【狂餌】声なき悲鳴の先
マスター名:村井朋靖
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/01/25 22:35



■オープニング本文

●序文
 北面に長く仕えた老志士の言葉。
『悔しさを噛み殺すのは、自分のため。悲しさを黙らせるのは、他人のため』

●闇の只中
 北面と東房の国境を越えると、魔の森が広がっている。
 人攫い専門の山賊を率いる「世国死相(よのくに・しそう)」は、異形の森を平然と進む。その後ろには志体持ちの部下が控え、頑丈な檻を備えた大八車を警護していた。
「た……助けて、くれぇ……」
 牢に閉じ込められた男が、残った生気を振り絞って訴える。しかし、車は静かに奥へ奥へと分け入るのみ。そんな車に揺られているうちに、彼は声を失った。すでに檻の中には、瘴気に冒されて息絶えた者が何人も身を横たえている。
 その様を見届けた山賊は、不意に視線を床に落とした。幸か不幸か、志体を持って生まれたが、結局は同じ運命を辿るだろう。いや、今のうちに死んでおいた方が幸せかもしれない。
 彼は、牢の行き先を知っていた。この檻は、生き血を啜るアヤカシ・甲骸の元へと向かっている。異形の者は、村人を餌として物理的に喰らうのだ。だから、死んでいた方がいい。生き地獄を味わうくらいなら。
 その山賊は檻の中から、さっきまで仲間だった連中を力なく睨む。首領の死相は「食事の数が足らない」という窮地において、何の躊躇もなく部下を6人ほど檻に叩き込んだ。彼はそのひとりである。これを恨まずして何とする。この無礼を誰かに気づかれて殺されるなら、それこそ願ったりだ。男の混濁した意識は、恐ろしいまでに死を望んでいる。
 この檻の中は、まさに生と死の狭間だ。味方だった男に視線を向けられた山賊の心中は、決して穏やかではない。そう、明日は我が身なのだから。

●捧げられた後
 あれから数刻が過ぎた。死相は甲骸との面会を果たし、餌を差し出す。
 甲骸はそれをおいしく平らげた後、「次も楽しみにしている」と死相に伝えた。ところが、首領は切迫する状況をあえて語らず、素直に「わかりました」と恭しく礼を返し、うまくその場をまとめ、部下に帰り支度をするよう命じた。

 しかし、甲骸の側近とふたりきりになった時、死相は厳しい状況を説明し、今後の方針について協議する。
「そうですか。人攫いがうまく行かないため、今後は苦労すると……」
 それも開拓者が邪魔をしたというのだから、迷惑この上ない。死相から話を聞き、側近はしばし思案する。
「その場凌ぎをするなら、手下の山賊を餌に使えば問題ありませんが、それでは先が続きませんねぇ」
 そうは言うものの、死相の表情に曇りはない。
「先のことは適当に考えますよ。ところで、あなたもそろそろ餌の恐怖を喰らいたいでしょう。甲骸様の世話役は、私が引き受けますよ」
「ククク、ずいぶんといい恐怖を味わったみたいですねぇ。なんとうらやましい。では、私は開拓者の恐怖でも喰らいましょうかね……」
 死相は側近と役目を交代することを提案し、相手もそれを飲んだ。
 かくして側近は山賊を率い、死相の来た道を戻る。山賊の部下も慣れたもので、首領の交代にもまったく動じず、空になった檻を黙って押した。
「今度は直々に、この私が人を攫ってみせましょう」
 山賊の、いや首領たる死相の反撃が、今まさに始まろうとしていた。

●村の密偵
 先日、人攫いを優先する奇妙な山賊に狙われた山村・佐竹村に、ふたりの賑やかな開拓者が滞在していた。
 ひとりは近隣の村民失踪事件を追っていたシノビ・草崎流騎(iz0180)の弟である草崎刃馬(iz0181)、もうひとりは刃馬の友人で、商人を志すサムライ・弥次郎である。ふたりは佐竹村の安全を確保すべく、せっせと村の周囲に竹垣を作っていた。
「おー、刃馬ぁ。この細い竹で四つ目垣なんか立てても、ちぃーとも役に立たんぞー」
「まぁ、そういうな。これは村人の恐怖をやわらげるためだけど、たぶん山賊には通用すると思うぞ?」
 刃馬は常に周囲を警戒しつつ、弥次郎の作業を手伝う。
「でもよぉ、俺にずーっと刀差しとけっつーのはよ。なんかあったら戦えってことか?」
 弥次郎は北面の都・仁生でこそ行商人で通っているが、実際は志体を持った立派なサムライである。今回の依頼も、友人の刃馬とともに開拓者として請け負ったのだ。彼の刀の扱いは、刃馬も認めるところである。
「この村が平和になったら、ガッチリ商売したいんだろ? だったら商売相手を守らないとよ」
 この言葉に、親友も「なるほどのぉ!」と納得し、またせわしなく手を動かす。この賑やかさは村人に安心感を与え、一時なれど平穏な時間をも与えた。

 刃馬の兄・流騎は今、捕らえた山賊の警備についているが、おそらく彼らが狙われる危険は少ないと踏んでいた。それは弟も同意見である。
 それよりも気になるのが、山賊が口にした「甲骸なるアヤカシに差し出す餌が足らない」という点だ。となると、佐竹村が再び襲われる可能性が高い。また次の襲撃は、前回よりも手の込んだ作戦……それも山賊の首領・世国死相が指揮するのではないかと推測した。
「ここは俺たちも、開拓者のお仲間に頼るぜ」
 刃馬が不敵な笑みを浮かべる一方で、弥次郎は不安げな表情で語る。
「しかし、賞金首は逃したくないのぉ。そいつが村にでもひょっこり来たら困る。その辺もなんとかできたら、言うことはないのぉ!」
 山村・佐竹を舞台にした第二幕は、静かに始まろうとしていた。


■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067
17歳・女・巫
リューリャ・ドラッケン(ia8037
22歳・男・騎
月野 魅琴(ib1851
23歳・男・泰
叢雲 怜(ib5488
10歳・男・砲
秋葉 輝郷(ib9674
20歳・男・志
麗空(ic0129
12歳・男・志
結咲(ic0181
12歳・女・武
ミヒャエル・ラウ(ic0806
38歳・男・シ


■リプレイ本文

●咎人の聴取
 佐竹村は先日、同じ山賊に狙われている。そこで月野 魅琴(ib1851)は前もって、草崎流騎(iz0180)と共に、彼らと会話をしに行った。出立の1日前のことである。
「世国死相のこと、教えていただけませんか?」
 山賊は「お役に立てるかわかりませんが」と前置きした上で、洗いざらい話す。元の首領を殺害し、山賊団を支配した死相の逸話は、まさに恐怖に彩られた絵巻物のよう。彼らの表情からも、それが見て取れる。
「死相様はどこで監視してるのか、俺たちが洞窟の外で愚痴をこぼしても、それを知ってる時があって……」
「そ、そうだ! 村を襲いに行く前も、わざと捕まろうと提案した奴が死相様に殺された! あの時、死相様は洞窟の中にいたはずなのに!」
 それを聞いた魅琴は表情を引き締めつつ、あごに手をやり何かを思案していた。

 聴取が終わると、流騎は戦地へ赴く魅琴を見送った。
「直剣使いであり、ナイフ使いでもある世国死相の討伐、お任せしました」
 その挨拶を聞いた魅琴は、最後にひとつ質問をする。
「なぜ、死相の部下にアヤカシがいないのでしょうか?」
「彼は猜疑心が強いそうで、部下を信用していないようですね」
 流騎の返答を聞き、魅琴はある仮説を立てる。これが真実になると、非常に厄介だが……魅琴は流騎に「留守を頼みますよ」と伝え、その場を立ち去った。

●準備
 死相について考える男は、佐竹村にもいた。ミヒャエル・ラウ(ic0806)である。
「首領の死相は、おそらくアヤカシだ。山賊を駒のように使い、その間に自ら村人を強奪、これを人質にして我々を脅すかもしれない」
 この推測を元に、彼はまず村人をふたつに分け、別々の場所で保護することを提案した。その際、前回の納屋を用いずに、罠として利用。この周囲に落とし穴を掘ったり、竹垣を立てたりといった仕込みを、草崎刃馬(iz0181)と弥次郎が行っていた。
「おー、お嬢さん。鳴子が足らんかったら作るぞー」
「はい、その時はよろしくお願いします……」
 巫女の柊沢 霞澄(ia0067)は手持ちの縄も使って、器用に鳴子の仕掛けを括りつける。竹垣の方は、元気いっぱいの叢雲 怜(ib5488)が大きな木槌で地面に打ち込んだ。
「うんしょ〜! とっても悪い山賊から、村の人たちを護るのだー!!」
 その声に導かれるようにして、小さな子供がトテトテと歩み寄り、深いお辞儀と共に「さたけむらをたすけてくださいっ!」とお願いする。
「おっ、礼儀正しいのだぜ! よし、安心して待ってるのだ!」
 子供は背筋を伸ばして「はいっ!」と答えた後、仕込みの済んだ霞澄に連れられ、彼女が守る手はずとなっている避難所へと歩き出した。

 ミヒャエルの罠作りは、バラエティーに富んでいる。村に立ててある案山子を移動させたり、扉に布を挟んでおいたり。これを見た巡回役の秋葉 輝郷(ib9674)は「これで大物が釣れるといいが」と呟くと、紳士は「たくさんの白魚でも構わない」と笑みを浮かべた。
「あとは防火用の水を用意すれば、準備万端だ」
「確認だが、呼子笛は死相が接近した際は長く、山賊の接近は短く数度だったか」
「その通り。狼煙銃は山賊の早期発見の合図ですので、上空の確認も抜かりなく」
 開拓者の間で入念な打ち合わせを行えば、後は山賊を待つばかりである。

●忍び寄る強奪
 日が頂点から傾きかけた頃、佐竹村を静寂が包み込んだ。
 そこに忍び寄る影……無論、死相が率いる山賊の一団である。彼は自分の居場所を知られることを恐れ、志体を持たない雑魚に村への偵察を命じた。
「我々はもう少し前に出ます。大八車はそこに止め、少し間を置いてから突入しますよ」
 拙い斥候にそう伝えると、それぞれが目的を持って動き出す。
「フフフ、今回は暴れて差し上げましょう」
 死相の笑みは、なぜか自信に満ち溢れていた。その謎はまだ明らかにはならないが。

 山賊の偵察は特に訓練されたものではなく、単独で村を探る程度。ミヒャエルは埋伏りを使って、今回も高所から見渡す。
「問題の納屋に数人向かったということは、前回の死相は我々を見ていたという裏付けになる」
 まずは手近なところに接近した斥候が罠にかかったのを見て、苦無「火竜」を首元に放ち、行動不能に陥らせる。その後、早駆でその場から降り、三角跳で再び高所へ移動し、また埋伏りを使用して身を隠す。
「さて、納屋周辺の掃除をしなくては」
 雑魚とはいえ斥候を野放しにすると、いずれ村人の隠れ家がバレてしまい、状況が悪化する。ここは手早く仕留めることにした。
 しかし、死相の投入した山賊の数は意外にも多く、斥候のひとりが偶然にも避難先を発見してしまう。それを首領に伝えようと息を切らせて道半ばまでやってきたが、うっかり竹垣に触れて転んだ。

 カランカランカラ〜ン!

 鳴子の音がけたたましく響く。納屋の後始末に追われていたミヒャエルだが、ここは迷わず呼子笛を長く吹いた。
 それを聞きつけ、巡回役の輝郷と怜が現場へ急行したが、死相の率いる一団と鉢合わせしてしまう。そして粗相をした斥候の口から避難先のおおよその位置が、死相に伝えられてしまった。
「輝郷兄、豆は飲み込んだか?!」
「ああ。腹ごなしにはちょうどいい。手加減はできそうにないが」
 霊剣の柄を握り、ゆっくりと構える。その隙のない立ち姿だけで怯む山賊もいただろうが、死相はそれを恐怖で押さえつけた。
「手練の者は、小屋へ向かって人間の確保です。その他は目の前の敵を阻みなさい」
「それはさせないのぜ!」
 怜は荒野の決闘を用い、死相の合図で前へ出ようとした一団の先頭に向かって、短筒「一機当千」を発射。この一撃で致命傷にならないところを見ると、誘拐を狙う手練とは志体持ちを指すようだ。怜は「まだまだなのぜ」と言いつつ、ショートカットファイアで対応。なるべく後ろに敵を行かせないように奮闘する。
 輝郷はそんな彼の前に立って、無法者に対して霊剣を振るう。その瞬間、紅葉のような燐光が煌く。彼は紅蓮紅葉を使い、この一団を懸命に阻むが、いかんせん多勢に無勢。なんとか2人は倒したが、残りの5人ほどを先に行かせてしまった。
「さて、偵察では見えなかったものを見るとしよう」
 輝郷は改めて、心眼「集」を使う。すると、やはり死相から反応を得た。
「先ほどからの挙動を見れば、確認せずとも明らか、か。あなたが世国死相というわけですね」
「以後、お見知りおきを」
 死相は腕をしならせて挨拶代わりにナイフを投げつけるが、輝郷はこれを拒否するかのように払い、首領を目指して走る。山賊を抑圧する恐怖さえ消せば、残るは烏合の衆。篭手払を併用し、死相と付かず離れずの位置を保つ。
 ここへ、単独で巡回を行っていた竜哉(ia8037)が合流。狼煙銃を上空に放つと、猛然と走り出した。広い間合いは苦無「火竜」を投げて詰めるが、彼の考える間合いは山賊、いや死相の想像よりもはるかに広い。
「はっ!」
 竜哉は戻ってきた苦無をキャッチすると、直閃を乗せた剣で突きを放つ。しかしこの剣は突如、倍の長さに伸び、山賊を大いに驚かせた。
「ぬおおっ?!」
「うわあっ! こ、これは面妖な!」
 文字通り「道を切り開いた」竜哉は、あっという間に死相の元へ。驚いて隙を見せた連中は、輝郷と怜がキッチリと排除。連携のよさを存分に見せつけた。
「己の恐怖の味、存分に味わうといい」
 竜哉、輝郷、そして怜。これらの強敵を前にしてもなお、死相は不敵な笑みを浮かべる。

●接近
 村人は半分ずつ、普通の家屋に収容されていた。
「……音、聴こえる。来た……」
 耳のいい結咲(ic0181)は、敵の「こっちかー!」の声を聞き、もうひとりの護衛役で友達の麗空(ic0129)に声をかける。
「……アヤカシ、いる、かな?」
 麗空は心眼「集」を使うが、アヤカシの気配はない。首を横に振る。
「また、くるのか〜。わるい子、だね〜」
 村人はじっと声を潜めて円陣を組み、手をつないでいたが、ふたりの言葉に動揺を隠せず、声が漏れ始めた。
 しかし、結咲はいつもの調子で話し、村人を安心させようとする。
「皆、一緒……ボク、護る」
 一度ならず、二度も佐竹村を守ろうと立ち上がった子供たちの言葉は、ここに言い表せぬほど力強い。彼らは再び沈黙と平穏を取り戻した。

 一方が襲撃された場合、もう一方の避難先へと落ち延び、村人と護衛が合流する手はずになっている。これは、常に「数で勝る」ことを目指したのだ。村人の脱出は麗空が担い、それまでの陽動は結咲が行う。
「こーもり、おねがい〜」
「……麗空、なら、大丈夫。だから……早く」
 結咲は扉から外に出たが、村人は同じところを通らない。麗空は巌流を活性化させ、なんと家の土壁を攻撃。絡踊三操で盛大に破壊し、見事に外への道を作り出した。これはまさに子供ならではの発想である。
「あわてちゃダメだよ〜。ゆっくりね〜」
 村人も行き先を把握しているので、脱出は非常にスムーズ。最後のひとりが出る頃、麗空は長短を織り交ぜた呼子笛の音色を響かせる。

 逆に村の立地を把握していない手練の連中は、目的地にたどり着く前に結咲を発見。しかし相手が子供なので排除はせず、とりあえず捕縛することを優先する。「適当に痛めつけて居場所を吐かせよう」という腹だ。
 一方の結咲は剣と刀を持ち、天狗駆を使って戦いを挑む。複数の敵から標的にされ、それなりに傷も負うが、序盤は敵の手心もあり、思惑通りに陽動を実行できた。

●絶命の時
 その頃、死相が率いる一団は大いに数を減らしていた。恐怖の首領であっても、開拓者3人には歯が立たず。竜哉は流し斬りを乗せた暗器靴の一撃で虚を突けば、輝郷は燐光を帯びた刃で容赦なく瘴気の身を斬っていく。
 これらの攻撃を食らい、堪らず後ずさった死相を見て、竜哉は声を上げる。
「我、民を救うための剣とならん!」
 竜哉は脚絆「瞬風」にアル・ディバインを乗せ、白狼のごとく真正面から飛び掛る。
「おっと! オイシイところは、見逃さないのだぜ! 輝郷兄、今だ!」
 短筒の一撃は左脚を貫き、死相の動きを硬直させた。そこへ竜哉の蹴りが脇腹を穿つ。
「ウゴアァアァァ……」
「終わりだ、死相!」
 最後は輝郷が心の蔵のあたりを刺し貫けば、死相はいよいよその形を崩していく。
「こ、甲骸、さ……」
 死相は地面へと崩れ落ちるが、その前に霧散して消えた。
「死相はいなくなった。みんな、降伏するのだぜ!」
 怜の呼びかけに、なぜか山賊はまだ戸惑っていたが、竜哉と輝郷が鋭い視線を向けると、しぶしぶ武器を捨てて降伏。怜は何か腑に落ちなかったが、とりあえず短筒を空に向けて放った。

●真実と代償
「ふむ、あちらは終わったか」
 怜の合図を聞き、ミヒャエルは合流を目指す村人の列を目で追っていた。
 すでに結咲は麗空たちと合流、列の殿を守っている。結咲は焙烙玉を使い、追いすがる敵の足止めを敢行。敵をふたり減り、追っ手は3人となっていた。彼らの行く先には霞澄と刃馬、弥次郎が控えており、これにミヒャエルを加えれば負ける要素はない。もはや勝敗は決したかと思われた。
 ところがミヒャエルは、村人の列へ向かう一団を発見。それが山賊だとわかると、すぐさま短く笛を吹く。
「援軍も予想の範疇だが、なぜあれほど統率が取れているのか……」
 その答えは、意外な形で露見するのであった。

 山賊の援軍が列に接近するよりも早く、村人はもうひとつの避難場所に合流した。
 麗空と結咲は霞澄に出迎えられ、今度は援軍を食い止めるべく外に陣取る。彼らの目には、山賊を指揮する男の姿が映った。
「村人を人質に取るのです。そうすれば、開拓者いえども恐るるに足らず」
 手に直剣を持った男は不敵な笑みを漏らし、腰に下げたナイフに手を伸ばす。
 その時だ。男の腰に鈍痛が走る。虚を突かれ、彼は思わずよろけた。攻撃を仕掛けたのは、人のいない民家で息を潜めていた魅琴。骨法起承拳を乗せた蹴りは、手下の山賊をも驚かせた。
「嫌な予感が当たってしまいましたか……こちらです、世国死相!」
 その言葉を聞き、霞澄は危険を承知で前進。その場で瘴索結界を使い、魅琴の狙う敵がアヤカシであることを感知し周知させた。そしてすぐさま白霊弾を放ってフォローすると、村人を収容する家まで下がる。
 魅琴も運足と瞬脚を駆使し、死相を引きつけようとするが、相手は血眼になって執拗に片眼鏡の青年を狙い続けた。それに加え、手近にいた山賊からも攻撃を受け、一気に劣勢となる。麗空と結咲は村人を守るため、迫り来る敵を防ぐ必要があり、死相まで近づけない。それは刃馬と弥次郎も同様。頼みの綱である霞澄の回復を受けようにも、距離がありすぎた。
「あなたは、よくないことをご存知ですね……!」
「先に出てきた一団にも、この援軍にも共通点があります。それは、どちらにも世国死相がいるということ!」
「それを知られては……生きては帰せません!」
 死相の鋭い刃が肩口を貫き、ついに魅琴は戦闘不能に陥る。虚を突く代償は、あまりにも大きかった。

 しかし竜哉をはじめとする面々が到着し、一気に形勢逆転。魅琴は血を吐きながら、それでも真実を語る口を閉ざそうとはしない。
「しょ、勝負あり、ですね……つ、次はどれだけの死相が来るんですか、ね?」
「そんなにたくさん、私はいませんよ。次はもっと素敵な御仁をお連れしましょう。お楽しみに」
 魅琴との口喧嘩を楽しむと、死相は山賊に撤退を指示。とはいえ、開拓者はほぼ全員が合流しており、逃げ延びることができたのはごくわずかだった。

●数合わせ
 こうして、佐竹村にしばしの平穏が訪れた。
 村人の輸送に使っていた大八車は、捕らえた山賊から在処を聞き出して回収。首領・世国死相がふたりいた事実は、志体持ちの山賊が正直に話した。
「ええ。し、死相様は2人はおられるかと」
「他に……どのような役回りの方がいるのでしょうか……」
 霞澄は愛束花による回復を仲間に施しながら、山賊に尋ねる。しかしその問いには竜哉が答えた。
「さしずめ、甲骸の世話役といったところか」
 そして怪我を我慢し、魅琴が口を開く。
「さらに、君たちの監視役もひとり。そう考えれば合点がいきます。死相にアヤカシの部下がいないのは、真に信頼できる自分が複数いるからです」
 これで死相の謎はある程度は解けたが、山賊たちは「そんなまさか」と狐につままれたような顔をした。

 そうなると残った死相が協力して、また佐竹村を攻める可能性が高い。彼らが求めるのは人間だ。しかし次は山賊はおろか、死相自身の命も危うい。これまで以上に確実な手を使うだろう。
「わるい人の、えらいの……くるかな〜?」
 麗空が村人にもらった干し芋を食べながら呟くと、輝郷は「おそらくは」と答えた。甲骸との決戦は近い。