消えた男と魚の匂い?
マスター名:奈華 綾里
シナリオ形態: ショート
EX :危険
難易度: 普通
参加人数: 4人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/07/30 01:34



■オープニング本文

●消えた男と火がついた迷探偵
「先輩っ、聞きましたかあの不思議な話! これは事件の匂いです」
 都の一角の警備隊屯所にて――
 とんでも推理を繰り出す迷探偵こと犬岡越前が先輩警備隊員の喜助を捕まえ嬉しそうに問う。
「不思議な事件たぁ〜どんな事件だ?」
 だが、思い当たるものがないのか喜助は首を傾げている。
「先輩知らないんですか? また一人男が消えたらしいんですよ」
「男が消えた? そう言えばこないだから頻発しているとか言ってたな…確か独り身の男ばかりだとか」
「そうなんですよ。先輩も気をつけないといつの間にかどろんですね」
「なんで笑顔なんだ、おめぇは…」
 あっさりと言い返してきた越前に睨みを利かす喜助。まだこの男は小説と事件の狭間を少なからずうろついているらしい。
「いいか。人がいなくなっているならそれは一大事だ。それを止めるべく原因を解明しなければならねぇ。だからおまえも…」
「わかってますよ、先輩。ここは聞き込みですね! 行きましょう! そしてすぱっとぐるっと解決です!!」
 ぐっと拳を握り名探偵を目指して瞳に炎が宿る。
(「あぁ〜これは、また変な方向に向かいそうだよ…」)
 喜助はその様子を見つめながら、心中でそう呟いた。


●魚と匂いと紙屑と
 そして場所は男が消えたと噂になっている長屋付近である。
「何か変わった事はありませんでしたか?」
 越前が手帳を片手に近隣の住民に尋ねて回っている。
「あぁ、そうだねぇ…変わった事はなかったけれどやけに上機嫌だったかな」
「上機嫌? それは具体的にはどのように」
 機嫌がいいといっても色々ある。以前の失敗を踏まえて今回は慎重だ。
「鼻歌を歌っていたんだよ…後ねぇ、いい香りがしていたかねぇ」
「ふむ〜…お酒でも飲んでいたんでしょうか?」
「さあねぇ。香りといってもお酒の香りではなかったし、それは帰ってからの事だからねぇ」
「帰ってからか」
「あのねー、お魚を焼いたような匂いがしたのぉ」
 そこへ子供が駆けて来て、喜助の着物を引っ張りつつ言う。
「お魚か…それは何の魚か判るかい?」
「んとねー、多分おじゃこさん」
「じゃこってあの小魚ですかぁ?」
 じゃこの匂いがしたというのはどういうことか? 焼いたようなというのも気になるところだ。
 もしこの話が本当ならば、男はじゃこを買ったか貰ったかして上機嫌で家に帰ってきたということになる。
「訳がわからねえ…」
 だが、その証言は本当のようだった。
 この事件――他にも何件か起こっているのだが、そのどれもから同様の聞き込みがもたらされている。
「これは本格的に私の出番ですねー♪ 先輩、私にお任せ下さい!」
 だが、越前の方はといえば更に推理欲を駆り立てられたようだった。


 ちなみに大事な現場の方はと言えば、特に変わった所はなく…。
「だらしねぇ部屋だなあ、おい」
 掃除は余りされておらず、着物も洗っているものやらそうでないものやらが乱雑に箪笥に放り込まれ、食器も洗っている風ではなかったと言う。ただひとつ、気になったとすれば――
「これは?」
 残された皿の一つに僅かに残った粉のようなものとかすかに残る香ばしい匂い。
「やっぱりこれはじゃこの匂いですよね。この皿で食べたのかな〜?」
 などと越前は言葉するが、そうかもしれないといった具合で確信できるものではない。
「納得いかねぇ、いかねぇよ…」
 だが、喜助はどこかで直感していた。これがきっと何かの手掛かりである事を……。
 けれど、匂いにおいてはどうにも難しいようだった。念の為嗅覚の優れた犬を同行させてみたのだが、日が経っている為か長屋の前をうろうろするばかりで一向に動かない。すまなそうに見つめる瞳に喜助も苦笑を浮かべたほどだ。
 その後も喜助は諦め切れず何度か現場を訪れて…やっとの事で見つけたものはじゃこを包んでいたと思しき包み紙だけだった。


■参加者一覧
村雨 紫狼(ia9073
27歳・男・サ
央 由樹(ib2477
25歳・男・シ
スレダ(ib6629
14歳・女・魔
別宮 高埜(ib9679
28歳・男・泰


■リプレイ本文

●足で掴め
「もう何人も失踪しているわけか…事件に巻き込まれてる可能性がでかいやろな」
「しっかり事件を解決して、不安が広がらねーようにしねーとですね」
 事の概要を聞いて央由樹(ib2477)とスレダ(ib6629)が言葉する。
「共通点の見える連続失踪事件ですか。恐ろしいですね」
 そこへ執事服をきっちりと着込んだ別宮高埜(ib9679)も現れ、喜助の手にある資料に目を通す。
「俺が思うに…アヤカシが原因じゃないのなら、男たちは自分たちで消えたかもしれねぇ。嫌な推理だが、麻薬かそれに近い薬品かも知れねーかもだ。独身男が喜ぶなら酒か女、金が相場だしな」
 すると今度は村雨紫狼(ia9073)――これで今回の助っ人が勢揃いした事になる。
「何にしてもまだ情報が足りない気がします……そもそも本当に匂いの元はじゃこだったのでしょうか…?」
 大の男が上機嫌でじゃこを買って帰ってくるというのは確かに奇妙で…現物が確認されていない以上断定は出来ない。唯一の手掛かりは喜助の見つけた包み紙だがそれはよくある薄紙のようであり、くしゃくしゃに握り潰されている。
「開けてみるです」
 そこでスレダがそれを手に取り慎重に紙を開けば、そこには薄らと『封』の朱印が押されている。しかし、それが手掛かりになるとは思えない。
「一応これの出所も探ってみるわ」
 由樹はそう言い、包み紙を借り受ける。
「捜査のの基本、聞き込みですね! 私もお供しましょう!!」
 とそこへ越前が参戦し、何が楽しいのかはりきり顔を見せている。
「ちっょと待ちやがれーです。行くのはかまわねーですが、せめて今までの男達の他の共通点も聞き出すようお願いするです。いいですね?」
 前回のおとぼけっぷりを知っているだけに、スレダが暴走防止の為、聞き出して欲しい事を明確に提示する。
「わかっていますとも、お嬢!」
 越前はそう言って飛び出した。それに小さく溜息を付きつつ、由樹も追いかける。
「私達も行きましょうか?」
 そして彼らも…高埜と喜助、スレダは男のいた場所へと向かう。
「えーと、じゃあ俺は…張り込みだな」
 取り残された紫狼はそう言って、失踪した男の一人の職場へ。
 新たな被害者が出るかもしれないと考えた彼は、被害者と似たような条件の者はいないかを探り出し尾行。誰かが接触してこないかを調べるつもりのようだ。
「どうせ仕事帰りに美人に釣られて…とかそんなこったろうが、あー他人の不幸を当て推量するって、マジ気分わりーぜ!」
 探偵ごとは苦手だと思いつつ、彼はそんな言葉を吐き捨て道を急ぐのだった。


 由樹が中心に聞いて回ったのは主に男の行動――。
 その中でも最も重要なのは魚らしきものの購入を目撃したかという事だ。
「この紙に包んだ何かを買うてるとこ見いひんかったか?」
 包み紙を取り出して、彼が聞く。
「さぁ? いつも遅くまで飲んでる人だったみたいだからねぇ」
「まぁ独り身男が早帰りしてもやる事ないだろうしねぇ」
 晴天の空の下、奥様方の井戸端会議は今日も賑やかだ。
「上機嫌だった理由は本当にその買った物の影響だったんでしょうか?」
 今度は越前、それらしい態度で尋ねる。
「多分ね。これさえあれば俺は本当の男になれるとかどうとか」
「本当の男?」
「変でしょう? 何処から見てもあの人は男だったってのに…酔ってたんじゃないのかねぇ」
「酒の匂いはしたんか?」
 冷静沈着に尋ねる由樹に奥様は判らないと答え、洗濯に戻る。
「どういう事でしょうね? じゃこで男になれるなんて」
「さぁな」
 越前の問いに由樹は静かにそう答えるのみだった。


 一方行方不明の男の知人を連れて長屋を訪れたスレダは、紛失物がないのを確認した後、直感を研ぎ澄ましていた。
「履物はあるですねー。しかし、茶碗は洗い場のままですか」
 履物があるという事はここに居た事を示している。何足も持っていたとは考えにくいし、かと言って裸足で出た形跡もない。そうするならば男は一体何処へ? 本当に消えたとでもいうのだろうか。
 そして茶碗…もしじゃこを食べたとするならば、普通ならご飯と食べるか、あるいは酒のアテとして近くに箸やらぐい飲みの類があってもいい筈だ。けれど、皿は布団の傍にあり、それらしいものは他にない。
「ん?」
 そんな中、唯一彼女の目に留まったのは布団だった。
 万年床であるのかあまり清潔とは言いがたいその布団に掛け布団が無造作に覆い被さっている。
「何かみょーですね…」
 不精者ならいちいち掛け布団を戻すだろうか。皿の位置も何か違和感がある。
 そこで彼女は思い切って皿に残った粉へと手を伸ばした。そして粉をぺろりと舐めてみる。
「ッ…?」
 粉に触れた時の僅かな嫌悪感――そして舌に乗せた時の砂とは違う滑らかなざらつき。
「これはもしかして…」
 信じられなかったが、彼女の中に一つの答えが固まり始めていた。


●噂の女
 その頃、喜助と高埜の聞き込みにもやっと有力情報が引っかかる。
 それは歓楽街の路地から出てくる男を見たという証言に他ならない。もし、これが誰かと接触した後だとしたらじゃこの出所に大きく近付く事となる。なぜなら、今までの聞き込みで誰も男達が帰った後再び出て行ったという証言はされておらず、誰かを連れ込んだような会話も全くなく、つまりは何かあったとすれば帰宅前か帰宅途中に仕掛けられていたという事になるからだ。
「それは何時頃の事ですか?」
「確か午前様になる手前じゃなかったかな…そこで最近、面白い噂があってさ」
「噂ですか?」
 高埜が僅かに首を傾げ問う。
「いやぁね……最近ここ界隈で白い女のお化けが出るんだってさ。時は真夏だっていうのに、女に近寄ると鳥肌が立つとか…確か柳の下で佇んでて特別な御香をくれるらしいぜ…男なら跳んで喜ぶっていう…特別の」
「跳んで喜ぶ? あのその柳はどちらに?」
 跳んで喜ぶ程上機嫌になった…という事はこの噂、関連があるかもしれない。
「裏筋の橋の袂だよ。けど、関わっちゃなんねぇ…香を買ったら死ぬって言うぜ」
「本当かい?」
 思わぬ所で手に入れた白い女の噂――関係の有無は後にしても、男を見たという路地のすぐ近くらしい。
「喜助様、もしこの噂が本当だとすれば…やはりこれは私達のお仕事だったのかもしれません」
 まだ確証は出来なかったが、彼の予感がそう告げていた。


 時は夕方――一通りの聞き込みを終えて話を纏めると、該者は一人で帰宅した事は明らかであり、その後の訪問者もゼロ。予め忍び込んでいたのなら話し声や驚く声がするものだがそれもなく、朝になると只忽然と姿を消していたのは間違いないらしい。
 共通点としては歓楽街への出入りが多かった事が追加され、噂の女への関与が次第に濃厚となる。それはあの粉の正体が『灰』ではないかと推測されたからだ。スレダの決死の毒見で得た手掛かり。それに香だったならば布団の近くにあったのも納得がいく。
「焼いて匂いを出すものといえば香のような線もあるとは思っていましたが、まさかですか…?」
 高埜も念頭にはあったらしい。けれど、魚の香りなど前代未聞であり除外していたらしかったが、彼も普通の香と比べてそれを毒見し確かに近い気がするという結論に至る。
「成分がわかった訳ではねーですが、科学上はそういった香りをつける事は可能だという事です」
 あの後時間を作って図書館へも行き、フィフロスで調べたスレダが言う。
「こっちも収穫あるで。あの包み紙、札作ったりする特殊なもんでな。都では一軒のみ…そこで購入者を聞いた所浮上したのが白い女や」
 由樹の言葉に同行した喜助も頷いている。
「つまり俺の客引く美女説が有力って事だな。あぁ、ピックアップしてる男達はどうする?」
 張り込みの結果、算出した男は数名。不審な相手との会話は見ていた限りなかったが、ひょんな事からあの柳の噂が出ていたのを思い出し、いよいよ怪しさが増してくる。
「事件発生時期とその噂が立ち始めた時期…そして、その女が紙を買った時期はほぼ一致。となればもうこれは解決したも同然ですねっ!!」
 結局何もしていない越前であるが、真相に近付いたとあって興奮しているようだ。
「けどそうなると二人には下がってて貰う事になる…」
 御香を使って人を消す冷気を帯びた女……人だとしても操られている可能性が高く、背後にアヤカシの影があると見ていい。
「わかりました。近付きません! けど、見届ける義務はある! だから遠くで確認はさせて下さい!」
 ぴっと背を正して越前も本気のようだ。
「さて、ほんじゃさくっと行きますか。場所は特定できてんだろ? カモられそうな男を尾行するのもいいが、アヤカシの可能性が出てきた以上危険に晒すのはよくねえ。俺が囮になってやるぜ」
 紫狼の言葉を受けて、彼らは例の柳の場所へと急ぐのだった。


 歓楽街といえど、一筋逸れれば明かりも少なく客引きする女郎がたまにいるが、その噂を知っているのかその柳方面に人はいない。
「うい〜ひっく」
 酒場帰りを装って紫狼が柳に千鳥足で近付く。
「おまえさん……逞しいねぇ。一人かい?」
 するとそこへ一人の女が姿を現した。
「おうよ、一人も一人…あんたがあいてしてくれるのかい?」
 俺は美熟女もいけんだぜ?と心の中で呟いて顔を覗き込めば、確かに色白の美人である。
「ふふふ、私が相手かい…あんた開拓者だろ? 私は食べるられるより食べる方が好みでねっ!」
 だが、相手は紫狼の芝居に気付いていたようだ。突如手を翳して、彼の前に吹雪を発生させる。
「そこに隠れてんじゃないよ! 鼠どもが!!」
 そして、更に後方にいた三人目掛けて続け様に氷の礫をお見舞いする。
 女はどうやら冷気を操る力を有しているらしい。加えて飛行能力もあるようだ。
「ちっ、厄介ですね」
 ばれているなら遠慮は無用と高埜が駆け出し、スレダが魔法の詠唱に入る。
「美女を斬るのは趣味じゃないんだけどな! 男達はどうしたっ!!」
 そこで紫狼を刀を構え女に問う。
「生きているとでも思っておったか? 笑止…私の肉となったわ。この時期はこの美貌を維持するのが大変だからねぇ」
 くすりと笑みを浮かべて、女は着物を翻し後方へと飛ぶ。
「本当に愚かなものよ…女を惹き付ける魅惑の香…そんな文句にころっと引っ掛かるのだから」
 ひらりひらりと避ける女――空中に逃げられてはこちらの攻撃のしようがない。
「お前も欲しいのかえ…寂しい坊や。くくっ」
 女はそういうと手にしていた包みを投げてよこした。それは男の家にあったものと同じものだ。
「人の欲を利用するとは許せねぇ!」
 夢を見て何が悪い、短い人生だ。男としての願望を持つのは人としてあるべき姿だと紫狼は思う。
 大地を蹴って彼は大きく跳躍した。それに合わせて高埜も回り込み挟み撃ち。
「ふん、こざ…っとなに!!」
 それを更に上に上がって避けようとした女だったが、それを由樹が許さない。
「残念やったな……悪行はいずれ必ず白日の下に晒されるもんやで」
 いつの間に接近していたのか彼が影縛りを発動し、彼女の動きを封じたのだ。
 いくら飛び去ろうとしても身動きが取れず、髪を振り乱す。
「くっ、ならば…」
 そこで彼女の抵抗…それは――、
「助けなさい、私を…」
 距離がある筈なのに届いたらしかった。
 陰に隠れていた越前が彼女の元へと駆け出そうとする。そして、喜助もどこかぼんやりとした瞳を有している。
「ちょっと寝てるです」
 だが、それをスレダが止めた。アムルリープを発動し、二人には悪いが夢の世界へ行って貰う。
「残念でしたね」
 そこへ高埜が鳩尾を抉るような一発を入れて、女はがくりとその場に膝を落とす。
「…私は悪くない」
「はぁ?」
 女の呟き…その言葉に思わず声を上げる。
「あの者達が勝手に擦り寄ってきただけだ……私が生きる為に必要だった。奴らの力が私の生きる糧…喰って何が悪い…」
 何処か縋る様な声で女は言う。
「見苦しいであんた。アヤカシやろ」
 そんな言葉で同情しろとでもいうのだろうか。確かに形は人であっても彼女はアヤカシであり、今まで被害にあった男達はもう戻ってこない。
『せめてなら、一思いに』
 三人はそう思い顔を見合わせる。そして同時に…その衝撃に彼女はもう耐えられなかった。
 もともと力を失っていたようで思ったよりもあっさり瘴気へと返っていく。
「なんかにげぇ事件だったな…」
 真夜中の柳の木の前で……彼らはそんな想いを抱えて生暖かい風に頬を撫でられる。
 女が消えた後には、あの御香入りの包み紙だけが残されていた。


●広まる名前
「うえ! 事件解決ですか!!」
 女の魅了にかかりスレダのアムルリープで眠らされてしまった為、犯人である女の最後を見届けることが出来なかった越前が声を上げる。
「もういいだろ? 見なくて正解だったと思うZE☆ それに証拠品は残ってるしな」
 そう言って包み紙を彼らに渡す。
「それがあのちりめんじゃこで?」
「いえ、中はやはりお香のよーです。それにこのお香には瘴気が凝縮させてたみてーで、男を眠らせた後香が全てを喰らい煙と共に外へ。あの女の元に流れて力となっていたよーです。もうこれは浄化してもらったものですから問題ねーですがね」
 包みを解いて中を見るとそこには円錐状の大き目の香が一個転がっている。
「ちなみに調べたところこのお香は開発途中の特殊なもので火をつけた後の灰が丸まってしまうとか。その灰がじゃこっぽく見えたと推測され、名前もそこから一部ではちりめん香と呼ばれる事もあるそうです」
「ほうそんなもんが…」
 世の中は広い――喜助がお香を見つめて言う。
 そして、この事件の解決はあっという間に広がり、違う意味で評判を集める事となる。

 それは何故かと言えば――、
「また遊びに行くつもりかい! あたしというものがありながら、そんなことばっかしてると塵男邪香を焚いちまうよ!!」
 事件解決の後に出された瓦版の見出しがなかなか洒落た言い回しを採用していたのだ。
 男達を眠らせて香と共に塵のように消えた…邪まな存在によって生み出された御香。しかもその香りがあのちりめんじゃこに似ていたという事から、その御香を『塵男邪香』と名付けたのだ。その言い回しが庶民に受けて、女遊びをする夫を咎める際等に用いられている様だ。
「全く、凄いな…」
 亡くなった男達からすれば不謹慎な話だが、これを教訓に怪しいものには手を出さないようになってくれれば万々歳であり、あえてその件に関しては取り締まりは行なわれていない。
「先輩も気をつけて下さいね」
 屯所内で越前が言う。
「おまえは……大丈夫だろうな。事件が恋人みたいなもんだから」
「そんなー、先輩方ひどいですー!」
 その言葉に越前は抗議したが、他の隊員達は彼を見つめ笑うのだった。