羽妖精のお困り事
マスター名:村井朋靖
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/04/09 18:03



■オープニング本文

●羽妖精とニンゲン
 北面の片隅にある鬱蒼とした森の奥深くで、今日も桜の花びらを思わせる羽妖精たちが踊るように宙を舞う。
 彼らは背の高い草や木の枝から姿を現し、ある場所を目指していた。それがまるで季節外れの桜が散り、少し冷たい風に運ばれるようである。
「よし、ここだ。みんな止まれー!」
 自らが率いる群れに制止を促し、息を潜めて様子を伺う。視線の先には小さな洞窟があり、その中から話し声が聞こえてきた。
「やっぱり住み着いたか‥‥」
 洞窟から響く音を聞き、リーダーは溜息を漏らした。それを証明するかのように、洞窟の外には食べ残しや酒瓶が転がっている。仲間からも落胆の声が聞かれた。

 あの洞窟には今、羽妖精の何倍も大きなニンゲンがいる。いくつもの赤い斑点を肌や服につけた、ちょっと獣の匂いがする厄介な連中だ。
 これを発見したのは、数日前のこと。花の蜜を吸いに来た羽妖精の少女が、森を彷徨うニンゲンを発見したのだ。気になったので追跡してみると、この洞窟にたどり着いたらしい。彼らは「こりゃあいい」と言いながら洞窟の奥へと踏み入り、住人がいないことを知ると、すぐさまここを占拠。そのまま棲家にしてしまった。
 この報告を聞いたリーダーは「もしかしたら、すぐに帰るかも」と考え、日を改めて偵察にきたが‥‥残念な結果を見せ付けられてガッカリする。しかも洞窟から聞こえる話は、今後の悪行を計画する話ばかり。今度はどこの蔵を襲うだの、その次はどこの屋敷に盗みに入るだの、ろくなもんじゃない。
「相手はアヤカシじゃないみたいだし、皆で追い出すのもちょっとな‥‥」
 リーダーはしばし思案した上で、ニンゲンを発見した少女に声をかける。そして自分が腰から下げていた剣を手渡し、ある任務を授けた。
「お前はニンゲンの街に興味があると言っていた。おそらくここを抜け出して、何度か行ったこともあるはずだ」
 少女は露骨に「ギクッ!」とするが、仲間たちは皆、クスクスと笑うではないか。どうやら気づいてないと思っていたのは本人だけのようだ。
「この剣を売れば、まとまった銭になる。それを持って開拓者ギルドに行き、性質の悪いニンゲンの排除を頼むんだ」
 できれば群れの存在を明らかにしないのが望ましいが、それはこちら側の提案を聞く相手にもよる。リーダーはあえて言及しなかった。
「いいニンゲンに出会えば、何も問題ない。お前の見る目に任せた」
「はいっ! あたしがんばります!」
 少女は「この任務は必ず果たさなければ」と思いながらも、リーダー公認のお出かけに胸を躍らせていた。

●素朴な男
 北面は仁生にやってきた羽妖精の少女は、さっそく話の通じそうなニンゲンを探す。
 彼女にすれば、テリトリーの洞窟に住み着いたニンゲンは「ずる賢く」見えていた。だから今回は「素朴なニンゲン」を探せばいい‥‥あまり小難しく考えず、直感で相手を選ぶ。
 すると、やけに声の大きな男が目についた。大きな籠を背負い、街中を練り歩きながら、せっせと大根を売っている。洞窟のニンゲンと同じで、あまり身なりはよくないが、どこか素朴で信用できそうだ。 少女は思い切って、男の前に姿を現し、声をかける。
「あの、突然ゴメンね! この剣を買ってもらえるかなー?」
「うわっ、ビックリした! お前、もしかして羽妖精か? おお、久しぶりに見るのぉー!」
 男は「弥次郎」と名乗り、過去に友人の草崎刃馬(iz0181)と『白い妖精』を探したことを打ち明けた。
 こんなに自分たちの事情を知っている人間なら、さぞかし話が早いだろう。少女はさっそく「ちょっと困ってて‥‥」と事情を話すと、弥次郎は「そうかそうか」と頷いた。
「そんで剣を売らんといかんのか。でも自慢じゃないが、俺は銭を持っとらん!」
 そこで弥次郎は妙案を思いつく。友達の刃馬は、刀のコレクター。もしかしたら、この妖精の剣を買うやもしれん。彼は少女を連れ、草崎の屋敷へと向かった。

 親友の読みは正しかった。
 刃馬は軒先でじーっと小さな剣を見つめ、その鍛え具合に舌を巻く。
「耳掻きくらいの大きさだってのに、なんでこんな洗練されてんだ‥‥」
 刃馬は片目を瞑り、剣身や切っ先を丹念に見るが、出てくるのは感嘆の呻きだけ。弥次郎は「高値で買うか?」と問うと、すぐさま「当たり前じゃねぇか!」と膝を叩いた。
「やったー! じゃ、それの銭は開拓者ギルドに渡して、厄介なニンゲンを追っ払うようにお願いしてよ!」
 弥次郎も「早よせんか!」と尻を叩くが、刃馬は「ちょっと待てよ」とふたりを制止する。
「なんだ、厄介ごとを収めるのに銭が必要だったのか。もしそいつらがお尋ね者なら懸賞金が出るから、その金でこの剣を買い戻せばいい」
 相手の人相がわからないので、今の時点ではあくまで可能性の話だが。刃馬は「一時預かり」として、妖精の剣を受け取った。
「せっかく羽妖精がおるんじゃから、こっちも相棒を連れて行こう!」
「おいおい、あのグータラもふらが役に立つのか? お前の商売の手伝いもしないんだろ?」
「こんな時でもないと、あいつは動かんからな! たまには働かさんと‥‥」
 刃馬は「賑やかな悪者退治になりそうだな」と羽妖精の少女に言うと、彼女も嬉しそうに微笑んだ。


■参加者一覧
リューリャ・ドラッケン(ia8037
22歳・男・騎
御陰 桜(ib0271
19歳・女・シ
杉野 九寿重(ib3226
16歳・女・志
ウルグ・シュバルツ(ib5700
29歳・男・砲
ジナイーダ・クルトィフ(ib5753
22歳・女・魔
キサラ・ルイシコフ(ib6693
13歳・女・吟


■リプレイ本文

●賑やかな行軍
 ギルドの依頼を見た開拓者たちは、問題の洞窟に向かいながら知恵を絞り、ニンゲン退治の作戦を練る。
 今回は相棒も同行するので、賑やかな行軍となった。ただ基本的に、依頼解決は相棒に任せるスタンスのようである。

 竜哉(ia8037)の相棒である人妖の鶴祇もそのひとりだったが、彼女は羽妖精と別件で話し込んでいた。
「時に、おぬし等の武具は誰が作っておるのかの? よければ紹介して欲しいものじゃ」
 羽妖精の剣を預かっている草崎刃馬(iz0181)もこれを聞き、耳を澄ませる。のっしのっしと歩く甲龍の迅雷もまた、主人を真似るように首を傾げた。
「そんな難しいこと、あたし知らなーい」
「こっ、この能天気さ‥‥さすがは羽妖精だぜ」
 杉野 九寿重(ib3226)の相棒で、人妖の朱雀は「とにかく作戦を考えないとっ!」とガッツポーズを見せる。
「今回はワンコに内緒で、ギルドに参加を登録したんだっ!」
 忍犬の桃と並んで歩いていた、ないすばでぃの御陰 桜(ib0271)は「ホントなの?」と、ワンコこと九寿重に尋ねる。
「一緒に依頼を見に行ったら、朱雀が知らない間に‥‥」
「細かいことはいいのっ。とーってもお困りの羽妖精に恩を売るんだから、安いもんよねっ」
 朱雀はいつものように明るい声で、しかしちょっとだけ嫌味を交えた。これを羽妖精が気づかないわけがない。心底ムカッとしたが、背後から桃に吠えられると、それもどこかに吹き飛んでしまう。
「ワンッ!」
「羽妖精ちゃん、この子は桃っていうの! 首筋の桃の花の形の模様がきゅ〜とでしょ♪」
 桜にそう紹介されると、桃はその部分を羽妖精に見せる。春の化身は「うんうん、きれいだね!」と喜んでいると、ウルグ・シュバルツ(ib5700)が表情を崩さずに話しかけてきた。
「いずれにせよ、奴らを放っておく訳にはいかない。情報を伝えてくれたこと、感謝したい」
「今度からこうしたらいいのかなぁ。みんなのとこに戻ったら、相談してみるね!」
 ウルグは「ぜひ頼む」と言うと、管狐の導もまた「そちらで解決されると、我らも状況を把握できんのでな」と同調した。
 そこへキサラ・ルイシコフ(ib6693)がトコトコと歩いてくる。相棒である白い翼を持つ迅鷹・リリーも一緒だ。
「キサラは〜、冬の妖精さんとお友達になったですの〜。だから〜、春の子の妖精さんたちともお友達になりたいですの〜」
 キサラは少し翼を動かすと、リリーも宙で一緒の仕草をする。それを真似て、羽妖精もひらひらと舞った。
「へー、冬の子にあったんだ。すごいね! じゃ、あたしとも友達になろ!」
 キサラは「よかった〜」と喜ぶと、リリーも翼を広げて一鳴きする。お友達のためにも、悪いニンゲンを退治しなくては‥‥少女は気持ちを引き締めた。

 刃馬の相棒・迅雷の尻尾に張り付き、のへーっとしているのは弥次郎が飼っているもふらの三郎。せっかく口実を作って連れ出したというのに、まだ働く気がないらしい。
 弥次郎は「自分で歩かんか!」と怒るも、ジナイーダ・クルトィフ(ib5753)が「別にいいじゃない」とフォローし、その毛並みをやさしく撫でる。その合間を縫って、春告げの妖精を詳しく観察し、それを手帳にメモしていた。相棒の猫又・カリンドゥラは貴婦人の気品を漂わせながら、ジナイーダの腕に抱かれている。
「ここでニンゲンに出くわす可能性があるわね。気をつけないと」
 この乙女の懸念を払拭するのが、竜哉や九寿重たちだ。相棒を洞窟の前に導くのが、作戦実行の第一段階である。
 相棒たちは「悪者が洞窟にご在宅の時を狙って襲撃」を計画した。その条件さえクリアーできれば、あとは現地で柔軟に対応する。朱雀は桃の背中に乗ってもふもふを楽しみながら、作戦の確認を行った。
「ということなんで、桃もカリンもみーんなよろしくねっ!」
 ムードメーカーの朱雀に、冷静さがウリの鶴祇や導、そしてカリン。さらに元気印の桃にリリーと、とにかく個性的。ご主人は彼らのために、洞窟への道を開くのであった。

●暗い洞窟に
 羽妖精の案内で、洞窟の入口へとやってきた。ここからが本番である。
 鶴祇が洞窟内への偵察を提案すると、朱雀が「アタシも!」と挙手。導もまた「我も行こう」と名乗りを上げた。キサラは外で超越聴覚で、敵の誘い出されるタイミングを確認する。
「悪い人が来たら〜、みんなにお知らせしますの〜」
 それを聞いたジナイーダはカリンに、出てきた連中に閃光を使うことを願い出る。
「頼んだわ、カリン」
「はいはい、ジーナのお願いなら、頑張りましょ」
 彼女の腕をスルリと抜け、カリンは大きく伸びをする。それはまるで準備運動のようだ。桃も思わず、その動作を真似る。
「あら、準備はよろしくて?」
 カリンは桃に目をやると、彼女もまた大きく頷く。ここで吠えないところは、さすが忍犬。今の状況をしっかり心得ている。
「罠があれば預かっておくが、どうかの?」
 身支度を整えていた鶴祇がそう言うと、キサラが「はいですの〜」と撒菱を差し出した。それを見た導は「わかっておるな」とニヤリ。愚かなニンゲンの末路を想像し、わずかに口元を緩ませた。
 ウルグは騒ぎになったと同時に撒菱を投げ入れる旨を伝え、相棒たちに踏まないように注意を促す。
「見てるだけというのは、性に合わない。サポートさせてもらう」
「ちっこいのががんばるのに見物とは、ちっとバツが悪いのぉ!」
 苦労人の弥次郎にすれば、自分が額に汗せずに報酬を得ることに違和感があるようだ。ウルグは「そうだな」と答え、ジナイーダは「ふむふむ」と熱心にメモを取る。
 それを見た刃馬が「あいつ単純だから、メモらなくてもわかるぞ」とアドバイスするが、彼女はこれもついでにメモした。そんな彼女の隣では、あの三郎が仕事もせずにグータラしている。

 人妖コンビは暗視を使い、同時に人魂で変化。鶴祇はメイド服と同じ色の蛇に、朱雀はもふもふの蝙蝠となって洞窟へ。導は時間を置いて人魂を使い、ヤモリとなって偵察へと向かう。
 洞窟の中は酒の匂いが漂っており、奥には明かりが揺らめいていた。確かにニンゲンはいる。正確な人数まではわからないが、洞窟の通路にまで下品な笑いが響いていた。
「警戒すらしておらんのか。なんと愚かな」
 そう言いながら、鶴祇はキサラから預かった撒菱をばら撒く。そして後からやってきたヤモリの導に「あの有様じゃ」と伝えた。
「主に頼みがある。ウルグに安心して撒菱を投げ込むよう伝えてはくれまいか?」
「承知した。朱雀はどうする」
「アタシは奥に行って、人数を確認してくるよっ!」
 導は「ならば」と宙を舞う朱雀を呼んで耳打ちし、今後の作戦を打ち合わせた。古風な話し口は鶴祇と同じだが、導はどこか悪戯心がある。その計画を聞いた朱雀は「いいね、それっ」とすっかり気に入ったようだ。
 その間、蛇の鶴祇はニョロニョロと動いて入口を目指す。キサラはその音さえも察知できるので、鶴祇は戻って独り言のように呟くだけでいい。こうして連絡はスムーズに行われた。
「ウルグさん〜、撒菱をお願いしますの〜」
 元の姿に戻った鶴祇はひとつ頷くと、ウルグは撒菱を投げに入口へ。これを弥次郎が手伝った。さらに桃とカリン、リリーもスタンバイ。これで追い出しの準備は整った。

●お仕置きの時間
 その頃、朱雀は奥の部屋の天井にぶら下がっていた。ニンゲンは3人おり、どれも返り血を浴びた服を着ているが、誰が志体持ちかわからない。
「そろそろ頃合かなっ」
 今まで朱雀は必死で音を殺してきたが、この期に及んでは羽音全開で入口へと向かう。この誘いに乗るかと思いきや、しこたま飲んだ連中は危機感も希薄になっていた。
「ん、蝙蝠でもおったか?」
「うーい、一匹とは珍しいのぉ。どれ、小便のついでに様子を見てきてやろう」
 せっかくの酒宴に水を差してはいかんと、ニンゲンは獲物も持たずに出て行く。この油断を嘲笑うかのように、同じく通路の天井に張り付いていた導が、男の顔面めがけて落下した!
「ん? 顔に飛沫が‥‥って、う、うひゃあぁぁ! ヤ、ヤモリだぁーーー!」
 すっかり酔いの醒めたニンゲンに対し、導はお仕置きも兼ねて囁く。
「主ら、聞けば相当に悪事を働いているとか。恥を知れ、恥を」
「しゃ、しゃ、喋ったぁぁぁーーー! うひぃぃーーーっ?!」
 完全に錯乱した男を尻目に、導は脂ぎった顔から離れると術を解き、楽々と洞窟から脱出した。
 そこへ奥にいたふたりが合流し、壊れた男を正気に戻そうとするが、これがまた難儀であった。
「ちいっ、酔いすぎだぜ、こいつ。参ったな」
「こいつの斧は後で渡せ。今だと俺らを斬りそうだからな。よし、追うぞ!」
 正体不明の敵を捕らえるべく、ふたりは入口に出ようとするが‥‥今まで獲物をじっと待っていた撒菱が、ここで存在感をアピールする。
「痛たたた! あ、足になんか刺さっ、痛たたたた!!」
 ここへカリンが抜足を駆使して音もなく登場。そして尻尾をもたげてると、すばやく閃光を放つ。一度ならず二度、そして三度のパニックに、ニンゲンどもは大慌て。
「ひーっ! 今度は光だ! どうなってやがるーーー!」
 トドメは桜の演出だ。彼女と刃馬は大きな木の上で、懸命に枝を揺らす。刃馬の相棒・迅雷が翼で風を起こし、大自然の音をダイナミックに発生させた。
「‥‥お前らのやったことはすべてお見通しだ。諦めて出て来い。そうすれば許してやる‥‥」
 桜はがんばって怖い声を出してがんばったが、相手が下手に強がってしまった。
「俺たちは泣く子も黙る強盗だ! こっ、こんなもんで怯むかよっ!」
「あ、そうだよねー。だったら、もういいや♪ みんな、ゴーよ!」
 急にキュートな声を出すと同時に、桃が洞窟へ突入。ダッシュアタックと立体攻撃を駆使し、力ずくで敵を慌てさせる。
「ワンワン! ワンワンッ!!」
「いっ、犬?!」
 洞窟の壁を利した動きは、ニンゲンには捉えにくいもの。これを振りほどこうとしても、撒菱が邪魔で動きづらい。
 そこへキサラの命を受けたリリーが、先頭の男にクロウを振るう。さらにキサラが月のフルートでスプラッタノイズを奏でて混乱を引き起こすと、リリーが風斬波で完膚なきまで痛めつけた。
「おおおっ、開拓者だったのか! こいつはやべぇ!!」
「落ち着け! 俺が前に出れば問題ないだろうが! とにかく、お前ら奥に引っ込んでろ!」
 このセリフを聞いたウルグは、おもむろにロングマスケットを構える。彼の狙いは、強気な発言をした男だ。
「なるほど。少なくとも、お前は志体持ち‥‥というわけか」
 ウルグがそういうと、導が宙を舞いながらロングマスケットと同化した。これが煌きの刃である。
「‥‥ほれ、我の力を貸してやろう。外すでないぞ?」
 志体持ちのリーダーを狙って空撃砲を放ち、これを転倒させると、今度は体にまで撒菱が刺さって大騒ぎとなった。
 この隙を見逃さず、ジナイーダはウィンドカッターを放ってダメージを与える。さらにカリンは洞窟の奥に入り、背後からリーダーを睨みつけ、鎌鼬で切り刻んだ。
「そのまま地面に転がっててくれると、楽でいいんだけどね」
 さらに先頭のニンゲンには、アイヴィーバインドによる束縛を与え、恐怖から逃れさせないようにした。

 敵の反撃は雑ではあるが、それなりの威力を秘めている。特にリーダーは、ちょこまかとうるさい桃に向かって棍棒を振り回した。これが運悪く命中し、一瞬だけ悲痛な叫びが洞窟に響く。
「キャイン!」
「はーっはっは! 犬が俺様に勝てるかー!」
 その言葉にカチンと来たのが、人妖コンビ。まずは朱雀が口撃する。
「うるさいっ、悪者っ! ワンコ、やっちゃえっ!」
 九寿重に攻撃の指示を出しつつ、自分はそーっと桃に近づき、神風恩寵で傷を癒す。
「桃もやっちゃえっ!」
 気丈に振る舞う桃は「ワン!」と一声。再びダッシュアタックと立体攻撃を腕に命中させ、見事にリベンジを果たした。
 鶴祇は愛刀を振るい、敵の膝やくるぶしを狙っていたが、志体持ちに鋭い視線を向けると呪声を聞かせ、桃の苦しみを何倍にも増幅せんとする。
「先の態度はよくないのう。我の歌は死人向きじゃが、そなたなら別に構わんな」
 呪いの叫びに恐怖するリーダーへの追い討ちは止まらない。キサラは奴隷戦士の葛藤を浴びせた上で、九寿重がリーダーに狙いを定めて攻撃を仕掛けた。
「容赦しません!」
 横踏を駆使した上で、愛刀による巻き打ちを浴びせる。さらにウルグがスピードブレイクを駆使し、最後は竜哉が短銃でトドメを刺した。
「うぐ、おごっ‥‥」
「あなたの罪は、他の方からお聞きします。ご心配なく」
 開拓者とその相棒の絆は、薄汚れたニンゲンとは比べ物にならない。リーダーが討ち取られたと知るや、残る2人は「志体持ちではない」と告白し、あっさりと降伏した。

●血の匂いは消えて
 残ったふたりは捕らえられ、すべてを白状するように言われる。
 彼らの正体は北面を拠点に活動する強盗団で、必要とあらば殺しも辞さぬろくでなしであった。鶴祇と導はジットリとした冷たい視線を向け、ワンコこと九寿重の尻尾に抱きついていた朱雀も苛立ちをあらわにしたが、ここは桃と三郎がみんなの気持ちを代弁するかのように、男たちの腹に向かって突進する。
「むぐっ!」
 強盗どもはもんぞり打って苦しむと、2匹は自慢げに吠えた。
「ワオーーン!」
「もふーーーっ!」
 これを見た桜はたいそうご機嫌になり、桃のお腹をもふもふして喜びを表現してやった。
「頑張ったわねぇ、えらいえらい♪」
 弥次郎もまた「やるときゃやるのぉ」と、三郎を見直した。こちらはジナイーダが三郎の男気をメモした後、存分に撫でている。

 こうして事件は解決した。刃馬は羽妖精に剣を返し、群れに報告するよう何度も念を押す。
「また何かあったら、今度は開拓者ギルドに行ってくれ」
「わかった! じゃ、またね!」
 彼女は朱雀にあっかんべーをしてから、群れの住む場所へと帰っていく。朱雀もべーと舌を出すが‥‥ふと自分の服に目をやると、なぜかピンクの羽根が混じっていた。
「あれ、これって‥‥?」
 よく見れば、桃やリリーの体にも、ひとつだけ羽根が紛れ込んでいる。どうやらこれは、羽妖精のお礼らしい。
 カリンは尻尾にあった羽根を抜き、しばし手で遊ぶ。
「あらあら。あの子、素直じゃないわねぇ」
 リリーもそう思ったのか、ひとつコクンと頷くと、キサラに友達の証を届けに行く。
「春の子も〜、キサラのお友達です〜!」
 鶴祇は「報酬じゃ」と羽根を竜哉に差し出すが、彼は「鶴祇が持つべきだ」といい、改めてエプロンに差してやった。
「まだ普通に渡された方がよかったのう」
 鶴祇が苦笑いしながら呟くと、自然と周囲から笑いが漏れる。血生臭い事件の終わりは、なぜかさわやかな気持ちでいっぱいになった。