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■オープニング本文 北面の都・仁生は、商人にとって出銭の少なく済む楽市が有名だ。この日も多くの往来があり、売り手はそれを引き止めようと必死に声を枯らす。お国柄からは想像もできないほど、大いに賑わっている。 そんな様子を街角から恨めしそうに見る男がふたり‥‥人相は普通なれど、腹の内はろくでなし。いつも足りない頭で「なんとか楽に儲けられないものか」と思案を重ね、日々を無為に過ごしている。日が暮れればさっさと馴染みの酒場に向かい、面を向かって愚痴を言いながら、一杯の酒で長居をするのがお決まりだった。 ところがある日。いつものように管を巻くふたりのテーブ汲ノ、狐目の女性が酒を持って近づいてきた。彼女は酒をくいっと飲み干すと、ふたりの顔を値踏みするように見ながら「儲け話を探してるんだってねぇ」と話しかける。毎日のように同じ酒場へ来てるとはいえ、ろくに銭も持ってなさそうな男に目をつけるなんておかしい。ふたりはダンマリを決め込んだ。 「ふぅ、つれないねぇ。銭は天下の回りもの。今から持てばいいじゃないのさ。そうだろ、兄さんたち?」 妖艶な笑みを浮かべながら、女性は酒を勧める。どんどん怪しく見えてくるけど、酒はウソをつかない‥‥ついつい男たちは杯を出し、黙って酒を飲んだ。 「実はさ、ここから2日ほど東に歩くと森があってね‥‥そこに洞穴があるんだ」 相手がこう切り出すのは読めていたから、男たちは我慢して無表情を貫く。しかし女性はお構いなしに、淡々と話を続けた。 「今は人もいない寂れた村の近くにあるんだけど、ここに宝物が置いてあるのよ。渡来品の大きな壷なんだけどね」 どう聞いても「ふたりでなきゃ運べそうにない」といった雰囲気。それに加えて、いかにも危ない話。男たちの作った無表情も、次第に自然な無関心へと変わっていく。 「‥‥その中に入ってる3本の短剣。噂によれば、赤と青と黄色の宝石が埋め込まれた豪華なものらしいのよ」 急にブツが小さくなったと知るや、男たちは今までの態度を翻す。ちょっと、ほんのちょっとだけ聞く気になった男は口を開いた。 「いったい何をさせたいんだ、あんたぁ?」 「その短剣が欲しいのさ、あたしは。もしあなたたちがその短剣を持ってきたなら、報酬は山分け。どう、悪い話じゃないでしょ?」 この瞬間、男たちは邪悪な思考を紡ぎ始める。後にも先にも、これがよくなかった。 ‥‥この女、話に出てきた壷に興味がまったくないらしい。それに短剣を持ち逃げするわけがないと踏んでいる。これはいける、絶対に出し抜ける‥‥ どこから湧いて出たのかわからぬ自信を漲らせ、男たちは二つ返事で「やりますとも!」と仕事を引き受けた。それを聞いた女性は仕事の期限を10日後までとし、今日と同じ時間にこの酒場で待っていると伝える。こうして一攫千金を夢見る男たちの冒険が始まった。 5日後、彼らは捕まった。 彼女の話に偽りはなく、洞穴も大きな壷もちゃんと存在した。このふたりにしては、うまく仕事を進めようとしていた。 しかし、洞穴の中で予想外の事件が起きる。彼らは壷ごと失敬しようと「よっこらせ」と持ち上げた時、壷のふたがカランと外れたのだ。洞穴内に、乾いた音が不気味に響く‥‥ すると突然、薄暗い隙間から何かが飛び出す。男が「短剣かな?」と思って手を伸ばすと、なんとそれは鬼カブト。しかもその数は5匹! 「う、うひぃーーーっ! アヤカシだーーーーーっ!」 ふたりは「数が合わないって!」と叫びながら、情けない悲鳴を轟かせつつ逃げまくる。なんとかアヤカシからは逃げたものの、洞穴の外にはいつの間にか大勢の男衆が待ち構えていた。それを不思議とは思わず、男たちは「命が救われた」と安心し、なりふり構わず助けを求める。 「たっ、助けてくれー! 中に! 洞穴の中に大カブトがーっ!」 男衆は「盗人猛々しいとはこのことか」と怒りながら、ふたりの首根っこをつかんで村へ連れて帰る。あれ、おかしい。この辺に村はないはず‥‥男のひとりは連中に確認した。 「あ、あの。もしかして、この辺にお住まい‥‥ですか?」 「見てわからんのか、バカもんがーーー!」 その一喝でようやく事の重大さに気づくが、今となっては後の祭り。こうして怠惰なふたりは、晴れて盗人となってしまったのである。 ふたりは観念し、村人のこんなことをしでかした経緯を素直に打ち明けた。村人はその殊勝な態度に免じ、正しい情報を教える。なんでもその怪しげな女性の話には、2つのウソがあるらしい。 ひとつは「この辺に村なんてない」という下り。実際には村は存在し、定期的に洞穴を巡回しているそうだ。男のひとりは盗みに入った際に「通路がきれいだなー」と思ったらしい。そこでもう少し知恵を働かせれていれば、盗人なんかにならずに済んだのだが‥‥今はただ「残念!」としか言いようがない。 もうひとつは「壷の中身」だ。中身は空っぽで、昔からただ飾ってあるだけらしい。台座っぽい岩にそれなりの壷を飾っておけば、なんとなくよさそうに見えるというもの。きっと先祖が「村の言い伝え」を作りたくてやったのだろうと、村人は語った。 しかしそうすると、ひとつだけ腑に落ちない点が出てくる。鬼カブトだ。これはおそらく、最近になって棲みついたのだろう。この盗人がいなければ、アヤカシの存在に気づけずに村は全滅。そんなこともあったかもしれない。それを考えると尋問を担当した村人は、なんともやり切れぬ気持ちになるのだった。 とにかくこのまま放置するわけにはいかない。村人は開拓者ギルドに退治を依頼した。盗人が逃げた後の洞穴に、空の壷と鬼カブトが待っている。 |
■参加者一覧
土橋 ゆあ(ia0108)
16歳・女・陰
三笠 三四郎(ia0163)
20歳・男・サ
バロン(ia6062)
45歳・男・弓
サンダーソニア(ia8612)
22歳・女・サ
藤丸(ib3128)
10歳・男・シ
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
ソウェル ノイラート(ib5397)
24歳・女・砲
赤い花のダイリン(ib5471)
25歳・男・砲 |
■リプレイ本文 ●鬼カブト、現る! マヌケな盗人への説教は、終わってからのお楽しみ。先にアヤカシを退治しなくてはならない。依頼を受けた開拓者たちはさまざまな気持ちを秘め、問題の洞穴の前へとやってきた。 さっそく土橋 ゆあ(ia0108)が準備に取り掛かる。洞穴の入口から出てすぐの左右に、荒縄を円状にしたものを置いた。中央は入口の前で咆哮を使って敵を誘き寄せる三笠 三四郎(ia0163)とサンダーソニア(ia8612)の通り道として開けておく。 弓術師のバロン(ia6062)と藤丸(ib3128)、魔術師のリィムナ・ピサレット(ib5201)は後方に待機。さらに今をときめく砲術士のソウェル ノイラート(ib5397)と赤い花のダイリン(ib5471)が脇を固めた。 リィムナは自分の準備を済ませると、物珍しそうにじーっと砲術士のふたりを見る。どうやら興味津々のご様子だ。 「ねーねー、それってカッコいい構え方とかあるのー?」 「あるぜ。なんたって俺の名はダイリン! 人呼んで、赤い花のダイリン様だからよ!」 ダイリンはおなじみの名乗りを響かせながら、カッコよくマスケットを構える。これを見たリィムナは「ダイちゃん、すごーい!」と喜んだ。ソウェルもサービスで短筒2丁を両手に持ち、少女に向かって「こう?」とポーズを決める。リィムナは目をキラキラさせながら、「お姉ちゃんもいい!」と拍手した。 そんな微笑ましい光景を見ながら、バロンは藤丸の細い肩に手を置いて「後ろは頼んだぞ」と声をかける。少年は「どこ行くんだ?」と聞くが、その返事は行動で示された。 「わかっている敵の数は5体。前衛が2人では心許ないゆえ、わしも前に出る」 確かに彼の言うとおりだが、それを補うのは容易ではない。バロンは若きサムライの後ろに陣取ると、無言で大きく頷いた。言葉はなくとも伝わることはある。三四郎は「お願いします」と頭を下げ、石にロープを括りつけた簡易疑似餌を持って前に立った。 準備は最終段階に入る。 洞穴には、たいまつを設置できる鉄製の装置が存在した。そこでゆあは入口付近、ダイリンはその少し奥にたいまつを設置して迅速に攻撃ができるよう準備する。 「ふーっ、明かりに気づいて来るってことはなくて助かったぜ」 敵からの奇襲がなく、ダイリンは安心した。 「じゃ、ここに自縛霊を‥‥」 奥から戻ったダイリンの無事を確認すると、ゆあは荒縄の円の中心に罠を仕掛ける。 みんなの準備が終わったのを確認し、ソニアは三四郎に目配せした。そしてふたりが同時に咆哮を繰り出し、鬼カブトを呼び出さんとする。それが終わると、三四郎は保険として用意した簡易疑似餌を洞穴内に投げ込んだ。 「はああぁぁーーーっ!!」 「ほらほらっ! 次々来なさいっ!!」 そんな元気娘の挑発が聞こえたのか、奥から鬼カブトがやってきた。 「ビビビ! ビビビビビ!」 敵は我先にと前に出るが、先頭以外の4匹はもれなく荒縄の上を通過した。 「そこ‥‥」 「ウビッ!」 その瞬間にゆあの術が発動し、それぞれが驚いてしばし動きを止める。その隙に、バロンは鏡弦を使って他のアヤカシがいないかを確認した。 「うむ、現時点では鬼カブト5匹だけのようだ」 それを聞いたリィムナはもっとも左にいた敵に対して、サンダー2連発の先制攻撃を仕掛ける。まるでそれはビックリした様を無理に体現させたかのよう。装填などの準備をする後衛を代表して、ダイリンが「楽しそうだな!」と声をかけた。リィムナは明るい声で「わかる〜?」と返す。 偶然にも罠を逃れた1匹はソニアにつき、本格的な戦闘が始まった。 ●乱戦模様 ゆあの奇襲に乗じ、後衛に陣取った面子は一気にダメージを与えんと動き出す。リィムナは再び同じ敵に対して、ホーリーアローを放った。 「聖なる矢、いっけぇー! 鬼カブトをそのまま標本にしちゃえーっ!」 これが見事に突き刺さり、敵は悲鳴を上げる。そのままサンダーも飛ばし、これも命中させた。藤丸も同じ目標を狙い、瞬速の矢で攻撃を仕掛ける。しかしさすがは鬼カブト、攻撃は食らえども防御は堅い。それでも少年は即射を駆使して、すぐさま攻撃を繰り出す。これも命中し、確実に1匹を倒した。 右の敵は砲術士たちの的となる。まずはソウェルが早撃ちで戦闘態勢を整え、フェイントショットで攻撃。敵の死角を狙うも、わずかな傷を与えるに留まる。 「ま、この辺は砲術士なんだし、鉄砲玉でもいいんじゃない?」 彼女は微笑みながらそう言うと、単動作でリロードしてもう一撃を食らわせる。ダイリンも同じ目標にマスケットを構え、嬉しそうに何やら呟いた。 「あんなに固まってりゃ、外しようがないってもんだぜ!」 その言葉通り、銃弾は敵に直撃。大ダメージを与える。苦しむアヤカシの声を聞き、ソウェル同様に単動作を駆使してもう一発お見舞いした! 「ビーーーッ!」 「好機、ってか!」 ダイリンの追い討ちは初撃ほどいい当たりではなかったが、それでも敵を倒すには十分。ふたりで協力してなんとか1匹の掃除を完了する。ダイリンがソウェルに向かって親指を上げてポーズを決めると、彼女も空いた手で銃の形を作って「バーン♪」と返した。 残すは3匹。 ゆあは左の敵に霊魂砲を放ち、鬼カブトを確実に弱らせていく。ここでは連続で攻撃はせず、とりあえず距離を離した。 そこをバロンが狙う。六節で高速装填を行い、狩射で攻撃。この矢が直撃し、敵が怯んだが、無理をせず安全な距離を取る。 バロンには、ある考えがあった。ひとつは砲術士の装填時に生まれる大きい隙を、小回りの利く弓でサポートすること。もうひとつは自らが前に出ることで、後衛に敵が向かわないようにすること。仲間が動きやすい状況を作ることこそ、バロンが掲げる弓道の本分である。初仕事の砲術士たちに至るまで、すべてが活きる。ここまでは彼の理念がそのまま形になっていた。 ソニアは向かってきた敵に対し、グレートソードを振り上げつつ攻撃を仕掛ける。この一撃は空振りに終わるが、本命は次の一撃。彼女は両断剣を使用し、武器を豪快に叩き落す! 「軟らかそうなところがあっても、ボクは上から両断剣!」 さっきのお返しも兼ねた一撃は、容赦なく敵の体を切り裂く。当たりは決してよくないのだが、それでもこの破壊力‥‥まるでアヤカシの焦りが聞こえてきそうだ。 三四郎は三叉戟を構え、残った1匹の撃破を狙う。まずは剣気を放って鬼カブトを怯ませると、槍を振り上げて腹へ攻撃を繰り出した。 「やっ! とおっ!」 二撃目は突きで同じ部分へ攻撃を仕掛けるが、どちらも当たりが浅く決定的なダメージを与えられない。 鬼カブトの反撃が始まった。 ソニアへは角を振り上げる攻撃と体当たりを浴びせる。彼女は後ろに行かせまいと防御して耐えた。手傷を負わされるも、気丈に「次いこー、次っ!」と自分だけでなく全員を鼓舞する。心強い言葉を聞いたダイリンが、思わず本音を吐露した。 「頼んだぜー! なんせ俺は脆いからな! 硝子のように繊細だ! はっはっは!」 「それって、ダイリン君の心のことじゃないよねー?!」 ソニアが冗談めかして言うと、隣にいたソウェルが「ごもっとも」と相槌を打つ。ダイリンは「そりゃねーぜ」と悔しがりつつも、顔は一本取られたという表情を浮かべていた。 バロンも同様の攻撃に晒されるも、一度は簡単に回避。体当たりでダメージを負ったが、こちらも大事には至らない。彼は後衛に目をやり、表情を崩さずに語った。 「弓が接近戦で不利というのは素人の考えよ。主等も覚えておくといい。弓使い相手に懐へ入ったからといって、油断するとこういう目に遭う」 バロンの説得力は、有言実行するところから発せられる。だからこそ、その言葉にも含蓄が生まれるのだ。リィムナは「バロンのおっちゃん、カッコいいー!」と黄色い声援を送り、藤丸も「なるほどねー」と感心する。 三四郎にもアヤカシの魔の手が及ぶ。こちらは連続して体当たりを仕掛けてきた。一度は回避するも、もう一撃は槍で受け止め、後ろへの進出を阻む。剣気の効果もあり、ダメージを最小限に食い止めた。 ●すべてが活きる! 敵の攻撃が止めば、こちらが反撃する番だ。 真っ先にゆあが動き、治癒符でバロンの傷を完全に癒す。リィムナはおっちゃんの狙う鬼カブトに向かって、サンダーとフローズを発動。確実にダメージを与え、その動きにも制限を与える。 「バロンのおっちゃん、今だよ!」 若き魔術師の声に背中を押されるようにして、バロンは六節で矢を番え、狩射で狙い澄ました一撃を繰り出す。さらに六節を使い、ダメ押しを放った! 「すべてが活きるとは、こういうことだ」 群れで現れておきながら個の力で戦おうとするアヤカシを強く諌める言葉とともに放たれた矢は、見事に敵を貫く。バロンは見事に敵を葬った。 三四郎は強烈な攻撃が仕掛けられるのを見越し、残った2匹に剣気を放って攻撃力を抑える。そこに藤丸が即射と瞬速の矢を併用し、援護射撃を繰り出した。 「こっちもトドメといこーぜ!」 この好機を見逃す手はない。三四郎は矢の刺さった部分を狙い、鋭い突きを放った。ほんの一瞬だけ放たれる強烈な殺気‥‥アヤカシは恐れを感じて思わず一鳴きする。 結局、それは断末魔の叫びとなった。三四郎の槍は一気に敵の体を貫き、鬼カブトの動きを止まらせる。そしてそのまま瘴気となって消え去った。 最後の一匹と対峙するソニアは、この勢いに乗らんとグレートソードを構える。そこへ強力な助っ人が登場。ソウェルは単動作でリロードすると、フェイントショットで攻撃。さらにダイリンが、単動作からの射撃を2回繰り出す。これだけで敵はヘロヘロになるが、最後はソニアの両断剣が待っていた! 「雷鳴のような衝撃、キミに耐えられるかなー?!」 「ビビーーーッ!」 再び振り下ろされるグレートソードは、容赦なく鬼カブトを真っ二つ。すぐさま瘴気となって消えていく。これで5匹の駆除が完了した。 しかし、誰も周囲への警戒を解かない。バロンは再び鏡弦を使ってアヤカシを探知するが、近くには存在しないことがわかった。 「ふむ‥‥アヤカシはいないが、どこか引っ掛かる‥‥」 ひげを触りながら考えを巡らせるバロンに対し、ゆあが声を発した。 「盗人さんを仕向けておきながら、アヤカシの餌食にする確実な仕込みがないというのも‥‥なんだか引っ掛かりますね‥‥」 マヌケな盗人の存在はさておき、事件を起こすまでの経緯がどうにも不自然‥‥ソウェルもそれを気にしていたらしく、3人はその辺を話し合う。 その間、ソニアと藤丸は洞穴の奥へと入り、問題の壷を見に行った。目的のものは台座の岩から少し離れたところに転がっており、ふたは遠くに転がっている。藤丸はそれを拾った。 壷の本体は村で作る言い伝えには十分な大きさだが、これを渡来品と呼ぶにはかなり無理がある。少なくとも、ソニアにはそう思えた。彼女は壷の中に手を入れて中身を確認する。しかし、盗人が目当てにしていた短剣は入っていなかった。 「本当に空っぽね。だいたい入ってたら、持った時に音がするもんね〜」 ソニアの話を聞いた藤丸もまた、ゆあの語った推論が気になっていた。短剣が謎の女性のでっち上げだとすれば、本当の目的はアヤカシだったはず。やっぱり腑に落ちない。ふたりは入口に戻り、中の状況を説明。とりあえず考えるのは後にして、今は村への報告を優先する。村では、みんなが吉報を待っているはずだ。 ●お仕置きタイム! 壷を祭る村はアヤカシが退治されたと聞くと、誰もが胸を撫で下ろす。ついでにお縄で縛られた盗人たちも「ホッ」と安心した。これこそ「盗人、猛々しい!」と言うもの。村人は白けた表情で盗人を見る。無論、開拓者たちも冷たい視線を浴びせかけた。 まずはソニアとゆあの口撃が飛ぶ。 「で、反省してるの?」 「楽にお金を、ね。その幸せな思考回路が羨ましい‥‥」 こうもストレートに言われると、ぐうの音も出なくなる。これに加え、三四郎が穏やかな表情で改心するように説得した。 「正直、今回は運がよかったのかと‥‥ただ、兼ねに目が眩むと大切な何かを失うわけで、それを教訓にしてもらえればと思います」 盗人になっちゃったふたりは「はいっ!」と素直に頷くが、それが出来ていれば盗人になっていなかったというのもまた事実。三四郎はこの矛盾にすっきりしない様子だった。そんな時、リィムナから声が上がる。 「あんたたちのおかげでアヤカシ見つかったのは事実だけど、悪いことは悪いことだよ! こっちに来て、お尻出しなさい!」 さすがに「お尻を出せ」と言われても、村人の前でそんな醜態は晒せない。それは成人男子のプライドが許さぬとばかりに、盗人は立場もわきまえずに「いやいや」と首を振った。ところが後ろからダイちゃんが連中の背中を押し、無理やり前屈みにさせてしまうではないか。 「いいじゃねぇか、女の子の言うことだぜ〜。聞いてやれよ、な?」 「ダイちゃん、さすがっ! じゃ、お仕置き開始っ!」 ソウェルは「お仕置き」と聞き、慌てて制止しようとするが、リィムナのお仕置きとは清杖によるお尻叩きの刑。それもひとりにつき数発で済ませ、手加減もしている。ソウェルは「ま、いっか」と、今回は見逃した。 「痛たたたた! ひーっ!」 「今の痛みを忘れないように! これからは真面目に働きなさい!」 「は、はいーーーっ!」 肉体的にも精神的にも痛いお仕置きに参ったのか、すっかり盗人はシュンとなる。リィムナは「ふふ♪ お仕置きする側になったのはじめて♪」と呟き、いつもお説教をする人の表情をいつまでも真似ていた。 その後、バロンは村人のいない場所で仲間たちと話し合った。 「ゆあや藤丸の言うとおり、詰めが甘い。だが、油断もできん。しばし出方を伺うのが賢明だな」 彼はそう結論付け、開拓者ギルドに「類似事件が起こるやも知れぬ」と報告する旨を確認。全員の了承を得て、村を後にする。 幸か不幸か、彼らの読みは当たっている。 あの妖艶な女性はマヌケな盗人が捕まった時、すでにここの村人に紛れており、うまく事が運ぶかを見届けていた。彼女の真の目的はアヤカシではなく‥‥なんと壷の方。結果的にアヤカシが出る騒ぎになったので、何もせずにその場を離れたのである。 「あの宝が偽物とは残念ね。でも大丈夫。まだ天儀にはアヤカシ絡みのお宝の話なんて山ほどあるから。うふふ‥‥」 罪なき者を使い、アヤカシを解き放たんとする女性の正体ははたして‥‥? |