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■オープニング本文 「や〜、困ったねぇ困った困った」 いつも行く八百屋のご主人が頭を抱えている。 だけど、おいらの生活も平和そのもの…まだ少し寒くなる日もあるけれど、それでも板間でのお昼寝は快適だったし、ご主人もまったりぐっすりぼんやりして過ごしている。 けれど、そういう時間は長くは続かない。予期せぬ所でふらりとお仕事が舞い込んだりする。 「どうかしたのにゃ?」 お夕食の買い物に散歩がてら来ていたおいらが八百屋のご主人の困り顔を見て声をかける。 「やあ、ポチ。元気してたかい? 実はさぁ…野菜畑の方がちぃと困った事になっててねぇ」 「野菜畑?」 八百屋さんの話によれば、仕入先の畑がモグラに荒らされているらしい。 「直接の被害はまだないんだけど、このまま放置してると穴に水分流れちまって土に十分な養分とかがいかなくなってしまうからなぁ。手を焼いてるみたいだが、相手は土ん中だろう? なかなか難しくってなあ」 そう言えば少し遅いが春は種蒔きの季節。夏野菜はこの時期に種を蒔くものが多い。 「そんなにもぐらしゃんは駄目なのにゃ?」 おいらが興味本位で尋ねる。 「あ〜駄目とは言わんが、やはりな厄介者ではあるんだよ……どこぞにこういう事を請け負ってくれる親切さんはいないかなぁ〜……とそうだ。ポチのご主人は何してる人だったっけ?」 じぃーーとおいらを覗き込んで店主が問う。 どうやら最近になっておいら達の事も少しずつご近所さんに広まっているらしい。 正確にはおいらのご主人が開拓者であったという事なのだが、まぁそれはそれだ。 「ん〜…ご主人は動かないかもしれないけども…おいらなら大丈夫にゃよ?」 もぐらには興味がある。名前くらいは聞いたことがあるけれど直接はないのだ。 「おうおうこの際誰でもいいや。だったらすぐに行ってくれ! これは地図だ。俺の名前だしゃあいつもわかる」 すると手早くメモを渡して、八百屋の店主は爽やかな笑顔でおいらを送り出す。 どうやらこの店主――初めからそのつもりだったと見える。 考えてみれば初めの言葉だって、妙にわざとらしかった気がするが、もう後の祭りだ。 「ご主人、行くのはいいけどおいらに何かメリットはあるのにゃ?」 そこでおいらは頭をフルに働かせ、交渉に入った。負けないようにじと目を使って、店主に尋ねる。 「お、あざといねぇ。いいぜ、解決してくれたら夏収穫の野菜を…そうだなぁ、毎日おまけしてやろう」 「ほんとかにゃ!」 毎日おまけ…貧乏なご主人の事、毎日確保できるというのは大変有り難い事だ。 その魅力に影響されて、今からよだれが口端を伝う。 「おやおや、猫のくせに野菜も好きかぁ〜。そりゃあ嬉しいねぇ」 その後はとんとん拍子だった。 「わかったにゃ! その依頼、おいら引き受けるにゃ!」 八百屋の店主と固く握手を交わして、おいらもご機嫌で家路を急ぐ。 だが家の前まで来た時、おいらはとんでもない失態に気が付いた。それは、 「しまったにゃ! 今日の分買い忘れたにゃーーー!!」 先の魅力に目が眩んで、今日の分を忘れるとは……本日最大の残念賞だった。 |
■参加者一覧
乃木亜(ia1245)
20歳・女・志
瀬崎 静乃(ia4468)
15歳・女・陰
アーニャ・ベルマン(ia5465)
22歳・女・弓
シーラ・シャトールノー(ib5285)
17歳・女・騎
ウルグ・シュバルツ(ib5700)
29歳・男・砲
刃兼(ib7876)
18歳・男・サ |
■リプレイ本文 ●地中 「ポチさん〜〜♪」 もはや彼女がポチに出会った時の恒例行事ともなっているハグ。 今日も今日とてポチの姿を見つけると同時にアーニャ・ベルマン(ia5465)が彼を抱きしめる。 そんな彼女をサングラス越しに彼女の猫又・ミハイルが無言で見つめて、 「ん? ミハイルさんもだきゅだきゅして欲しいのですか?」 それに気付いた彼女が声をかけたが、 「んなわけあるか、俺はそんな馴れ合いは遠慮する」 とクールなお言葉。二人は対等関係であり、ミハイル自身は片思いの相手がいる為か特に気にしている風ではない。 「いつもクールにゃね〜」 そんな様子を見て、ポチが思わず言葉した。 「ポチさんは食べ物の心配したり、いろいろと大変ですね。そういえば、前にもこんな事があった気がします」 すると近くでくすくす笑い声がして…振り向いた先には乃木亜(ia1245)の姿がある。 「あれ、藍玉しゃんは?」 だが、彼女達はいつもとは違うようだった。 ちなみに藍玉というのは彼女のミズチであり、大の甘えん坊さんで普段であれば彼女の傍を離れたりはしないのだが、今日は何かあったらしく近くの茂みから顔を出してこちらを伺っている。 「えーと、それは…少し拗ねているようでして……」 それに曖昧に答えてちらりと彼女が視線を送るが、藍玉はそれに合わせて顔を背けるだけ。事情を聞けば何でも少し前の依頼で置いてけぼりにしてしまい、それに腹を立てているのだという。 「意外なのにゃ〜〜」 何度か依頼を共にしている手前、二人の仲はそこそこ知っている。だからこそ、こういう状態は珍しいと思う。 「そのうち機嫌も直ると思いますので…すみません」 その言葉に彼女は小さく謝罪した。半ば癖になっている言葉でもある。 「それでは早速始めましょうか?」 そこで皆に声をかけたのは管狐の白房(ハクフサ)を乗せた瀬崎静乃(ia4468)だった。 実はここは既に問題の畑である。 畑としてはかなり狭いようだが、それでも夏になれば多くの野菜が収穫出来るらしい。 「まだ種は蒔いていないようだな」 土に触れて…農作業の経験があるウルグ・シュバルツ(ib5700)が言う。 「ミミズ、食い尽くされておらぬとよいがの」 とこれは相棒管狐の導(シルベ)だ。 「ミミズが餌ですか。ならミミズを集めてきます」 「では、僕はその間に巣の調査を行おう」 それぞれがそれぞれに、思うところがあるらしい。まずは中の様子を調べる為にモグラ塚を探す。 ちなみにモグラ塚とはもぐらが地上と行き来する為の入り口部分に当たり、土が盛り上がっている事から容易に発見する事ができると聞く。 「ここにはないっぽいでありんす〜」 畑をざっと見回して、刃兼(ib7876)の猫又・キクイチが言う。 「だったらあそこなんてどうかしら?」 そこで辺りを観察し、木陰の方を指差したのはシーラ・シャトールノー(ib5285)だった。 「聞いた事があるのよ。木の根元など直接雨が当らないところにあるって…」 愛想の良い笑顔で彼女が言う。 「でしたら、あそこらへんでしょうか?」 そこで彼女のからくりのアンフェルネが近付き、その付近を探し始める。 姿はほぼ人間と変わらない機械人形――特に彼女は明るく違和感がない。けれど、見慣れぬ彼女に吃驚したのだろう…指差された先にいた藍玉はびくりと体を揺らし、また別の茂みに隠れる。 『あっ…』 だが、そこに確かにそれはあった。 藍玉は気付いていなかったようだが、茂みの近く…木の根元のすぐ横に土が盛り上がっていたのだ。 「あそこから入れそうです」 静乃が淡々と言う。 「こっちにもあるようだぜ…」 すると別の場所にも似たような形跡が見つかり、調査班は手分けする事となる。 「恐らく…これらを起点に巣を伸ばして畑の下を荒らしてしまっているのだろう」 発見できたのは全部で三つ。小さい畑であるから、たった三つといえど馬鹿には出来ない。 まずは管狐達がモグラ塚の中へと進入する。 体が変化できる管狐達にとってはモグラ塚に入るなどお手のものだ。しなやかな体で穴に顔を突っ込む。 「白房、気をつけて。もぐらは噛み付くと聞きました」 だが、そこに待ったをかけたのは静乃だった。 もぐらは夜行性と思われがちだが、実はそうでもない。それに『太陽に当ると死ぬ』と思われている様だが、勿論それは誤りであり、昼間でも中では活動している筈だ。白房がそのままの姿で入ろうとした為注意を促す。 「大丈夫ですよ。姐さん♪ あっしはそんなヘマしやせんって」 だが、彼女の心配は必要なさそうだ。くるり一回宙返りをすると、姿を昆虫に変えて再び入り口に身を潜める。 「念の為、僕も…」 そして静乃自身も術を発動し、人魂を昆虫に変えていざ中へ。二人はバラバラに調査するらしい。 「おまえも頼むぞ」 その横ではウルグも導に調査を依頼している様だ。 「仕方ないの。このままでは毛が汚れるし、どれ…警戒されぬよう、人魂でもぐらに化けてやるかの」 くすりと含み笑いを漏らして、人魂の能力で姿を変え入っていく。 外は太陽が射しているというのに、中は真っ暗。彼らの探索はなかなかに困難を極める。 まず驚かされたのは巣の長さだった。思ったよりに丁寧に作られているようで、ある場所まで行くと分岐している。それは時に右へ左へ。迷路とまではいかないが、辺りが暗い事もあって方向がつかみにくい。 「姐さん、大丈夫かなぁ?」 匂いを頼りに白房が呟く。その時彼女は―― 「ッ!?!?!!」 思わぬ事態に声のない悲鳴を上げていたが、 「大丈夫かにゃ?」 地上で少し体を揺らした彼女に気付いてポチが声をかけると、はっとしたように頷き再び新たな人魂作る。一体何があったのか? それは彼女のみ知る事である。 ●地上 一方、他の面子はこの間に色々準備に入っていた。 「それはまさかと思うが釣竿か?」 糸に針、しなる様な細めの竹ひごにそれを括りつけているのを見つけて、刃兼は早く中に入りたがるキクイチを留めアーニャに尋ねる。 「そうです! もぐらも一応生物ですしね…殺してしまうのは可愛そうですから」 「あ……私も、それがいいと、思います」 「そうだな。出来れば捕獲後、害のない山に放つのが望ましいだろう」 もぐらの捕獲案――それを考えていたのは彼女だけではなかったらしい。乃木亜もウルグも…依頼自体も『どうにかすること』とあっただけであり、この判断は問題はないだろう。 「そういう訳で食べない方向でお願いします」 にこりと笑って、涼しい場所で涼んでいたミハイルにアーニャが忠告する。 「ちっ、めんどくせぇ。食っちまったほうが始末が楽じゃないか。それより依頼が終ったらいつもの酒頼むぜ」 するとぶつくさ愚痴を言いつつも、彼もしぶしぶ了承したようだ。 「もぐらが美味しいとは聞かないしね…終ったら私が腕を振るわせて貰うわ」 ――とこれはシーラだ。簡単なもぐら塚の地図をアンフェルネと作成しながら言う。 「ほー、うまい飯か。では頑張るとするか」 そういうが、出番はまだとあってお昼寝タイムのようだ。うとうとしつつ、気持ちよさげに待っている。 「モーグーラー狩りでありんすぅぅぅ!!」 だが、逆にテンションMAXの猫又もいたり。 まだかまだかとキクイチはすでに畑を駆け回り、体を泥だらけにしているようだ。 そして暫くの後、 「お待たせしました」 「わかったぞ」 調査が終了――皆の下に概要が伝えられる事となるのだった。 まず初めにもぐらの巣というのはいくつもの部屋に分かれているという事である。 「蟻同様に結構部屋が多いようだの。後、奴らは視力が弱いようじゃて…何とか誤魔化せだがの」 導は中でもぐらと鉢合わせたらしい。 姿を変えていなかったなら危なかったかもしれない。 「匂いにも敏感と聞くが、それは大丈夫だったのか?」 「何、入る前に近くの土を念入りつけておいたからの。素早く逃げたのも我だからできた事」 何処か自慢も入って居る様だが、まぁそれは気にしない。 「こちらも同じような感じです。やはり音には敏感ですね…昆虫に化けたのは失敗でした。一度食べられそうになったので…」 ポチが気付いたあの時のあれがそうだったらしい。なかなかの恐怖体験であったのか、僅かに視線が泳ぐ。 「大丈夫かい? 姐さん…」 そんな彼女に白房が声をかけると、小さく頷きいつもの控えめな笑顔を返す。 「そういえば昆虫も食べるってご主人から聞いてたにゃ…忘れててごめんにゃ」 もぐらの主食、それはミミズの他にも昆虫やその幼虫も含むらしい。 なぜだか一抹はその事を知っていたようだ。ポチが彼から聞いたというのだから間違いない。 そして、おおよその話を纏めて…作成された地図によれば、三本の巣穴はどれも畑の下を通っているようだった。 「もう、見事としか言いようがないわね…」 苦笑を浮かべてシーラが言う。 「さて、それじゃあもぐら捕獲作戦を開始しましょう!」 そこでさっきの竿を手にアーニャが立ち上がった。 「さぁ、ポチさん。ミハイルさん! 猫心眼の出番です!!」 釣竿の先にミミズをつけて、彼女はもぐらを巣穴から吊り上げる気らしい。トンネル付近に竹ひごのみを刺して揺れないかを二匹に見て貰い、穴からは釣り糸を垂らして、得物の出方を待つ。 (『あれで本当にうまくいくのか?』) そう思っているものは少なからずいた。 けれど、本人が乗り気だしあの方法であればもぐらを傷つける事はない為、半信半疑と思いつつも見守る体制。勿論彼女のそれだけでもぐらをおびき出すつもりはない。 「音に敏感なら、俺の出番だな」 自前の銃を片手にウルグはどうやらぶっ放すつもりのようだ。脅かせば出てくると読んでいる。 「よし、キクイチ。存分に行って来い。だが、あまりはしゃぎすぎるなよ。もぐらだって窮すれば噛むんだからな」 そう言って頭を撫でてやったのは刃兼だ。こちらもポチ情報ではあるが、もぐらは穴が崩れるたら修繕に動くと聞いて…その際土を地上にかき出すと言うので、それを利用しない手はないという訳だ。 「任せるでありんすよー! 雪の次は土の中…どこでも問題なしでありんすー」 野生の本能をむき出しにキクイチは早速穴へと飛び込む。 実は以前かまくら作りでも似たような事をやっている。その他の者はじっと相手の出方を待つ。 そんな中でも未だに距離を置いたままなのは藍玉だった。一向に呼びに来てくれない乃木亜に少し寂しい気持ちになる。 「キュ〜…」 思いの他元気のない声――そんな時、 パンパンッ ウルグの空撃砲が辺りに響き渡った。 何も知らされていなかった藍玉は思わず跳ね上がる。 そして、やっぱり乃木亜の元にと駆け出したその先には、もぐら塚。 「そこにくるぞ!」 ミハイルの声と同時に顔を出したのは一匹目のもぐらで。 「ピィューーーーーーー!!」 藍玉はもう大混乱。未知生物とご対面を果たし、乃木亜の影に猛ダッシュ。出かかったもぐらも慌てて土の中へと隠れてしまう。 「だめよ!」 そこで先手を打ったのはシーラだった。アーニャが作っていたのは釣竿だけではない。風車のついた竹をあちこちに仕込んである。本当は捕獲後にもぐら避け対策として考えたものだが、ポチの提案で今も設置してみたのだ。風車が回れば地面に音と振動が伝わり、中でパニックを起こすかもしれない。その予想は見事的中したらしい。 「出てきた分をどんどん袋につめてくぞ!」 ウルグが皆に声をかけ、用意していた麻袋を配る。 「力仕事は我には向かんて」 と導の方は既に仕事を終えた気分で休憩中だ。 「なかなかすばしっこいなっ」 機敏な動きを見せるもぐらに刃兼が呟く。 「釣ったどーーー!!」 そしてアーニャの釣竿にもようやくもぐらがかかっようだ。 すぽんと穴から飛び出して慌てて拾いに走る。 だが、光の眩しさに耐えかねてミミズを置き去りに巣穴に戻ろうともぐらも必死に駆け出していく。 「藍玉、水牢!」 「ピー」 そこで藍玉がスキルを発動した。 動きを止めるように…実はもぐらは泳げない訳ではない。 「ナイスフォローです!」 親指を立ててアーニャが笑顔を返す。その後ももぐら捕獲大作戦は延々と続く。 「そこのけそこのけわっちが通るでやんす〜」 そして地下では、縦横無尽に駆け回るキクイチの姿があったり。 出くわしたもぐらは慌てて進路を変える。たが、他の仲間も同様に慌てている為、進路を見失い新たな道を掘り出して、 ずぽっ 「にゃっ!」 地上に顔を出したもぐらを見つけてポチも畑にダイブ。もぐらたたきのような光景が広がり始め、 「大変じゃの」 「入るタイミングが掴めない…」 まったりする管狐を余所にてんやわんやの大騒ぎ。 太陽は傾き始め、辺りの温度が徐々に下がり、気付けばかなりの重労働となっている。 「仕方ないの。最期の点検じゃ」 「僕達も見てこよう」 「了解」 そして、一通りもぐらを捕まえたところで、まだ残っていないか点検する。 幸い、捕獲は何とか完了している様だった。終了する頃にはみんな土塗れである。 「畑は明日耕すとしても…こいつらをどうにかしないとな」 「もぐらしゃんは大食漢にゃ。十二時間以上お腹が空っぽだと死んじゃうって聞いたにゃよ?」 それに続いてさらりと言ったポチだったが、皆その言葉に慌てて始める。 「どうかしたにゃ?」 「ヤバイ…ぐったりしてるよ」 一匹目を捕まえてからは随分時間が経っているとあって焦るアーニャ。 他の袋も確認すれば、確かに元気がないようだ。 「じゃあ急ぎましょう!」 そこで荷台にもぐら達を乗せて、一路畑のない場所へ移動し解き放つ。 そして、残っていたミミズをばら撒くと、それに群がるもぐら達。 余程腹ペコだったのだろう一心不乱に食らいつく。 「危なかったですね…」 アンフェルネの言葉――その言葉が聞こえる頃にはもう空には星が輝いていた。 ●畑 翌日、彼らは畑の主と共にもう一度山を訪れて、 「またもぐらが来ないとも限らない。だから、畑の外周にレンガを敷き詰めて埋める事をお勧めするが、如何だろうか?」 一応了承を得ない事には作業は出来ないと、刃兼が提案する。 「わかりました、ではお願いします」 その申し出に主のゴーサインを貰って、彼らは残りの仕事に入る。 もぐら達はいなくなった。しかし、今のままにしておいては今度は穴に鼠がやってくる恐れもある。そこで彼らは畑を耕し、穴をある程度潰してしまおうと考えたのだ。その方が畑にとっても、そこに生きる生物にとっても都合がいい。 「…もぐらのフンを栄養に育つキノコがあるというのは本当だったのでしょうか?」 ふとそんな事を思い出しながら、乃木亜はもぐら塚の辺りの盛り土を足で踏み固める。その隣ではすっかり元に戻った藍玉もお手伝い――ぺしぺし尻尾で地面を叩く。 「しかし、あの時は驚きましたが…もぐらって意外と可愛い顔と体型してたんだね〜」 ――と今度は静乃だ。真近で見たその顔を思い出している様だ。 「あ…わかります。捕まえた時毛が滑らかで可愛かったです…」 それに同意した乃木亜に再び藍玉の気分が傾いた。 「ピィ〜〜〜」 明らかな嫉妬であるが、それもそれで可愛らしいと彼女は思う。 そんな横でキクイチが再び畑にダイブした。昨日の土潜りが楽しかったらしい。 「また潜るでやんすかー♪」 土を気にせず、元気な事だ。 「おいらもやってみるにゃー」 それに釣られてポチも参戦すれば、藍玉の気持ちはそちらに移っている。 「ピィピィ」 自分も潜りたいと乃木亜に了承を得ようとしているようだ。 けれど、いざOKが出ると戸惑い始める。 「もう、もぐらはいないですよ?」 そう言うが、まだ少し怖いようだ。 「だったら水をまいてくれないか? 土は軟らかい方が耕しやすいからな」 そう言ってウルグが近付き撫でると、藍玉はおずおずと水柱を出現させる。 「ああ、助かる」 「有難う」 それを見つめてウルグと刃兼の感謝の言葉に藍玉は上機嫌だ。 「お子様だな、全くよう」 そういうのはミハイルさん。管狐達も彼らの行動を大人な視線で見つめている。 「さて、私達もお昼の準備を」 「はい」 「でしたら、僕も手伝うよ」 そして、最後の仕上げとばかりにシーラの料理作りが始まる。 静乃も加わって…食材に関しては農家仲間から提供された野菜があり、それを使っていいと許しが出ているようだ。 「まずは時間のかかるものから作りましょう」 腕を捲って、その横ではアンフェルネも器具の準備に入る。 勿論山の中であるから火種は焚き火を使うしかない。 木を集めて、その横には手頃な石を重ね始める。 「それは何かの?」 それを見つけて日陰から導が尋ねた。すると、 「これですか? 石釜ですよ…マスターがお菓子も作るというので」 ストロベリーブロンドのマカロンショートヘアを軽く揺らして、機械である筈なのに笑って見える。 「ほう、菓子か…それは楽しみだの」 その言葉に機嫌よく導も言葉を返す。その横では、 「こ、こ…この匂いは……油揚げの匂い〜〜!!」 冷静だった調査時とはうって変わって、興奮する白房の姿があったり。 「やれやれ…本当に油揚げが好きなんだね」 味噌汁用に持参されていた揚げを見つめる相棒に静乃が小さく溜息をつく。 「だって、姐さんっ! あれは大好物なんでー」 そんな態度にあわあわするも実に楽しそうだ。 そうするうちにも畑は徐々に耕され、料理は次々と出来てゆく。 取れたての野菜に油揚げを添えてコクが加わったお味噌汁、サラダに煮物に蒸し野菜などもある。 「うまくできたわね。これ持ってって」 出来立てのベジタブルキッシュをアンフェルネに渡し、シーラは微笑む。 「とても美味しそうです」 と彼女は言うが、作る事は出来ても食べれないのが悲しいところだ。 「ほんとうまそうでやんすー」 「これは豪華だな」 そして畑が綺麗になる頃には、料理も十分過ぎる量が完成していた。 おかずのみならず、クラフティや林檎のパイ等も並んでいる。 「よーし、じゃあみんなお疲れさまー!」 そこでアーニャがコップを掲げて、みんなで乾杯。出来上がった料理に舌鼓を打つ。 そんな中こっそりお酒を持ち込んでいるものも居る様で…、 「ぷはっ、依頼の後のマタタビ酒はたまらんな。ポチ、お前も一杯やれよ」 黒い毛であるから酔っているかどうかはわからないが、ミハイルがポチを誘う。 「あ…ごめんにゃ。マタタビはちょっと…」 だがポチはそれを受け取れない。 実はポチ、マタタビには以前トンだ目にあっているのだ。そう答えて、やんわりと後退りを始めている。 「なんだ、つれない奴〜」 けれど、ミハイルの方はあまり気にしてはいないようだ。 そして、ここでも―― 「刃兼はん……今何か言いんしたか?」 額に汗を浮かべて、キクイチがじりりと一歩後退する。 「だから、風呂にだな…」 真面目な顔でこれは刃兼。だが、 「に゛ゃっ! ちょ、まっ、風呂は勘弁でありんすーっ!」 キクイチは大の風呂嫌い……どろどろになった体でも風呂だけは入りたくないようで、 「あ、こら、待てーー!!」 「待たないでやんすーー!!」 この後彼がどうなったかは……言うまでもない。 |