|
■オープニング本文 「あれ、何ぃ?」 秋の味覚・栗を求めて…山を訪れた少女・みっちゃんが首を傾げる。 ここは都から程近い山の麓で、この時期になると栗の木には多くの実がなることから地元では栗拾いが恒例となっているのだ。それを聞いて、籠を背負ってやってきた彼女の前に見えたのは白と黒のもふもふした毛玉達である。 「あれは…やぎ、か?」 それを見取って隣にいた巽が言葉した。だが、少し彼らの知っているものとは違う。 四足歩行ではなく、デフォルメされたファンシーな姿のやぎなのだ。いや、正確にはやぎではないのかもしれない。くりくりとした円らな瞳に、黒やぎの方は南瓜のお面のようなものを頭に被っている。 「この栗の木はやぎ達のものやぎー」 「誰にも渡さないやぎー」 そして、彼らは栗の木に陣取り、やってきた子供達を威嚇している。 「やぎさんも栗食べるのぉ?」 しかし、その見た目が愛らしくて…みっちゃんが動いた。 「危ないぞ!」 巽がそういうのも聞かずにゆっくりとした足取りでそろりそろりと近付くと、手前の白やぎをじっと見つめ尋ねる。 「もふもふ…」 そしてもう一人、太郎も――やぎのふかふかした毛並みに吸い寄せられるようにして、一匹に近付きぎゅっと抱きしめる。 「おっおい!」 そんな二人に巽は困惑した。 (「あれ、やぎじゃないのに…どうしよう…」) 確かに近付いてみたい気もするが、しかし喋るやぎなど聞いた事がない。交互に二人を見つめる。 『近寄るなやぎー!!』 だが、そこでやぎ達が牙をむいた。二人は突き飛ばされて、軽く尻餅をつく。 「ここはやぎ達のてりとりーやぎ! それ以上近付いたら栗投げてやるやぎー!」 でんっと胸を張って、一匹が三人を牽制する。 「そんなぁ、栗ご飯たべたいおぅ」 「そこの栗は皆のものだってきいてるぞー」 「独り占め、ずるい…」 三人もそう言って応戦するが、相手はざっと数えただけでも三十はおり、勝ち目はない。 「何でそんな事するのぉ」 涙目になりながらもみっちゃんが尋ねる。 「そんなの決まってるやぎ! はろぉなんちゃらは悪戯すると良いって聞いたやぎ」 「そしたらいっぱいお菓子がもらえるやぎー♪」 もふもふしながら口々にやぎ達がそんな事を言っている。 「はろなんちゃらって?」 「はろうぃんだと思う…あの南瓜、ボク知ってる」 「とりあえず帰れやぎ! ここは何人たりとも通さんやぎー!!」 そこまで話して、ついにはやぎ達の攻撃が開始された。 毬栗を手にぽいぽいと投げつけられて慌てて下山する子供達。 「うえぇ…やぎさん、こわいおぅ」 そして長屋についた頃にはみっちゃんの表情は大きく曇っている。 「あのやぎ、どうにかできないかな?」 そこで立ち上がったのは巽だった。太郎も思い出したように図鑑を広げて、何かを調べている。 「たっつー、これ」 暫くして太郎が見つけたのは、さっきやぎ達が言っていたはろなんちゃらの詳細だ。 「南瓜のお化け、出てくる。悪いやつ追い払う」 「つまりこれと似たものを作って脅かせば」 「追い払えるかも」 太郎と巽が顔を見合わせ決意する。 「やぎさん、いなくなるのぉ? 少しかわいそう…けど、栗食べれるぅ?」 そこにみっちゃんも加わって、いつもの仲良し三人組の復活だ。 「南瓜被ってるやついた。あれはどうする?」 「それは…」 「黒いのさん、食いしん坊さんみたいだったお?」 黒やぎの言葉を思い出してみっちゃんが言う。 「それだ! よし、何としてもあの栗の木を取り戻そうぜ」 『おー!!』 かくて、仲良し三人組の栗の木奪還大作戦が始まるのだった。 一方、その頃やぎ達は―― 「お腹すいたやぎー」 「このいがいが、食べれないやぎ?」 「草がなくなったら試してみるやぎ」 「お菓子くれるのはうそだったやぎ?」 栗の木下で各々自由に言葉していたりして…意外とまとまりのない彼らだった。 |
■参加者一覧
村雨 紫狼(ia9073)
27歳・男・サ
蓮 蒼馬(ib5707)
30歳・男・泰
ラグナ・グラウシード(ib8459)
19歳・男・騎
雁久良 霧依(ib9706)
23歳・女・魔 |
■リプレイ本文 ●お子様ズの考え ギルドの仕事を請け負って―― 外に出た一行の目に留まったのは道を走る子供達の姿だった。日常よくある光景と片付けてしまう事は出来たのだが、その一人の声が耳に入りはっとする。 「これでやぎさんに勝てるのぉ?」 髪を二つに結んで背中にはもふらのぬいぐるみを背負う少女。 その前には壊れかけの大きな籠と細い竹を手にした少年らがいたような気がする。 「ああん♪ 小っちゃくて可愛い子達ねぇ♪」 それを見取りお子様好きの雁久良霧依(ib9706)が言葉した。小走りに駆け出し彼女達を目で追う。 「ふむ、ロリは正義! しかーし、さっきのお子ちゃまは多分……」 とこれは村雨紫狼(ia9073)だ。『YESロリータNOタッチ』をモットーとして幅広く愛する変態紳士がさっきの少女を分析する。 「おい、あの子供達ヤギがどうとか言っていなかったか?」 そんな中、見かけではなく言動に注目したのは龍騎士ラグナ・グラウシード(ib8459)だった。先程請け負ったばかりの依頼に山羊的何かの存在があったからだ。 「まさかと思うが行ってみよう。幸い彼らは俺の知り合いだ」 そこで蓮蒼馬(ib5707)が駆け出した。彼は以前からさっきの子供達と面識がある。季節ごとの行事にも手を貸しており彼らの長屋の位置は頭に入っている。 「ほほぅ、お子ちゃま長屋か。楽しみだZE☆」 何か一人目的が違った方向に向かっている気もするが、そこはあえてスルーする。 「あら、私も可愛い子は好きよ♪」 その隣では多少違うかもしれないが、似た趣味を有した霧依がダイナマイトボディをローブの下からチラつかせつつ微笑んでいた。 「かぼちゃ、かぼちゃ、かぼちゃのおばけ〜♪」 長屋に近付くにつれて即興と思われる歌が聴こえる。 「これはさっきの女の子の声かしら?」 そう思い問題の家の裏に回れば、三人のお子様が何やら工作に勤しんでいる。 「みっちゃん、太郎、巽…久しぶり」 そこで蒼馬が彼らに声をかけると、皆が笑顔でお出迎え。 「どうしたのぉ、今日何かあった」 みっちゃんなどはそう言って、突然の来訪に首を傾げる。 「さっきの言葉が気になってね。ちょっとお話いいかしら?」 傍にいた太郎の頭を優しく撫でて霧依か質問する。 「いいけど、ちょっと待つ。これ終わらせてから」 「俺達栗の木をだっかんする為に、とっておきのものを作ってるんだ」 巽の言葉に視線を動かせばそこにあったのは籠と竹――加えて色付け中の古紙もある。 「何を作っているんだ?」 「えーとねぇ、じゃっくさんだよぉ」 「ジャックさん?」 そう言えば聞いた事がある。ハロウィンに出てくる顔付き南瓜提灯がそんな名だったか…。 (「まあそれはそれとして…やっぱり六歳だな。惜しい惜しいぜ…」) 紫狼の心の叫び――彼の眼力で推理するに彼女の年は六歳であり、彼の幼女守備範囲である九〜十三歳というベストスポットには僅かに及んでいない。そこでちらりと視線を滑らせて、彼の目が捕らえたのは霧依の姿だ。子供達に混じって作業を手伝っている彼女は露出系の服を好むようで、惜しげもなく露になっている胸元が彼のハートを刺激する。 「霧依た〜ん、俺も手伝うぜ〜〜!」 そこでここぞとばかりにお近付きになろうかと踏み出す彼だったが、 「あれまぁ、洗濯物が〜」 突如拭いた風に飛ばされた褌が彼の顔へとナイスタイミングで飛来したのはお約束。そして視界を奪われた彼の末路といえば、 「うさみたん、待ってろよ…今度こそアレを連れて…ってどわぁぁ!!」 少し外れた場所でぶつぶつ何かに話しかけていたラグナに激突。二人の頭上で星が回っている。 「全く何をしているんだか…」 そんな仲間を見つめて、蒼馬は子供達の母親に話をもちかけていた。 栗の木の事、そしてやぎ的な何かの事…判る範囲で説明し交渉に入る。 「成程、やはりあの子達も……事情はわかった。子供達の安全は俺達が保証する。だからという訳ではないが、拾ってきた栗の調理とやぎ達との食事の許可をお願いしてもいいだろうか?」 依頼書の備考には栗の持ち帰り可となっている。話によれば子供達の最初の目的はそっちだったらしい。ならば、相手は精霊だというし仲良くが一番だと思う。 「みかけもぬいぐるみのようだと言うし、何分よろしく頼む」 蒼馬はそう言って子供達の許に戻るのだった。 お子様ズと開拓者の狙いはほぼ同一。そこで彼らは共同戦線を張る事を提案する。 栗の毬に痛い目をみていた三人はそれを素直に受け入れたのだが、一点譲らなかった部分もあって、 「じゃっくさんを使うの〜」 さっきまで作っていた張りぼて南瓜…仮装用かと思っていたのだがどうやら違ったらしい。彼らが必死に考えたアレへの対抗策なのだという。 「困ったわね〜、どうしたものかしら?」 言葉とお菓子だけで説得を試みようと考えていた開拓者側としては、どう使えばいいものかと思案する。 「この際子供達の言う通り脅かしてみてはどうだ? 案外効果があるかも知れんぞ?」 余りやぎ達を危険な目には合わせたくないんだがと思いつつもラグナが助言する。 「そうね、私の思いつきなのだけれどいっそ悪い子を食べちゃうお化けって言う手でもいいかもしれないわ」 少し実際のハロウィンの内容とは異なってしまうが、辻褄合わせには仕方がない。 「では、それで決まりだな」 『わーい、よかったー!!』 その言葉にお子様ズから喜びの声――。 (「やっぱりこの子達も成長しているのか…そしてあいつも」) 泣き虫だった頃の姿をふと思い出し――蒼馬の脳裏には元気な養女の姿も重なって見えた。 ●やぎーずの言い分 投擲されるであろう毬栗の防御にもなる為、張りぼて南瓜は案外役に立つ。子供達も自慢の一品とあって中に入っても楽しげだ。山に向かう道すがらあの即興鼻歌を口ずさんでいる。そして山に近付くにつれて…山の様子が鮮明となり、 「あれだな」 そこには確かにやぎの様な何かが屯していた。 一見危害など加えそうにないファンシーな外見。黒いのは南瓜の被り物を装着し、なんとも愛らしい。 「ふあっ…」 それを前に思わずラグナの顔が綻ぶ。 「おい、おまえ鼻の下伸びてるぞ」 それを紫狼に指摘されて、はっとする彼。 「あ、そういえばあの時もなんかふかふかしたものに…」 「そっそれより早く行くぞ!!」 あの時とはどの時か? だが、知られたくないのかラグナは誤魔化すように紫狼の腕を掴み、やぎ的何かの前へと走る。 「敵襲来やぎー!」 「毬の準備やぎー!!」 それを見つけて、総数約三十匹にも及ぶやぎたちが騒ぎ始めた。 「それ以上近付いたらこれを投げるやぎ」 きらりと瞳を光らせて、ポーズはそれなりに格好をつけて居る様だがいかんせ見かけが見かけだけに威圧感がない。 「あー待て待て! 俺達は別におまえらヤゲ(紫狼命名)共に危害を加えに来た訳じゃない」 紫狼は慌てて両手を挙げて、丸腰をアピールする。 「じゃあ、何しにきたやぎ?」 そこで一匹が問えば、 「あーこほん、お…おい! 独り占めはよくないのではないかな、やぎさんたち!」 と今度は若干頬を染めつつラグナが続ける。 「独り占めしないと悪戯にならないやぎー」 「お菓子貰えなくなっちゃうやぎー」 だが、やぎ達もやぎ達で自分達の言い分があるようだ。 「あー惜しいなぁそれ以上やったらこの菓子はあげられないな〜」 そこで紫狼は奥の手を出した。手にしたのはキャンディボックス…そこから一個の飴を取り出して、彼らに見せびらかす。 「そんな意地悪する子には菓子はやらんぞ!」 ラグナも都で仕入れてきたのだろう菓子箱をチラつかせ、説得にかかる。 「あれ、欲しいやぎ…」 一匹がぽそりと呟いた。それに触発されて周りのやぎ達も各々顔を見合わせる。 「ほらほらどーした? 欲しくないのか〜」 そこでここぞとばかりに追い込みをかける二人。だが、事態は彼らの予想の上をいく結果となる。 「もっとくれなやぎ?」 とりあえず一個ずつ配った二人だったが、それでは不満なのか、更なるお菓子を要求する。 「俺達はこんなちっぽけな飴玉では満足しないやぎ! 夢はでっかくやぎ!」 「そうか、わかったやぎ…もっと大きな悪戯をすればいいやぎね!」 なんとも単純なのか利口なのか判らないが、彼らはそう言って手した毬栗を一斉に投げ始める。 「わ〜ちょう待て! もう十分だろ! ならもう一個ずつ…」 「むむ、聞いてないな…」 雨のように降り注ぐ毬栗に二人は堪らず後退。どうも一筋縄ではいかないらしい。 「もう、何やってるのよ……けど、あの子達もなかなかよね」 感心する所ではないのだが、やぎ達のお菓子に対する執念は相当なものだ。 しかし、ここではっきり言わなければ埒があかない。 「貴方達、悪戯すればお菓子が貰えると思っている様だけど…それは間違いよ」 彼女はそう言ってばちんと手にした鞭を鳴らしてみせた。その音にやぎ達の手もぴたりと止まる。 「まあなんだ…勘違いしているようだが、ハロウィンはお菓子をくれないと悪戯するぞ、って交渉するんだ。先に悪戯してどうする…」 溜息混じりの蒼馬もそれに続いて、呆れ顔を見せる。 「そうやぎ?」 けれど、やぎ達も自分の認識とは違う為首を傾げるばかりだ。 「いーい。本当のハロウィンは悪戯しない子はお菓子が貰えて、悪戯するような子は…お仕置きされちゃうのよ♪」 ぱちりとウインクをして…少し違うが、相手はやぎだ。 「交渉しなかったらなにされるやぎ?」 怖がりなのか一匹が恐る恐る尋ねる。 「それはね……あ、来た」 何かにはっとして霧依が辺りを警戒する。すると彼女の後方からアレの登場である。 「とっくりとは〜とーとぅ」 「とりっくはとーちゃん、だろ」 「どっちも違う。とりっくとぁ〜とりーとん…」 張りぼて南瓜から聴こえる子供達の声――そう、彼ら自作のお化け南瓜・その名も『じゃっくくん』だ。もごもごした動きでやぎ達の前へと歩み出る。 「あぁーあ、ついに来ちゃったわね」 それを見取って、霧依があからさまに溜息を付く。 「やっやばいやぎ! あれ、ジャックやぎぃ!!」 「俺達たべられちゃうやぎーー!!」 大人が見ればそれは作りものだと言う事は一目瞭然。しかし、やぎ達は気付いていないらしい。古紙を使ったのがよかったのか色付けをしても完全には消せなかった黒文字がうっすらボディに浮かび上がり、不気味な雰囲気を有している。 「ほら、嘘じゃないでしょ? 悪戯したからおしおき大王が出てきたじゃない」 「あ、あの…呪文のような言葉は何やぎっ」 ガクブル状態でやぎ達はその張りぼてを見つめ問う。 「あれが交渉の言葉だ。『トリック・オア・トリート』…あれもお菓子を要求しているんだ。もしお菓子を差し出さなければどうなるか…」 わざとぎろりと視線を向けて、蒼馬は南瓜に菓子を差出す。 ちなみに張りぼて南瓜の口はくり貫いている為、そこから差し込めば問題ない。 「私はこれで」 霧依はそう言ってワッフルセットを提供した。 「とりっくとーぁとうちゃん!」 そして、南瓜はやぎの前でもその言葉を繰り返す。 『わわわ、どうするやぎぃ〜』 『怖いやぎ、死んじゃうやぎー!!』 たが彼らに提供できるものはなく、ずんずん近付く南瓜に後退するしかない。 「俺達がこれをやろう。だからここは退いてくれ」 そこで動いたのは初めの二人だった。 ●毬の正体 やぎの間に割って入り、飴と饅頭を差し出す二人。 「いいやぎ?」 さっきまで攻撃していたのに庇ってくれたとあってやぎ達は困惑する。 「ああ、但し条件がある。もう悪戯はしないか?」 その言葉にやぎ達は全力で頷いた。 するとそこに蒼馬が合図し種明かし。南瓜から三人が顔を出す。 『あっ…』 その姿をやぎ達は覚えている様だった。 「脅かしてごめんなのぉ。けど、栗拾いしたくて…」 やぎ達の前に出てみっちゃんが謝る。 「そういえば栗の実はどこやぎ? 栗の木って聞いたのにこの毬ばかりで黄色いのないやぎ」 だが、やぎ達は栗の実が毬の中にある事を知らなかったらしい。毬を栗と呼んでいたのにお粗末な話である。 「まさかお前ら…実はこれだぞ?」 紫狼がそう言い毬を割り、皮を剥いて見せる。 「こんな所にあったやぎかー! だいぶ損したやぎー」 それにやぎ達は目を輝かせ、慌てて投げていた栗を拾い始める。 「あぁ、その前にこの子達と……っと必要ないな」 仲直りをと言いかけた蒼馬だったが、目の前の光景にすぐに言葉を呑む。 なぜならいつの間にかやぎの手を取り、子供達も栗拾いを始めていたからだ。 「ふふっ、ホント可愛いわね♪」 それを見つめて霧依は鍋の準備に入った。 簡単ではあるが、ここで拾った栗を炊いて甘露煮にしようという考えらしい。焚き火に鍋をセットし、拾われてくる栗を待つ。 「焼き栗も食べたいや…」 「危ないっ!……っと、ふかふか〜♪」 そこで火に栗をくべようとしたやぎを見つけて、慌てて止めに入ったラグナ。 偶然とはいえやぎさんを抱きしめる形となりご満悦だ。 「な…なぁ、よかったら私の家に来ないか? 菓子なら好きなだけやるぞ?」 どさくさに紛れて、愛の告白にも似た台詞でやぎを誘う。 「ホントやぎ! でもやぎは皆のアイドルやぎー」 だが、返された言葉は気遣いのあるNO宣言。 「大丈夫、おにーさん、これ持ってる」 肩を落とす彼に何処からともなく現れた太郎が兎のぬいぐるみを差し出す。 実は彼背中にうさみたんという名のそれを背負っており、彼女?の仲間を増やそうと今回の依頼に参加したらしい。 「ちょ、おまえッいつの間にうさみたんを!」 「うさみたんって言うの? 私もほら、もふらさまいるんだよぉ」 すると今度はみっちゃんまでやってきて、背中のもふぬいを見せてくれる。 「おお、確かにこの手触りはいいな」 ラグナは開き直って、彼女のもふぬいも堪能する。 「みんな出来たわよー♪」 そこで声がかかって、意識は甘露煮へ。 その後はじゃっくくんの籠いっぱいに栗を拾い、翌日は取ってきた栗で栗パーティだ。 お菓子類が多い中、渋皮煮や栗ご飯、栗の唐揚げなんかも並び豪華な食事となる。 「豪勢やぎー! おなかいっぱい食べるやぎー」 「ハロウィンサイコーやぎー」 すっかり仲良くなったようでやぎ達も長屋に馴染んでさえ見える。 たが、彼らは精霊だ。精霊とは気まぐれなものではなかったか。 『ごちそうさまやぎー! 美味しかったやぎー!」 食事が済むと突然そう言って、また別の場所を求めるように走り出す。 「や、やぎさん…」 またしても捕獲ならずとラグナが切なそうに手を伸ばす。 「またねー、やぎさん」 子供達は見送るように元気に手を振っている。 「フフー、俺はみったんの三年後が楽しみたぜ」 その横では品定め…もとい、成長を見守る紫狼と他残りの仲間の姿があるのだった。 |