薔薇との遭遇
マスター名:叢雲 秀人
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/01/07 00:26



■オープニング本文

 漆黒の長い髪に、大輪の薔薇が宿る美しき姫。
 伸ばした手の先には薔薇の蔦が紋様のように絡みつき、『彼女』は其れに真っ赤な唇を落とした。
「ほう‥‥京が姿を消したか‥‥」
「へい、手前の店があります街に来た当日のことです。一座の者に『街を冷やかしてくる』と、出たっきり戻ってきていない。とのことでして‥‥」
「その後、一座の者にも姿は見せずに消えたということか?」
「左様で」
「面白い‥‥。さて、成敗されたか‥‥寝返ったか」
 懐から出した大振りの扇を口元へ運ぶと、『薔薇姫』はニヤリと笑った。
「ひ‥‥っ」
 扇に隠れて口元は見えずとも感じられる、その笑顔の恐ろしさに男は息を飲んだ。


「娘たちよ‥‥、今宵も我に力を‥‥」
 薔薇姫は、屋敷地下の扉を開けると目を細める。
 娘たちの流す涙、苦しさに浮き出る汗の香り。其れは比類なき甘美な香り。
「助けて‥‥」
 娘の一人が途切れそうになる呼吸の奥で囁く。
 その手には美しい大輪の薔薇。
 薔薇に彩られた娘の手を取ると、にこやかに微笑む。
「そなたらは、愚かしい『人』としての器を脱ぎ捨て、我の一部となる。我の力となり、永遠にこの身の中で生き続けるのじゃ。‥‥嬉しゅうはないか?」
「‥‥ぁ‥‥」
 薔薇姫の瞳に見つめられ、娘は瞬きも出来ずに薔薇姫を見返す。
「のう?その老いさらばえ醜くなる器を脱ぎ捨て、此の美しい我の中で生き続ける事、至福であろう?」
 娘はそのまま崩れ落ち、意識を失った。



「遅くなって済まない」
 青柳新九郎(iz0196)は、開拓者たちが待つ席に座すると頭を下げた。
「今回の依頼は、先だって別の開拓者が請けた依頼を引き継ぐものとなる」
 机の上に地図を広げ、新九郎は言葉を続ける。
「今回の依頼には、『京』と言うアヤカシが味方として関わる。『京』は、『薔薇姫』という上級アヤカシの配下だったアヤカシだ。年端の行かぬ娘をたぶらかして攫い、悲しみや苦痛に苦しむ心を吸い取って己が力としていた」
「そのアヤカシが何で味方に?」
「攫おうとしていた娘を開拓者に奪還されたのが切欠で、奴は薔薇姫に見捨てられ、開拓者たちをおびき寄せる餌とされた。だが、逆におびき寄せた開拓者に捕えられた。捕えた開拓者の説得もあり、薔薇姫を討伐するための味方となったというところだ」
「アヤカシが、そう簡単に説得されんのかねぇ?」
「――其れは、判らぬ。しかし、今回の依頼は『薔薇姫を誘き出し、倒すこと』『囚われた娘たちを助け出すこと』の、2点。その為には、薔薇姫の拠点に向かわねばならぬ。京は、薔薇姫の拠点を知っており、薔薇姫を呼び出すことが出来る。そこまで役目が果たせれば、それでいい。もし薔薇姫と逢い見えた先で寝返るのであれば、薔薇姫もろとも成敗するのみだ」
 情を見せぬ新九郎の言葉。ともすれば『アヤカシ』である京に肩入れしそうになる自らを戒めるようにも聞こえる。
「京は既に薔薇姫へ『自らが餌となりおびき寄せ、開拓者達を殺すことに成功したので、今一度目通り願いたい」と、連絡をしている。今後、薔薇姫より色よい返事があれば拠点へと向かう。その際に皆に同行してもらいたいのだ。勿論、ギリギリまでアヤカシ達には気づかれぬようにな」
「そして、一斉に薔薇姫を攻撃するって事か」
「否、出来れば先に囚われた子たちを救出したい。薔薇姫が京と逢っている間に、薔薇姫の屋敷より子供たちを奪還する。もし、手を割けるようなら半数で薔薇姫の討伐にあたることも出来るだろうが‥‥奴は相当手ごわい。戦うなら全員で臨まねば、勝つことは出来まい。子供たちの救出だけで終わらせるか、救出した後で薔薇姫に闘いを挑むか。それとも――子供の救出より先に薔薇姫を倒すか――。選択は皆に任せる。――京の身をどうするかも、な」
 開拓者たちの前に地図が広げられる。
「向かうは、東房の山中にある薔薇姫の屋敷。その建物の地下に、子供たちは囚われているらしい。京は屋敷より薔薇姫を誘き出し、少し離れた場所で逢うことになる」
 開拓者たちは新九郎の言葉に頷くと、彼の顔を見据える。先ほどより更に真剣な面持ち。
「最後にもう一つ。薔薇姫の配下は20〜30体のアヤカシ。それぞれに更に配下を持っているらしい。京と逢う場に、薔薇姫が一人で来るとは限らない。また、薔薇姫の屋敷にも、配下のアヤカシが居ないとは言い切れない。其れも踏まえた上で、作戦を立ててくれ」 


■参加者一覧
風雅 哲心(ia0135
22歳・男・魔
紫焔 遊羽(ia1017
21歳・女・巫
林堂 一(ia1029
28歳・男・陰
ラクチフローラ(ia7627
16歳・女・泰
不破 颯(ib0495
25歳・男・弓
千鶴 庚(ib5544
21歳・女・砲
パニージェ(ib6627
29歳・男・騎
一之瀬 戦(ib8291
27歳・男・サ


■リプレイ本文


「虫ケラどもを倒したと。其は誠か――?『京』よ」
 夕闇けぶる山中で、高く低く響く声。
 其の声は、京の体に、脳に、精神(ココロ)に、絡みつき擽る――。
「‥‥誠にございます、薔薇姫様。此処に、その欠片を」
 其の声を振り切るように、京は息を吐いた。そして懐に手を入れると、血に塗れた衣服の切れ端を取り出した。
 作戦の前に、林堂一(ia1029)と千鶴庚(ib5544)に、託されたものだ。


「‥‥ああ、ちょい待ち。」
『では』と、薔薇姫の下へ向かおうとした京を、一は呼び止めた。
「薔薇姫に‥‥俺等を殺したって、伝えるんだろ?これ、持ってけ」
 証拠と言うにはちゃちいけど、と付け加えて差し出したのは自らの衣服の切れ端に血を塗りつけたもの。
 少しでも、薔薇姫の目を誤魔化せるようにとの配慮。
 それを、じっと見つめていた庚。
「‥‥って、チヅ、何してんの」
「――っ」
 自らの身を刃で傷つけると、流れ出る血を吸わせた衣を差し出す。
「まあ、彼女に嫌われてる女の物だし、要らなきゃ捨てて頂戴」
「いや‥‥嫌われてるなら、尚良いかも知れぬ」
 京は差し出されたものを受け取ると、気位が高く、自らを愚弄したものを決して許さぬ薔薇姫を思い起こす。
「京さん、私たちは貴方が裏切らない限りは、攻撃はしないわ。でも、もし裏切ったことが判れば、傍にいる人たちが貴方を成敗する――」
「あぁ、判っている」
「それから、薔薇姫の事が済んでも――保障は全くされない」
「そうだ、な」
 思ってはいた事だとしても、庚から直接告げられると、京は瞼を伏せた。
「聞いていいか?」
 京は眼を開くと庚を見つめる。
「何故――それを教えた?いずれ成敗される可能性があるのならばと、裏切るとは思わぬのか?」
「‥‥利用だけして味方を騙し討ちなんて卑怯で嫌。したくもさせたくもない。――かつて娘を害した者が相手でもね。この、薔薇姫と対峙するという危険な役を担うのが貴方の償いなら、償いの先は悔いを残さないように生きなさいな」
 見つめ返す庚の瞳。其れは謀略に溺れ、味方にすら事の真実を告げることのない薔薇姫とは、まったく別の光。
(あぁ、そうだ――。私は、この瞳に惹かれたのだ)
 先の戦いで、何故開拓者の側に付く事を選んだか。
 上級のアヤカシを裏切ることなど許されぬ、しかし、其の轍を敢えて踏んだのは――この瞳。
(ただ、己の真実を貫こうとする、曇りのない眼。私は、其れに焦がれた)
「案ずるな。裏切ることは、ない。このココロが揺るがぬようにだけ、注意する」
 薔薇姫は恐ろしい魅了の術を使う。普通の魅了より、ずっと深く、重い。それだけは、抗えるかは――判らぬ。
「もし其の時は――斬ってくれ」
 薔薇姫と落ち合う場所へと共に向かう開拓者を振り返り、告げた。
 風雅哲心(ia0135)、パニージェ(ib6627)は、元よりそのつもりだと頷いて見せた。
 その心は、娘の救出を担う一之瀬戦(ib8291)も、同様。
 仲間たちが京と言葉を交わす中、ただただ、睨み付けている。
(裏切るのならば殺すが使えるのなら生かす。唯其れだけだ)
「アヤカシだろうがなんだろうが、敵じゃないならそれでいいと思うんだけどねぇ。まあ、今回はよろしくなぁ」
 不破颯(ib0495)、彼も薔薇姫を食い止めるため、京と同行する班に属する。
「其れでは、行くか」
 其々の反応を見ると、踵を返した京の背中へ、一声。
「――諦めんなよ。頑張れ」
 一の声。
 己が想いを見透かすような言葉に、かつて『人で在った頃』を思い出した――。


「其れは‥‥あ奴等の躯から剥いだものか‥‥?」
 数刻前の出来事に思いを馳せていた京の思考を遮る声。
 薔薇姫は、京の差し出した布を受け取る。
「は‥‥」
「――あの女を、殺ったか」
 衣の切れ端から香る、憎き女の香り。
「我を愚弄したあの女の命を絶ったか――でかしたぞ、京」
(かかったか)
 大きな扇で口元を覆い、高らかに笑う薔薇姫。かつての戦いで抱いた、庚に対する憎しみは未だ彼女の中にあり。
 その怒りは、狡猾で疑り深い彼女の思考を鈍らせるには十分だった。
 近くに潜む開拓者は上々の滑り出しに息を付き、二人の様子を注視し続けた。
 そんな中、ふとパニージェは己の掌を見つめる。
 其の手に残る、ふわりとした温もり。班は分かれても、譲らないと決めた女(ひと)を想った。


「老いに怯え、人を殺し‥‥保つ姿。‥‥そうしてまで綺麗になって、誰が見てくれるんやろか‥‥」
 薔薇姫の館に向かいながら、紫焔遊羽(ia1017)は過去を思う。
 かつて愛してくれた人は、自分を見てくれなかった。
「‥‥見て貰えるなれど、手段が、ちゃうやろて」
 そして、今想う人を思い出す。
 別れ際、頭に触れた掌の温かさ。彼の人は――見てくれる。けれど其れは、己の若さや美しさではなく――。
「こっちよ!」
 先を行く庚の声が響く。館はもう――目の前に在った。
「うまくアヤカシに会わずに来れたね」
 ラクチフローラ(ia7627)が辺りを警戒しながら呟く。
「確か、地下に囚われてるんだった‥‥よな。うー。狼とかが見張ってそうなヨカーン」
 一は軽く身震いしつつ、仲間たちの後方より歩を進めた。


「して、京――。己が望みは何だと申すか?」
 薔薇姫は扇を畳むと、其の先で京を指す。
「――今一度、薔薇姫様のお膝元に」
 京はそう告げると、地へ膝を付く。
(寝返ったか?)
 その様を見守る楓らは、其の言葉の真意を見抜くべく身を乗り出した。
「ほう――。あれだけの失態を見せておきながら、か?」
「其れは、開拓者たちの命を以って償ったと――、其れでも、お許しいただけませぬでしょうか」
「まぁ、憎きあの女を殺めた事、手柄で在るとは思うておる。しかし――それしきで許されるものだと思うか?そこまで許して欲しくば。試しに‥‥其処なに潜む虫ケラを殺してみるがよい」
「――っ」
 京の肩がびくりと震える。
「やはり‥‥開拓者共の手に堕ちたか‥‥。己も、虫ケラの仲間へと戻るか――ならば、消えろ」
 薔薇姫の手がひらりと翻る。其れに呼ばれるように、地の底から薔薇の蔦が這い出してきた。
「バレてたんなら仕方ないねぇ。その前に、俺たちと遊ぼうぜ?」
 茂みの中から響く声、其れと共に楓の矢が薔薇姫の頬を掠める。
「薔薇姫か。前に似たような上級アヤカシを見た事はあるが、そいつとは違うようだな。まぁいい、相手にとっては不足はない、やってやるぜ」
 陰から姿を現した哲心が武器を構え、楓は未だ茂みの中、次の矢を番える。
 その前に、すっとパニージェが立った。二人の盾となるために。
「矢張り潜んでおったか、開拓者め。それだけの数で我に勝てると思うてか――面白い、京ともども、食ろうてやるわ!!」
 薔薇姫の声が響き、薔薇の蔦が京へ、開拓者へ、襲い掛かった。


「簡単にはやられないよ」
 一が蹴破った穴から地下室に飛び込むと、待ち構えていたのは数体のアヤカシ。
 慌て、飛び掛るアヤカシを倒すべく、鷹が舞った。
「ラクチフローラ!」
「これだけの数がいるし、先ずはアヤカシを排除してから、かな」
 先頭のアヤカシめがけ、空気撃を放つ。転倒したアヤカシを後ろのアヤカシを受け止め、屋敷地下でも戦闘が始まる。
「とっととどいて頂戴!」
 作戦の最優先事項として決めた、娘たちは、このアヤカシの先に居る。
 薔薇姫の足止めをしている仲間たちのことも気がかりだ。勿論、京のことも。
 庚の弾丸は、容赦なくアヤカシたちを貫く。
 開拓者たちは其々が協力しあい、アヤカシと戦う。しかし、一体ずつもそれなりの強さのアヤカシだ。娘たちの下へはなかなか到達できず。
 いくら、数人の娘が囚われるだけの広さがあるとは言え、地下は戦うに十分な広さではなく、アヤカシを回避して先に進むのは難しかった。
「俺が引き寄せる。お前らは先にいけ」
 戦が咆哮を上げる。その声に呼びよせられ、アヤカシは一斉に戦へと向かった。
「私も手伝うよ。三人は先に行って」
 アヤカシに群がられる戦の手助けをすべく、ラクチフローラはその場へ残り、アヤカシを引っぺがしては攻撃を加える。
「早く行って!」
 ラクチフローラの再度の声掛けに頷くと、残る遊羽、楓、一は、間隙を縫うように地下奥へと向かった。

「あぁ‥‥」
 アヤカシたちを回避して到達した先には、壁から生えた薔薇の蔦に自由を奪われた子供たちの姿。
 其々、体のあちこちより薔薇を咲かせ、蕾を膨らませている。
「‥‥今、自由にしてあげる」
 庚たちがむしりとるように薔薇の蔦を切り裂き、はずしていく。
 子供たちは、信じられないとでも言うように互いの顔を見つめていたが、徐々に自由になる体に息を漏らす。
 けれど――我が身を見れば、未だ体の至る所に咲き誇る薔薇。其れはまだ薔薇姫の脅威の下にあることを示し、彼女らの心を死へと誘おうとする。
 その心を救おうと、一は瘴気回収、遊羽は解術の法を試みる。
「頼むて、これ以上‥‥咲かんで‥‥!」
「待ってろよ、必ず助けてやるからな」
「あ‥‥」
 遊羽が手を取った娘から、薔薇がポロリと落ちた。
「よかった!」
 解術の法が効果を発揮すると見るや、一は娘たちの回復に当たる。
「生命力も大分持ってかれてるみたいだし‥‥気休めかもだけどな」
 治癒符を使い、一人ずつ娘の様子を確認し。
「‥‥あ、梅干食べるか?」
 一人の娘を背負い、懐から梅干を取り出す。
「取り合えず、此処から出ましょう。蔦はすべて外し終えたわ」
「こっちも終わったよ」
 戦い終えたラクチフローラが戦を伴い姿を現す。
 安全が確保されたことを確認すると、開拓者たちは地下から脱出した。


「氷なら少なからず効くはず、試してみるか。‥‥轟け、迅竜の咆哮。砕き爆ぜろ―――アイシスケイラル!」
 哲心の呪文と共に、薔薇姫へ氷の刃が放たれる。其れは、美しい振袖を引き裂き、冷気が侵食していく。
「小賢しい魔術を使いおって!我の美しさを傷つけるものは許さぬ、退け!!」
 氷を払うように手を振ると、幾粒もの蕾が哲心を襲う。
 カキィン!!
 構えた盾で蕾を凌ぎ、パニージェは前に出た。
「美しさに固執する、か。世は全て移ろうもので在ると言うのに」
「我の美は永遠じゃ。其れが何故判らぬ?貴様も我の顔をよく見てみるが良い」
 薔薇の蔦がパニージェの手に伸び、絡みつく。
「く‥‥っ」
「ガァァァァ!!」
 その蔦を引きちぎる影。
「京!」
 薔薇姫との戦いの中で、京はアヤカシの姿へと戻り。その凄まじいとも言える力を奮っていた。
 けれど、蔦に片腕を奪われ、もぎり取られ。
 其れでも、自分を救おうとしてくれた開拓者たちのため、まとわり付く蔦を払い、竜巻を巻き起こす。
 強い風は薔薇姫の礫を落とし、薔薇の蔦の行方を惑わす。
「目障りな奴め‥‥。ならば!」
 颯の後方、自らが根城とする館へと視線を移すと、薔薇姫は飛翔する。
「行かせるかっての!」
 一閃、バーストアロー。衝撃波が薔薇姫を襲い、バランスを崩し地へと落ちた。
 其処へ、地下から脱出した開拓者たちが合流する。
「待たせた」
「娘たちは?」
「無事だ、チヅに任せてきた」
「よし、じゃあ後は‥‥」
「頼りに、してますよってな?」
 後方から、響く声。途端、パニージェの体に力が漲る。
 遊羽の舞に押され、一の符に癒され、開拓者たちは薔薇姫を押し始める。
「美しいもんも良い女も大好きだが、アヤカシは醜いから大嫌いなんだよ」
 一気に数が増えた開拓者に、体勢を整えようとした薔薇姫めがけ、戦は一歩踏み込むと、全体重をかけた一撃を放つ。
「くっ、これしきの力。我には物足りぬ。だが‥‥我が元へ来れば、更なる力をくれてやるぞ?」
 扇で攻撃を受け止めると、薔薇姫は戦に微笑む。
 身に纏わり付くような声に、魅了にかけられようとしている事に気づいた。
「――アヤカシなんざの魅了に掛かって堪るかよ」
 その声を、眼差しを、戦は振り切り。戦は地面を蹴り上げ、薔薇姫に砂をぶつけ目を眩ませる。
「我が声を振り払うか、気に入らぬ!」
 目を眩まされたまま、薔薇姫は薔薇の蔦を呼び寄せる。
 バキバキバキ――。
 地が割れる音が響き渡る。
「これが、チヅを飲んだ地割れか――!」
 先の戦いで、庚が重い怪我を負った地割れ。これに飲み込まれれば、どうなるかわからない。
「避けろ!」
 咄嗟に身を翻し、地割れから逃れる開拓者たち。
「遊羽!」
 パニージェは遊羽の手を取るとぐっと引き寄せ、共に地割れから逃れる。
「薔薇姫が逃げるぞ!」
 周りから開拓者を退け、再度飛翔する薔薇姫の姿を見て取ると颯は矢を放つ。
 しかし、荒れ狂う蔦に打ち落とされ、矢は地へと転がった。
「これならどうだ。‥‥‥猛ろ、冥竜の咆哮。食らい尽くせ―――ララド=メ・デリタ!」
 哲心の声が途切れると突如灰色の光玉が生まれ、薔薇姫へと襲い掛かり炸裂する。
「命中した!?」
 舞い上がる煙が落ち着くのを待ち、身構える開拓者たち。
「あ――っ」
「中々に面白い時間であったぞ?」
 煙が晴れた宙空には、狼に乗った薔薇姫が浮かんでいた。
「今日のところは、これで勘弁してやろう。しかし‥‥また見えた際は、容赦せぬ」
 高らかな笑い声が響く中、薔薇姫は狼と共に姿を消した。



 救い出した娘と、満身創痍となった京を伴い、開拓者たちはギルドへと戻った。
 奥にしつらえた部屋で出迎えるのは青柳新九郎(iz0196)。
「まずは、全員無事で何よりだった」
 深々と頭を下げる。
「娘たちはギルドで預かり、体力が回復したら其々の里に返す予定だ。恐らく、薔薇もすべて取り去れるだろうしな」
 開拓者たちは其れを聞くと安心した様子で頭を下げた。
「京は――今回の事で『役目を終えた』と、考えている。今後、薔薇姫を討伐するに当たっても、あ奴に利用価値はない」
 その言葉に、一と庚は視線を合わせる。
「殺すって事か?」
「――否、奴は薔薇姫と相対する事を望んでいる。殺さずとも――いずれ果てるだろう」
 薔薇姫に対峙したとして、京に勝ち目はない。恐らくは殺されるだろうと、新九郎は思っていた。
「依頼に同行することはないのか?」
「開拓者ギルドとしては、今後は薔薇姫と戦うことが主となる。開拓者が薔薇姫を討伐する際に、京の存在が利となるかどうか、だろうな」
 作戦の遂行上必要であれば共に戦う可能性もあるだろうが、態々京を作戦に加えることはないだろうと告げると、新九郎は手元にあった手帳を広げた。
「薔薇姫だが――。今回襲撃した館に戻ることはないだろう。娘や京から有力な情報が出るか、確認はしてみるが――、今後の動きは相手待ちとなる可能性もある。だが、ギルドから呼びかけがあった際は、是非また、集まって欲しい」
 再度下げられた頭に、其々言葉を返すと、開拓者たちはギルドを後にした。