舞う。 「おお! 凄いじぇーー♪ 私もやってみたいー」 「…って見てる場合じゃなかったわ。追いかけましょう」 シーラの言葉に二人が追う。神音は果てたようにその場に崩れていた。 一方その頃ルオウ(ia2445)はなぜだか部活をエンジョイしていた。 野球部期待の新人エース。後一人討ち取れば完封勝利だ。 (「あのどてかぼちゃ、何処いきやがった…」) そのもやもやを投球の力に代えて――そんな時突然頭上が翳った。 顔を上げると同時に迫ってきた南瓜を思わずグローブで受け止める。がそれは人で…重さに耐え切れる筈もなく。 「やっと見つけたぜ。俺と勝負しやが…ってあれ?」 だが次の瞬間、南瓜は彼の一目惚れの君に姿を変えていた。 そこで暫しの沈黙――けれど彼は騙されない。なぜならさっきのダメージが大きいのか顔だけなのだ。彼女にしては高過ぎる身長に鍛えられた身体。それは男のものだ。そこで追いついたユウキが彼に事情を話して、 「はぁ、理想の顔ー? やい! かぼちゃ! お前はやっぱりなんもわかっちゃいねえ! 顔だけ変えてもなんも似てねえんだよ! 表情が違う、性格が違う! そもそもさ。かぼちゃ、恋したことあんの? これにとか?」 さっと隣にいたユウキが南瓜を掲げ、それを指差し問う。 「ふふ〜ん、馬鹿にするな、若造。我輩は面食いなのだ。だから南瓜等には恋はせん。やっぱりそこはボインでアハンでズキュンなグラマラスボディの女性がタイプなのでな」 「へえ…お前の趣味なんて聞いてねえけど。でも結局、かぼちゃじゃん? 恋ってどういうものなのかわかってるのか?」 南瓜がおっさん口調に戻っているのはさておいてルオウが尋ねる。 「もちのろんよ……恋とは突然起こるもの。一目できゅんとなって、いてもたってもいられずそやつの事ばかりを考えてしまう…いわば青春の一ページ。檸檬の酸っぱさと苺の甘さを兼ね備えた究極ミラクルな体験の事であろう?」 にたりと笑って誇らしげに南瓜が語る。だが、ルオウにはその言葉はどうでもよかった。 何が恋だ…恋とは言葉で語れるようなそんな簡単なものではない。顔だけのまがい物のであっても彼女の顔のままでそんな事を語っている南瓜が不愉快で仕方がない。 「何も判っちゃいねーーぜ!?」 そこでついに彼が切れた。グローブを脱ぎ捨て、まずはそれを投げつける。そして、すかさず前に走り込み渾身のグーパンチ! 再び南瓜が顔面から吹っ飛ぶ。 「な、ななな…なんて事を……お、恐ろしい子!?!」 「恋愛ってのはなあ…こんな決められた中でやるもじゃねえんだよ! 自由にするからいいんだ!」 頬を庇い困惑する南瓜にじわじわと近付く彼。 「あれー、かぼかぼまた飛ばされたの? 弱くなったねぃ?」 これはポンポンを片手に応援しているリエットだ。 「くそぅ、こうなったらそこの黒猫面! 我輩が恋しい人に見えているのであろう…このままでは我輩ぼこぼこにされてしまうぞ」 そこで今度はユウキに助けを求めた彼だったが、 「あ〜僕、そういうのは経験乏しくて…あなたは、南瓜にしか見えないんです、よね…」 と面の側面を掻きつつ、(多分)苦笑いで後退する。残るはシーラのみ。ルオウから後退しつつ、彼女を探して…唖然とした。それは何故かというと彼女がキサイを抱きしめていたからだ。 「ねえ、キサイさん。私の気持ち…本当はわかってるんでしょう?」 片手を腰に回して、もう片方の手の指で胸板に円を描きながら照れた様子で彼女が言う。 「え、ちょ…そんな、いきなりだし…俺は…」 嫌いじゃない。差し入れてくれる菓子も美味しかったし、何よりいつも助けられていた気がする。けれど、キサイには判らない。この気持ちが好きなのか? 恋なのか? 例え罠師としては一流でも、こっちに関しては初心者である。 「俺も…嫌いじゃないし、けど、突然そんな言われても…どうしたらいいか…」 「いっかーーん! それは断じていかーん!!」 その様子を見取って南瓜は慌てて鎖を引いた。 するとその反動で二人は引き剥がされ、キサイが南瓜の元へ手繰り寄せられて…今度は南瓜が彼を抱きしめる。 「ちょっ、やめろよなっ! 気色悪い!!」 さっきまでと違い、最悪のシュチエーション。シーラの温かさが懐かしいとさえ思う。 「この際おまえでも構わん。我輩が勝つ為には相手を選んではおれん!!」 キサイを盾にされて、ルオウも一旦歩みを止める。リエットは相変わらずの応援体勢だし、シーラもキサイを傷つけたくないようで手が出せない。そして、ユウキはいなかった…さっきまでいた筈なのだが、何処に行ったのか。 「さあ、キサイよ。この際我輩にときめいてしまえ…さすれば我輩の勝ちだ」 何が勝ちで何が負けなのか怪しいものだが、そういい南瓜頭をキサイの顔に近付ける。 「わっ、やだ…止めろ、変態野郎がッ!?」 そこでキサイも必死の抵抗。状態を低くしてすり抜けようと試みている様だが、鎖が絡んでうまくいかないらしい。唇が触れるまで後数cm…迷っている暇はない。 ●覚 「やめてやれよなっ!」 「嫌がってるじゃない!!」 ルオウとシーラが走る。が、 「駄目だってばーーー!!」 どんっ 二人よりも更に先にキサイと南瓜の間に割って入ったのは神音だった。 「間に合ったようですね」 面を外し、額の汗を拭きつつユウキが言う。どうやら彼が事態が危うい方向に向かいそうだと判断して、彼女を呼びに行ったらしい。未だに彼女には南瓜が師匠に見えている様で黒いオーラが立ち昇っている。 「さっきのじゃまだ駄目なの? だったらもっと判らせてあげるよ…」 ゆらりと上体を揺らして、瞳には大粒の涙が浮かんでいる。 「神音…」 その表情にキサイの胸が痛んだ。自分も被害者ではある。けれど、あいつに取り入れられる隙を与えてしまったのは自分の心の弱さだ。油断するなと教わってきたのに…自分は愚か、他人を巻き込んでしまっている。 この夢を終わらせるには何をすべきか。自分は判っている筈だ。幸いにもさっき気付かせてくれた仲間がいる。ならばここで自分に出来るのは……かちゃりと鎖が音を立てた。けれど気にしない。今はチャンスだ。神音とルオウが南瓜を引き付けてくれている。 「キサイさん、頑張って」 その決意に満ちた顔を見取って、ユウキはすっと花束を手渡した。それを受け取り、彼はシーラの元へと向かう。 「キサイ、さん?」 その様子にシーラが僅かに目を見開く。 「えと…さっきは動揺して悪かった。し、さっきの嬉しかった、ぜ…だから、俺からも改めて…一回しか言わねえぞ…その…好きだ」 ユウキから渡された花束で顔を隠してはいたが、それでもキサイは必死にその言葉を紡ぐ。 「ふふっ、有難う」 それにシーラは柔らかい微笑みを返す。 「あれ…センセーじゃない」 「やっと解けたか」 その言葉が紡がれた時、南瓜の術の効力を失なわれたようだった。辺りが白く染まり、彼らと大王が真っ白な空間で対峙している。そして、キサイの鎖が……取れていなかった。 「あぁ!? どういうことだよ…約束と違うじゃねえかよ!!」 さっきのムードとは一転して、キサイが南瓜に抗議する。 「そうよ。取ってあげなさいよ!」 とこれはシーラだ。さり気に手を繋いでいたりする二人である。 「だったらこれでこの人を消滅させてはどうでしょうか?」 そこで二人にそっとバーナーと出刃包丁を渡し平然というユウキ。残りの三人もまだ『あそび』足りないらしい。約二名、ぽきぽきと音がする。 「ええーい、判った! 我輩が相手になってやる!!」 そんな彼らに囲まれて南瓜は腹をくくったらしかった。 リエットはともかく五対一は不利なように見えたのだが――、 「うわぁぁぁぁ、止めろ、馬鹿!!」 鎖が解けていない事をいい事にキサイごと振り回し人間武器として応戦する。 「上等だぜ!」 「料理してあげるわ!」 彼らの戦いは皆の気が済むまで続くのだった。 そして目が覚めた時…なぜだか彼らは原っぱにいた。 そんな中でキサイが寝返りを打ったその先にシーラの頬があって、僅かに唇が触れたのを彼女は知らない。慌てて離れてキサイが誤魔化すように伸びをする。 「かぼかぼ…楽しかったじぇ! また遊ぼーねぃ♪」 それはリエットの寝言だ。自然と笑顔が零れる。ただ皆が起きた後の言葉は頂けない。 「夢の中のキサイにーは女の子でね。手首に婚約腕輪つけて、引き摺られてたの♪」 そう言う彼女にデコピン一発。けれどいい朝だった。 悪夢だった筈なのに思う程不快ではなく、むしろ清々しい気分で皆朝を迎えていた。 |