アヤネギ売りの少女
マスター名:村井朋靖
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/12/27 10:06



■オープニング本文

●小さな行商人
 年の瀬を間近に控えた北面の都・仁生は、いつも以上に賑わっていた。その隙間を縫うようにして、赤い頭巾をかぶった少女が歩く。小さな体に大きく長いカゴを背負い、彼女はみんなに聞こえる声で売り文句を叫ぶ。
「ネギ‥‥ネギはいりませんかー?」
 少女はネギを売っている。いや、正確には売り物がネギしかない。道行く人は切なさ満点の少女に哀れみを感じるが、商品がネギだけではどうしようもない。誰もが見て見ぬ振りをして、足早にその場を離れた。
 彼女は大声で呼ばわりつつも、手当たり次第に声をかける作戦に切り替える。その最初の被害者が、草崎流騎(iz0180)だった。
「あ、あの‥‥ネギを、ネギを買ってください‥‥」
 健気な少女の瞳が、涙でわずかに潤む。
 流騎は内心「しまった」と後悔した。彼もまた年の瀬に向けて、たっぷりと買い物をした後である。さらに苦手なネギとは‥‥それでも流騎は手荷物を地面に下ろし、彼女の目線でゆっくりと語った。
「私の見たところ、あまり商売に慣れてないようだけど‥‥」
 その言葉を聞いた少女は、戸惑いを隠さない。その様子を見た流騎は慌てて「困らせるつもりはなかった」と謝り、近くの茶店で事情を聞くことにした。

 温かいお茶と串団子が出される頃には、少女の素性が判明した。
 彼女は早くに両親を亡くして養育施設で生活しており、この度の商売は親代わりになってくれる人たちへの恩返しのためにしているという。売り物のネギは森の中に生えていたもので、断じて盗んだものではない。かわいい行商人に茶を勧めつつ、流騎は団子を頬張った。
「なるほど。しかし野生のキノコを売る場合には、ある程度の知識がいる。毒が入っているやも知れぬからな。そういったものは売ってはいけないよ」
「はい‥‥!」
 少女は茶を飲む手を止め、忠告を素直に聞き入れる。そんな姿を見ているうちに、流騎は情が移ってしまった。
「いい子だ。よし、今回は私がカゴごと買ってやろう。そしておうちまで送ってあげるよ」
 目を見開いて驚く少女に多めの駄賃を渡し、それをしっかりと手に握らせた。流騎は買い取ったネギをどうするか思案しつつ、彼女を家に送り届ける。

 その施設は街のはずれにあった。大人たちは少女の帰りを笑顔で迎えるも、早々に説教を開始。恩人である流騎には、何度も深々と頭を下げる。
 少女はお説教を聞き終えると、そーっと今日の売り上げを差し出した。大人たちはネギを背負った流騎を見ると、また申し訳なさそうに話し出す。
「も、もしや、そのネギは‥‥」
 あまりにも恐縮する相手に、流騎は「いいんですよ」と語りかける。
「私の住むところは片田舎でしてね。街に足を運ばぬ人に分けてやるのにもちょうどいい。ですので、あまりお気になさらぬよう」
 そうは言うものの、流騎の村に住むメたちもネギに苦手意識を持っている。はてさて、これをどうするか‥‥帰り道、彼は途方に暮れた。

●新たなる被害者
 重い足取りで屋敷に戻ると、さっそく弟の草崎刃馬(iz0181)が悲鳴を上げた。予想通りの展開とは、まさにこのこと。
「あ、兄上! な、なんてものを買ってくるんだ! いい加減にしろ、このド天然!」
 全力で「バカ」と言い放った弟に向かって、兄はムキになって街での出来事を説明した。いつもの刃馬なら「それなら仕方ない」と引くところだが、最近は話にネギが絡むと見境がなくなってしまう。
「だからって、カゴごとネギを買う必要があったのか! 3本くらいでよかったんじゃないか?!」
「お前はネギが絡むと、人の情さえも失うのか! なんと情けない。それでは一人前の大人と言えんぞ!」
 いよいよエスカレートする兄弟ゲンカを止めたのは、同胞である諏訪のシノビである。彼は情報共有のため、たまたま草崎の屋敷を訪れていたのだ。客人の仲裁もあり、子どもの言い争いはなんとか落ち着く。
「ふぅ‥‥これが『流刃の騎馬』との異名を持つ凄腕のシノビ兄弟かね」
 その言葉を契機に、またお互いがお互いを指差す。またケンカが始まる予感‥‥男はこれ以上の面倒はゴメンとばかりに、大声である提案をした。
「わかったわかった! 騒ぎの元になるネギは俺がもらっていく! これは仲裁料だ、いいな!」
 刃馬は「ホントか!」と声を弾ませ、流騎も「それはありがたい話だ」と満足げに頷く。男はなぜこんなに喜ばれるのだろうと首を傾げつつ、屋敷での仕事を終えるとカゴを背負った。
「この後、諏訪の面子で宴があるんでな。手土産にちょうどいい」
 どこかで聞いたような展開に草崎兄弟は不安を覚えつつも、ふたりはネギが村を出て行くまで見送る。これで安心して年が越せる‥‥流騎は胸を撫で下ろした。

 しかし翌日、事態は急変。昨日訪ねてきた男は、朝っぱらから草崎の屋敷に押し入る。兄弟は眠い目をこすりながらその姿を見ると、いつもの悲鳴を響かせた。
「アッーーー!」
「アッーーー!」
 眠気も吹っ飛ぶおかしな姿に思わず絶叫した。
 昨日の男は、もはや異形の者と化している。緑色に染まった髪と両手両足、そして真っ白な肌‥‥どこから見ても服を着た人型のネギだ。このまま外に出たら、ネギのアヤカシと間違われるだろう。討伐必至のお姿に、草崎兄弟は新たなる戦慄を覚えた。刃馬は声にならない悲鳴を心の中で奏で続ける。
「流騎殿、これは‥‥どういうことだ?!」
 怒りに震える男の怒気は、兄の流騎に向けられた。
「あ、もしや私の話がウソとでもお思いですか? そっ、それはない! 断じてないっ!」
 首を振りながら必死の弁明をするも、その言葉は男はおろか弟の心にも届かない。
「またか。またやっちまったのか、兄上‥‥」
「私だけならまだしも、宴に参加した者はもれなくご覧の有様だ! この責任、流騎殿が取るのであろうな?!」
 男はわなわなとネギの体を震わせる。流騎は何を言っても無駄だと悟り、弟に男の世話を任せ、さっさと身支度を整えて街へと繰り出した。

 流騎の向かった先は、少女の住む施設である。彼は赤い頭巾の少女と会い、森に生えていたというネギの話を詳しく聞いた。
 なんでもその場所にはご立派なネギが一本立っており、その周囲にネギがピョコンと何本も生えていたという。
 流騎は思案した。その場所を死の森と考えるのは難しい。ということは、「アヤカシのネギ」ではなく「ケモノの大ネギ」と考えるのが自然だ。大ネギから生えたネギを食べると姿が似てしまうことから、本能的に「仲間を増やそう」と考えているのかもしれない。
 何にせよ、困ったネギであることに変わりはない。この『人間ネギ変化』を解除するには、大ネギを倒すのがてっとり早いと判断。流騎はその足で開拓者ギルドへと赴く。


■参加者一覧
天津疾也(ia0019
20歳・男・志
葛切 カズラ(ia0725
26歳・女・陰
白鵺(ia9212
19歳・女・巫
マテーリャ・オスキュラ(ib0070
16歳・男・魔
楠 麻(ib2227
18歳・女・陰
洸 桃蓮(ib5176
18歳・女・弓
白仙(ib5691
16歳・女・巫
リリアーナ・ピサレット(ib5752
19歳・女・泰


■リプレイ本文

●被害者は誰?
 開拓者ギルドを風の駆け抜けた「ケモノの大ネギ、現る!」の報を聞き、アヤネギ探求者を名乗るマテーリャ・オスキュラ(ib0070)は驚いた。
「やれやれ‥‥悪い予感ほど、なぜか当たってしまうのですよねぇ」
 ネギ騒動の始まりを察知する予言者が口を開けば、以前の依頼ですっかりネギ恐怖症になってしまった洸 桃蓮(ib5176)は「マッサツデス」と真顔で呟く。彼女と同じように獣耳を持つ白仙(ib5691)は、大きなネギが見れるので内心楽しみにしていた。

 この依頼、まずは大ネギがどこにいるか聞き出すところから始まる。
 商魂も芸人根性もたくましい天津疾也(ia0019)は、すっかり『ネギ兄弟の兄』として有名になっちゃった草崎流騎(iz0180)に案内を頼み、アヤネギ売りの少女が住む施設を訪ねた。
 売り物を食べた人間がネギに化けたくだりは避けるように十分注意し、物腰柔らかなメイドのリリアーナ・ピサレット(ib5752)が、やさしく少女から情報を聞き出そうと試みる。
 ところが少女は「みんな大丈夫なの?」と瞳に涙を溜めて聞いてきた。リリアーナは天使のような笑顔で「ちょっと待っててね♪」と慰めながら言うと、流騎を物陰に連れて行き、腹にステゴロをぶち込んで帰ってくる。新しい被害者を見下ろしながら、キセルを咥えた葛切 カズラ(ia0725)が「言っちゃったんだ〜」と呆れながら言い放った。
 桃蓮は罪悪感で胸が張り裂けそうになる少女の頭を撫でて、弾けんばかりの笑顔を見せながら慰める。
「いえ、あなたは何も悪くないですよ。悪いのは、ネギ。そう、ネギなのです。マッサツしてきますから、どうか安心してください」
 歪みねぇ言いっぷりに圧倒され、誰もフォローできずにいた。少女も「うん」と言わなければ、ネギもろともマッサツされかねない。さすがの疾也も「もう行くか」と切り上げ、ぐったりしてる流騎を背負って森へと向かった。

●アヤネギ実験、開始!
 少女がお忍びで行けるとあって、簡単に目的の場所へとたどり着いた。
 木漏れ日が差し込む野生のネギ畑の中央に、ケモノの大ネギ‥‥その呼び名に違わぬご立派な姿を見せつける。白昼だというのに、楠 麻(ib2227)は「すごく大きいです‥‥」と誰もが思う感想を述べちゃった。無邪気な白仙は、思わず「うんうん」と頷いて同意しちゃう。
 その周囲には、八百屋で並んでいるような良質のネギが、天に向かってまっすぐ伸びていた。大小含め、見えるだけでも約50本。思わず疾也は「これ全部売ったら、ナンボになるやろ」と計算を始める。似たようなことをカズラがしており、ふたりはだいたいの金額を見積もって、今の状況を楽しんだ。
 しかし今これを食えば、ネギ人間になっちゃう。そこで専門家のマテーリャが観察と実験を開始。そんな彼の助手を名乗り出たはいいが、なんでこんな依頼を受けたのかよくわかんない白鵺(ia9212)は、さっそく状態のいいネギを探し歩く。
「ん、ぱっと見は‥‥普通ですね」
 そうは言いつつも、調べ出すと興味を引かれる。漆黒の巫女は触ってみて、その感覚も確認。やはり普通のネギと同じだ。
 とりあえず1本抜いて、マテーリャに渡す。彼は懸命に大ネギの外観や、ネギの生え方や分布を観察していた。そんな研究者を尻目に、カゴを背負ったカズラが「もう狩ってもいい〜?」と尋ねるが、「まだですよ」との返答があった。
 マテーリャは手元にやってきたネギを見てクスクスと笑い出す。
「なるほど‥‥食べると肉体的に変化があると聞いては、食べないわけにはいきません」
 他の開拓者たちはギョッとした。まさかこの少年、このネギを食べる気では‥‥流騎は慌てて止める。
「いや、マテーリャさん。やめといた方がいい。あんな面妖な姿になって元に戻らなかったら‥‥」
「可能性を否定することは簡単です。それは探求者にあってはならぬ姿ですよ」
 最後の良心をいとも簡単に振り払い、マテーリャはネギを食べた。すると、あっという間に髪の毛が銀から緑に変わり、両手両足も同じ色に染まった。ご丁寧に、瞳の色も緑。そして緑じゃない場所は、すべて白くなる。
 助手の白鵺はローブを脱がせ、彼の背中も丹念に確認。手鏡を巧みに使いながら、見えにくい場所の変化も観察させる。
「オスキュラさん、肌は見事に真っ白です」
「ふふふ、なるほど。流騎さん、訪問者はこのような姿になったというわけですか」
 被害者を見るのが二度目だからか、流騎は落ち着いた面持ちで「そ、そうだな」と答える。リリアーナは変化を目の当たりにすると同時に、この日のために作った簡易ゴーグルを装着。桃蓮は無意識に弓を構え、マテーリャに即射しかねない勢い‥‥それを見た麻が慌てて「ダメダメ!」と、後ろから羽交い絞めにする。
「心配するな、新しい秘孔の究明だ! もし成功したら、あいつのネギ化のスピードは倍になる‥‥ってことなんじゃないか?!」
「だったら、早くマッサツしないと‥‥っ!」
 まったく冗談の通じない桃蓮の目は、どんどん具合の悪い色になっていく。疾也と流騎も協力して止め、疾也は「この娘はネギ絡むと、冗談通じんから!」と麻に軽く説教した。

 一方、マテーリャは自分の目で背中が確認できないことが不満らしく、他の実験台を探し始める。
 白鵺は助手という立場を逆手にとって遠慮し、カズラも興味なさそうにキセルを吹かすばかり。ロング丈のメイド服が眩しいリリアーナだが、指をポキポキ鳴らして軽く探求者を威嚇。「絶対にやらせはせん!」という気迫を、毒々しいオーラとともに背中から放った。
「白仙さんは‥‥興味はありませんか?」
 よりによって、一番拒否しにくそうな相手を選びやがって‥‥麻は攻守交替とばかりに進み出て、少女に「断ればいいんだぞ!」と忠告する。
 ところが、彼女の返事は意外なものだった。
「うん‥‥食べてみる‥‥」
 この辺には緑色の瘴気でも漂っているのだろうか。流騎はあたりを見回すが、そういう具合の悪い色は立ち込めていない。だからこそ、この展開が恐ろしくてたまらない。
 いったい何がどうなった。どうしてこうなった。誰か説明してくれ‥‥マトモであればあるほど、今の状況が意味もなく辛い。
 かくして白仙もネギを食べ、マテーリャと同じネギ色に染まった。
 探求者は変化の最中は瞬きもせず凝視し、緑に染まった猫耳に触れてみる。女性の被験者は珍しいと、助手まで一緒になって確認。おっとりした少女は、一躍アイドルとなった。
「ふむ、背中はネギのように真っ白ですね。百聞は一見にしかずとは、よく言ったものです」
「体毛にネギの粘り気みたいなものは存在せず、独特の匂いもしませんね。外見の変化に男女差はないようです」
 ふたつの小さなネギ人間を見て、桃蓮はもはや崩壊寸前。もはやおなじみのコンビとなりつつある疾也と流騎が、かろうじて彼女を押さえつけている状態である。
 すると、不意に大きな変化が現れた。最初は誰も気にしていなかったが、白仙の第一声を聞いたその瞬間、何とも言えない違和感を覚える。
「うふふ。色がついた‥‥耳にも髪にも、尻尾にも。うふふふふ、嬉しい! でも私ね、自分を食べないよ。だって、ネギ嫌いだもん!」
 流騎は唐突に「アッーーー!」と声を上げる。
「マテーリャさんは研究熱心になると口数が増えるから気づかなかった! 白仙さん、もしかして気分が高揚してませんか? 違います?!」
「違うよぉー、あははっ!」
 自分が変わったという自覚がない者ほど、恐ろしいものはない。カズラは思わず「あら素敵な表情になったじゃない」と妖艶な笑みを見せた。
 酸いも甘いも知るオトナの女性からいたいけな少女を守らんと、例のコンビが「ロープ! ロープ!」と叫ぶ中、ついに騒ぎの元となったあのケモノの大ネギが目を覚ますのであった‥‥

●大ネギの野望
 大ネギは「ネギ変化した者、皆兄弟」と言わんばかりに、カズラを豪快に威嚇した。
 そんなケモノの態度が気に入らなかったらしく、彼女は近い場所にあったネギを抜く。それをささっと1寸ほどに切り、疾也の鼻の穴に詰め込んだ!
「んがんん! な、何すんねん?!」
「ほらぁ、新しいネギ人間よ〜。経口摂取でネギ化するのはわかったけど、他から入れたらどうなるのかな〜と思って。疾也さんは仲間? それとも敵?」
 カズラはネギを食べて化けずとも、どこかに挿入したら仲間として認識されるかどうかを知りたかった。だから、まずは疾也の鼻の穴にネギを詰めたのである。
 しかし相手の反応がよろしくないので、次は耳の穴に切ったネギを押し込む。
「あかん、あかんって! そんなことしたら、お笑いの神が俺に『食え』って囁くから! 静まれ‥‥静まれっ、俺の芸人魂‥‥!!」
 そのセリフを聞いたカズラは、いよいよ実験さえどーでもよくなってきた。しまいには服を脱がして、尻の穴にぶち込もうと暴れ出す。
 このふたりだけを見ると、もはや遊郭の芸者遊び状態。いやよいやよも好きのうち‥‥そんなダメなオトナの遊びが、子どもたちの目の前で繰り広げられる。
「ネギギ‥‥!」
 そんなキャッキャウフフをよしとしない大ネギは、敵意をあらわにした。せっかく仲間を増やすために生やしたネギを粗末に扱ったのが、よほど気に入らなかったのだろう。長い手を怪しく動かし、威嚇を始める。
 疾也は下着を脱がされまいとがんばりながら、鼻息でネギを飛ばしながら武器を構えた。
「おお、やる気かい。んなら、行くぜ‥‥ってカズラ、あんたもはよ準備しーや!!」
 その声に促され、ネギ化したままのマテーリャや白仙も準備を始める。
 白仙はいつもよりテンション高めで神楽舞・攻を舞い踊り、疾也と桃蓮の士気を高める。
 マテーリャはフローズを放ち、敵の動きを抑制することに成功。しかし、敵は冬野菜の化身たるケモノ。安心はできない。
「ふむ、魔法の行使は問題ない。食べるとネギの姿に化け、親ネギに居場所を知られるということでしょうか‥‥」
 探求者のあくなき研究は続く。それと同時に前へ出ようとするリリアーナにホーリーコートを施し、得意のパンチを強化した。
 麻はここぞとばかりに斬撃符を二度、それに続いてカズラも触手でウネウネする式を鏃のように変形させて斬撃符を食らわせる。
「おれの求めるネギには、まだ遠い〜っ!」
「急ぎて律令の如く為し、万物事如くを斬り刻め!」
 ふたりの独特な言葉に応えるべく、カマイタチは大ネギの体をスパンスパンと切っていく。
 その隙に白鵺がマテーリャに解毒を使うが、これは「ネギを食べても毒ではない」ことの確認する意味合いが強かった。
 続けて、ネギ化の解除ができないかと解術の法を試す。同じくマテーリャを目標にして印を組んでみるも、その効果は発揮しない。大ネギには強固な意志があるのだろうか‥‥?
 今、弓を構える桃蓮の脳裏に、ネギに受けた屈辱の過去が走馬灯のように駆け巡る。
「えぇ、マッサツシマストモ」
 もはや見境のなくなった彼女に『容赦』の二文字はない。ちなみにネギは『一文字』と呼ばれることがある。どこまでもついてくる因縁を切るべく、桃蓮は即射で攻撃。矢は根に突き刺さり、敵から悲鳴を引き出す。
「ネギギギ! ネギャアァァ!」
 その隙を突いて、両耳を塞いでいたネギを移動中に取り出した疾也と、おしとやかを絵に描いたようなロングヘアーのリリアーナが目の前に立ち塞がった。
 疾也は秋水清光で斬りつけ、リリアーナは運足と荒鷹陣を駆使し、さらに月吼から正拳突を繰り出す。さすがは流騎を痛めつけたパンチ。なかなかのキレがある。
「‥‥わたくし、ステゴロにはいささか心得がございまして」
 それを聞いても、誰もさすがに「どこで覚えんだ?」とは聞けず、ただただ「おおーっ」と感心するばかり。
 ひとりお怒りの大ネギは、八つ当たりで疾也を攻撃するもいとも簡単に避けられてしまう。これには大ネギも「ネギリギリ」と歯ぎしりして悔しがった。

●決着はついたけど‥‥
 さすがに多勢に無勢。決着は早い。
 ネギアイドルの神楽舞・攻は、マッサツ少女に向けて陽気にダンシング。助手は今度はアイドルに解術の法を試みるも、結果は研究者と同じ結果に終わる。
 桃蓮が会で攻撃力を増幅し、強射「朔月」で悪夢を祓わんと緋凰で渾身の射撃。その一撃は胸を貫き、深刻なダメージを与える。これがネギを怖がる少女の執念か。
「存在していること自体、そもそも罪なのですよ!!」
 そして十二分に痛めつけたネギを、カズラが呪縛符で使役するぬるぬるちゃんの触手で束縛する。
「秩序にして悪なる独蛇よ、我が意に従いその威を揮え!」
 動けなくなったと見るや、麻は大ネギに向かって「下から来るぞ! 気をつけろぉ!」と叫ぶも、上から岩首を落として圧殺する頭脳プレイ‥‥いや、残虐プレイを披露。
「ネッギャアァァアッ!」
「ゆっくり死ね!」
 速攻で昇天しそうなケモノに容赦ないセリフを浴びせる陰陽師。周囲から「さすが陰陽師、汚い!」と言われるが、当の本人は「ん〜? 何のことかな? フフフ」と惚ける始末であった。
 マテーリャは後衛に被害が及ばぬようストーンウォールで目隠しすると、疾也はここが勝負どころと踏んで秋水を駆使した強力な一閃を、リリアーナはお得意の正拳突を連続で放つ。
 これで勝負あり。大ネギは断末魔の叫びを響かせ、力なく地に伏した。
「ネギャアーーーーーーーッ!」
 これを境にマテーリャと白仙のネギ化が解除され、元の姿に戻った。テンションの高さも解消され、特に白仙は落ち着きを取り戻す。ある意味では、桃蓮は今日一番の冷静さを披露。大ネギに起因する無意味な全方位不幸は、ひとまず収まった格好になった。

 ケモノの大ネギは退治したが、野生のネギは消えなかった。どうやら無害のネギになったらしい。いや、なってくれないと困る。
 白仙は火種をナイフに纏わせ、丁寧にネギを切っていく。今度こそ、少女も気兼ねなく売れるはずだ。カズラもこの後の宴会に必要な分をカゴに入れていく。これにトラブルの元となった流騎も加わり、しばしみんなで農作業にいそしんだ。これを持ち帰れば、きっとあの子も喜んでくれるだろう。
 だが、マテーリャと白鵺、そして桃蓮がネギ畑を見ながら呟いた。
「二度あることは三度あると言いますしね。アヤネギとの戦いは、もしかしたら始まったばかりなのかもしれませんね‥‥けど、負けませんよ」
「そうですね。でも積極的にアヤネギに挑むと、きっと多少の被害は免れません。それでもやらなければならないのですね」
「天儀で繁殖と繁栄を目指すネギたち‥‥なぜでしょう、これで終わった気がぜんぜんしません」
 今はひとときの安らぎなのか。それは、天儀の大地のみぞ知る。
 こうして新たなるネギの野望は潰え、少女に笑顔が戻ることになった。