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■オープニング本文 「ご苦労」 「クッ!!」 第三の遺跡を抜けて――俺らを待っていたのは久方振りの襲撃だった。 遺跡の番人に別れを告げて、山を下り始めた時の事だ。音がしたと思った時には既に事はなされていた。 周囲に広がるのは涙と身体の自由を奪う強力な煙幕――そして、聴こえたのは複数の足音。 疲れていたんだと思う。精神的に削られた身体で…仲間がいるからと少なからず気が緩んでいたのかもしれない。一人ひとりの僅かなそれが突然の事態に動きを鈍らせる。まさにあっという間だった。敵は的確に俺を狙い、煙幕の中で近付いてくる。 (「まずいっ!」) そう思った時にはもう遅く、鳩尾に入った一発が酷く重い。 (「くそっ、やられた! けど…これだけはッ」) けれど、このままで終る訳にはいかない。沈みゆく意識の中で俺は懐の地図を取り出し、手に入れたばかりの鏡を包むとそのまま地面に水平に投げる。幸い、煙幕のおかげでその行動は敵には気付かれていない。それは仲間も同じで……これは一種の賭けだ。 (「これでいい…あいつらを信じる。それがダメでも、きっと誰かが…」) 俺は心中でそう呟くとどさりと音を立てて崩れるしかなかった。 それから目を覚すまでにどれ程時間が過ぎたか判らない。 気付いた時には光の差さない真っ暗な部屋に身包みを剥がされた状態で閉じ込められていた。 「やっと起きたか…」 そしてそこには柄の悪そうな男が一人、俺を見下ろしている。 「待っててくれたのは有り難いけど、俺はおまえに用はない」 後ろ手に縛られた腕を密かに確認しつつ、男を挑発してみる。 今の状況を推理するなら、こいつの狙いは俺の持ち物のうちのどれかだ。気絶しているうちに探したんだろうがそれが見つからず、やむなく俺が起きるのを待っていたらしい。ならば、この後の展開も大方検討が付く。 「生意気な口をきくなぁ小僧…痛い目にあいてぇのか?」 お決まりの台詞と共に刃物をチラつかせ脅しに入る。そして、吐かなければ……服装から見て地図を狙っていた男達に間違いない。とするならば俺のあの行動は正解だった事になる。 「残念。おまえの欲しいものは俺は持ってないぜ」 にやりと笑って俺が言う。 「ぁんだと?」 「おまえ、あの地図を探しているんだろうが生憎俺は持ってない。正確にはもうこの世に存在しない」 最後のは嘘であるが、これで引き下がってくれないかと様子を見る。 「どういうことだ!」 だが、そう甘くはなかった。苛立ちを隠しもせず声を荒らげ、男が一歩前へ…俺を覗き込もうとしゃがみ込む。だが、俺はこれを待っていた。 ザッ 壁にもたれていた背中が擦れるのも構わず上体をずらして、それと同時に男の腰辺りを蹴り飛ばす。すると、衝撃に耐えられず男は後退すると共に手にしていた刃物を取り落とす。だが、転倒には至らなかった。反動で飛び起きたものの、対格差のある相手に手枷というハンデをつけたままでは勝てる相手ではない。汗だけが噴出し、緊張が走る。 「そこまでだ」 けれど、この対峙は長くは続かなかった。扉を開けて長身の男が入ってきたからだ。 「流石は鈴鹿の一流罠師…お見事と言っておこうか。その身のこなしも訓練の賜物か?」 見た目は温厚そうな男ではあるが、話す言葉の節々に隠れた敵意が感じられる。 「おまえは?」 俺は出来るだけの冷静を装って男に尋ねる。 「こら、その口の聞き方は」 「まあいい、お前は下がれ。名などどうでもいい…私はおまえの追うものに興味があってな。地図は一体何処に隠した?」 視線だけで牽制するように男が言う。さっきの男とはまるで違い、この男には隙がなかった。けれど、ここで怖気付く訳にはいかない。 「うっかり燃やしてしまったんだよ…第三の遺跡が余りにも難し過ぎて」 「うそだな、お前達はクリアしたのだろう? 私の式が確認済みだ」 ふっと護符を取り出して、男が作り出したのは一匹の鳶――そう言えばどこかで見覚えがある。 「俺の持ち物調べたんだろう? だったら見ての通りだ…本当に俺は持ってない」 「ほう、ではここにあるのか? ある筈だろう…その位の記憶は造作もないと聞くが?」 ばさりと式が俺の肩に止まり、そしてその視線は俺の頭に向けられている。 「ちっ、だが簡単に言うとでも?」 確かに記憶力は訓練時に強化されている。仕掛けた罠の位置が判らなくなっては元も子もないし、遺跡に挑むにしてもそういうのは脱出・迷子の際には重要な意味を成すからだ。 「きっと言いたくなるさ…この香は特別性だ」 男はそういうと部屋の隅に香を焚き、式を置いたまま出て行く。 確かに耐性にも限界はあった。そして数日が経った後、とうとう俺は無意識に喋らされてしまったらしい。 けれど、遺跡につきはしても奴らは中に入れない。機転を利かせて包んだ亀の形をした手鏡――あれがないと中には入れないようだ。実は第三の遺跡をクリアした際に示された地図には行き先のみならず謎めいた文章が浮かび上がっていた。それから推理して、俺はあえてアレを手放したのだ。 (「ポーチの中のアレが怪しまれていなければいいけどなあ」) 第二の遺跡での戦利品…それは透明な鳳凰の尾羽だ。ちなみに第一の遺跡はといえば虎の形をした大振りのオブジェのような判子だった。瞳部分には宝珠が使われていたが、ギルドに提出すると回収されてしまいここにはない。 (「あの壁画からしてアレはいらないと思うけども…」) 奴らが何かに気付くのが先か、仲間が拾って来てくれるのが先か…。こればかりは俺にも判らない。 捕らわれたままでは動けないが、あれから監視の目は更に厳しくなり、脱出も困難のようだ。 (「どの位経ったか?」) 俺は最後の遺跡の近くの木に吊るされたまま、ぼんやりと月を見つめ心中でそう呟いた。 ――― ●補足事項 【遺跡近くの状況】 遺跡から少し離れた場所に複数のテントが張られ、 中央に位置する背の高い木にキサイは吊るされている模様 始終、周辺を見張りないし式の鳶が飛んでいる 正確な敵の人数は不明 【遺跡四方の壁画】 白の壁 箱のような車輪のついた乗り物に乗った人が線路を駆け巡っているが 枝分かれしているコースに出口はない 但し、分岐点には必ず棒のようなものが線路の横に描かれている 赤の壁 パズルのように区切られた床に何やら絵が描かれている その前に立ち並ぶ人 下には波打つマグマのようなものが描かれている 黒の壁 水の入った壷だらけの部屋 壷はそれぞれ台座に乗せられている 松明を手に辺りを見回す人 部屋の隅からは煙のようなものが流れ込んでいる 青の壁 玉を携えた龍と対峙する人 稲妻や礫のようなものが降り注いでいる その奥には祭壇があり、少し窪みがあるようにも見える描かれ方をしている |
■参加者一覧
村雨 紫狼(ia9073)
27歳・男・サ
シーラ・シャトールノー(ib5285)
17歳・女・騎
蓮 蒼馬(ib5707)
30歳・男・泰
笹倉 靖(ib6125)
23歳・男・巫 |
■リプレイ本文 ●手掛かり 仲間はきっとアレを見つけてくれる。 そう信じて、キサイは壁画の絵を思い浮かべる。 それはここへ連れられて来た時の事だ。全ての壁を見れた訳じゃない。横を通過しただけでしかも一瞬だった。しかし、彼には訓練による記憶術がある。例えそれが一瞬だとしても速読と同じで目で捉えたものをある程度までなら脳裏焼き付けておく事が出来るのだ。 (「あの扉の上部の穴…あれにきっと光を翳せば…」) 恐らく扉は開く――黒の壁に描かれている事からあれを使えばいいのだと推測できる。だが、奴らはそれを知らない。それぞれの遺跡に戦利品があった事自体知る由もない。それはそうだ。実際に入って試練をクリアしなくては拝めないのだから…。第二の遺跡の鳳凰にしたって透明であった為、傍からはあれの存在自体に気付いているものは少ないだろう。 今日も収穫なしとばかりに戻ってきた黒装束達を見下ろして、キサイはほっとする。だが、今日はそれだけでは終らなかった。何日振りかにあの男が姿を現したのだ。肩にはあの鳶の式を乗せて…何を考えているのか判らない顔でこちらを見上げる。 「何の用だよ?」 キサイは警戒心を隠しつつ、至って平常通りに彼に尋ねる。 「フフッ、連れないなぁ…ここは稀代の罠師のお知恵をお借りしたいと思ってね。あの遺跡はどうやって入ればいい?」 探る様な眼差しで隣に控えていた男は俺のポーチから徐にあの透明の尾羽を取り出す。 「そしてこれは何だね? こんな壊れ物…何の役に立つ?」 少し動かす度に光が僅かに反射する。 (「こいつに冗談は通じない。あの目が射抜くのは人の嘘だ…」) 直感的にそれを悟って、キサイはゆっくりと口を開く。 「それは第二の遺跡の戦利品だ。ちなみに他の遺跡にもそれぞれあった…だけど、第一の遺跡の大事なものはギルドに引き取られてしまってお手上げだぜ。アレがないとあの遺跡には入れない」 キサイも困っているといった素振りで言い、男を見返す。彼の言葉は嘘ではなかった。巧みに大事な部分にベールを被せて言葉足らずに説明しただけだ。 「ほう、ならば一つはギルドにあるとしてもう一つは何処にある? それに揃ったところで如何すればいいか判らないのでは話にならないが」 「もう一つは地図と一緒にある。もし、おまえがあの宝珠を取り返せたら教えてやってもいい」 彼はにやりと笑って見せるが男は黙ったままだった。彼の真意を暴こうと眼力を強める。だが、その答えは出なかった。嘘でないという事しか見抜けない。 「いいだろう、その約束忘れるなよ」 その言葉にキサイは心中でガッツポーズ。 「あぁ、おまえに出来たらな」 渋い顔のまま立ち去る男にふぅと息をつく。 (「これで時間が稼げる」) 夜が更け気温が下がり始めた頃の事であった。 一方その頃、煙幕にやられてキサイと離れてしまった面子は彼のすぐ傍まで迫っていた。 「キサイの奴、やはり捕まっていたのか」 あの後姿を消した彼を不審に思い辺りを捜索した一人・蓮蒼馬(ib5707)が遠目に彼を姿を見取り言う。 「地図とこれを置いてった位だから怪しいとは思ったが、油断しちまったなー」 その横では同じく同行していた笹倉靖(ib6125)が地図と手鏡を懐にしまって、ぷかりと煙管を吹かす。 「あの連中はその地図を追っていた奴らよね?」 シーラ・シャトールノー(ib5285)は彼を捕縛している連中を見取り確認した。 それにこくりと頷く蒼馬がいる。彼と彼女はこの一件にずっと関わってきている為、敵の人相にも詳しい。靖も一度を除いては旅を共にしている為、心当たりはなくもない。 「へぇ、しつこい奴らだな。俺はお宝だの大いなる遺産なんかにゃ興味ナッシングだが、人の命を軽く扱う悪党は許せねー!! だいたい、謎を解かせて最後に横取りってのがセコ杉だっつーの」 ふんっと鼻息荒くして今回助っ人として加わった村雨紫狼(ia9073)が自論を展開する。 謎解きに関してはてんで駄目だとわかっていても、そこに困っている人がいたならば力を貸さずにはいられない性分らしい。 「そういう訳で謎解きは苦手でもちゃんと手伝うぜ〜」 「ええ、有難う。キサイさんを何としても救出しなくっちゃね」 主にシーラに向かって断言する辺り、彼らしい下心が露になっているような気がするが、それでも気持ちは一つ。 まずはキサイの救出を――道中に地図に新に現れていた不可思議な文章について思考を巡らせてはいたのだが、これといって明確な答えが出せた訳ではない。そうあっては彼なしで挑むのは危険過ぎる。 「私、少し様子を見てくるわね」 彼女がそう言いキサイの吊るされた方へと向かう。 「ならば俺達は遺跡の壁画について調べよう」 奴らがいない間に……地図に浮かび上がった文字には遺跡の壁画に関する記載がある。 『三つの獣は揃ったが、未だに最後の獣は現れぬ。 今一度思い出せ、出会いは必然…意味のないものなど何もない。 壁画も然り…最後の舞台を知りたくば注意を払い心に留めよ』 それが三つ目の遺跡をクリア後に出てきた文章――。 「話に聞くとやっぱ龍虎鳳武の四聖獣の事、だよなあ〜」 「色からしても間違いないだろうな」 紫狼の言葉に続いて、壁の色からも連想される事に気付いた蒼馬が頷く。 「で、この絵が中の仕掛けと関係するようになっているとかかね?」 白の壁にはトロッコのような乗り物に棒、赤にはパズル床にマグマ。そして、黒には壷と台座と松明の光が描かれ、青には龍と降りそそぐ礫や稲妻が描かれている。絵について二人が思考を巡らせる中、靖だけは別の場所にも注意を向けていた。 それは、遺跡自体の造りだ。 「壁の広さは凡そ縦二m半、横四mか…絵の事が中で起こるとしても狭過ぎる。ってことは上に高くない以上地下に続いてるって訳か。ん?」 松明に気付かれないよう注意して、黒の壁の上部を照らせばそこには穴が開いている。 それによく考えるとこの遺跡には扉がない。壁画同士が四方に向いて一見すると巨大な柱にも見える。遺跡だと知ってここに来なければ古代人が残した壁画として認識される事だろう。それほどまでに開く為の取っ手のようなものが存在しないのだ。 「どうかしたのか?」 視線を一点に止めている事に気付いて二人が問う。 「これ…この穴の先覗いてみ」 靖に言われるままにそこを覗けばその奥には鏡があるのか自分が映し出されている。 「これは…」 「キサイが残していったこれ。もしかするとこれで光を当てればここが開くとかかもよ?」 風も僅かにそこから流れてくる事を考えるとここがどこかに繋がっているのは間違いない。 そして、奴らがここに来ているのに入れないでいると推測すると開ける為の何かが足りていないのだと考える。彼らになくてこちらにあるもの――それは遺跡での戦利品だ。試しに松明の炎をあの手鏡で反射し壁に映してみる。すると、 「何のマークだ?」 写し出された光の中には家紋にも似た紋章が見える。 「よくある仕掛けだよね」 そういう靖だが、その発見が後にも役立つ事となる。 「みんな今がチャンスみたい。作戦を説明するわ」 そこへ偵察を終えて戻ってきたシーラが合流し、キサイ奪還の策が組まれるのだった。 ●正攻法 シーラが出した作戦――それは至って単純なものだった。 彼女の調べによれば、どうやら敵はばたついているらしい。なんでも一部は都に戻る用事ができたとかで早々と発ったらしく、キサイに対する監視も多少緩んでいる様だ。しかし、それでも彼が捕らわれているのは野営地のど真ん中の木であり、救出はそう簡単な事ではないが、時間もないとあっては強攻策に出るしかない。 「工具も持ってないようだしな、取り返しとかんとね」 彼がいつも腰に巻いている皮のポーチ。そこに罠師ならではの道具が納められているのを何度か見ている靖が呟くように言う。 「それなら多分何処かのテントの中ね。しかし、見つけられるかしら?」 シノビがいれば吊るされた彼と直接連絡が取れるかもしれないのだが、今言っても仕方がない。 「とりあえずキサイを助けたら聞いてみよう。追って連絡する」 「わかったわ。では紫狼さん、サポートお願いね」 「任せて、シーラちゃん!」 割り振りは決まった。後は見張りの手薄になる時間…つまり夜明け前を待つのみ。 そして、太陽が上がるかどうかの瀬戸際に差し掛かった時事は始まった。 ざわりと森の木がざわめくと同時に二人の足音が地を駆ける。 そして徐に周囲を警戒していた一人を薙ぎ倒す。 「来たな…」 キサイはその姿を逸早く見つけてにやりと笑う。勿論それが見覚えのある鎧だったからだ。 ワンテンポ遅れてもう一つ、接近する足音が二つ。これも彼の知る人物だ。 「侵入者はここだぜー!!」 大袈裟にそう言って紫狼が注意を引き付けた。シーラも騎士らしく盾と剣を構えて、鎧の重さを感じさせない動きで相手を翻弄する。どうやら敵はまだもう一つの部隊があるのに気が付いていないらしい。テントから飛び出してくる者達は一様にシーラの方へと向かう。 「さて、じゃあ行きますか」 そこで靖は白霊弾の準備に入った。射程距離に入るまでに意識を集中させ、一発で仕留められる様考慮する。だが、彼らは知らない。遥か上空にも監視の目がある事を――。 (「まずいぜ」) 声に出してはばれてしまう。そこで自分の下に向かう二人にキサイが視線で合図する。 (「何かを訴えかけている?」) それに蒼馬が気付いた。靖のサポートに回りつつも上へと視線を向ければ、滑空する鳶が一匹。 「邪魔だ!!」 そこで蒼馬は踏み留まって飛び来るそれに向けて連々打。今日の得物は三節棍である為多少距離があってどうにかなる。器用に振り回せば鳶は弾ける様に消えて…それが式であったことを知る。 「駄目だ、後ろーーー!!」 そこでキサイが叫んだ。靖の白霊弾が完成したと同時の事だ。 地面を這いずって現れたのは巨大な蛇――それが今にも靖に噛み付こうと頭を突き出す。 「どわっ!!」 そこで咄嗟に靖は白霊弾を向けて…難を逃れた。だが、これではまた一からだ。 「キサイ、恨むなよ!」 そこで靖が蛇の相手をしている隙に接近し、蒼馬は爆砕拳を打ち込む。すると木諸共薙ぎ倒されキサイは身体を打ち付ける。辛うじて受身は取った彼であるが、それでも痛みがない訳ではない。 「ッ〜…やってくれるぜ」 「悪いな、時間がない。あのポーチのありかはわかるか?」 転がったままの彼に蒼馬が問う。 「勿論だぜ、今シーラのいる場所のすぐ隣だ」 「わかった。じゃあ突っ切る…靖、いけるか?」 「あいよ、本当は捕縛しておきたいところだけど仕方ないかね」 敵の数はそれ程ではないにしろ、志体持ちがいるのは確かだ。 面倒だが、ここはづらかった方が懸命である。 「シーラ、その隣のテントだそうだ」 「わかったわ」 蒼馬の言葉に応じて、シーラと紫狼が指示されたテントへ向かう。 「うらぁぁぁぁ!!」 阻止に憚る敵だったが、二人の連携は厚かった。特に紫狼の二刀流は相手を寄せ付けず一太刀がなかなか入れられない。 「シーラちゃんに指一本触れさせねぇ…」 気迫溢れるその言葉に思わず後退する。そして、彼らは成功した。 「遺跡だー! 遺跡の方に逃げたぞー!!」 そう言って追ってくる敵であったが、遺跡についた頃にはすでに彼らは遺跡内部へとコマを進めて、残念ながら彼らに見つけることは不可能となる。 「あの小僧にしてやられたか」 慌てて戻ってきたあの男が状況を聞いて呟く。しかし、彼はまだ諦めていないようだ。 「完全にあの壁画を包囲しろ。出て来た時に仕留める」 「頭〜、もし別の出口を使われたら」 「そんなの知るか! まずは出来る事をやれ!!」 「は、はい〜〜」 脅える部下に一喝して、男の眉間には深々と皺が刻まれていた。 「マジ助かった…さんきゅーだぜ」 靖が見つけた穴への光反射で扉は見事開いて―― なだれ込むように入った一行はひとまず息を落ち着かせる。 「キサイさん、お腹すいてないかしら?」 そう言って持参していた大福やらクッキーを差出したのはシーラだ。こういうところでも気遣い出来るのは、さすが女性料理人といった所である。 「しかし、よく開き方がわかったな。やっと慣れてきたか?」 感心するように言う彼にまあなと答える靖。けれど正直なところこの先は全て推測に過ぎず、余り自信がない。 「キサイ…あの壁画は見たか?」 地図を手にしていたのは彼であるからきっとあれがヒントであることも勘付いていた筈と蒼馬が尋ねる。 「ああ、三つだけだけども…大方検討はついてるぞ」 「本当! それは頼もしいわ」 「だったら早く行こうぜ! 追っ手が万が一開いちまうかも」 一時の休憩を終えて、彼らは再び遺跡の地下へと潜っていく事になるのだった。 ●ヒントが示すもの 「やっぱり壁画が現す絵と中の造りは同じか」 階段を下りて目の前にあったのは人が乗れるほどの車輪付きの木箱のような乗り物だった。但し、壁画のように道全体が見えている訳ではなく、線路だけが奥の部屋へと続いている。そして、手前には木の棒があり、それを引けばこの乗り物が動くという仕組みになっているらしい。 「白と言う事は虎の遺跡…つまりはあの時の事を思い出せばいいんだろうか?」 第一の遺跡と言えば上下する杭があったことを思い出しつつ蒼馬が言う。 「順番かもしれないわよ?」 とこれはシーラだ。 「とりあえず皆乗ってみねぇ? ここで考えてても仕方ねえだろ?」 そう言って飛び乗り、紫狼は皆を促す。 「キサイ…あんたの見解を聞きたい……あの地図に浮かび上がった文章の意味ってのは何だったんだの?」 ようやく皆が乗り終えた頃、靖が尋ねる。 「俺の見立てが正しければ、あれはきっと戦利品の事だろうな。三獣は揃った…って事は手に入れたとも取れるし…遺跡内部に関しても参考にはした方がいいと思うけども、それ程重視する事はないだろうぜ」 「けどそうするとここは如何なる? あの時の虎はもう手元にないんだが?」 「まぁ、いいから。紫狼とか言ったな。スイッチ押してくれねぇ」 言われるままに棒を操作すると、遮断していた板が抜けてトロッコは徐々に加速を始め……いざ地下の線路の旅へ出発だ。 「いいか。辺りの観察宜しく頼むぜ」 発車と同時にキサイの声が木霊した。中は部屋というよりはむき出しの岩壁の通路のようだ。スピードを維持したまま、縦横無尽に走り抜けていく。彼らは両サイドに分かれて、まずは言われた通りに辺りに注意を向ける。 「ちっ、矢が来るぞ!!」 正面に陣取って逸早く罠を警戒し、キサイが皆に知らせる。彼がいるおかげで物理的トラップに関しては発見が早く、辺りの観察に集中する事ができた。矢の他にも蝙蝠が大量に生息している場所やら、天井が極端に下がっている場所があったがそれもうまくスルーする。 「ん、アレ何かしら?」 そんな中で目凝らしてほんの一瞬ではあるが、シーラの視界があるものを捕らえた。 分岐点となる筈の棒に小さな文字――どうやら何か掘り込みがされているらしい。 「皆、棒の柄に何かあるから注意して!」 シーラの言葉に焦点を棒に絞る。すると他のものにもそれは記されているようだ。 「あ、あれは…数字か!」 そう、棒の柄に彫られていたのは漢数字だった。それぞれに一つずつ掘り込まれている。 「成程、数字の順にスイッチを切り替えればいいって訳か」 何度目かのスタート地点を通過して、彼らは確認してをとると慎重に切り替えを開始する。 「これで最後ね」 そしてそれは見事成功した。 最後の一本の切り替えると同時に今まではなかった道が壁の奥に現れ、そちらへとトロッコ事移動することとなる。 「どうして辺りを観察すればいいと?」 第二の部屋についた蒼馬がキサイに尋ねる。 「なーに、簡単だ。あの虎で特徴的だった部分は?」 「判子…いや、目か」 「そう目だ。つまり視覚を研ぎ澄ませって事じゃないかと思って」 あの宝珠にそういう意味があったのかと思いつつ、確かにと今ので納得する。 「なら、ここはつまり尾羽と言う事かね?」 辿り着いた部屋を眺めつつ今度は靖が尋ねる。 「ああ、多分」 赤い部屋の床の絵を見取って、キサイはそう言葉した。 赤の部屋の床にはパズルのようなひびが入り、その一枚一枚に何やら絵柄が記されている。 「え〜と、これはかにか? それにこれは肉、星、兎…どういう意味だ? さっぱり判らねえ」 紫狼はここでも脳内沸騰中のようで絵を見取って首を傾げる。 「組み合わせていくパズルでないとするとこの床を進んでいくしかないのか?」 鳳凰の絵を組み合わせるのかと予想していた蒼馬だが、ここもはずれたようだ。 「そうみたいよ…けど、関連性は何かしら?」 「失敗したらどぼんっぽいし気をつけないとね」 試しに下のマグマの様子を知ろうと小石を投げれば、床に接した瞬間ばらばらと床が崩れ落ちていく。 「そういやさっきの考え方でいくと尾羽が関係するんだろ? 勿体ぶらずに教えろよ、キショイ」 「あ?」 さらりと名前を間違われて、思わず変な声が上がる。 「俺は眼鏡っ子ちゃん一択だったからなー、まぁ気にすんな」 「いや、気にするってそれは」 緊張する一行にさらりと風が吹いた気がした。こんな時だからこそふっと力が抜ける緩和剤は必要だ。 「尾羽って言うと何処を連想する?」 出題者気取りでキサイが皆に問う。 「それは勿論お尻だよな」 「正解。じゃあその絵をそれにあてはめて」 「あてはめる? えーと、そうか。そういうことね」 キサイの助言でシーラは何か閃いたらしい。床を見つめる視線が前進していく。 「どういうことだ?」 「つまりね…これはきっと『しりとり』なのよ。尾羽は取ってきて入手したもの…つまり尻からとったものという訳。現にこの床はその法則で進む事が出来そうよ」 謎が解けた喜びからか彼女は笑顔で経路を指差して見せる。 「ほいじゃ早速…っとどわぁぁ!!」 そして、意気揚々と進もうとした紫狼であるが、待っていたのは思わぬ落とし穴。とんとんっと飛び石で進もうとした彼の足元が一気に崩れ始めて、これにはキサイも驚いた。 「どういうことだ…謎はこれで間違いない筈…」 引き上げる仲間を手伝いつつ、彼は思考する。 「なあ、あれでないの? 壁画の絵…確かここの壁画って人が並んで進んだなかった?」 ふとその事を思い出して靖が言う。 「それだ…繋がっていかないと駄目って事だ。すると次の床はこっちだ」 紫狼が選んだのは少し離れた先の床だったが、他にもしりとりになる絵は存在する。従ってそういう場合は床同士が繋がるように移動しなくてはならないようだ。 「かー古代人の考えってのはまどろっこしいZE☆」 そう言いつつも何処か楽しげな紫狼だ。 「これで二つ目もクリアだな」 赤の部屋を攻略し、次へ向かう彼らだった。 ●遺産の正体 「全く…たった四人に不甲斐無い」 壁画を前に男はあからさまに溜息を付く。 ただし、彼の式がいたにも関わらず止められなかったのだから、一概に部下を責める事はできない。 「で入り方はまだ判らないと?」 「…はい」 視線を彷徨わせて答える部下にイライラが募る。 「まぁいい。引き続き出てこないか監視を続けろ。こうなったらギルドの宝珠だけでも奪い取らなくては気が治まらん」 キサイの話では陰殻のギルドに提出したと聞く。まだ残っているかは怪しいにしても、研究に使われているのならそう遠くには持ち出されてはいないと彼は判断する。 「全く面倒な事だ…」 男はそういうと奥歯をかみ締め、歩みを速めた。 黒の部屋――そこは闇が支配する真っ暗な場所だった。 「こういう場所だとこないだを思い出すな」 真っ暗な一本道…あれを経験している面子にとってはいつか程の緊張はない。しかし、 「きゃっ!」 少し油断すれば近くにはぶつかるものがあり、声が上がる。 「確かここは壷だったかね…水腐ってたりとかして」 古代から溜められた水のようだが、特にその手の匂いはない。 ゴゴゴゴゴー そこで音がした。音の方から察するにどうも入り口付近が閉じられているらしい。 それに続いて、室内には煙が流れ込み始める。 「ありゃ、煙は自動だったか」 ぼんやりとする視界に白がじわじわと混じっていく。 「蒼馬、松明を」 「えっ、けどここは視界を奪う為に使えなく…」 「って点いたし」 てっきり第三の遺跡同様、視覚を奪われると思っていた彼は拍子抜け。灯りがついた事で壷の確認がやりやすくなる。 「遺跡の壁画が松明持ってたから…けど、問題はここからだ」 僅かな灯りを頼りにキサイは丁寧に部屋を調べ始めた。 「壷…それぞれ違うみたいやね。とするともしかし水の量を調整したりとか」 様子を見つめ言った彼が台座を気にして言う。そこで一つ試しに下してみればビンゴ。台座はゆっくりと浮き上がってくる。 「ある一定の量になると部屋のからくりが作動する仕掛けだと思う」 「ほう…だったらどれを動かすか、だな」 力には自信がある。率先して動こうとする蒼馬と紫狼であるが、物がわからなければやりようがない。 「どうした? もうギブか…答えは既に出てるってのに」 「え?」 キサイの言葉に蒼馬がいぶかしむ。 「これだよ」 そこでキサイが手渡したのはあの手鏡だった。 「そうか、ここは亀の部屋…入り口同様これを使うんだな」 頷く彼に蒼馬は早速松明の灯りを壷に翳して見せる。 その間にも部屋には容赦なく煙が流れ込み、彼らの視界を狭めて居る様だ。 「時間制限付とはご丁寧なもんだZE」 どさくさに紛れて不埒な事を考えなくもないが、ここは手を収めて手伝いに徹する。 「これね」 そこで彼らが発見したのはあのマークだった。壷の中に反射させると、そこにあの紋様が浮かび上がるのだ。 「よし、じゃあこれはこのままだな」 それが判ればしめたもの。後は手際よくやるしかない。煙の妨害を掻い潜りつつ壷を判定する。何個かを動かした折、カチャリと音がした。それと同時に部屋自体が大きく揺れ、一部の床が更に地下へと移動を始める。 「凄い技術だよな、これ…」 誰の呟きだったか…そんな言葉を耳に一同最後の部屋へ。 壷と共に降りてきた場所は広くて何もない部屋だった。 「ここが最後の部屋…」 壁画によれば龍がいる筈なのだが、いまだ姿は見られない。緊張する一行の前には祭壇が見えるのみだ。 「今のうちに確かめてみよう」 きっとあれも手掛かりになっている筈だと、キサイを除く皆が駆けて行く。 「あの…俺ここの絵は見てないんだけども」 彼の言葉は届かず、仕方なく後を追う。その後ろで静かに壷の水が流動を始めている。 「なあ、蒼の壁に何が…」 そう問いかけたキサイだったが背後に何かを感じて振り返り、 「うわぁぁぁ!!」 突如悲鳴が上がる。なぜなら、水が姿を宿して彼を引き摺り込んだのだ。 「ちょ、あれ…どこから出てきたの!」 彼の悲鳴に顔を上げて、シーラが動揺する。 「兎に角壁画の通りだとすると、雷もくるんじ…」 バキバキバキィ 言いかけた矢先に龍が瞳を光らせて、雷を発生させる。 その水龍の大きさは彼らのいつも見る龍のサイズをゆうに超えていた。泰国の伝説に出てきそうな胴の長いそれが彼らを見下ろしている。そして、その龍の手には巨大な宝珠――。 「今、助ける!」 龍の中にとじめれられてもがくキサイに蒼馬が走る。そして、胴の部分に連々打。 三節の一本をキサイが掴んで、そのまま外へと脱出する。 「し、死ぬかと思った…」 思わず彼が言う。 「青には龍が描かれていただろ」 「俺はそれ見てないんだよ! で、ここはあれと何が描かれていた」 迫りくる龍から避けながら彼が問う。 「見たまんまよ。あれと宝珠と雷に礫。そしてあの祭壇」 そこへ残りの三人も参戦する。 「あれをたおさにゃならんの? だったらこれは骨が折れる」 そういいつつ靖は白霊弾の準備に入る。 「それまでは私達が持ち応えて見せるわ!!」 「おうよー!!」 そこで前衛二人が前に出た。だが、 「どわっ!!」 接近を試みようとすれば相手は容赦なく稲妻を発生させ近付けさせない。 「ちょ、何もないってのはこれだけで厄介だな〜」 「ならばこれで」 そこで道具を取り出したのは蒼馬だった。荒縄に苦無をつけて、雷が誘導できないか試みる。その間にも己の得物を引き抜いて、紫狼が狙うは腕だ。跳躍して斬りかかるが、水龍のせいなのか手応えがない。 「どういうことだっ!」 「物理が効かないのかね?」 始めの時同様、意識を手に集中し作り出したのは白霊弾を胴に向けて放つ。しかし、それも身体を通過しただけで奴はぴんぴんしている。ばたばたと地団駄を踏めば天井が一部崩れて彼らに更なる妨害をかける。 「助太刀するわ!」 そんな靖を守るようにシーラが盾を構えた。愛用剣『ロッセ』と共に降り注ぐそれを弾き返す。しかし、これではただの消耗戦だ。突破口が見られない限り、こちらが不利である。 「キサイ…何処を狙えばいい?」 窮地に立たされて、ここは彼の知恵を頼るしかない。 「いきなりそんな事言われても壁画見てないし」 「あんた罠師だろ! 相手の弱点くらい見抜けねえの?」 その言葉がキサイを奮い立たせた。そうだ、自分は罠師で、ここは試練の遺跡だ。ならばきっと何か方法がある筈だ。 さっき皆が祭壇に注目していた事を思い出し、そこへと視線を向ける。すると球が収まりそうな窪みが一つあるではないか。 (「ここにあるもので丸いものといえばあの龍が持つどでかい宝珠のみ。けど、あれははめられない…ならばあの宝珠をこの台座に乗せるには…単純に考えればあれしかない!!」) 部屋にあるものを使うならきっとこれが答えだ。確信に満ちた表情はいつものキサイそのものだ。 「靖、あの宝珠を狙え!」 そして出したのは勿論宝珠への攻撃指示。 「はあ? 正気か」 「もちだぜ、みんなもアレを狙ってくれ。物理が効くのはあれだけだし、本体に効かない以上考えられるのはあれしかない」 『了解!』 キサイの言葉に四人が息を吹き返す。雷撃と礫に翻弄されつつも必死に接近して、 「喰らえ、爆砕拳!!」 蒼馬渾身の一打に宝珠にはひびが入る。 「俺だって負けてらんねー!」 そう言って咆哮引きつけ、地断撃で追加攻撃を加えるのは紫狼だ。 「行くわよ、グレイヴソード!」 そこへオーラを纏ったシーラが突撃し重い一撃が宝珠を砕く。そして、決め手は靖の白霊弾。ひびは見る見る全体に伸びて、そして何度目かに、 パリーーンッ 見事に宝珠が砕けた。そして、中からは台座に収まる位のもう一つの宝珠が姿を現す…。 「やったな」 全身傷だらけになりながらも水龍が消えたのを見届けて、皆が集まり言う。 「これで攻略完了か…」 そして、手に入れたそれを祭壇に乗せて……神々しい光と共に祭壇からは見覚えのある人影が姿を現す。 「ちょ、あんたは!!」 「ほほほ〜、また会ったのう。皆のもの良くぞ全ての遺跡を攻略した。おめでとう」 にこやかに笑って第三の遺跡で出会った人形はぱちぱちと拍手してみせる。 「で、遺産ってのは?」 疲れ切った様子で尋ねる。 「まだわからんか? それはおまえ達自身じゃよ」 「はぁ?」 その言葉に彼らは眉を顰める。 「そもそもこの四獣遺跡の目的とは、力あるものを育てる為の養成所、いや実践訓練所のようなものじゃ。数百年に一回あの地図をばら撒いて、ここまで来れる者がおるかを確認している場所と言ってもいい…」 「はい?」 唐突に明かされた本来の目的にお宝を期待していたものは肩を落とす。 「じゃじゃあ、金になるものはないのかよ」 「金が全てではないからの」 キサイの問いに爽やかに答える人形。結局彼らは地図に踊らされていたといっても過言ではない。 「ま、本当の宝は自分の命さ。いい訓練になったと思えばいい」 人形の笑いにつられて、紫狼も爽やかに笑う。 「あら、あなたにしてはいいこというわね」 とこれはシーラだ。それは酷いぜーと言葉する彼ににこりと笑う。 遺産がどんなものか、確かに始めは気にはなっていた。 しかし、途中からはそれは二の次だったようにもの感じる。己の意地をかけて、挑み進んだこの経験はどこかできっと役に立つだろう。 「とはいえ何もないのも可哀相じゃしの。四つの遺跡を攻略したものにはこれをやろう」 人形はそういうと袖の下からごそごそと取り出して、刀の鐔を手渡す。 それには色付きの宝石が施され、彫刻もなかなかの一品だ。 「あら、きれい」 「高級そうだな」 シーラと蒼馬がそれぞれ感想を零す。 「鐔なんて使わないけども、貰えるなら貰っておく事にするぜ」 とキサイは少し素直じゃない。 「しかし、これはこれとして上のあの黒装束達…どうするよ?」 きっとあの感じでは待ち伏せしているに違いない。正直に話したとしてもちゃんと信じるかは疑問が残る。 「ならば、わしが別の抜け道を教えよう。そこから出ればいい…奴らはそうじゃの。わしが何とかしようぞ」 軽くそう答えて、お言葉に甘えた彼らに数日後届いたのは黒装束の正体が晒された瓦版だ。 「何々…各地を荒らしていた無断遺跡荒らし捕まる? 一つはシノビの里で、一方は遭都にて……正式な調査員を付き纏い中のお宝の強奪を狙っていた模様…北面の城も奴等の仕業……か」 人形の機転が利いているのだろう。あの後、壁画の場所には他の開拓者が派遣され彼らは捕縛。宝珠を求めて動いたグループも捕まったらしい。 (「あの男も捕まった?」) 凄腕だと判断していたのだが違ったのだろうか。 何はともあれ、古地図を巡る旅はやっと終焉を迎えたのだった。 |