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■オープニング本文 ● 小さな宿場町の、とある旅籠。 「昨日、ぼや騒ぎがあったって?」 「ええ、火付けらしいですよ。物騒ですねえ。お陰でウチの若い衆も、今夜から見回りです」 たったいま到着したばかりの客が、タライで足を洗いながら世間話をしていた。 「まあ開拓者の方が言うには、アヤカシの仕業じゃないそうですけど」 女将は苦笑しながら、客に冷たいお茶を出した。 「さ、どうぞ」 「お、ありがてえ」 客はさも美味そうに茶を飲み干すと、女将に向き直った。 「な、それはそれとしてよ、女将。この街に今、偉え商人が泊まってんだって? 随分なべっぴんを連れてるって話じゃねえか」 「ええ、お塩を扱う商人さんだそうですよ。町で一番大きな旅籠にお泊まりなんですけどね。そりゃあもう随分な羽振りの良さだそうですよ」 「へえ、一番大きな旅籠。そいつあ何とも結構な話だね。あやかりてえもんだ」 笑う二人を後目に、一人の男が音もなく宿を離れたのを、旅籠に泊まっていた数人の開拓者が、見るともなしに見ていた。 ● 甲高い半鐘の音が、夜の小さな宿場町に響きわたる。 黒々とした濃紺の空を、オレンジ色の炎の舌がなめ上げていた。砂利を踏みしめ、火消しの一団が通りを慌ただしく行き交っている。 その中で、棟梁とおぼしき壮年の男が声を嗄らして怒鳴っていた。シノビの超越聴覚でも使えるのか、見えない場所にいる人々の位置さえも音だけで的確に把握し、逃げる方向を指示しているようだ。 「おい、野郎は後だっつってんだろ! 年寄りと女子供先に逃がせ! 卯平、槌!」 「分かってまさあ!」 卯平と呼ばれた火消しは威勢良く答えると、巨大な木槌で、平屋の木賃宿に容赦ない打撃を叩き込み始める。 火元は一軒の旅籠だった。幸い発見が早かったため、延焼より早く打ち壊しが済みそうだ。 と、半鐘の鳴り方が変わった。 「‥‥裏手の旅籠が難物みてえだな。卯平、太介は置いてくから、こっちは任せたぜ」 槌を振り上げる子分に言い、踵を返そうとした棟梁だったが、ふとその耳が動いた。 「駄目ですよ女将さん!」 「馬鹿、多恵が、多恵が中にいるのよ! 離してよ!」 炎上する旅籠の裏手で、半狂乱の女将が仲居達に両手と両肩を掴まれ、暴れている。 「どうしたい!」 咄嗟に駆けつけた棟梁が、その背中に声を掛ける。 上半身をしっかり押さえられている女将が、棟梁に叫んだ。 「棟梁! 中に娘が! 助けてあげて、棟梁!」 「娘さんだあ? くそったれ‥‥」 棟梁は顔を歪める。 「棟梁、東側の応援しねえと! 延焼が防げなくなっちまいますよ!」 「解ってんだよそんな事ぁ!」 棟梁は頭を掻きむしった。 ここは小さな宿場町だ、多少でも延焼を許せば大事になる可能性がある。 とは言え、目の前で無力な子供が命を落とそうとしているのを見捨てることも、棟梁の心意気が許さない。 一瞬悩んだ末、辺りの状況を把握しようとした棟梁の耳が、妙な足音を聞きつけた。人の流れに逆らい、人の少ない場所を選んで走っている。 抜足ほど足音を殺し切れてはいないが、しかし一般人の足運びでもない。 火事に乗じて逃げようとでもしているのか、泥棒でも働こうというのか、それとも更に火付けをしようというのか。どうやら大旅籠の方向に向かっているようだ。 棟梁は歯ぎしりをし、咄嗟に辺りを見回した。 |
■参加者一覧
志野宮 鳴瀬(ia0009)
20歳・女・巫
ラフィーク(ia0944)
31歳・男・泰
アルティア・L・ナイン(ia1273)
28歳・男・ジ
春金(ia8595)
18歳・女・陰
メグレズ・ファウンテン(ia9696)
25歳・女・サ
千代田清顕(ia9802)
28歳・男・シ
レートフェティ(ib0123)
19歳・女・吟
无(ib1198)
18歳・男・陰 |
■リプレイ本文 ● 「あんたらは?」 「火急で御座いましょう? 居合わせたのも縁‥‥猫の手ではありますけれど、出来うる限りの助力を」 面食らっている棟梁と仲居たちに、艶やかに微笑んだのは巫女装束の女性、志野宮鳴瀬(ia0009)だった。 見上げるほどの長身の女性、メグレズ・ファウンテン(ia9696)が、井戸から水を汲み上げて頭から被りながら棟梁に声を掛ける。 「偶然この町に泊まってた開拓者です。お手伝いします」 メグレズに続いて、井戸に向かう人影があった。 「わしも中に入ろうかの」 「おっと、私も行きますよ」 懐から符を取り出した男女、春金(ia8595)と无(ib1198)だった。无は懐からにょっきりと顔を出した狐を、手近な仲居に押し付ける。 「き、狐?」 「お願いしますよ。噛み付いたりしませんからね。ナイ、大人しくしてておくれよ」 尾の無い狐、ナイは、无の言葉に答えるかのように一声啼いた。 メグレズほどではないが頑健な体躯をした青年、ラフィーク(ia0944)が、強く、しかし穏やかな口調で、仲居たちに指示を出す。 「女将は安全な場所へ、此処に居ては煽りを食らうぞ」 あっけに取られていた仲居たちはその言葉で正気に返り、慌てて女将を促して旅籠から離れる。 「中に入るのは三人でいいな、それから‥‥」 「待った!」 棟梁が叫んだ。 「怪しい野郎の足音が聞こえたんだ、そいつも追ってもらいてえ!」 鳴瀬が訝しげに振り向いた。 「怪しい、とおっしゃいますと?」 「避難する連中とは逆方向、大旅籠の方角に、足音を殺し気味に走っていった野郎がいた。この俺がこの耳で聞いたんだ、間違いねえ」 「不審な足音ね‥‥」 言ったのは、神秘的な紫色の瞳をした青年、千代田清顕(ia9802)だった。 「付け火や火事場泥棒であれば放っておけないな。棟梁、野次馬じゃないんだね」 「足音を殺す野次馬がいるもんかい」 「確かに」 細身に銀髪の青年、アルティア・L・ナイン(ia1273)は納得顔で言い、屈伸運動を始めた。 「ま、逃がすわけに行かないからね。僕は先に行くよ。早さなら負けない自信がある」 「ちょっとちょっと、呼子笛の鳴らし方くらい決めてからにしてよ」 言ったのは、オカリナを胸に下げた銀髪の女性、レートフェティ(ib0123)だった。 「長短を三回で吹き分けましょ。これで八通り。敵の位置を八方向で知らせるわけ。距離は繰り返す回数で知らせるの」 「なるほど。妙案ですわね」 「いい? 北から右回りに長長長、長長短、長短長‥‥」 自然と追っ手に決まった五人が打ち合わせをしている間、メグレズは仲居たちに声を掛けた。 「御近所から布団を集めてください! 多恵さんを抱えて、飛び降りないといけない可能性があります!」 ラフィークが、棟梁に軽く拳を翳した。 「棟梁は仕事に戻りたまえ、不要な延焼を許すなよ?」 不敵な笑みを、棟梁は返す。 「誰に言ってやがんでえ、こちとらこの町に生まれてこの町にけえって来て、この町を守ってきた矜持があらあ! おめえらこそ、娘さん死なせたり、怪しい野郎取り逃がしたりすんじゃねえぞ!」 二人は軽く拳を打ち合わせた。 「行くぜ野郎共! 続け!」 「応!」 ● 旅籠の中は、既に熱気と煙が充満しきっていた。右手が出火元のようだ。竈の据えられた土間は左手にある。 「付け火なのは間違い無さそうじゃな」 呟く春金の斜め前で、无は肩に留まった隼型の人魂を放った。隼型とは言っても、大きさは四寸弱の不思議な隼だったが、しかしその飛翔速度には十二分なものがある。 「行け!」 人魂が、階段を駆け上がるメグレズを追い越して二階に舞い上がった。 「どうじゃ?」 「‥‥煙がやばいことになってますよ! メグレズさん、姿勢低くして! 視界、効かなくなりますよ!」 「わかりました!」 メグレズは二階に上がると同時に、匍匐前進を始めた。仲居に聞いていた多恵の寝室の戸を引き開け、叫ぶ。 「助けに来ました! 多恵さん、返事をして下さい!」 メグレズの声に応えたのは、板葺きの屋根が崩れ落ちる音だった。 春金と、階段を上がっていた无が目を合わせる。 「メグレズさん! 生きとるか!?」 「無事です!」 メグレズは、咄嗟にスパイクシールドで落ちてきた木材を受け流していた。 「急ぐのじゃ! 思った以上に火の回りが早い! 他の屋根も来るぞ!」 春金は入り口と階段の柱と天井に、氷柱の符を放つ。符の存在が空気に溶けるように薄くなり、霧となり、氷の粒になって、橙色の炎を噴く柱や天井に貼りつき、凍り付いた。 だがその氷も、柱の熱と炎の輻射熱ですぐに溶け出し始める。 「長時間は保たんの。无さん、早うメグレズを誘導せねば」 「解ってますよっと」 无が精神を集中し、人魂の視界を確かめる。 「‥‥メグレズさん、その部屋の右奥です! 動いてる人が居ますよ!」 无に言われた通り部屋の右奥に這っていくと、確かに激しく咳き込む女性の声があった。 「多恵さん! 多恵さんですね!」 メグレズが抱き寄せて叫ぶと、女性は辛うじて二度頷いた。 「確保しました! 階段どうですか!」 「まだ行ける! 早う! 早うせい!」 「待って下さい!」 メグレズは、多恵の寝ていたものらしい布団を引き寄せ、多恵を幾重にもくるんだ。その時だった。 「避けい!」 无の叫び声を引き金にしたかのように、階段付近の天井が崩落した。 崩落の位置を悟ったメグレズが叫んだ。 「春金さん! 无さん!」 炎と煙の中から、咳き込みながらの声が返ってくる。 「生きとるわい」 「それより、階段が潰れました、こっちは無理です! 外に飛び降りて下さい! 私も続きますからね、布団どかさないで下さいよ!」 「解りました!」 メグレズは布団の中で苦しそうにしている多恵に声を掛けた。 「飛び降ります。衝撃に備えて丸くなっていて下さい」 返事はなかったが、布団ごと多恵の身体がくの字に折れ曲がる。 「メグレズさんが、多恵さんを抱えて飛び降りますよ! 布団、用意いいですか!」 叫んだのは无だった。外から、仲居たちの威勢のよい返事が聞こえる。 メグレズは床の傍で息を吸うと立ち上がり、数歩の助走を付け、鎧戸を突き破って外に飛び出した。 ● 誰もいない、静まり返った廊下。遠く半鐘と大槌の音が、繰り返し、木霊のように聞こえてくる。 二軒ある商店の片方が無事と確認した清顕とレートフェティは、残る一軒を鳴瀬とラフィークに任せ、大旅籠に着いていた。 途中、レートフェティの発案により、口笛で人々を落ち着かせながら火付けへの警戒を促し、火付けの活動と逃亡を牽制ことも忘れない。レートフェティは吟遊詩人らしく、「情報」の持つ力を熟知していた。 そして大旅籠の前に着いた清顕の超越聴覚が、不審者らしき物音を感知したのだ。 中に入ってみると、大旅籠の中には誰もいなかった。デマでも信じたか、或いは犯人に誘導されるかして、避難してしまったのだろう。 そして今、二人が息を潜める障子の向こうから、衣擦れのような物音が、確かにしていた。 清顕が勢いよく障子を引き開けると、中にいたシノビ装束の男が弾かれるように振り向く。その横には、広げた風呂敷の上に金子や宝飾品が積まれていた。 一瞬の空白が、三人の間に流れる。 動く。そう思うよりも早く、清顕の右の爪先が畳の縁に突き刺さり、そのまま畳を垂直に跳ね上げた。絵に描いたような、完璧な畳返しだ。 男が投げつけた長櫃の中の服は、跳ね上がった畳に当たって乾いた音を立てた。清顕は片足立ちで半身になったまま、軽く畳を奥へと蹴飛ばす。 「畜生!」 シノビ装束の男は、畳の下敷きになる前に、鎧戸を突き破って外へ飛び出した。隣にあった木賃宿の屋根に転がり落ち、ふらつきながらも立ち上がる。 呼子笛が長く一度、短く一度、そして長く一度、鋭い音を響き渡らせた。レートフェティだ。 板葺きの屋根の上で周囲を見回した男は、屋根から路地へ飛び降り、走り出す。 呼子笛が、長く三度吹き鳴らされる。そしてもう一度。 それが終わるか終わらないかというとき、男の行く手に、ラフィークが姿を現した。 「お前が火付けだな。大人しく捕まりは‥‥当然しないか」 「野郎!」 逃げ切れないと思ったか、男は遂に短刀を抜く。 「‥‥仕方あるまいな、多少の怪我は許せ」 それを見たラフィークは霊拳「月吼」を握り、目の前に翳した。 路地を駆ける勢いそのままに、男が短刀でラフィークに突きかかる。 ラフィークの右手が緩やかに弧を描き、白刃の軌道を歪めて空を切らせた。同時に突き出された左掌底が男の鳩尾を痛打する。 男の顔が苦悶に歪み、口から泡と共に僅かな胃液が零れた。短刀を取り落とし、左手で腹を押さえてその場に崩れ落ちる。 「て、てめえ‥‥」 「ろくに鍛えてはいないが、一応志体持ちか」 皮肉っぽく言うラフィークを、男は荒い息をつきながら睨み上げる。と、 「え、何!?」 男の背後で発せられたのは、偶然通りかかった野次馬の女性の声だった。その瞬間、男は右手で掴んでいた砂を勢い良く空中に撒く。 「くっ!」 普段ならそんなものはあっさりと防ぐラフィークだったが、女性を守らねばとの考えが脳裡に浮かび、砂を完全には防ぎきれなかった。その僅かな隙をつき、男は脱兎の如く駆け出す。 だが、 「諦めなさい」 野次馬の女性を庇うかのように、鳴瀬が姿を現した。男は懐から何かを取り出そうとし、そして短く悲鳴を上げる。 男の右足が、あり得ない方向に曲がっている。鳴瀬の黒い瞳が、悲しみを湛えて男を見下ろしていた。 「この町の人達に、火付けの事は知らせてあります。この場だけ逃げ切っても、町の皆さんから逃げ切ることはできませんよ」 男は荒い息をつきながら、目の前の鳴瀬と、後ろから歩み寄ってくるラフィークを交互に見た。 「畜生‥‥」 「貴方には、この町の人々の厳しい裁きがあるでしょう」 「‥‥火付けは死罪、か」 「ええ。貴方のその行いで、多くの方々が迷惑を蒙り、また命の危険に晒されたのですから」 言い、鳴瀬は<力の歪み>を解いた。 その瞬間、地面から大量の木の葉が吹き上がった。木の葉隠れだ。男はまだ諦めていなかったのだ。 「あばよ!」 高笑いを上げながら、男は跳躍しようと身体を沈みこませた。 咄嗟にラフィークと鳴瀬が手を伸ばし、男の体を掴もうとする。が、その手は虚しく空を切った。 男の身体が宙に浮き、そのまま地面に落ちたのだ。 一瞬の沈黙。 やがて何が起きたのかを理解したラフィークと鳴瀬は苦笑いを浮かべ、目の前に現れた人物を見た。 「そう簡単に僕の速さから逃げられると思うなよ」 アルティアだった。瞬脚で駆けつけたこの泰拳士が、右足で男の足を払いながら右手の甲で顔を後ろに押し、宙に浮いたその身体を左の踏み込みで吹き飛ばしたのである。 見事な空気撃の直撃に、清顕は苦笑した。 「美味しいところを持っていってくれる」 「まあね」 アルティアは肩をすくめながら薄く笑った。 とその時、夜空からオカリナの音色が降ってきた。ぎょっとして鳴瀬、アルティア、ラフィークの三人が空を見上げる。 いつの間に屋根に降りていたのか、レートフェティが夜空を背にオカリナを奏でている。 三人がぽかんとしていると、地面に何かが倒れる音が響いた。 「はいはい、油断しないの」 オカリナを吹く手を止め、レートフェティがにっこりと微笑んだ。 男はなおも諦めていなかったのか、手に匕首を持ったまま、レートフェティの夜空の子守唄で深い眠りに落ちていた。 ● 「本当にありがとうございました」 平伏どころか、土下座でもするかのように女将は畳に頭を擦りつけた。 「止して下さい、そんな」 焦げた毛先を整え、心なしか髪が短くなったメグレズが笑った。 「皆様は娘の命の恩人です、どんなに感謝してもしきれません」 「そうだぜ、そんなに急いで発つこたあねえ。好きなだけ泊まって行きゃいいじゃねえか」 棟梁が掌底で鼻を擦り、笑う。 「もう十分泊まったわい。これ以上は身体が鈍ってしまうからの」 春金は笑う。 「多恵さん、もう声は出るんですか」 无の問いかけに、少し苦しそうにではあるが笑顔を浮かべ、多恵は小首を傾げた。 多恵は一命を取り留めたが、しかし喉を高温の煙で火傷していた。无の治癒符ですぐに手当をしたが、まだ完全には治りきっていないようだ。 「早く良くなるとよろしいですね」 鳴瀬は微笑んだ。 「しかしあれだ、さすがに現役は違うじゃねえか。まさか本当にとっ捕まえてくるたぁ思わなかったぜ」 豪快に笑ったのは、火消しの棟梁だった。 ラフィークは控えめに笑う。 「守るべきものは守ることにしていてな」 「気に入ったぜ。おめえら、開拓者引退したらこの町に来な。一人前の火消しにしてやらあ」 棟梁が、ラフィークの背中を思い切り叩いた。 「そういえば、棟梁。結局、捕まえた奴が全部一人でやったわけ?」 と、こちらはレートフェティ。 「おう。石を抱かせるまでもなく、白状しやがったからな。こないだ町外れであったボヤ騒ぎも、奴の予行練習だったみてえだ」 「重い刑罰になるんだろうね。まあ、火焙りかな」 淡々としたアルティアに、棟梁は渋い顔をした。 「火付けは重罪だからな。まあそうならぁな」 「ま、自業自得、か」 アルティアは肩を竦めた。 「ありがとう、ございました」 かすれ声を無理に出しながら、多恵は笑顔を作った。 「ま、いつでも手伝いが必要になれば駆けつけるからの。達者でな」 春金が晴れやかな笑顔で荷物を担ぎ上げた。他の者たちも、めいめいに荷物を手に取り、草履や草鞋に足を通す。 それぞれが棟梁の家を出て、めいめいの方向へと散っていく。 「またいつでも来いよ! おめえらなら大歓迎だ!」 それぞれの背中に、棟梁の胴間声が掛けられた。 朝の空はどこまでも青く、開拓者達の行く手に広がっていた。 |