猫又の憂鬱
マスター名:奈華 綾里
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/01/27 19:45



■オープニング本文

 おいらは猫又である。
 名前は‥‥‥言いたくない。
 それと言うのも、ご主人のせいにゃのだが、
 それはそれとして‥‥もう一つ困ったことがある。

「ご主人ご主人〜、聞いてくれよぉ〜」
 おいらはそう言って、ご主人に声をかける。
 だが、ご主人は全く聞く耳を持とうとせず、板間に横になったまま、ただぼけぇ〜と空を眺めている。おいらみたいな優秀な猫又の飼い主であるくせに、その自覚がまるでないから困ったものだ。おいらはそれでも諦めず、引っ掻いたり、体当たりしたり、頭に飛び乗ってみたりして、試行錯誤を繰り返して早二時間。やっとのことで、ご主人がおいらの方を向く。

「なんなんだ、さっきから‥‥俺はゆっくり寝たいんだよ」

 半眼でこちらの様子を伺うご主人。
「そんなこといわにゃいでくれよぉ〜‥‥全く、おいらより断然ずぼらにゃんだから・・・って、あぁ、また寝にゃいでねにゃいで!! 聞いて下さい、お願いだからぁ〜」
 閉じかけた瞳を開けさせようと、必死でご主人の頬をパンチする。
「あぁ〜〜わかったから。何だよ、さっさと用件を言え」
「はっはいですにゃ。それはあのメス猫をどうにかしてほしいのですにゃ」
「あのメス猫ぉ?」
 やっと身体を起こして、ご主人がおいらの前で胡座を掻く。
 ぼさぼさの髪によれよれの着物‥‥これでも、一応サムライにゃのだが、この姿はどうみても遊び人だ。
「そうですにゃ。もう、一ヶ月ににゃるんですよぉ。四六時中つけ回されちゃ〜おいらも堪らないですよぉ〜‥‥こないだなんて気がついたら、あの牛猫‥‥横に添い寝してたんですぜ。あぁ〜ありえにゃいありえにゃいからぁ〜〜」
 頭をぶんぶん振って、おいらがご主人にアピールした。
 しかし、ご主人は興味なさげだ。面倒臭げに、首を掻いている。
「で、何か‥‥俺に、その猫をどうにかしろと?」
「そうですにゃ」
「はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜なんだ、そりゃ。何かと思えばお前の女を別れされろと」
「女じゃにゃい!! あれはただのすとーかーだにゃあ」
「あぁ〜はいはい」
「むぅ〜〜〜ご主人!! ちゃんとどうにかしてくれよぉ!! でないと、おいら家出するからにゃ!!」
 おいらは自慢の爪でご主人の頬を引っ掻く。
「いって‥‥そこまでするか、ふつう」
 おいらを見つめる、冷めた瞳――。
 けど言葉程、怒ってはいないのをおいらは知っている。
 だから、ここは怯まない。背筋をぴっと伸ばして、胸を張り言い切ってみる。
「するよ‥‥おいらに取っては重大な問題にゃんだから」

「はぁ〜、しかたねぇ〜‥‥‥」

「ご主人! やっとやる気になってくれたんかにゃ!!」
 ようやく立ち上がったご主人を見て、思わず瞳を輝かせたおいらだったが――。

「‥‥ギルドに頼むか」

   こけっ

 その後、紡がれた言葉に、固まったままぱたりと倒れるおいら。

「さっ、いくぞ。ポチ」

「にぃゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜」

 おいらの名前――ご主人のセンスのなさに涙が止まらないおいらだった。


■参加者一覧
ダイフク・チャン(ia0634
16歳・女・サ
氷(ia1083
29歳・男・陰
紬 柳斎(ia1231
27歳・女・サ
斉藤晃(ia3071
40歳・男・サ
若獅(ia5248
17歳・女・泰
からす(ia6525
13歳・女・弓
九条 乙女(ia6990
12歳・男・志
そよぎ(ia9210
15歳・女・吟


■リプレイ本文

●十人十色
「あぁ〜と依頼書に書いた事しか俺は知らん。だから後はよろしく」
 依頼を受けてポチの元を訪ねた開拓者達にそう言うと、主人である男はそそくさと日の当たる板間へと消えてゆく。それを見送って、ポチは深く嘆息した。
「本当、あんなご主人で申し訳にゃいです」
「別に構わんわ。てめぇの事やろ? ポチがいれば話は済む」
 豪快に笑って、そう励ますのは斉藤晃(ia3071)。
「そうですね、とりあえずは貴方の事ですから‥‥」
 ――と、それに賛同したのは黒髪の少女・からす(ia6525)である。
「そうみゃ、あたしの綾香様も一緒だからきっと大丈夫みゃ」
「私のジジも付いておりますぞ」
 自分の相棒である猫又を抱きかかえて、ダイフク・チャン(ia0634)と九条乙女(ia6990)も言う。しかし、二人の猫又はあまり乗り気でないらしい。
「けっ、てめぇがポチ公かよ? くだらねぇ依頼出しやがって‥‥迷惑っちゃね〜ぜ!」
「こら、ジジ。口が悪いですぞ!」
「あぁん、なんだこの馬鹿乙女! わしの言う事に口出してんじゃねぇよ!」
 じたばたと腕の中で暴れて、ついにはその手を離れ身軽い身のこなしで畳に着地する。
「そうですニャ。私も迷惑してますニャ」
 ――と、今度は隣りにいた綾香様がぼそりと呟く。
「は‥‥はぁ、それは色々申し訳にゃい」
 二匹の猫又に圧倒されて、思わず謝るポチである。
「まぁそれはさておき。早速本題にはいろうや‥‥おまえさんのお悩み相談だったか? まずは状況を聞かせろや」
 どっかと胡座を掻いて、酒を片手に晃が問う。
「そうだな、拙者もそこをまず聞いてみたいと思っていた。おぬし‥‥一方的にその牛猫とやらが悪いような事を言っておるが、本当にそうなのか? そこをまず確かめたい」
 じっとポチを見つめる紬柳斎(ia1231)の瞳――その視線があまりに真剣だった為、ポチもぴっと猫背を伸ばし、考える。
(「あぁ、いいなぁ〜猫又‥‥」)
 瞳の裏に隠された柳斎の心の声。しかし、ポチは気付かない。
「う〜ん、ここに越してきたのが一ヶ月前で、その時からずっと周りをうろうろされてて‥‥おいらあんなデブ猫に興味にゃいし、何もしてにゃいと思うです」
「ほほう、一ヶ月前にここに越して来たのかい」
 ポチの話を黙って聞いていた若獅(ia5248)が、新情報を入手したとばかりに繰り返す。
「そうですにゃ。ご主人の気まぐれでこのぼろ家に‥‥日当たりもいいし、ここならゆっくり昼寝ができるとかで‥‥」
「あぁ、確かにここの日当たりは最高だ」
 すると、今まで姿を隠していた氷(ia1083)がのそりのそりと奥から歩いてくる。
「あの人は?」
「あぁ、あいつも今回の仕事を受けた仲間の一人だよ。名前は氷‥‥まぁいかんせちょっとやる気にかける風貌だがね‥‥」
「あっ! ご主人、今まで何してたもふか! もう話は始まってるもふ!」
 ――と、そこに喝を入れたのは彼の相棒・水である。
「なんか似てる‥‥」
「ん?」
「いや、おいらのご主人と雰囲気が‥‥」
「おっ、そういやミケって雄なのか?」
 水の説教を聞き流しつつ、氷がポチを見つけ問いかける。
「にゃ? ミケ?」
「おっと、違ったか‥‥ええ〜と、じゃあタマ」
 いい直した氷だったが、まだ間違っている。
「おいらは‥‥」
「ちょっと! いい加減その記憶力どうにかならないもふか!! 相手に失礼もふ。この猫又さんはポチさんだもふ。いいもふか‥‥復唱するもふ。ポ!」
「ぽ」
「チ」
「ち」
「ポチさんだもふ」
「あぁ〜わかったわかった。ブチだなっ」
「もふぅ〜〜〜〜」
 喜劇の掛け合いだ――目を丸くしながら、ポチは思う。
「もうダメ!! 我慢できないのぉ〜〜〜」
 ――と、続いて現れたのは新米開拓者のそよぎ(ia9210)だった。
 ポチに手を伸ばし、鷲掴み抱き抱える。ジジと綾香様も逃げ切れなかったらしい。そよぎの腕の中で暴れているが、しっかり抱えられ離脱できないでいる。
「こらっ! くるし〜だろうがっ!!」
「無礼ですニャ! はなすですニャ!!」
 隣りの二匹の抗議の声。ポチも何か言いたいのだが、胸が詰まって言葉が出てこない。
「キャ〜〜みんな可愛いの〜〜!! 煮干し食べる? 猫じゃらしで遊ぶ? しっぽにおりぼんつけていい?」
 初めて見る猫又に興奮は最高潮。あれやこれやと勧めるが、三匹の気分は急降下中だ。
「あのジジが、手も足もでないとは‥‥」
「綾香様、大丈夫かみゃ??」
 二人の主人の呟き‥‥ポチはそれを遠のく意識の中で聞いていた。
(「あぁ、短きおいらの人生‥‥悔い‥‥だら‥‥け」)
   ガクッ
「おわぁ〜〜そよぎ! ちょっと腕緩めろ!! ポチがヤバイ!!」
 脱力したポチに気付き、若獅が叫ぶ。
「え? ポチはおとな‥‥って、わぁ〜〜〜ポチ大丈夫なのぉ?!」
 慌てて、腕を緩めたそよぎだったがポチは既に気を失ってしまったようだった。
「うぅ〜〜ゴメンナサイ!! つい可愛くて、私あたし‥‥」
「ん〜大丈夫だ。息はしてる。ちょっと気を失ってるだけだよ」
 泣きそうなそよぎを宥めて――。
「それはそうと、これでは全く何も進んでないと思うんだが?」
 冷静になって、周りを見回してみれば、好き勝手に和む仲間達。
 とりあえず、近くにいた柳斎に視線を向けてみる。
「あぁ〜いいよな、猫又‥‥拙者も‥‥って、いやっそうではない!! 若獅さんの言う通りだ。我々はポチの依頼を解決する為に集まったのだ。遊んでる場合ではない!」
 はっと我に返り、一喝する。
「さて‥‥そうなりゃわしの出番やな。わしにえぇ考えがある」
 すると、黙って酒を飲んで晃が、意味ありげに微笑した。

●全ては形から
「嫌だ、絶対に俺はつけねぇ〜!」
「拙者もご遠慮させてもらう!!」
 ばたばたと狭い部屋を走りながら、柳斎と若獅が逃げている。
 気を失っていたポチが目覚めて見た光景――それは、猫耳をつけた開拓者達の姿だった。
 静かな寝息をたてておとなしく猫耳をつけている氷‥‥どうやら、寝ている間に装着されたようだ。そして、普通につけているのはダイフク・からす・そよぎの三名。この三人は歳も若いという事もあり、似合っている。乙女と言えば、なぜか血溜りに倒れていた。
「にゃんでこんなことに‥‥」
 訳がわからずぽつりと呟いたポチに、
「それは晃の提案みゃ。猫の気持ちになって考えれば自ずとわかると言ってたみゃ」
「はぁ?」
「ようするに、形からだそうです。どこから持ってきたのか人数分の猫耳をご用意されてましてね‥‥あのお二人はそれを拒絶している訳です」
 ずずずっとお茶を啜って、からすが続ける。
「とんだ茶番だぜ、全く! 人間共は馬鹿ばっかりだ‥‥そう思わないか、ポチ公」
「へ?」
「あんな耳つけた所で、わしらの気持ちなぞわかってたまるかってんだ! なのに、あんなに夢中になって‥‥バカとし‥‥うおぅ!!」
 そこまで言いかけたジジだったが、復活したらしい乙女に首を掴まれ先を封じられる。
「ジジ、なんて事言うのですか! 皆真面目なのですぞ!! それをバカとは‥‥それ以上言ったら、水洗いの罰ですぞ!!」
「けっ、やれるもんならやってみろやっ」
「ジジィ〜〜〜〜〜」
 その言葉にこつんと額を叩いて、乙女はそのまま水場の方へと向かう。
「あーーーバカ、やめろ!! 本気にすんなっ!! わかった‥‥もう言わん、言わないからぁ〜〜」
「本当ですな?」
「おうよ‥‥‥今日は、な」
 ぼそっと付け加えた言葉。しかし、乙女は気付いていない。
「ほらっ、もう観念せぇや!! いい加減、諦めんかいっ!!」
 じりりとにじり寄って、晃が迫る。
「うむむ、已む終えんのか」
「ここまでか」
 二人は壁に追い込まれ、身を縮めている。
「何、簡単な事だ‥‥これをつけて一鳴きすればなんとなく猫の気持ちが分るってもんだ」
「鳴くって本気か?」
「そや。なんならやってやろうか?」
 言うが早いか、晃は猫耳を装着――腰を少し屈め、手で軽く拳を作り‥‥。
「にぉ〜〜お」
 その場に広がる微妙な空気、皆の動きがぴたりと止まる。
 そして、それに衝撃を受けたのがもう一匹。それは茂みにいたらしい噂の牛猫だった。

●真相
「ほぅ、この子が噂の牛猫殿ですか」
 気を失った牛猫を見つめ、からすが言う。
 牛猫の行動はさておいて――とりあえず状況を調査するべく、他のメンバーは外に聞き込みに行っている。このボロ家に残ったのは三名と二匹。からす、ポチ、氷、水‥‥そして、からすの朋友である人妖の琴音である。琴音は牛猫をそっと見守っていた。
「しっかし、これで本当に猫なのか?」
 座布団の上のそれを見て、氷が誰に言うともなく呟く。
「どーみても牛もふね」
 牛猫・スタイン――その猫は太っていた。地面に付かんばかりのお腹にまるまるとした短い尻尾。顔もおかめさんのようにふくよかである。そして、体の模様‥‥ジルベリアでよく見られるという白と黒の斑模様。絶妙に入ったそれが、牛のそれにそっくりである。

「みんな〜色々わかったみゃよ」
 がらがらっと音を立てて、戸を開けて帰ってきたのはダイフクだ。その後ろには他の面子も揃っている。
「色々って?」
 優しく微笑みながらからすが問う。
「それは、もしかしたらポチさんの勘違いじゃないかって事ですみゃ」
「へ?」
 ダイフクの一言に、一瞬固まる。
「そういう訳で、もう一度確認してみようか、ポチ」
 柳斎がそう言って、ポチの前に座り質問を開始。
「まず、第一にここに来たのは一ヶ月前なんだな?」
「はいです」
「第二に、おまえのご主人はおまえの言うこの牛猫の姿を見たことは?」
「えっと、あっと‥‥知らにゃいはずにゃ」
「本当みゃか? まぁいいみゃ。つけられてるっていってたけど、その散歩前とかにポチさんはご主人さんと何かしてたみゃ?」
 可愛く首を傾げて、今度はダイフクが尋ねる。
「にゃにかって、どういう‥‥」
「例えばだな、すりすりしたり、ゴロゴロしたり‥‥触れ合う的なことは?」
 ダイフクに続き、若獅も質問に加わる。
「う〜ん、日課として定時にご主人を起こす為、猫パンチを繰り出す位かにゃ?」
「成程‥‥さて、そろそろわからないか、ポチ」
 三つの質問を終えて、柳斎が問う。
「うにゃ??」
「もしかして、目的はポチではない?」
 ポチに変わって、からすが答える。
「直接、この子に聞けばわかるみゃけど、もう一人わかる人がいるみゃ」
 その言葉を聞き、チャン他外回り班の視線が板間の方へと移される。
「まさか、ご主人?」
 まだ、いまいちわかっていないポチが首を捻る。
「お、もう帰ってきてるのか」
 ――と、話題の人――ポチの主人が音を聞きつけ顔を出す。
「ん? なんだ、今日はここにいたのか! ごまふ!!」
「へ?」
 ポチが聞き慣れない名前に、変な声を上げる。
「だから、ごまふだよ『ごまふ』‥‥そこの犬。俺の昼寝仲間」
『えぇ〜〜〜〜〜〜!!』
 牛猫を指差して言う男に、一同声を上げる。
「ごごごっご主人! 何言ってますにゃ! これは猫ですにゃ! 寝言は寝て言えですにゃ!!」
「へ? そうなのか? いやっ、てっきり犬だと‥‥あ、もしかしてこいつが例の牛猫だったりするのか? このナリでお嬢様猫? 傑作だな」
「ご主人のバカぁ〜〜〜!!」
 言葉と同時に、ポチの会心の頭突きが男に炸裂した。

●類は友を呼ぶ
 話は一ヶ月前に遡る。男はふらふら歩いていた。
 底をついた食料を買いに、怠惰な体に鞭打って渋々太陽の下に出た時だった。冬というのに、気温はそれ程下がらず、わりかしぽかぽかしている午後のひと時。
 ふと男は立ち止まる。寂れたボロ家だった。裏口の戸は壊れ、日が差し込むその場所にその猫はいた。どっぷり太った体を丸めて、ぼろぼろの板間の上で気持ちよさげに寝息を立てている。男は、空家らしいその家の板間に腰を下ろす。適度に温まった板が心地よかった。男は思わず横になる。猫がこちらをちらりと伺ったが、また目を閉じる。それを許可と受け取った男はにこり笑うと、一緒になって転寝を始めた。
 どれだけ時間が経ったのだろう。肌寒くなりかけた時、その猫が男の傍へと歩み寄ってくるではないか。猫の体温が丁度いい湯たんぽ代わりになりそうだと男は思った。喉元やお腹をさすってやれば、猫も案外心地いいらしい、喉を鳴らしている。
「そうだ、これをやろう」
 男は、お礼とばかりに買い込んだ食糧の中から干肉を取り出した。空はもう朱色に染まりかけている。
「よし、決めた! ここに住もう!!」
 男の決断は実に早かった――。

「‥‥‥というのがコイツとの出会いだ」
 膝にごまふ(勝手に命名)を乗せ、なでながらポチの主人が言う。
「って事はやっぱりポチ目当てじゃなかったって事だなっ」
 目を覚ました牛猫に話を聞けば、なんの事はない。ポチについている男の匂いが気になって、警戒していたとの事だった。はなから疑いを持っていたのだろう、晃は納得したように笑う。しかし、それを知ったポチはといえば――目の前の光景に呆然自失。大事な主人の膝の上にいるのが、牛猫とあって悲しいやら悔しいやらといった感じだ。
「ポチ、そんなおじさんほっとけばいいのぉ」
 その表情を見取って、今度は慎重にそよぎがポチを抱きしめる。
(「そんにゃそんにゃそんにゃあ〜〜ご主人が、ご主人がぁ〜〜〜」)
 そよぎの胸の中で、涙するポチに他の仲間が励ましにやってくる。
「まっ、男だろ! 泣くなよな‥‥別にあんたのご主人はおまえを捨てるっていってんじゃねぇんだし。ストーカーじゃなくてよかったじゃねぇ〜か」
「そうだぞ、ポチ。相手はただの猫だ。依頼の時役立つのはおまえだけだしなっ」
「はい、これ。何はともあれお疲れ様です」
 にっこりと笑ってからすがポチに差し出したもの、それは――猫の手である。
「うにゃあ〜〜〜こんなもんいらにゃいにゃあ!!」
 いきなりのボケに、ポチのツッコミが炸裂する。
「まぁまぁ、落ち着いて‥‥これならどうです?」
「ん? これは‥‥湯気の立ち上る熱々のお茶‥‥ってにょめるかぁ〜〜〜!!」
 再び繰り出されたボケに、今度は猫パンチをお見舞いする。
「それだけ元気があれば大丈夫ですよ、ポチ殿。ライバル登場位に思っておけばよいのですから」
 からすの言葉に、ポチがぐっと頷く。
「とりあえず、解決‥‥ですかな? これでいいかはさておいて」
「まぁ、そういうことになるだろうな‥‥と言う訳でポチ、これあげるから元気だしな」
「おう、これは俺からや」
 こうして、ひとつの解決を見た開拓者達。
 ポチの前には、さまざまな祝い、もとい励ましの品がうず高く積まれていたが、あまり喜べないポチである。
「一抹の不安‥‥いや、一抹どころじゃな‥‥」
「ん? 呼んだか、ポチ」
「呼んでにゃいです!!」
 一抹風安、それがポチの飼い主の名前であった。