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■開拓者活動絵巻
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■オープニング本文 北面の片田舎に住む草崎兄弟は、人知れず厄介事を解決することを趣味にしていた。実はこのふたり、どちらもシノビである。近隣の者に頼まれれば大手を振って事件に挑み、よからぬ噂を小耳に挟めば黙って根源を絶つ。そんな毎日を過ごしていた。 村人の評判もよく、誰もが口を揃えて「仲のいい兄弟だ」と言う。兄の流騎はいつも品のいい服を着た長身の美形で思慮深く、弟の刃馬は恵まれた体躯を持つ武芸者であり、ふたりとも立派なサムライだと評判だった。特に刃馬が趣味で刀を集めていることは有名で、村人が勘違いするのも無理はない。本人も『忍術は兄上に任せ、自分は剣で助ける』と考えていることから、刃馬の正体を追求する者などいるはずもなかった。 一方、兄の流騎は世話好きで、村人から難題を持ちかけられることがしばしばある。彼は「これは兄弟の手に負えない」とわかれば、開拓者ギルドに依頼として提供することもあった。今回の依頼は、そのうちのひとつである。 数日前、兄弟は村の寄り合いに招かれた。ところが、場所は村はずれの小屋‥‥刃馬は「我々の素性が知れたか?」と察知して脇差を隠し持ち、道中は流騎を警備しながら向かう。そんな緊迫した空気も、現地に着いたらあっという間に吹き飛ばされた。 迎え入れられた部屋の中は薄暗いが、面子はみんな男でご陽気。大きな鍋を囲んで、車座になっている。すでに酒が入っているらしく、お椀を鳴らしてのドンチャン騒ぎ。刃馬は思わず「うほっ、いい鍋!」と声を弾ませる。それにしても女性がいないのは気になると、流騎は村人に聞いた。 「此度の趣向は‥‥どういったもので?」 「ああ、森に行った男衆がたんまりネギを取ってきたんでの! これを肴に一杯ってこってす! ひっく!」 流騎は面子を見渡すと、妻帯者が大勢いた。たまには男だけで飲むのもいいだろうという話を聞くと、兄弟は揃って警戒を解く。そして勧められるがまま酒を飲み、たらふくネギ鍋を食った。 「兄上、こいつはうまいぞ〜!」 刃馬の食いっぷりは村の衆にも受けがよく、一気食いなども披露して存分に場を盛り上げる。食べれば食べるほど、不思議と元気になっていく‥‥刃馬だけでなく、流騎もそれを感じていた。腹に気合いを入れるというが、まさにそんな感じである。 「普段からネギは食べてるはずだがなぁ‥‥」 小さな疑問は村人のお酌ですっかり流され、最終的にはふたりともベロンベロンになるまで宴を楽しんだ。 ところが翌朝になって、その男たちが絶叫した。刃馬の例外ではない。 「アッーーー! アッーーー!」 おかしな悲鳴を上げる弟をたしなめようと、流騎は眠い目をこすりながら起き上がる。が、その瞬間。 「アッーーーーー!」 兄上も絶叫する。お尻にごまかしようのない違和感。流騎はそーっとお尻に手を伸ばす。そ?ネデリケートな作業中、ケツを丸出しにした刃馬が乱入した。 「あ、あ、兄上! おっ、俺の、し、尻の付け根にネギ生えてないか?!」 流騎はなんとも言えぬ表情で「あ、ああ‥‥」と答えた。サルと同じく、尻の付け根からネギが伸びている。付け根が先っちょで、緑の葉が付け根。勇気を振り絞って自分のものを触ってみたが、弟より短めである気がする。 「私にも生えている。その点は心配するな。お前は食いすぎたから伸びているのか‥‥?」 「兄上っ! 兄上はいつもそんなことを言って、俺に心配させまいとするじゃないか! ちゃんと見せてくれよ、兄上!」 「ちょ、ちょ、おま、やめろって!」 力では弟が勝る。結局、ふたりとも下半身をあらわにして状況を確認するハメになった。 確かに刃馬の方が長く、ネギの尻尾に意志がない。ただ現時点で「成長していない」とは断言できないのが厳しかった。そして一番よろしくないことに、刃馬が気づいた。 「兄上‥‥これ、嫌な曲線を描いてるように思えるんだけどさ」 それを聞いた流騎はすべてを察し、熱くなった胸を押さえた。それは勘弁してほしい。それだけは勘弁してほしい。そう強く願った。 「ネギの根っこって、普段は暗いところに埋まってるよな。これ成長するとしたら、いったい尾の先はどこに行くんだろうな‥‥?」 流騎は「うーん」と言いながら、寝床に倒れた。このままだとお婿にいけない。そんな不安だろうか。草崎の屋敷はお通夜のように静まり返った。 ショックで起き上がれない流騎の代わりに、刃馬が宴に参加した村人からネギの出所を聞いた。彼らも一様にお尻を押さえている。話を聞けば、同じ人間が今日も朝早くからネギを取りに行ったらしいが、昨日の残りは別の者が保管しており、刃馬は事情を説明した上でそれを回収した。そんなことをしていると、採集に行った連中が顔を真っ青にして戻ってきた。 「ネギのアヤカシが‥‥! こーんなでっかいネギのアヤカシが出た!」 諸悪の根源はアヤカシ‥‥ならば、この珍妙な事態も説明がつく。刃馬は詳しく話を聞きだすと、屋敷に戻って兄を叩き起こし、すぐさま開拓者ギルドに依頼するよう迫った。アヤカシ産のネギを食ったからご覧の有様だと。倒せば治るはずだ、そんなもんだと兄を励ました。流騎もアヤカシ絡みと知ると、多少は元気も出たらしい。彼は弟の進言を素直に聞き、村を救う者たちを募らんと立ち上がった。 こうして迎えた討伐の前夜。 ささやかながら開拓者たちをもてなそうと、この日は流騎が腕によりをかけて料理を振る舞う。刃馬は豪快に鍋を作るのを好むが、兄はお膳で出すのが好きだった。お尻のネギを気にしつつ、あれこれ考えてるうちに一品足らないことに気づく。村人に分けてもらうのもいいが、客人を待たせるのは心苦しい。彼は食材を探してみた。すると、弟が隠していたネギを見つける。 「まったく‥‥刃馬は昔から隠すのが好きだな。食材まで隠す必要はあるまい」 流騎はこれを手早く切って串に刺し、塩を振ってじんわりと焼く。質素な一品ではあるが、これを添えればお膳が賑わう。満足げな笑みを浮かべながら、彼はみんなの前にお膳を持っていった。 最後のお膳を持っていく時、ちょうど刃馬とすれ違った。弟は「うまそうだな〜」と言うと、兄は「これはお前の分だ」と答える。しかし刃馬は「ん?」と声を上げた。 「兄上‥‥ネギは八百屋で買ってきたんだろうな? 俺は見たくもないから買ってないんだが‥‥」 「私もネギは買っておらん」 その一言に、刃馬は色を失った。家にあるネギといえば、問題のネギしかない。それも巧妙に隠しておいたのに、このバカ兄貴ときたら‥‥弟はキレた。 「それはケツに生えるネギだ! ちょっと考えたらわかるだろう! なんでそんなマヌケなことするんだ!」 「なっ、なんだと! きゃ、客人が危ない‥‥!」 草崎兄弟は慌てて客間に入り、お膳に手をつけぬよう促すが‥‥はたしてネギ尻尾のお仲間が増えてしまったのだろうか?! |
■参加者一覧
荒屋敷(ia3801)
17歳・男・サ
景倉 恭冶(ia6030)
20歳・男・サ
エルディン・バウアー(ib0066)
28歳・男・魔
マテーリャ・オスキュラ(ib0070)
16歳・男・魔
高峰 玖郎(ib3173)
19歳・男・弓
ウィリアム・ハルゼー(ib4087)
14歳・男・陰
洸 桃蓮(ib5176)
18歳・女・弓
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔 |
■リプレイ本文 ●新たなる被害者の反応 客間に入った草崎兄弟は、それぞれのお膳を確認する。しかし時すでに遅し。全員がネギ串を一口は食べており、めでたく同類が増えることになった。 刃馬の視線は自然と、ネギ串を平らげた荒屋敷(ia3801)に向けられる。あれはいきなり長いのが出るぞ‥‥彼は震えた。そんな青ざめた顔をツマミとばかりに、寝転がって楊枝で歯をシーハーさせているリィムナ・ピサレット(ib5201)が「いったいどうしたのー?」と声をかける。ここは自分がすると、流騎が前に出て「そのネギ串は弟が保管していたアヤカシのネギでした」と自供した。 これを境に、客間は大混乱に陥った。明日の朝には、必ず尻尾が生えてしまう。 ウィリアム・ハルゼー(ib4087)は「ようやく普通の依頼が受けられましたよ‥‥」とボヤきながらネギを食ったのに。マテーリャ・オスキュラ(ib0070)は残った串を躊躇なく口に運び、「なるほど、これが問題の‥‥」と改めて味を確認した。リィムナはウィリアム姉ちゃんの手を取って「ネギだっ♪ ネギだっ♪」と嬉しそうに踊り、底抜けの明るさを振りまく。 「一晩寝たら、生えるんだよね? あ〜っ、待ちきれない! みんなお休みー!」 この後に起こる恐怖をあっけらかんと言い放ち、少女は用意された寝所にさっさと引っ込む。同じ女性でも、洸 桃蓮(ib5176)の顔色はかなり悪い。今さら慰めるのもなんだが、とりあえず刃馬が声をかける。 「い、一応な、女が食ってどうなるかってのはわかってないから。もしかしたら生えないかも‥‥」 それは「裏を返せば、男は絶対に生える」ことを意味している。それを察知した荒屋敷は刃馬の背後に立ち、一気に袴をずり下ろすとネギ尻尾を乱暴につかんだ! 「俺にもこんなん生えるってことだろ、明日にはよーーー!」 「あうっ! 痛い痛い! 乱暴にするんじゃないっ! 俺のは兄上より長いんだぞ!」 日を置けばこんなにも長くなる‥‥桃蓮はもちろん、荒屋敷も色を失う。そんな調子の仲間を見て、マテーリャの小さく笑った。この騒動、まだ始まったばかりである。 そして翌朝。 「アッーーー!」「アッーーー!」「アッーーー!」 無意味に、そして不規則に轟く恐怖の悲鳴。景倉 恭冶(ia6030)は「お婿にいけない‥‥」と肩を落とし、エルディン・バウアー(ib0066)は「私の艶やかで美しく形のいいお尻に尻尾がーーー!」と叫び、高峰 玖郎(ib3173)は何事もなかったかのように尻尾を服に押し込む。 残念ながら、女性陣にも尻尾が生えた。それは桃蓮の赤面を見ればわかるというか、リィムナのお尻を見ればわかるというか‥‥それよりも衝撃的だったのは、ウィリアムの慌てっぷりだった。 「ひゃっ! お尻からネギがぁっ! というかっ! ショーツがずれるぅ! はわわっ! 下着見ちゃ駄目ですー! 神父様、抜いてくださいー!」 名指しにされたエルディンは最初に何をすればいいか悩んだが、とりあえず要求どおり尻尾を抜いてみる。ところが少女‥‥いや、少年のそれを触ると、色気のある声を上げるもんだから、周囲の視線がなんとも痛い。昨日、刃馬が痛がっていたところを見ると、くっついている感はあるようだ。ただ一気に引き抜くには勇気がいるし、何よりも神父が男の娘とキャッキャウフフしてるのも画的に悪いし‥‥ということで、早々に手を離して結論を出す。 「聖職者として人間として、何だかイケないことをしているような気分でしたが‥‥確実な手段としては、問題のアヤカシを倒すのが一番でしょう」 それを聞いた血気盛んな連中が「待ってました!」とばかりに出発の準備を始める。恭冶や玖郎は動揺しつつも、きっちり退治してやろうと意気投合。そこに最大の被害者である桃蓮も加わり、静かに「‥‥アヤカシヲウチマス」と決意表明をする。草崎兄弟は「がんばって〜」と小さく声援を送り、目立たないように開拓者たちを見送った。 ●尻尾のパレード お婿やお嫁に行けないと心配する面子が殺気を放つ中、尻尾が生えて楽しかったり、ヤケクソになった面子は、村を出発するまでに一暴れする。 荒屋敷はふんどし一丁という男らしい姿でネギの尻尾を見せながら、村人に「珍しい獣人様のお通りだ!」とアピール。長柄斧を振り回しながら、悪者のように立ち振る舞う。ところが、そんな彼の回りをリィムナがトコトコ走って「生えた生えたよ、ネギ! 見て見て見てー!」と大はしゃぎするもんだから、肝心の怖さがまったく伝わらなかった。 挙句の果てには、村の男衆は「ああ、あのお方も‥‥」と同情の目で、女たちは「隠れて宴会したバチが当たったんだよ」と白けた目で見るだけ。荒屋敷はそれを察すると、「あー! それにしてもまさかあの兄弟にネギ食わされるたぁなぁ、とんだ厄介者じゃねーかよ!」と大声で捨て台詞を吐き、必死で憂さを晴らした。その部分だけは、恭冶や玖郎も「うんうん」と頷いて同意する。 神父のエルディンは同じ境遇の村人に向かって、「アヤカシに困っている人を助けに参りました」ときらきらしながら自己紹介。ズボンから顔を覗かせるネギを動かし、安心だけでなく愛嬌も振りまいた。 おかげで子どもたちには大人気だったが、大人は神父を信用していいんだかわからず、とりあえず「よろしくお願いしますだ」と頭を下げる。 その様子を逐一、マテーリャが研究の一環とばかりにメモを取っていた。 村を出ると、開拓者たちはすっかり戦闘モード。 「アヤカシをマッサツシマス!」 常におっかないセリフを口にする桃蓮を先頭に、恭冶や玖郎が続く。この辺は「ネギ尻尾には触るな!」という禍々しいまでのオーラを放つことで、自分をガードしていた。それはリィムナでさえ手が出せないほど。彼女らはいち早く敵を発見せんと、鋭い視線で森を探索する。 すると、目の前に緑の腕をにょろにょろと動かす巨大なネギのアヤカシが姿を現した! 「ネギギギーーー!」 あんまり怖くない威嚇だったからか、ウィリアムが前に出て物申す。 「いたいけな乙女心を傷つけたアヤネギ、許すわけにはいきません! このボクの術で、瘴気に返して差し上げますっ」 これまたツッコミどころ満載のセリフだが、クールを装う男性陣も武器を構え、「俺も俺も」と続く。マテーリャは、ウィリアムの名付けた略称『アヤネギ』の生態を存分に観察した。 「頭の先と腕らしき部分が緑、あとは白。瞳は紫に輝き、根がタコの触手のようになっており、それを操ることで移動する。アヤネギと対面しても、ネギの尻尾に変化なし‥‥」 その分析を聞いた恭冶は尻に手をやり、「確かにそうだ」と頷く。戦闘に不都合がないと知ると、さっそく鬼神丸を抜いて攻撃した。 「あんたのおかげで、腹ん中がネギでパンパンだぜ!」 大きく振りかぶった一撃は、アヤネギの右腕の先を斬る。 恭冶に続けとばかりに、荒屋敷も憂さ晴らしに参加。ふんどし姿のいい男がウホッと突進し、長柄斧を豪快に振り下ろす。緑の腕を切られ、痛みに悶えるアヤネギ。荒屋敷は不敵な笑みでそれを一瞥すると、不意にくしゃみをした。 「ぶぇっくし! 戦ってんのに下半身がやけに寒いぜ‥‥」 このふたりと同じく、みんなも個人的な事情を最優先し、手加減なしの立ち振る舞いを披露した。 神父は前衛に立つふたりに「精霊よ、この者たちに祝福を与えたまえ」と呟きながらアクセラレートを施し、マテーリャもメモを懐に収めるとフローズを使って行動を鈍化させる。 傷ついた乙女心を癒すべく、ウィリアムは斬撃符で触手のような足を切り裂き、リィムナは同じ魔術師のマテーリャの動きに倣いながらサンダーを2回繰り出し、アヤネギを存分に痛めつけた。 「悲鳴も絶叫も聞かん! 容赦はしない!」 玖郎はそう吠えると、鷲の目を駆使し、華妖弓から矢を放つ。凍てつくほどの殺気を宿した矢はまっすぐに胴体を貫き、アヤネギに大ダメージを与えた。 現時点でもっとも怖いであろう桃蓮も緋凰を構え、敵の頭を狙って攻撃を加える。それが新しい髪の毛のように突き刺さると、「ネギャ!」と珍妙な声を上げた。しかし、乙女がこれで微笑むはずがない。桃蓮はふざけた態度のアヤネギを見て「絶対に‥‥許さない!」と、さらに腹を立てた。 ここまでやられ放題のアヤネギだが、身の丈が6尺もあろうかという巨躯を活かして、荒屋敷と恭冶に反撃開始。 両手に備わる緑色の鞭でお仕置きビンタを繰り出す。しかし神父の加護とマテーリャのフォローもあり、これを難なく回避。功労者のマテーリャは敵の攻撃方法を記すと、いそいそとメモを片付けた。 ●恐怖の根絶! 開拓者たちのお仕置きタイムは続く。まずはリィムナがサンダーを放ち、ウィリアムは斬撃符で攻撃を仕掛けた。 「KILLアヤネギ、KILLアヤネギ、KILLMOREアヤネギ‥‥」 攻撃が当たるたびに楽しげな笑顔を浮かべる少女と、どんどん目が据わっていく男の娘。そのくらい、戦いの場は混沌としている。 マテーリャのフローズの効果がまだ持続しているが、ここは玖郎と桃蓮に一気呵成の攻撃を期待し、あえて連続でフローズを発動。再びアヤネギの動きを鈍くさせるとともにダメージを重ねる。 それを見たふたりの射手はチャンスとばかりに動き、強射「朔月」で競演。桃蓮は頭、玖郎は胴にそれぞれ命中させ、今度こそおふざけなしの悲鳴を敵から引き出す。 「ネギギ! ネネネギ‥‥!」 エルディン神父はこの流れに乗り、アヤネギにホーリーアローをぶつける。 「いくら美味しそうでも、人々を困らせるのはいけません。神に代わって成敗です。ホーリーアロー! アヤカシを射抜け!」 瘴気を滅する神聖なる矢も命中し、いよいよアヤネギも肩で息をし始めた。決着の時は近い。恭冶はもう一振りの鬼神丸を抜きながら叫んだ。 「荒屋敷、そろそろやね!」 「そうみたいだな! トドメと行くかぁ!」 荒屋敷は同調し、長柄斧を構える。そして力を十分に溜め、地断撃を繰り出す。地面を穿つほどの一撃は敵を圧倒した! 「地面が好きなら、地面ごとぶっ飛ばしてやるよ。うらぁああああ!!」 「ネギュアァァ!」 巻き上がる砂利をもろともせず、恭冶は前進。弐連撃で、アヤネギの体を切り裂く! 「どうだ、俺の刀の味はーーーっ!」 「ネギャアアーーーーー!」 短くなった体はどんどん瘴気となって消えていくが、大きく残った胴体はまだ消えない。玖郎はそれを良しとせず、鷲の目を駆使しての射撃を繰り出す。 「早く消えろ‥‥!」 アヤネギを退治したのに安心感を欠片も見せず、冷酷な一撃を放つ‥‥それだけ彼の混乱も、頂点に達しているということか。すべてが消え失せると同時に、全員の体からネギの尻尾がきれいさっぱりなくなった。リィムナは尻尾が消えると「あ‥‥!」と残念そうな声を出す。その声と同時に各々がお尻に手をあて、違和感がなくなったのを確認。「ふうっ」と息をついて安心したり、「やれやれ」と疲れた表情を覗かせたりする。これで草崎兄弟はもちろん、村の男衆も救われたはずだ。 大団円となりつつあるメンバーたち。それに水を差したのが、満足な研究成果を手にしたマテーリャである。彼はこの事件を、こう締め括った。 「今回は撃破できましたが、あれが最後のネギとは思えません。いつかきっと、第二、第三のネギが‥‥」 開拓者の顔色が、また悪くなった。 あれは「最後のネギ」というか、むしろ「最初のネギ」のような気がしてならない。第二、第三のネギが、それもさらに厄介な力を帯びて生まれる可能性もある。 なんてこと言いやがる、この魔術師‥‥マテーリャは痛い視線を存分に感じながら、含み笑いをしながら消え去ったアヤネギのいた地面をしばし見つめた。 ●混乱の宴? 一方、村では少年の不安な予言を聞いてないので、素直に事件解決を喜んでいた。今夜は仲直りも兼ねて、女や子どもも参加しての宴を催すという。その主役は、もちろん開拓者たちだ。 弟の刃馬は「兄上に音頭を取らせたから、ぜひ付き合ってくれ」と耳打ちし、兄の流騎も「私の不注意で申し訳ない」と改めて謝罪する。袴を履いた荒屋敷は「頭を下げられては仕方ないな!」と、みんなで参加することを決めた。 流騎は夜までに衣類などに開けたネギの穴を修繕する。神父はようやく神々しい威厳を復活できたと大満足。玖郎もやっとのことで冷静さを取り戻す。 リィムナは刃馬に「おねしょの布団を目立たないところで干して」とこっそり頼んでいた。刃馬は納得の表情を浮かべながら「わかったよ」と頷く。 そして夜も更け、広場にて宴が始まった。大勢で鍋を囲み、なんとも賑やかな雰囲気に包まれる。 それでも桃蓮は元気が出なかった。それを察したウィリアムがそっと駆け寄って、そっと励ます。 「だ、大丈夫ですよ、桃蓮さん。あの、犬にでも噛まれたと思って‥‥」 あまりにも残念な表現を持ち出され、桃蓮は顔を真っ赤にして反論する。いや、ここで反論せねば取り返しのつかないことになる‥‥彼女は必死になった。 「き、消えたんですっ! ネギの尻尾はきれいさっぱり消えたんですっ! これはノーカウントです! こ、今回は何もありませんでしたっ!」 その騒ぎを聞きつけてやってきた恭冶と荒屋敷も、桃蓮の論に理解を示す。 「ま、賛成せざるを得んってやつやね。これでバツがつくのは勘弁!」 「俺は‥‥まぁ、獣人の気持ちがわかったからいいかなぁ」 そんなやり取りをしていると、罪滅ぼしのために給仕をする流騎がいそいそとやってきて、ある食材を鍋に入れようとするではないか。その様子を目撃した者は、みんな息を飲んだ。 「さぁさ、村で取れた新鮮なネギをご堪能あれ‥‥」 さすがの荒屋敷も、思わず凍りついた。 その刹那、桃蓮は今にも泣き出しそうな表情で「それだけはやめて!」と右腕に抱きつき、ネギのシュートを阻止する。いつの間にか玖郎も姿を現し、流騎の左腕を捕まえ、真顔で「いけません」と何度も首を振った。 草崎の屋敷で保管していた問題のネギは、アヤカシと同じく瘴気となって消えている。だからこれに問題がないのは明白だが、もはやトラウマとなっている者にとっては毒以外の何でもない。 この騒ぎを察してか、ふらりとエルディンがやってくる。反対派のふたりは「ネギを入れるのをやめさせて!」と訴えるが、神父の反応は意外なものだった。 「本物のネギ料理が堪能できるというのに‥‥ねぇ、流騎殿?」 そういうと給仕からネギをもらい、それを手早く鍋に入れてしまった。宴にふさわしくない男女の絶叫が、村中に響き渡る。 どうやらネギ騒動は、まだ終わっていなかったようだ。マテーリャの予言は当たっていた、と言わざるを得ない。ネギの悪夢は始まったばかり‥‥なのだろうか? 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