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■オープニング本文 ●王穴の山喰 「コザカシイ人間……絶望はオワラヌ……ほろぼセ……」 苛立った山喰が眷属に対し、憤怒と檄を飛ばす。それを受けて、側近の動きも慌しくなった。彼らは同属に念波を送り、一塊になって巣から出撃する。蟻の王の命令は絶対だ。迫り来る開拓者に挑み、この住処への侵入を阻み続けていた。 しかし、いかに山喰いえども、この戦況だけは思い通りにできない。この巣に戻ってくる眷族はいずれも傷つき、その数も大幅に減らしつつあった。戦力の増強はいくらかできるが、劣勢の時に用いる策ではなく、よほどのきっかけがなければ使えない。 「ギギギ……ギギギ……」 山喰が放つ奇声は、怨嗟か歯軋りか。 蟻の王としての威厳が冷静な思考をするように囁くが、目前に広がる光景は紛うことなき劣勢。いかに山喰が鎮座する大洞穴・王穴であろうとも、いずれ危機に晒されるやもしれぬ。そうなれば…… 「喰らい進メ……我ガ眷属……ギギギ……」 蟻の脳裏に、山喰の執念が滲み始める。それを表すかのように、彼らの奇怪に動くその口は、さらにせわしなく動き出した。 ●決断の時 山喰との戦闘が開始して十日余。大伴 定家(iz0038)は、その戦況をじっと見守っていた。 村人の救出に加え、眷族の撃破も進み、ここまでは開拓者に有利な展開だが、その一方で決め手を得るに至っていない。そう、山喰の居所を突き止めねば、次の手に踏み切れないのだ。 「ふむ、消耗戦になるのは避けたい。ここらで何かあれば、手の打ちようもあるのだが……」 ここ数日、どんどん書き足されていく地下空洞の進入路を示した地図を見ながら、そのことばかりを考えていた。 そんなある日の朝、待ちに待った吉報が届く。 「大伴翁! 山喰が移動に使うであろう大きな空洞を発見したとの報が入りましたぞ!」 定家はこれを聞くや、急いで地図の前へ向かい、斥候に詳細を語らせた。 これまでの地下通路は幅が狭く、配下が餌探しに利用しているものがほとんどだったが、調査を重ねているうちに巨大な空洞を発見したという。 「そこは陸地と変わらぬほどの広さを誇り、またそこから枝のように通路が伸びております」 その通路のいくつかに、巨大な通路が混じっているという。おそらくこの先に山喰がいるはずだ。定家は「なるほど」と言い、おもむろに腕を組む。部下は斥候に話を聞きながら、例の地図にその部分を書き足していく。 「これは好機と思われますが、いかがなさいましょう?」 部下が慎重な言い回しをするのには、理由がある。ここは冥越なる敵地、しかも地下。ここへ本格的に攻め入るのは、完全に相手の土俵の上に乗ることを意味する。いかに開拓者がめざましい活躍をしているとはいえ、他方の作戦に参加したりと連戦が続いており、そろそろ疲労が溜まってくる頃だ。 定家は一計を閃き、静かに「うむ」と頷いた。 「山喰は自身が不利だと悟り、第二陣を繰り出してきた。ということは、こちらの出方を読めるのだろう。ならば、あやつを土俵から下ろす方がいいやもしれぬな」 ここは大アヤカシの討伐を目標にせず、あくまで「山喰を住処から追い出すこと」を目指す。敵を巣から追い出せば地の利を活かせなくなるので、そうなったところを全力で叩く。定家の策はこういった内容であった。 「そのためには、山喰に撤退を強く意識させねばなりませんな。これは難しいですぞ」 思わず、部下が本音を漏らす。さすがにこれは容易なことではない。定家も渋い表情を浮かべた。 「うむ。一部の洞穴を爆破し、敵に『反撃が困難である』と思わせる必要があるかの。それに加え、山喰を住処に置いたまま、眷属や側近を片付けていければ……」 餌は取れないわ、開拓者は迫ってくるわ、おまけに移動に困難が生じるとあっては、さしもの山喰も撤退を意識するはずだ。 定家は続ける。 「相手は慌てて逃げる性分でないやもしれぬが、どこぞにある巣からアヤカシを起こす暇を与えなければ、結果は最良となろう」 とはいえ、少数の偵察で蟻の巣を見つけてしまうのは、山喰との対峙してしまうのと同じくらい危険だ。これは山喰が逃亡した後に巣を探し、一気に片付ける方がいい。定家は部下に「くれぐれも開拓者には気をつけるように伝えよ」と念を押す。 「我々の目指す場所は、もっと先にある。足踏みした時間を後悔するくらいであれば、ここは開拓者に賭けようぞ」 定家は開拓者の力を借りて、山喰の追い出し作戦を実行に移すことを決めた。 山喰討伐作戦は、いよいよ重要な局面を迎えた。 |
■参加者一覧 / 静月千歳(ia0048) / 羅喉丸(ia0347) / 柚乃(ia0638) / 阿弥香(ia0851) / 星風 珠光(ia2391) / メグレズ・ファウンテン(ia9696) / 不破 颯(ib0495) / 无(ib1198) / エラト(ib5623) / カルフ(ib9316) / 中書令(ib9408) / 草薙 早矢(ic0072) / 麗空(ic0129) / 結咲(ic0181) / 篠目つぼみ(ic0839) / 隗厳(ic1208) |
■リプレイ本文 ●各班の動向 王穴へと導く穴を潜ると、そこはまるで別世界。地底とは思えぬ大空洞が広がる。 百戦錬磨の開拓者も、さすがに息を呑んだ。よくもこんなデカいものを作ってくれたもんだとばかりに、羅喉丸(ia0347)が天井を見やる。 「あれから3年か。遂にここまで来たか」 今はまだ静寂を守っているが、ここは間違いなく山喰の本拠地。ならば、巣の破壊もまた一興か。彼は手に持った箱を静かに下ろす。中身は爆破専用の焙烙玉や炸裂玉でギッシリだ。それとまったく同じ荷物を、草崎流騎(iz0180)も運んでいる。 「地図の完成度は7割と言ったところ。どうするかが肝心ですね」 爆破班の活躍は、他の班の展開に直結する。流騎の表情も自然と硬くなった。 それを聞いた羅喉丸も「心配事は多い」とし、言葉を続ける。 「山喰が逃げるなら冥越だろうが、大伴老には万が一に備えてほしいと依頼してある」 自分たちの知らない脱出路が、もしかしたら他国に伸びている可能性もある。それを見込んでの提案だ。流騎は「賢明な判断だと思います」と頷いた。 同じく爆破を担う无(ib1198)は、懐にいる尾無狐に「穴熊ならぬ穴蟻崩しか」と独りごちる。 「それはともかく。王穴を不安定にするような爆破も行いたいですね」 山喰には「安全な場所などない」と認識させることも必要だ……无の言葉に、羅喉丸も頷く。 「坑道を爆破して塞いでいき、王穴を孤立させ、拠点として使えなくすることで、この場を放棄させる」 流騎も「なるほど」と言いながら、爆破用の荷物をたっぷり詰めた風呂敷を背負う。 「誘引する側は、塞がれた道に進まないように気をつけてくれ」 羅喉丸は、誘引班の【旋】隊に参加するシノビの隗厳(ic1208)に伝えた。彼女は今、仲間が用意した空気袋を背負子に括りつけている。 「わかりました。状況は逐次、目と耳で確認します」 暗視と超越聴覚を駆使するのならば、特に心配はない。 「草崎殿、この地にも瘴気が漂っている。よって、ある程度の時間が経過した時点で、成果に関わらず撤退した方がいいと思うが……」 皆が疲弊したところに山喰でも招こうものなら、それこそ大惨事となる。羅喉丸の提案に、排除班の草崎刃馬(iz0181)も「わかったぜ」と同意した。 「ま、他の依頼で怪我してる者もいるから、慎重に行くぜ」 刃馬は最後尾に控え、柚乃(ia0638)と星風 珠光(ia2391)を守りながら進む手はずとなっている。そんな彼を守ろうとするのが、結咲(ic0181)であった。 「クサザキ、さん、居るん、だね……何か、あったら、護る、よ……約束、だから」 「今回は俺よりも、こちらのお嬢ちゃんをメインに頼むぜ。無理を押して来てもらったのに、また怪我させられねぇからよ」 笑って話す刃馬に、真剣な表情で頷く結咲。このやり取りを見た柚乃は「すみません」と詫びた。 「柚乃は後方から支援します」 「ボクは柚乃君に回復してもらって、少しよくなったけど……刃馬君の後ろでがんばるよ」 柚乃も珠光も自分なりの準備を整えているところに、元気いっぱいの麗空(ic0129)がやってきた。 「おにーさん、ばんはー」 まずは顔馴染みの刃馬に手を振ってご挨拶。刃馬も「おう!」と元気に返事する。 「つぎは、ナメクジじゃなくて、アリ〜?」 刃馬の仕事はどこか奇妙な形をしたアヤカシの討伐ばかり。どうやら本人も気にしていたようで、「そ、そうだな」と思わず苦笑いした。 「たぶん、いっぱいでるから、すぐにげてね〜?」 「おう、逃げ損ねるなんてかっこ悪りぃ真似はしないようにするぜ!」 それぞれの作戦が定まったところで、いよいよ王穴への突入が開始された。 ●迫り来る群れ 先陣は排除班。まずは爆破を担う3人を奥へ導くため、周辺を敵を掃除する。 とはいえ、まだ本拠地からは遠く、出てくるのは軍隊蟻の群れだ。そんな彼らのお出迎えを、不破 颯(ib0495)が担う。 「とうとうここまで来たんだねぇ。殲滅役だから、派手にいこうかぁ」 弓「射戟」を構え、六節を使用。さらに無月で力を溜め、敵を存分に引きつけた後、バーストアローで敵を一閃。矢の通った先に瘴気の煙が立ち昇る。 「爆破班、頼んだよぉ」 「この辺は頼みましたよ」 无たちは開かれた道を猛然と進む。それをアシストするかのように、麗空も瞬風波で蟻を蹴散らす。 「アリがいっぱいだね〜」 振りかぶった棍を構え直し、猛然と押し寄せる軍隊蟻を始末していく。その頭を二刀を構えた結咲が飛び越え、敵の輪の中に飛び込んだと同時に切り刻む。 「ボクと、麗空が、相手、だよ……」 この隙を突いて、今度は誘引班が全力で移動開始。迫る敵を退けつつ、爆破班の後を追った。 初手は取ったものの、いかんせん敵の数が多い。麗空と結咲は一瞬の隙で誘引液を服に受けてしまった。こうなると軍隊蟻は地の果てまで追ってくる。 だが、その上を行くのが開拓者。この状況、裏を返せば「敵の動きを操れる」ということ。幼子の動きを読んだ上で、再び颯はバーストアローで敵を消し飛ばす。 「悲しい性だねぇ」 ここで篠目つぼみ(ic0839)が弓「弦月」でもって、鉄槌の矢を放つ。彼女は罪なき村人を誘拐していた山喰一派のやり口に腹を立てていた。 「一匹たりとも逃がしません!」 可憐な姿で黙々と矢を放つその姿は覚悟に満ちており、強い気迫を感じさせる。それを見た篠崎早矢(ic0072)は「なかなかの腕前」と鼓舞し、自らはもっとも奥に控える蟻を丁寧に貫いていく。味方の間を抜く時は横に構えて撃ち、後方からでも多彩な援護を繰り出す。 「ここが作戦の基点となる。まずは大掃除ですね」 ある程度の安全が確保されたと見るや、珠光も火炎獣でフォロー。麗空に迫る蟻をことごとく燃やし尽くす。 「ビックリしたとこ、ばーん!」 動きが一瞬だけ止まったのを見逃さず、麗空は絡踊三操を振り下ろしたり、横から薙いだりと盛大に暴れる。敵の数が減ったと見るや、結咲が天狗駆を用い、壁を走って敵を撹乱。これを追わせる。 「逃さないよ!」 珠光は作られた列に向かって再び火炎獣を放てば、もはや勝負あり。残った敵は反転した結咲と後ろから追ってきた麗空により、すべて消滅させられた。 「ふー。やったね、こーもり!」 まずは緒戦を飾り、ホッと一息の開拓者たちであった。 ●静寂と爆音 誘引隊はサムライのメグレズ・ファウンテン(ia9696)を先頭に立ち止まった。地図を見ると、そろそろ敵の警備が強くなる頃である。 すぐ後ろを歩く隗厳の背負子にはエラト(ib5623)が乗っており、ここで精霊の聖歌を歌っていた。すでにトランス状態に入っているので、ずり落ちないように荒縄でキッチリ括ってある。エラトのおかげで瘴気感染は和らぎ、任務を果たすのに安全な状況になっていたが、演奏者を発動地点から大きく移動させてしまうと、スキルが途切れて効果が得られなくなってしまう。そのため、隗厳は彼女を背負ったまま、できるだけその場を動かぬように努めた。しかし誘引という性質上、移動は不可欠なので、周囲の判断で移動することも視野に入れている。最初からやりなおしになるが、彼の練力はそれを見越したように豊富で、長期戦にならなければ問題は無いだろう。 周辺を見渡すための明かりは、カルフ(ib9316)のマシャエライトで補われ、道の先は隗厳の暗視と超越聴覚で確認。どこからか空気の入り込む音が聞こえるので、用意した袋はまだ使わずに済んでいる。 「はてさて、今回は何が出ますでしょうか」 不意に隗厳がそう呟き、鋼線「黒閃」を握ると、全員が身構える。暗闇の奥から出てきたのは、鉄錆蟲と奏蟲の混成軍。あちらも侵入者を探し求めていたようだ。 「ここは細い枝道に当たります。十分に誘き寄せましょう」 後方に控えていた静月千歳(ia0048)がとっさの判断で誘引の方法を決め、先陣を切る鉄錆蟲らに向かって氷龍を放つ。 先手を取った誘引班はそれぞれの持ち場につき、メグレズは咆哮を使って敵を引きつける。 「我らの生、その身をもって受け止めるがいい」 神槍「グングニル」とアイギスシールドを構え、山岳陣で防御面を強化。さらに鬼切を用い、先頭に立つ鉄錆蟲との早期決着を狙う。この敵の脅威は、装備を腐食させる攻撃を放つ点。これに付き合っていては、今後の誘引を担えなくなる。初手で千歳が放った氷龍が効いたこともあり、まずは安全に1匹を撃破した。 その後はカルフがアイシスケイラルを飛ばし、面倒な蟲の装甲を砕きつつ攻撃。中書令(ib9408)は琵琶「青山」で魂よ原初に還れを奏で、手負いの蟲を音もなく消し去った。 「まだまだ終わりませんよ」 続いて中書令は、対滅の共鳴を奏で始める。すると後方にいた奏蟲が首を傾げるがごとき動きを見せた。自分は蟲たちの瘴気を活性化させる演奏をしていたはずなのに、なぜか突然、音そのものが消えてしまったではないか。これにはさすがに戸惑いを隠せない。 そんな空間で利するのは、隗厳の鋼線。音もなく飛び、瞬時に蟲を絡め取ったところをメグレズに貫かせる。 「油断している暇はありませんよ」 メグレズは咆哮で寄ってきた敵の数も減ると知るや、一気に勝負を決めるべく前へ出た。後方支援も万全の体制でこれをサポートし、まずは精鋭の一角を削り取る。 そんな誘引班の活躍を見ながら、先ほど敵集団と遭遇した地点に无たちが立っていた。 爆破で崩落させる箇所の奥側は天井が不安定になるように仕掛け、近づいた敵を警戒させるように仕向ける。その工作は流騎が行い、无は着火の準備をした。 「最初ですから、天井の緩まるところに爆竹も仕込んでおきましょう」 「落下する天井に近づいて、崩落に巻き込まれてくれるといいんですがね」 无は「さすがにそれは欲張りですね」と素直な感想を口にすると、流騎も「やっぱりそうですか?」と微笑んだ。 「誘引班がキッチリ叩いた後だ。この道を潰すことは痛手になるだろう」 羅喉丸の言葉に、ふたりは同意する。 「さて、そろそろやりましょうか。山喰には焦ってもらわないといけませんし」 そんな彼らの意図は爆破の音にかき消され、土煙の中に消えていった。 ●不利を悟るモノ 王穴の爆破が本格的に開始されると、敵が通路を右往左往し始めた。 この状況を山喰も察知していたが、場所によっては部隊が寸断された箇所もあり、一部で自分の指示が及ばなくなる事態が発生。これには地団駄を踏むしかない。 「グギギギ……」 開拓者の意図通り、山喰の脳裏には「撤退」の文字がよぎり始めていた。しかし部下が彷徨ううちに大軍と化し、それが開拓者にぶつかれば逆転も可能……まだそういう思考をする余裕もあった。 「喰らい進メ……我ガ眷属……ギギギ……」 呪文のように繰り返す山喰の言葉は、今や懇願に近い響きを奏でていた。 ●封鎖の弊害 そんな山喰の読み通り、排除班の元に武装蟻と大毒蛾の混成軍が殺到した。作戦開始からすでに数刻が経過、ここからが山場である。 これまでは地面を這う敵しか出なかったが、大毒蛾は宙を舞い、毒鱗粉を撒き散らすという難敵だ。しかし、ここは弓部隊が活躍する。 「お近づきにはなりたくありませんねっとぉ」 颯は素早く矢を番え、迫る敵を遠ざけるかのように射つ。早矢も「ようやく射やすくなる」と言いながら標的を射かけ、つぼみは捕食に用いるであろう牙と顎を遠慮なく貫く。 「ここで奮い立たねば、開拓者ではありません!」 そう、自分の後ろには傷ついてでもやってきた仲間がいる。彼女たちを守り、怨敵を倒す。つぼみの気持ちは戦いが激化すると共に強くなった。 「柚乃もそれに応えますわ」 少女は神風恩寵を使い、味方を援護。珠光も吸心符でフォローしつつ、瘴気回収を行う。この時の彼女は、白銀の姿に身を変えた。 足元の武装蟻は麗空と結咲、そして刃馬が受け持つ。 「こーもり、アリいるよー!」 麗空が試しに心眼「集」でどの辺までいるかを確認し、絡踊三操を振り回しながら奥まで走っていく。 「おにーさん、このへんまでいるよー!」 「よし、わかった! くれぐれも無理はすんなよ!」 刃馬はそういうが、ふたりはきっと自重しないだろう。しかし実力もあるので、心配には及ばない。 麗空は横に薙いで蟻をひっくり返し、棍でバンバン叩くが、さっきの軍隊蟻よりもなんだか装甲が堅いように感じた。 「かたくてうろちょろするのは、じゃまーっ!」 少年はこうなると止まらない。とっさに巌流を使い、力任せに棍を振り回してどんどん始末していく。 逆側からは結咲と刃馬が刀で攻め上がり、お互いに軽い身のこなしで敵を消し去った。 結咲は刃馬に攻撃の手が及ぶと、刀で受けるどころか自分の身を盾にして守ろうとする。献身的といえば聞こえはいいが、刃馬からすれば無茶をしているように見えた。 「お、おい。今のは二刀で受けても間に合っただろうよ……だ、大丈夫か?」 「まだ、そういうの、慣れてない、けど……がんばる、よ」 結咲はコクリと頷くと、また刃馬の前を行く。 「ったく、友達が心配するぞ?」 そう言いながら見た麗空は無邪気なもので、結咲に「こっちこっちー!」と声をかけている。刃馬の真意が伝わるのは、まだまだ時間がかかりそうだ。 ●最後の仕上げ その頃、誘引班と爆破班は、爆破地点の情報を共有すべく集まっていた。 「私たちの退路がある道に接近できないよう、およそ半数の道を爆破して塞ぎました」 无は、地図を指差しながら説明した。 こちら側に向かう道はまだいくつも存在するが、ルートは数本しか残されていない。そのいずれも排除班のいる場所から目と鼻の先にある広い空洞へと誘き寄せれるという。ここに集めた敵を適当に倒し、開拓者は撤退。その通路の出入口を爆破で盛大に破壊する……という手はずで動こうとの提案があった。 「なるほど、よくわかりました。そうなると最後の一戦は、大量の敵と戦うことになりそうですね」 先ほどの地点で長らく聖歌を歌っていたエラトは、節分豆を食べながら次の戦いの準備を整えている。他の者も準備した節分豆を食べていた。ちょうど小腹も空く頃である。 「今、流騎殿が後ろに伝えに行ってます。我々は手早くそちらに……」 羅喉丸がそう言いかけた時、奇怪な姿をした不死蟲3匹を先頭にした大群が開拓者へと殺到する。 「この場はお任せを」 隗厳は奔刃術を駆使し、先頭の不死蟲の脚を絡め取り、しばしの時間稼ぎを行う。 この間、爆破班の2人は仕上げの準備を行うため、一気に後退。誘引班は先頭で奮闘する隗厳に対し、カルフがレ・リカルで回復を飛ばし、別の不死蟲をアイシスケイラルで凍らせる。 「ゆっくりと後退しましょう」 このフォローの間、エラトは魂よ原初に還れを歌い、不死蟲よりも後ろにいる敵を確実に減らす。 そしてメグレズは、殿を務めんと敵の前に躍り出た。 「最後の作戦の地まで、この私が導く。アヤカシども、狙うなら私だ!」 さまざまな昆虫が組み合わさったかのような異形の蟲・不死蟲を前にしても決して引かず、メグレズは己が役目を果たさんと奮戦。咆哮を使って、敵を離さぬよう仕向ける。カルフから援護のレ・リカルが飛び、増援の軍隊蟻が出てくれば、再びエラトが美声を響かせた。 退きながら戦うとは、かなり難しいものだが、なんとか広い空洞までたどり着いた。 爆破地点よりも奥に陣取れば、これ以降の移動は必要ない。中書令はこの地点にたどり着くなり、精霊の聖歌を奏で始めた。 「待ってたぜ!」 そこへ排除班で活躍していた阿弥香(ia0851)が味方の帰還と敵の襲撃を見るなり、前へと躍り出る。そしてさっそく昆布型呪縛符を放って、次々と不死蟲を足止めした。 そこへ結咲が霊戟破を駆使した斬撃で、蜂のような下腹部を切り裂く。 「敵、全部、倒す、まで……退かない」 さらに彼女は烈風撃で別の不死蟲を弾き飛ばし、それをメグレズの元へ。彼女は静かに槍を引き、再び鬼切を発動。すさまじい速度で貫く。 「滅せよ、アヤカシ!」 彼女の一撃で奇怪な声を放ったかと思うと、すぐさま瘴気となって消え去った。 残った不死蟲も阿弥香の海老型霊魂砲で粉微塵に吹き飛ばされ、また早矢の正確無比な一矢に弱点を貫かれ、その脅威は激減した。 その後も大毒蛾や軍隊蟻が殺到するが、エラトが麗空の後ろで魂よ原初に還れを奏で、軍隊蟻をあっけなく消し去る。また敵の侵入路付近で対滅の共鳴を使い、敵の情報伝達を防いだ。かわいい守護者・麗空は声が聞こえなくなった状況を体感すると、不思議そうな表情を浮かべる。 空を舞う大毒蛾は接近さえさせなければ、特に困ることはない。ここは弓術師と陰陽師、そして魔術師が一丸となって退治に励んだ。音を消したおかげか、その後に増援が来なくなり、敵軍の殺到が一時的に止む。 これを好機と踏んだ无は、流騎に指示を出す。 「これ以上、彼らと付き合う必要もないですね。頃合いですし、ここで引き上げましょう」 それを聞いた流騎は洞穴に入り、味方に「撤退だ!」と伝え回る。メグレズはここでも「殿はお任せください」といい、軍隊蟻を丁寧に始末していった。 刃馬は最後まで戦うと行った結咲の手を引き、「もういいぜ」と笑みを見せつつ、麗空も呼んで後ろに下がらせる。阿弥香はやや暴れたりないらしく、まだ海老型霊魂砲でアピールしながらの撤退だ。 「これで後ろで我慢してた皆の分も暴れたぜ!」 誰もがある程度の満足感や達成感を得た上で細い洞穴へと逃げ込んだ。 そして最後に羅喉丸が无から火をもらい、焙烙玉を出口に向かって投げ込む。 「諦めろ、山喰! お前の行く手は決まった!」 その爆破は洞穴の天井をも壊れるように仕掛けられており、開拓者を追ったアヤカシはことごとく瓦礫に潰された。もちろんこれ以上の前進もできず、残った蟲も立ち往生。開拓者たちはその様を想像しながら、悠々と洞穴を脱出した。 ●山喰、王穴からの撤退 結局、開拓者に王穴への侵入を許したばかりか、主要な通路を崩され、差し向けた眷属も削られ……山喰にとっては踏んだり蹴ったりの結果となった。 もはや拠点として機能しない場所に居座る理由もなく、山喰は王穴からの撤退を決意。手近なところにある巣に蓄えてある眷属を目覚めさせ、開拓者の手が及んでいない逃亡路を選び、そこから脱出することにした。 「ギギギ……人間ドモ……イズレ……」 こうして、山喰は安住の地を追われた。 しかし本体も眷属もまだ健在。この戦いの決着を望むのは、山喰も開拓者も同じであろう。その時は近い。 |