妖真一文字の行方
マスター名:村井朋靖
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/12/07 23:12



■オープニング本文

●なじみの店で
 私用で久々に仁生へやってきた草崎兄弟の弟・刃馬は、恒例の刀屋巡りをしていた。一通り新入荷の刀を眺め、掘り出し物のチェックをし、最後は贔屓にしている刀屋に立ち寄るのがお決まりのコース。暖簾をくぐれば、顔なじみの店主が顔を上げ「おお、よく来たね」といつもの文句で出迎える。
「いやー、ここに寄らないと仁生に来た気がしないんだよ。商売の邪魔してんのは重々承知だけどさ」
「何を言ってるんだい。上得意様だから足を向けられないってんじゃないよ。私はあんただから、歓迎してるのさ」
 店主はそう言いながら奥に引っ込み、茶を入れて戻ってくる。お盆には湯飲みがふたつ。これが遠慮してない証拠である。刃馬は勧められた茶を飲み、喉を潤した。
「そうそう。前に『妖真一文字』とかいう銘刀を仕入れるって言ってたけど、もう売っちゃったのか?」
 それを聞いた店主が「うん、ああ‥‥」と言葉を濁す。刃馬はすぐに「何かあったな」と察し、無神経を装って話を続けた。
「売れたんなら、それでいいじゃないか。ただ、珍しい銘だったからさ。ちょっと見たかっただけで‥‥」
「ま、まぁ、あんたがそういうと思ってね。私も大事にしまっておいたんだが‥‥その、ちょっと前にね。盗まれたんだよ」
 盗まれたとは穏やかではない。刃馬は店主に顔を近づけて、小さな声で話し出した。
「‥‥その様子だと、まだ誰にも言ってないな?」
 商売を営んでいる以上、盗まれたことを大っぴらにしたくない‥‥刃馬は店主の気持ちを察しながらも、諭すように言葉を続ける。
「この事件、俺に任せてくれないか? な〜に、看板に泥を塗るなんてヘマはしないよ。開拓者ギルドの裏口から、ちょっと話を通すだけだ」
 裏口なんてあるわけないが、ウソも方便。相手の同意と説明を得るには、これくらいしないとダメだ。すると店主は根負けし、最後には「わかった、任せるよ」と答える。

 その後、店主は詳細を話した。
 犯人が盗んだのは『妖真一文字』だけで、他はまったく手をつけなかったらしい。なんと銭も取られていないそうだ。
 刃馬は思案する。不用意に荒らしてないところを見ると、少数精鋭で盗んだ可能性が高い。さらに変装をして、下見をした上で犯行に及んだ。これは一筋縄ではいかない相手である。
 ‥‥が、手はある。刃馬はポンと膝を叩くと、店主の肩に手を置いた。
「よし、だいたいわかった。じゃ、今から準備するからよ‥‥お、そこにある刀をもらってくぜ。これ、いくらだ?」
「おいおい、こんなナマクラに銭なんて払うもんじゃないよ。タダで持ってきな」
 慌てる店主を見た刃馬は「遠慮するなよ〜」と言いながら、しぶしぶ銭を財布に片付ける。
「この刀、斬れなくったっていいんだ。それっぽくなってくれれば、な‥‥」
 その言葉が何を意味するのか‥‥店主にはさっぱりわからない。刃馬の策は、すでに動き出していた。

●草崎の屋敷にて
 屋敷に戻った刃馬は、兄・流騎に事情を説明し作業を始めた。兄はしばし腕を組んで考えた後、こう返事した。
「偽物の妖真一文字をでっち上げるとは、なかなかいい策だ。よく考えたな」
 縁側で作戦を評する兄の言葉を聞き、庭先にいた刃馬はすっかり上機嫌。買ってきたナマクラの鞘に、紫の染料を塗りたくる。適当に塗ればムラが出て、おどろおどろしく見えるだろうと流騎からアドバイスを受け、素直にそれに従った。
 これを店の天井裏にでもこっそり置いてから、店主の知らぬところで「妖真一文字を仕入れた」との噂を裏で流す。盗賊は確認のために堂々と来店するだろうが、店主はそれを否定するだろう。手元にないものは「ない」としか言いようがない。それに偽物が店のどこかにあるなんて、夢にも思っていない。だからこそ、その言葉は本物だと受け止められるはずだ。
 そうなれば、盗賊は偽物とわかっていても、もう一本を盗んで確認するしかなくなる‥‥という寸法だ。
「俺は開拓者たちと一緒に店の周囲に潜み、闇夜に紛れてやってくる連中を片っ端から倒せばいい」
 刃馬は自慢げに策を披露し、兄に「妖真一文字の情報、流しといてくれるかい?」と頼んだ。もちろん流騎は、力強く頷く。これで準備は万端だが、刃馬にはひとつ心に引っ掛かることがあった。
「しかし、これで連中が盗みに戻るようなことがあれば‥‥妖真一文字は、銘こそあれど大した刀ではないってことになるな。残念ながら」
 銘刀の本物を見ぬまま終わりそうな流れに嘆息する刃馬だが、流騎は明るく笑ってみせた。
「ははは。店主のために一肌脱ごうという者が、刀一本見れぬと嘆いてはいかん」
 刃馬は「そうだな」と頷き、まだ見ぬ敵を打倒を胸に誓った。

●謎の盗賊たち
 あれから数日後。
 刃馬の読みどおり、犯人は仁生を駆け巡る『妖真一文字』の噂をキャッチし、以前とは違う変装で刀屋に入った。そして店主に問題の刀の問い質す。どうやら犯人は3人のようで、彼らは口々に噂の刀が見たいと騒ぎ立てた。もちろん、そこで繰り広げられるやり取りも予想通りの結果に終わる。
 犯人たちは困り果てた。店主の言葉がウソでないのは雰囲気でわかるが、それだけで噂をウソとは断定できない。その上、この噂は派手に飛び交っており、本物かどうか確認するタイミングは今しかないという有様。犯人たちはいつの間にか、行動をするしかない状況に追い込まれる。
 そんな盗賊たちの様子を物陰から伺っていた刃馬は、「しめしめ」と笑う。
「お三方、何もそんなに心配するなって。今日の夜、みんなでお待ちしてるからよ!」
 この日の深夜。仁生にある刀屋の前で、盗賊3人組との戦いが始まる。


■参加者一覧
梢・飛鈴(ia0034
21歳・女・泰
喪越(ia1670
33歳・男・陰
御凪 祥(ia5285
23歳・男・志
セシル・ディフィール(ia9368
20歳・女・陰
ブローディア・F・H(ib0334
26歳・女・魔
朱鳳院 龍影(ib3148
25歳・女・弓
鞍馬 涼子(ib5031
18歳・女・サ
洸 桃蓮(ib5176
18歳・女・弓


■リプレイ本文

●下調べは念入りに
 草崎刃馬は開拓者を引き連れ、あの刀屋へと向かう。
 今回の事件を円滑に進めるためには、どうしても店の様子を詳しく知る必要があったからだ。ところが、彼らを出迎える店主の顔色は、実に冴えない。
「おお、あんたかい。世間ってのは怖いねぇ。もう妖真一文字はないってのに、お客が見たい見たいと騒ぐんだからさ」
 なるほど、刃馬の言うとおりだ。これを聞いた梢・飛鈴(ia0034)は「この調子だと、また盗人がここに押し入るアルぜ」と言うと、店主も「あんたもそう思うかい‥‥」と肩を落とす。そこまで事情が理解できているならと、御凪 祥(ia5285)が切り出す。
「夜に店を閉めたら、俺たちが潜んで盗人を捕らえる。もちろん店内は荒らさないよう、中に入る者にはちゃんと言い含めておく」
 祥はその場にいた潜入組の洸 桃蓮(ib5176)に目配せすると、彼女も「大丈夫です」と力強く頷いてくれた。さらに安全を確保するため、外で一泊してもらうよう説得する。必死の思いで家捜しして「銘刀がない」と焦った賊が、店主を脅迫しないとも限らないからだ。刃馬も「息抜きだと思ってよ」と笑い飛ばすと、相手も「そうだねぇ」と無理やり納得する。
 その後、開拓者たちは店内をくまなく調べた。店内に入るには、表の玄関と裏の勝手口を使うしかないらしい。
 それを見たセシル・ディフィール(ia9368)は裏口を塞ぐことを提案し、店の外に待機していたメンバーも了承した。店内に潜む予定の朱鳳院 龍影(ib3148)は「刀を盗もうとしている輩はとっつかまえないとのう」と妖艶な笑みを浮かべながら、同じムッチムチ仲間のブローディア・F・H(ib0334)に視線を送る。彼女は赤い髪と大きな胸を揺らしながら、「ええ」と答えた。
 しかし盗人ならずとも、妖真一文字なる刀に興味を抱く者は存在する。喪越(ia1670)や鞍馬 涼子(ib5031)がそうであり、店内の調査を終えた刃馬も一緒になって盛り上がった。
「賊はなんだって妖真一文字だけを‥‥」
 涼子のあごに手を当てると、喪越がご陽気に答える。
「確かにこの店には他にもいい刀があるよな、アミーゴ! ま、そんな銘刀、賊なんぞにはもったいねぇ。俺が貰い受けて高値で売り飛ばしてやる!」
 思わずアブないセリフを吐いた喪越だが、すぐに「ここんとこはチョメチョメだぜぇ〜」とすかさずフォローを入れる。さりとて開拓者なら、珍しい銘の入った刀を欲するのは当たり前。涼子と刃馬は冷静さを保ちつつも、心の中では「あいつの気持ちもわかる」と思っていた。

●盗みの夜、再び
 そんなこんなで、盗人のみならず開拓者の気持ちをも揺るがす銘刀を巡る戦いの夜を向かえた。
 店内に飛鈴と龍影、桃蓮の3人が潜み、店の周囲は5人で見張る。
 喪越は飲み屋帰りの酔客を装って、地面を敷布団にして高いびき。本当にどこかで飲んできたかのようなリアルな芝居に、セシルは「大丈夫でしょうか‥‥」と心配するが、祥は表情を崩さずに「放っておけ」と言った。
 夜陰に乗じて、盗人が刀屋に忍び寄る。ここまでは計画通りだ。どうやら裏口から入るらしい。その様子を伺う涼子とブローディアは息を殺し、全員が入るまで待った。敵は以前と同じ状況であることを確認してから、ゆっくりと仕事をするのだろう。最後のひとりが背後を丁寧に確認し、そーっと勝手口を閉めた。
「相手がアヤカシではないとはいえ、油断は禁物だな」
 涼子がそう呟くと同時に、フローディアはアイアンウォールの呪文を詠唱し始める。そして10秒後、勝手口の前に鉄の壁が立ち、連中の逃げ道を塞いだ。これで盗人は店の玄関から逃げるしかない。ふたりは顔を見合わせてひとつ頷くと、急いで表側へと回った。それを見たセシルと祥はちゃんと計画通りに進んでいることを知り、いよいよ武器の準備を始める。

 かくして盗人の家捜しが始まった。すでに本物を持っているので、探すことは容易である。しかし、一向に見つからない。どれだけ探しても見当たらない。3人に焦りの色が見え始めた。
「な、ないぞ。見当たらない‥‥」
「もう一本がなきゃ、金が手に入らないんだからよぉ。必死に探せって」
 彼らの探し方がだんだん雑になってきた。このままだと店を引っくり返しかねない。物陰に潜んでいた3人は「今だ!」とばかりに躍り出た。
 飛鈴は刀が隠されていた天井裏から飛び降りると、騒ぎの元に声をかける。
「コレこそまさに袋のネズミってカ? 潔くお縄に付けば怪我はあんましないで済むアルぜ」
「ネズミ相手に龍王のお出ましじゃ。おぬしら、感謝せよ」
「ひ、ひーーーっ?!」
 飛鈴と龍影が裏口を背にして立つと、盗人どもは大慌て。もはや刀探しどころではなくなる。さらに床下に潜んでいた桃蓮は玄関の前に躍り出て、即座に機械弓を構えた。盗人は胸に忍ばせておいた小刀を抜き、しばし間合いを探る。
 敵にとって店内での挟撃は想定外だったが、玄関を塞ぐのは弓術師ただひとり‥‥しばしの沈黙で興奮が冷めたのか、盗人のひとりが桃蓮に向かって猛然と走っていく。
「詰めが甘いんだよ、詰めが! 弓なんてひとりにしとくもんじゃねぇぜーーー!」
 その言葉にムッとした桃蓮は相手との距離が狭まったと知るや、利き腕に向かって接射を試みる。
「この距離、避けられますか!?」
 攻撃なんて食らわないと高を括っていた盗人の腕に矢が突き刺さる。敵は必死で痛がり、思わず小刀を地面に落としてしまった。
「あんぎゃあぁーーーーーっ!」
 飛鈴はその隙を逃さず、空気撃を発射。これが直撃し、見事に敵を転倒させた。男はさらに混乱する。さらに龍影がダメ押し。隼襲で一気に距離を詰め、発気で男を怯ませると、後ろから羽交い絞めにして捕らえた。
「どうじゃ。腕の痛さを忘れるじゃろう?」
「むぐぐ‥‥うぷっ! ぐはぁ‥‥」
 男性にとって、女性の羽交い絞めほど嬉しいものはない。しかも龍影の爆乳なら死んでも本望‥‥と口では簡単に言えるが、本当に死に目に遭うとなれば話は別。傷ついた盗人の頭は柔らかな胸に埋没し、感触は最高なれど息は絶え絶えという生き地獄を味わった。残る2人も男とはいえ、これを身震いしながら見つめる。
「ぐぶぶ‥‥‥‥‥」
 生き地獄を堪能した男は、めでたく気絶した。腕の傷も忘れて、今は無意識にピクピクと指を動かすだけ。これを見た仲間は恐怖に怯え、我先にと店内を脱出しようとする。
「い、一時退却だーーー!」
 もうどんな騒ぎになっても構わない。彼らは乱暴に玄関を開けるが、そこには祥が待っていた!
「捨て台詞だけは立派だな」
「な、なんだと! そっ、外にも敵が?!」
 店内の騒ぎは外に筒抜けだったが、実際に何が起こっていたのかはわからなかった。玄関が開け放たれた瞬間、祥は賊の悲惨な結末を目の当たりにする。普段はクールで通している彼も、さすがに戸惑ってしまった。
「あんたら‥‥まぁ、あいつよりいい目には遭わんぞ?」
 そう言いながら心眼を発動して敵の気配を探るが、刃馬の報告と数が合致した。これ以上の敵はいないらしい‥‥祥は周囲にそれを伝え、舞靭槍を構える。
 セシルはご挨拶代わりに大龍符をふたりに仕掛け、まずは大いに驚かせた。涼子は長巻を構えると隼人を使って俊敏を高め、賊のひとりを受け持つ。祥はもうひとりに向かって走り、簡単には逃げられないように仕向けた。ふたりは志体持ちでない可能性を考慮し、スキルを用いずに武器のみで戦う。
 店内では盗人を荒縄で縛り、それを3人で外に運び出した。敵はまだ2人いる。そんなタイミングで喪越がむっくりと起き上がり、みんなにお目覚めの挨拶を捧げた。
「よぉ、アミーゴ。景気はどうだい? 俺の方はここまではさっぱりサ!」
 飛鈴が「じゃあ、今からは景気いいアルか?」と問うと、相手は「もちろんだゼ!」と胸を張る。そして皆が出てきた入口を結界呪符「黒」で塞いだ。
「ヒュー! これで店主への顔も立つってもんだ!」
 一方、これをやられた盗人は茫然自失。撤退か敗北‥‥最悪の選択を迫られる。しかしこのままでは逃げることもままならない。目の前の相手に反撃を繰り出すが、祥と涼子に手傷を負わせるので精一杯だった。
「どうやら精進が足らないようだ‥‥」
 涼子の何気ない一言にぐうの音も出ない盗人たちであった。

●決着はついても、恐怖は終わらず?!
 敵に逃走の隙を与えてはならぬと、開拓者はより一層の注意を払いながら戦う。
 涼子は隼人を再び使用し、素早く斬りつける。少女の太刀筋を見切れず、男は情けない悲鳴を上げた。そいつに向かって、喪越は大龍符を使ってサプライズを与え続ける。
「このたいまつのように、明るく振る舞おうゼ!」
 ブラザーは身体全体でイェイイェイとリズムを刻みながら、仲間のためにたいまつを振り上げて周囲を照らす。
 祥は槍を鞭のように操り、足元を狙って攻撃を仕掛ける。これは別に当たらずともよい。相手の意識がそっちに向かえば、逃げを考える余裕がなくなるのだから。そして別の仲間が、この隙を狙えばいいのだから。その期待に応える形で、桃蓮はその背中に向かって瞬速の矢を放ち、背中に傷を負わせた。
「うぎゃあぁぁーーーっ!」
 こうなると展開は一方的になる。セシルも隙だらけの盗人それぞれに斬撃符で攻撃を仕掛けた。
「逃しはしませんよっ!」
 彼女の手を離れたカマイタチは背中を切り裂く。
 これで勝負ありだったが、ブローディアは安全に捕縛するため、ホーリーアローとアムルリープを駆使して行動不能にした。そこを飛鈴と龍影が荒縄を使ってぐるぐる巻きにして、見事3人を確保する。
 この一部始終を物陰で伺っていた刃馬は「見事なお手並みだ!」と唸りつつ、開拓者たちに「お疲れさん」とねぎらった。

 戦いが終わると、セシルは祥と涼子に治癒符を施す。
 最初こそ、祥は「こんなもの、傷のうちに入らない」と意に介さなかったが、セシルだけでなくブローディアまでが「いけません!」と口を揃えて言うではないか。素直に治療を受けた涼子にも勧められ、祥は「わかったよ」と言いながら治療を願い出た。実は彼の脳裏には龍影が織り成すめくるめく生き地獄の映像が焼きついており、美女からの援護に意味もなく恐れていたのだ。そんなおっかない治癒符が存在するわけないが、怖いものは怖い。祥は黙って治療を受けた。
 ブローディアと喪越が刀屋の入り口を塞いでいた壁を消し、店内では盗人の尋問が始まる。龍王の手に落ちた‥‥いや、胸に抱かれた男はいまだに記憶が戻らないので、今はふたりが尋問の対象だ。
「んま、とりあえず動機を聞こうカ? 吐かぬなら、指をペキペキへし折って聞いてもいいケドな?」
 飛鈴の脅迫だけでも顔を真っ青にしているというのに、喪越はわざわざ両手に鞭とロウソクを持って前に出る。
「さぁ、どっちが好みなんだい‥‥?」
 なぜかこれを契機に、喪越はオカマ口調で喋り出した。どうやらSMプレイで尋問を楽しみたいらしい。それが冗談であることは誰の目にも明らかだが、心のどこかに「彼ならやりかねない」という懸念もあった。
 どっちにも首を振る盗人を見て、喪越は禁断の道具を見せる。
「それとも‥‥こ・れ?」
 取り出したのは、なんとネギ。どっからどう見ても普通のネギ。これをどうやって拷問に使うのかと、誰もが首を捻った。
 ところが、これを見た刃馬は盛大に咳き込んだ。さらに桃蓮が必死の形相で、仲間の喪越に向かって機械弓を構える。これらは刹那の出来事であった。
「それはダメです‥‥絶対に使っちゃダメ! 使ったら撃ちます、接射で撃ちます!」
「ノーーーッ! ロープ、ロープ! 目がマジ! ほーら、笑って笑って〜!」
 喪越はネギをバトンのように操って愛嬌を振りまくが、これが見事に逆効果。桃蓮の逆鱗に触れるだけに終わる。
「そ・の・ネ・ギ・は・使・わ・な・い・で・っ!!」
 何の躊躇もなく引き金に指がかかったのを見た龍影が「本当に殺しかねない」と判断し、喪越に必殺の羽交い絞めを炸裂させる。とりあえず彼を黙らせないと話が進まないので、龍王はさっきよりも力を込めて締め上げた。
「むぎぎ‥‥ぷぷっ‥‥」
 胸の谷間から悲鳴とも歓喜とも取れる声が漏れる。しかし数秒後、アミーゴは小さな声で「アディオス、桃源郷‥‥」と呟いて気絶した。再び惨劇を目の当たりにした祥は「もう勘弁してくれ」と自分の額に手をあてる。

 喪越と桃蓮の暴走したおかげか、盗人は開拓者たちにすべてを話した。
 妖真一文字という刀の存在は、自分たちの雇い主から聞いたという。仕入れる店などの情報も、すべてそこから提供されたそうだ。まんまと盗み出したはいいが、取引の前日に仕入れの情報が流れたせいで「それも盗んでこい」ということになったらしい。その時、彼らは前金を受け取ったため、仕方なくもう一度盗みに来たそうだ。
 祥は「筋は通っているか」と呟きながら、賊に語りかける。
「盗んだ刀はどこだ? 案内しろ」
 盗人たちは幸せな窒息と恐怖の接射を恐れ、開拓者たちを自分たちのアジトへ案内した。

●妖真一文字を回収!
 仁生の路地裏にある盗人のアジトに到着したのは、夜明け前だった。
 彼らの証言どおり、隠し部屋の奥に妖真一文字が立てかけてある。涼子は紫色の装飾が施された柄を握り、ゆっくりと刀を抜く。その剣身は鞘と同様、紫に淡く光っていた。しかしそれ以外は普通の刀と変わらないように見える。
 涼子はゆらりと剣を構え、賊の方を向いた。
「銘刀かどうか‥‥ちょっと試し切りを‥‥」
「ひーっ! それだけは勘弁を! それだけはぁーーーっ!」
 ちょっと脅かすだけのつもりだったが、ここに来るまでに冗談じゃない光景ばかり目にしたせいで本気に取られてしまったらしい。縛られながらも平伏して許しを請う賊を見ながら、涼子は大いに戸惑った。そして盗人にも仲間にも「今のは冗談だ、本当に冗談だぞ?」と言って回る。
 そんな忙しい涼子から刀を受け取ったセシルは、刃馬と一緒にじーっと観察する。
「ん‥‥私には刀の良し悪しが分かりませんけども‥‥いかがですか?」
 刃馬は「うーん」と唸ったが、しばらくすると解説を始めた。
「変わった色をしてるだけだな。こいつは銘刀というより、儀式用ってとこか。開拓者が使うもんなら、俺も主人ももっといい刀を勧めるぜ」
 予想はしていたが、大した品ではなかったらしい。それでもセシルやブローディアは安心した。文字通りの妖刀であるなら、大変なことになっていたかもしれない。その確認ができてよかった。メンバーは胸を撫で下ろす。

 盗人たちはしかるべき筋に叩き出し、開拓者たちは刀屋の掃除に向かった。被害に遭った刀屋が今日も商いができるよう、最後の仕上げを行う。
 事件の解決を聞く店主の笑顔が、今から目に浮かぶというものだ。