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■オープニング本文 ※このシナリオは初夢シナリオです。 オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。 そう、それは悪夢だった。悪夢のはずだった。 もう二度と会う事はないと思っていたのに、そいつは突然やってきた。 「ん…うぅん…」 纏わりつくような嫌な汗、空気が澱んでいる。何かに押さえつけられるような違和感を感じてはっと目を覚ました時、目の前にいたのはなんと橙色の南瓜頭――。 「うわぁぁぁ!!」 思わず叫んでしまった。そして、はたと周囲の異変に気付く。 宿の寝台で眠っていたはずなのに気が付けば、そこは柔らかなベッド。そして、周囲の風景もがらりと違う。天井近くまであるカーテンに豪華な絨毯。ここはジルベリアの貴族の屋敷ではないかと思うほどの広い部屋。壁には南瓜の絵が飾られている。 「よう、久し振り」 そこで声をかけられて、そちらに視線を向けるとそこにはいつか見た南瓜のお化け。 身体は人間と変わらずスーツを着込んでいるが、頭だけ南瓜なのだ。それが俺に気安く声をかける。 「お前…なんで……つーかここは何処だよ!」 まずは冷静を取り戻すのが先決だ。バクバクいう心臓を必死で制して、俺は問う。 「そんなに警戒するな。ちょっと遊んでやろうと思ってな…我輩こないだ出番なかったし」 以前会ったのとは少し雰囲気が違うそのいい様に俺は不審を抱きつつも首を傾げる。 「ほら、我輩おまえの身体乗っ取って遊んでやったじゃん。その時にフルボッコ喰らったから再生しつつ待ってたよ。そうあの日を…我輩のスペシャルデイをさぁ、そしたらヤギがでしゃばって、不貞寝してたって訳。断じて寝過ごしたとかではないぞ! いいな、ココ重要だからな!」 明らかに釘をさす辺り、寝過ごしたのだろうが…それはさして今の俺には重要ではない。 「だから出て来てやった訳よ…きっと、我輩の一億三千五百万のファンが寂しがってると思ったからね…そして、再生したおかげで少し若返っちゃったんだよね、我輩。見て、これぴちぴちのお肌を」 南瓜はそう言ってぼこぼこの顔の表面を擦って見せる。 「――で何で俺が巻き込まれているんだよ」 二度と思い出したくないあの夢。一流の自分があろう事か身体をのっとられて、こいつのせいで開拓者に茶番に近い催しを行う為罠師の技術を利用された。例えそれが夢だったとしてもやはり気分のいいものではない。 「おまえが一番手頃なんだよね〜。ほら、そのスキルといい悪戯を仕掛けるにはもってこいの人材だったし、それに我輩一度乗っ取ってるからこうやって夢に出るのもお手の物って感じで。そして、いまからおまえには新たな我輩の遊びに付き合ってもらうから」 にやりとぎざぎさの口の端を更に釣り上げて、南瓜大王が笑う。 「はぁ? 俺がそんな事手伝う訳…」 そう言いかけた時、俺に異変が起きた。見えない衝撃波に当てられたように身体が硬直し、次の瞬間俺はベッドをおり丁寧な仕草で床に膝を付いている。そして俺の口から出たのは、 『大王様の仰せのままに』 「くくくっ」 南瓜大王が再び笑った。何が起こったのは粗方想像がつく。けれど、それを認めたくない。 「おまえ…俺はやらねえぞッ!!」 必死の抵抗をしても自由になるのは言葉だけ。現に早速屋敷内の罠作りを始めてしまっている。 「減るもんじゃないんだしいいじゃない。その能力を存分に活かせるんだからさ〜、もっと喜ばなきゃ! 我輩の僕として申し分ないと思うんだよね〜」 そして、彼の趣味なのか? はたまた年末のそれが頭から離れていなかったからか、俺の衣装はいつぞやの執事服だ。オールバックにした髪にモノクルをつけての罠作りという重労働…色々何か間違っている気がする。 けれど、どうしても逆らう事が叶わなかった。それほどまでにこの南瓜の能力が高いと言うのだろうか。 「ちくしょう…何か、何か方法があるはずだ」 俺は作業の手を動かしながら奴の弱点はないかを探る。目覚める事はどうやらできないらしかった。 しかたなく夢の中で過ごして早数日――広大な屋敷の改築が終わる。 「はぁ〜〜〜」 もう溜息しか出なかった。現実ではないから延々と働かされた。不思議と眠気は起きなかったが、体力は削られている様で全身に疲労が蓄積している感じがする。 「よくやったな」 南瓜大王の言葉、ちっとも嬉しくはないのだが身体は自然と一礼する。 「さぁ、ではプレイタイムだ。景品はそうおまえでいい」 「え?」 そう言うと南瓜大王は俺に再び見えない衝撃波を放つ。すると、 「さ、最悪だ……俺、俺…もう」 それは悪夢――年の初めから彼に待っていたのは大きな試練。 俺の頬から一粒の涙が流れ落ちる。 「さぁ、来たれ。挑戦者達よ…我輩の屋敷で存分に暴れ、我輩を楽しませるがいい」 だが、南瓜大王はそんなことお構いなしだ。俺を屋敷の奥へと閉じ込めて『挑戦者』とやらを待つらしい。 誰かの夢の中に現れて、都合のいいようなシナリオで屋敷に導く。 それが彼の今回のやり方らしい。屋敷の中では彼の分身が警備にあたっている。 何故だか彼らは赤、黄、緑の蝶ネクタイに色分けされているようだが、何か意味があるのだろうか。 「誰でもいい、頼むからこの悪夢から開放してくれよ…」 キサイはいつ終わるとも判らない悪夢の中でそう呟いていた――。 |
■参加者一覧
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
水月(ia2566)
10歳・女・吟
蓮 神音(ib2662)
14歳・女・泰
シーラ・シャトールノー(ib5285)
17歳・女・騎
ユウキ=アルセイフ(ib6332)
18歳・男・魔
巳(ib6432)
18歳・男・シ
松戸 暗(ic0068)
16歳・女・シ |
■リプレイ本文 ●ある夢の物語 昔々ある処に松戸暗(ic0068)と言う冒険者がおりました。 彼女はシノビの能力を有し、仲間の情報網である人間がある屋敷に捕らわれている事を知ります。その捕らわれ人の名はキサイ。彼を知る者・ユウキ=アルセイフ(ib6332)もまたその噂を耳にします。 それとは別に彼と共に遺跡に行こうと考えていた少年・ルオウ(ia2445)は彼の姿がない事に首を捻りました。折角遺跡に行こうと思ったのに…気持ちが迷子です。諦めきれずに思案しているとそこに通りかかったのは、一人の少女・水月(ia2566)。彼女は言いました。『かぼちゃが…呼んでる…』と。 そこに何故だか転がってきたのは一個の南瓜。それを追いかけるようにパティシエのシーラ・シャトールノー(ib5285)が続きます。背中には大きな籠を背負って、それは今日の食材でしょうか? 少女はそれに心魅かれ、彼女と共に南瓜を追いかけます。ルオウも続いて、三人が辿り着いたのは大きなお屋敷。 「あれ、皆も南瓜大王ファンクラブの会員さん?」 そこには先客の蓮神音(ib2662)がおりました。 「その南瓜は魔物だ。成敗するのじゃ!!」 すると今度は逆方向から暗が飛び込み、転がり続けていた南瓜を一刀両断。すぱりと割られて、モクモク、モクモク…南瓜から煙が立ち昇り、彼らの前に現れたのは南瓜頭の大王です。 「やぁ、皆さん。我輩の屋敷へようこそ。楽しんでいってね、てへぺろ★」 不気味な姿で愛嬌を振り撒いて、それはそう言うとあっという間に消えてゆきます。 「おーおー、お前らもここに来たのか。なんか面白そうだし、ちと俺も一緒に混ぜてくれ」 それに遅れてやってきたのはラフに着物を着た男・巳(ib6432)。 何を考えているのか判りませんが、敵ではなさそうです。 「御主らはキサイを探しにきたのではないのかの?」 そこでまた暗の言葉。理由は違えど偶然とはいえこれも縁。 全てはここから始まります。ただ、ある者を除いては……。それには少し話を遡らなければなりません。暗がここへ辿り着く前の事、彼女は彼に会いました。そして、ある約束を交わします。この救出において重要な役所。それを受け彼は大王の傍におります。南瓜の被り物を装着し屋敷の執事と同じ姿をして、しかし一箇所だけ違うのは蝶ネクタイ。 (「待ってて下さい、キサイさん…」) 彼は鳥篭のような牢に閉じ込められた青年を見つめ、そう心中で呟きました。 ●おしゃれ南瓜の意味 「ん〜、まだかなぁ」 モニター越しに大王が挑戦者達を観察する。集まって庭を抜けるまで小一時間。 シノビの二人がいる為か思ったより動きが慎重であり、キサイの罠にもかかってくれない。 「あっちゃこっちゃ罠だらけだが、大した事ねぇなぁ〜」 「しかし、油断は禁物なのじゃ」 涼しい顔で言う巳とあくまで慎重な暗。この二人が組めば鬼に金棒だ。 「二人がいて助かるよー」 その後ろに続く神音が包丁を握りつつ言う。 なぜ彼女がそれを手にしているのか。それは簡単…ここまで使っていたからに他ならない。相手の姿を見取った時からピンと来た。敵は南瓜、いわば食材。ならば食物連鎖的脅しが利くのではないかと。 「悪い南瓜はいねが〜」 そう言って神音が牽制。暗もエプロンで対峙すれば、南瓜頭はあっさり逃げて行ったのだ。 「包丁で脅えるって事は食えんのかな?」 ルオウの言葉にある者が反応したが、その人物が言葉より先に出迎えたのは新たな南瓜執事部隊。 「一体何人いやがる」 目視だけでもざっと二十。庭でもそれ位は相手にしていた気がする。屋敷に入っても豪華な歓迎に涙が出そうだ。 「もう、懲りないなー…ほらほら、包丁だよー」 エントランスの赤絨毯の上で神音が包丁を突きつける。 だが、相手もさっきと違い全く動じなかった。逆にこちらに隙を作る結果となり、それを執事達は見逃さない。 「どういうこと!」 それを慌てて避けて、神音が言う。 「さっきのと匂いが違う…」 それに気付いたのは水月だった。鼻をヒクヒクさせて徐に一人の執事に近付く。 「危ないわっ!」 そこでシーラがブレイブソードを発動した。 するとどういう訳か薔薇吹雪が部屋を舞い、直線上の執事はおろか壁までも吹き飛び塵となる。 「あれ、何かありましたか?」 けれど水月は危機感ゼロで、更に執事に近付く。 「さっきと違う…ってどう?」 「そうか、色じゃ!」 「えっ、色?」 同じ顔に同じ服だが、よく見れば首に巻かれたタイの色が違うらしい。 「庭で見たのは黄色、ここは緑と赤じゃが果たして…」 囲まれながらも冷静な分析。しかしその間にも水月は前進。そして、 「緑もさっきのと同じ匂いがする…」 鞭を取り出すと、マノラティで緑のタイの南瓜頭を引き寄せる。 「…ほこほこ、煮物の匂い。頂きます」 彼女はそう言ってそれに齧り付いた。採れたてほやほやではあるが、さっきまで戦っていたそれであり、今も対峙しているそれでもある。暫しの沈黙の後、一回、二回、三回…彼女が咀嚼を繰り返す。 「やっちまったなぁ〜、あの娘」 モニターの前で南瓜が呟く。 「ん、んぐ…」 「おい、大丈夫か!?」 心配する仲間を余所に続いた言葉は、 「グッドテイスト」 ずこぉぉぉ 異国語で感想を述べて、彼女は再びもぐもぐを再開。 「よし、俺も!」 そう言ってルオウは近くの執事に齧り付いたのだが、がちんと嫌な音がして顎を押さえる彼。彼が飛びついたのは赤で…つまり赤は駄目らしい。 「神音も食べるよー」 そう言って前に出かけて、しかし彼女の傍をダーツが掠めて慌てて下がる。 だが、それはある者からの知らせだった。暗が拾い確認する。すると羽の部分に文字が書かれている。 『道先教えます』 そうそれはユウキの密書だ。先に彼が内部調査を行い、彼女が戻った時キサイの元へと導く。これが約束の内容だ。 「いいか、アイツがボスじゃ! アイツを追え!!」 予めこの事は仲間に話してある。彼がそのスパイだという合図を大王にばれないよう動作で伝達して、 「よっしゃ、覚悟しやがれ!!」 ここでもまたルオウが張り切った。だが、 どごぉぉぉん そこはまだ罠未確認の場所。まんまと落とし穴の餌食となる。 「おーおー、丁寧な作りの穴だなぁ、おい」 「多分これ、キサイさんのものよ…私見たことがあるもの」 にやにや笑いつつ手を貸す巳にシーラも加わり、中を覗く。 「って事はキサイおにーさん、また洗脳されちゃったのー! もしかしてファンクラブもそれで?」 「さあな。でも確かなのは」 「うひぁああ!」 答えかけた彼を遮る声。視線を移せば背中が燃えている暗の姿があって、 「何やってんだ、全く…っておい!?」 火を消そうと転がる彼女がとった進路はルオウのはまっている穴で。 「大丈夫、ですか?」 はむはむしつつ覗き込む水月に苦笑の落下組だった。 ●欲は果てしなく その後彼らはユウキを追うという形を取りつつ、キサイの元へ向かう事数時間。 やっと問題の場所に辿り着いた。 (「後は入るだけ…」) 南瓜の被り物をつけたまま、ユウキは覚悟する。スパイとばれぬ様自然に入る為、少し痛みを伴うが仕方ない。 「てぁぁぁぁ!」 神音の拳に業と弾かれて、扉ごと飛ばされれば中には鳥篭牢と南瓜大王が待っている。 「良くぞ、ここまで…」 ラスボス然とした言葉だったが、 「見るな見るな見るなぁぁぁ!!」 キサイが打ち消した。何か酷く動揺している。 「おいおい、キサイよぉ…仮にも一流が捕まったからって、そこまで恥ずかしがるこたぁねえだろぉ」 その声に巳が呆れた声を出す。 「くそっ、そんなんじゃねぇよ! 俺はその…」 「その何だって? そのひらひら衣装が嫌なんだろう?」 極端に短い裾の純白のドレス――それを着せられて、頭には百合の花。生足がセクシーである。まぁ一部のものにはおいしい姿かもしれない。しかし、言ってみればただの女装だ。シノビの者でしかも罠師であれば、相手を騙す為少なからずそういう経験はあるだろう。 「あーうっさいな〜、我輩抜きで会話するのは止めてくれる〜?」 だが、そこで会話は中断された。大王が彼の動きを封じたからだ。 その場に一陣の風が吹いたと思うと、次にはキサイは意識を失くしぱたりと倒れる。 「てめぇ、何をした…」 それに巳の表情が変わった。残りのメンバーも大王を取り囲む位置に移動し彼を見据える。 「余りにうるさいからね、眠らせただけだよ。それよりどうだった、我輩の執事達は? 何体いたか知ってる?」 けれど大王は動じることなく、むしろ自分に視線が向いた事が嬉しいらしい。 「南瓜大王覚えてる? 神音の事…」 そこで以前彼をぼこった事のある神音が牽制に入った。にたりと黒い笑みを浮かべて腕をぶんぶん振り回す。 「覚えてるよ〜、我輩の熱烈なファンだろう? おまえの鉄拳のおかげで我輩は若くなれたし〜感謝してるよー」 言葉がチャラい。前の方がずっと威厳があったのに…と彼女は思う。 「逃げられると思っているのでしたら大間違いですよ」 そこでユウキが動いた。 南瓜の被り物を脱ぎ捨てて、不意打ちよろしくアゾットで繰り出す。 そして、それは大王の身体をいとも容易く貫いた。 けれど、噴出す筈の瘴気も血もない。 「成程ねー、通りで一人足りないと思った。面白い事を考えたものだよー…だけど、それは通用しないんだなぁ〜」 身体を貫通しても尚喋る大王に立場は一転、場の空気が凍りつく。 (「こいつ不死身か…」) そんな空気が漂っていた。しかし、このままじっとしている訳にはいかない。 目的はあくまでキサイの救出だ。そこで挑戦者達は二手に分かれる。 「悪いが、ちぃとそのまんまで頼むぜ?」 刺されたままの大王の下に近付くことなく、巳は動きを止めるべく影縛りを展開し狙うのは大王の両手足。 「へぇ…いいね。けど、それで我輩を止めたつもり?」 しかし、止めた筈の大王は身体を捨てて、顔だけとなり辺りをふわふわ浮遊し巳を挑発にかかる。 「いやぁ、客の楽しませ方を知ってるねぇ。ならば本気で…」 「お願いします」 「いっけぇ〜〜!!」 そこで打って出たのはルオウと水月だった。 彼女の指示なのだろう…ルオウが水月を強力を使い、投げ飛ばす。 そして、飛んだ彼女は文字通り大王に食らいついた。 これまで散々食べてきていた筈の水月であるが、まだ胃袋には余裕があったらしい。 「な、ななな…わが、我輩の、ぴちぴちのお肌がーーーー!!」 それにはさすがの大王も動揺を隠せず、ぽとりと彼女ごと床に落ちる。 「……生、美味しくない…」 それが水月の感想だった。どうやらさっきのと違い、食べられないらしい。 「いや、待てよ…だったら焼いてみるのはどうだい?」 くくっと喉の奥で笑い、巳が再び影縛りを展開する。勿論今度は南瓜本体にだ。 「じゃあまずは食べやすいように切らないとねー」 それを受けて神音の手には包丁が再び握られている。 「いや、駄目、切らないで…我輩、痛いのいやぁぁぁぁ…!」 「よし、開いたのじゃ」 一方キサイ班はやっと暗の破錠術で牢の鍵の開錠に成功した。 「鍵が手に入らなくて…申し訳ないです」 ユウキが普段の牛の面に戻して、顔を隠しつつぺこりと頭をさげる。 「いいのじゃ。危険を冒しての潜入ご苦労じゃの」 けれど、皆気にしてはいない。彼は十分役目を果している。 「死んではいないようじゃが…」 息があるのだがピクリとも動かなくなったキサイを前に暗が言う。 「捕らわれの姫の目を覚まさせるにはやっぱりアレかしら…」 「あれって何をぉぉぉぉ!!!」 そこで聞き返そうとして、暗は赤面した。 シーラが取った行動――それは彼への口付けだったからだ。ユウキもはっと息を呑む。 「え、ええ…そんな、そんな仲だったのっ!?」 思わず歳相応の言葉遣いになり、暗がおろおろする。 「これでも駄目、なの…?」 だがシーラの方は真剣であり、暗の動揺に気付いていない。 「とりあえずアレだけ嫌がっていたもの…この服を脱がし…」 なんとなく気が引けるが、ここは緊急事態だ。ドレスのリボンに手をかける。 ピクリッ それで彼は反射的に意識を取り戻した。そして、それと同時に籠の縁へと逃げる。 「俺に触るな…助けてくれたのはあり難いけども…あの、まじで見てないよな?」 顔を真っ赤にしつつ、彼が問う。 「何の事かは判らないけど、まずは脱出よ。話はそれから」 キサイとまだおろおろする暗を連れて、ユウキと共に牢から出る。 「嫌じゃあ〜〜〜、食われるのは嫌じゃ〜〜〜」 未だに南瓜の悪足掻きは続いていた。のらりくらりと浮遊し逃げ回る。 「もう。こうなったらあの人呼んじゃうよー」 そこで神音は最後の手段に出た。何やら天に拝むようなポーズで何かを呟く。 「まずい! こうなったら我輩もやっちゃるでーー!!」 そう言って大王は光を解き放つ。 爆発したようにも見えたその光は部屋全体をを包み、皆の視界を奪う。 そして、再び瞼を開いた時皆は、 『なんじゃこりゃーーーー!!』 叫ばずにはいられなかった。 「どうだ、我輩の正装は」 だが、南瓜大王の中ではそれが正装であるらしい。 ふっくらと膨らみを持たせた作りが特徴的なパンツ。それは御伽噺の王様や王子が確かに着用していたのを見た記憶がある。しかし、それだけというのはどうだろう。辛うじて女性陣は今ある服の上からであったが、へんてこ奇天烈である事に変わりはない。 「わっはっはっは、これはここまでこれた褒美だ。受け取れ、諸君」 何が面白いのか豪快に笑う。 「くっ、これだけは見られたくなかったのに…けど、これである意味同士かも…」 両手足を床について落胆するキサイ。裸に南瓜パンツとは…巳もユウキも言葉を発しない。 「別に神音は問題ないけどー、皆困ってるしそろそろかなー?」 そこで神音が天を仰いで、現れたのは緑の球体に黒縞の入ったあれ。そう西瓜である。 「またやっていたのか、性懲りもなく。お前の出番はまだ先だろう」 そしてその西瓜も大王だった。ちなみに神音はこれとも知り合いである。 「いいじゃん、悪戯。我輩からこれとったらタダの南瓜だし」 薄れかけている魂で彼が主張する。齧られたからパワーが出にくいらしい。 「ただの南瓜でいいではないか。全く…皆の者迷惑かけたな。こいつは我がシメておく故…」 「あ、だったらこれを戻…」 そう言いかけた時、またもや彼女が動いた。 かぶっと…二度あることは三度ある。水月の食欲恐るべし。 彼女は今度は西瓜頭に飛び付いて、しゃりしゃりし始める。西瓜の魂が揺れる。 南瓜は既にだいぶ高い所に舞い上がっている。 「あ…あああ…」 このままでちゃんと目覚める事は出るのだろうか。そう思う一同に、 「皆さんも食べますか?」 いつになく積極的になった水月が魂の抜けた南瓜と西瓜を差し出すのだった。 |