【罠師】唸る山、戻る道
マスター名:奈華 綾里
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 4人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/03/03 07:51



■オープニング本文

「あんた、一流罠師なんだろ? 見てきてくれないか?」
 唐突に声をかけられたのはギルドと遺跡を行き来している時の事だった。
 カラクリ御殿に対抗して作ったカラクリ屋敷。その時に顔が知られたのもある。某所の本の影響もないとも言い切れないが、遺跡のガイドも長く…たまにこうやって一般人からも声をかけられたりする。
「…あんたは?」
 俺は相手のなりを見つつ問う。
「この近くで籠屋をしているもんなんだがな。最近この近くがおかしいんだ」
「おかしい?」
 何処変な言い回しが気になって話を聞けば、彼らの使う近道での事らしい。
 景色を楽しむ客もいればとにかく急いで欲しいと言う客もいる。そこで彼らはそういう急ぎ客の為に特別の道を探し、やっとの事で見つけたのがこの道だったのだと言う。その道は街道からは少し離れて、道幅も狭いし険しい道ではあるのだが、幾分早く目的地にいける。元は獣道であったと推測され、籠で通るにも十分な幅があった事に目を付けて、彼らはその道を使い始めたのだが――それから暫くして、何か奇妙な事態に遭遇するようになったのだ。
「具体的には何がおかしいんだよ?」
 とりあえず続きを聞いてみる。
「道自体はそうでもないんだよ。しかしな…夜な夜なその近くを通ると悲鳴やら獣の雄叫びやらが聞こえて…怖くて仕方がねえんだ」
 思い出したように肩を震わせて男が言う。
「あんたもその場に?」
「ああ…数日前だ。周囲の木々がざわめいたかと思うとぐうぉぉぉんって声がして…山が揺れたんだ」
「山が揺れたってのはただの地震じゃねえのかよ?」
 風が吹けば木がざわめく。地面が揺れるのは地核の問題だ。浮遊大陸とはいってもそういうのがない訳ではない。それを俺にどうにかしろといわれてもしょうがない。それにだ。悲鳴を聞いたとしてもそれが全てアヤカシの仕業とも言い難い。旅人が獣にあって逃げ出したとか、さっきのような自然現象に脅えたとかも考えられる。
「あの道のおかげで少し他より収益があがってきていたのにこれじゃあ仲間がやめちまうし、ついでに客も逃げちまう」
「けど、それは俺の分野じゃ…」
「それにもう一つ変な点がある」
「もう一つ?」
「調査隊に頼んだんだが、そいつらは結局山に入れなかったそうなんだ。道をそれて分け入っても気付いたら元の道に戻ってきちまってて…結局調べられなかったって…これおかしいだろ?」
 迷いの森――樹海等の原因は磁場の影響で方位磁針が使えなくなるのが原因だが、戻ってきてしまうとなると何かしらの力が働いていると考えざる負えない。
「その道はいつからあるんだ?」
「さあ…俺らが見つけたのはつい最近だが、道が道だから昔からあるかもしれんし、そうでないかもしれんが」
 推測で事を進めるのは危険だ。
 しかし、もしその道が獣道だったとしたら声だけがして獣に遭遇しないというのはおかしい。
 考えられるのは何らかの理由でその道を使っている者がいた場合。他人の侵入は歓迎しないが、それでもあからさまな行動には出たくない。そこで自然に近付かないよう仕向ける行動に出ているとしたら――。
「あんたらがその道で怪我を負った事とかは?」
「今の所ないが、道しか進んだ事がねえからなあ。だから、調べて欲しいんだ」
 男の言葉――何か隠されているのは確かだ。それを知るには行って見るしか無い。
「いいぜ、引き受けた。けど、その前に聞いておかないといけない事がある」
 戻ってきてしまったという調査隊の話だ。きっと何か仕掛けがあったに違いない。その糸口を彼らの証言から掴めるかも知れない。俺は早速男に案内されて、彼らの依頼したという調査隊の元を訪れる。
 そして、そこで聞いた話は彼に確信を与える。
(「これにはきっと裏がある…」)
 俺の勘が背後にある何かを察知して、俺はその現場へ向かう事を決めるのだった。

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【調査隊の証言】

調査に出たのは天気のいい朝だった。
鳥の鳴き声を聞きながら道に入って…暫くしてからそれて数十分。
霧が出てきてねぇ…やっぱり山の天気っていうのは侮れないのかな。
無駄に歩いたら迷うと思ったから何処かで霧が晴れるのを待とうって事になって
移動し始めたら鹿の群れに出会ってね…追いかけたら丁度いい岩肌の窪みを見つけてそこで休憩。
そうしたらもう気付いたら昼を過ぎていて…その後は…あれ? どうしたんだっけ?
日が暮れるまで歩き回った筈だけど…なんだか酷く疲れていてね。
地図も方位磁針は失くしたっぽくて…けど気付いたら振り出しの道にいたんだよ。
地震、悲鳴? そういうのは聞かなかったかな…けれど、別の何か聞いたような気も…


■参加者一覧
睡蓮(ia1156
22歳・女・サ
蓮 蒼馬(ib5707
30歳・男・泰
笹倉 靖(ib6125
23歳・男・巫
ユウキ=アルセイフ(ib6332
18歳・男・魔


■リプレイ本文

●仕込み
「地図と…後、もう少しお話を聞かせて貰ってよろしいですか?」
 出発前の準備の合間に黒猫の面を被ったユウキ=アルセイフ(ib6332)が依頼人に尋ねる。今回起こっている奇妙な現象――道の状況からして地図や方位磁針は必要不可欠。どういう仕組みで元に戻ってくるのかは判らないが、謎解明にはマッピングしておく事も重要だろう。
「話というのは?」
「街道沿いについてです。滝以外に史跡みたいなものはありませんか?」
 何かあればそれ絡みで工作する者がいるかもしれない。動物に関しても本来そこにいる種なのかどうか尋ねておく。
「史跡はないねぇ…そんなものがあれば観光地にでもなってるだろうし、うちとしても紹介する必要も出てくるからな。動物の方は野生の鹿、猪、兎、後鳥類はそれなりに…昆虫となると名前を挙げたらキリがないね」
「そうですか…」
 相手が人で、何か隠したいものがあるとすれば史跡等にある貴重な何かとも考えてみたが、どうも外れらしい。
「すまない、遅くなったな」
 とそこへ聞き込みに回っていた蓮蒼馬(ib5707)が帰ってきた。早速成果を聞くユウキに首を振る彼。籠屋仲間にも協力を仰いで獣道の他の利用者はいないか聞いていたようだが、目ぼしい収穫はなかったらしい。
「あの道は普通の者は使わんさ。茂みに隠れているし道幅も狭い。慣れたもんでないと危険だろうからねえ」
 そう言いつつ、籠屋が地図にルートを書き込む。
「となると…靖が言っていた件の確認は出来そうにないですね。なんで籠屋さん達は無事だったのか…調査隊と籠屋さん、その他にもあの道を通った方がいれば、もう少し確信が持てるのに」
「確信?」
「つまりアレだろ? 調査隊は朝出向いて迷い、籠屋は夜変な声や揺れに遭遇……もし他にもあそこを通った者がいて、時間帯が判れば偶然か意図か…判断ができたかもって事だろ?」
 朝と夜…起こる現象が決まっていれば自然なのか術なのか絞り込みやすくなる。それに実際の所、昼の現象は兎も角…夜の声についてはユウキが仮説を立てている。
「まだ推測なのですが、滝があるようですし…岩の窪みの件からしても音や揺れは洞穴地形に寄るものではないでしょうか?」
 風が吹き込み別の穴から流れ出す――それが笛のような原理で音を出したとしたら? 開いた地図を見つめて、早速キサイが地形を調べる。
「けどだったらなぜ、夜だけなんだろうな」
「…あ、そうですね。何故だろう…」
 調査隊の証言にそういうものはなかったし、穴があったとするならば今までも風が吹けば音がした筈だ。けれど、報告が入ったのは籠屋が通ったとされる夜のみ。最近何らかの要因で穴が出来たとしても風は昼も吹くのに報告がないのはおかしい。
「よう、おまたせだねぇ」
 その後話に丁度区切りがついた頃、物資調達に出ていた二人も三人に合流した。
 睡蓮(ia1156)は甘味好きらしく団子を片手に、笹倉靖(ib6125)は煙管を吹かしながら互いに打ち解けた様子で荷物をおく。それもその筈この二人には面識があった。睡蓮の兄の知り合いが靖であり、二人とも何処かマイペースな所が似ていなくもない。
「迷子に、ならぬ、よう、白墨を、買ってきました」
 もぐもぐと団子を頬張りながら睡蓮が言う。
「霧対策の鈴もバッチリだよ〜、後は現地を行くしかないねぇ」
 後は出たとこ勝負だとばかりにまったりとした様子で靖が付け加える。
 準備は整った。明日の朝の出発の為、彼らは早い目の休息を取る。

「ふふっ、今度は開拓者が来るんだって?」
 彼らの動向を知る一人が言葉する。
「どうやらそのようで…如何致しましょうかね。大事には出来ませんし…主に報告せねば」
「報告? そんなのいらないよ〜。それより試してみようよ」
「試す…彼らをですか?」
「そ、いい機会じゃない。開拓者はお人好しが多いって言うしばれないよ〜」
 無邪気に笑う一人とは別にもう一人は慎重な構えを見せる。そんな相手を気にすることなく笛を吹くと、彼女の近くにはいつの間にか動物達が集まっていた。


●確信
 翌朝、調査隊と同時刻に彼らも問題の道を目指す。
「アヤカシの仕業にしては目的がなさ過ぎます」
 山道に入って思ったよりも険しい道だと思いながら睡蓮が言う。
「かといって人の仕業にしても手荒な真似はしていないようだし、出来れば穏便に解決したいものだな」
 とこれは蒼馬だ。もしこの件が術に関するものならばこの二人が真っ先にかかってしまう恐れがある。が、相手が見えない以上逆にそれを利用する他ない。二人を先頭に小まめに周囲の確認しつつ進む。今日も驚く程いい天気だった。さりとて山の中――上に行けば行く程気温は下がり、背の高い木も多く冷やりとした空気が彼らを包む。
「キサイさー、この道に意図して隠された道とかなさそうかい?」
 獣道への入り口でもキサイに尋ねていた靖。彼はこの道が人工的に作られたのではないかとも疑っているらしい。
「確かにあの入り口付近は隠したような跡はあったけども、どうも籠屋もその手の工作をしたらしくて、明確に籠屋以外の仕業かどうかっていうのは難しいぜ」
 目を凝らし、時に土に触れて調べ進むキサイであるが、流石にそこまでは判別出来ない。
「瘴索結界でも反応なし。アヤカシでない事は確かなようだねぇ」
「今の所罠っぽいものもなし…けど獣の足音はする」
 超越聴覚で聴こえる様々な音――葉のざわめきや鳥の声、遥か先には水音も聞こえている。
「あれは、兎ですよね」
 そうして暫く歩くと、前の二人が一匹の兎を確認した。しきりに鼻と口元を動かし、愛らしさをふりまく。
「この糞は兎のものだったか」
 足元を注意して歩いていた蒼馬がぽつりと呟いた。その他にも野生生物の足跡やら排泄物がちらほら見て取れる。
「もう少し進んでみましょう」
 兎を避けて睡蓮が木に印をつけると再び歩みを進める。その動作と共に鈴が鳴った。別に熊除けという訳ではない。霧による視界対策にと靖が提案した音による位置確認の為のものだ。以前もこの方法を用いた事があり、今回も使えると考えたらしい。更に進むと早くもその出番が訪れる。そう霧が発生したのだ。
「術の類の可能性は?」
「さあ? 瘴気反応はないね」
「蒼馬、睡蓮は大丈夫かよ?」
「はい」
「今の所はな」
 白く深く…僅か数m離れただけで相手の背中が見えなくなる。自然現象ではあるようだが、これは確かに厳しい。一旦歩みを止めて、一同周囲を警戒する。
 その時、かさりと音がした。それに続いて沢山の音…何かが接近してくるようだ。
「山岳側、注意だぜ!」
 逸早くそれを察知し、キサイが皆を促す。この足音は四速歩行動物のようだが、数の特定は難しい。駆け下りて来てくるそれが何か、霧のせいで特定出来ない。
「くそっ!」
 皆身構えたまま目を凝らし…正体を捉えた時にはもう遅かった。
「うわっ!」
「ッ!?」
 斜面を駆け下りる鹿の群れは勢いを増し、重力ごと体当たりされては堪えようがない。狭い道で続け様に来るそれから身を守ろうとして蹲る。がそこは平坦ではなく…転がるしかなかった。所々木に身体をぶつけながら勢いが治まるのを待つ。
「皆さん捕まって!!」
 そこでユウキが咄嗟に蔦を出現させた。
 霧が濃い為目測でしかなかったが、仲間を信じて自分の蔦に手を伸ばしてくれる事を祈る。鹿が過ぎ去るのを待って、彼らは声掛けを始めた。けれど、
(「なんだろう、この感じ…身体が酷く重い」)
 鳥の囀りに混じって聴こえたのは何の音だろうか。身体から力が抜けていくようなそんな感覚が皆を襲う。
(「手を離しては駄目だ…」)
 そう思うのに瞼が鉛のように重い。それに追い討ちを掛けるように風が吹き抜けユウキの蔦を襲いー―彼らは再び斜面を転がるしかない。しかし、これではっきりした。相手は何かの目的をもって彼らを妨害、排除しようとしている。けれど、その収穫の代償は余りにも大きかった。


●子供
「やったかな…」
 ぼんやりとした意識の中で声がする。何をやったというのだろうか?
「念の為、これを」
「うん、了解」
 その声の後に口に何かが触れ、ゆっくりと喉を潤す。
「こ、ここは…」
 覚醒しつつある頭に指示を出し、そっと目を開ける。
 するとそこにいたのは――なんとまだ幼い子供達だった。
「うわぁぁ!!」
 目を覚ました彼らに慌て驚き、子供達は距離を取る。
「君達が助けてくれたのか?」
「そ、そうだよ! だからもう帰れ! 俺達の事は諦めろ!!」
 そう行って少年は木の棒を構えた。どうやら敵だと思われているらしい。
「ちょっと待ってくれ…何か勘違いしていないか?」
 そこで蒼馬が説明に入る。
 依頼の事、そして奇妙な現象の事…それに続いて彼らが何故ここにいるのか尋ねてみる。ざっと見ただけで二十名強、しかも子供ばかりだ。薄汚れた服が目に付く。
「俺ら人攫いにあったんだ。でも霧が濃くなった隙に逃げ出して…今はここで住んでる」
 話によると調査隊が来た時も今日同様、追手だと思い強攻策に出たらしい。幸い、相手が自分達を逃がさない為にかけた幻惑の術が残っていた。それを利用したらうまくいったのだという。
「俺山育ちで…野生生物は得意なんだ」
 鹿の誘導は自分が担当したと褐色肌の少年が胸を張る。その後、彼らは自分達の根城に案内してくれた。ユウキ推理通り、この山には洞穴が多いらしい。調査隊が休んだ場所も見せて貰ったが、特に変わった点は見つからなかった。そして、あの現象についても子供達の証言から自然現象の線が有力となる。だが、それでは時間の疑問は?
「悲鳴は多分仲間のものだよ。突然獣が出てきて逃げたりとかするし」
 真夜中に出歩くのだろうか。笑顔で答える子供達に何処か違和感を覚える。
 一見筋は通っているかのように見えるが、何処となく腑に落ちない気がする。
「へえ、よくもまぁそんな話を作り上げれるもんだぜ」
 そのもやを解消すべく口を開いたのはキサイだった。
「術を利用し鹿を手懐けたって? 調査隊の連中を元に位置に戻したトリックはどうだ? 鹿にでも乗せて運ばせたって言うつもりなのかよ」
 くくっと喉の奥で笑う彼に一同見守る。
「確かに音の発生時間の疑問は残りますが、何故嘘だと言い切れるのですか?」
 ユウキの問い。
「さっきの声…」
 意識を取り戻す前の言葉を思い出して、これは睡蓮だ。
「それもだけども…鹿の一件、最後に聴こえた音覚えてるか? あれは風の刃だった…そしてその前。鳥の声で聞き取り辛かったが、あれはそう…怠惰な日常ってやつだよなあ」
 あの時した音はメロディーだったらしい。超越聴覚のおかげかもしれない。
「じゃあまさか…この子達が」
「ご名答」
「あーあ、ばれちゃったね」
 キサイの言葉に被せるようにそう言って、残りの者達の態度も一変した。
 先程まで友好的だった彼らが殺意に似た視線を向け襲い掛かる。
「油断するなよ! こいつら多分志体持ちだ」
 その言葉に慌てて四人が身構える。先制、拳の打ち合いになったのは蒼馬だった。先手を取られたとはいえ確かに動きが速い。自分の娘よりも更に小さい子供に囲まれて、一旦瞬脚で回避する。だが、そのスピードに負けず彼らも喰らいついてくる。
(「手加減は不要だな」)
 蒼馬の脳裏に浮ぶ言葉――その思ったのは睡蓮も同じだ。
 数での劣勢…一対一に持ち込みたいが、それを許してはくれない。一人の刃で押し切れないのなら、容赦なくその上から他の者が刃を重ね上乗せしてくる。三対一…刀が悲鳴を上げそうだ。
「くっ」
 睡蓮は已む無く刀を横に引いて、力の方向をずらし三人をいなす。けれどそれが精一杯。案内されるままにやってきた洞穴内は狭く、大きく振り被れば刀が壁面に当たってしまう。外に出たい。その気持ちを後方の靖が悟る。
「ユウキ、あれでなんとかできないかい?」
 そこで彼が指示を出した。少しだけでいい。足止めさえ出来れば…。
「わかりました。やってみます」
 そう言ってユウキは再び蔦を出現させた。壁に出来る程蔦に強度はないが、妨害程度にはなるだろう。キサイも苦無や火薬玉を投げで一時時間を稼ぐ。
「なんだ大した事ないじゃん」
 逃げるように見えたのだろう。子供達が口々に言う。そして終いにはファイヤーボールで蔦を焼き切り、後を追ってくる。
「くそっ! あらかた揃ってるのかよ!」
「いや〜、怖いね…ッ?!」
 ばたばたと駆け出して――次に彼らを待っていたのは人体の異常。
 目が霞み、手がぴりぴりと痺れ、どくりと心臓が戦慄く。
「くっ、身体が…」
「さっきの水か!」
 気付けに飲まされたあの液体、それに何か入っていたのだろう。
「ふふっ、やっと効いてきたね〜。でも動けるんだ〜すごーい」
 きゃはっと甲高い声がする中、こちらは脂汗が止まらない。
「靖、解毒は…」
 だが、残念ながら解毒の準備はしてきていない。
「じゃあ、白兎で川を…そこから下る」
「それまでは、持ち堪えます」
 ぼやける視界の中、それでも意地がある。
 今までの勘を頼りに意識を集中させ、子供達の攻撃をかわし後退する。
「あれれ、帰っちゃうの〜、つまんなーい」
 そんな言葉が聞こえたが、彼らを追ってくる様子はなかった。

●疑念
「なんか酷く疲れました」
 へとへとになりながらも無事都に帰還して解毒を済ませた翌日――報告を終えてギルドの待合室に集まった五人が深く溜息をつく。一応、原因に関わると思われる者達を発見した。捕縛、聴取は叶わなかったが、その情報を頼りに後続隊が組まれ現場に向かった。が、流石にその時にはもぬけの殻だったのだという。そしてあの辺り一帯を調査し直した結果、怪しい場所を見つけるも穴は塞がれ掘り起こすにしても時間がかかりそうだ。
「一体あの子達は何なのでしょうか?」
 開拓者に負けない程の実力ー―今となっては判らないが、危険な匂いがする。
「そういえば何で志体持ちってわかったの?」
 ぷかりと煙を吐いて、思った事を尋ねる靖。
「ああ、それは肉付きだよ。あいつらあそこで暮らしてたっていう割にしっかりしてたし、洞穴に焚き火の跡もなかった」
「成程」
「それよりももう一つ、気になるのは…あのやり方だぜ。用意周到で人を馬鹿にしたようなあのやり方は…あれはもしかして」
「カラクリ御殿か?」
 以前の事件の事だが、キサイがその設計に関わった罠師を探している事、そして自分もその御殿に挑んだ事がある手前なんとなく感じるものがあったのか蒼馬が問う。
「ああ…もしかしたらあの子供達と裏で繋がっているかもだ」
 どう関わるかは判らない。けれど、また会う予感を彼は感じていた。

 そしてこちらも、
「あのお兄さんがからくり御殿を? へぇ、そうなんだ〜」
 荷台付の馬車に乗って一人がキサイの姿を思い出しつつ言葉する。
「どうしますか?」
 その問いにもう一人は無言の笑顔を返すのだった。