【空庭】天荒黒蝕の接触
マスター名:村井朋靖
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 普通
参加人数: 9人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/09/24 00:51



■オープニング本文

●突然の申し入れ
 かつては陰殻を舞台にした合戦で、最近は因縁のあるシノビの里を舞台に、開拓者と激しく争ってきた大アヤカシ・天荒黒蝕。
 そんな彼が突如、天儀側に対し、協力を申し入れてくる。戦力的に余裕のある天狗軍団を率い、開拓者らと共に古代人、しいては護大と戦おうというのだ。
 その天荒黒蝕の書状を携えて現れたのが、「硬磁」と名乗る黒鋼天狗である。
 彼は冥越・紙結ノ森の焼き討ちの際、有力なアヤカシの保護し、自軍に引き入れんと目論んだ主の策を実行した武人気質の将だ。此度は彼が単身、交渉役を担うという。

 この前交渉に、同じく冥越・紙結ノ森にて天狗の陰謀を阻止に尽力した諏訪のシノビ・草崎兄弟が抜擢された。
 両者が会う場所は、北面の片田舎。寂れた村の一角にある、打ち捨てられた宿の中だ。
 腰に差した刀に手をかけ、まずは弟の刃馬が家屋の中へ。続いて兄の流騎が入る。扉を開いてすぐの土間、その下座に硬磁は座っていた。
「ご足労をおかけした。我が主・天荒黒蝕の名代、硬磁と申す」
「ご丁寧にどうも。だが、お前のことは知ってるよ」
 刃馬は警戒を解かぬまま、ひとまず兄を上座まで導く。流騎は静かに腰を下ろし、じっと赤面を見つめた。
「さて、どのような御用向きか、じっくりとお聞きしよう」
 知恵の働く御仁の考えを、こちらがあれこれ思案するだけ時間の無駄……流騎はそう告げる。
 すると、硬磁も「それでは」と口を開く。
「主・天荒は今まで幾度となく開拓者と争って参りましたが、内心ではその実力を高く買っております」
 そんな彼が天儀の現状を見るに、護大なる存在がどうしても邪魔だという。
 アヤカシが利する状況とは、開拓者と争うことで精霊力と瘴気のバランスが保たれることを指すのだそうだ。それを根幹から崩す存在が、護大という厄介者であるという。
「ちょ、ちょっと待て。護大を元にして形作られた大アヤカシの天荒黒蝕が、それを言っちゃマズイだろ」
 刃馬は話の腰を折るように口を挟むが、流騎はそれを咎めず、むしろ続けた。
「私も、まるで『天に唾をする』ように思えるのだが……」
 両者の戸惑いに対し、硬磁は真顔で返す。
「我が主は、あの天荒黒蝕でありますぞ。今さら何の不思議がございましょう?」
 この言葉を聞いた兄弟は思わず顔を見合わせ、すぐさま渋い表情を浮かべた。今までの行動から察するに、確かにやりかねない気がする。それも本気で。
「なるほど。では、そちらが護大に弓を引く明確な理由をお聞かせ願いたい」
 流騎の言葉に、硬磁は即答する。
「主は、護大の意のままに物事が進むということが気に入らないのです」
 またしても端的な表現で説明され、ふたりは伏し目がちに「まぁ、わからんでもないが……」と呟く。
「兄上、どうします?」
 刃馬は兄に問いかける。もっとも、彼は「もはや自分では判断できない」と匙を投げていた。
 一方の流騎はしばし思案した後、硬磁にある提案を持ちかける。
「ひとまず、そちらの言い分は了解した。そこでだ、日を改めて有志が集まる会議を開こうと思う。こちらは開拓者を集めるので、そちらは天荒黒蝕の意思を直接伝えるものを用意してほしい。そこで共闘の可否を決めたいと思うが、それでいかがか?」
「了解した。主には会議にて出た言い分に対し、即座に返答できるよう伝えておきまする」
 硬磁はこの申し出に応じ、前交渉は終了した。

 天狗が去った宿の中で、刃馬は「こりゃ荒れるぞ」と懸念を口にする。
「想像に難くないとは、まさにこのことだぜ。相手がアレじゃなきゃなぁ〜」
「しかし、お前の言うアレじゃなきゃ、交渉そのものがなかったとも言える。これは好機か、はたまた……」
 流騎は薄暗い天井を仰ぎ、「結論は開拓者が出してくれるはずだ」とひとつ頷く。

 5日後、この場所において再び会議が行われる。


■参加者一覧
/ 羅喉丸(ia0347) / 柚乃(ia0638) / 喪越(ia1670) / 千見寺 葎(ia5851) / 无(ib1198) / リィムナ・ピサレット(ib5201) / ローゼリア(ib5674) / 刃兼(ib7876) / 星芒(ib9755


■リプレイ本文

●薄暗い宿の中より
 無人の時を経て朽ちようとする宿が、再び活気付く。
 とはいえ、顔を揃えるのは開拓者とアヤカシ、それも共闘の可否を決さんという異例ずくめの会合だ。
 すでに草崎兄弟、黒鋼天狗の硬磁が控え、数人の開拓者も好きなところに座している。

 そこへ羅喉丸(ia0347)が入ってきた。
「天荒黒蝕はいずこ」
 その声に応じ、硬磁の持つ水晶球が妖しい光を放つ。するとそこに、青年の幻影が浮かび上がる。
『フフフ……ちゃんと、ここにいるよ』
「何を言う。直に話を聞いているだけで、その身はここにないではないか」
 舌鋒鋭く言い返しはするが、マトモに取り合っても埒の明かぬ相手。羅喉丸は適当に場所を見つけ、さっさとそこに座る。
「では、始めるとするか」
 見届け人となる草崎流騎(iz0180)が会合の開始を宣言すると、さっそく千見寺 葎(ia5851)が「お尋ねしたいことが」と申し出る。
「開拓者とアヤカシが戦うことに利があるなら、狐らが護大派と共闘するのは何故です?」
 彼女のいう狐とは、すなわち於裂狐を指す。彼は今もまた、開拓者の前に立ち塞がる存在だ。
『それは彼に聞かないとわからないけど、だいたい僕にそれを知る気はないよ』
 大アヤカシは同じ護大の欠片から生まれた存在とはいえ、彼らが持つ主義や思想は千差万別。それを知りたがる者もいれば、自らの考えを広めんとする者もいる。そして、他人に興味を持たない者も……
『もしも共闘を申し込まれたら、少しは考えたかなという程度さ』
「それだけ個の存在が確立されているのであれば、たとえ護大が滅せされても、大アヤカシは生きられるのですね?」
『そうさ。ご推察通り、僕たちには影響がない』
 葎は一旦「わかりました」と話を切ると、対面に座って懐に抱いた尾無狐・ナイの背を擦っている无(ib1198)が言葉を発した。
「私は以前「護大とは」と問い、「世界」と返答を受けた者ゆえ、天荒黒蝕殿にも同じ事をお訊き致したく候」
 彼は礼を尽くした上で、自らが感じた疑問を投げかける。
「護大、瘴気とは何と考えているか。如何に付き合い、倒そうとしているか。これをお答え願いたい」
『先に断っておくけど、護大や瘴気の本質や正体については、それほど強い興味を持ってないんだ』
 立て続けに「興味がない」と言われ、もうひとりの見届け人・草崎刃馬(iz0181)は思わず眉をひそめた。確かに天荒は、自分にとって都合の悪い話をはぐらかすつもりかもしれない。
 しかし、无は押し黙り、相手の話に耳を傾けた。
『護大はただただ邪魔な存在だ。僕の理想とする状況を破壊するのだからね。で、瘴気なんだけど、これは完全になくなることはないと思ってる』
 无は「了解した」と述べると、今まで部屋の隅でお行儀よく座っていた人妖がそっと立ち上がる。これはラ・オブリ・アビスで自分を模した人妖に化けた柚乃(ia0638)だ。
「天荒さんは、旧世界のことをどのくらい知ってるの?」
 相手は於裂狐のくだりで「誘われたら考えた」と言った以上、ある程度の知識は持ち合わせていると判断したが、彼女は「せっかくなので本人の口から答えてほしい」と伝えた。
『まぁ、他の大アヤカシと同じくらいは知ってるよ』
「じゃあ、天儀のことも同じくらい?」
『そうだね。知ってはいるけど、興味は薄いかな』
 柚乃は「わかりました」と言ってちょこんとお辞儀をすると、またその場に正座して話の行く末を見守った。

●共闘の可否
 質問が続いた後、しばし沈黙が流れた。
 その際、星芒(ib9755)が、その場にいる皆に重箱弁当と花茶「茉莉仙桃」を振る舞う。
「お腹空いてると、怒りっぽくなるしね☆」
 これに飛びついたのは、喪越(ia1670)と刃馬。ふたりは存分に食事を楽しむ。
「アミーゴ、その隅にある漬物はくれてやる! 代わりに俺は、このでっかい海老天はイタダクぜ!」
「てめぇ! 俺もそれ狙ってたのに! くっそー!」
 沈黙をかき消すというか、食い荒らすというか。ふたりのおかげで場の空気が和らいだ。

 星芒は硬磁だけでなく、幻影である天荒の前にも茶が置くが、そのタイミングでそっと質問する。
「あのさ。昔、天狗が八咫烏に出入りしてたのは何故? 八咫烏……不動寺の開祖の古代人は、どんな人だったの?」
 天荒はここで初めて、いつもの調子で笑う。
『随分と昔の話を知りたがるんだね。でも、僕はあまりよく知らないんだ。すまないね、フフフ……』
 今までとは違い、明らかにはぐらかされた感がプンプン匂う。これには星芒も腹を立て、プウと頬を膨らした。
 しかし喪越が咄嗟におにぎりを差し出し「スマイル、スマイルぅ〜!」とフォローしたかと思うと、突然「ハイハーイ!」と手を上げる。
「おお、ついでに聞いていいか? 天狗に美しいセニョリータはいますか? 未亡人可!」
 あまりにぶっ飛んだ質問に、さすがの天荒もプッと吹き出した。
『ハハッ、なんて逞しい知識欲、というべきなのかな? 君たちで言うところの男女という意味でなら、いるにはいるけど』
「よろしい、ならば戦争だ……お前ぇ等と手を組んで、護大派と」
 真顔で答える喪越を見て、リィムナ・ピサレット(ib5201)は盛大に茶を吹き出し、ケホンケホンと咳き込みながら「なしなし! 今のセリフなしっ!」と本気で大慌て。ローゼリア(ib5674)は「まさか天荒よりも信用できない人が身内にいるなんて……」と絶句。彼の傍で茶を啜っていた刃兼(ib7876)に至っては、そっと湯飲みを置き、太刀「鬼神大王」を抜きつつ立ち上がる。
「よし、喪越を斬って、今の発言はなかったことにしよう」
 ハッキリとした口調で言い切る刃兼に対し、喪越は必死の命乞いを始めた。
「待て、俺にとっては大事なことだったんだ! だから太刀は納めて、お願いプリーズ!」
 あまりの慌てっぷりを見せ付けられたせいか、刃兼も始末する気が失せたらしく、ひとまず口封じはされずに済んだ。しかし人妖の柚乃が助走たっぷりのドロップキックをブラザーの後頭部に食らわせ、これが「暴言の禊」という形となった。
「痛てぇ! 痛てぇーーー! ……ってな感じでよ、俺らは身内がなんかやらかしても、なんだかんだで助け合ったりしちゃうわけよ。天狗のブラザー、わかる?」
 喪越は頭を擦りながら、天荒と硬磁をまっすぐに見つめる。
「ヒトとアヤカシ、どっちが滅んでも成り立たねぇって意味じゃ、一番和平を話し合える連中じゃねぇかと思うんだけど、結局のところ殺し合いが前提にあるんだから、なんか頂けねぇな。愛がねぇのはノーサンキューなんだぜ」
『つまり、共に戦うからには助け合いが前提……ということかな?』
「そういうこった。いわば、ラブ・アンド・ピース。オーケー?」
 スイッチのオンオフが激しいが、ここからは喪越の提案を軸に、共闘の条件を探り合う展開となった。
 そう、ここからが本番である。さっきまで呆れていたローゼリアは気を取り直し、自分が考える条件を天狗側に突きつけた。
「協力というからには、どんなメリットを提供してくださるのかしら?」
 会議というからには対等でなくては。ローゼリアは天荒から視線を外さない。
「そちらが申し出てきた以上、先陣を切って出るくらいはして下さるのかしら?」
 喪越の提案よりも一段下がる形の提案だが、これには天狗の覚悟を推し量る意図があった。
 それを聞き、天荒が間を置かずに答える。
『開拓者にしてみれば、翼を持つ天狗の斥候であったり、状況を分析できる知恵であったり、一団の結束力が高いというは魅力的だろう? それが敵ではなく味方であれば、こんなに心強いことはない。そうは思わないかい?』
「この硬磁、共闘となれば喜んで先陣を切りましょうぞ」
 総大将はおろか、名代までもが二つ返事で要求を飲むという展開だが、貴族の娘は隙を見せない。
「単刀直入に。あなた方は開拓者に何をさせたいんですの?」
『前交渉でも伝えたけど、護大の思うがままに進む展開の阻止だよ』
 その言葉を直接聞き、星芒は首を傾げた。
「それ、あたしの感覚だと共闘の理由にならないんだよね〜。穂邑さんを介して見た護大は、水が上から下へ流れるような「現象」のようだったよ。これは武僧の発想かもしれないけど、護大は戦うよりも寄り添うべきモノだと思う」
『その現象が何を引き起こそうとしてるのかは、ちゃんと理解してるのかな?』
 そう、このままでは儀が落ちるのだ。アヤカシはともかく、ヒトは大いに困る。それは誰もが知るところだ。
「あたしは護大と直接接触したいの。だから共闘はさておき、停戦なら問題ないよ☆」
 星芒の言葉に、刃兼も頷く。
「俺もさすがに共闘は難しいと考えている。いつ背中を斬られるかわからない。それにお互い、不和や不信が生じるはずだ。足並みの揃わない軍ほど脆いものはない」
 そこまで言い切った後、刃兼は問う。
「もし仮に共闘が実現したとして、古代人や護大とどう戦うつもりなんだ?」
『旧世界の知識は人並みにあるからね。聞かれれば答えるし、何なら先導してもいい。でもそれだけ不安を口にするのなら、僕らが君たちの行軍に帯同する方が理想的じゃないかな?』
 行軍の主導権は開拓者側に譲るという案を提示すると、リィムナも「それはいいかもね♪」と声を躍らせる。
「基本、相互不干渉・不可侵の方がいいよね。ヒトの側に反発も不信感もあるんだから。無用な軋轢は生みたくないでしょ?」
『付かず離れずの状況でも、ヒトはそれを「共闘」と呼ぶかもしれないが、そういう細かいことを考えるのは好みじゃないんだ』
 少女の申し入れに、天荒もまんざらでもない表情を見せた。
 无も「星芒の言葉にもあったが、護大との接触を望むならば、行く手を阻む敵を倒すしかない」と分析。その際「天狗の力があれば有利なのは明白で、護大派の撃破で天荒黒蝕も利を得る」とし、この形での協力が望ましいと理解を示す。
 葎も「お互いに目立つ不利益はなく、休戦よりも実利を得られるかも」と応じるも、内心は天荒の狙いを探っていた。
(先陣も切る、主導権も渡す……そこまでして望むのは、混乱、懐柔、それとも漁夫の利?)
 誰もが同じようなことを考えていたその時、羅喉丸が口を開く。
「もっとも避けるべきは「天狗に誑かされた」との風聞が広がり、人間同士の争いになることだが、これは事前に全員が認識しておけば問題はないだろう」
 備えあれば憂いなし、それを実践すべしというのが彼の考えであった。
「その上で聞こう。共通の敵がいなくなった後、天狗はどう動く?」
 拳を重ねてきた羅喉丸は、静かに天荒黒蝕を見る。
 その答えを、相手は微笑みながら語った。
『目的を達成する前から未来を語るのは好きじゃないんだけど……まぁ、退屈しのぎに開拓者と戦うよ。護大をも倒す力を得た者なら、十二分に楽しめそうだし』
 昨日までの敵がしばし味方となり、いずれは好敵手となって争う。それが天荒黒蝕の望む未来であるという。
 しかしその真偽は、まだ誰にもわからない。まだ、誰にも……

●決断の時
 結論を導く時が迫ると、流騎が裁決を下した。
「お互いに利用する立場としての協力であれば共闘できる、という結論に至ったと判断する。天荒黒蝕、今後は硬磁を通じて指示を伝えるので、しばらく借りるぞ」
『構わないよ。硬磁、任せる』
 硬磁は膝を折り、臣下の礼を取る。
「ははっ。流騎殿、先々の準備のため、我が配下を呼び寄せたいのだが」
「わかった。刃馬を帯同させる故、後で段取りを伝えてほしい。よりよい関係であるための措置だ、気を悪くせんでくれ」
 流騎がそういうと、喪越は硬磁に対してピースサインを見せた。
「これも愛、ラブ・アンド・ピースだよ。わかんだろ、アミーゴ?」
「協力関係、だったな。しかしなおさら、初手で天狗が失態を晒すことは許されん。存分に注意しなければいかんな」
 武人たる硬磁は納得した表情で大きく頷くと、喪越は「もうちょっと軽いノリで行けねぇかなぁ〜」とボヤくと、リィムナも「うんうん」と同調。にこやかにピースサインを見せた。
「恐怖じゃなく、ラブを食べるようにすれば最高なんだけどね、天ちゃんも♪」
 天ちゃん呼ばわりされた天荒は、それは難しいとばかりに首を振った。
『次は戦場で会うことになるかな。よろしく頼むよ、開拓者の諸君』
 難儀な援軍の登場を手放しで喜べる訳もないが、参加した開拓者はこれを受け入れた。

 天荒黒蝕が率いる天狗らは、開拓者に協力すべく動き出した。