笑ってはいけない空賊団
マスター名:村井朋靖
シナリオ形態: イベント
EX :相棒
難易度: 普通
参加人数: 12人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2015/04/17 17:55



■オープニング本文

 いつぞや、シノビの精鋭を育成する研修施設にて、大勢の開拓者が「笑ってはいけない忍屋敷」での一泊二日を経験した。
 しかしその研修は、想像を絶するほど厳しい。ひとたび笑えば、容赦なくお尻をシバかれるのだ。
 ほんの短い間ではあったが、それを乗り越えた開拓者たちは冷静沈着な心を得て、また活躍の場へと戻っていった。


 あれから月日が流れ……
 謎の案内人・フジワラさんが、開拓者のために新しい舞台を用意した。そこへ今回も案内役として、草崎流騎(iz0180)と草崎刃馬(iz0181)が開拓者たちを引き連れてやってくる。
「兄上、またこの訓練するのか?」
 完全に色を失った刃馬は、諦めの表情で状況確認をする。
「今年は飛行船を舞台にした研修だ。まぁなんだ、体を動かせる分、笑いから逃れるチャンスもあるだろう」
 弟とは対照的に、流騎は前回よりも気楽なコメントを吐いた。

 今回は「飛行船を操る空賊団」というシチュエーションで、笑ってはいけない過酷な研修が繰り広げられる。参加者は団員となり、数々の試練を乗り越え、参加者同士の結束を深めるのだ。
 飛行船を操る以上、団結を乱すような行動は絶対に禁止。そんなことをしてロープから手を離せば、全員の命が危険に晒してしまう。ただ、今回の場合は「勝手に笑うこと」が厳罰の対象となり、どこからともなく下っ端団員が姿を現し、ネギの形を模したやわらかい棒で思いっきりお尻をシバくのだ。
「忍屋敷の研修と何が違うってんだよ、ったく……」
 刃馬が呆れていると、そのうち舞台となる飛行船にたどり着いた。そこに響くいつもの声……
「おーい、こっちや! 走ってこんかーい」
 独特の訛りが特徴的な、あのフジワラさんが登場する。
「おい、お前ら。これからは大開拓時代や。飛行船のひとつやふたつ、簡単に操縦できんと話にならんでー」
 必死に覚えたセリフを丹精込めて棒読みするところを見て、刃馬はガックリと肩を落とす。
「今から明日の朝まで、お前らは厳しい空賊団の一員として、さまざまな訓練に挑んでもらうからな。服はこっちで用意したから、着替えてこいよー」
 そう言いながら、フジワラさんは巨大な飛行船を指差す。本当に飛ばすかどうかは置いといて、訓練用とは思えないほど規模の大きい船に、兄の流騎は驚きを隠さない。
「これは立派な船だ。これ、本当ですか?」
「訓練中は動かさんけど、明日の朝に遊覧飛行するで」
 それを聞いた弟の刃馬は「この船、動くってか!」と声を弾ませる。
「なんだこれ、普通に訓練じゃねぇのか? まぁ、中途半端にならなきゃいいけど」
 フジワラさんは「ははは……」と笑うが、この訓練が中途半端に終わるはずがない。
 随所に潜んでいる笑いの仕掛け人だけでなく、参加者が身を張って仲間を笑わせてもいいという過酷な掟。そして笑ってしまえば、問答無用でお尻をシバかれるという厳しい罰。これが混乱を巻き起こさないわけがない。


 こうして開拓者の修行と銘打った、地獄の一泊二日が懲りずにまたしても幕を開ける……


■参加者一覧
/ 阿弥香(ia0851) / 天河 ふしぎ(ia1037) / 白漣(ia8295) / プレシア・ベルティーニ(ib3541) / リュミエール・S(ib4159) / リィムナ・ピサレット(ib5201) / 愛原 命(ib6538) / 八条 高菜(ib7059) / 澤口 凪(ib8083) / 佐藤 仁八(ic0168) / リズレット(ic0804) / サライ・バトゥール(ic1447


■リプレイ本文

●入場と施設案内
 素性の知れない謎の案内人・フジワラさんは参加者を前にして、再度ルールの確認を行う。
 空賊団の領域に足を踏み入れた瞬間から、何が起こっても笑ってはいけない。もし笑った場合は、キツ〜い罰が下される。
「せやから、十分に気ぃつけや。なら、さっそく、ひ、ひっ……飛空船に入ってくれるか?」
 前回の開催から時間が経っているというのに、フジワラさんの噛み癖はまったく治っていない。すっかり空賊団の服が板についている佐藤 仁八(ic0168)は虚空を見上げながら「そういうの、なしにして欲しいんだがねえ」と遠慮なく言う。すると隣にいた草崎刃馬(iz0181)が「あれですら罠に思えてくるだけだから気にするな」と先駆者としてのアドバイスを伝えた。
「あの人の噛み芸、いずれボディブローのように効いてくるからな」
 そう言いながら、笑ってはいけない空賊団に挑む開拓者たちが、いよいよその舞台となる飛空船の甲板へと歩を進めた。ここから先は、何があっても笑うことは許されない。
「それじゃ、この辺に並んでくれるかー。この空賊団を取り仕切る偉い団長さんのお出ましやで」
 その呼びかけに応じ、白髪に眼鏡をした老人が「どうもどうも〜」と周囲に明るい声を掛けながらやってきた。
「リィムナ、アウト〜!」
 いきなり鳴り響く効果音に驚き、サライ・バトゥール(ic1447)はビクッと身を震わせてから隣を見る。その時、お仕置き隊の手によって前屈みにさせられるリィムナ・ピサレット(ib5201)の姿があった。
「サライ君、この人は気をつけた方がいいよ……ははは、うきゃー!」
 同性がドツくとはいえ、その威力は侮れない。第1号の被害者となった少女は「ごめんなさーい!」と誰に向けてかわからない謝罪を口にした後、登場した人物と目を合わさないようにがんばる。
「皆に紹介するわ〜。この空賊団を率いるマサノリさんや。博打にめっぽう強くて、その腕前は他の空賊団をギャンブルで負かすほどや」
「ようこそ、栄光の空賊団へ。我々は皆さんを歓迎しますよぉ〜」
 そこで白漣(ia8295)が、なぜかこのタイミングで「あの、空賊団としての武勇伝とかはないんですか?」とネタにマジレスしてしまう。すると、まったくアドリブの効かないフジワラさんは「だから、その、ギャ……ギャンブルが得意なんや」と不器用なオウム返しに終始した。このやり取りを見て、仁八と草崎流騎(iz0180)が思わず吹き出してしまう。
「あのねぇ、白漣。なんでそこわざわざ聞き直すかね!」
「ハハハ……もう、こんなのがいると全然前に進まないぞ!」
 それでも白漣はきょとんとした顔で、ふたりがシバかれるのを黙って見ていた。
 そして、マサノリ団長への挨拶は、空賊団【夢の翼】の団長を務める天河 ふしぎ(ia1037)が行うが、ここは至って普通に終わる。ふしぎはホッと胸を撫で下ろすが、地獄はここから始まった。
 夢の翼の団員たちに握手するマサノリさんが、金髪の少女プレシア・ベルティーニ(ib3541)の前に来ると、彼女は「プレシアでぇ〜す! よろしくお願いしますなの〜♪」と笑みを浮かべて御挨拶。無論、速攻でアウトコールが響き渡った。
「ぴゃ〜っ! 痛いの〜!」
 天然娘が混じっていることを知り、複数の開拓者が虚空を見上げる。これは厳しい戦いになる……と思ってるところに、マサノリさんの恍惚とした声が響き渡った。
「いやぁ〜、かわいいですねぇ〜! 神威人ですねぇ! もこもこの尻尾ですよぉ、素敵ですねぇ〜!」
 今までになくハイテンションな声を聞き、この時が来るのを覚悟していたリィムナや草崎兄弟は盛大に吹き出す。尻をシバかれる間もやり取りは続くが、リュミエール・S(ib4159)や阿弥香(ia0851)には普通に接する癖に、リズレット(ic0804)の前に行くとまたマサノリさんが豹変した。
「あ、あの、リズレットと申します……」
「スゴイですねぇ〜、猫ちゃんですねぇ〜! お名前はニャンコレットですか? かわいいですねぇ〜!」
 名前を聞いておきながら掠りもしない愛称にしてしまうあたりで、ふしぎが肩を震わせながら崩壊。そこへ男性のお仕置き隊が来ると、リュミエールも「わかってるじゃないのー」とニンマリしてしまい、なし崩し的に道連れとなってしまう。
「ゆ、ゆ、油断した……やっ、やめ、きゃぁぁっ!」
 その頃、マサノリさんはサライを相手に猛威を振い、その体躯も手伝ってガチのペット扱いでかわいがりを開始。あまりに酷いネタの重ねように被害者が続出した。
 ここで連続のダメージを受けた愛原 命(ib6538)は、サライに向かって「ちょっとは抵抗したらどうなのっ!」と言うが、少年が「あ、あの……」と切り出しても、マサノリさんが「わかってますよぉ〜」と嗜めて終わるというネタが続くだけで、これがまた仁八やリィムナの笑いを誘う。
「も、もうちょっとしっかり抵抗できらあな……!」
「もっとがんばってよ、サライ君っ!」
 周囲から苦情を言われるも、サライは「は、はい」と返すのがやっとであった。

●講習会
 開始から1時間が経過。お仕置きラッシュが止まらない。
 続いて、飛空船での講習会が始まった。今回はロープ結索のやり方である。ここでは講師として、カウボーイハットのジルベリア人が出てきたが、阿弥香が「あんた、なんか違わない?」と苦情を言いながらもお仕置きの餌食になった。
「ロープはしっかり結ばないト、危ないデース」
 教えてることはマジメなのだが、どうにも面白い言葉が気になって仕方がない。そんな地味な罠を警戒しつつ、皆はロープの結び方を学んだ。
 しかし、シノビであるはずの八条 高菜(ib7059)が、どうにもロープを上手く扱えない。気づけば足に引っかかり、解こうとすると腕を縛り……こんな調子でがんばっていたら、勝手に自分を綺麗に縛っていた。
「先生〜、助けてくださぁい〜」
 何をどうすれば、こんなに見事に自分を縛れるのか。ジルベリアの先生も「Oh……」と感嘆の呻きを上げた。最初にこれを見た澤口 凪(ib8083)が盛大に吹き出した後、彼女以外も注目してしまい、めでたく全員がお尻にダメージを受けた。
「いwwwたwっいwwwww」
 なんとか深呼吸して笑いを堪えようとがんばるが、先生でも解けない上、いちいち高菜が謎の嬌声を上げるものだから、もう耐えれない。
「む、結べない癖にガッチリ絡まってるとか、いったい何なの!」
 先ほどは笑われる方だったサライも、この展開を目の当たりにして相当お尻をシバかれた。

●昼食と引き出しネタ
 講習会も一段落し、参加者は控え室へと誘われた。
 そこは机が車座に置かれ、全員が見合うようにセッティングされている。名札も置かれていた。
 白漣はテーブルに弁当箱が置かれていると知ると、大喜びで椅子に座る。
「やっとご飯だー! 疲れが癒せ……」
『プゥ〜!』
 椅子を引きながら言うが、すぐにオナラのような異音が混じった。彼の席には古典的な罠が仕掛けられており、命はそれに反応する。
「白ちゃん、それホントに……ププッ」
「愛原、アウトー!」
 何ともベタなネタだが、命は見事に撃沈。容赦なく尻をシバかれる。
「きゃうっ! ぐすっ、白ちゃ、いた、痛い……」
「命さん、大丈夫ですか……フフッ」
「白漣、アウトー!」
 いよいよ幕を開けた、夢幻連鎖の笑いのスパイラル。知り合いであるが故に起こる地獄に、ふたりは友情を感じずにはいられなかった。ああ、もし他人だったとしても、面白かったらお仕置きされるんだから、あんまり関係ないよね。現にリズレットが微笑ましい光景だと笑ってしまい、密かにシバかれてもいるし。
「あ、あうっ!」
 ふしぎが「だ、大丈夫?」と声を掛けるも、いらぬダメージを受けたくないとそこそこの対応で済ませ、静かに食事を取り始めた。なお、なぜかリュミエールだけがマンガ肉弁当、プレシアだけが芋羊羹弁当が仕掛けられており、それぞれの理由で笑ったため、お仕置きを食らった。

 食事の時間が終わっても、フジワラさんが呼びに来る気配がない。この間、参加者は自由時間を楽しんだ。
 その時、座席指定を疑った阿弥香がテーブルの構造を確認。団長のふしぎに報告をする。
「これ、一番上に引き出しがあるんだけど、何のために用意してあるんだ?」
 先ほどのクッションと言い、意味不明な弁当箱と言い、何か仕掛けられているとしか思えない引き出し……果たして、これに挑む必要はあるのか。一瞬だけ、全員が「うーん」と視線を宙に泳がせた。
「じゃあ、僕のを開けてみるね」
 そう言いながら、ふしぎが引き出しを開けると、そこにはなぜか最初に着ていた服が入っていた。あまりの懐かしさに「ああ〜!」とニヤけると、残酷なコールが周囲に響き渡る。
「ふしぎ、アウトー!」
 こうなると、リュミエールも笑ってしまい、どんどん被害が拡大。しまいにはまったく無関係な仁八までケツをシバかれた。
「痛たた……これは開けない方が、皆のためにならあな」
 とはいえ、開拓者をピンポイントで狙い撃ちするネタを確認してみたい気持ちもある。また、この場にはいたずらっ子も混じっており、仁八の忠告は無駄に終わってしまう運命にあった。
「じゃあ、あんたのはあたしが開けてやるから」
 阿弥香が仁八の引き出しを開けると、そこには謎の宝珠が入っていた。本人と顔を見合わせるも、心当たりはないらしい。何のこっちゃかわからない仁八はそれを手に取ると、そろそろ聞き慣れたアウト音と同時にあらぬコールが鳴り響く。
「仁八〜、泰キックー!」
「はっ?」
 いきなり中華風のBGMが流れたかと思うと、ムキムキの泰拳士が現れて、仁八のお尻に泰伝来のキックを強烈にお見舞いした。その後、このコーナーでは仁八は呻き声しか上げなくなった。
「な、な、なばぁ……あ、げ、がはぁ……」
 あまりの悶えっぷりに、開いた阿弥香や無関係のサライもアウト。軒並み餌食となり、その場に崩れ落ちた。
「そ、その宝珠はもう触らない方がいいわね。じゃあ、私は自分の引き出しでも……」
 凪がそう言いながら開くと、そこには目だけもふらっぽい人妖人形が横たわっており、もろに目が合った時点でめでたくアウトとなった。
「ははは……! な、な、なんでもふらの目つきになってるのよ、この人形! あはは!」
 小道具ネタにめっぽう弱い凪は、ここでまとめて尻を叩かれるも、リュミエールやリズレットらにも人形を見せて道連れとし、意図せず夢の翼を壊滅寸前にまで追い込んでみせた。

●夕食とお楽しみステージ
 日も暮れた頃、飛空船の外で豪華な夕食が用意された。今日はバーベキューだ。
 これにニッコリしたプレシアとリズレット、リィムナあたりが波乱の幕開けとなるシバキに遭うと、その後もおいしい食事にニンマリする者が続出。
 仁八が心眼で罠を確認しながら串焼きを頬張り、普通に「美味いねえ」と言っただけなのに、サライが「ええ!」と微笑んでアウト。あまりの美味しさに真顔で妙な踊りを舞うプレシアを微笑ましく見守る高菜がアウト、白漣がスタッフの仕込みで置かれていたでっかい串団子を無表情で焼いているのを見た命がアウトなど、明らかに全員の沸点や警戒度が低くなりつつあった。それでもさっきの引き出しネタよりも叩かれた回数は低く抑えられていたが。

 食事中は「お楽しみステージ」と題し、阿弥香がセットコントを披露。開拓者である彼女がスタッフ扮する落ち武者とミイラを捕まえて奉行所へ連行するが、最終的にセットごと壊す勢いで奉行所の大八車が突っ込んできてフィニッシュという王道のネタを披露。衝撃のラストを見守った参加者は「笑ったからアウト」ではなく、「驚いたからアウト」という変化球で全員が一度シバかれる羽目となり、誰もがガバガバの判定に「それは違うだろ!」と総ツッコミを入れた。
 ここでなんと大物ゲストが登場する。実際にはラ・オブリ・アビスで変身したリィムナだが、皆に見える姿はなんと大伴翁。しかも白鳥の首が生えた純白のチュチュを着ての登場に、ふしぎあたりは盛大に崩れ落ちた。当然、本人でないことは誰もがわかっているが、それとこれとは話が違う。その後は奥義スキルの無限ノ鏡像を使い、愛し合う白鳥を表現すべく、お互いの嘴を突っつくというアンダースローの変化球まで使いこなし、あらゆる層を爆笑のズンドコに叩き落した。
 なお、この出し物のラストにおいて、サライが笑った際に大伴リィムナが夜を使用し、準備しておいたネギをお尻に刺すという暴挙に出たが、いたいけな少年も負けじと夜春を使って艶っぽい泣き顔で反撃。両方が勝手に沈むならともかく、サライが「抜いて、抜いてええ!」と絶叫し、高菜や仁八あたりが余計なとばっちりを受けるあたり、この訓練の恐ろしさを痛感する結果となった。
「きゃうっ! い、痛いですわぁ……」
 その高菜のエロい言葉と挙動に、ふしぎが「ダメだよ……」と照れ笑いしてしまうところまで、見事な流れであった。なお、それを見たリズレットが笑い、お尻を叩かれると猫耳や尻尾がピーンとなって可愛いところを披露した。

●大浴場の連鎖
「ええか、みんな〜。この飛空船にはな、でっかいお風呂があるんや〜」
 珍しく噛まずに用件を伝えるフジワラさんに安堵しつつも、それぞれのサイズに合わせた手ぬぐい衣装を受け取る。誰もが勘違いしていたようだが、今回は服を着た上での混浴だ。
「着替えだけ男女別や。更衣室を抜けると同じ大浴場に出るからな」
「40秒で支度するんだぞ」
 今まで仕掛けて来なかったふしぎが珍しくフジワラさんのセリフに被せると、仁八がプッと吹き出した後にジト目で相手を睨み「余計なこと言うんじゃあねえ!」と罵りながらもバッチリ尻をシバかれた。

 今まで空賊の衣装を着ていたとはいえ、もう全員のお尻は限界ギリギリ。サライがお尻を擦りながら湯船にそーっと入るのを見て、白漣がすっとぼけたように「大丈夫ですか?」と聞くのを見て、命が崩れ落ちた。
「あのね、白ちゃん! 大丈夫じゃないの、皆知ってるんだけど……んぎゅあっ!」
「ん、んぎゅあって……ふふ!」
 めでたく白漣も、湯船で一発叩かれましたとさ。
 その他にも罠がある、というか……リィムナが大伴翁の姿を解除しないものだから、どうにも景色の収まりが悪い。仁八が「そろそろいいだろうよ」と無表情で語るも、相手が「なんじゃ?」と笑いを誘おうとするあたり、まだまだ引っ張る気満々らしい。
 仁八は無言で湯船から上がって体を洗おうとすると、隣でサライがお尻に石鹸が染みるからと難儀していた。
「そんなにお困りなら、あたしのように尻に顔でも書きねえ」
 と、そこに自分の尻を晒す。まるでイカとのケンカに負けてボコボコにされたタコの顔のようなケツが出てきて、サライ轟沈。何気なく見ていたふしぎもリィムナも巻き添えを食らい、大浴場は大混乱となった。
「悪いねえ、あたしはあたしで尻が見えないんだ。いったい、どうなっちまってるんだろうねえ」
 今までの分をやり返すあたり、さすがは仁八と言ったところか。周囲に尻を振った瞬間が、湯船でもっとも厳しい時間帯となった。

●簡単には眠らせない
 湯船で疲れが出たのか、とっくの昔に笑い疲れたのか。大広間に用意された寝床に入ると、誰もがすぅと寝に入った。
 そこに響き渡る警戒サイレン……フジワラさんが「急いで甲板に出てこ〜い」と指示するので、皆が眠い目を擦って表へ出る。
「おーい、遅いぞー! もし飛空船が一大事やったら、みんな大変なことになっとるで」
 わざわざ寝てるところを起こすこともないだろうに……笑いとは相反する場所に気持ちを置く参加者は空賊団としての心得を話半分に聞いて、また寝床へ戻った。
 そこで何を思ったのか、白漣が自分の布団を怪しげな手つきで探り始める。そう、さっきのクッションがないか確認しているのだ。これで全員がハッと目を覚ます。
「あー、その可能性があるのね……」
 リュミエールがおもむろに掛け布団を開くと、そこには一口かじった唐揚げの模型が紛れていた。
「あー、リュミちゃんズルい! ボクもお腹すいた〜!」
 ド天然のプレシアが大ボケかましたところで、リュミエールは撃沈。笑いの代償をお尻で受ける。さらに狐っ子はそれを奪ってガジガジし出し、これにもやられてアウト。ついに彼女の精神は崩壊した。
「痛い……ぐずっ、お母さん。痛いよぅ……お母さん……」
 そこへ高菜が「はいはい、もう大丈夫だからね〜」と天然ボケを被せ、夢の翼をいいだけ地獄に突き落とした。お母さんはなぜ皆が笑うのかわからず、ただ首を傾げるばかり。この終盤でここまで酷い目に遭うとは思わず、リュミエールは無意識にファイヤーボールを途中まで詠唱しかけた。

 身内の攻撃に晒され、さらに疲れた参加者は目立った罠がないことを確認して、また床につく。
 すると、なぜか出所のよくわからない御伽噺が流れ始めた。
『むか〜しむかし、あるところに。おじいさんと、おばあさんと……セクスィガァールが住んでいました』
 横文字だけやけに発音のいい御伽噺に、凪が笑いながら声のする方向に枕を投げつける。今度はその様を見た阿弥香が吹き出してアウト。
「なんでそこで溜めるの? ねぇ、なんでそこで溜めるの?」
 凪が笑った箇所を丁寧に解説すると、仁八が笑いながら「いらないよ、そういう解説!」と諭しながら、笑った罰を受けた。
 その後はもはや横文字しかなくなり、もはや御伽噺は意味不明となる。
『ディスプレイスに、デーモンアピアー、ワァオ、イッツグレイト! ファイッ、ファイッ! グランパ、ファイッ!!』
 意味がわからなくてもイントネーションで死ぬパターン、そして意味がわかっても理解できずに死ぬパターンで、全員が等しく罰を受けた。謎の御伽噺が終わった後、そこに響いたのは全員の嗚咽であった……

●天儀の空を舞う
 いつ眠ったのかも忘れるほどよく寝て、彼らは朝を迎えた。
 そのまま朝食……と言っても、おにぎりと飲み物しかなかったが、笑いと罰でお腹いっぱいの彼らには十分すぎる量だったかもしれない。
 そして甲板に赴き、朝の点呼をすると、フジワラさんが「今から遊覧飛行するで」と宣言し、飛空船がフワッと宙に浮いた。
「その辺ぐるっと一周や。しっかり景色を楽しむんやで」
 今回のご褒美ともいえる企画に、夢の翼の面々は思わず笑顔……で尻をシバかれる。
 それでもめげずに、ふしぎは自分の小隊旗を掲げようと奮闘。慣れた動作でロープを上がり、思いっきりそれを広げた。
「見よ、僕たちの旗を! 空に舞うこの旗を!」
 カッコよく決めたはいいが、そこにはデカデカと『笑え、リュミエール!』と書かれていた。そう、この旗は寝ている時にスタッフがコッソリすり替えたのである。なお、本物の小隊旗は、ちゃんと飛空船の後方でのどかに揺らめいていた。
「リュミエール、アウトー!」
「あはははっ……お、降りてきなさいよ、早くっ!」
 ふしぎは何が起きたのかわからず、降りてようやく気づいたが、結局笑ってしまい無事アウトとなった。

●そして退所式
 朝日が完全に昇り、周囲に新しい日の訪れを告げる頃、飛空船は元の場所に着陸し、そこで退所式が行われた。
 特に目立ったネタは仕込まれず、マサノリ団長とフジワラさん、そして飛空船を操縦したスタッフなどが集まって、厳かな雰囲気で進む。そして最後は絵師が全員集合の様子を描くことになったのだが、しばらくじっとしててほしいとの注文が入った。
「ええか、皆ちょっとの辛抱やで」
 当然、ここに最後の罠が仕掛けられていた。その間、スタッフが絵師の後ろで下手くそな組体操を披露し、見たこともないような形の演技で精一杯参加者を楽しませてくれた。無論、絵師が描き終わって「オッケーです!」と言うと同時に「全員、アウトー!」という声が響き渡った。
「なんでこういう締め方しかできないかねえ!!」
 仁八の言葉は、まさに全員の総意であった。こうして、辛くも楽しい空賊団の訓練は幕を閉じた。