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■オープニング本文 東房、開拓者ギルドの一室では、先ごろ開拓者たちに討伐された山賊の下っ端が尋問を受けていた。 彼らは、山賊の『仕事』の帰り道にアヤカシと出会い、その手下になれと告げられた。 拒否して見せれば、人のような姿をしたアヤカシの口がばくりと開き、仲間が喰われてしまった。 恐怖に怯え、手下になることを決めた山賊たちは、いつしかアヤカシと共存共栄の関係を営むこととなっていた。 「なぜ、そのアヤカシを倒そうとは考えなかったのだ」 山賊たちを尋問するギルド職員の傍らで、調書を認めていた青柳新九郎(あおやぎ・しんくろう)は呟く。 静かで、落ち着いた声ではあるが、その中には怒りの感情が秘められていた。 「だって目の前で一人殺されてんだぜ。俺達も喰われちまうかもしれねぇだろ」 山賊は俺だって命は惜しいさ、と言葉を続ける。 その声をかき消すように、バァン!と音が響いた。 「貴様らの我が身可愛さが、どれだけの娘を苦しめていると思っているんだ!!」 「我は青柳新九郎という者だ。故あって、ギルドの手伝いをしている。――では、アヤカシの情報を伝える」 新九郎は、開拓者たちの前に腰を下ろすと手帳を広げた。 「アヤカシは行者のような姿をし、普段は人の其れと見目は変わらぬようだ。しかし、口を大きく開き、人を頭から喰らうことができるらしい」 人の姿は、憑依なのか、それとも人がアヤカシと化したのかは不明だ。と、続ける。 「他にはどんな技を持っている?」 開拓者の一人が新九郎に問いかける。 「ギルドで確保している山賊どもが見ているのは、人を喰うところだけのようだ。しかし、先日の依頼で討伐された山賊の頭の話を聞いていた下っ端が居た。それによると、どうやら呪詛なども使えるようだ」 山賊が攫ってきた10歳〜17歳ぐらいの娘のうち、気に入ったものはアヤカシに囚われる。 そして、アヤカシの呪詛により日ごと夜ごと、身の内の恐怖を刺激され苦しむ心を啜られる。 「日々、死に至るほどの苦しみを与え続けられ、恐怖と苦痛に悲鳴を上げる心を食われ‥。そして、アヤカシは強くなる‥‥」 机に置いた手をわなわなと震わせ、新九郎は開拓者たちを見据えた。 「現在判明しているアヤカシの能力は、その二つだけだ。知性があり、非常に用心深いらしく、自分の所在さえも山賊には明かしていなかったらしい」 アヤカシと会う方法は、一つだけ。 「捕えた山賊の隠れ家に向かってくれ」 新九郎は机に広げた地図を指差す。 「隠れ家は此処だ。山賊はアヤカシの指示で娘を攫いに来たところを開拓者に捕まえられた。アヤカシはなかなか娘を連れて来ぬ事を訝しんで、恐らく様子を見に来るだろう」 其処を急襲してくれ。そう、告げる。 「山賊たちが指示を受けてから数日経っている。焦れて、既に隠れ家で待ち構えているかも知れぬ」 アヤカシを倒し、囚われた娘を見つけ解放できるのであれば、最上。 しかし、アヤカシから娘たちの情報を聞き出すのは至難の技だろうと、新九郎は伝える。 「何しろ能力は未だ不透明な部分が多い。娘たちは――アヤカシを倒せれば私が何としてでも探しだす」 アヤカシを倒すことが出来れば、まずは成功だ。 「戦う事に専念して構わない。後は私に任せてくれ」 あまりの熱の篭った口ぶりに、開拓者達は首を傾げた。 その事に気づいた新九郎は、すまぬ。と、呟いた。 「実は――我が姫を同様のアヤカシに囚われたことがある」 助けようとアヤカシの隠れ家へ向かったが、逆に呪詛に囚われ苦しめられ、我が手では助けることは叶わなかった。 「あの時の呪詛の苦しみ‥‥忘れはせぬ。あのような苦しみを、幼い娘が未だ受けていると思うと‥‥」 新九郎は、一つ頭を下げた。 「どうか、アヤカシを倒し、娘たちを救う道を拓いてくれ」 |
■参加者一覧
緋炎 龍牙(ia0190)
26歳・男・サ
雲母(ia6295)
20歳・女・陰
リューリャ・ドラッケン(ia8037)
22歳・男・騎
カーター・ヘイウッド(ib0469)
27歳・男・サ
アルトローゼ(ib2901)
15歳・女・シ
鳳珠(ib3369)
14歳・女・巫
プレシア・ベルティーニ(ib3541)
18歳・女・陰
千鶴 庚(ib5544)
21歳・女・砲 |
■リプレイ本文 バァン!! 凄まじい音。隠れ家の扉が蹴破られる。 扉の残骸を蹴散らしながら中に入り込むは、竜哉(ia8037)。 「ここに居るのはわかっている!出てこい!」 鳳珠(ib3369)の結界により此処でアヤカシが待ち構えているのは既に分かっている。 竜哉は次いで入ったアルトローゼ(ib2901)と共に、座敷へと向かう。 (山賊から聞き出した間取りだと、この先か) リン‥‥ッ。 廊下の突き当たりを曲がると、竜哉の刀から涼しげな音が零れる。 「――ほう、いい音色だな。それで我の声を防ぐつもりか?」 座敷奥。鈴の音にあわせるように、ゆらりと動く黒い影。 其れは、瞬く間に竜哉の傍へと歩みより、剣を持つ手首を捩じり上げた。 「く‥‥っ」 「あの馬鹿ども、しくじったのか。――ふん。所詮は人間。役には立たん」 手下にしていた山賊の事を言っているのだろう、嘲る様に笑う。 ギリギリと手首に込められる、影――アヤカシ――の凄まじい力。 其れは、隠れ家突入前に施された鳳珠の護りを突き破り、竜哉は苦しげに顔をしかめた。 (俺達が苦しむのは別に良い。でも、何の関係もない民が苦しむのは、俺は認めない――) 骨を砕かれるような激痛に耐えながら、自由の利く側の腕でアヤカシの胸ぐらを掴む。 「さしずめ、娘たちを取り返しにきたって所か。どうも気配がおかしいと思ったが‥‥貴様等、ただの人間じゃないな」 アヤカシはもう一度、手に力を込める。 「う‥‥っ」 「その手を離せ」 言葉と同時。竜哉と組み合ったアヤカシ目がけて、アルトローゼの刃が飛ぶ。 「始まった!」 隠れ家の中で響く音に、闘いが始まったことを確認する。 即座にカーター・ヘイウッド(ib0469)は、高らかにトランペットを響かせた。 肩に食い込むアルトローゼの刃。痛みをものともせず、アヤカシはニタリと笑う。 「おっと‥なんだ、お前から喰われたいのか?――いいだろう、女は好物だ――」 「――!!」 ぎっちり掴んだままの竜哉の腕を更に捩じり上げ、そのまま宙に吊り上げる。 ブンッと、縁側目がけ凄まじい力で放り投げた。 竜哉は庭へと通じる障子を突き破り、建物外へと放り出された。 パンパン。と、埃を落とすように手を払うと、アヤカシはアルトローゼ目がけて突進してくる。 (まずは、外に誘い出してからが本番か) アルトローゼは踵を返すと、アヤカシから逃れるように全速力で出口へと向かう。 「そう簡単にはいかせんぞ」 扉を飛び出して仲間を呼ぼうとした瞬間、アルトローゼの耳元でアヤカシの声が響く。 「――っ」 ばくり。 アヤカシの大きく開けた口が、アルトローゼの二の腕に喰らいついた。 「あ、ぁっ」 隠れ家の外で潜んでいた仲間たちは、その姿を目の当たりにし慌てて立ち上がる。 「なんだ、大した人数じゃないと思ったら、こんなに隠れていたのか。――ほう、美味そうな娘が他にもいるなぁ‥‥」 アルトローゼの腕を食みながら、アヤカシは辺りへと視線を動かす。 「離れろ‥‥」 下卑た視線に怒りの斬撃が襲いかかった。 アヤカシの腕を切りつけた刃は、緋炎龍牙(ia0190)の物。 己の切っ先をアヤカシに向け、次の手をけん制する。 「――返してもらうわ」 (娘さん達も、仲間も、ね) その背中、射線を塞がぬように立つ龍牙の陰より撃ち放たれるは千鶴庚(ib5544)の弾丸。 弾丸は龍牙の直脇を抜け、アヤカシの首に命中した。 「小賢しい輩めが。上手く手を考えたものだな。だが、効かぬ」 アヤカシは首を貫かれ腕を斬られ。 其れでもなお、嗤う。 嗤いと共に、傷は見る間に塞がって行った。 「あぁ、面倒だなぁ‥‥余計な手間ばかり増える」 回復の術を持つことを理解すると、雲母(ia6295)は煙管を吹かす。 「下手な事をしたらお仕置きされるのは世の常だろうに。――さっさと片付けるとするかねぇ‥‥」 ぼんやりとした口調とは裏腹に、素早い動作で銃は構えられた。 「響け!もっともっと!!」 回復手段を持つ以上、回復量を上回るダメージを与えなければならない。 その為に――カーターは高く高く音を奏でる。高き旋律がアヤカシを取り巻き、保護する力を取り去っていく。 「ん――?」 己の身の変化に気付くアヤカシ。 「女の子に酷い事するなんて、もう怒ったんだから〜!」 怒りに頬を膨らましたプレシア・ベルティーニ(ib3541)は、その隙に呪いの符を叩きつける。 「ん‥‥呪縛か」 「かんぶにぺたって貼り付いて、すぐに効果があるんだよ〜♪」 ギシっとアヤカシの体が固まったのを見て取ると、プレシアは得意げに声を上げた。 その隙に動くは癒しの手を持つ娘。 「手当を致します」 アルトローゼの傍らに鳳珠が膝を付き、血まみれになった左腕に止血を施し加護の結界を準備する。 「傷は深くありません。すぐ闘えます」 「すまないな」 「はーん‥俺と似たような真似ができる奴がいるなぁ。目障りだから喰っちまうか」 ぶんっと腕を振り呪縛を掃うと、周りに群がる前衛を片手を振っただけで吹き飛ばし。 アヤカシは、鳳珠を見やる。 リン‥‥ッ。 戦場に響く鈴の音。 「誰がむざむざやらせるか!」 建物影から飛び出した竜哉。隙が出来た背中に飛び掛り、剣を突き立てた。 「なんだ、漸く戻ってきたんだな。お前が生きているのは、気づいていた。――しかし、残念だったな。言っただろう?俺と似たような真似ができる奴がいるんだな、と」 「――?」 竜哉は貫いたままの剣を見つめる。 其れはアヤカシから放たれる薄い光りに包まれて――そして光は竜哉の攻撃を無きものとした。 「今の剣運びじゃ、運が悪ければ俺を殺してしまうぞ?娘達の居場所が分からなくなるが、構わないのか?」 娘を助けたいのだろう?と、アヤカシは余裕の表情で嗤ってみせる。 「俺らが時間を稼いでいる間に、既に救援は向かっているのでな。大人しくお前は滅んでおけ」 「貴方と取引する気はありません。そして私達は貴方と違い、相手を嬲る趣味は持ち合わせておりません。今すぐ退治されて下さい」 竜哉と鳳珠がアヤカシを牽制するように言葉を返す。 「ほーぉ、娘たちを見つけたのか?そりゃ困ったな。俺の獲物だって言うのに。じゃぁ、此処にいても仕方ないな」 アヤカシは一瞬東の空を見ると、両足を踏ん張る。 「――逃がさないわ」 逃亡を阻止すべくアヤカシの行動を注視していた庚。 加護の光が消えた合間を縫って、飛び上がろうとするアヤカシの太腿を貫いた。 「ぐっ」 被弾に呻くアヤカシ。 「演奏中に席を立つのはマナー違反だっ!」 戦場から逃すまいとカーターのトランペットが響き、アヤカシの脳を揺さぶる。 「おお‥」 その隙を見逃さずアルトローゼ(ib2901)の忍刀が閃いた。 「さぁ、娘を苦しませるしか能がないとしても、せめて私を楽しませろ」 自らを木の葉に隠し、アヤカシへと幾度も刃を繰り出す。 その剣戟に身を翻しながら、アヤカシはニヤリと嗤った。 「仕方ないな。では貴様等全員食ってやろう――!!」 開拓者たちの身体に纏わりつくように響きわたるアヤカシの声。 「呪詛だ、心を強く持て」 竜哉は剣につけた鈴を見やる。 (苦しいだけなら耐えて動けるはずだ、俺の手足は動けるはずだ。――民を守れずに、何が戦う者か、何が志体持ちか) ダンッ! 動くたびに身体に絡むような声を振りほどくように地を蹴った。 「例え冥府に堕ちようが、この矜持だけは譲らねえ!」 竜哉の剣は自らの信念と共に、脳天から足元へと一気に斬り裂いた。 次いで呪詛を打ち砕いたのは庚。再度呪詛を紡げぬように、苦しむ仲間たちの身体を避けるように放たれた弾丸は上空で大きく角度を変えた。 「がっ」 アヤカシの口へと着弾した其れは、彼女の強き意志を反映するように深く深く、口中へとめり込んで行った。 「くそっ、やったなー!」 呪詛の音が途切れると、カーターはトランペットを口に当てた。 「護りの音を、我等に!」 高く響く音が開拓者たちの護りをより強固にしていく。 自由を取り戻した鳳珠はすかさず解除の法を未だ動けぬ仲間へと施していく。 「射抜け‥‥龍槍」 自由を取り戻した龍牙の忍者刀が唸りをあげる。切っ先はアヤカシの目を切りつけ、生臭い液体が龍牙の身体に飛び散った。 目を潰したことを確信し、身体をつ‥‥と、逸らす。 雲母はそのタイミングを逃さず、引き金を引いた。 「私に射抜けない物なんてないんだよ」 その言葉通り、雲母の弾丸はアヤカシの左脚を貫き。 「首輪を使ってぇ〜〜ぶりちゃん召喚!!」 プレシアに呼ばれた巨大な蛇が、アヤカシへと襲いかかる。 「あいつをはみはみしていいよ〜♪」 蛇が大きく口を開き、アヤカシへ向かう。 それに対抗するように、アヤカシの口がばくぅっと開いた。 アヤカシの喉元に蛇が、蛇の胴体にアヤカシが喰らいつく。 「今よ、一気に!」 蛇に喰らいついたアヤカシの腕に、顔に、背中に、脚に。開拓者たちの攻撃が一斉に襲いかかった。 「アァァァァァァァァッ!!」 アヤカシの口が蛇から離れ、苦痛の叫びを上げた。 「やった!?」 体中の傷。最早回復も間に合わぬほどに疲弊したアヤカシ。 開拓者達は捕縛しようと行動を転じる。 しかし、未だ生気だけは失わぬアヤカシの瞳の動きを注意深く見つめるものがいた。 ばくん。 アヤカシの涎にまみれた口が閉じられ、元の『人間のような顔』に、戻る。 顔に大きな穴を開けたまま、アヤカシは瞳を動かした。 「娘‥‥此処へ来い」 ゆるりと、取れかけた手で手招きする。 視線の先にはアルトローゼ。 「あ‥‥」 其の声に、アルトローゼの瞳は光をなくし、ゆっくりとアヤカシへ向かい足を動かした。 (やっぱり‥‥!) 弱れば恐らく娘を求めるだろうと踏んでいた庚。 アルトローゼの前へと立ちはだかり、アヤカシへと向かう歩を止めようとする。 「正気に戻って!」 アルトローゼは庚に一度も視線を移さず、庚の肩に手をかけると横へ追いやり、アヤカシへと向かう。 肩を強く掴まれた庚は、その力の強さに全てを察しアヤカシへの進路を開け、アルトローゼを見送る。 (――正気なのね) 「ようし、いい子だな。そのまま大人しくしてるんだぞ」 自らの傍へと立ったアルトローゼ。 其の頬に手を滑らすと、アヤカシは再び大きく口を開く。 ザクリ。 自らの頭が喰らわれる寸前、アヤカシの喉元へ突き立てられたのはアルトローゼの忍刀。 「油断したね。娘を喰ってる割に見る目がないようだ」 ニヤリと微笑んで更に奥へと刃を沈ませる。 「あ、が、が‥‥」 それでもアルトローゼだけは逃すまいと、刃を突き立てられたままアヤカシは腕を伸ばす。 取れかけた手首が体液を滴らせながらアルトローゼへと迫る。 ガゥンッ!! 「これ以上、下卑た真似しないでくれるかしら」 庚の声が静かに響き、アヤカシの手首がボトリと落ちた。 アヤカシは、プレシアの呪縛で拘束された。 「おしりペンペンするから、覚悟しろ〜!!」 威勢のいい掛け声が響くと、雲母がアヤカシへと歩み寄る。 「最近は根性のないアヤカシが多くてなぁ」 貴様の根性を見せてもらおうか?囁くと、銃口を額に押し付け、煙管を吹かす。 「最後に‥君に1つだけ聞きたい事がある。一度しか言わない‥娘達はどこだ。」 龍牙は刃をアヤカシへ向け、じっと瞳を見据える。 「はぁーん?――やっぱり娘は見つけてないんだな」 問いかけから、先ほどの言葉はハッタリだったと気づくと、アヤカシは楽しそうに嗤う。 「教えるものか。俺から居場所を聞き出すことも出来ず、娘たちは飢えて死んでいく。其の事を悔やむがいい!!」 「そうか。じゃあ滅びろ‥」 煽るように使った言葉に返された返答にアヤカシは取り乱した。 「何だと、娘たちが死んでもいいのか。我から居場所を聞き出さねば、何処にいるかは判らぬのだぞ」 「一度しか言わない…と言った筈だ。」 取り乱すアヤカシに微笑を返すと、龍牙はアヤカシの胸に忍刀を突き立てた。 「はふぅ、終わったね〜‥‥。あうぅ‥‥お腹すいたの〜」 アヤカシの体が霧散すると、プレシアは腹を鳴らして地面へと座り込む。 「よく頑張ったな。ほら」 プレシアの前にしゃがみ込み、雲母は懐から饅頭を取り出した。 「おおっ〜〜!?た、食べてい〜の〜〜!?ありがとうなの〜♪」 満面の笑みで雲母にしがみつき、饅頭を頬張るプレシア。 「一つ、瘴索結界を使用してもよろしいでしょうか」 鳳珠は仲間たちに提案をする。 周囲を探索して、捕まった女性たちに繋がるものが一つでもあれば。 願いを込めて結界を張る。 かつて山賊の隠れ家だった建物は、静かなる夕闇に包まれ始めていた。 開拓者ギルドでは青柳新九郎(iz0196)が待ち構えていた。 「では、アヤカシの口から娘たちの囚われた場所は聞き出せなかった。ということだな」 アヤカシの討伐の礼を告げると、新九郎は腰掛ける。 「ええ。でも――恐らくは隠れ家から東の方角」 「一度だけ、アヤカシが逃亡を図った。やつは一瞬東をみた」 「東、か。わかった。人員を動員し、隠れ家から東の方角をしらみつぶしに探すこととする。――任せてくれ。娘たちは必ず見つけ出す」 戦いの後、結界を使用して娘たちの手がかりを探した。 けれど、手掛かりとなるものは見つからず。 頼りになるのは、戦いの最中一瞬だけ見せたアヤカシの視線の行方。 「それでは頼むよ青柳。娘たちの命運は君にかかっていると言ってもいいのだからね」 一言告げると、アルトローゼは席を立つ。 続くように席を立つ開拓者たちを見送るように、新九郎も立ち上がった。 「皆、ご苦労だった」 頭を下げる隣に、まだ人の気配がある。 新九郎は頭を上げた。視線の先には見知った顔。 「庚殿。その節はお世話に――」 以前、自らが仕える姫を救ってくれた庚。 そして此度も力になってくれた。 其の事に深く礼をする。 「こちらこそ。新九郎さん、娘さんたちをお願いね」 「我に出来ることであれば何でもする。力足らずと思われるかも知れぬが‥‥」 「あら‥姫様を探し出した貴方だから、あたしも信じられるのよ」 庚は新九郎へと微笑みかけ、言葉を続ける。 「でも、また力になれそうだったら‥、声をかけてちょうだい。あたしも、助けたいの」 娘を救いたい。其の思いは一緒だと。 ギルドを立ち去る開拓者たちを見送り、新九郎は一つ息をつく。 「娘たちは必ず助け出す――待っていてくれ」 言葉は風に乗り――誓いとなって夜空に響いた。 |