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■オープニング本文 ●危険な遊び ふふふ〜ん 秋も半ばの定食屋で好物の鰤大根定食を前に思わず鼻歌が零れる。 こんなにゆっくり…しかも堂々と食事が出来るのは久方振りである。 「味がしみててたまんねー♪」 米もどうやら新米を使っているらしい。 艶やかでいて弾力のある噛み応え…口に広がるほのかな甘みに満足この上ない。 「またカラクリ御殿で怪我人だってよ」 そんな至福に浸っていた俺だったが、いつもの癖で耳は周囲の話を拾い、只ならぬ情報に眉を顰める。 「あの成金の坊ちゃんとこか…全く何考えてるんだが」 「『あとらくしょん』にしてはやり過ぎだよねぇ」 会話は地元の人なのだろう。成金の坊ちゃんというのは誰の事か。からくり御殿という言葉も気にかかる。俺は残りの定食を食べつつ、他にこの件に関する情報はないか耳を欹てる。 「ありゃあ、一般人には無理だよ…俺も入ったが、途中ですぐリタイアだ。しかもリタイアする為に追加料金取られたんだぜ…やってられんよ」 「面白半分では馬鹿を見る…けど、噂は広まってるみたいで挑戦者は後を絶たないとか」 「しょっぱなから出鼻を挫かれる仕掛けで…一歩間違えば大怪我だったよ」 苦笑交じりに話す男に視線を移せば、彼の腕には包帯が巻かれている。 「なあ、そのからくり御殿。何処にある?」 そこで俺は行ってみる事にした。 その客から場所を聞き出して、行き着いた先には金塗りの壁に朱色の柱。 そして、真っ黒の屋根とどうにも趣味の悪い建物が異彩を放っている。 「さぁ、いらっしゃい! ここが噂のカラクリ御殿だ。中にはありとあらゆる仕掛けが目白押し…そんなカラクリを潜り抜け、見事出口に辿り着いたなら賞金十万文を進呈しよう。参加料はたったの五百文! これはチャレンジしないと損だよ〜!」 異国の道化師と呼ばれる姿でそう売込み、旅人の参加意欲を駆り立てる。 「賞金、用意して待っとけよ」 俺はそういい残して扉を潜る。背後では道化師が不気味に笑っていた。 ●実態は 突然灯りが消えた。そして、床が抜ける。 しかし、初心者ならまだしもそんな手にかかる俺じゃない。携帯していた縄を一瞬視界に入っていた梁に投げて、落下を避ける。その後も確かに巧妙なからくり罠が続いていた。突然扉が回って別の場所に強制移動を余儀なくされる部屋やら、階段の段がなくなりすべり板になる場所…次から次へと息つく暇などない。人の心理をついた巧みな配置…。 「ちゃちなものだが、同業者も一枚噛んでるのか…」 奥へと進めば進む程、その答えは確信に変わる。 数十分を要して――俺は出口を前に眉を顰めた。 扉はなかった。仕掛けもない。ただ、その出口から出る事は出来ないのだ。外の光を薄らと感じるが、出口であるそこには道を塞ぐように金剛石…つまりは最強の強度を誇るダイヤモンドの壁がはめ込まれており、これでは志体持ちとて相当の強力の持ち主でなくては打ち砕く事は難しいだろう。 「詐欺じゃねえかよ…」 「降参かい?」 俺の呟きに答えるように声がした。どうやらこの御殿の経営者の成金坊ちゃんらしい。 「はなっからゴールさせないつもりかよ? これはまずいんじゃねえの?」 はぁと溜息を付きつつ、俺が言う。 「ここまで辿り着いた奴はお前が初めてだったんだよね〜。しかし、用心に越した事はないだろう? けど詐欺とは聞き捨てならないなぁ、あれも仕掛けの一つといえば一つだしねえ。他に道があったかもとは考えないのかい?」 嘲笑うかのような声音で彼が言う。 「なかった…俺を誰だと思ってるんだよ?」 「さあ? 自信過剰もそれまでだね…それに重い扉を開く術をおまえが知らなかっただけの事。言い掛かりはやめてくれないかい?」 物はいいようとは言ったものだ。 そういう解釈も出来るが、これは明らかにゴールさせるつもりはないのだと確信できる。 「リタイアしてもいいけども…知らないぞ?」 俺が声の方に不敵な笑みを返す。だが、 「お好きにどうぞ。どうせ何も変わらないしねぇ」 その後に続いたクスクス笑いに不快を感じながら俺は金を払いその場を後にした。 そして、その足でその現状を知らせて一週間。一向に役所は動き出さない。 「ちっ…そういう事かよ」 財力があるあの坊ちゃんの事だ。裏から手を回したに違いない。 このままでは騙され続ける人は後を絶たず、怪我人も増える一方だ。 現にこの近くにある唯一の診療所を覗いてみれば、多くの負傷者が治療を待っている。 それに加えて、あれに罠師の関与があったのなら同業者としては見過ごす事は出来ない。 「役所が動かないなら、ギルドで動くしかないか…」 しかし、どうする? 同様でいて健全なものを作って客を奪う…それともあの店が詐欺だという事を白昼の下に晒す? どちらにせよ一人で出来ることは限られている。そう判断した俺は近くのギルドの門を潜るのだった。 |
■参加者一覧
シーラ・シャトールノー(ib5285)
17歳・女・騎
蓮 蒼馬(ib5707)
30歳・男・泰
笹倉 靖(ib6125)
23歳・男・巫
ユウキ=アルセイフ(ib6332)
18歳・男・魔
松戸 暗(ic0068)
16歳・女・シ |
■リプレイ本文 ●下地 やれる事を全てやってみよう。 成金坊ちゃんのからくり御殿に対抗すべく、開拓者達がまず取り掛かったのはあの店に対抗した施設の建設だった。 古民家を利用した娯楽施設造り――キサイの見つけてきた古民家は何処か趣のある離れや広間があり、広さも手頃で迷路のような造りにする事も出来そうだ。数名の大工を雇って、早速作業を開始する。 「あ、それはこっちで」 そこで設計図を片手に指揮を取り始めたのはユウキ=アルセイフ(ib6332)だった。 普段の彼ならばお面を着用し他とは一線を引いているのだが、今回に至ってはお面を外して明るくも真剣な面持ちでこの仕事に取り組んでいる。それというのもやはり怪我人が増え続けているというのが、ネックになっているらしい。 「詐欺紛いの商売で荒稼ぎなんて初めのうちだけだとは思うけれど、時間に任せる訳にもいかないものね。初級コースは任せて」 それは皆も同じだった。シーラ・シャトールノー(ib5285)はそう言うと資材運びに回る。 「それではわたくしもお供しましょう」 それに続いてシノビである松戸暗(ic0068)が補助に入った。彼女なら専門ではないにしろ罠への知識はある筈だ。とはいえ目指すものは誰もが気軽に楽しめるもので安全への配慮は欠かせない。ただ、簡単過ぎては面白みがなくなってしまう為、難易度の違う道を作る事でカバーする。 「盥はここでよかったかい?」 そんな中に混じって、少し怪しい出で立ちで作業するのは笹倉靖(ib6125)だった。 姿を見られないように特徴のある髪を隠すように外套を纏っている。 「そうだな、この天井を一回剥がしてどんでんにした後仕込むとするか」 彼はキサイの傍で罠の造りを確認しながら時折周囲に視線を向けて…日が進んでも彼はその姿勢を崩さない。 (「ばれない様に慎重に…ってね」) なぜ身を隠しているのかはさておいて――、 初めはただの改築と思われていただろうが、数日もすれば次第にここの存在が向こうにも届いてしまったようだ。 「おい、誰の許可を得てこんなもの作っている…」 あちらの差し金だろう。男が数名がいちゃもんを付けにやってくる。 「いやいや、これはどうも。何かの思い違いでは? うちは一流罠師さんが作る罠アイテムの店なんだけど〜?」 そこでまずはユウキが営業スマイルでうまく誤魔化せないかを試みる。 だが、それは通用しなかった。役所で調べてきたらしく、取り合ってはくれない。 「わたくしたちはちゃんと許可を得て建設しておりますが、何処か問題でもありましたか?」 そこで今度は暗が前に出た。どうやら説得を買って出るらしい。 「ああ? あんたみたいな小娘に様はないんだよ。この町にはすでにからくり御殿がだなぁ」 「わかっていますとも。しかし、遊技施設というものは沢山あった方が楽しめるもの…あなたも一人の方よりも複数の方と楽しんでみたいと思われる口でしょう?」 だが、あっさりと言い返されて男が口ごもる。 「それはそうだが、話は違うぞ。そんなもん作られたらこっちが…」 「それはどの世界も同じ事。そちらに魅力があれば気にする事はありません。こちらが勝つか、そちらが勝つか…初めから勝負されないのはそれ程に、あちらは自信がないのですか?」 有無を言わさず、彼女は言葉を武器に男達を牽制する。だが、それがよくなかった。 「戯言だ! やっちまえっ!」 口では敵わない。そう思ったのだろう。男らは強攻策に出る。近くにあった木槌を手に彼女の前で振り下ろす。 ガッと鈍い音がした。けれど、彼女に痛みはない。 その代わり蓮蒼馬(ib5707)の腕に鈍い衝撃。彼女を庇ったのだ。 「なんてことするのよ!」 慌ててシーラも駆け寄り、キッと男達を睨みつける。 「こ、これは警告だ…次はただじゃすまねえぞ! 建設を中止しろ、いいなっ!?」 男達はそう言ってその場を後にした。まさかこんな事になるとは思っていなかったようだ。 「ふふ、うまくいったわね…」 蒼馬に寄り添っていたシーラが言う。 「ああ、いい口実が出来た。俺はこれから心療所に行ってくる」 「わたくしも相手の動きを探ります。役人の方とも話をしたいので」 彼女はその線から圧力をかけてみるらしい。 「なら、町の顔役さんにも挨拶を頼むわね」 シーラはそう言うと、何事もなかったように仲間と作業を再開するのだった。 「確かに人が多いな」 心療所の待合室にはまだ新米の開拓者や一般人が溢れていた。 数名のお手伝いが動き回り、医師もてんてこ舞い。その様子を蒼馬は腕を抱えて診察をを待つ振りをしながら観察する。 (「俺の思い過ごしだったか?」) 疲労感さえ感じさせる彼らに彼が首を捻る。 実は彼、この診療所と坊ちゃんがつるんでいるのではと考えていたのだ。怪我人が出れば医者は儲かる。キサイもまだ何かありそうだと言っていた事から不審感を解消すべく、ここにきたのだ。腕の傷等開拓者ならばそう大した事ではない。このまま、ここにいても…そう思いかけた時、彼の瞳がある男を捕らえた。 (「あいつは、さっきの…」) 脅しをかけに来ていた男の一人が奥に入ってゆく。 ここからは見え辛いが、医師と何やら言い争っているようだ。 「…ふむ。全く白と言う訳でもないのか?」 蒼馬はそう判断し、後を仲間に任せる事にした。そして、 「どうしても割らねばならないダイヤがある。だからどうか弟子入りさせて欲しい」 宝石細工師の工房を訪れて、彼は深々と頭を下げるのだった。 ●開店 時間はあっという間に過ぎてゆく。 建設といっても既存のものを利用したおかげで思う程長期には渡らず、オープンを迎える事となる。 「さぁいらっしゃい、いらっしゃい! 子供も楽しめるからくり屋敷…一回二百文とお安めです! 難易度も選べて何度でもチャレンジできる! リタイヤしても安心の追加料金は無料だよ」 にこやかに笑ってユウキが呼び込めば、値段もあちらと比べて安いとあって徐々に人が集まり始める。 「あら、おめでとう。これはクリアした方へのスタンプカードよ…五つ集まると景品と交換できるから頑張ってね」 そして出口の方では、攻略者を出迎えシーラがリピートを狙って攻略者用のカードを配っている。その後ろでは彼女のからくりがなにやらスタッフへの料理作りに勤しんで居る様だ。 「ざっと百人は下らないか」 そんな盛況振りに製作監修のキサイは嬉しげだ。 「あの棒を避けていけばいいんだな」 彼らが作った初級コースの仕掛け――それは簡単なものが多く、素人目でもわかるものが多い。 それに挑む少年が天井にぶら下がる薪程度の木の棒を警戒する。その棒には色が付けられており、その色が服についたらアウト。攻略失敗という判定が下されるのだ。 「よし、いく…ってうわぁあ!」 そこで頭上を警戒して一歩踏み出した少年であったが、気付いた時には彼の顔にはインク付のボールが直撃していた。 「くそぅ、床板が外れてとか油断した〜」 と悔しがる声。上のそれは下への注意を逸らす為のいわば餌。 この辺はやはり一筋縄でいかないキサイらしい罠だ。 一日一回の入場制限はかけて、毎日少しずつ変化させ挑戦者を飽きさせない。スタンプが貯まれば自慢にもなる。上級コースはシノビ訓練用と題し、観察眼や予測力を鍛えられる本格的なものになっているが、安全面の配慮は怠らない。 となれば達成者が出ないからくり御殿よりも、気軽で楽しいこちらへと人の足が移ってしまうのは必然である。 「むむむ、二番煎じだというのに…腹が立つなぁ、もう」 そこで面白くないのは坊ちゃんだった。値下げの対抗策を打ち出しても遠退いていく足は止められず、からくり屋敷を恨めしげに見つめている。 「なあ、アンタも挑戦者?」 そこで靖が声をかけた。今日は普段のまま、通りすがりを装い彼を誘う。 「ぼ、僕はじっ実践派じゃないから、その」 「何ビビッてんの? やりに来たなら男は度胸、旅は道連れってな」 そう言って半ば強引に列へと並ぶ。 「……まぁ待て。いや、しかし、そこまでいうなら僕のお供にしてやる」 いざとなればこいつを盾にしよう。 そんな邪まな考えを秘めて――坊ちゃんは初のからくり屋敷に挑む。 「いやぁ、楽しみだぁね。え〜と名前は?」 「金次だ。金次様と呼べ」 だが、それはこちらの思う壺であった。靖が態々身を隠して作業していたのもこの為である。 彼専用の特別コースへと誘う為…靖は関係者である事を隠していたのだ。 中に入る事になった動揺からか、坊ちゃん改め金次は二人で入っている違和感にさえ気付いていない。 「おまえが誘ったんだから責任を持って先に行け」 何があるのか不安で溜まらないのだろう。しかし、見栄や意地もある。靖を先行させる事でなんとか罠を回避しようと思っているのだろう。そこで靖は因幡の白兎を発動した。そして、彼にこう告げる。 「こいつを先に行かせれば勝手に罠が発動してくれるんじゃね?」 本来ならば水を見つける為のスキルであるが、勿論金次が知っているとは思えない。案の定彼の言葉を鵜呑みにし、成程と相槌を打つ。 「ふむ、おまえ家来にしてやろうか」 等と言い、兎の後ろを進み始める。 (「ちょろいねぇ…」) 靖は心中で拍子抜けしながら、後に続くのだった。 一方その頃、からくり御殿にも新たな挑戦者――。 深々と外套を被り、風に靡く隙間からは鍛え上げられた身体が垣間見える。 「挑戦させてもらう」 静かにそう言って、参加費を払い彼は中へと踏み込む。 キサイから仕掛けについては聞いてきた。後は己の身体能力を信じるのみ。 (「いけるっ!」) 彼と共に遺跡をクリアしてきた蒼馬は押し留めていた闘気を開放し、床を駆けるのだった。 ●突破 行きはよいよい、なんとやら。 暫くは兎に道案内をさせ、業と回避できるよう計らえば、金次の緊張も解れてくる。 「腑抜けた仕掛けだ。なぜこんなに人気が出ているのか不思議だな」 既に手中に収められてるとは知らずに彼が言う。 (「そろそろやね」) 「楽勝楽勝って、ぬわっ!」 靖は自分の作った罠が近いと思った瞬間、すでに金次はそれはまっていた。 廊下の終わりで、兎が立ち止まった事にも気付かずに歩いていた彼を襲ったのは床抜けの罠。兎は軽いが彼は…そういう事らしい。ばふっという音と共に下に引いた布団から埃が舞い上がる。 「大丈夫か? 俺の兎をちゃんと見てないから」 そう言って笑いを堪えつつ、手を差し出す。 「な、なにっ、僕のミスだとでも言いたいのか! 不愉快だ! 早く引き上げろ!!」 だが、金次は自分の失敗だとは思っていないらしい。靖を睨みつつ、手を掴む。 「あっ」 そこでもう一発と、靖は引き上げ際に近くのひもを引っ張った。 すると、ガコンッと天井が開いて降ってきたのは水盥。落とし穴の丁度真上に仕掛けられたそれから冷水が降り注ぐ。そして最後にはお約束のように金盥までも落ちてくる。 「な、なんなんだ〜〜」 それに彼は一溜りもなかった。元々罠への耐性がある訳ではない。再び穴の底へと落下する。それを前に靖は氷霊結を発動した。穴には横道があり、彼を次のステージへと誘う為だ。水を氷に変えれば、彼はものの見事にその通路を滑っていく。 「お一人様ご案な〜いってね」 靖はそれを手を振り見送ると、一仕事終えたとばかりに愛用の煙管を吹かすのだった。 「う、ううーん…」 金次が目を覚ますと、そこには呼び込みをしていたユウキの姿があった。 そして、彼を前にぺこりと頭を下げる。 「申し訳ありません。こちらの手違いで別の場所に…怪我はないですか?」 そこで話を聞けば、どうやら改造途中の別ルートに彼は迷い込んだらしい。その不手際のお詫びにと彼の前に出されたのは、なんと手毬程度の宝珠だ。 「この件はどうかご内密に…折角軌道に乗り始めたのに、噂を立てられましたら困りますので」 彼はそう言ってささっとその宝珠を包む。サイズからして一般では出回らない品だ。金次の欲が反応し、自然と笑みが零れる。 「いいだろう、目を瞑ってやる。しかし、うちの邪魔をしてるんだからそれなりに」 「うち?」 「知らないのか。俺はあのからくり御殿の…」 そう言いかけた時、外が騒がしくなった。釣られた様に外へと駆け出す。 「なんだ?!」 「ついに…ついに攻略者が出たぞ!!」 その声は彼の御殿の方からで――彼は慌てて店へと戻るのだった。 あの出口を塞ぐ金剛石が――壊されていた。 正確に言えば切り取られたと言った方がいいかもしれない。出口に佇む男は拳から血を滲ませてはいるが、それでも何処か清々しい表情を見せている。 「おまえがやったのか…」 金次の問いに答えるように蒼馬が頷く。どうやらもう片方の手にある鑿(のみ)を使ったらしい。 「知っているか? ダイヤというのは硬度こそ高いが、破壊靱性…つまり一瞬の衝撃には弱いらしい」 彼が静かに続ける。 「だから俺はそれにかけた。コツを知る為に弟子入りまでしてな…で、この通りだ。賞金を頂こうか?」 ずいっと詰め寄る形で彼が言う。 「くっ…壊すのはルール違反だ! 金は渡せな…」 そう言いかけたが、現れたもう一人・キサイの言葉によって呑まれてしまう。 「ルール違反? よく言うぜ…そんなの何処にも書いてやしないし、おまえの言い方を借りればこれもれっきとした攻略法の一つだと思うぞ」 「おまえ…」 「役人を抱き込んでいたようですが今し方白状しましたよ。しかも診療所には無理矢理貢献料と称して金を巻き上げていたとか…最低ですね」 そこへ調査にも回っていた暗が戻り、彼の前に関係者を突き出す。 もはや彼に逃げ場はなかった。壁の破壊で野次馬も集まっている。金剛石のそれが白日の下に晒されては如何する事も出来ない。 「くそっ、せめてこれだけは!」 金次はやけくそになり、貰った宝珠を抱えて野次馬方面に逃走を試みる。だが、 「そんなにその石が大切ですか?」 ユウキの言葉にはっとし、視線を包みに向けて彼は落胆した。 宝珠が石に…そう、それはユウキの術による幻影だったのだ。 「な…おまえら騙したのか!」 金次が怒鳴る。 「あなたは今まで同じ事をやってきたんですよ」 「ここが年貢の納め時よ!」 そこで鳩尾に一発…それで十分だった。 金次は悪徳商売の罪でお縄につく事となり、からくり御殿は営業停止。 彼らが作ったからくり屋敷は町の者達に管理を委託し、一つの事件の解決を迎える。 けれど、キサイは釈然としなかった。 なぜなら、あの店に関わった罠師についての情報が得られなかったからだ。 判っていて手伝ったとしたら大問題だ。それなりの処分を下さないといけない。それが鈴鹿の者ではなくとも、危険人物であるからだ。 (「次の目的は決まったぜ」) キサイはそう思いつつ、仲間と別れるのだった。 |