|
■オープニング本文 「あの者達…第二の遺跡までもクリアしたようです」 報告する部下に知っているといった風に男は視線を返す。 「なかなか出来るみたいで結構だ。残るは二つ…奴らは遺産に辿り着くと思うか?」 関心があるのかないのか判らない態度で男は部下に尋ねる。 「さぁ、どうでしょう? 第二の遺跡は先が見えなかった故、苦労していたようですが?」 「そうだな…しかし、次は判っている。対策も立ててこよう…」 次の遺跡の情報を持っているのかどこか楽しそうだ。 「ほっておいてよろしいので?」 「構わん。あそこを越えてこそ我々が動くに相応しい…」 部下の言葉にそう告げて、男は窓に視線を向ける。 今日もいつもと変わらぬ青い空がそこには広がっているのだった。 「ふいー…何もこんな枯れた地に遺跡なんか作らなければいいのに」 あの一件をなんとか逃げおおせたものの、次についた先は東房の隅っこ――魔の森の焼き討ちやらなんやらで開拓者としては動きやすくなってはいるが、あまり派手な事になるのはよろしくない。しかし今までの遺跡からして、大掛かりでないという事は考えにくい。 「全く、こっちの事情を考えて造れってんだんよ…」 言っても仕方のない事だが、それでも言わずにはいられなかった。 そんな独り言を零しつつ、ついた先には古びた寺が建っている。 「うわ…ぼろぼろだぜ」 第三の遺跡……それは遺跡とは名ばかりのものらしい。 東房といえば寺。天輪宗本山不動寺が有名であるが、ここはそれを受け継ぐ寺なのだろうか。わかる事といえば、既にここは使われてはおらず門構えからは哀愁が漂い、人の気配は微塵もしない。ただ一方では、何か得体の知れない力が本堂から自然と流れてきている気がする。 「ただの寺ではないって事かよ…」 そのピリリとした空気を感じながら中へ向かうと、そこには木製の菩薩像が俺を見下ろすように佇んでいた。そして、床板には辛うじて読める文字で文章が彫りこまれている。 『人の道は長く険しきもの…そして、無情なる時がある。覚悟して掛かれ…心の弱き者は踏み入るべからず』 説法めいた言葉――それにうんざりしながら俺は辺りを観察する。 崩れかけた壁にはこれといった仕掛けはなかった。今までの遺跡と違って小細工がされている様子もない。唯一あるのは菩薩像自体が横にスライドするようになっている位だ。 「これかな…」 それを動かす為の仕掛けを解除し、成り行きを見守る。 するとその後ろには人一人が入れるような狭い一本道が出現した。 「おいおい、また洞窟かよ」 それを見取って松明を片手に近付くが、どういう訳かすぐに火が消えてしまう。そこで暗視を行使しようとした俺だったが、何らかの結界が張られているようでスキルがうまく使えない。 「真っ暗な道をスキルなしで進んでみろってか?」 どこまで続くか判らない。空気があるのかさえも判らない。そんな道が俺を待ち構えている。 そこでごくりと…思わず息を呑む。するとふとその横にある窪みが目に入って…素早くそれを確認し、その近くの隠し小窓から小さな巻物を取り出す。 「何々…狭き道進む時、災いの足音が近付いても振り返るべからず。 自ずと道は開かれて…しかし、そこも闇が支配する場所なり。 何が起ころうとも、揺らぐ事なかれ、戸惑う事なかれ。そして、そこに居りし者倒した時 我は主らを認め光を与える。小細工はせぬ。己のみにていざ参られよ……ヒントか、これ?」 その巻物に書かれた言葉を音読して俺は首を傾げる。 この先に何が待っているのかわからない。 ただ言えるのは、謎だらけだから少し手掛かりを残しておいたという事だろう。 「くく、全くやってくれるぜ…」 俺はその計らいに静かな闘志を燃やして、ぎゅっと巻物を握り締めるのだった。 |
■参加者一覧
滝月 玲(ia1409)
19歳・男・シ
シーラ・シャトールノー(ib5285)
17歳・女・騎
蓮 蒼馬(ib5707)
30歳・男・泰
笹倉 靖(ib6125)
23歳・男・巫 |
■リプレイ本文 ●解 (「キョウきドウ、シンむジ…あぁ、わからんっ!」) ぷしゅ〜〜 実際に音はしなかったが、滝月玲(ia1409)の頭から湯気らしきものが上がっていた。それは巻物の推理への降参を意味している。漢字を音読みしてみたようだが、意味が通らなかったらしい。 「どうかしたか?」 そんな彼を見つけてキサイが意地悪く尋ねる。 「え〜と…あのヒントの事を考えていたんだ。ほら、まるでどっかの神話みたいだなと思って…どんな強者でも弱さはあるもんさ、それをどう克服するか。きっと心力を試す気なんだろうな」 そんな彼に必死の抵抗――玲は彼をライバル視しているらしい。負けたくないのか話を逸らす。 「何にしても入ってみるしかないやね? とりあえずこんなもん用意しといたけど」 そこへ笹倉靖(ib6125)が煙管を銜えて手にした小瓶を皆に見せる。 「それは?」 「シャドウ・ムスク…ジルベリアの香水。匂いが役に立たないかと思って」 「そうだな、暗闇の道を進んだ後の事を考えて互いが判るようにしておかないとな。幻覚を見せられるかもしれない」 「同士討ち…という事も考えられるわね。だから念の為、これをみんなに渡しておくわ」 蓮蒼馬(ib5707)に続いて、今度はシーラ・シャトールノー(ib5285)がブレスレット・ベルを取り出し言う。 「ふーん、作戦としては悪くないと思うぞ…だけど、甘い気がする」 だが、その話を聞いてキサイはと言えば、少しがっかりしているようだ。 「なら、どうすればいい?」 「みんなの考えには穴がある。この先は明かりが使えない…それはヒントにも記された通りだ。そして開けた先も闇が支配する場所とあった。だったら幻覚はないんじゃね?」 視界が閉ざされているのに幻覚とは? 確かに言われて見れば矛盾しているかもしれない。 「しかし、闇というのは心の闇という解釈も」 だが、そのまま鵜呑みをするのはどうかと蒼馬が食い下がる。 「そうか? ここは寺だった場所で心を試す試練だと言うなら深読みは無用。邪推は禁物と思うけど」 少し投げやりな言い方であっさりと言ってのけたが、他の面子はそこに視点を向けた者はおらず、彼の新解釈に目を丸くする。 「なら一本道の振り返るなは退き返すのも良くないし、振り返る行為を鍵にして何かが発動するという事で間違いないのかしら?」 「多分…だから絶対後ろを向くな、何があってもだ」 今までのキサイと違って厳しい表情を見せる辺り、今回の遺跡は危険だと意識しているらしい。 「隊列はどうする?」 その様子を見取って皆も気を引き締める。 「闇は人の心を蝕むって言うけれど…俺はヒントに蝕まれていたかな?」 冗談めかして苦笑する玲にキサイは軽く肩を叩くのだった。 ●胎 人一人が通れるだけの一本道――その道を明かりもなしに進むというのは想像以上に過酷なものだ。先が見えないだけで訳の判らない不安が彼らの心を掻き乱し、徐々に心拍数を上げていく。 「みんな大丈夫か?」 そこで先頭の玲が後方の仲間に向けて鈴を一回鳴らした後声をかけた。勿論彼とて周囲の状況が判っている訳ではない。ぼんやりとした闇が彼の視界を捕らえ、どれ位進んだかは皆目見当がつかない。 「ヒントによれば背後から何か来る…とあったか」 彼の言葉に答えて最後尾の蒼馬が呟く。ちなみに隊列は玲、キサイ、靖、シーラ、蒼馬の順となり、鈴を鳴らして本人確認を行う手筈である。 「あぁん? 何処にそんな事書いてた?」 だが、その言葉にキサイは冷たく問い正す。 「え、あ…しかし、足音が…という事はそういう事では」 「『足音が近付いても』とあっただけで物理的なモノが来るとは限らない。捻じ曲がった解釈は……ッ悪い、神経質になってる」 顔は見えないがイラついた声を出してしまったと彼は謝罪する。 「仕方ないわ…あたしもこのままでは感覚がおかしくなりそうだもの」 そんな彼に共感してシーラも頭を抱える。 周囲に感覚を研ぎ澄ました極限の状態――手につけている鈴のおかげで無音ではないものの、それが逆に響けば響く程先が見えず一層不安を駆り立てる。 ゴ、ゴゴゴゴゴッ とそんな最中に突如背後から音がした。 その音に振り返りたい衝動を辛うじて抑えて…しかし聴けば聴く程接近してくる地盤の崩壊音に動揺が走る。 「玲、とにかく前に!」 「わかった!!」 蒼馬の言葉を受けて玲他皆が駆け出した。足場を気にしている暇などない。静寂の後の大音量は彼らにプレッシャーを与えて冷静さを失わせる。そして、ぐにょりと突如足元の感覚が変わっても止まってなどいられない。 「走れ、走れ、愚か共よ…その先に待つものはお前達の死に場所だ」 「ほほほほ〜うまそうじゃのう。生きたまま食ろうてやるわ」 「ほれ、急がぬと落ちてしまうぞっ! だが、行く先もまた地獄だがのう」 通路に響く只ならぬ声――その主がなんであるかは判らない。しかし、彼らを陥れようとしている事は確かだ。 (「試されているのは心の強さか。やっかいだな」) 誰もが判っていた事であるが、そう思わずにはいられない。 進むにつれて更に今度は足場が弾力を増し、まともに走るのが困難になり始める。 「うわぁぁ!!」 そこで思わず玲が転倒した。それに続き皆ドミノ式に倒れ込む。 「なんだ、これ…」 そして、そこで初めて足場の異常な状態を目の当たりにする。 勿論目で確認する事は叶わなかった。暗闇の中で手の感触だけを頼りに辺りを探れば、何やらぬめぬめとした粘液のようなものが彼らの手を汚していく。それは壁も同様のようだ。 「ここは一体?」 とりあえずその場で順番に立ち上がり、各々鈴で確認する。 「フフフ…まんまと引っかかったのう。我の胎内へようこそ」 だが、ホッとする余裕もなく告げられた言葉に硬直する。 「まさか本当に胎内巡りだって言うの?」 それに反応してシーラが返す。 「そう…ここは遺跡等ではない。あれはダミー…お前達を誘き出す為の小細工に過ぎぬ」 くくくっと笑うと同時に床も小刻みに揺れている様に感じる。 「そんな…馬鹿な」 「馬鹿はどっちだ? 瘴気を感じぬか?」 信じたくはなかったが、そう言われれば僅かに感じる重い空気。そして粘る内壁のこの正体にも合点がいく。だが、ここは心の試練――はいそうですかと信じる訳にはいかない。 「あー、悪いけど俺そういうの信じないタイプなんだよね。それに何も見えてないからさー確認しようもないし」 そこで靖は飄々と声に宣言する。 「ああ確かに。見えないから判断しようがないし先に進もうか」 それを聞いて玲も開き直ったように歩き出す。 「なんじゃ、御主等己がから我の胃に向かうというのか?」 「さあね…戻っちゃ駄目なら行くしかないんじゃない」 「そんな脅しに屈しないさ」 声の主が何であれ入った以上は進むまで――その後も声は彼らに語りかけたが、 「あー、うるさい」 靖の提案で鈴を鳴らし声を掻き消して…第一関門通過である。 ●声 「ついたのか?」 両手を広げても手が壁に当らないスペースに出た一行は、余り離れないようにしながら探りを入れる。念の為スキルが発動できるか試してみたの靖だったが、やはりここも駄目らしい。 「俺の出番は今回皆無だねぇ〜」 そう言って煙管に火を入れようとした靖だったが、火もアウトのようで深く溜息をつき諦める。その直後、再びの轟音と共に彼らを岩石が襲う。それにより彼らは散らばらざる終えない。気配で岩を避けたもののいつまた来るか判らないそれに緊張が走る。 「きゃああ!!」 それと同時にシーラの悲鳴が木霊した。 『どうした!?』 それに答えるように皆が声をかける。 「え、あたしは…」 「いや、こないでッ! キサイ、あなた何を!」 「はぁ? どういう…って蒼馬、てめぇ!!」 暗闇で飛び交う仲間の言葉――状況がうまく掴めない。 「俺は何もしてないぞ!」 「いや、嘘言わないでッ! さっき…」 「待て、落ち着け…ってうわぁ!!」 と今度は蒼馬に横からの衝撃――それは誰かがタックルでも仕掛けてきたような感じのものだ。 「一体何が起こってるんだ!!」 突然の出来事に判断が追いつかない。操られている? あるいは偽者? 無闇に攻撃する訳にもいかず、受けに回る。心の闇をついた何かが襲ってくると予想していた彼らであったから、この手の不意打ちに動揺が走る。 「くそっ! 何かいる…っ!」 「やったのは俺だよッ」 「足手纏いの騎士はいらない…邪魔をするな」 「ちょ、何よ。それ」 「それを言うならキサイ。あなたが一番お荷物よ!」 「はぁ?」 人は言葉一つで大きく揺れるもの。本心か嘘か等今は問題ではない。一度声となって聞かされてしまえば、どうにもそれが大きな力を持ってしまう。 「ベルよ! ベルの合図を忘れないで!!」 予め決めていたそれを思い出して、シーラが叫ぶ。 「みんな匂いと音のする方に集まってくれ!」 そこでリリーンと軽く震わせるように鈴を鳴らして、蒼馬が皆に指示を出した。 離れてしまった四人を集める為…残念ながら香水の香りでは不十分だ。かと言って鈴では少し心許ない。そこで彼は苦肉の策に打って出た。 ドゴォォン 床に拳をぶつけて――新たな音で皆を呼び寄せる。勿論スキルなしであるから拳からは血が滲んだが、彼は諦めない。 「ったく…無茶しやがって」 そう言って駆けつけた靖も本人確認を済ませると、残りの香水をぶちまけ感覚で彼の手当てに入る。 「皆、集まったようね」 そこへ盾で見えぬ敵からの攻撃を受けつつやってきたシーラが数を確認し、キサイが今後の作戦を立てる。 「何かいるのは確かだ。俺も何度も襲われた…だから、その正体を見極める」 「けどどうやって?」 「音だ」 「音?」 円陣を組むよう指示を飛ばしつつ、彼が言う。 「この場で視界は役に立たない。だから聴覚を研ぎ澄ます…そこに相手はつけ込んできた。シーラ、さっき何があった?」 「え…あの時、あたしじゃないあたしの悲鳴が聞こえて」 「俺も俺じゃない声が聞こえた」 仲間にしか聴こえない程度の小声で話し、一同その事実にはっとする。 「そうか…そういう事か。耳を頼りにするのを見越して…」 「多分そういう事だぜ…けど、集まった以上突破口はここにある」 手につけた鈴を一度鳴らしてキサイが笑う。 ここまでの経過でも何度か使っている鈴であったが、敵はその存在意味に重きを置いていない。 「俺、もう帰るわ…正直こういうのノリ気じゃなかったし」 「そうだな。家族が家で待ってる…割りに合わない仕事はゴメンだ」 靖と蒼馬の声ではあったが、その後鈴は聞こえない。つまりはこの声は本人の者ではないという事だ。 「目を閉じて集中すればきっと気配は感じられる…声に惑わされるな! いいな!」 『了解』 肩が触れ合う位に近付いて四方を向き、各々己の聴覚を研ぎ澄ます。 パサ パサパサ ブーン ブーーーン そしてその先に聞こえたのは僅かな羽根の羽ばたき音。 時に緩く、時に激しく羽ばたかれて…辺りを飛び交っているらしい。 「数はわかるか?」 小声で蒼馬が隣の玲に鈴で知らせ問う。 「待って……これでもシノビだ。多少耳に自信がある」 超越聴覚がなくとも…日頃磨かれている筈の感覚を頼りに判断を試みる。 「一…二……多分五つ…どう思う、キサイ?」 リーンとまた鈴が響かせて、キサイもそれに同意の鈴を鳴らす。 「敵は五体ね。皆このままの状態で…近付いてきたら奴から仕留めてくって事でいいかしら?」 マヤカシの声に混じってこれはシーラだ。 飛び交う羽音に集中すると見えてくるのは瞼の先に僅かな軌跡…人は目を閉じていたとしても何らかの動きを眼球が捉えているのかもしれない。脳が音を頼りに像を作り上げ、見えなくともその影を予測し構築する。 序盤から意識を集中する事に徹していたおかげ自然と感覚を研ぎ澄ますのに慣れてきたらしい。 「はぁぁ!」 「これで終わりだ!!」 接近してきた物体目掛けて武器を振り下ろして、一刀両断の元にぶわっと敵は瘴気に返っていく。時間はかかったが、それでも彼らは殲滅に成功した。五つあったそれを打ち倒すと同時に部屋に光が差し拍手する人影。 「あ、あなたは人形…?」 突然の灯りに眩しさを覚えながら、玲が問う。 「私はここの番人…なんとか落第点は免れた、と言った所かの」 高僧のような身なりをした人形。それが彼らに近付きにこりと笑う。 「で、番人のあんたが御出ましって事はこの試練…」 「まぁ合格じゃな」 靖の問いにそう答えて、彼はポケットから一枚の亀の形をした手鏡を差し出すのだった。 ●実 「これがここの証じゃ。そして地図を出されよ」 次の行き先を示すのであろうキサイの持つあの地図を要求する。 「なんだ、ここが亀か…なら残るは竜かな」 その様子を見つめてぽつりと蒼馬が呟く。 「ほほう…察しておるのう。如何にも…残る遺跡は龍の遺跡よ。だが、今のままでは少し心許ない…どれ、これを持って行きなされ」 今までの彼らを見ていたのか人形は餞別とばかりに五人分の香蝋燭を手渡す。 「こんなもん何に?」 「瞑想にじゃよ…さすれば精神を鍛える事が出来よう」 どこか愛嬌のある姿の彼はほぼ人と変わらない。 「で最後の遺跡は何処だって?」 靖の問いに地図は遭都を示している様だった。先程の言葉からもわかる様に多分次が最後となる。 「じいさん、そこにはちゃんと『遺産』はあるんだろうな?」 念を押すようにキサイが問う。 「さてのう…わしは知らぬよ。それを確かめたければ行くがよい…出口まで案内しよう」 そう言って、彼は元着た道へと歩き始める。 「食えない人ね」 それを見てシーラが言葉した。今までは気付かなかったが、明かりの元に晒された皆の様子は思いの他ぼろぼろだ。 「ほら、これ…とっとけ」 それは彼女自身も例外ではなくて、むしろ傷の多い彼女を見かねてキサイが薬草を差し出す。 「はいはい、お二人さん。仲良くするのはいいけど遅れないように頼むよ?」 「帰るまでが遺跡探索ってな」 そんな二人を見つけて軽く茶化す仲間達。幸い、行きの様な惑わしは存在しなかった。番人の案内に従って一本道を進む。ちなみにあの声の主は全て人形によるものだったらしい。行きはあれ程襲われた不安であるが、今は明かりがなくとも驚くほど落ち着いている。そして、あの弾力の正体はといえば――。 「コケ…だったのか」 水を含んだそれが地面を覆うように生息していたようだ。思わせ振りな言葉で惑わされ粘液のように感じられたが、今触ってみればそれが思う程粘ついていない事に気付かされる。 「人の思い込みって怖いな…」 「ホントね…」 今回つくづくそれを思い知ったと苦笑する。 「帰ったらまた何かご馳走するわ」 シーラがそう言ったのだが、その先に待つ者達の手によって…それは叶いそうになかった。 |