みっちゃんの麦藁帽子
マスター名:奈華 綾里
シナリオ形態: ショート
EX
難易度: やや易
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/05/28 01:34



■オープニング本文

●突然の雨
 現在、竹の子のシーズン真っ只中。
 長屋の子供達も連れ立って、遠足宜しく近くの竹林に竹の子堀りへ。
 勿論おなじみのメンバーも一緒である。

「みっちゃんが一番大きいの取るんだもんねー」

 背丈に似つかわしくない大きな籠を背負って、今日は麦藁の帽子を被ったみっちゃんこと実が張り切っている。

「そんなの俺らが一番に決まってんじゃん! 女のおまえには負けないぜー!」

 ――とこれはガキ大将の牡丹だ。まだ春だというのに、半袖の着物でも全く寒くはないらしい。

「女の子とか男の子とかかんけーないもん! 竹の子さんはきっとみっちゃんを待ってるんだもん」

 そんな彼に負けじとみっちゃんが頬を膨らし、言葉で応戦する。

「そうだぜ、みっちゃんは負けない。なぜなら俺達がついてるからなー」

 そこで彼女の助っ人に現れたのは仲良し三人組の一人・巽だった。相変わらずのやんちゃ癖は残っている様で小さな傷は絶えないようだが、それでも太郎と比べるとやはり大人びて見える。

「たっつーがやるならボクもやるー」

 と今度は太郎が名乗りを上げたようだ。

「たっつーって呼び方変わってるぞ」

 そんな太郎に突っ込みを入れ、にかりと笑い楽しげな雰囲気が漂わせて――急遽ガキ大将vsみっちゃんズの竹の子堀り対決が行われる事となる。
 この竹の子掘り…子供にとっては結構な重労働ではあるのだが、宝探しをしている様で楽しいのかもしれない。少しだけ頭を出している竹の子を探して回る。迷子にならないよう予め範囲を決めて、三人は互いが視界に入るような位置取りで竹林をくまなく探し始める。

「あったー、これかわいい」

 そこでさい先よく一つ目を見つけたのはみっちゃんだった。緑の葉っぱが僅かに顔を出している。だが、そこで空が悲鳴を上げた。さっきまでは晴れていたのに、突然の雨――慌てて竹林を後にする。

「あっ…」

 その時だった。巽と太郎に両手を引かれて駆けていたみっちゃんの頭から麦藁帽子がふわりと宙に浮いたのだ。手を伸ばそうにも塞がれて視線で追うことしか出来ない。

「太郎ちゃ!巽ちゃ! 帽子が…」

 そう言ったのだが、

   ゴロゴロ ピシャーー

 雨は激しくなり、雷鳴にかき消され彼女の声は届かない。激しくなる雷雨に彼女は成す術がなかった。


●消えた帽子
 そして、雨は五日続く。探しに行きたいのはやまやまだったが、これでは動く事は出来ない。
 六日目にやっと晴れて、竹林に向かったみっちゃんだったがその帽子は見つからない。

「あれ、おばーちゃから貰った大事な帽子だったのにぃ…」

 今は亡き祖母が編んで作ったという麦藁帽子。シーズンではなかったのだが、たまたま衣替えの折に見つかって嬉しくて被ってきたものだ。

「どこいっちゃったんだろー…」

 ちりめんの花柄のリボンがついた麦藁帽子だった。みっちゃんが大きくなっても被れるようにと少し大きめに作ってくれたのだ。その事を思い出すと、思わず目尻に涙が浮かぶ。

「泣かないもん…見つかるもん…」

 そう思うのだが、何度探しても彼女の視界はその帽子を捕らえない。その後も巽と太郎を誘って、捜索は続いた。けれど、なぜだか飛ばされた付近での発見には至らない。

「あの日、風きつかった…別の所に飛ばされたかも…」

 ぽそりと太郎が言う。けれど、諦めきれないようでみっちゃんは探すのを止めようとしない。

「絶対あるもん。おばーちゃの帽子…ぜったいあるもん」

 そういう彼女をほおっておく事など二人には出来なかった。

「……わかった。あそこいこ」

 そこで巽が彼女を連れてギルドの前へとやってくる。そして、

「誰か手伝って下さいー!」

 お金はない。けれど、誰か助けてくれるかもしれない。
 今までだってそうだった事を思い出して、三人はギルドの前で開拓者達に呼びかけるのだった。


■参加者一覧
劉 天藍(ia0293
20歳・男・陰
紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454
18歳・女・泰
弖志峰 直羽(ia1884
23歳・男・巫
リエット・ネーヴ(ia8814
14歳・女・シ
蓮 蒼馬(ib5707
30歳・男・泰
エリアエル・サンドラ(ib9144
11歳・女・陰


■リプレイ本文

●成長
「みんな大きくなったな。元気…ではないようだな」
 みっちゃんの様子を見取ってギルドを訪れていた劉天藍(ia0293)が言う。
 彼女の表情は明らかに曇っていた。確かに建前は声を大きく出しているし、元気そうには見える。
 しかし、いつものあの無邪気な表情ではない。
「うん、そうだね…けど、みっちゃん泣かなくなったね。偉いぞ〜」
 そこへ弖志峰直羽(ia1884)がやってきて、彼女を軽く抱きしめる。
 二人は彼女達とは長い付き合いなのだ。遠足に始まり幾度となく三人を見守ってきている。であればこそ、少しの変化も見逃す事はない。
「何があったか、話してくれるかな?」
 泣きそうなのを我慢しているみっちゃんに直羽が問いかける。
「あのね…みっちゃんの帽子が無くなったの…」
 彼女の説明――所々は巽と太郎が補足する。
「判りました。お姉ちゃん達が探してあげるから、泣かないでね☆」
「泣かないでもふよ☆」
 するとその事情を聞き終える頃には、助っ人は六人と一匹に膨れ上がっていた。ちなみに一匹というのは、沙耶香・ソーヴィニオン(ia0454)の相棒のもふ龍の事だ。たまたまついて来ていたらしい。
「何度も何度も探したの…けど、見つからないの…」
 消え入りそうな声で…しかし、心の中ではまだ諦めていないようだ。それは握られた拳が物語っている。
 それに気付いて蓮蒼馬(ib5707)が手を伸ばす。
「大丈夫、実は帽子を大切にしていたんだろう?」
 突然の掌の温かさにはっと顔を上げ頷くみっちゃん。
「それなら帽子も大切に思ってくれるお前を置いてはいなくなったりしないさ」
 そしてそう付け加えると、ぎゅっと手にしていたもふらのぬいぐるみを抱きしめる。
「どうせぎゅっするならもふ龍をぎゅして欲しいもふー!」
 そこへまたもやもふ龍登場。その愛らしさに自然と固まった顔に笑顔が零れる。
「…なに心配せずとも良い。別の視線から探せば、きっとすぐ見つかるじゃろ」
 そこにエリアエル・サンドラ(ib9144)も加わった。少し照れ気味ではあったが、周りのムードに彼女も自然と馴染んでいく。

「よーし、じゃあ帽子捜索の為の第一段階発動だじえぇーー!」
『おー!!』

 そして、もう一人。違和感なく子供達に混じって大きく拳を振り上げたのはリエット・ネーヴ(ia8814)。
 ギルドの個室を借りて、まずは竹林の略図の作成に取り掛かる。三人の意見を纏めて、ごりごりと…落書きの様にもみえるが、そこはご愛嬌。子供達に判ればそれで万事OKである。
「折角だから牡丹君も呼んでこよう」
 その様子を見つめて、天藍が長屋へ。それに沙耶香も続く。
 実は彼ら…三人の話を聞いた時点で帽子の行方は大方の検討は付いている。
 場所が竹林である事、そして失くしたのが雨の日でその後も雨が続いたという事。
 それはつまり竹の成長を促すには打ってつけの材料が揃っていたという事だ。仮に雨が降らなかったとしても竹の成長というのはかなり早い。有名な格言がある位で…そうなると三人の視界には入らない場所――すなわち上にあると考えられる。後は、竹林の広さを考慮して、探せばきっと見つかるであるうと言うのが彼らの見解。
「広さからして、そう時間は掛からないだろう」
 牡丹に声をかけた後、こっそりと沙耶香と共に竹林の管理者の下を訪れていた天藍が言う。
「そうですね…でしたら、後は筍掘りで筍三昧です」
 とこれは沙耶香だ。
「そういう訳でまた掘らせて貰う事になると思うが、宜しく頼む」
 念の為話を通して――管理人の方もそれを快く了承した。
 なぜなら、次々と出来る筍に逆に手を焼いているのだという。
「贅沢な事ですね。売ればいいのに」
 そう思わなくもないが、掘るにも時間が掛かる為面倒なのだろう。
「それじゃあ、あんたは準備を頼む」
「わかりました」
 そこで二人は分かれて、それぞれ持ち場に向かうのだった。


●捜索隊
「ここが例の竹林かの…立派なものじゃな」
 青々と育った竹を見上げて、エリアエルが言う。確かにそこに広がっていたのは生命溢れる色の竹ばかり。
 葉の隙間からはキラキラとした光が差し込み、何処か幻想的な雰囲気まで醸し出している。

「それでは隊長、これより帽子探索の任務に入りますじぇ!!」

 リエットはなぜだか牡丹に敬礼すると、一目散に竹林の中へと消えていく。

「俺らも探すぞー!!」
『おー』

 そして、一同散開――長屋の子供達も集まって気付けばかなりの人数になっている。
「さて、我々も…劉殿、そちらは任せたのじゃ」
「ああ」
 そこで上を担当する事になったのはエリアエルと天藍だった。
 人魂を鳥に変えて、失くしたとされる場所を起点に空へと解き放つ。
「わー、すごーい」
 それに思わず太郎が声を上げる。そして、みっちゃんも見上げて鳥を追う。
「ここは王子様とやらの出番じゃ。実姫の為、頑張るのじゃぞ?」
 その様子を見取って小声で直羽を促すエリアエルだ。直羽も元々そのつもりであるからみっちゃんの隣でしゃがみ込み、
「おいで、肩車してあげる」
 と恭しく跪き微笑を浮かべる。
 彼女は鳥にはなれないけれど、せめてもう少し高い位置からみれば見つけられるかもしれない。どこまでも甘やかしてしまう体質ではあるが、それでも彼女が笑ってくれるなら悪くない。
「うんっ、ありがとー直羽にぃちゃ」
 彼女はそう言って彼の肩に足をかける。だが、彼はそれだけでは終わらなかった。
「あーずるいー」
「俺も乗りたいー」
 肩車を見つけた子供達が自分もして欲しいとねだり始めたのだ。
「あーと、えーと」
「もふ龍でよかったら乗せるもふけど…」
 そんな彼には助っ人参上。何やら帽子探しから反れつつあるが、これもまたお楽しみ?

 暫くそんな時が過ぎて――ようやく帽子の行方が発覚する。それを捕らえのはエリアエルだった。

「何かあそこだけ膨らんでおる…」

 見上げるのではなく空から捜索していた人魂がその違和感を見つけたのだ。
 少し近付いてみれば、竹の枝と枝に絡まれ葉まで伸びてしまっている為、容易に落とす事が出来ない。
 天藍の鳥でも些か力が弱くうまくいかない。

「揺らしてみたが、複雑に絡んでいる様でうまく落ちてこない。ここは上るべきか?」

 しかし相手は竹だ。蒼馬でも悠長に上っていたらしなるし、危険である。

「どーするの?」

 皆が集まってそれを見つめる。直羽も竿を持参してはいたが、残念ながら届かない。

「ここは私におまかせだじぇい!!」

 そこで本領を発揮したのはシノビの技だった。
 暗いムードを打ち消すように早駆からの三角跳――目にも留まらぬ速さというのはこの事だ。歯切れのいい音が三回したと思うと、上部の葉が揺れて気付いた頃には彼らの目の前に着地している。そして、勿論手には麦藁帽子…どこも壊れていないようだ。竹の葉にまみれながらもしっかりと竹からの奪還を成功させる。

『おーーーー!!』

 その身のこなしに圧倒されて、思わず皆から声が上がった。

「見つかってよかったねぃ♪ もう失くしちゃ駄目だじぇい!」
「うん、ありがとなのー」

 ぱさりと帽子を被らせて、今日はかっこいいリエットなのだった。


 そして、その後は時間も余った事で提案されたのは筍掘り大会。
 以前牡丹との勝負がうやむやになっていた事を聞き、天藍が提案したのだ。道具を持ち込んでいたので、スムーズにそちらへと移行する。
「あ…」
 前屈みになって探すものだから自然と頭から麦藁が落ちる。すると蒼馬がそっとそれを拾い上げ、
「こうすればもう失くさない」
 網目の隙間に髪紐を通して…顎下で結べるようにすれば、前に落ちない限りは首に引っかかる筈だ。
「ありがとーなの」
 今度は屈託のない笑顔を浮かべて、彼女の本来の光が戻ってきたようだ。
「みっちゃん、あっちに大きいのある」
「わかったぁ」
 そんな彼女を見つめて、彼も微笑ましく思う。
「…ほう、これが筍掘りか。なぜだかわくわくするのう」
 着物を汚れないようにしながらも初体験に心を躍らせるエリアエル。子供に混じっているせいが、あまりぎこちない態度が見て取れない。人付き合いは苦手の筈なのだが、好奇心の方が上回って居る様だ。
「確か、足元に出っ張った感触があって、そこにひびが入った地面があるとかが出る直前のものらしいですね〜」
 とそこへ何やら色々提げた沙耶香が戻ってきて声をかける。
「足の感覚も大事だよ」
 ――とこれは天藍だ。子供達が主役とばかりに見つけても自分では掘らず、さり気無く子供達を誘導している様だ。
「そ、そうなのかの……しからば、ここか…と、おおっ!!」
 教えられた通りの場所に筍を見つけて、思わず感動の声を上げる。
「あはは〜エリアエルちゃん、疲れてない?」
 そんな彼女を見つけて今度は直羽。しかし、どう見てもさっきのあれで彼の方が疲れて居る様に見えたり。
 そこで沙耶香と共同で周りを掘り起こして収穫へ。採れ立てはえぐみも少なく、刺身としても美味しいと聞く。
「早速頂いてみましょう」
 長屋と店からかき集めてきた調理器具一式――そこから包丁を取り出しすぱんと一発。皮も剥いていく。
「おおっ! なんと愛らしい。ここまで小さくなるのじゃのぅ」
 剥き終わった筍を前にエリアエルからも笑みが零れる。開拓者とはいえまだ十二歳…それぞれに事情がある。
 そこへみっちゃん母も合流し、筍掘りは終了を迎え今度は食事の準備が始まるのだった。

●料理
 勿論ここは料理人の出番である。もふ龍も手伝って、出来た料理は簡易的に作られた机に運ぶ。
「天ちゃん、味見していい?」
 本来なら料理の出来る天藍を手伝う筈だったが、へとへと気味で味付けだけを担当した直羽が近くにいた子供達と共に問う。
「別に構わんが、直羽。味見しすぎないように気をつけろ」
 と先に注意。少し不貞腐れて見せたりと二人の仲は相当なものだ。
「次は料理かの。料理とは魔法のようなものじゃな」
 そう言ったのはエリアエルだ。皆の手際のよさに目を輝かせている。
「あなたもやってみない?」
 そこでみっちゃん母が声をかけた。簡単な作業を彼女に託す。寿司飯を仰いだり、ゴマを入れて混ぜたり…触れ合ううちに自然と亡き母の面影が蘇る。
「大丈夫?」
 黙ってしまった彼女に声をかけて…何かを察したのだろう。その後はそっと頭を撫でつつ、落ち着くのを待つ。
「いつでも遊びにいらっしゃい。うちは貧乏だけどあの子も喜ぶから…」
 みっちゃん母の言葉にエリアエルは顔を上げ頷いた。


 一方、ここにもある人の面影を見た者がいた。
(「あれは、誰だ?」)
『蒼馬にーさま』
 聞いた事のある声が彼の脳裏に木霊する。しかし、目の前にいたのは竹馬に乗ったみっちゃんだった。
 料理をする待ち時間、男の子達の為にと竹を使って玩具を作っていた彼である。
 手斧で竹を切り、ナイフと荒縄で加工する。作ったのは水鉄砲と竹馬、そして竹とんぼだ。
「俺のが一番だって!」
 競って男の子達は竹とんぼを飛ばし、飽きたら的を作っては水鉄砲と言う訳だ。手先が器用なようで、どれも頑丈に出来ている。
「どうしたの?」
 固まってしまった蒼馬を覗き込み、みっちゃんが問う。
 彼には一瞬彼女が赤い髪の女の子に見えたらしい。それはきっと失った記憶…この既視感は間違いない。
「あ、いや……実のおかげで俺も大切な思い出を一つ取り戻せたよ。ありがとう」
 そう言って彼は優しく笑う。彼女が失っていたのは物質的にはただの麦藁帽子。
 しかし、それは単なの物ではなく思い出と同じだと彼は思う。
「そうなの? よかったね、蒼馬おにーちゃも」
 彼女はそう返して、再び竹馬に足をかける。だが、その頃には料理も完成し声がかかる。
「いこう」
 それに気付いて、蒼馬は彼女の手を取った。


 机に並ぶのは豪華筍フルコース――庶民的なのは天藍特製鶏肉と筍の煮物だ。やはり味見でそこそこ持っていかれたのか少し量が少ない。その横には直羽持参の抹茶塩で頂く天麩羅が。そして沙耶香からは筍ご飯に酢豚に田楽。刺身はえぐみが出ないうちにと先に皆で頂いている。それに付け足すように、みっちゃん母から筍寿司とお味噌汁。こちらはエリアエルも手伝った二品だ。
「さぁ、じゃあ皆でいた…」
 そう言いかけて、

「ちょっと待つじえぇぇ!!」

 遮るように立ち上がったのはリエットだった。アンニュイ顔で何かやるつもりらしい。一同の視線が彼女に集まる。

「これぞ、食の神に捧げる自作の踊り!!」

 そして彼女は恥ずかしがる事無くいきなり踊り始める。くるくる回ったり、側転したり…それに続いて掌を合わせて天に突き出すポーズを繰り返す。

「な、なんだ…?」

 一同全く訳が判らなかった。だが、どこか子供心を擽るものがあるらしい。

「竹の子さん?」

 その動きを見てみっちゃんが呟く。

「これ、みんなもやるー! 筍に感謝の踊りなんだじぇい!!」

 そして、訳が判らないままもそれは暫く続いた。結局、皆子供達は皆参加していたりする。それが済んだらやっとこご飯。なんだか動いたからか更に食事が美味しく感じる。
「やはり味噌汁は美味しいな」
 ほっこりしつつ天藍が言う。
「このお寿司も美味しいです」
「ご主人の筍ご飯も美味しいもふよー」
 とこれは沙耶香ともふ龍だ。筍を半分に切り被せるように寿司飯に乗せたあっさり味の棒寿司だが、気に入って貰えたようだ。
「う! えーさ餌! 今日のは旬っ♪」
「餌とはまた…しかし、本当に美味しいのじゃ」
 野性味溢れる感想にエリアエルのさり気無い突っ込み。竹林に笑顔の花が咲く。
 ちなみに大会の勝敗は? もうどうでもいいことのようだ。
 みんなと楽しく過ごせる事――それが一番の収穫だ。

(「きっとあの帽子はみっちゃんが迎えに来てくれるのを待っていたんだよ…」)

 言葉にする事はなかったが、楽しげに笑うみっちゃんを見つめて直羽が心中で呟く。
「ねーねー、さっきみたいにふーふーして」
 と言うのは隣の子。味見の時に火傷しないように彼はやってあげていたようだ。
「仕方ないなぁ〜」
 やはりどこまでも甘い彼だった。


 そして翌日――余談ではあるが、
「掌を合わせて立ち上がる動作をすると竹の成長が良くなるらしいぜ」
 と言うでたらめ食神ダンスが竹林持ちの中で噂になったのは秘密である。