【百鬼祭】飛べ日用品
マスター名:奈華 綾里
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 4人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/11/05 00:18



■オープニング本文

●やぎーずの閃き
 何処からともなくやってきたやぎ的な何か達。
 各地に現れては色々悪さをしているという報告が耳に入っている。
 そしてここでも騒ぎは起こっていた。

 話は少し前に遡る。
「おいら達はここで悪戯するやぎー!」
 やってきたのは間欠泉噴出す観光名所の温泉街。
 悪戯をすればいいことがあると聞いて、彼らは人の多いこの街へとやってきたのだ。しかし、時間は深夜であり、道には人っ子一人いない。そこで立ち上る煙を興味深げに見つめて…。どーんと一度噴出した間欠泉に目を丸くする。
「これは面白そうなことが出来そうやぎー」
 そう言った一匹の瞳は輝いている。
 だが、そこで――

   ぎゅるるるるぅ

 やぎ達のお腹が悲鳴を上げる。ずぅーーと歩いてきたのだ。何か食べないとどうにも動けそうにない。閉まってしまった飲食店の軒先を恨めしそうに見つめる。
「食べ物頂いちゃうやぎ?」
 そこで一匹が提案した。どうせ悪戯目的で来たのだ。どんな悪戯にしようと彼らの勝手である。早速近くのお店に忍び込み、店を漁る。
「食べ物あるやぎ?」
「ここは道具ばかりやぎー」
 だが、そこに食べ物はなかった。彼らが入ったのは雑貨屋だ。綺麗に片付けられた棚には彼らには判らない摩訶不思議な円盤状の物やら鉄製の半球状のものが並んでいるだけだ。
「ここ違うやぎぃ」
「これ食べれないやぎ!」
 口々にそう言ってぷぅと頬を膨らませ、地団駄を踏む。
 すると、彼らの元に鍋の蓋が転がった。小さい彼らとは言え複数同時に暴れた手前、棚から落ちてきたのだろう。大小さまざまな鍋の蓋がころころと彼らの元に転がってくる。
「こ、これは…」
 そこでまた一匹が閃いた。
「これ使えるやぎー♪ さっきのとこにもっていくやぎー」
 仲間にそう呼びかけて、それぞれ鍋蓋のみならず道具を手にする。
「な、何事?」
 そこへやっとこ家主が到着した。慌てて逃げ出す彼らに腰を抜かす主人。
 その一幕がこの迷惑事件の発端だった。


●落下する日用品

   ひゅるるるるるる〜

 天を舞うのは一枚の鍋蓋――それが飛来するのを見つけて、新海は思わず目を点にする。
「なんで飛んでくるさぁ? いつに鍋蓋の神様からのプレゼントさね?」
 たまたま訪れた街での不思議現象。
「危ない、危ないよー!!」
 だが、その不思議現象はそれだけでは終わらない。鍋にたらいに桶と、次から次へと降ってくる。
「どうなってるさぁ?」
 そんな異常事態に発射地点に走れば、そこには小さなやぎに似た生物が嬉々とした様子で、間欠泉に日用品をセットしているではないか。
「わー、やぎさんたのしそー」
 それを見て、近くの子供が間欠泉へと走り出す。
「駄目さね、危ないさぁ」
 それを慌てて新海が止めに入った。抱きかかえる形で……しかし、彼の手だけは間に合いそうになく、興味津々の子供達が集まり山羊達の行動を見つめている。
「これは一大事さね…」
 その状況に新海の額に汗が流れた。
 間欠泉が噴出すそこは観光名所とはいえ危険な場所だ。そこへやぎ的何かがやってきているせいで子供達が興味を持ち、縄柵を越えて中へ入ろうとする者までいる。
 そして、街に降り注ぐ日用品。やぎの元にあるものにとがったものがないが、一般人が直撃を受ければ怪我ではすまない。
「あぁあぁ、うちの商品がぁぁぁ」
 その近くでは日用品の販売をしていたらしい主人が困惑している。
「あれはアヤカシじゃないようさね? 一体どうしたらいいさぁ…」
 困った人の力になるのが開拓者だ。
 しかし、対処の方法がわからないでは動きようがない。
「とにかく一人じゃ何も出来ないさね」
 新海はその場にいた子供達を一時避難させて、足早にギルドに急ぐのだった。


■参加者一覧
ガルフ・ガルグウォード(ia5417
20歳・男・シ
村雨 紫狼(ia9073
27歳・男・サ
ラグナ・グラウシード(ib8459
19歳・男・騎
ルース・エリコット(ic0005
11歳・女・吟


■リプレイ本文

●呼びかけ

   どーん ひゅるるるるるる〜

 今日も間欠泉の周りにはやぎ的な何かが群がり、近隣の者達は近寄る事ができない。それでも遠巻きに集まってそれを傍観するのは街の子供達だった。危険であるという事は少なからず理解していそうではあるが、それよりも好奇心が上回りその場を離れようとしない。
「よろし、くお願い…します」
 そんな事態に緊急で集められた中の一人・吟遊詩人のルース・エリコット(ic0005)がか細い声で挨拶する。腕にリュートを抱えて…まだ十を過ぎたばかりの少女の顔は真っ赤だ。
「緊張してるさね? まぁ無理もないさぁ」
 そんな彼女を新海が気遣う。彼は今の事態に緊張していると思っている様だが、実際は違う。彼女の赤面の原因…それは彼女の性格に由来した。初対面の者と気安く話す…それがどうも苦手らしい。しかも今回は仲間が皆男だというのもあるだろう。
(「けどけど、頑張り、ませんと…このままでは、いけま、せんし…」)
 ぎゅっとリュートを握り締め、彼女は事のあらましを近隣住民に尋ねる。話によれば日が昇る少し前、屋根への不審な物音が始まりだったらしい。初めは子供の悪戯かと思ったが、外に出てみれば屋根にめり込んでいたのは大きな鍋で……飛来する物品の元を辿ると、そこにはあのヤギたちの姿があったらしい。
「うーん…方向さえ制御できれば兵器にもなりそうな勢いだな」
 次々と飛んでくる物を見つめて、龍騎士ラグナ・グラウシード(ib8459)がぽつりと呟く。
「そんな事言ってる場合かよ! あいつらヤゲ共に悪意はねーが、このままだと怪我人が出ちまう…そうなったら今度こそきっと傷害罪で犯罪者だぜっ!」
 そう言うのはついこないだもあの山羊もどき改めヤゲ(紫狼命名)と対峙していた村雨紫狼(ia9073)だ。身を乗り出してまであれを早急に止めないとと主張する。
「…あいつらに交渉なんて生ぬるい事は通用しねぇって事は学習済みだぁ! やるならガツンとやったらなぁアカンぜよ!!」
 前回の教訓を踏まえて、彼は仲間にヤギ達の事を説明する。
(「確かに犯罪者にするのはいかん…でないとうさみたんフレンズがいなくなってしまう!」)
 そう心中で呟いて別の意味でやる気を見せるラグナ。彼の目的は背中の兎のぬいぐるみのみが知っている。
『大丈夫、ラグナならできるよ』
 背中から伝わる毛皮の温もりが彼にそう呼びかける。
「だったら俺に考えがあるぜ。もうすぐハロウィンとかいう行事だって聞いてるし、それでいくのはどうだ?」
 そこでそんな妄想を余所に作戦の提案したのはシノビのガルフ・ガルグウォード(ia5417)だった。
 二人の話を聞いてネタは被りはやむ無し。彼らを脅かすのは有効だと考え、仮装を提案する。
「まずは子供達を仮装行列が始まるからって感じで避難させて…その後にあの山羊達を脅かすんだ。そうして程よいところでネタ晴らしをして、その後は皆で楽しむ!」
 ハロウィンとは何か。子供達も楽しめてヤギ達にも実際のそれがどういうものなのか体感して貰おうと言う訳だ。
「子供達もいる手前、乱暴な事は出来ないしな…いいぜ、のった」
「私も異論はない…やぎさん達の安全の為にもな」
「でしたら私は…行列の、BGM等を…頑張り、ます…」
 相変わらずもじもじした様子でルースも先程よりは大きな声で賛成のようだ。
「だったら善は急げだ! 仮装の準備ついでに俺はひとっ走り避難警報の発令と仮装行列の開催を知らせてくる。皆は準備と移動の手伝いを頼む!」
 ガルフはそう言って、外へと駆け出す。
「仮装と言ったって一体何に化ければいいさぁ?」
 早速準備に入る四人を前に新海は思案するのだった。


●準備完了
「日用品落下警報発令! 皆さん建物の中に避難して下さい!」
 屋根から屋根へと早駆と三角跳を駆使して、ガルフが近隣の商店や大通りに呼びかける。地上では戸を閉めてしまっている店に残りの面子がこの後の為の仕込みに入っている。
「今日仮装行列をやるから、できたら菓子の用意よろしくな」
 悪戯が始まってから閑散としてしまった大通り。そこがうまくいけば今夜また賑やかになる事だろう。
 その為にまず対処すべきは傍観中の子供達だ。予め避難場所を提供してもらい、準備を整えた彼らは子供達の避難誘導に取り掛かる。
「未来の嫁さんがいるかも知れねーし…ほら、ガキんちょ達。ここは危ないから一旦あっちにいこーZE!」
 なんとなく女子にばかり声をかけている様な気がしないでもないが、紫狼はそう呼びかける。だが、

「え〜、まだやぎさん見てたい〜」
「ふかふかもふもふしたいー」

 と簡単に動いてくれる筈もなく、駄々をこねる子供達。けれど、次の一言で子供達の目の色が変わる。
「いいか、今晩仮装行列ってのをやるんだ。そうしたら甘ーい菓子が一杯貰えるぜ?」
 爽やかな笑顔を見せて…さすが射程圏の広い紫狼だ。子供の…特に幼女の扱いには慣れている。
『えー、本当!!』
「ああ、本当だ。かわいこちゃんには大サービスでな」
 そう言ってまずは一つ。いつぞやと同じようにキャンディーを配る。
 一方では実際に持参した月餅を試食し、アピールするラグナの姿もあって概ね子供達の避難はうまくいきそうだ。
「ヤゲ共もこうだったら楽だったんだがなぁ」
「そう、なのですか?」
 ぽつりとぼやいた言葉にルースが聞き返す。
「しかーし、今回は俺のコスでキャーンと言わせてやるわぁッ」
「キャーン…です、か」
 不敵に笑って言う彼に彼女は首を傾げるのだった。


 そして、避難は無事完了――。
 途中の日用品落下はあったもののそれは彼らがうまく避けさせて、いよいよヤギとの対峙となるのだがその前に…呼びかけを終えたガルフは物陰で何やら困惑していた。
「おっ、おい! ちょっと待ってくれよ〜」
 連れてきた相棒、迅鷹・白雪椰の機嫌がどうもおかしいらしい。
「どうしたさね?」
 それを見つけて、即興で作ったと思われる巨大鍋蓋鎧(ただのでかい鍋蓋を二枚身体につけいる風ではあるが)を付けた新海が尋ねる。
「あ、師匠…それが、どうも白雪がいう事を聞いてくれなくて…」
 師匠というのは勿論彼の事。ガルフは以前から新海の事を師と仰いでおり、今は越えるべき壁として考えているのだが、こういう場合はどうにも頼らざる得ない。
「これは多分あれのせいさね…」
「あれ?」
 新海曰く、間欠泉の音と匂いが迅鷹の機嫌を損ねているのではと言う。
「ん〜、じゃあ同化は無理か…」
 結局彼を置いて羽ばたいて行ってしまい、ガルフは肩を落とす。
「それから煙を出したいさぁ? だったらいい方法があるさね」
 だが、新海は彼に妙案を囁いて…思う事が出来そうだと彼の顔に光が射す。
「あ、師匠。これ…よかったら使って下さい」
 そのお礼とばかりに彼は紙袋を差し出した。その中には新海が忘れた時用にと用意していた仮装用の小道具が入っている。
「ありがとうさねっ」
 新海はそれを受け取って、早速中身を装着するのだった。


●忘れていた○○
「我等゛鍋蓋ヲ嬲ルハ誰ゾ…」
 ガルフ扮する鍋蓋鬼は黒尽くめの装束に片手には勿論鍋の蓋。そこからはじんわりと煙が立ち昇っている。当初はこれを同化で再現したかったのだが、あんな事になった為急遽線香の煙で代用。それでも十分凄味は出ているだろう。その隣には上半身裸の男が二人――一人は褌の上に腰蓑を巻き、手には即席で作られた模造包丁。鬼面で顔を隠しそのアンバランスさが怪しさを増す。そしてもう一人は諸肌を出した着物姿の素顔のラグナ。修羅であるが故にそのままで勝負という訳だ。
「…ぴくしっ!」
 途中風が身体を冷やしたのかくしゃみが漏れたが気にしない。
(「ふふん…うさみたんがいれば寒くないッ!」)
 襷掛けに帯を通して、背中で見守る彼女に力を貰い再び気合を入れ直す。
「……うぅ…」
 そのまた横には銀色毛皮のもふもふ物体。青色のマントを羽織ったそれは羊だろうか。周りに人はいないものの、何処か恥ずかしげな様子で一歩遅れて付いてゆく。
「これってよかったさぁ?」
 そんな中、唯一微妙な仮装になっていたのは新海だった。
 ガルフの紙袋に入っていたのは狸の付け耳と付け尻尾――それを装着した彼はさながらぶんぶく茶釜の鍋蓋版といった具合になっており、脅かすには役不足…そんな空気が感じられる。が、始めた以上はこのまま行くしかない。
「我等゛鍋蓋ヲ嬲ルハ鵜ヌ゛ラ゛ガ…!!」
 やぎと対峙して、まず牽制したのはガルフだった。人とは思えないような動きと声で脅しに掛る。

「わわ、変なの来たやぎ…」
「おまえらまさか幽霊ってやぎ?」

 だが、彼らは身を引いてはいるもののまだ様子見と言った構えで、悲鳴を上げるには至らない。肩を寄せ合うのみで逃げたそうとはしない。そこで今度は紫狼が畳み掛けに入る。

「く、くくくくくく……」

 鬼面の下から聞こえる低い声…。
 そして、どこかスタイリッシュにばたりと倒れたかと思うと突然這い蹲っての高速移動。

(「妙に馴染む、馴染むぜ。このお面…最高にハイって奴だァ―――!」)

 内心何かに本当に憑かれたのではないかと思われるテンションで彼は一直線にヤギの元へと向かう。

「いたずらする悪い子はいね――か――――瓜ィィィッ!!」
「ぎゃーーー!! 来たやぎっ!!」
「迎撃するやぎーーー!!」

 それにはヤギも動揺した。慌てて間欠泉にストック日用品をセットし、噴射を待つ。ヤギとてここ数日で知恵をつけている。どのタイミングでどの穴が噴き出すか把握しているようだ。

   どーーん

 絶妙なタイミングで吹き上がり飛んできたのは鍋の蓋。普通に飛ばさず穴からずらして置いた事により発射物を彼の方に飛ばせるよう工夫している。だが、紫狼はそれを避けなかった。
「ふんっ!」
 さっと立ち上がると同時に手にしていた模造包丁で叩き落す。
「どうだって、あちぃーー!!」
 けれど、鍋蓋に散っていた熱水までは切り落とせない。僅かながら身体に散って慌てて蛸踊りを始める。
「大丈夫か!?」
 そこで慌ててガルフが水遁を発動した。彼に掛るように水柱を発生させる。
「今度は冷めてー!!」
「えっあ…御免!」
 季節は秋…まだ夕方には満たないが、水の冷たさに鳥肌が立つ。
「もう容赦しねぇ…」
 紫狼はそういうと本気でやぎ達に突っ込んだ。そこからはもうてんやわんやの大騒動。

「ふはははは! こんなもの効かぬぞ、やぎさんたちッ!!」
「おらおら、どーしたどーした!! ヤゲ共〜〜!!」
「鍋蓋ノ怨ミ゛、ソ゛ノ身デ、受ケヨ゛ォォォ〜〜〜!」

 接近する開拓者に応戦するヤギ。時に蜂の子を散らすような状態となり、ヤギ達はバラバラに逃げ惑う。

「駄目ヤギ! 発射が追いつかないやぎーー!!」
「どうするやぎ! これじゃあ悪戯できなくなっちゃうやぎー!!」

 そうなると大混乱だ。

「皆聞くやぎ! あればジャックじゃないやぎ! おいら達は精霊…あんな生物に負けてら…」

 そういい掛けたリーダーやぎだったが、

「食べてしまうぞ、この悪いやぎさんめ〜〜!」

 と接近したラグナに悪寒を覚えて…彼は咄嗟に後退した。本能が今、彼に近付いてはならないと訴えかけたのだ。それというのも今ラグナの頭の中にはヤギへの熱い想いで埋め尽くされている。
(「あはぁ…黒いのも白いのもかぁいすぎる…」)
「抱きしめたい、なでなでしたい、ぎゅうってしたいッ!!」
 途中から願望を垂れ流し状態で追いかける彼。彼の中では海岸を駆ける恋人達のイメージが当てはまっている事だろう。
「えっと…私は、どうしま、しょう…」
 そんな光景を前にもこもこ毛玉のルースは困惑中。そこへ、
「おまえ、ヤギやぎねー! だったらおいら達を助けるやぎー!!」
 とやぎが彼女の手を引き、勘違いされている様だが拒めない。
「あっ、あわわ…」
 そんな彼女に助けの舟が入った。それは鍋蓋狸の新海の手だ。
「この子は羊さね。あんたらやぎとは違うさぁ」
 そう言って空いていた方の手を取る。そこへ声がした。
 慌てて振り向く一同の前に姿を現したのは一人の少年である。
「そっちは駄目だよ〜!!」
 後方でそういう声が上がっているが、少年は何かを追いかけて聴こえていない。
「あれは…」
 少年が追っているもの――それは紙に包まれた小さな飴玉だった。
 何かの拍子に蹴ってしまったのか僅かに宙を舞っている。

   ぎゅるるるるぅ〜

『ああ?』
 それを前にやぎ達から上がるお腹の悲鳴。
「もし…かして、お腹、すい、てるの?」
 手を引くやぎに向かってルースが尋ねれば、可愛らしい上目遣いでこくりと頷く。
「のぉぉ、かわゆすぅ〜〜〜!! そんなだったら私がいくらだって食わせてやるぞ!」
 そこで逸早く反応したラグナが菓子をばら撒けば、やぎ達は一心不乱にそれを拾い始める。どうやらここにいたやぎ達は腹ペコだったらしい。悪戯に夢中で忘れていたようだが、さっきの飴が空腹を呼び戻したと見える。
「菓子はやる。ただーーし、もうこんな危ない事すんじゃねぇZE☆」
 そこで一同はネタ晴らしとお説教。やぎ達は菓子を頬張りつつ、こくこく頷いてみせる。
「って事はこれで万事解決だな。だったらこれから本当のハロウィンの始まりだ――!!」
 そうしてガルフの宣言の下、子供達と共にやぎも更なるお菓子を求めて仮装行列に参加する。ルースの奏でる曲に合わせて歩を進め、行く先々であの言葉を口にする。

「トリックオアトリート♪」

 その言葉は魔法の呪文のようだった。
 さっきまで飛ばしていた鍋一杯にお菓子が集まり、やぎ達はご満悦だ。
「いいか? 来年はこうやってやるんだぞ?」
 ガルフは諭すようにそう言ってやぎ達を撫でる。

「わかったや…ギッ!」

 元気よく返事をしかけたやぎだったが、そこで言葉尻が一変した。
 表情もみるみる変わるのを見てやぎの見つめる方向に視線を送れば、そこには子供が下げた淡い光を放つ南瓜のランタンがある。

「あ、あれは…」
「ジャックやぎ…」
「ほ、本物やぎーーー!!」

 そのランタンを見取って慌てふためくやぎ達に一同は訳が判らない。黒やぎなどは南瓜を被っていた筈だ。だが、どうにもそれが怖いようで彼らは一目散に逃げ出していく。

「あぁ、待て待てやぎさんズ!! これは偽者だ! それに私はまだ告ってないぞ!!」

 突然のこの事態に、もう一度うちの子になってくれ発言しようと思っていたラグナは焦る。だが、

   どーーーーん

 彼は間に合わなかった。間欠泉に辿り着いた彼らはいつの間に持ってきたのか新海特製の鍋蓋鎧の片面を穴にセットし、その噴き上げを利用しお空へと飛んで行く。

「皆ありがとやぎーー! 楽しかったやぎーー!」

 そうしてやぎ達が星空をバックに手を振る。
「ま、またしても…」
 がっかりするラグナに皆は苦笑。翌日日用品は店に返され、またいつもの毎日が始まるのだった。