熱くて厚い連中の暑い夏
マスター名:長谷 宴
シナリオ形態: ショート
無料
難易度: 普通
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/08/20 19:16



■オープニング本文

「あぢい‥‥」
「口に出して言うなよ余計暑くなる。ただでさえ依頼を求める人の多さがヤバいってのに。っつかそんなカッコで胸元扇ぐなだらしねぇサービスになってねぇ」
「こっちもアンタを男として意識してないからいいんですよってかさらっと酷いこと言いますね‥‥」
 暑い暑いと嘆き周りの身も心もうんざりさせるのは、知る人ぞ知る幸薄なギルド係員。今も、だらしなく服の前をはだけて少しでも涼しくなろうとしたのを馴染みの男性開拓者に見咎められたところ。そしてこれは、その通り名に納得させられる依頼が持ち込まれる数分前の出来事だった。


「頼む! 熱くて厚い連中に暑さを撒き散らすのを止めてやってほしい!!」
 野太い声でそう頭を勢いよく下げる中年男性に対し、係員が笑顔を浮かべているのは「うわぁー、何言ってるんだろうこの人」と思って思考がとまっているのではない。ただ「うるせえこの暑い中アツイアツイ連呼してんじゃねぇはったおすぞ」と言いたいのを我慢し必死に表情を取り繕っているからだ。
 係員の眼前、分厚い胸板に筋骨隆々の四肢を持つ壮年の男はギルドに入ってくるなり、熱の入った懇願をしてくる。しかも随所に挿入される『アツイ』というワード。彼と彼の行動全てが暑苦しいといっても過言では無い。
「え、ええと、とりあえず落ち着いてください冷静に話し合いましょう! 貴方は町の一角で迷惑行為に興じる者達を止めてほしい、ココまではいいですか?」
「うむ、その通り! 彼奴等は道の真ん中で服を着込んで鍋を行ったり、熱湯に入ったり、鍛錬を行ったり、押し競饅頭したりと周りの住人に自らの心身の逞しさを誇示しておる!」
 係員の確認に頷き、迷惑行為の内情を説明する男。聞いているだけで係員の顔色が悪くなっているのには気付かないらしい。
「まあなんと許し難い。しかし、彼らを排除するだけなら開拓者に頼まなくても良いのでは?」
「違う、ワシが求めるのは排除ではない! 彼と正面からぶつかり、熱き思いと厚い胸板をぶつけ合い、受け止めた上で説得して欲しいのだ!」
「えっ」
 係員、後退。
「確かにお上や住人の数の力を使えばいくら彼らとて退かざるを得ないのは確か。だが、それではいかんのだ! 自らの価値観を否定し排除する社会への怒りを覚え、より溝が深くなってしまう! 彼奴等に必要なのは対等にぶつかり、認め合った上でその過ちを正す者なのだ!」
 奮われる熱弁。更に後退し、周囲に助けを求める係員。「はやくその暑苦しい男黙らせろ」と視線での返事。自業自得である。
「はぁ、ウチにきた理由は分かりました‥‥。しかし、何でその人たちに理解が?」
「彼奴等は、かつてのワシなのだ‥‥世間を見下し、敵だと思っていたあの頃のワシに‥‥。だからこそワシが止めねばならんのかったのだが、馬鹿弟子共め、いつの間にかワシを超えておったわ」
 そう言った男は、先ほどまでの憤りの影は潜み、嬉しさと寂しさが綯い交ぜになったような表情で‥‥って弟子?
「あ、言ってなかったのう。毎年夏になるとワシが師となり彼奴等がやってるようなことをやっていたのじゃ。無論、人目につかないようにだがのう。今外で行っておる連中はワシから離れていった弟子達じゃぞ? その実力はワシをも超えているがの」
「あー、えーと、それってつまり貴方が原因」
「このままでは夏の我慢鍛錬自体が否定され、社会の敵となってしまうのでな。行い自体は素晴らしいことでも、嫌がる人をも巻き込んで不快にして良い道理は無い。どうか、馬鹿弟子たちの目を冷ましてやってくれ」
「はい喜んで」
 係員が「そんな行為素晴らしくねぇよふざけんな」と爆発せず満面の笑みで答えたのは、理解があったからではない。一刻も早く依頼人を去らせこのアツイ話を打ち切りたかったからだ。


■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191
20歳・女・泰
橘 琉璃(ia0472
25歳・男・巫
北条氏祗(ia0573
27歳・男・志
明智珠輝(ia0649
24歳・男・志
蘭 志狼(ia0805
29歳・男・サ
酒々井 統真(ia0893
19歳・男・泰
斑鳩(ia1002
19歳・女・巫
桐(ia1102
14歳・男・巫
喪越(ia1670
33歳・男・陰
陽胡 恵(ia4165
10歳・女・陰


■リプレイ本文

●ひーとあっぷ!
 照りつける日差し。引かぬ熱気。夏の暑さは否応無しに人々の活動の意欲を削いでゆく。だが、武天は安神の下町に例外アリ。
「ふむう。なかなかよい湯加減ですぞ兄者!」
「ふ、こちらも中々よい煮え具合だぞぉ!」
 もうもうと立ち込める湯気。片や風呂釜から、片や鍋から上がっている。しかもここはれっきとした通行用の道のど真ん中。馬が通るようなことが無い裏通りの道ではあるがその分、狭く、通ろうとしたら否応無くその熱気に当たらざるを得ない。
「はっはっはっ、私も早く湯につかりたいものですなぁ!」
「いやまったく!」
 そう言って汗を散らす男は鍛錬中。わざわざ炎天下の下で腕立て。さらにその脇を通りかかった、走り込みを行う男が頷き同意する。
「あぁ‥‥もっとだ! もっと力強く押し合わないと!」
 止めに恍惚の表情で押し競饅頭をする集団。見ている側が発狂しそうな暑苦しさである。故に、人通りはまばら。この有様を目の当たりにし去っていくか、うんざりとし、目を逸らしながらもこの場から動くことの出来ない商売や住まいの者が残るのみ。だがそんな暑苦しい真夏の悪夢を吹き飛ばす風が来た。


「貴様らは全くなっておらん。叩き直してやる」
 互いの健闘を讃えるアツイ連中の熱気むんむん和気藹々とした雰囲気をぶち壊す一言を投げかけたのは、蘭 志狼(ia0805)。穏やかというかうっとりしていた男達の表情が変わる。
「な、何を言う! 我々の精神鍛錬にケチをつける気か!」
「ちょっと暑そうな格好をしてるからと言って粋がるなよ!」
 確かに、志狼の格好は鎧にサーコートを傍から見てればさらに薪を足し、熱さが増したように見える、更に。
「てめぇらの暑さ鍛錬は自己満足‥‥井の中の蛙、大海を知らずって言葉の意味、教えてやるぜ!」
 酒々井 統真(ia0893)のアツい言葉が状況をヒートアップさせる。いきり立つ。アツい連中。増す熱気、だが、実はこれも開拓者の計算通り。
「そこまで言うなら見せて貰おうか、お前達の根拠を! 我々の行いを一蹴する自信の源を!」
 そうだそうだ、と同調する男達。その反応に笑みを浮かべるのを我慢しつつ、二人の開拓者は本題をさらりと切り出す。
「いいぜ。こんなしけた場所じゃぁ勝負に相応しくねぇ。相応しい舞台を用意した!」
「それほどまでに自信があるのなら我々が勝ったなら此方の要求を呑むと誓え。負けた時は貴様らの言い分を聞いてやる」
 その、火に油をそそぐようなあっつい返事に男達は一も二も無く承諾。勝負をするにも迷惑になるこの場から離れ、別の場所で改めて対決するという挑発の目的を達成する。しかし、そこに至るまでの含んだ光景は、まさに 橘 琉璃(ia0472)の言葉、「この真夏に、よくやりますねえ‥‥見ているだけで、余計に暑苦しいですね」で現すのが適当だろう。ちなみに二人の開拓者がそこに含まれてるかどうかは敢えて気にしないでおく。


「はいはーい、この注目のイベント我慢大会はこっちだぜー! 暑さに苦しみ、もがきながら健闘する姿を敢えて見るのも一興! 良い席で見たかったらあとでこっそり俺に‥‥っと嘘ですゴメンナサイ、ハイ! お縄は勘弁な〜」
 さて、開拓者に引き連れられて男達が連れられてきた開けた場所には、喪越(ia1670)らの喧伝のおかげか人だかりが出来始めていた。
「むっ、われらが崇高な鍛錬を見世物扱いか‥‥」
 その様子に、引き連れられてきた男の1人は、眉をひそめる。と、そこに近づくおっとりとした雰囲気の少年が近寄った。
「自分達だけで熱くならずに私達と勝負してどちらがより熱さに強いかやりあいませんかー?」
 そういって、笑みを浮かべながら問うのは、巫女の桐(ia1102)だ。
「むっ、確かに我々の鋼の如き意志の力を世に知らしめることが出来ると考えればよい機会だが」
 そういって答えた男の顔には桐の言葉の「私達」のところに「?」と怪訝な表情。まだこの程度の子供が相手をするというのか? だがその戸惑いを桐は笑顔を浮かべたまま首をかしげ、粉砕する。
「それとも自信ないですかー?」
「―――っ!」
 少年の言葉に、思わず言葉をつまらせる男達。ここまで言われて引き下がれようか。だが、勝負は引かないにしても、それを勝手に見世物にされるというのは上手く乗せられているような気がして面白くない。だが、そんな逡巡を吹き飛ばしたのは、これまで暑苦しいので挑発は他の者に、任せ推移を見守っていた水鏡 絵梨乃(ia0191)。
「まったく、ノリが悪い連中だな、さっさと覚悟決めなよ。もし迷ってるって言うなら、1つ、条件を出してあげる。そっちが負けたら今後ああいった迷惑のかかる場所で鍛錬しない! もし勝ったら‥‥一緒になって鍛錬してやる」
 一瞬の硬直のあと、男達の視線が絵梨乃のよく育った肢体に集中。そして直後のどよめきと歓声と動揺と混乱と喧騒、その暑苦しさは、まあお察し下さい。


●隔離されたとある開拓者のモノローグ
 あぁ‥‥あんな厚い胸板を持つ殿方達と合法的に肌を合わせてキャッキャウフフな押し競饅頭‥‥。あぁ、なんて破廉恥で背徳的で甘美な響き‥‥。楽しみでどうにかなってしまいそうですよ‥‥!


●そんな対決ありえません
「信念を貫くのは素晴らしいと思います。ですが、他人様に迷惑をかけてまで道を貫くのは邪道なり、です。屈伏させてみせましょう、ふふ、ふふふ」
「ふむ、明智は押し競饅頭に参加するのか。私も気をつけるが巻きもまれて押しつぶされないようにな。‥‥というか、随分楽しそうだな?」
 啖呵を切る明智珠輝(ia0649)の言葉にどこか熱がこもっていないというか、別のところに本音がありそうというか。その明智の目つきがいやらしく、もし言葉にして表せばどこかに隔離せねばならないことに、志狼は幸か不幸か気がつかなかった。

「えー、それでは、第1回真夏の我慢大会、始めます。それでは第一種目押し競饅頭に参加する方どうぞー」
 司会進行を務める琉璃により、いよいよアツい対決の火蓋が切って落とされる。何となく琉璃は面倒だという心の声が聞こえないでも無いが、その表情は笠の薄布に覆われはっきりしない。
「おや、志狼さん、鎧のままですか? アツいし邪魔になりますよ。脱いだ方がよいのでは」
「いや、このままでいかせてもらう。この程度の暑さ、気合と根性、誇りがあればなんとも無い」
 珠輝の言葉に、志狼は首を振る。押し競饅頭の場合周りが痛そうであるが、そこには気がついていないらしい。珠輝を一緒に潰さないよう配慮するつもりではあるが。だがこの時むしろ気付くべきだったのは、この時向けられた珠輝の視線に含むものだった。が、褌+ブーツという少々エキセントリックな彼の格好を特に気にも留めなかった彼にはそれを要求するのは酷である。
 さて、アツイ連中からも二人の男が歩み出てくる。筋肉質ながら、絞りすぎず程よい弾力も保持している、実に体積の大きそうな二人。この時珠輝の舌なめずりに選手の誰かが、この後の悲劇は避けられただろう。
 だが、筋肉馬鹿どもはこの後の熱戦に思いを馳せるばかり。琉璃の声と共に押し競饅頭が始まった時には、全てが手遅れだった――。


「あぁっ、鎧が外されていく!」
「あいつ‥‥ぬるりと動くぞ!! 真ん中でただ翻弄されているだけじゃない、むしろ周りの奴らの方が苦しそうだ!」
「――まて、今空を舞ったのはふんど」


「えー、それでは第1種目、いい感じに煮えた鍋です。選手の方、どうぞ」
 ――無かったことにしやがった!?
 選手が向かい合う中央に二つの鍋を置いたのは陽胡 恵(ia4165)。まだ幼いながらも開拓者だ。しかし、彼女は1人のスタッフとして鍋の用意をしていたし、開拓者達の一員であると悟られるような行動をとうろとはしなかった。不公平だとあとで言われる訳にはいかないからだ。勿論、鍋に仕掛けは無い。
(お兄ちゃんとお姉ちゃん達、がんばって‥‥!)
 仕事を終えた恵は、選手たちの活躍を見守ることしかできない。だからこそ、その目は真剣なものになる。
「ふふっ‥‥俺の出番だぜ! っていうか貴重なマトモな飯。炎天下の鍋だろうと俺にはご馳走にしかみえないぜ?」
 その期待を受け、前に進み出る開拓者側の選手は喪越だ。苦しい放浪生活をアドヴァンテージに思うと何故か涙が目にしみる。いや、心の汗かもしれない。開始の合図とともに凄まじい勢いで箸を伸ばす喪越。
「さぁて、先ずはゆで卵から行きますか!? ――おうっと、すべっちまったぜ!?」
 わざとらしい声とともに、箸からゆで卵が離れ対戦相手の顔に激突。と同時に硬い音が――って硬い音? 殻つきゆで卵?
「あれ、思わぬ美味しさに感動して動きが止まっちゃった? 鍋って、何時も食べるものだけ入れて煮込んで、熱々にしちゃえばいいだけだから簡単だと思ったけど、やっぱり何時も料理するところを見て勉強した甲斐があったわね!」
 無邪気な笑顔で嬉しそうにガッツポーズを決める恵。選手二人が改めて鍋の中身を確認して硬直しかけてる理由について美しい誤解をしている。
 まあ、いくら開拓者といえど10歳は10歳であった、ということだ。自信満々な上開拓者であることから誰も恵の料理を疑っていなかったが、そこまで開拓者は万能では無い。
 さて、自信に満ち溢れた先ほどまで違い、互いの選手の顔色は心持ちブルーである。先ほどこぼした卵の殻を剥いている喪越はともかく(鍋の中身は全て本人が食べなくてはならない。落とした物も)、鍋の中を探るアツい一味の選手は何かもうアツくない。「どちらの選手も頑張ってくださーい!」と扇を持って楽しそうに跳ね、応援する斑鳩(ia1002)辺りと比べると酷い落差である。なお観客も予想外ながら一つ障害が増え、混沌とし色んな意味で行方が分からなくなった勝負に盛り上がりを見せている。その様子を見て、イベントを盛り上げようと立ち回っている斑鳩は嬉しくなり応援はさらに弾む。沈むのは鍋の前の二人だけである。
 その後、何か別の我慢較べと化した鍋対決は喪越が制した。普段から鍛錬とは言え美味しい物を食べてきたアツイ連中と、食事出来るかどうかも危うかった喪越。慢心・環境の違い。


 なお、華麗にスルーされた押し競饅頭ではあるが、全員その場に倒れるという結果だけが残っていた。一応、珠輝以外の三人が暑さ以外の何かで倒れたあと、最後に残った珠輝も生涯に一片の悔いも無い感じの笑顔のまま鼻血を吹き倒れたという経過も報告されたが、「押し競饅頭だなんて、そんな競技ありえません」と存在自体を抹消されたようだ。


●誰かはそれをお約束と呼ぶ
 続く競技は熱湯風呂である。開拓者側からは絵梨乃と北条氏祗(ia0573)が進み出る。
「さて、ボクの番か。さっきは仕方なく条件出しちゃったけど‥‥良かったのかなぁ? あの人たちの反応見てると不安になってきた。まぁ、必ず勝つけどな」
「小細工無用、拙者は正々堂々いかせてもらうぜ、――鍛えさせてもらう!」
 絵梨乃の登場に、若干の動揺が見られる対戦相手だったが、すぐに気を取り直した二人が歩み出る。4人の前に並ぶ熱湯風呂。
「行くよ。‥‥皆、応援してくれると嬉しい」
 そういってパシンと両頬を叩き気合を入れた絵梨乃は着衣を勢いよく脱ぎさる。表れたのは豊満な、瑞々しく魅力溢れる肢体。辛うじてジルベリア由来の黒い水着が見えてはいけないところを三角の布で覆っている。身を包むことより、下品で無いように魅せつつどれだけ布地を削れるかを突き詰めたデザインである。湧き上がる歓声。目を逸らす対戦相手。全て、絵梨乃の計算通りである。
 が、風呂の前まで進み難しそうに唸る絵梨乃。さすがに放たれる熱気は凄まじい。まずは、と湯の表面に指をつけようとする。
「まずは熱さを確認するだけだから押すなよ? 絶対に押すな――んっ!?」
 絵梨乃、不本意ながら入浴。しばらくもがいたあと何とか這い出したかと思うと、冷たい水が張られた桶に一直線。なんとか落ち着き、ようやく涙目でイ息も絶え絶えに一言。「‥‥湯に身体を噛み千切られたかと思った」、と。
 なお、彼女の背を押した犯人だが杳として知れない。 付近でからかうような口ぶりの喪越とむきになって言い返す様子の統真が目撃され、「舐めるな、色事苦手とは言え水着如きに動揺しないってのを見せてやる!」と統真が飛び出していったとの情報もあるが、確認は取れていない。というか、観客(と対戦相手)は絵梨乃に意識を集中させており、他は目に入らないというか意図的に知覚しなかったらしい。
 で、その間に熱湯風呂に浸かり、斑鳩の「苦しいなら無理しないでもいいんですよー。お水もありますよー。美味しいですよー」という応援? を受け奮闘していた氏祗だが先に熱湯から出ることとなってしまった。明らかに限界を超えた対戦相手が湯から出なかったのが原因だ。普通なら勝っていた勝負。こうなった理由は、対戦相手の「熱膨張してしまった‥‥」という意味深な台詞が握っているとの見解もある。が、結果はともあれ熱さに耐えてよく頑張った、感動した! と言っていいだろう。ただ、彼の目的の一つ面白い称号には、少し行動に突飛さが足りない。というか君は多分そのポジションじゃないぞ氏祗。「拙者が倒れたとしても誰かが仇を討ってくれるだろう‥‥」と言って臥せた彼には聞こえていないだろうが。


●そして伝統へ
 さて、最後の戦いは至極単純。鍛錬である。開拓者からは統真が出場。なお、ようやく回復した志狼も参加しようとしたがさすがに走馬灯で亡き妻まで見た彼を出すわけにはいかず、斑鳩が巫女の力を使い看ている。対戦相手も、正に鍛え抜かれた漢オブ漢といった風情。観客の期待も高まる。が。

「いやー、やっぱり暑い中で食べるかき氷はおいしいよねー。精霊力のお蔭で夏でもある氷だから安くないのが残念だけど、食べなきゃやってられないよね!」
「双方ぎりぎりまでやりあう勝負はまた別物なんですけど、ノリノリだとまた違っちゃうんですねー」
 美味しそうに冷たい甘味を頬張る恵の言葉に、桐は頷く。準備や設営、運営手伝いなども全て終え、あとは観戦するだけの二人だが、対決の様子に意識は無い。面白くないからだ。選手二人とも中々苦しまない上に自分の世界に入ってしまって。


 その後、何故か虎の仮面を被った依頼人の師匠と、離反した弟子たちとの涙の和解有り、興行成績という実績により、迷惑をかけないようにするなど条件付で活動を認められ、夏の恒例行事化も前向きに検討されたりと話は大団円へと向かった。その話の最中も後ろで鍛錬対決が行われていたような気がするが多分気のせいだ。

 これが、いつしか花火大会と並ぶようになった安神の目玉行事、真夏の我慢大会の記念すべき第1回大会である‥‥といいなぁ。