【聖夜】メイクメリクリ
マスター名:奈華 綾里
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 9人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/01/06 02:36



■オープニング本文

「祭りさね?」
 鍋蓋で長屋を修復した事から顔が広くなったのかもしれない。
 そう広い長屋でもなかったが、それでも顔を合わせるだけだった住民達とも今はそれなりに話をする間柄となっている新海である。
 そして、今彼に持ちかけられたのは聞きなれない名前の祭りの提案。
「そう、くりすますって言うんだ。あんた、開拓者なら聞いた事があるだろう?」
 新海の前でそういう男は今回それをここで催したいらしい。
「ほら、家が壊れたりとかで子供達も怖い思いをしただろう? 年の瀬、ぱぁーと楽しく騒いでそんな記憶を吹き飛ばしたい訳よ」
 目の前にいるこの男は元来お祭り好きなのだろう。
 ジルベリアのお祭りである『クリスマス』を知っているようだ。
「そう言えば聞いた事があるような気がするさぁ」
 だが、新海の方はまだ曖昧なようだ。知っていると言い切れる感じではないらしい。
「そうさね、やってみるのも悪くないと思うさぁ」
 けれど、やることに異論はない。大掃除の前の大騒ぎ、いや掃除する理由も出来ていいではないか。
 折角ならば長屋の住人だけでは勿体無い。もっと人を呼んで盛大に――。
 二人は言葉はしなかったが、概ね気持ちは同じようで…。
「わかったさぁ、俺はまだはっきりした事はわからないけどもギルドでも人を募ってみるさね」
 いつもの笑顔を見せて、新海は早速立ち上がる。
「それじゃあ、俺は宣伝だな。時間はねぇが頑張ろうや」
「やってみるさね」
 そんな二人はがっちりと握手して――隙間風が冷たい部屋で彼らは固く誓うのだった。


 そして、次の日からあれよあれよと噂は伝染する。
 鍋蓋長屋でくりすますという名の宴会がある。
 それだけならまだいいが、うわさというものには尾ひれや背びれがつくもので――
 参加するだけで何か貰えるだの、特大のゆきだるまがさんたという老人を連れてくるだの、トナカイの玉のりが見れるだのと話は思いの外、変な方向に広がりを見せている様だ。しかし、二人はそれをよしとする。注目が集まるなら本望だ。

「ご主人、なんか面白い事があるみたいにゃよー」
 仕事帰りなのか、買い物帰りなのか。ぼさぼさの髪の男と相棒の猫又が噂を耳にして言葉する。

「ねーねー、みっちゃんねーサンタさんに会うんだよー」
 一方ではダブルポニーの髪を揺らして、桃色の半纏を羽織った少女がもふらのぬいぐるみを抱いて笑っている。
「え、どうやって?」
 その少女を追うのは二人の少年だった。いつも一緒らしく仲がいい。
「あのねー、なべぶた長屋って所にくるんだって〜。太郎ちゃも巽ちゃも行く?」
『いくー!』
 何事にも子供の興味は尽きないようだ。元気よく手を上げて、子供達が笑う。
「へぇ、鍋蓋長屋って言えば少し俺も世話になったっけ…」
 その近くではゴーグルを首に下げた青年が子供達の言葉に耳を傾けて――暫く考えたのち、彼はにやりと笑うのだった。


―――

『特別企画』プレゼント交換について

宴の中盤でプレゼント交換会を催す事になりました
希望者のみで行いますが、誰にあげるかの指定は出来ませんので何がくるかはお楽しみ
具体的には判定時に皆様から提示されたアイテムをシャッフルし、あみだくじにて行き先を決定します
誰から来たものかは文字数によりリプレイに正確にかけるかは判りませんし
高価なものを出されても安価なものがくる場合もございます
その点をご理解頂いて、参加頂けたらと思います

参加方法>
【☆】タグをの後にプレイングにて、プレゼントしたいアイテム一つだけ提示下さい
但し、提示アイテムは『鍛えていないLv,0』のものに限ります
鍛えたものが提示されていた場合は交換できませんのでご注意下さい

例>【☆】鍋の蓋


■参加者一覧
/ アーニャ・ベルマン(ia5465) / 和奏(ia8807) / 村雨 紫狼(ia9073) / 蓮 神音(ib2662) / 蓮 蒼馬(ib5707) / ユウキ=アルセイフ(ib6332) / エルレーン(ib7455) / ラグナ・グラウシード(ib8459) / 伊波 楓真(ic0010


■リプレイ本文

●ツリーの代用品
「ぬおぉぉぉぉぉぉぉ! 木が木が売ってねぇ!!」
 男は動揺していた。クリスマスまで後僅か――そんな土壇場でのもみの木調達は容易なものではない。
 しかもここはジルベリアではなく神楽だ。本場であれば山の方に行けば切り出す事も出来たかもしれないが、こちらは輸入ものを頼るしかない。まだ広くには知られていないクリスマスという行事用に輸入されているもみの木は数が少なく、当日が迫っている状態ではもう全て買い手がついており、万に一つ流れてくる可能性も低い。
「くそぅ、駄目なのか…」
 新海にこの話を持ちかけた男が地面に膝と手をつき項垂れる。
「まぁ、そんなに諦めるこたねぇって。あんなもん、代用すればいいこったろ」
 そんな彼を見つけて、手を差し伸べたのは新海の一声で集まった開拓者の一人・村雨紫狼(ia9073)だった。
 さっきまで彼自身も「ツリーになるものがねーよな〜」と呟いていた一人である。
 けれど彼は男とは違い、まだ望みを捨ててはいないようだ。
「タマも楽しみなの…だから、どうにかしてほしいなの…」
 姿のなき声――どうやら女の子の様だが、
「しかし、何か策があるのですか?」
 声の主はさておいて、静かな足音を立ててやってきた和奏(ia8807)が加わる。
「また会ったな」
 そして、蓮蒼馬(ib5707)もこの依頼に参加した一人だ。
 この三人、実は新海繋がりで少なからず面識がある。
「あの、パパ……あれは」
 そんな中さっきの声の主だろう。
 紫狼の背中からひょこりと顔を出して、獣耳の少女がある物を指差した。
 しかしながら、注目はそこへはゆかず、
「パパと言う事は紫狼さん。ついにお子様が?」
 その少女を見つめて和奏が問う。色々な異名を持つ紫狼であるが、いつの間にそんな仲の女性を得たのだろう。
「えー、紫狼おにーさん、いつ結婚したのー」
 それに続いて蒼馬と共に来ていた蓮神音(ib2662)が興味深げにその少女に近付こうとする。
 けれど、彼女は恥ずかしいのか彼の背中から離れない。
「ち、違うなのー。タマはからくりで…タマミィっていいますなのー」
 そういうのが精一杯…人間味溢れたその性格に皆目を瞬かせる。
「いいか、パパじゃなくてマスターだ。そうすれば誤解もなくなるってもんだが、まあ子供って事でも俺は問題ないけどなァ」
 細かい事は気にしない紫狼だ。動揺することなくどこか爽やかに笑って見せる。
「でそっちはどうなんだ? なかなか仲良さそうじゃねえか!」
 そして、今度は彼の反撃の番だった。神音と蒼馬の姿を交互に見てにやりと笑う。
「そ、それは当たり前だよー! だって、神音のセンセーなんだからー」
 その言葉に大きく反応したのは神音だ。ちなみに同じ姓の彼女と蒼馬は師弟関係であり、尚且つ蒼馬が彼女を養子として迎えいてる事から彼から見れば娘でもある。が、彼女自身は彼の事をそう思っていないようで…何処で知ったのか紫狼が揺さぶりをかけているという訳だ。
「あの…皆さん、お話は結構なのですがツリーは結局どうするのですか?」
 けれど、今はそれどころではなかった。
 和奏の言葉にはっと我に返る。未だに項垂れている男をほおって置く訳にはいかない。
「あ、じゃあ神音は買出しに行ってくるねー。センセーガンバってー」
「ああ、有難う」
 その空気を察して、神音が慌ててその場を離れる。
 丁度料理班のユウキ=アルセイフ(ib6332)と伊波楓真(ic0010)が通りかかった事もある。
 長屋のご婦人方も連れ立って、宴会で振舞う料理用の食材の調達に向かうらしい。
「さて、それじゃあ真面目に考えるとして……あ!」
 寒空の下、長屋の共同井戸の近くに視線を向けて――紫狼の目を捉えたのは竹の束だった。
「あれは…門松用の竹、でしょうか?」
 かくりと首を傾げて和奏が言う。実はさっき彼の人形が指差していたのがあれなのだが、彼自身は今気付いたらしい。
「よっしゃ! この際これでいーじゃん! サイズとか丁度いいしさー何より正月準備もできるしエコだろォ?」
 がばっとその束を掴んで彼が言う。
「しかし、これを使ってもいいのだろうか? 皆の物だろうに」
 そう心配する蒼馬だったが、
「それで出来るのなら構いませんぜ」
 いつの間にか立ち直ったらしい主催の男の言葉を受け、早速門松ツリーの製作にかかる。
「確かにクリスマスの後は、あっという間にお正月ですからお家の方のご苦労が少しは解消されていいかもしれませんね」
 しかし、門松でツリーって…そう思いつつもこの際、有合せで進めるしかない。まだ切られていない竹を全てひっくくって、一つにまとめる。そして、縄で縛り斜めに切れば節の部分が笑顔に見えるという寸法だ。但し、これは門松での事であるが――。
「しかし、竹がツリーというのは、まるで七夕ですね」
 力作業は二人に任せて、縄を縛りつつ和奏が言う。
「確かに…葉の部分を切らなければまんまだな。そういえば飾りはどうする?」
 ここに来る前に調べてきたのだろう。蒼馬が飾りがないのを見取り、尋ねる。
「それはあの鍋蓋マンのコレクションを…ってそういや、アイツはどこだ?」
 言われて見れば、依頼を出した張本人がいない。
 さっきの買出し班にも姿はなかったし、サンタクロース役をするにしては顔が知られ過ぎている。
「それなら問題ないぜ! あの人は今飾りを作ってくれてる…なんでも今絶対作らなきゃならん用事なんだってよぉ」
 水を得た魚のように主催の男は復活し、そう告げた。
「飾りといえばクリスマスの飾りに何か意味があるのでしょうか…?」
 御節に詰める料理に意味があるようにツリーにも何かあるのかもしれないとこれは和奏。
 けれど、残念ながらそれを深く知る者はここにはいなかった。


「へえ、あれがツリーってやつか。なんか和風なのなぁ」
 そんな長屋に巨大門松ツリーの土台が完成する頃、一人の青年が鍋蓋長屋を訪れる。
「おや、キサイさん?」
 そんな彼を見つけて、声をかけたのは買い物帰りのユウキだった。
 今日も以前彼と会った時同様お面を外している。
「おう、確かユウキとか言ったっけ? おまえもここでクリスマスかよ」
「はい、あ、そうだ…だったらもう少し買い足さないと」
 彼の姿を見るなり、ユウキは慌てて店のある方へと走っていく。
「せわしない奴…けど、これは面白そうだぜ」
 天高く聳えるように並んだ門松の竹。それを前に彼はにやりと笑う。どうやら何か思いついたらしい。
「子供もくるみたいだし、驚かせるにはもってこいだぜ」
 そう言って竹の太さを調べようと近寄って、
「ん、そこにいるのはキサイか。いつ来たんだ?」
 今度は蒼馬が彼を見つけて、縁というものは不思議なもので自然と知り合いが集まるらしい。
「このツリー、俺にもひとつ手伝わせてくれよ。悪いようにはしないぞ」
 その言葉はあっさりと快諾されて、彼の案は当日思わぬサプライズを提供する事となるのだった。


●フルスロットル
 クリスマス前日の夜から当日にかけて、フル稼働することとなるのはやはりここ調理場である。
 小さい長屋とはいえ人を呼ぶ宣伝までしてしまっている以上、料理が足りなくなる事態は避けたい。
 しかし、本場の料理となると時間のかかるものも多く、当日だけでは到底間に合いそうにないのだ。加えて、料理屋の板場を借りる訳にもいかず、それぞれの台所で料理作りを分担して量産するという方法が取られている為、今何がどれ位出来ているのかが極めてわかり辛い。
 その事態を知って、再び主催の男があちこちに目を配るように家を歩いて数の調査にかかる。
「神音は今鳥の塩釜焼きを作ってるところだよー」
 ある家の窯を使って、ようやく塩で固めた鳥を焼きに入った彼女がにこりと笑い言う。
「そりゃうまそうだ」
 男はその料理名を聞いただけでたまらなくなったらしい。ごくりとつばを飲む。
「本当は七面鳥って鳥を食べるった聞いたけど天儀じゃ出回ってなくて少し残念だったけど、これでも十分美味しくしてみせるよー」
 腕まくりをして、とても張り切っているが、今は待ちの時間であるらしい。
「あぁ、お譲ちゃん。だったらこっちを手伝ってくれるかい。散らし寿司を作っているんだけど、人が足りなくてねぇ」
 するとそこへ長屋の婦人が寿司飯だろう米の入った桶を抱えて、片手には内輪を持って入ってくる。
「いいよー、任せて。そういう訳でちらしもできそーだよ」
「おう、わかったぜ」
 手元の紙にそれを書き留め、彼も次の場所へ。その隣の家ではメインとなるケーキの製作が始まっていた。
「いいですか? ケーキというのは分量の正確さが何より必要です。それ程デリケートな食品ですから重々注意して下さい」
 色々買いこんで来たものの、これで本当に足りるのだろうかと思いつつ、今は集中とばかりに楓真が初めて作るという者達に作り方を指南する。卵はまだしも小麦粉や牛乳の類はこの場では貴重であり、焼いたり冷ましたりの時間が必要であるこのケーキ作りに失敗は許されない。
「あぁ、そこ。もう少し丁寧に振るって下さい」
 ユウキも経験があるのか見て周り、失敗回避に努める。
(「フルーツいっぱいの素敵なケーキにしたいなあ」)
 林檎や柿は少し水分が多いから適さないとは思うが、苺や蜜柑なら中に挟んで甘さの中にあるちょっとした酸味がきっと美味しさを引き立てるだろう。スポンジも黄色いものだけではなく、抹茶を入れたものやらココアを入れたものも作って色とりどりのものが出来てきている。
「あぁ、スポンジにはまだクリームは塗らないで。冷まさないと解けて崩れてしまいますから。その間にシチューを作りましょう」
 あらかた焼き上がった所で、二人は二つに分かれる。
 楓真は寸胴で大量のシチューを作るらしかった。じゃが芋に人参、玉葱などが用意されている。
 一方、ユウキはベーコン作り。大蒜や塩コショウに醤油で味付けした豚肉を燻製し始める。
「一体何になるのかしら?」
 その工程に予想がつかない奥様がわくわくした面持ちでぽつりと呟けば、
「カルボナーラってご存知ですか?」
 それに快く答えて、普段はなかなか見られない笑顔を振り撒いてみせる。
「小麦で作った麺に牛乳を発酵させて作ったチーズを加えたソースと絡めたものです。そこにこの豚の燻製…ベーコンを入れると塩味が引き立ちなかなか美味しいんですよ」
 長屋の面子に異国の味は、それすなわち未知の味だ。たとえここが神楽であっても異国の味を知っている一般人は多くない。昔から慣れ親しんだ米や野菜が中心であり、説明を聞いてもまだぴんとこないらしい。
「楽しみにしていて下さい。きっと気に入りますよ」
 そういえば彼女達の胸に期待とやる気が膨らみ、作業が捗るというものだ。
「あの、この鰤はどうしますか?」
 すると今度は食材の中にりっぱな鰤を見つけて、一人がユウキに声をかける。
「ああ、それは鰤大根にしようと思って…そうだ、ここ見てて貰えませんか? それ調理するので」
 その場を任せ、彼は早速鰤を捌き始める。
「その鰤、少しこっちに回して貰っても構わないか」
 それに目を付けて、再び顔を合わせるユウキと楓真。シチューの合間に今度は握り寿司を作るらしい。
「できれば、そのハラミを。鰤トロ寿司は酒とよく合う」
 何気に酒好きの楓真の真の目的は宴会でお酒を頂く事だ。その為に欠かせないのがそのお供である。
「いいですよ、僕はある人の為に鰤大根を作るつもりなんで」
 折角の一本、鰤大根だけに使ってしまうのは惜しい。手早く切り分け彼に手渡す。
「有難う」
 楓真は短くそう言うと、ご満悦でそれを切り始める。
 そうこうするうちに気付けば時間は既に朝を迎えており、徐々に外が騒がしくなり始める。
「あー、早く飲みたいなー」
 鳥の声を聞きつつ、楓真が呟く。
「ポチ。このくそ寒い中、わざわざ行くのか?」
 着物の裾を猫又のポチに引っ張られながら、一抹がぼやく。
「ご主人約束したにゃよねー。おいらが花札で勝ったら一緒に来てくれるって」
「そりゃ言いはしたが、おまえも寒いのは嫌いだと…」
 どこかいい訳混じりの彼だ。
「それとこれとは別なのにゃ! 美味しいもの食べられるみたいにゃよ、お酒もあるらしいにゃ。だから行くのにゃ」
 しかしポチも譲らない。そして、ここでも主人と相棒の言い争いが展開されていた。

「何で俺がこんな事を!? 無理ありすぎだろ!」
 タキシードを着たような模様が特徴的な猫又・ミハイルにトナカイっぽい角飾りを被らせて――足に付けられたブレスレットベルを鳴らしながら、彼が猛講義する。
「なんでですか〜、ミハイルさん似合ってますよ、それ」
 その視線の先には可愛いサンタコスに身を包んだアーニャ・ベルマン(ia5465)が出番はまだかとその気になっている。
「似合ってる訳ねーだろ! 第一、この角重いんだよー」
「重くても子供達を喜ばせる為なんだから、手伝って下さい。ね?」
 そこでにこりと笑って彼女が言うと、ぷいっとそっぽを向くミハイル。
 好きな奴は他にいる。仕方ないから付き合ってやっているだけだ。しかし、以前緊急事態とはいえキスをした仲である為、顔が近付くと意識してしまったミハイルである。
「今日だけだぞ! 二度はないからな」
「やったー! ミハイルさんありがとうですよ〜」
 抱き上げぎゅっと抱きしめられて、悪い気はしない彼であった。


●サンタ・クロス・サンタ
「できたさねぇ〜〜!!」
 宴会開始まで後数十分という時になって、やっと長屋に篭っていた新海が姿を現す。
 そして、彼の木箱には普通の鍋蓋よりもふた回りほど小さい鍋蓋のオーナメントらしきものが詰まっている。
「これを作っていたのですか?」
 飾りといえば林檎やらベルやら天使やらを以前の記憶から想い描いていた和奏は目をぱちくりする。
「そうさねっ! これじゃないといけないさぁ」
「…?」
 そう言い張る彼だが、他の者にとってはなぜなのかを判りようがない。
 しかし、時間がない為それを飾るしかなく竹のままでは飾れないと、回りには枝となる松やら杉を持ち寄り誤魔化している。
「みっちゃんも手伝うー」
 すると慌てている作業を見て、お子様ズが駆けつけた。
 彼女だけではない。長屋の子供達も面白そうだとばかりに新海の作ったオーナメントを手にツリーの方へと近付く。けれど、ツリーは高く手が届かない子が多い。
「むー、僕もかけたいー」
 巽はぎりぎり届く位置であるが、太郎はまだ成長途中。ぴょこぴょこ跳ねるが難しい。
「なら、手を貸そう」
 そこで知人でもある蒼馬が彼を肩車。
 けれど、彼らだけが集まっている訳ではない為、間に合わない。会場班が手伝っても尚、まだ足らないようだ。
「サンタ達も手伝ってくれ」
 そこで急遽サンタの登場を早める事となる。
 オーナメントの飾り付けを宴会の催しの一つにしてしまおうというのだ。
 一旦、ツリーから皆を離して仮設ステージを使い、子供達にはおまちかねのサンタの登場を促す。
 アーニャ持参のフルートの演奏に合わせて、左右にテントには既にサンタコスチュームに身を包んだ者達がスタンバイしている。
「ふふふ、あの子供達もくりすますを待ちわびていたんだろうな…カップルどもりあじゅうならもれなく討伐だが、子供に罪はない。ここは彼らに夢を見せてやりたいな」
 テントの隙間から外の様子を見つめて、背中に兎の人形を背負った男・ラグナ・グラウシード(ib8459)がタイミングを計る。
「うふっ、さんたさんを待ってる、だって…かぁいいわねえ! どうせヒマだし…さんたさん役は私にお任せよ」
 その向こうのテントには彼と同様に身を隠して、子供達の様子を見ているのはエルレーン(ib7455)だ。
 そして、曲が佳境に入った時二人は同時に飛び出した。

「待たせたな! 私がサンタだ!」
「さぁさぁおねーさんさんたが来ましたよぅ」

 本当にほぼ同時に――。
 打ち合わせなどしていないのに、ぴたりとした息で飛び出して二人の視線が交差する。その途端、彼らの表情にあからさまな曇りが見えた。そう彼らはお互いを知っていた。ラグナから言えば彼女は妹弟子にあたり、エルレーンからみれば彼は兄弟子に当たる…言わば兄妹同然の関係であるのだが、その仲といえば――、
「ちょーーと、なんであんたがここにいるのよ!」
「それはこちらが聞きたいものだ。なぜおまえが存在する!!」
 言わずものがな…見ての通りの犬猿の仲。
 何故そうなったのかは知らないが、何か琴線に触れる部分があるらしい。登場するや否やは二人の間に迸る稲妻が目に見えるようで、会場がざわめく。それにはっとして一旦は正面を向いて、
「皆いらっしゃ〜い! セクシーサンタのエルレーンよぉ。プレゼントが欲しい子はこっちに集合〜、こっちのサンタは偽物よ〜」
 精一杯ない胸を張って、アピールしつつ彼女がまずは子供達をひきつけにかかる。
「ぐぬぬ…誰が偽者だぁ! 私をどう見たらそうなるッ! 白い髭、白と赤の衣装…どうみても私がサンタではないか!」
 地団駄を踏みながら、ラグナが主張する。
「どこの世界に背中にうさぎを背負ったさんたがいるのよ〜、さぁ皆いらっしゃ〜〜い」
 だが、痛い所を突かれて彼は、一瞬怯みそうになった。
 しかし、背中のそれはもはや相棒同然。貶されて泣き寝入りする訳にはいかない。
「何が悪い! これはなぁ、俺の友達だ! 可愛らしいだろうがッ! それに比べてその衣装はなんだ…ミニスカだとぉ、笑わせる…胸がない分見せればいいとでも思っているのか? そんな姿ではジルベリアの地でプレゼントなど配れんぞ!!」
 びしっと指を差して、彼の指摘も的確だ。
「ええ〜と、ミハイルさんどうしよう」
 そんな狭間で困惑するもう一人のサンタがいた。勿論アーニャだ。遅れて登場しようと思っていたのに出所を失い、相棒に助けを求めている。
「そんなの知るか…好きなようにやりゃしゃあいいんだよ」
 しかし、彼も出番を失くした一人であり、どこか不貞腐れているようで的確な助言は回ってこない。その間にも二人の口論はエスカレートしていく。
「いいか、よい子たち! あれこそ偽物だ! あの貧乳のいう事を聞いてはいけないぞ!」
 真っ白な袋からプレゼントを取り出しつつ、ラグナが言う。とにかく彼女だけには負けたくないようだ。
「ちょっ、貧乳は関係ないでしょー! うむむ…み、みんなー!! よく見て、いい年してうさぎのぬいぐるみをせおったへんたいおにーさんなんか、無視無視だよぉ!」
 とこれはエルレーンだ。手をパタパタさせて彼を敬遠するような仕草で子供達を囲う。こうなるともうなんだか判らない。母親同伴の子は目を手で隠され、そうでない者はどっちかについたり、ぼけーと見つめたり。大人も止めに入るタイミングを見失っている。
「早く止めねば…」
 そう思ったその時だった。
 もふらのぬいぐるみを抱いた少女・みっちゃんがステージの前から二人に一言。
「二人ともケンカは『めっ』だよ」
 太郎と巽のそれを度々見ていたからかも知れない。彼女は仲裁に入ったのだ。
 その言葉に二人ははっとした。今は一体何をするべきだったのかと…いがみ合うために出てきた訳ではない。したかった事はこれではないのだ。一人の少女の言葉に二人は頬をぶたれた気がした。
「そうだな…おまえの言う通りだ」
「そうね、少し熱くなり過ぎたわ」
 彼女に手を伸ばして、ラグナとエルレーンが謝罪する。
「だったら二人で仲直りの握手だよぉ」
 そして、その後の言葉に一瞬顔を見合わせたが、ここでやらない訳にはいかない。恥ずかしさを伴いながらも二人はぎこちないながらも手を握る。
「さぁ、じゃあ仕切り直していきますよ〜〜」
 そこでアーニャがアナウスを入れた。

   しゃんしゃんしゃんしゃん

 続いて軽やかなステップを踏んでミカエルが鈴を鳴らし、彼女がぴょんっと登場する。
「よい子の皆〜、お父さんお母さんの言う事を聞いているかな〜?」
 そして、場の空気を変えようと大きな袋を抱えて元気よく彼女が煽る。
「喧嘩しても今みたいに仲直りすれば問題なーーし! まだ謝れていない事があったら今の内ですよ〜」
 そしてさりげなく二人のフォローもいれて、さっきのは演出だったのだと思わせる事に成功する。
 しかし、まだ舞台にはラグナとエルレーンがいて、まずは彼らを捌けさせる事が必要だ。
 そこで力を貸したのはキサイだった。
「この為に用意した訳じゃないんだけど仕方ないぜ」
 予め仕掛けていた何かに繋がるひもを勢いよく引いて、打ち上がったのは小さな玉。
 それは門松を利用した事によって可能となった仕掛け――一本一本の節の部分にそれは仕込んでいたらしい。

   パン パンパン

 それが空に上がると共に弾けて舞い降りたのは白い粒。
「雪?」
 誰かが言った。そう、それは雪と見紛う程よく出来た仕掛け花火だ。身体に触れても害はないし、通常は煙幕の変わりに地面に投げつけて使うものだが、それを応用し人工的な雪を作って見せたのだ。
「今のうちに下がって下さい!!」
 主催の男がそう言って、ラグナとエルレーンをテントの方へと誘導する。
「それではメリークリスマス! これよりクリスマス宴会を始めま−−す!!」
 そして最後のそれが上がった時、アーニャは持参していたもふらのぬいぐるみを五つ会場に投げ入れた。勿論それは拾った子供へのプレゼントだ。
 その頃には即席雪が止み、会場になる場所には料理が運び込まれている。
「ツリーに飾りを付けた方からお料理の方へどうぞ〜」
 親子連れは各々で、子供たちだけで来ている場合はサンタと設置班が手伝いミニ鍋蓋を飾っていく。
「なんだこれは?」
 ようやく調理から開放されて、ツリーを目にした楓真が呟く。
「これはなかなか面白い趣向ですね」
 続いて興味深げにユウキがそれを見つめる。
「すごーい! けど新海さんと言えばこれだもんねー。らしくていいと思うよー」
 とこれは神音だ。彼に挨拶をと思っていたのに一向に姿が見えず、やむなく先に卓を囲んでいる蒼馬の元へと走る。
 机には多種多様な料理が並んでいた。
 その量にどこか満足げな表情を見せつつも、結局酒と寿司のみを摘んでいる一抹もいる。
「まさかブリトロが食えるとはな」
 いつもであればあまり料理には興味を示さない彼であるが、新鮮なそれは気に入ったらしい。
「ここ、いいですか?」
 そんな彼に同じ匂いを感じたのか、楓真が返事を待たずして腰を下した。すると、
「おまえ、料理をしていたのか?」
 唐突に質問されて彼は驚いた。
 さっきまではエプロンをしてはいたのだが、今は外している。
 にも関わらず、初対面の彼に見破られたからだ。
「匂いがするんでな。もしや、これもおまえが?」
 彼には珍しく自分から尋ねる辺り、とても機嫌がいいらしい。
「ええ、一応。それよりやっと飲める…一杯、付き合って頂けますか?」
 既に一本空けているのを見取って、一抹が自分と同じ気質であることを感じ取ったらしい。一抹が彼に酒を注いで二人で乾杯する。そして、喉を滑るアルコールの心地よさに思わず、
「はぁ〜、一仕事終えた後の酒はうんまい!」
 今年最後ではないかと思われる改心の笑顔に一抹も僅かに口元で笑う。
「まぁ、一抹さん。あんたの相棒はどこにいんの?」
 そこへ相変わらず背中に隠れたタマミィを連れて、紫狼が声をかけた。
「ん……あれなら確かトナカイ猫の主人の方に行っていたが、用事か?」
 特に彼女を気にすることなく、一抹は紫狼にそう告げる。
「用事っちゃあ、用事だがなァ。大した事じゃねーよ。さ、いくぞ…タマミィ」
「う、うん。パパ…じゃなくてマスター」
 彼の言葉に頷いて、ぴったりとくっ付いたままの彼女。
「タマですか……何か猫みたいですね」
 その名前を聞いて、ポツリと楓真が呟いた。


●ドキドキ交換会
「やーん、相変わらずぷにぷにですねー」
 アーニャがポチを抱きかかえたまま、ご満悦に言う。
「なんでぃ、こんにゃろー」
 そう言って近くのチキンを突いているのはミハイルである。
 角飾りが重いのかべたーーと腹ばいになっている。そこへ紫狼の登場だ。
「よう、ポチ。見てやってくれよ、こいつこそお前をモチーフに俺が造った人形・タマミィだ!!」
 背中にへばりつく彼女をずいっと前に押しやって、慌てて顔を隠してしまう彼女。ポチをモチーフにしているだけあり、獣耳と尻尾の模様は彼と瓜二つである。
「マスター、やなのー! 恥ずかしいのー!」
 そう言ってあわあわする彼女に、ポチも興味津々でありアーニャの手からすり抜けて、彼女の足元に近寄る。
「あうぅ〜〜なの〜〜」
 流石に涙は出なかったが、それほどまでに動揺している様だ。
「これがおいらにゃ? おいら、オスにゃよ」
 じぃーーと見つめて、彼女とは対照的にポチが言う。
「そりゃ、俺は男にゃ興味ねーしなッ! 男の娘なら別だが、そういう訳で性転換してみた! どうだ、感想は?」
 視線を下げて覗き込む彼にポチは、
「おいらよくわからないにゃ」

   ずこぉぉ

 彼の味気ない返しに大きく期待を裏切られ、その場でつんのめる彼。
「うわわ、マスター」
 再びおろおろする彼女に、
「ねこさんみぃーけ」
 と今度はお子様の魔の手が。尻尾が気になったのだろう…ぐいっと掴んでぶんぶんする。
「マ、マスタ〜」
 悲鳴が上がった。けれど、あぁ無情。
「はっはー、これも修行だぜ! 頑張れ、タマ」
「ええっ!」
 なかなかスパルタな紫狼である。
「なんか人事とは思えないのにゃ」
「そうだな、俺も少しわかる気がするぜ」
 そして、二匹の猫又も彼女の姿を見て感じるものがあるようだった。


「さぁ〜て、場も落ち着いてきた事ですしアレいきましょうかー」
 宴会の目玉企画でもあるプレゼント交換会――。
 それを始めようとアーニャがすくっと立ち上がる。
「何がくるか、わくわくするねー」
 蒼馬の隣で華麗な包み紙に包まれた袋を持ち、神音が言う。
 出来る事なら彼からのが欲しい気もするが、そううまくはいかないだろう。
「さぁさぁ、ではこの袋に入れて下さいねー」
 三人のサンタが白い袋を持って会場を回り、参加者のプレゼントを回収して回るのだ。
 そして、集まったものに番号をつけ、後はあみだ籤で行方を決めるという寸法である。
「何がきても恨みっこなしだ! いいな、諸君!!」
 そうして厳選なあみだの結果、それぞれに包みが配られる。
(「貰った方が喜んでくれるといいけど…」)
 自分の包みの行き先を見失った楓真が密かに心の中で思う。それは皆同じだった事だろう。
「それじゃあ、開封どうぞー!」
 エルレーンの声の元、皆が緊張した面持ちで袋を開ける。
「何かな、何かなー…あぁ! これは錦絵だー」
 神音の包みにはにぎやかし紗羅の絵が丁寧に包まれている。
「俺のは…ほう、これはいい。花鞠茶だな」
 その隣では蒼馬が笑顔を見せている。
 というのもそれは泰国で作られているという花自体を乾燥させて丸くしたお茶であり、湯を注ぐと花開くという粋な一品であるからだ。
「いいものを貰ったな。明日にでも一緒に飲むか?」
「え、いいのー?」
 さりげなく誘われて、神音の目が輝く。
「見てみて、もふらさまー♪」
 その又隣ではお子様ズが大喜びだ。袋の中身はみっちゃんの好きなもふらさまの形をしたクッキーであるようで、太郎と巽共々ご機嫌だ。
「おお、いいですね。これでもう一杯楽しめそうです」
 それに続いて、喜びの声が上がったのは楓真から。面長な包みだと思っていたら、中身は薔薇のお酒らしい。なかなか市場には出回らないような一品と見取り、顔が綻ぶ。
 そんな彼と同様に酒を入手した者がもう一人いた。それはユウキだ。
「赤ワインか…肉料理に使ってみようかな」
 料理好きの彼らしい発想で、すでに頭の中にはレシピが浮かんでいるだろうか。
「おや、これは…」
 そんな中で意外なものを頂いた者達も勿論存在する。
 会場の設置が終わった後はひっそりまったり料理を堪能し、楽しんでいた和奏の元に巡ってきたのは真っ赤なクリスマスブーツ。とは言ってもこれは履くものではない。クリスマスの言い伝えで、靴下を暖炉に吊るしておけばプレゼントが貰えるという話があり、それに由来して子供達にお菓子を詰めてあげる風習的なものがあるらしい。これも例外ではなく、様々なお菓子が詰まっている様だ。
「どなたか知りませんが、豪華なものを頂いてしまいました」
 ほんのり頬が赤いのはお酒のせいだけではないだろう。やはり何がきても嬉しいものだ。
「見て下さいっ、ミハイルさん! こんな素敵なものを頂いちゃいました〜」
 そしてこちらはテンション全開モードで相棒に自慢してみせるアーニャの姿がある。
 彼女が手にしたもの、それは赤狐の襟巻だった。サンタ衣装とあわせて、一層クリスマスムードが盛り上がる。
 だが、勿論全てが大当たりという訳ではない。面白い感じの贈り物が届いた面子もいる筈だ。
「これってなんだ?」
 紫狼が手にしているそれがまさにそういうものだった。シノビの者ならば知っているかもしれないが、一般のしかも彼はサムライである。それは笹型両刃のノコギリのような代物で名前を『シロコ』という。罠解除やら鍵破壊に用いる事が出来る便利アイテムであるが、彼はそれを知らない。
「ま、後から調べてみりゃいいか。いや、けど誰かが使ってた気も…」
 キサイの依頼に同行している彼であるから見た事はある筈だが、彼の記憶に残るほどのものではなかったようだ。
 そのキサイはと言えば…誰からなのか根付を貰ったようで早速ポーチにつけているし、新海は頂いたばかりの饅頭をぱくついている。
「ご主人、これ…」
 そして一抹の元には銀の指輪が届けられていた。ポチがこっそり参加していたらしく、回ってきたのがこれだったらしい。
「いらない事しやがって…」
 何を出したのかは知らないが、それを受け取ると失くしてしまわないよう指にはめる。
「にゃ!」
 それでもポチは嬉しかったらしい。少し照れてポチはアーニャの元へと戻っていく。
「…ったく」
 一抹が残りの酒を煽っていた。


●宴も酣を過ぎて
 さて、残るは後二人。宴会を騒がせたあの二人である。この二人はまだ裏方にいた。
「あ、あんた何貰ったのよ…」
 お互い隠しながらも相手の物は気になるようで、少し距離を置きつつまずはエルレーンが尋ねる。
「な、何でもよかろう…おまえこそ、何を引いた?」
 実際ラグナの手の中にあるのは一着のワンピース。勿論ワンピースという事は女物であり、運の神様は我を見放したようだと落胆しているのだが、彼女の前とあってはそんな素振りを見せられない。
「わ、私はいいものよ。あなたをヤルには丁度いいかも…」
 そう言っているのはいるが、袋から覗いたのは鍋の蓋。本当はこれ。新海特製のものであり、細工のされたものなのだが、ちらりと見取って袋を閉めてしまった為ただの鍋蓋だと勘違いしている。
(『さっきの報いだろうか…』)
 二人の心中は今まさにそんな言葉が浮かんでいた。
(「確かによい子じゃなかったかもしれない。けれど、今日位は夢を見させてくれてもいいんじゃないの? なのに、これって…あんまりです」)
 ぐっと涙を堪えて、エルレーンは思う。そこでラグナに動きがあった。
「おい、おまえ。私にはこれは必要ない…もしよかったら、それと交換してやってもいいぞ」
 何が入っているかも判らないのに、彼がそう提案する。
「え、けど……なんで?」
「様子をみれば察しがつく。一応兄弟子だからな…どうだ、するのかしないのか?」
 視線は合わさぬまま、彼の問い。エルレーンは困惑した。
 しかし、このまま鍋蓋を…というのはあまりにもと思う彼女である。
「いいけど、私のは鍋蓋よ。本当にいいの?」
 渡してから抗議されてもと渋々中身を明かす。
「そうか、かまわん。俺のは女物だからな」
「そ、そう」
「ならば、いちにのさんで投げるぞ」
 直接手渡せばいいものを互いの意地があるのか、近付きたくないらしい。その提案に頷く彼女。
 そして、カウントを開始する。
「いち、にーの、さん」

   じゃきーーん

 投げると同時に音がした。その音に驚き、袋を見れば中の鍋蓋から刃が飛び出している。
 そうその鍋蓋は新海開発の鍋蓋手裏剣だったのだ。遠心力を使い、収納された刃が飛び出す仕掛けで、さっきの拍子で力が加わり、収納された刃が飛び出したらしい。
「え、ちょっ!?」
「なにっ! 謀ったなっ!!」
 その変化を見てラグナは慌ててそれを回避した。
 けれど知らなかったとはいえこの一件――ラグナから見れば奇襲を仕掛けられたと思わざるえない。危うくうさみたんの耳を掠りそうになった為、尚更不審は高まる。
「ちょ、ごめん。知らなくて…あの、その」
「もういい。交渉決裂だ! このワンピースはうさみたんに着せる!」
 ふんっと鼻息を荒らげて、紙袋を拾うと早速背中のぬいぐるみにそれを着せ、会場の方に消えていく。
「……もう、いいわよ、いいわよ。私もこんな凄い武器を貰ったんだし…」
 床に刺さったそれを引っこ抜いて、彼女も会場に戻るのだった。


 そんなこんながありながらもクリスマス宴会は続き、気付けば辺りは暗くなり始め、蝋燭を灯して昼間とは一風違った趣を見せ始める。
「これ、おいしー。あなたが作ったの?」
 沈んでいても仕方ないとあって、エルレーンは料理に手を伸ばし半ばやけ食いに近い食欲を見せて神音のチキンに舌鼓を打つ。
「そうだよー、えへへっ。こういうのは得意なんだよ!」
 そう褒められては悪い気はしない。笑顔でガッツポーズの彼女である。
「うわっ、この鰤大根めちゃうまだぜ」
 そしてここでもクリスマス料理には似つかわしくないが、彼の好物と知って作ることを決めたユウキにキサイが感想を述べている。
「以前御お世話になった時のお礼に作ってみただけですよ」
 料理が得意とあって、他国の料理もお手のものだ。
「しかし、よく俺の好物知ってたなあ」
 キサイは山育ちで魚介類を食べる機会が少ない理由から、貴重な魚料理――特にこれが好きなんだという。
「風の噂に聞きました」
 一体どうして噂になったのかは謎であるが、深く聞かない彼である。
「これ、確かにおいしいです」
 そして、カルボナーラも好評のようだった。ご婦人方が見た目で抵抗を感じていたようだったのだが、「騙されたと思って食べてみて下さい」の一言で恐る恐る手を伸ばして、一口掬った後の感想はまろやかで濃厚な旨みがたまらないという事だった。
「おまえ凄いぜ。こんなうまく出来るのは只者じゃねえと俺は思うぞ」
 また一つ、大根を口に頬りこんで、キサイが言う。
「ミハイルさん、それ私のケーキ!」
 ――と別の場所では何やら楽しげな声が上がっている。
「クリームも絶妙。ワインとケーキもなかなか…」
「そうか」
 一方では甘い物も好きらしく、楓真が自作のケーキに満足げだ。
 しかし、楽しい時間というのは過ぎるのが早い。
 余り夜更かしするとサンタに会えなくなるぞと蒼馬が諭して、子供達とは先に別れる事となる。
「うさみたんともクリスマスできてよかったのー」
 ラグナの事を覚えていたらしいみっちゃんが彼にハグをした後、母に連れられ太郎と巽と一緒に会場を後にする。タマミィの尻尾を引っ張った子も早々に飽きて、既に家路についている。
「騒がしくもあったけども、一応これは成功さね」
 大人だけが残る会場を見つめて、裏方で動き回っていた新海はほっと胸を撫で下ろした。
 そして、外の門松ツリーを見つめて、次にやる事の為再び気を引き締める。
 小さな鍋蓋…実は彼、この企画の前にもう一件ある依頼を受けており、その為にとあのオーナメントを作っていたのだ。
「何をみている? もうすぐお開きだが、それまでは一緒に飲まないか?」
 そんな彼に声をかけたラグナや他の者はその事を知らない。けれど、今はまだこの時間を楽しんでいいはずだ。
「ありがとうさねっ。だったら頂くさぁ」
 振り返った先にいた仲間達を見て、彼はその輪の中に入る。
「では、クリスマス宴会の成功を祝って! かんぱーーい!」
『かんぱーーい!!』
 そうして、彼らの声は夜明け前まで途切れる事がなかった。

 だが翌朝――昼を過ぎる頃には新海は次の場所へと向かっている。
 そう、ツリー飾りの鍋蓋を木箱に詰めて……それがどうなったかはまた別のお話。

 〜2012,ハッピークリスマス to you〜