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■オープニング本文 この地方では珍しくもない隠れ里のひとつに、シノビを志す者の性根を叩き直す施設が存在する。 ここで一泊二日の合宿を経験すれば、その年は任務で失敗することはないと上忍の間でも評判だった。すべては自分を鍛えるため‥‥そんな噂が広まり、今ではシノビだけでなく開拓者も受け入れるほどの盛況である。 そんな厳粛な施設で過ごすためのルール、それは「何が起きても絶対に笑ってはいけない」だけ。 シノビたるもの、どんな事態に直面しても決して動じてはならない。 たとえ仲間が危機に陥ろうが、自分が拷問されようが、はたまたオイシイ場面に出くわそうが‥‥いかなる時も冷静沈着に物事を見据え、計算しつくされた次の一手を捻り出す。それがシノビとして、いや開拓者として長生きする秘訣なのだ。 よって、この施設に足を踏み入れた瞬間から笑うどころか、ちょっとニヤけることも禁止である。 このルールを破れば、黒の忍装束を身を包んだ下忍がネギを模したハリセンを持って登場。気合いの入ってない開拓者のお尻を容赦なくドツく。男も女も、そんなの関係ねぇ。とにかく一発ドツいて、風のように去っていく。 そこの君、「これは厳しいっ!」と思うなかれ。それさえ守れば、一流の料理人が用意する絶品の食事を楽しめ、シノビに大人気の秘湯を満喫できるのだ。そう、人間の本能的な動作である笑いを堪えればいいだけの話である。 今回は年明けということもあって、施設は日頃のご愛顧に感謝して『開拓者さんスペシャル』を企画。開拓者ギルドにも、その案内が送られた。 たまたま年始の挨拶に訪れていた草崎兄弟は、その貼り紙を見た途端、色を失う。特に、弟の草崎刃馬(iz0181)は悲鳴を上げた。 「うわーっ! 俺、15の時にここ行った! ケツが真っ赤になるんだよー!」 思春期の少年にとってはトラウマになりかねない、非常にキビしい悲痛な叫び‥‥麗しき受付嬢は「うわー」という白けにも近い表情を浮かべる。すると、兄の草崎流騎(iz0180)が、今回の予定表を確認しながら、弟に向かって残酷なセリフを吐いた。 「ああ、合宿所の管理人をしているフジワラ殿から手伝いに来いと言われている。参加者に混じって、下忍の働きを見てほしいそうだ」 刃馬は必死の形相で兄の腕を掴み、大きな声で「ロープ、ロープ!」と叫ぶ。下忍の評価をするだけでなく、参加者と混じって訓練させられるとは‥‥こんな生き地獄、人生でめったにない。彼の抵抗は激しかった。 「あの人、すぐにセリフ噛むだろ! あれで笑ってもアウトなんだぞ! 棒読みでセリフ噛むとか、たとえアヤカシでも笑うぞ!」 流騎はそれを聞くと、無意識に視線を虚空へ向けた。どうやら、それが原因でドツかれたことがあるらしい。 「ゴホン。まぁ、それはさておき‥‥今回は私たちも初めて体験するルールがあるから、それで存分に憂さを晴らそうではないか!」 頼れる兄上は受付嬢も巻き込んで、今回の『開拓者さんスペシャル』の詳細を説明した。 今回は施設側が、すべての場面において『笑いの仕掛け人』を用意するわけではない。なんと参加者にも笑わせるチャンスがあるのだ。 開拓者は他の誰かと結託してもいいので、合宿所にいる間に一度は必ず笑わせる側に回らなければならない。それがどんな小ネタでも構わない。別にスベってもいい。ひとりが一度やることで、予定表の合間も気が抜けなくなる‥‥そういう狙いだ。夕食後にステージを用意してあるので、そこで大々的に披露しても構わないという。 「こんな楽しい追加要素があっても、まったく愉快な懇親会に思えないのが嫌なんだよなー!」 そうは言いつつ、刃馬は少しニヤける。そして今から仲間たちを陥れるネタを考えようと、頭をフル回転させた。 研修当日。 少しぽっちゃりした体格の中年忍者が、今回の施設となる屋敷の前で必死に手を振っていた。 「おーい、こっちー。こっちでござるー。こっちでござるよー」 彼が今回の案内人・フジワラさん。本業は謎に包まれた男である。その抑揚のないセリフ回しに、先頭を歩く草崎兄弟はすでに渋い表情を浮かべていた。 こうして開拓者の修行と銘打った、地獄の一泊二日が幕を開ける‥‥ |
■参加者一覧 / 水鏡 絵梨乃(ia0191) / 斑鳩(ia1002) / 天河 ふしぎ(ia1037) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 喪越(ia1670) / 嵩山 薫(ia1747) / 荒屋敷(ia3801) / 珠々(ia5322) / ペケ(ia5365) / アーニャ・ベルマン(ia5465) / 詐欺マン(ia6851) / 朱麓(ia8390) / 和奏(ia8807) / ラシュディア(ib0112) / 明王院 玄牙(ib0357) / 不破 颯(ib0495) / 央 由樹(ib2477) / レビィ・JS(ib2821) / 牧羊犬(ib3162) / 朱月(ib3328) / リィムナ・ピサレット(ib5201) / 天青(ib5594) / 白仙(ib5691) / 春吹 桜花(ib5775) / 鳳櫻(ib5873) |
■リプレイ本文 ●入場と施設案内 素性の知れない謎の案内人・フジワラさんは参加者を前にして、再度ルールの確認を行う。 忍屋敷の敷地に足を踏み入れた瞬間から、何が起こっても笑ってはいけない。もし笑った場合は、キツ〜い罰が下される。 「せやから、十分に気ぃつけや。なら、さっそく、や‥‥っ、や、屋敷に入ってくれるか?」 普通の進行役なら噛みそうにないセリフをさっそく噛み、周囲はニヤニヤと笑みを浮かべる。特に無抵抗主義を貫かんとする喪越(ia1670)は声まで出して笑う始末。ここで笑ってもまだノーカウントなので、同行者の水鏡 絵梨乃(ia0191)や嵩山 薫(ia1747)も最後のガス抜きとばかりに笑う。 そして全員が屋敷の門をくぐり、『笑ってはいけない忍屋敷』が始まった。待機場所となる大広間へ向かうまで、フジワラ氏が施設案内をする。 なんとも絵に描いたような典型的な屋敷だが、漆喰の壁を叩けば実はどんでん返し。まぁ、こんなものはシノビでなくとも知っているが、油断はできない。珠々(ia5322)は掌に「人」の文字を書いては飲み込んでがんばろうとするが、不意に次の壁が目に入ってしまった。そこにはデカデカと「使用禁止」の張り紙と、ヒビの入った漆喰の壁‥‥舌を出して笑いを堪える開拓者が続出する。 「ホンマはこっちにあったんやけど、今は修理中や〜」 せっかくの仕掛けが台無し‥‥しょーもないジャブでいきなり荒屋敷(ia3801)が吹き出すと、アウトコールが屋敷中に響き渡る! 「荒屋敷、アウト〜!」 今回は紹介したどんでん返しから下忍が襲来。無理やり尻を突き出すポーズをさせ、ネギを模したお仕置き棒で一発ドツく。青年の純粋なお尻に激痛が走ると、一気に笑いが醒めて真顔に戻った。 この一連の流れを目の当たりにして、自分のやられる姿を想像した喪越が吹き出すという負の連鎖がいきなり発生。彼は下忍に尻を突き出し「アミーゴ! ヘイ、カモン!」と挑発するのを、無関係の朱麓(ia8390)が笑ってしまいアウト。そこへ専用の女性忍者がやってくると、喪越は「そっちに叩いてほしいー!」と駄々をこねた。徐々に笑いが伝播する状況に耐え切れず、リィムナ・ピサレット(ib5201)もお仕置きの餌食に。こんな調子で無駄に被害が拡大していった。 参加者同士の潰し合いもあると知り、一行はさっそくお通夜ムード。控え室の大広間に通されてもダンマリを決め込む者が目立った。 アーニャ・ベルマン(ia5465)は「立派なシノビになってほしい」と願って連れてきたラシュディア(ib0112)を真顔で励ます。しかし当の本人は「アーニャが最大の敵」と考えており、隙を見せぬよう冷静な対応を心がけた。 自分のスペースを確保すると、ペケ(ia5365)はさっそく大広間を調査。それを後ろから、じーっと白仙(ib5691)が見つめつつ追跡。 すると、部屋の片隅に呼び鈴があった。ペケが少女に向かって頷き、危険を示すサインを見せるが、白仙はすばやく鳴らす。部屋中に軽快な音が鳴り響いたかと思えば、天井からタイミングよく「ハズレ」と書かれた垂れ幕が落ちてきた。 「‥‥ぷっ‥‥」 「白仙、アウト〜!」 勘違いで地雷を踏んだ少女が当然の報いを受け、ついでに斑鳩(ia1002)もシュールなネタに撃沈。続けざまに尻を叩かれる。 休憩中も気が抜けないことがわかり、一行の警戒心はさらに高まった。だが、そう考えることが本当にヤバいことを、まだ誰も知らない。 ●入所式と講習会 続いては入所式。荷物を置いた一行は、奥座敷へと通される。 そこではアシスタント兼チャレンジャーの草崎流騎(iz0180)と草崎刃馬(iz0181)が全員を整列させ、準備が整ったところでフジワラ氏が噛みまくりのアナウンスが炸裂。ここでも喪越がドツかれ、フジワラ氏の底力を思い知らされる格好となった。 入所に先立ち、屋敷を管理する凄腕の白髪のシノビが‥‥なんと普通に歩いて登場する。 そりゃないよとばかりに、珠々が「くっ」と吹き出してアウト。奥座敷に「にゃー!」という悲鳴が響く。隣にいたペケはそれを見て笑った。どうやら本業がシノビの方には、キビしいネタらしい。 罰も収まったところで、フジワラ氏から紹介が始まった。 「ここの管理人をしてはるマサノリさんや。博打にめっぽう強くて、賭博が絡む捜査のエキスパートなんや」 どこから見ても好々爺だが、そんな側面があるとは‥‥和奏(ia8807)は普通に「へぇ」と感心した。 管理人は若人の前を見ながら、歓迎の挨拶を始める。 「こちらで訓練なさるとは、いい心がけですねぇ〜。私はね、皆さんを歓迎しますよ!」 見た目の印象よりもトーンの高い声だが、特に笑うほどではない。一行は普通にやり過ごす。 あまりに平凡な展開‥‥下着一丁の牧羊犬(ib3162)は思わず緊張した。こんな格好で怒られないだろうかと、普通にビビる。鳥肌を立てて直立不動の牧羊犬に、マサノリ氏が迫った。 ここでいきなり、相手の表情が柔和になる。そして頭を撫で回して、嬉しそうな声を出した。 「いやぁ〜、かわいいですねぇ〜! 神威人ですねぇ! 耳がね、ピンと張ってますよぉ。素敵ですねぇ〜!」 管理人の変わりっぷりに、央 由樹(ib2477)は笑いながら「これはあかんって‥‥!」と言いながら崩れ落ちた。春吹 桜花(ib5775)もマジメからギャグへの急転直下で爆笑してしまう。ピンポイントで狙われた牧羊犬も身を震わせながら我慢するも、最終的には撃沈した。 その後もマサノリ氏は、朱月(ib3328)や天青(ib5594)の特徴を狂喜乱舞で解説し、とにかく顔を撫で回す。 「この毛並みは素敵ですねぇ〜! ずっと触ってても飽きませんねぇ!」 あまりにもしつこくネタを押すもんで、鳳櫻(ib5873)も観念して「わはは!」と爆笑。だんだん下ネタっぽい雰囲気も混じってくると、絵梨乃と朱麓も笑ってしまい、ともにお尻をシバかれた。 ある程度の被害者が出ると、下忍がマサノリ氏を退場させ、そのまま入所式は終了する。 続いて、シノビスキル講習会が催された。 講師は上忍のムラキ先生。紹介と同時に颯爽と現れたかと思うと、いきなり下忍がクナイを投げつけるではないか。 「はあっ!」 先生は瞬時に両手を床に叩きつけ、畳を跳ね上げて命中を華麗に阻止。そう、これが「畳返し」である。礼野 真夢紀(ia1144)は普通に拍手すると、周囲も「ほー」と感嘆の声を上げた。 「これが畳返しや。ムラキ先生の十八番やで」 フジワラ氏の解説も入り、いよいよ本格的に盛り上がる‥‥かと思いきや、下忍はまたしてもクナイを投げる。しかし先生も単調では済ませない。今度は足を使って、畳返しを披露。しかし畳の裏にはバッチリ「※二度目です」と書かれており、もはや恒例となった「喪越、アウトー!」が屋敷に響いた。 その後も披露されるのは、畳返しばかり。 畳1枚につきクナイ1本を阻止する贅沢なテクから、クナイの多い時用の二枚重ねなど、とにかくバリエーションが豊富。これだけでも荒屋敷や由樹が撃沈しているというのに、さらに天河 ふしぎ(ia1037)が隙を見てムラキ先生の額に落書きをするという暴挙に出た。額に「中」とか「米」とか書かれても、先生はノーリアクションのまま‥‥ここで身内が仕掛けるとは夢にも思わず、明王院 玄牙(ib0357)が不意に吹き出してアウト。 さらに詐欺マン(ia6851)がクナイの代わりにちくわを投げつけるが、それをすべて口に頬張るという離れ業を披露する。しかし飲み込めずに嗚咽する哀れな姿が爆笑を生み、リィムナも盛大に尻を叩かれた。 そのちくわのせいか、畳返し芸に変化が生じる。よく見ていると、クナイを防ぎ切っていないのだ。それを見た白仙は恐縮しつつも手を上げ、わざわざ質問する。 「あ、あの‥‥ちょっとずつ、防げてませんよ‥‥?」 まさかの冷静なツッコミに不意を突かれ、ここでも大量の開拓者が吹き出す。 ここまでノーダメージのレビィ・JS(ib2821)も、めでたくネギの洗礼を受けた。早くも尻がヤバい由樹は「なんでいちいちツッコむねーん!」と少女を容赦なく責めたが、本人はピンと来ていないご様子だった。 結局、ムラキ先生は長時間に渡って畳返ししか披露せず、拷問のようなスキル講習会はなんとなく幕を閉じた。 ●夕飯と休憩 入所から数時間。日も暮れて暗くなった頃に、下忍が大広間にお膳を持ってきた。夕飯の時間である。 「おおっ、立派なお膳だな! うまそうだぜ!」 「荒屋敷、アウト〜!」 食べ物が出てきて普通にニンマリした荒屋敷は、しばし意味がわからず戸惑った。そして無理やり尻を叩かれた後にアウトの理由を知り、思わず「あーっ!」と声を上げる。 レビィは「フッ、やっと気づいたのか‥‥」とフォローするも、「最初に笑った」と判定されて巻き添えでアウトになってしまう。 「えっ? えっ??」 彼女のド天然をいち早く理解し、和奏は「ふふっ」と微笑むが‥‥もちろん、これもアウト。まさにこれが、めくるめく天然のワンダーランド。 さらに開拓者の仕掛けも本格的に動き出す。 絵梨乃はふしぎが誰かが尻を叩かれているのを見て気を取られている間に、味噌汁のお椀に人形を仕込んだ。相手がおもむろに開けると、頭だけもふら様になっている人形がニヤッと味噌汁に浸かっているではないか。これでふしぎは一発アウトとなるが、仕掛けた本人は素知らぬ顔。黙ってご飯を口に運ぶ。 ふしぎもただでは転ばない。冷静に人形を自分のお膳の前に座らせ、次なる被害者を生まんとする。不幸にも人形と目が合った真夢紀は腹を抱えて爆笑してお仕置きを食らった。いたいけな少女がいじめられる姿を見て、朱麓は興奮を抑えながら感情をあらわにする。 「ああ、あの子があんなひどい目に‥‥ハァハァ‥‥わ、笑いたいっ! 大声を出して上から見下ろしながら、嘲り笑いたい‥‥! ぷぷっ!」 「朱麓、アウトー!」 最後までがんばったのに、我慢しきれずアウト。ダメダメな展開を目の当たりにした由樹が吹き出し、「おい、ホンマしっかりせぇよー!」と言いながら尻を叩かれた。 食事が終わると、またしばしの休憩。しかし、大広間は意図せず車座になって「あるもの」を見つめている。 それは、お膳の片付けをした下忍が置いていった謎のスイッチ。ご丁寧にも「お楽しみください」という説明書きも添えられていた。 最初こそ「こんなもん誰が押すか」という空気だったが、すぐに天然っぽい皆さんが我慢できずに近づいていく。ペケにリィムナに白仙にと、もう「押すなよ! 絶対に押すなよ!」と土下座しても無駄な少女が顔を揃える。 「えいっ」 あっさりとペケがそれを押す。すると頭上で「ピンポーン♪」というマヌケな音がし、おなじみとなったフジワラ氏のコールが炸裂。 「由樹、アウトー!」 笑うどころかリアクションすらしていない由樹のアウトコールが鳴った瞬間、その場にいた誰もが「なんで?」と首を傾げる。もちろん本人も自分を指差し、「なんで?」と不思議がった。ところがネギを持った下忍が出てきて、そのまま尻を出させ、スパコーンと一発殴って退散‥‥理由を語られないまま展開が終わってしまい、ますます意味がわからなくなってしまう。 「えっ? なんでなんでなんで??」 理不尽な仕打ちに説明を求める姿を見た犯人のペケが、思わず「ふっ」を笑ってアウト。ついでにリィムナも由樹を指差して笑ったのでアウトとなった。 何をやっても連鎖になる恐怖は、まだまだ健在。リィムナは「痛ったー! ふ、ふんっ、姉ちゃんの百烈尻叩きに比べれば、ぜーんぜん痛くないよ!」と強がるが、叩かれる時の顔がだんだんとヤバくなっているのに気づいていない。それを見た白仙は我慢できずに笑ってしまい、スイッチに向かった少女は全員ダメージを負ってしまうという見事な結末を迎えた。 ●お楽しみステージ 腹ごなしも終わったところで、再び奥座敷へ。今度は親睦会を兼ねたお楽しみステージが開催される。 入所式と同じ並びで座らされた一行は、まずは薫の出し物を鑑賞。フジワラ氏によれば「TKS48」によるショーだというが、47人は「たいけんし君」の仮面を被ったエキストラ。しかも中央で踊るのは、なぜかフリフリヒラヒラの衣装に身を包んだ薫である。そのくせ、ダンスは全員揃っているというシュールさも兼ね備えていた。 さらに荒屋敷がステージに上がり、即興で演奏を買って出た。それを契機に、意味もなく激しく踊り出す薫。もはやここは、彼女の独壇場となった。 見れば見るほどギャップを感じてしまう構図に、思わず撃沈する開拓者が続出。さすがに1カウントだけで許してもらえたが、しっかり一撃をお尻に食らう。さらに代表で喪越がステージに呼ばれた。 「喪越、絶破昇竜脚ー!」 いくらドMといえども、これを食らっては無事では済まない。もちろん薫も絶破昇竜脚で蹴る気はなく、ただのキックで済ますつもりだった。ところが謎のスイッチの件もあり、喪越は素で説得を始めるではないか。 「マジでアウチ。それアウチ。これはノーガード、無理‥‥」 あれだけ威勢のよかった人間がビビると、自然と笑いもこみ上げてくるというもの。ここでまたまた由樹がお仕置きを食らい、思わず「キャラを捨てんな!」と本気で野次る。この後もキックを食らうまでゴネて、またしても爆発的に被害を増やした。 続いてはアーニャは「こんなシノビは嫌だ!」というお題でイラストを描き、それをラシュに見せるという芸を披露する。 彼女は「ラシュさんはシノビ。シノビたるもの、拷問にも耐えないといけないので」と選出の理由を説明するが、さすがに本人も「ピンポイントで狙ってきたな」と察していた。 まず披露されたのは、網タイツを履いた「オカマのクノイチ」。網タイツは伝わるのだが、意味もなく大根足で妙にアンバランス。しかもチャームポイントの厚い唇の回りはヒゲの剃り残し満点というお茶目な作品である。これだけで生贄のラシュは爆笑し、その姿を見た開拓者が一撃を食らうというなんとも巧みな構図が構築された。 続いては「エロいシノビ」。女湯に潜んでいる図をいくつも出し、下ネタに弱い連中を地獄のズンドコに叩き落す。すでにラシュの笑いの堰は決壊し、どんなネタでも笑ってしまう状態になっていた。最後の「木葉隠の葉っぱが虫食いだらけで隠れてないシノビ」に至っては、イラストも見せていないうちから笑い出すという始末である。 「な、なんで見せてないのに笑うの!」 「アーニャ、アウトー!」 ツボに入りすぎたラシュを見て、仕掛ける側まで笑ってしまうという究極のカオス。アーニャもまたネギの餌食となった。 その後、我先にステージへ上がろうとして由樹と桜花が立ち上がるが、なぜかふたりとも豪快にすっ転ぶ。さすがに爆笑こそ起きないが、我慢し損ねた小さな笑いがそこかしこで発生。それを下忍がドツいている間に、鳳櫻がステージでとんでもないネタを披露する。 「布団が、吹っ飛んだ‥‥ぶふっ!」 「鳳櫻、アウトー!」 てめぇで言っときながら、てめぇがアウト‥‥このシュールとシンプルが同居するネタで、珠々やペケ、レビィに牧羊犬に朱月までもがアウトになり、下忍の仕事が増える増える。もはや混沌すぎて収拾がつかなくなってしまった。 最後は天儀のどこかを模した商店街を舞台にした喜劇がスタート。下忍が幕を開けると、そこには居酒屋の店主・朱麓がいた。 そこへ酔客の絵梨乃がやってくる‥‥のだが、この姿がどうしようもなくヒドい。ハゲたズラをかぶっているが髪の毛がはみ出てるわ、手に持ったもふらを頭に乗せるわと手加減なしの大暴れ。さすがに美少女がキャラにないことを連発すると、耐えられるものも耐えられなくなる。一応は話の筋があるが、それを追っても笑ってしまうというダブルパンチ。ここでは斑鳩がツボにハマってしまった。 結局、いったい誰が楽しんだのかよくわからないお楽しみステージとなった。 ●温泉と就寝 ここまで叩かれ続けたお尻を癒す意味も込め、いよいよシノビ垂涎の秘湯を味わう時間がやってきた。 フジワラ氏は湯船もオッケーの手ぬぐい衣装を準備し、全員に着用を義務付ける。これに逆らえばどうなるかは、謎のスイッチ事件などから誰もが容易に連想できた。理不尽に叩かれてはかなわんとみんな素直に受け取るが、ここでふしぎが男性用を受け取ったのを見て不思議そうな顔をしている連中が存在した。 彼の友達はみんな「ふしぎが男だ」と知っているが、それが仇となってしまうとはなんとも皮肉。この空気を読み切れたせいで、「ぷっ」と吹き出してしまった。 「絵梨乃、ふしぎ、薫、アウトー!」 この訓練、いったい何が幸いするかわからない。もはや笑いの底なし沼となった忍屋敷に安息の場所はないのだ。 そう、それは温泉とて例外ではない。 今までドMに徹してきた喪越は男湯で全身に油を塗り、一呼吸ごとにポージングを変えて、他の誰かを笑わせにかかった。ここで笑うと衣服なしでお尻を叩かれるので、みんな目を合わせないように我慢していると、詐欺マンが石鹸の上に乗って見事なスケートを披露する。 ところがそのままの勢いで女湯の策をぶち破ってしまい、上層部から問答無用の制裁をお尻に受けて「おじゃるぅ〜!」という珍妙な悲鳴を轟かせた。 「事故でも、女湯に入ったら制裁かよ‥‥」 荒屋敷がボソッとつぶやくが、さすがにそれを気にする男はいない。よほどの大仕掛けがない限り、女湯に侵入することは難しいからだ。それに詐欺マンの開けた穴も、さっさと下忍が埋めている。 誰もがテッカテカのボディービルダーを無視する中、荒屋敷は「しめしめ」と心の中でほくそ笑む。そして寝湯が満員であることを確認し、怪しげなレバーを引いた。 そこに寝ていた男性は滑り台の要領で流され、あっという間に女湯へと送り込まれてしまう。女性陣の悲鳴が響く中、アウトコールが連続で鳴り響き、寝湯を利用していた連中はひとり残らず罰ゲームの餌食となった。 この際、玄牙が本当は男湯で披露するはずのネタを女湯で披露。下忍によってお湯の中から捕らえられた時、仕込んでおいたうさ耳をかぶって連行される。罰則でお尻を叩かれるというのに、この余裕はいったい‥‥さすがの女性陣も堂々たる姿に吹き出し、女湯も混沌の渦巻く世界に変貌した。 「キャラにない奴もいたけど、大丈夫かな?」 今さらな心配をしてあげる荒屋敷にお仕置きとばかりに、天青が小さい羽根で作ったひよこを下着の中に放り込む。 「うひゃっ! な、なんだ‥‥ははっ、羽根で作ったひよこか」 「荒屋敷、アウトー!」 安心して笑ってもいけないとは、これぞ生き地獄。荒屋敷は犯人を探しながらも、強烈な一撃を受けると急いで湯船に浸かって治療を始めた。 その頃には女湯に突入させられた連中も蹴り出され、しばし暗黙の了解でだまーって秘湯を楽しんだ。 体が温まったところで、就寝の時間。大広間には布団が敷いてあり、後は寝るだけ。寝ながら笑うこともなかろうと、我先にと床に入る。 和奏もそのひとりだったが、なぜか頬に水滴が落ちてくる‥‥これも何かの仕掛けかと思い、しばし天井を凝視。すると、またピチャンと一滴。さすがに気になって、周囲に尋ねる。 「あの‥‥ここ、雨漏りでもしてるんでしょうか?」 他に同じことを感じてる人がいないか探していると、桜花が威勢よく返事する。 「おっ、それって二階から目薬‥‥ってことでやんすか?!」 それを指摘された和奏は、しばらく考えた後に思わず「ふっ」と笑ってしまう。今さらトンチの利いたことをされるとは想定の範囲外だったらしく、朱月や天青もつられてアウトになるという珍しい展開となった。 その後も詐欺マンが「小気味いいリズムのお経を読む」などの細々としたネタが繰り広げるも、しばらくすると誰もが笑い疲れたのか、ぐっすりと深い眠りに落ちた。 ●起床と退所式、そして‥‥ 起床の時間になると、フジワラ氏が起こしに来る。 「お前らー、早よ起きやー」 ここでも身内が笑いの刺客となって襲い掛かる。 朱月が誰よりも早く起き、目覚めの瞬間を狙って、無差別に変な顔を作っては見せたのだ。この餌食になったのは、ふしぎや喪越、薫にレビィといった面々である。さらに他人が笑うのを見て、リィムナと白仙、さらに真夢紀と鳳櫻も雰囲気で笑ってしまう災難も起こった。 その後、朝食。 夕食の時に絵梨乃が仕掛けた謎のもふら人形を珠々が失敬しており、それを斑鳩の湯飲みに逆さにして入れた。斑鳩は足を見た瞬間に何かわかって吹き出してしまい、無駄に快適な目覚めを手に入れてしまう。 犯人を探すも見つからず、誰もが素知らぬ顔して食事を取る。彼女は自ら輪の中央に進み、くるくる回りながら湯飲みに突っ込まれた人形をゆっくりと引き抜く。 「ボク、もふららら〜ん♪」 意味のわからないセリフとともに人形を浮上させ、面白さを演出。それでも笑わないと見るや、またお茶に沈めて「うーん、ぶくぶく‥‥」とねっとりと芸を続ける。自爆覚悟のシュールなネタに由樹やラシュが撃沈。由樹が斑鳩から「もうええやんか!」と人形を取り上げ、一連の騒動はなんとか落ち着く。 何をやっても笑いかねない状態の開拓者を見て、さすがに限界が近いと判断されたのか、フジワラ氏は「まぁ、今回はこの辺にしといたるわ」と訓練の免除を伝えた。そして一行に荷物をまとめて退所式に挑むよう指示する。 地獄の合宿もこれで終了‥‥誰もがほっとしつつ、奥座敷に足を踏み入れる。そこには管理人とムラキ先生が待っていた。一行は昨日の笑いがこみ上げてくるところを無理やり我慢し、退所式に挑む。 「それでは、退所式を始めます。まずは管理人のマサノリさんから、訓話をいただきます」 フジワラ氏の紹介で前に進み出た管理人は、嬉しそうに話し出した。 「いやぁ、苦しい訓練を耐え抜きましたねぇ〜。皆さんは笑うことの大切さを知ったのではありませんかねぇ〜? 笑うって、いいことなんですねぇ〜」 どうやらここは笑うところではなく、感銘を受けるところらしい。実はこれ、本当の訓示であった。 シノビの道は、感情を殺すにあらず。自らが感情を操るのが極意‥‥これを伝えたかったらしい。感情のオンオフがしっかりしていれば、何も恐れることはないとマサノリさんは言う。そしてムラキ先生も「みんなの開拓者としての活躍を祈る」と締め括った。なんだかきれいにまとまってむず痒くもあるが、こうして閉所式は終わる。 「ほんならお前ら、あの門まで送るわー。あそこ出たら、もう終わりやからな」 フジワラ氏はみんなを引き連れ、最後の瞬間を見届けるために歩き出した。 いよいよ、みんなで門を出る。終わりが近づいたと知ると、ちょっと寂しい気もする‥‥そこでアーニャはある提案をした。 「ねね、門を出たら‥‥みんなで笑わない?」 これこそがシノビの極意。その案に誰もが賛同し、詐欺マンが「じゃ、行くでおじゃるよ!」と音頭を取る。そして門の外に出た瞬間、盛大に笑い出した。 「ぶっぷぷぷ! あははは!!!」 あのアーニャが我慢せずに笑い転げると、みんな晴れやかな顔で笑った。 その瞬間、誰もが信じられない光景を目にする。なんと通り過ぎたはずの門から足が生えて逃げ出したではないか! 「えっ???」 そして屋敷中にあの音楽が響き渡り、無常なコールが告げられた。 「全員、アウトーーーーーーー!!」 最後の最後まで忍屋敷の罠にハマり、開拓者たちは下忍から餞別代わりの一発をもれなく頂戴した。 この訓練で一番ダメージを負ったと思われる芸人肌の由樹は、全員の気持ちを代弁する。 「お前ら、覚えとれよーーー!!」 報復を恐れた門は勝手に開拓者たちを通し、この合宿は本当の終わりを迎えたのであった。 |