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■オープニング本文 ●終わらぬ惨事 七草事件の犯人がまだ見つかっていない。 手配は出したもののやはり芹内としては落ち着いてはいられない。何かが起こっている。それは確かだ。園遊会後の事も勿論彼の耳にも入っており、そちらに関しても現在事後報告待ちという事になっている。そんな中再び彼を悩ませるのは新たな報告が舞い込んで来る。 「芹内様、また…何者かによって貴族屋敷が襲われ……皆、惨殺されたようです」 「…ッ」 これで何度目になる。屋敷にはあの事件の後、警備の志士を手配している筈だ。 なのにこうもあっさり破られてしまうとは…訓練は怠るなと言っているし、指導を任されている者の実力は彼も把握している。その下で鍛えられているのだから、そう腕が立たないという訳ではない。となると、考えられるのは――。 「相手の実力が更に上をいっているのか?」 イラつく気持ちを抑えるように息を吐き出して、彼が呟く。 「芹内様…お疲れのようですね」 側近はその様子を見取って、香りのいいお茶を淹れた。少しでも彼が落ち着くようにと……連続する殺害事件に毎晩のように行われる通夜に向かわねばならない彼。勿論公務も進めなければならず、考える事が多過ぎるのだ。 「すまぬな…」 お茶の香りに気がついて芹内がゆっくりと椅子に腰を下す。 「芹内様、菊柾様がおいでです」 とそこへ聞きなれた名に少しばかり王の表情が緩んだ。 「通せ」 「では、私は席を外しましょう」 側近はその名を聞いて気を利かせたのか、その場を早々と後にする。 「なんだと、内部にいると言うのか!」 菊柾の言葉が俄かに信じられずに芹内は身体を乗り出した。 「まだ確証はない。しかしだ…少し前に新たな人員を投与しただろう? あの時からどうも空気が変わったように感じるんだ」 菊柾はそう言って真剣に彼を見つめ返す。 「確かにあなたならそういうのには逸早く気付かれると思うが…しかしどうすれば?」 「今、貴族の屋敷に出向かせている志士達のリストを貰えないか? こう見えて私は記憶力はいい…新人かそうでないか位は簡単に見分けがつくさ」 状況は鬼気迫るものがあるというのに、菊柾は穏やかにそう言ってのける。 「七草に続いて園遊会に宝物庫…どれだけすれば気が済むのだ。一体何が目的だ」 明らかに意図あっての行動――当て付けの様にも見える事件の数々に頭を抱える。 「おまえ、老けたな…私の方が若く見える」 芹内を励ますつもりなのか冗談半分に彼が言う。 「…あなたのせいですよ」 芹内は苦笑を浮かべてそう返すのだった。 ●進む侵食 「守備はどうだ?」 ゆったりと椅子に腰掛けた男が地図を開いたまま問う。 「上々…といった所ですわ。個人的には物足りないくらいですけれど」 身長以上の長さの青龍刀を背中に背負った女が続ける。 「結局あの者達は自分が可愛いのです…力もないくせに我が物顔でのさばって人をこき使う。あるのは金だけ…懐柔するのも容易い事」 「しかし、奴らを信用するな。頃合がくるまでの財源とそして…」 「わかっておりますとも。狩りは楽しいですけれど、狩る物がなくなっては意味がありませんもの」 女はそう言って踵を返した。そして、今夜の獲物の元へ動き出す。 (「そう、ここは力の国だ……なのに飼われる等、私は認めない」) 男の前の地図は仁生のもののようだ。事細かに家主や身分の情報が書き込まれている。 「狩狂様、一つお耳に入れたい事が」 そこへ青年が足早に入ってくる。耳打ちをする青年に少しばかり眉を顰める彼だった。 「菊柾殿、我々はどうしたらよいものか?」 菊柾は貴族出身である。 調査の為、歩いていると親の知り合いである一人の老齢貴族が困り果てた様子で彼に問う。 「私に言われましても…早急に調査中でして」 「大きな声では言えませんがな…なぜ我々ばかりなのですか! これはもしや反対勢力の」 「反対勢力、ですか?」 不穏な言葉に菊柾が場所を移す。 そして、話を聞いて見えてきたのは国を二分する勢力問題。とはいっても表向きは貴族という括りの中にある。だが、そのうちにあるのは芹内を中心とした貴族達の勝手な考え。芹内は元々下級志士だったが、ある推薦により晴れて王になる事となった。だが、それをよく思わなかったものもいる。下級出身というだけで違うものでも見るかのように…結局決まってしまったら従わざる終えず、今でも時々面倒事を持ちかけ、嫌がらせのような幼稚な行動に出ている者達がいるのだ。 簡単に言えば芹内賛成派と反対派――その中で今被害にあっているのはどうやら賛成派ばかりだというのだ。 「そうか、言われてみれば…七草の折は別として、襲撃の事件だけ見れば賛成派ばかりだ」 これがいったい何を意味するのか? 菊柾が慎重に思案する。 「襲撃はランダムそうに見えてなにか法則があるかもしれん」 新人の警備志士が混じっていて尚且つ次に狙われそうな場所を探す。 そして、行き着いたのは……偶然にも今話かけてきた彼の家だ。 「吟清(ぎんせい)殿、今いる警備志士はそのままに新たに開拓者を雇いましょう。そして、こっそり警備させておくのです…何が起こるか判りません。彼らの事は伏せて様子を見ましょう」 「ふむ……菊柾殿がおっしゃるなら」 少し困惑していた彼であったが、親同士の付き合いも長いのだろう。そのせがれである彼を信じて内密に手配に走る。 (「これでうまくいってくれればいいんだが…」) 菊柾がそう思いつつ、慌てて準備に走るのだった。 |
■参加者一覧
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
水月(ia2566)
10歳・女・吟
菊池 志郎(ia5584)
23歳・男・シ
リューリャ・ドラッケン(ia8037)
22歳・男・騎
和奏(ia8807)
17歳・男・志
蓮 神音(ib2662)
14歳・女・泰
バロネーシュ・ロンコワ(ib6645)
41歳・女・魔
藤本あかね(ic0070)
15歳・女・陰
白瀬 譜琶(ic0258)
14歳・女・シ |
■リプレイ本文 ●闇の中 裏ギルドを通して手配された開拓者達は各々動きを決めると出来るだけそれぞれの接触を避けて、吟清の警護に当たる事となる。それは敵に勘付かれない為だけではない。芹内が手配した警備志士だけでは不安だからと別の存在がある事を知られれば、王自身の権威までも失墜させてしまう恐れがあるからだ。 「臨時で雇った女中じゃ。突然ではあるが宜しく頼むぞ」 そこで吟清に話を通して、屋敷内部へと潜り込む蓮神音(ib2662)と藤本あかね(ic0070)。屋敷内の構造を把握しつつ、内通者の可能性も視野に不審な行動をとる者がいないか目を光らせる。 それに続いてやってきたのは水月(ia2566)と白瀬譜琶(ic0258)の二名だ。 「吟清小父様、お久し振りです」 「あの、その方、達は?」 設定としては彼の縁者という事で…二人は歳も近く、同じ髪の色をしている為姉妹に見えなくもない。 「おうおう、ようきたの。この者達は我が家を警備して下さっとる志士様じゃて」 吟清は二人を紹介して…あっさりと中へ。 情報によると五人の警備志士の内、三人が新人。菊柾の話ではその三人が怪しいと聞く。だが人相だけで判断する訳にはゆかず、任務中という事もあってか話しかけても最低限の挨拶しかしてこない。 「私、探検…したい。いい、小父様?」 そこで水月が内部情報を集めようと芝居を打った。「だったら私も」と譜琶も加わり、女中やら使用人に話かけて回る。好意的ではない者にはヴィヌ・イシュタルを使って…譜琶の方は超越聴覚を常時発動し、何処かで密談が行われていないか注意する。が掴めるのは日常の他愛のない会話や知り合いが亡くなったと言う話ばかりで敵に関するような情報は流れてこない。 (「どこまで警戒が強いのでしょうか」) 敵が尻尾を出してくれるのを待つしかないとは…攻撃は容易く守るのは難しいとよく言うが、確かに。常に気を配る事の大変さを痛感するも、それを顔に出す事もここでは許されない。あくまで客人としての振る舞いが必要なのだ。 「お粥事件の犯人、早く捕まるといいですねぇ」 たまたま通りかかった所でその話題が出ていたのを聞きつけ、譜琶はそう言うのだった。 一方、そんな屋敷の周辺でも開拓者の監視の目は光っていた。 今回は襲撃時刻が予告されている訳ではない。大胆に昼…と言う事はないだろうが、襲撃を臭わせる何かがあるかも知れないし、連絡係が接触してこないとも限らない。門に二名立つ警備志士の見える櫓を探して、そこから望遠鏡で観察を行っているのは羅喉丸(ia0347)だ。塀の高さは約二m。熟練したものであれば跳躍すれば上る事は可能だろう。直接来なくともこの高さならば、何かしらの物品に文でもつけて投げ込むという事も考えられる。 (「全く…以前の事件の時もそうだったが、芹内王が憎くてしょうがない者がいるようだな」) 一連の事件から見えてくる相手の心理――賛成派ばかりが襲われているというのが、彼の推理の元かもしれない。だが実際のところは…、 「毎晩ではないのか?」 襲撃事件の資料を頭に叩き込もうと詳細を聞きに訪れていた竜哉(ia8037)は付き添いの役人にそう聞き返した。 「あ、はい…一番新しいのは三日前。その前は五日前…連続の日もありますがそうでない日もある」 「傷口の形状とかも判るだろうか? 敵の獲物が特定できれば絞り込みやすいんだが」 「えーと、確か刃物傷が多かったですかね。しかし、符によるものもあるようで…それは少し難しいかと」 本来ならば見せて貰えない情報も多かったが、この件には菊柾も噛んでいる。そのおかげでカナリ詳しい情報を得る事が出来た。 「あの、すいません。菊柾さんが吟清さんの家が危ないと特定した具体的な要因は何ですか?」 と今度は向かう先が同じであった事から行動を共にしていた和奏(ia8807)が尋ねる。 「それは簡単な事ですよ。今までの襲撃があいうえお順に行われているようなので…次はきっとここかと」 「あいうえお順…しかし、前に亡くなられた方のお名前は大河さんとなっておりますが、この間はおられないのですか?」 ここには多くの貴族がいる。オの後の…つまりカ行の人間がいないというのは珍しいし、吟清までには更にキア〜キワで始まる人物がいそうなものだ。 「間にいる事はいますが、その…反対派なものでして」 狙われているのが賛成派という事で菊柾は除外したのだろう。 「逆に賛成派の前半の人間で殺されていない者はいないのか?」 ふとした疑問を竜哉がぶつける。 「いますが…何というか、あそこは今不在でして」 その言葉に偽りなし。後から調べてみたが、本当に留守のようでそれ以上の進展は難しかった。 ●網 同じ日に何名もの訪問者がいれば怪しまれる。 そう思った開拓者は襲撃の警戒をしつつも日を置いての内部接触を試みる。幸いどういう訳か彼らが警護について後、敵の動きは見受けられない。 「相手の方もずいぶん時間をかけて周到に策を練っていらっしゃるご様子…動きませんね」 「そうだな。しかし、逆に言えば俺達の行動が功を奏しているのか…はたまた」 「警戒されているのか。不確定要素…四人も新顔が入ってますからね」 とある宿屋の食堂にて、次は自分らが行かなくてはと思いつつ、現在の状況を竜哉と和奏が整理する。 「おや、あんた達。あの家がどうかしたのかい?」 そこへ興味を引かれたのか宿屋の婦人が声をかけた。 「いやぁ何、俺達の共通の友人があのお屋敷で仕事をしているらしくてね…元気かと思っていた所だ」 何処に耳があるか判らない。ひとまずそういう事にして話を聞こうと試みる。 「あちらのお屋敷の評判は如何なものですか? ご家族さんとかに借金とかご病気の方は?」 「ふふふ、なんだい心配性だねぇ。けれどあそこはいいお屋敷だよ。そんな暗い噂はありゃしないよ…むしろこの先の方が」 「この先?」 確かにここ周辺には貴族の屋敷は多いと聞く。 「ふむ、評判は上々…なのに狙われているとは判らんな」 敵の目的――賛成派ならば誰でもいいのだろうか。せめて襲撃の前には何らかの予兆を見せて欲しいと思うが、それは無理なのか。 逸る気持ちを抑えつつ、屋敷近くの通りを通行人を装い歩く菊池志郎(ia5584)も今、そんな事を考えていた。警護について早三日。けれど、不審な行動も見受けられず、時だけが過ぎていく。そんな彼の前をもう一人の仲間であるバロネーシュ・ロンコワ(ib6645)が通り過ぎる。彼女もまた外から警戒をしている一人だった。反対派の屋敷を把握し、その辺にも足を伸ばして変な動きがないか調べているが収穫はゼロだ。唯一気になったのは一昨日前、反対派の屋敷に現れた警備志士の一行。なにやら芹内の使いとかで書状を見せて中に入っていたのを覚えている。 「あれは何だったのでしょう? こちらにも来るのでしょうか」 白か黒か、彼女には残念ながら判断はつかない。 が、他の警備志士の動きを観察していた志郎がその一行に目を付け尾行した事で話は進展を見せる。 そこで仲間との情報のすり合わせる為外班が集まる。内への連絡はあかねが担当。この場に人魂を同席させておき、ここで聞いた事を後から中の仲間に伝えるという訳だ。 「どうやら、彼らがそうらしい」 反対派の屋敷にやってきていた集団――彼らは何をしに来ていたのか。超越聴覚で聞き耳を立てて内部で話されていた内容。それは芹内が彼ら反対派を密かに抹消しようとしているという目を見張る話だった。しかし、反対派はそれを信じる。自分が今まで何をしてきたか…少なからず思う所があるのだろう。そこにつけ込み、彼らは提案した。自分達があなた方を守ると…ただし、それには条件がある。 「金か…と言う事は襲われていたのは賛成派ばかりではなかったと…?」 名簿順に漏れることなく敵は接触してきていたのかもしれない。そして、この交渉が成立した際は殺されなかったとしたら…空白の日数と照らし合せるとそれも合致し、いよいよこの話が真実味を帯びてくる。 「賛成派には交渉は無意味として、すぐに手にかけるのだろうか?」 相手が芹内を貶めたいとして行動しているならば彼らは邪魔になる。なんとか見つけた襲撃への手掛かり、早速逆算を始める。 「となると吟清さんの所に来るのは…」 「今日だな」 「ギリギリセーフって所か」 これでこちらも準備が出来る。早速この件を内部にも伝えて、密かに警戒は強めるのだった。 ●自ら摘む者 静寂を掻き消す様に刃と刃が交わる音が辺りに響く。 どれ位時間が経ったかは判らない。一分が十分にも一時間にも思えてくる。全神経を研ぎ澄まし、相手の攻撃を読む。敵が正面から来て中に入ったと同時に始まった戦闘。いつもやっている事なのに、相手が違うとこれほどまでに差が出るか。合戦のような乱戦ではないにしろ、いやないからこそ一つ一つに気を配らなければ打ち込まれる。 「もう少し踏ん張って下さい!」 これは志郎の言葉――今は巫女でも昔はシノビだ。バロネーシュを守るように立ち、天狗礫で敵を牽制する。 一方では闇に紛れた竜哉があかねを守るように鋼線を操り、相手の動きを封じようと試みる。 「ほらほらどうしたのかしら、用心棒の鼠さん!」 だが敵は笑っていた。構図としては七対六。たった一人の差…しかしこちらには式がある。あかねが加勢に来て作り出した巨大な鬼が戦力にならない筈がない。けれど、どうして…圧されていた。敵の男達についてはまだ余地がある。経験の差なのか動きこそ的確であるが、所々に隙がある。そこさえ逃さなければダメージを与えるのは容易い。 問題は女だ。青龍刀を片手に、まるで舞踊でもしている様な動きを見せる女は群を抜いて格が違う。熟練といえる羅喉丸と和奏が二人掛りで相手しても尚笑みを絶やさない。 「くっ!」 常時泰練気法で能力を上げている羅喉丸であるが、青龍刀の柄で腕を打ちつけられて歯をくいしばる。骨に到達しそうな衝撃…しかし、その隙を有効にと和奏が踏み込む。けれど女も怯まない。あろう事か一旦武器を手放し下がると、上体を低くしたのち前へ移動する。 (「この人、やはり泰拳士ですか」) 足運びからそれを察して和奏が推理した。 「お願いだよ! こんな事はやめて投降して!」 場所は変わって建物内部。警備に回っていた新人三名が女の到着を何で知ったのか、突然態度が一変し、その刃が吟清に向けられる。そんな彼らを必死で説得しようとしたのは神音だ。そして、その後ろでは吟清を庇うように水月と譜琶が守りを固める。 「あかねさんが戻ってこないという事は、ここは私達で食い止めないとですね」 幸い相手は三人。一人ずつ相手にすれば何とかなる。それに敵は連携する素振りを見せていない。一方こちらは飛び道具には譜琶の畳返しが、接近には神音が持参した鍋蓋武器ザブル・ボークで受け止めはね返す。 「無駄な事をしたものだ…大人しくしていれば交渉の余地もあったものを」 男が小さく呟く。 「交渉…言う事を、聞かないと…殺す、のに?」 今まで死んでいった者を思い、水月の問い。彼女に難しい事情は判らない。ただ、同じ人に生まれながら気に食わないから殺す事は酷い事だと思う。 「おまえ達には判らぬ。さあ、そこを退け」 じわりじわりと近付きつつ男。身体からはうっすらと殺気を立ち昇らせて…そこで水月は決意した。言葉は届かない。彼の動きに合わせつつ警戒する。 「神音がいるのも忘れちゃ駄目なんだよー!」 その場にいた仲間が皆全力を出していた。 暫くの後、状態が一変したのは屋敷内での勝負が片付いて、庭に九人が揃った時の事だった。 勿論吟清を一人にする訳には行かない為、共に移動して貰いそこには水月がついている。 「ちっ、失敗したのね…」 持久力不足なのか地に伏している仲間と縄にかかった者を女は見下すように見つめる。 「後はあなただけよ…いい加減投降したら?」 そこで仲間が見守る中何処か悪役染みた物言いであかねが進言した。たが、彼女はあくまでその道は選ばない。 「投降ですって? あんたらじゃあるまいしそんな負抜けた事して溜まるものですか」 彼女はそう言って地面をしっかり踏みしめた。すると突然彼女の周りから発生した衝撃波が開拓者を襲う。それを機に彼女は各個体を叩きに駆ける。まず初めに狙われたのは吟清だ。水月がイムヒアで相手の攻撃を見切り反撃に移ると、そこへ横槍のブリザーストーム。彼女の体勢が崩れ吹き飛ばした先には泰拳士の二人だ。神音は暗頸掌で、羅喉丸は玄亀鉄山靠で迎え撃つ。そこで女は着地点をずらそうと身体を反転させたが、その先には先回りした和奏がいる。 「そこまでだ」 極めつけは竜哉の鋼線だった。判断に迷う彼女の手首に絡みつき拘束する。そこで勝負が決した。あれだけ梃子摺った相手だったというのに、流石にこの人数相手は難しかったか。女は彼らを睨みつける。そこでじっくりと彼女を見て…志郎他数名は確信した。 彼女を知っている。正確には正面きってあった訳ではないのだが、志郎、神音、竜哉、羅喉丸、和奏の五名は以前仁生の芹内が関わる事件で彼女を目撃しているのだ。 「もしかして、この人水恋さんの…」 神音が関わった事件で命を失くした女の名前。組織の掟とやらで目の前の女に始末されたのだ。 「あぁ、あの馬鹿な子の知り合い?」 たが、女は彼女の事を気にも留めていなかったらしい。怒鳴りかけた神音に笑みを返す。 「と言う事は…あなたのボスは狩狂ですか?」 志郎が水恋の残していった手掛かりを思い出し問う。その問いに彼女は答えなかったが、皆は眉が僅かに動いたのを見逃さない。 「指名手配中の賞金首がまたなんで?」 詐欺集団の頭目の名。しかし、ここまでの一連の犯行が、ただの金目的だったとは思いにくい。 「水恋さんは馬鹿じゃないよ! そんな言い方許さないんだよー!!」 神音は我慢できず、女に詰め寄る。 「馬鹿よ…まあ、こちらとしては利用しやすくてよかったけど」 憤慨する神音に女は続ける。 「甘いのよ、あの子もあんたらも。悔しいなら私も殺してみなさいよ」 やるのは簡単だ。しかし、彼女からはまだ聞かなくてはいけない事がある。悔しいような腹立たしいような気持ちを抱えて、彼らは彼女達の身柄を城へと引き渡す。その際自害防止の為に猿轡を噛ませて…それで全てがうまくいく筈だった。 けれど、次の日の尋問の途中で彼ら皆息を引き取る。 それは薬による服毒死――看守に見つからない場所に隠されていたそれで…女も例外ではない。 (「これを渡された時から覚悟はしていたけれど…狩狂様、後はお任せします」) 最後まで見届けられないが仕方がない。幹部としての意地もある。 ここで迷っては掟の絶対性が失われてしまう。彼女はそう思い、潔く薬を噛み砕くのだった。 |