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■オープニング本文 ●笑顔の訪問者 北面の片田舎に、隠居村と呼ばれる場所がある。本当は「花坂村」という立派な名前があるが、気づけば誰もがそのように呼んでいた。 ここではお役目を終えて引退した老人たちが、土いじりなどをして悠々自適の生活を営んでいる。誰もが似たような境遇なので、村中とても仲がいいことで有名だ。たまに息子や娘が来れば、昔の威厳を見せんと偉そうに振る舞ってみたり、かわいい孫が来れば目を細めてかわいがる。この村には、いつも平穏だった。 ある日、そんな村に珍妙不可思議な陰陽師がやってきた。村にひとつしかない宿に泊まり、まずは物腰やわらかな態度で村人に挨拶する。 「私は治療符の専門家を自称しておりまする。肩こりや腰痛などを癒せぬものかと、天儀を旅しておるのです」 最初こそ老人たちは身構えた。なんだ、陰陽師か‥‥それで人のよさそうな振りをしているのか、と穿った目で見る。だが、話の内容には興味があった。この年齢になると、肩こりや腰痛も頑固になる。 そこでひとりの男が、興味本位で尋ねた。 「お前さん、符を使うというが‥‥そりゃ貼り薬みたいなもんかね?」 「左様で。ピリピリと軽い痛みには緑の、ズシリと重い痛みには白の貼り薬を使いまする。ただ符でございますので、私がお貼りすることになりますが‥‥」 説明を聞いた男は「へぇ〜」と頷きながら、意地悪な提案をした。 「それなら、挨拶代わりだ。最初だけタダでやっとくれ。最近、肩こりがヒドくてねぇ〜」 周囲は皆、「関わるな!」とか「やめときなって!」と注意するが、ここまで言っておいて今さら遠慮するのもおかしな話。男は「どうだ!」と言わんばかりの態度で返事を待った。陰陽師は少し考えてから「よろしいですよ」と言い、男を自室へと案内する。これは儲かったとばかりに、男は喜んで宿に入った。 それからしばらくして、男は心配そうな表情を浮かべる面々の前に姿を現す。本当に治療だけして戻ってきたようだ。 「効かなかったら、白いのにするってよ。まぁ、少しでも怪しい真似したら、俺が騒ぎ立てて追い出すだけだ。皆の衆、ご心配召されるな!」 何か不手際があれば、難癖をつけて追い出しちゃおうというのが男の考えらしい。早くも相手に飲まれたのかと不安になっていた老人たちは、ホッと胸を撫で下ろした。 ●安心と不安の狭間で それから数日。 あの威勢のいい男は毎日のように陰陽師の部屋に通い、せっせと治療を受けていた。そして戻っては、老人たちに経過報告して回る。 最初のうちは「治療には継続が必要だとか、もっともらしいことを言ってる」と胡散臭さを強調していたが、日を追うごとにトーンダウン。ついには「まぁ、時間がかかるのは仕方ねぇよな」と納得する様子を見せた。 奥様方の井戸端会議は、この話題で持ち切り。あれやこれやと話すうちに、誰もが納得する結論を導き出した。 つまり「あの治療は効いている」のである。最初は追い出すことしか頭になかったから、治療を受けても効果を実感できなかった。しかし時間が経つごとに肩こりが和らいだことに気づき、一方的な批判を封印したのではないか‥‥? さっそく本人を呼び出し、みんなが強い口調で問い詰める。男はしばし言葉を濁していたが、ひとりの老人が「誰もが持病で苦しんでいるのに、なんでお前は早く言わないんだ!」と一喝。その場の空気がガラッと変わってしまった。何か暴動が起こりそうな雰囲気になったので、男は慌てて本音を漏らす。 「ったく、俺が偵察に行くって時は利用しといて、いざ効果があるってわかったら説教だもんなぁ‥‥」 「効いてるのか?!」 「そんな気がするって話だよ。ホントに効いてるかどうかはわかんねぇけどな」 体験者の自白を引き出した村人は、黙ってひとつ頷いた。 その翌日から、陰陽師の部屋は診療所に早変わり。宿の外まで行列ができるほどになった。二種類の貼り薬を使っての治療はもちろんのこと、くるりと丸めて鼻や耳に挿すという応用技も披露する。 それでも陰陽師は、最初の男に伝えたことを改めて言って聞かせた。 「持病をすっかり治すことは難しいのです。この薬を貼ったからといって、痛みがペロリと剥がれるわけではございませぬ。治療の継続が大切なのです」 患者は「なるほど」と頷き、あまり間を置かず訪問することを約束する。 その癒しの言葉の裏に、アヤカシの影が揺らめいていようとは、この時は誰も想像だにしていなかった。 ある夜更け、陰陽師は押入れから包みを被せられた鉢植えを出す。 「くっくっく‥‥そろそろですね」 彼は包みを取ると、そこには紫色の瘴気を放つネギが何本も植わっていた。 「おおっ、今までの中で一番伸びている‥‥! そうですか、村の不安はそこまで広がっていますか」 アヤカシの糧は、人間たちが放つ恐怖も含まれる。実はこの陰陽師、相手を選んだ上で言葉巧みに恐怖を煽るようなことを囁いていた。 「それらしく作った偽の符に、形が崩れる前のネギを混ぜ込んだだけの貼り薬で、病が治るわけがない」 「ネギ、ギギギィ‥‥」 アヤカシから合いの手が入り、陰陽師は思わず微笑む。 「ふふっ、村人の体は瘴気を吸収して具合が悪くなっているはず。これからはもっと恐怖を煽らねばな。そろそろネギが仲間を呼ぶ頃だし、長居はできん。今のうちに銭を稼がねば」 邪悪な策謀を張り巡らせる陰陽師は、明日もまた村人を騙すべく床に就いた。 ●ネギに導かれて そんな隠居村の事件は、思わぬ場所から露見する。 最初に診察を受けた冷やかしの男が「俺はよかれと思ってやったのによぉ〜」と、友人の草崎刃馬(iz0181)に愚痴ったのだ。そこに至るまでの経緯を聞いた刃馬は、腕組みをして「うーん」と唸る。 「それ、すっげー匂うんだけどよ。だけど、その陰陽師を捕まえるにしても証拠がねぇんだよなー」 「だったら、刃馬が診察に行けばいいだろ。実は痔だとかウソついて」 いつもならぶっ飛ばしてるところだが、刃馬は身を震わせながら我慢した。 「確認するけどよ。その宿の主人が、陰陽師の部屋からネギの匂いするって言ってたのは確かなのか?」 「ああ、間違いねぇよ。俺もそんな匂い嗅いだし。貼り薬に混ぜ込んでんじゃねぇかってさ。もしそうだったら、立派なインチキじゃねぇか。そう思わねぇか?」 アヤカシのネギ、通称「アヤネギ」との戦いも経験している刃馬。ここはやるしかないと、ポンと膝を叩いた。 「よし。村人が納得する形で幕引きにして、陰陽師にお仕置き‥‥か。ま、人を集めてやってみるわ」 しかし、緑と白の符とは聞き捨てならぬ。もしかしてネギが、今回もネギが絡んでいるのか。やっぱりネギなのか。そう思うと裸足で逃げ出したくなる刃馬であった。 |
■参加者一覧
天津疾也(ia0019)
20歳・男・志
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
朱麓(ia8390)
23歳・女・泰
村雨 紫狼(ia9073)
27歳・男・サ
レヴェリー・ルナクロス(ia9985)
20歳・女・騎
エルディン・バウアー(ib0066)
28歳・男・魔
Kyrie(ib5916)
23歳・男・陰
笹倉 靖(ib6125)
23歳・男・巫 |
■リプレイ本文 ●恐怖、再び 医者代わりの陰陽師が来て間もない隠居村に、今度は旅の行商人がやってきた。これは天津疾也(ia0019)が提案した潜入の口実である。 世を忍ぶ仮の姿になるのは、諏訪のシノビ・草崎刃馬(iz0181)の得意とするところ。一同は難なく村に入り、冷やかしの男の家へと向かった。そこが今回の作戦本部になる。 刃馬は道中で、開拓者たちにアヤネギに関する情報を語った。 疾也は最後に「確かにいろいろ臭い話やなぁ、ネギだけに匂うんやな」とうまいこと言って、周囲にドヤ顔を見せつける。それを聞いたルオウ(ia2445)は「おー、なるほど!」と納得の表情を浮かべた。 「しっかしアヤカシのネギで、アヤネギ? 世の中って広いんだなー」 過去にも似たような事件に遭遇しているエルディン・バウアー(ib0066)は「そうです、世界は広い」と答えた。そして「人の手によって栽培されている危険なアヤネギを必ず処理します」と続け、体を張っての活躍を皆に誓う。刃馬の説明を聞けば、「体で阻止」というのがどんなに危険かわかりそうなものだが‥‥ ずいぶんとアヤネギに詳しい刃馬の説明が終わるのを待ち、笹倉 靖(ib6125)はへらへらと笑いながら飄々と語りかける。 「あー、あんたが弟‥‥ナルホド。刃馬もネギ食ったり、診察受けたりすんのかなぁ? 依頼のために!」 「お、俺はシノビだから、影でサポートを‥‥」 「遠慮すんなって、みんなお待ちかねだから。ちなみに俺はしないけどねー。医者の不養生ならぬ、巫女の‥‥って笑えないっつーの」 靖は他人を追い落とすよりも、自分の安全に力点を置いて話を進めていたのだ。その辺を読み違えた刃馬は「しまった」と後悔するが、もう遅い。ルオウから「あ、潜入すんの?」と尋ねられ、ジ・エンド。こうして彼もまた、いかにも怪しげな治療を受ける羽目になった。 「お、おほん。それじゃ、知り合いの家で支度を整えたら作戦開始だ」 今はちょうど昼下がり。こちらも腹ごなしを済ませてから、潜入班は患者に扮して宿屋へと向かった。 ●高みの見物? 怨敵がいる宿屋の一室にたどり着くには、随分な順番待ちを要求される。これでは治療を受けるだけでも一苦労だ。 エルディンとルオウ、そしてメイクを取ったKyrie(ib5916)は、ご老人たちの列に紛れてしばし待機する。その間、Kyrieは隣に座った老夫婦に対してにこやかに話しかけ、それとなしに陰陽師の評判や人柄、治療法を聞く。 「そんなに驚くようなこたぁしとらん。符に薬を塗って、それを貼るだけでさ」 「隣のじいさん、鼻づまりがひどいってんで、丸めた符で鼻に栓しとったぞ」 微笑みを絶やさずに話していたKyrieだったが、絶対に「鼻の通りが悪い」とは言わないと肝に銘じた。 同じ頃、ルオウは前の列で待つじいさんの肩を揉んでいた。きっと気さくな性格が受け入れられたのだろう。ご老人たちも孫と話すかのように、退屈な待ち時間を楽しんだ。 神父のエルディンは見た目だけで信用されたが、逆に患者たちから「どこが悪いんですかのぉ?」と心配される。 「ご心配には及びません。私の病など、皆様に比べたら‥‥」 これぞ隣人愛。ご老人はありがたいお言葉に「こりゃ、すばらしい」と感銘を受ける。いつの間にか、彼らは顔なじみになっていた。 一方、悪事の証拠をつかむべく、待機班は列を何気なく通り過ぎ、問題の宿屋へと迫る。 その際、神父の活躍を見た朱麓(ia8390)が「大人気だね」と呟いた。この後どうなるかわからないのに、まぁ呑気だこと‥‥靖はいつもの調子で笑う。 「みーんな、やる気に溢れてんなぁ。よーし、がんばって逝って‥‥いや、行ってこーいだな。あながち『逝って』でも、間違ってねぇのか? コレ」 疾也も「差異はないなぁ〜」と言いつつ、刃馬が手配した宿屋の部屋に入る。 その合間を縫って、靖は村の外周を警戒し、宿屋にあるであろう裏口を調査。陰陽師の逃走を妨害する手段を準備し、自分も囮が弾ける様を見物するために精力的に動いた。 「陰陽師も正体がバレた時のために、逃げ道くらい調べてるだろうし」 彼は用意した紐を使い、即席の罠を張った。犯人の逃亡だけは、絶対に阻止しなくてはならない。じゃないと、自分たちがお仕置きできないから。朱麓の強い希望もあり、捕縛の罠はセットされた。あとは、その時が来るのを待つばかりである。 ●兄弟の絆 そしていよいよ、診察の順番が回ってきた。待機班は宿屋に潜り込み、潜入班の活躍を見守る。 診察の一番手はルオウ。この障子を開くまで、熱心に老人たちに奉仕していた。しかし部屋の中に入って問題の陰陽師を見ると、沸々と正義の怒りがこみ上げる。 「こいつのせいで‥‥」 「おや、ずいぶんと具合が悪そうではございませんか。どうなさいました?」 その言葉に、少年はハッとする。そう、これは潜入捜査。今はまだ怒る時ではない。ルオウは「へへ、医者は苦手で」とごまかしながら、まずは深呼吸する。 「緊張することはありません。で、悪いところは?」 少年は頭が真っ白になる。実は並んでいるうちに理由を考えるつもりだったが、老人に世話を焼いたせいで忘れてしまっていた。 沈黙するのはマズいと踏んだルオウは、とっさに理由を口にする。 「え‥‥えっと、どこが悪いかって? んーと、あ、あたまかなぁ‥‥」 「え、あ。も、もしや、あ、頭が‥‥?」 さすがの陰陽師もルオウの天然ネタに吹き出すわけにもいかず、無理に冷静な表情を作って耐える。 「ああ、冗談だよ! じ、実はさ、あんたの噂を聞いて、どんなのか見てみたかっただけなんだー」 これで気を取り直した陰陽師だったが、隣の部屋で一部始終を聞いていた待機班の3人は今にも爆笑する寸前だった。 「うぷぷ‥‥! 心覆で殺気を静めてんのに、あいつなんてことしてくれるんや‥‥!」 「ル、ルオウ‥‥医者に頭が悪いって言うなんて、それはヒドい‥‥!」 ドSの朱麓も大喜びの展開に拍車をかけたのが、助太刀に入った刃馬だった。彼は「患者は俺なんだ、こっちは弟」と、改めてルオウを紹介する。 「ほほう、兄上がご病気なのですか。して、どのような具合で?」 刃馬は「待ってました!」と言わんばかりに、胸を張ってどーでもいい病状を語ろうとする。 ところが、ここで兄貴思いの弟が勝手に説明を始めた。どうやら失敗を取り戻したいらしい。なんだか本当の兄弟みたいだなと感慨に浸る刃馬は、あえて言葉を飲んだ。ここはかわいい弟に任せようじゃないか。それが兄貴というものだ‥‥彼は大きく頷いた。 「あ、兄貴は‥‥べっ、便秘なんだ!」 「そうそう、便秘って‥‥んがんん」 ルオウのフォローを聞いた潜入班の面々は、肩を震わせて笑う。順番待ちの神父は、思わず神に祈った。刃馬の未来は、誰にでも予想のつくわかりやすい地獄へと舵を切る。 「では、袴を脱いでうつ伏せになってください。まずは、緑の符で様子を見ましょう」 刃馬は陰陽師が符を丸めているのを見て、今から降りかかる災難を予見した。 そして2分後、あの絶叫が宿屋に轟く。 「アッーーーーーーーーーーーー!」 ルオウはずっと兄貴のために、心の中で両手を合わせていた。 (ゴメン、またとっさに言っちゃった‥‥) 弟のがんばりは、ある意味で堪えた。刃馬は尻を手で押さえながら、ぎこちない足取りで出る。 その先の廊下では、あの朱麓が待っていた。「今から待機班の連中で笑ってやるぞ!」という魂胆が見え見え。刃馬は、涙で廊下が見えなくなった。 ●新たなる刺客 刃馬が待機班の酒の肴になっている頃、陰陽師の部屋にKyrieが入室。美声を響かせる。 「近頃、お腹に激しい痛みが襲ってくることがたびたびありまして。もしかして悪い病気ではないかと思い、ご高名な陰陽師さまにおすがりしたく足を運んだ次第です」 苦しそうな表情を浮かべる青年の顔を見て、陰陽師も「うーむ」と言いながら腕組みする。 「なるほど、痛みですか。ならば、貼り薬を‥‥上着をめくって下され」 「あの‥‥薬は多めにしていただけませんか? 今までとは痛みの質が違うもので‥‥」 陰陽師の指示通りに動くも、Kyrieは相手に無茶を吹っかける。すると陰陽師は「他の患者さんには内緒ですよ」と言いながらも、しっかりサービスしてくれた。 「実はですね、隠居村のご老人には1枚で十分な効果が得られます。あなた様はお若いですので、こういった処置しているのです。どうぞ誤解なきよう」 隣の部屋でこれを聞いた疾也は、思わずニンマリする。 「ははーん、年の差で効き目が変わるんやな。こりゃ、Kyrieに言われんでも多めに貼ったな。しかし尻にブチ込むといい、枚数を増やすといい‥‥」 それを聞くたびに、ルオウは「刃馬、悪りぃ!」と謝る。 刃馬は腹に力を入れないように返事をするも、不意に「気にすんぬァアッー!」とか言うもんだから、いつまで経っても朱麓と靖が笑っていた。 そしていよいよ、大本命の神父が登場。いよいよ待機班も耳を澄ませる。 今まで放っていたの神々しいオーラが台無しになるような話を、順番待ちしている老人たちにも聞こえる声で喋り出した。 「私は、旅の宣教師をしております。1週間前にいただいた饅頭を大事にしておいたら、カビが生えてました。もったいないから食べたら、胃腸がこんな愉快なことに!」 本日2回目のド天然登場に、陰陽師は気持ちを押し殺しながら「‥‥続けてください」と短く喋る。 「ちょうど立ち寄ったこの村に、評判のいい治療師の陰陽師がいると聞きました。胃薬か何かありませんか。私を助けてください!」 涙ながらに救いを求めるエルディンの表情は、鬼気迫るものがあった。そして陰陽師の両肩をつかみ、「首よ折れろ」とばかりに振り続ける。これではどっちが神父かわからない。陰陽師は「わ、わかりましたから」と返事した。 「胃腸の毒気は白い符で、下腹部は緑の符を使いましょう。では、準備しますので‥‥」 そこまで言うと、陰陽師は神父に背を向け、それぞれの符を取り出す。それをエルディンは横目で確認した。彼の目的は、あの符を奪うことである。 しかし、その後の展開が意外すぎた。 「オウ、サンキュー! サンキューーーッ!!」 神父は隙を突いて2枚の符を奪うと、手早く丸めてゴックン。陰陽師は思わず「えっ!」と叫ぶ。 「あ、ああ、あの‥‥」 「これで治るのですね! ありがとうございます!」 そしてエルディンは、相手に握手を求めるために右手を伸ばした。すると、次第に両手が緑色に染まっていくではないか。ついには自慢の金髪も緑に染まり、その他の部分は真っ白に‥‥これでは、誰がどう見てもネギ人間だ。 陰陽師は「符を飲んだらどうなるか?」を把握しておらず、ずっと戸惑っていた。しかし彼を廊下に出してしまったら、今までの苦労が台無しになってしまう。自分のインチキがバレてしまう。無駄な抵抗と知りつつ、陰陽師は神父にしがみついた。 「あーっ! 部屋を出ちゃダメっ!」 エルディンにしてみれば、別に部屋を出ずとも、今の状況を説明できる。彼はすがりつく陰陽師の耳元で「今のうちに懺悔なさい」と呟いた後、わざとらしく驚いた。 「アッーーー! 大変ですっ、いただいた薬を飲んだら、体がネギにーーー!!」 その声を待ってましたとばかりに、疾也と朱麓が部屋から飛び出す。そして神父が廊下に出る隙を作ろうとするが、相手が見事なネギなもんで、疾也は面食らった。 「アッーーーー! なんや、それ! えらいことなってるやんか!」 朱麓は至って冷静だが、どこか嬉しそうな表情を浮かべている。 「ったく、男どもがネギくらいで喚くんじゃないよ!」 村人の前に現れたネギ神父は、懇々と陰陽師を不利にするセリフを連発。不安を煽ったところで、ルオウと靖、そしてKyrieが「こっちへ!」と老人たちに避難を促す。 すると、外は外で大騒ぎ。どうやら3匹の剣狼が村に侵入したらしい。 即座にエルディンは陰陽師にサンダーを放ち、アムルリープを仕掛けて眠らせた。疾也はさっさと紐で縛ると、アヤカシ退治へと急ぐ。 ●お仕置きタイム! 今までの鬱憤を晴らすべく、開拓者たちは剣狼との戦闘に入る。 Kyrieは武勇の曲を奏で、ルオウは咆哮で敵の注目を集めたところで回転切りを二連発で放った! 「おラオラオラオラオらおらおらおらああああああ!」 気合の入る少年に続けとばかりに、朱麓は蛇矛に紅焔桜をまとわせ、まずは1匹を雷鳴剣で確実に仕留めた。疾也は秋水清光を、靖は破邪の剣で応戦する。 どこから沸いた剣狼かはわからないが、この面子が相手では役不足の感は否めない。反撃が空を切ると、ルオウは再び景気付けに咆哮を繰り出した! 「ここが見せ場だぜ!」 するとKyrieはお出ましになったネギ神父に向かって、まるで賛美歌のように精霊集積を捧げた。エルディンはそれに応えるべく、剣狼にホーリーアローをぶつけて悪しき形を消し飛ばす。 最後の1匹は、疾也と朱麓が両脇から攻め立てた! 「ネギじゃないのは、お呼びじゃないよ!」 「タダ働きやないからな、気合入れてやるでー!」 それぞれの一閃が交わると、剣狼は下品な悲鳴とともに消え去った。 アヤカシはいなくなったが、まだ安心できない。靖は事態を打開するため、陰陽師を締め上げることを提案した。 こうして、待ちに待ったお仕置きタイムが始まった。 朱麓は陰陽師のいた部屋の押入れからネギの植わった鉢を見つけ、心眼で「これがアヤカシである」ことを証明する。さらに犯人が「これにはアヤカシを呼ぶ能力がある」と白状したので、さっそくアヤネギを拷問の道具に利用した。 疾也は陰陽師の目を無理やり開かせ、次々とアヤネギを刻んでいく。涙が溢れ出した頃に、ルオウがそれを口にぶち込むと、犯人もまたネギ色に染まった。 「むんぎゃあーーー!」 そこへフルーレを持ったKyrieが現れる。 「お年寄りを騙し、我が美を損ねた罪は重い‥‥よって、蜂の一刺しの刑に処す」 陰陽師の鼻や耳の穴にネギを突っ込んで楽しんでいる靖が空気を読んで、すぐさま四つん這いの体勢にさせると、お尻に無情の一撃が突き刺さる! 「アッーーーー!」 その体勢を見て、鞭を持った朱麓が尻に足を乗せた。いよいよショーの始まりである。 「ほぉ〜ら、もっと良い声でお啼き。なんだったら、平手打ち千回でもいいんだよ? まぁ、あんたみたいな駄犬に、選ぶ権利はないんだけどさっ! フフ、フフフフフ‥‥」 「アッアッ、アッオーーーーーーーン!」 とてもお子様にはお見せできないドSな女王様の羞恥プレイは、老人たちが床に就く直前まで続けられた。 翌日、エルディンのネギ人間化も治った。Kyrieと靖は、老人たちのケアを行うという。 事件の終息はまだ早いかもしれないが、またひとつアヤネギの脅威は去った。 |