【修羅】ツケの代償は
マスター名:村井朋靖
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/02/09 22:07



■オープニング本文

●暗雲
 神楽の都、開拓者ギルドにて。
 板張りの広間には机が置かれ、数え数十名の人々が椅子に腰掛けている。上座に座るのは開拓者ギルドの長、大伴定家だ。
「知っての通り、ここ最近、アヤカシの活動が活発化しておる」
 おもむろに切り出される議題。集まった面々は表情も変えず、続く言葉に耳を傾けた。
 アヤカシの活動が活発化し始めたのは、安須大祭が終わって後。天儀各地、とりわけ各国首都周辺でのアヤカシ目撃例が急増していた。アヤカシたちの意図は不明――いやそもそも組織だった攻撃なのかさえ解らない。
 何とも居心地の悪い話だった。
「さて、間近に迫った危機には対処せねばならぬが、物の怪どもの意図も探らねばならぬ。各国はゆめゆめ注意されたい」

●酒場の苦悩
 北面の都・仁生の酒場は夕暮れ時を過ぎると‥‥なぜか、さっさと酔客が立ち去る。
 いくらおかみさんが呼び止めても、なしのつぶて。どんなに金払いの悪い客も、キッチリと銭を置いて帰ってしまう。正体を失うまでしこたま飲む上客さえも、日が沈むと同時に席を立つ始末なのだ。
 本来ならこの時間から忙しいはずの親父が厨房から出て、閑古鳥の鳴く店内を見渡してガックリと肩を落とす。
「あーあ、こりゃ参ったね‥‥」
 親父は頭に巻いた手ぬぐいを取り、その見事な坊主頭を自分で撫で回す。
「あんたさ、開拓者ギルドに言った方がいいんじゃないのかい? 例の酔客の話」
 接客を担当するおかみさんは、客が慌てて帰る理由を知っていた。

 それは最近まで別の酒場に出入りしていた、ひとりの男が原因である。
 彼は以前、この店にツケで酒を飲む常連だった。来ては飲み、また来ては飲みを繰り返すものの、まとめて銭を払う気配がない。その日の一杯分でも銭を払えば印象もよくなるのだが、それさえもしないのだ。
 こんなことを繰り返せば、おかみさんの堪忍袋の緒が切れるのも無理はない。いつものように男が暖簾をくぐって店に入ってきたところを胸倉つかんで豪快に投げ飛ばし、「もうツケを払わなくていいから、二度とこの界隈に来るんじゃないよ!」と叩き出したのだ。しかし男は恥知らずにも、その日のうちに別の店の厄介になるという離れ業を披露。そこでも浴びるように酒を飲み、関係者を心の底から呆れさせた。

 そんなだらしのない男に、ろくなことは起きない。
 ちょうど4日前‥‥満月の夜、彼は裏路地で寝ているところを何者かに襲われ、そのまま帰らぬ人となった。
 その事件が耳に入ると同時に、ある噂が流れた。なんでもその男は黒い鎧を着た志士に肩を借りて歩いており、裏路地に入ったところで殺されたという、まるで誰かが見ていたかのような生々しい内容である。
 この噂のおかげで夜に出歩く人間はいなくなり、酒場は見ての通り閑古鳥。おまけに真っ当に生きる志士までもが疑われ、お客も家で恐怖に震えているという最悪の状況である。
「命で高いツケ払わされただけでなく、俺らにも迷惑かけるたぁーねぇ。そりゃそれで立派なもんだ。一代で名を馳せたってかい」
 ここまで騒ぎが大きくなると、店の親父も褒めるしかない。それを慌てて、おかみさんが止める。
「そんな冗談を言ってる場合かね! 志士の皆さんも迷惑してるんだから、開拓者ギルドに頼みに行きなさいよ!」
 このまま開店休業が続いても困るのは自分たちだけ。親父は「わかったよ」と言い、明日の朝一番に開拓者ギルドの門を叩くことにした。

●不穏な影
 仁生を駆け巡る黒い鎧の志士は、今日もひとりで仁生の街をふらりと歩いていた。
 その姿は志士というよりも、もはや辻斬り‥‥そんな怪しげな雰囲気を醸し出しながら、夜の街を徘徊していた。
「いよいよ外に獲物がいなくなったか。やれやれ、面倒なことになった。そろそろ頃合い、か」
 あの酔客の命を奪った刀を抜き、暗闇に高く掲げる。彼は鎧を着たアヤカシ。仁生の夜にだけ現れる、志士を模した人斬り。
 これ以上いらぬ噂を広めぬよう、手にかけた者は適当な場所に隠す知恵をつけた。底の抜けた欲望の器にわずかな血を垂らし、今日も乾かぬ飢えを凌ぐために斬る。まだ斬り足らぬ‥‥アヤカシの歩みは止まらない。髪の隙間から覗かせるその顔は、まるで骸骨のようだった。


■参加者一覧
佐久間 一(ia0503
22歳・男・志
鴉(ia0850
19歳・男・陰
風鬼(ia5399
23歳・女・シ
古廟宮 歌凛(ib1202
14歳・女・陰
神鳥 隼人(ib3024
34歳・男・砲
朱鳳院 龍影(ib3148
25歳・女・弓
白南風 レイ(ib5308
18歳・女・魔
オルカ・スパイホップ(ib5783
15歳・女・泰


■リプレイ本文

●白昼の調査
 ひとりの酔客が殺害され、ピタリと客足が止まった‥‥この事実を確認すべく、開拓者たちは昼間の仁生へと繰り出す。
「おいでませ仁生へ! 我らが志士が国、華やかなりし北面の都‥‥のはずだったんだがなあ」
 せっかくの帰国がアヤカシ退治とはまったくもってツキがないと、神鳥 隼人(ib3024)は苦笑いを浮かべる。隣で一緒に歩く佐久間 一(ia0503)が「さぞ無念でしょうね」と慰めるが、ウサギの耳をぴょこぴょこ動かすオルカ・スパイホップ(ib5783)は「お仕事だと、お酒も飲めないからね〜♪」と本音を代弁した。
「うむ。帰郷もままならず、さりとて都でも遊べず‥‥おのれ、辻斬りめ‥‥」
 隼人は悔しさのあまり、わなわなと拳を震わせる。
 そんな彼らは、依頼主である酒場を訪ねた。おかみさんは勇壮な姿のお客を見るや安堵の表情を浮かべ、さっそく大声で親父を呼びつける。その声に背中を押されるように、支度中だった親父が手を止めて出てきた。
 オルカは残念な隼人のためか、うまく親父に食事をおねだりする。
「うっわさが怖くて酒が飲めるか〜♪ そんなことないな〜い♪ そんな時こそ、店もサービスサービス♪」
 少女は陽気な歌にあわせて、耳と尻尾をぴょこぴょこ動かす。親父は「こりゃ気が利かなかった」と坊主頭に手をあて、軽い食事を作りに厨房へと戻った。
 オルカの心遣いに感動した隼人は、耳元で礼を述べる。
「きみはいい奴だ‥‥ううっ!」
「はーやーくー♪ はーやーくー♪」
 小気味いいリズムで机を叩くオルカの耳に、隼人の言葉は届かない。一は軽く瞳を閉じ、隼人の肩に手を置いた。
「オルカさんは自分が何か食べたかっただけなんです、きっと」
 残酷な事実を突きつけられて呆然とする隼人を尻目に、どんどん盛り上がるウサギのオルカ。この3人の情報収集は、終始お気楽ムードで進んだ。

 一方、哀れな被害者に着目し、鴉(ia0850)と風鬼(ia5399)は聞き込みを行っていた。
 今回の事件でふたりが目をつけたのは、最近の失踪者である。特に風鬼は「ひとりの死でここまで怯えるのは妙だ」と考え、鴉も確実な証言を得ようと精力的に動く。そこへ白南風 レイ(ib5308)がとっておきの情報を携えて戻ってきた。
「どうやら事件の起きた翌日から、旦那さんが帰らないおうちがあるみたいです」
 それを聞いた鴉は「面白くなってきたな」と不敵な笑みをこぼす。そして3人はまだ日の当たる裏路地に入り、神経を尖らせながら周囲を探索する。
「世の中には、見えない恐怖ってのもあるからな」
 鴉の何気ない一言に、風鬼も頷いた。そして顔を上げようとした瞬間、物陰に不審な点を見つける。
「あれですな‥‥」
 彼は蓋のずれた木箱を指差し、レイには近づかないように指示。鴉は無銘大業物を隙間に挿し、一気に蓋を開く。
「うわー、見つけたぞっと」
 衣服がズタズタにされているところを見ると、やはり辻斬りにやられたのだろう。風鬼は遺体の始末を巡回中の志士に頼むことにし、ひとまず状況を整理することを提案する。
「辻斬りは死体を隠すだけの知能があって、肉を食らうのではなく血を吸う‥‥って感じか?」
 鴉の分析を聞く限り、とても人間の仕業とは思えない。レイは妙な安心感を得るも、難しい表情をした。
「でも人斬りさんの目撃情報がありません。もしかすると、もっとたくさん失踪した方がいるのでしょうか」
 まだ見ぬ被害者を見つけてやりたいが、今も辻斬りは健在。夜になれば、ここは再び狩場となる。一刻も早く退治しなければ‥‥風鬼は日の傾きを見て、仲間との合流を勧めた。
「さて、ここからが本番ですな」
 レイは血塗られた木箱を見て、気持ちを引き締めた。無法は、今夜止める。凶刃に散った無念の魂を救うために。

●打ち合わせ、そして遭遇!
 凄惨な場面を目の当たりにした鴉たちは、集合場所の酒場に戻ってきた。
 すでに開拓者ギルドに赴いた古廟宮 歌凛(ib1202)と、高台から地形を確認した朱鳳院 龍影(ib3148)も合流しており、店の親父が腹ごなしにと用意してくれたおにぎりを食べている。風鬼はそれを見ると、思わず「む!」と一声上げる。そして軽やかな身のこなしで大皿に向かい、おにぎりをひとつ手に取った。
「なるほど。腹が減っては戦はできぬ、か‥‥」
 そして食事をしながら、皆が集めた情報を統合していく。
 一気に客が引いたのが妙だと考えた風鬼の疑問は、歌凛が答える形となった。ギルドの番台によれば、黒い鎧を着た志士を見た人間はいないらしい。しかし男の死体が出てすぐのタイミングで、その噂が広まったというのだ。
「見せしめに酔っ払いをひとり殺して、作為的に噂を広めたじゃな。気に入らん」
 歌凛は敵の汚いやり方に、いたくご立腹のご様子だった。
 一方、龍影はテーブルに地図を広げ、隼人と敵の出現場所を予測する。
「この辺は軍事施設だな。そっちは賑やかな場所だ。うーむ、黒い鎧を着た志士って情報だけってのは厳しいな」
「ともかく、このルートを歩けばよいのじゃな」
 龍王は先頭を歩いて囮になるオルカを呼ぶと、彼女は「なに〜♪」と言いながら、豊満な胸と膝の間に滑り込む。
「オルカ‥‥おぬし、飲んだのではないじゃろうな?」
「だいじょうぶだよ〜♪」
 今のオルカは、周囲が不安になるほどのハイテンション。龍影は思わず親父を見るが、相手は「お酒は出してませんよ!」と必死に首を横に振る。今回の作戦の成否は、彼女の囮っぷりにかかっていた。

 そんなオルカの囮っぷりは、薄暗く薄気味の悪い路地を華やかにした。
 腕をぶんぶん振って踊ったり、尻尾をフリフリしてジャンプしたりと、まるで見世物小屋のようだ。風鬼はそのショーを暗視で堪能する。
「囮が女の子で大丈夫か、これ‥‥」
 本人が志願したとはいえ、さすがに戸惑いを隠せない。風鬼は暗視の効果を持続させ、周囲を警戒した。
 後ろから追う面々も準備万端。いつ辻斬りが現れてもいいように、ゆっくりと進む。鴉は「あいつ、俺より楽しんでるな」と感心した。
 路地を曲がってしばらく直進していると、噂どおりの姿をした志士‥‥いや、例の辻斬りが現れる。オルカの懐には、事前に歌凛が用意した小さなネズミを模した人魂が顔を覗かせていた。
「来よった!」
 歌凛は皆に静止を促す。オルカが発する合言葉で一斉に出る段取りではあるが、警戒するに越したことはない。歌凛は集中を切らさず、しばし様子を伺った。
 オルカはわざと大きな声で「おじさ〜ん!」と敵に呼びかけ、ぶんぶんと手を振る。相手は呼応するように禍々しい形をした刀を抜き、ゆらりゆらりと近づいてきた。
「おじさん、おじさ〜ん! あ〜そ〜び〜ま〜しょっ♪」
 この言葉が突撃の合図‥‥7人は即座に動き出した。先手必勝とばかりに、鴉は敵に向かってワイルドカードを投げる。
「後ろへ跳べ! オルカ!」
「ぴょーん♪」
 敵は奇襲の一撃を避けるが、鴉は負けじと呪縛符を放つ。闇色の鴉が飛んだかと思えば、辻斬りに触れると鎖となって絡まった!
「よぉ、辻斬り。今回はそう簡単には斬り捨てらんねぇぞっと♪」
 いよいよお楽しみの始まりだと笑うと、歌凛は夜光虫で周囲を照らした。すると、わずかに敵の顔が見える。なんとその顔は骸骨であった。
「やはりアヤカシか! 下郎め、覚悟せよ!」
 それを聞いたレイは驚きつつも、ストーンウォールで敵の背後に立てて退路を断つ。そして相手に、自分の疑問をぶつけた。
「‥‥あなたは、なぜ人を‥‥?」
 自分が人に似たアヤカシを倒すのに、どうしても踏ん切りがつかない彼女に向かって、敵は非情な答えを発する。
「しいて言うなら、本能だな」
「そう、ですか‥‥人を斬りたいというのなら、私たちは斬り甲斐、ありそうですね?」
 その会話の隙を突き、龍影は隼襲で一気に間合いを詰めると、朱槍を振るう。
「とあっ!」
 空賊の服に包まれた胸が揺れるたび、黒い鎧に衝撃が走る。二撃目は貫通し、骨だけの体に槍が突き刺さった。そこへ紅焔桜を発動させた一が鬼神丸で斬りかかり、アヤカシの体を大きくのけぞらせることで槍を引き抜くように仕向ける。
「そこっ!」
 束縛から放たれた反動をいなすように体勢を整える敵を、一は側面から斬りつける。
 隼人は心覆で殺気を消し、朝顔と炎魂縛武を駆使して攻撃。火縄銃から放たれる炎の弾丸は、醜い顔を覆い隠す髪を揺らし、脳天へと突き刺さった!
「グオオオォォッ!」
「私は刀剣を扱うのが嫌いでね。疾風迅雷の射撃、避け弾いてみるがいい」
 まんまと奇襲に嵌ったアヤカシは、手近な一と龍影に反撃する。血に飢えた刀の餌食になるのは御免とばかりに、一は横踏で華麗に回避。龍影も槍を地面に突き立てることで軸にし、すばやく回転してこれを避ける。

●辻斬り、死すべし!
 レイは踏ん切りがついたらしく、ホーリーアローで積極的に攻撃を仕掛け、穢れた鎧に聖なる矢を突き刺した。アヤカシに絶大な効果を発揮すると知ってはいるものの、レイにとっては初めての経験である。想像以上の成果を挙げて胸を撫で下ろす一方、ほんのわずかだが動揺してしまった。その後はフローズでダメージを重ね、相手の行動を鈍くさせる。
 囮役のオルカも月吼を装備し、戦線に復帰。疾風脚を繰り出すが、さすがにこれは命中しない。しかし、これは間合いを詰めるためのフェイント。彼女の狙いは武器を持つ手である。そこにめがけて、渾身の骨法起承拳を繰り出す!
「こんなとこ鍛えようがないでしょ?」
 オルカは自分よりも細い手を精一杯の力で殴り、アヤカシから苦悶の声を引き出す。その様子を風鬼が屋根の上から観察し、苦無で瓦にメモを書いた。仮に負けたとしても、この情報があれば次に活かせる。彼女の射るような目は、ずっと敵に向けられていた。
 歌凛は火輪で敵の身を焦がさんとする。
「火よ廻れ! 余の敵を滅するが如く!」
 彼女の怒りをも吸い込んだ業火は鎧はおろか骨をも焼き、周囲に妙な匂いを漂わせる。
 そこへ一気呵成、隼人が再び朝顔と炎魂縛武から一撃を発射。今度は狙いやすい鎧を狙い、見事に肩当てを弾き飛ばす。それが宙に舞ったかと思えば、瘴気となって霧散した。
 これだけの攻撃を受けながら、アヤカシはまだよろめかない。鴉は殺し合いを楽しむ笑顔を浮かべた。
「コイツは‥‥楽しめそうだなっと」
 そう言いながら、斬撃符を二度飛ばして身を切る。敵が気圧されたと見るや、一は紅焔桜と円月を発動させた。
「行きますよ!」
 鬼神丸は弧を描く。その一閃は骨をも切り裂かん勢いがあり、それをマトモに食らったアヤカシは悲鳴を上げた。
「ブヘェェェーーー!」
 この後に龍影が槍で穿つも、まだ倒れない。アヤカシは唸り声を上げながらも、龍影に的を絞って凶刃を振るう。だがこれも空を切るばかりで、しまいには龍王に鼻で笑われる始末。
「ふふん。どうやらおぬし、満足に斬れるのは無抵抗な者だけじゃの」
「グオオ! おのれ、言わせておけば!」
「私は龍王なるぞ! アヤカシ、分をわきまえよ!!」
 そのセリフと同時に龍影が発気を駆使し、魅力ムンムンの龍王オーラを浴びせて敵を怯ませた。
 この一瞬を逃さない。龍影が槍を構え、トドメの一撃を浴びせんと狙う間、他の仲間たちも動き出した。レイは再びホーリーアローでダメージを重ね、風鬼は影縛りで敵を束縛。隼人も朝顔と炎魂縛武の合わせ技でただの的となったアヤカシを射抜く。
 一気に倒してしまいそうな流れになったところで、鴉が無銘大業物に瘴刃を使って武器を持つ手を斬りつけた!
「おっと、そのカッコいい刀‥‥くれよ♪」
「グワアアァァァーーーッ!」
 胴体から手と獲物が離れると、地面に落ちるまでに瘴気となって消えてしまった。鴉は「あらら」と残念がる。
「ま、いっか。硬ぇ鎧は任せたわ‥‥♪」
 最後は龍影が鬼切を披露。豊満な肉体を駆け巡る練力が武器を伝い、朱槍に恐ろしいまでの力を蓄える。そして龍王の一声とともに、アヤカシの身を裂く刃となって襲いかかった!
「はあぁっ! ぬぅん!」
 もはや武器を失ったアヤカシに、これを耐え切るほどの体力はない。断末魔の叫びを轟かせ、裂かれた場所から瘴気となって消えていく。
「グノオオオオオオォォォーーーーーッ!」
 龍影の体から練力が放たれる頃、そこにアヤカシの姿はなかった。

●お礼の酒盛り
 こうして仁生の人々を恐怖させた辻斬りは、開拓者によって討伐された。とはいえ、すぐに酔客が戻ってくるかと言うと、それは微妙なところ。仁生の酒場に賑わうのは、もう少し時間が必要なのかもしれない。
 大仕事をやってのけた開拓者たちは、依頼者の店で手厚いもてなしを受けた。親父が腕によりをかけて作った料理がテーブルを賑わし、おかみさんもどんどん飲み物を持ってくる。今日ばかりは誰も遠慮せず、夫婦の厚意に甘えた。酒場から楽しそうな声が響けば、自然と客足も戻るはず‥‥隼人は皆にそう伝え、大いに酒を飲む。
「うむっ。やはり戦争だの領地だのということに煩わされず、酒や花を楽しむのが一番だ」
 隼人の言葉に、龍影も頷きながら「街に平和が戻った感じじゃな。そして酒がうまい」と言いながら、くいっと杯を空けた。
 父も酒を嗜むという歌凛は清酒をちびちび飲みつつ、料理にも舌鼓を打つ。隣ではオルカがいろんな料理をつまんでは、表情はもちろん耳や尻尾でおいしさを表現した。
「いっぱい騒いで、いっぱいお酒飲んで、いっぱ〜い楽しむのが一番だよね♪」
 ウサギ娘の言葉に、歌凛も同意する。
「アヤカシの渡る三途の川はさぞ冷たかろう。酒で温まるわけにも行くまいて。わしはゆっくり楽しむとしようか」
 自分のペースで宴会を楽しむ歌凛は、ふと鴉に目をやる。彼は少し離れたところで静かに飲んでいるが、彼も彼なりに宴を楽しんでいるようだった。
 一とレイも微笑みながら食事していたが、そこへ風鬼が料理を持ってくると、いきなり大騒ぎになる。
「ふ、風鬼さん‥‥お顔がどす黒くなってますけど‥‥」
 さすがのレイも、これを見ては冷静でいられない。一も慌てて皿を持ち、無理やり風鬼を椅子に座らせる。
「おっと。これは乱暴ですな。確かに酔ってはいるが、いつもこんなもんでさ」
 平気だと言われると、逆に不安になる顔色だ。そんな乙女の不安は、あっという間に周囲に伝播する。それを見て笑っているのは、龍影とオルカくらいだ。そこにおかみさんも混じって、天下御免の大騒ぎへと発展する。
 憂いなき夜の盛り上がりは、まだまだ序盤。最高潮を迎えるのは、まだまだ先のようだ。