【妖精】紅花と大猪
マスター名:村井朋靖
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/12/16 19:18



■オープニング本文

●手がかりは近場に
 開拓者ギルドが「冬の妖精を探索を始めた」という情報は、シノビにおいて諏訪に属する草崎刃馬(iz0181)の耳にも、当然のごとく伝わっていた。
「俺、あんまり妖精探すって柄じゃないしなー。その辺は兄上に任せてっと」
 屋敷の庭先で大好きな刀を振りながら呟くが、すぐに弥次郎がその幻想を打ち砕くべく訪れる。
「おお、刃馬ぁー! 妖精の話、聞いとるじゃろー! ほら、探しに行くぞ!」
 とっさに繰り出した右ストレートは、ふたりに流れる時間をスローにさせる。
 虚空に涙の粒を飛ばす刃馬の表情は、「俺にメルヘンは似合わねぇっつってんだろ!」と如実に語っていた。悲しみの鉄拳を頬に受ける弥次郎も黙ってはいない。どでっ腹に向けてカウンターを繰り出し、「人の話は最後まで聞くもんじゃ!」と説教パンチを叩き込む。
 どちらのパンチも命中すると、一瞬だけ時間が止まった‥‥そしてふたりの男が白い灰になり、静かに地面へ崩れ落ちる。

 そんなどうでもいい挨拶は置いといて。
 それからしばらく経ち、息の整った頃に弥次郎が話し始めた。
「知り合いの村の近くにな、この時期になるときれいな紅い花を咲かせるらしいんじゃ!」
 なるほど、妖精が好きだとされる美しい風景やもしれん。刃馬は腕組みして思案しながら、その話の続きを聞く。
「その花は険しい崖の上に咲くんじゃが、その近くにケモノの大猪がおっての。爺の代から、村の守り神みたいに扱っとるらしいんじゃ」
 弥次郎の話から察するに、大猪は人語を解し、今まで村の脅威を追い払ってきたのだろう。
「イノシシにどいてくれって言うだけじゃないのか、それって?」
「問題はこっからじゃ。ほれ、今年の夏は暑かったじゃろう。それでか、イノシシのご機嫌が悪いんじゃと」
 獲物が取れなくて腹ペコなのか理由は定かではないが、秋から冬にかけて、大猪はずっと村の近くを荒らしているらしい。
「村人にしてみりゃ、先祖代々守り神として崇めてきたから、手は出したくない‥‥か」
「その花の咲く崖もまた、イノシシのテリトリーでの。もし見に行くなら穏便に事を収めてほしいと、こう頼まれたわけじゃ」
 もし腹を空かせているとなると、紅い花まで食い荒らす可能性もあるという。いや、その前に踏み荒らしてしまうか。
 刃馬は「手近な所にある手がかりを失いたくない」と、弥次郎の申し出を引き受けることにした。
「ケンカ以外の方法でイノシシをなだめて、花を確認しに行くってことだな。わかった。開拓者ギルドには、俺から言っとくぜ」
「おー、毎度すまんのぉ。で、俺は紅い花を描いて、村人に渡すんじゃ!」
 弥次郎が絵を嗜むとは初耳だ。刃馬はその腕前を測ろうと、筆と墨を持ってきて「試しに刀を描け」と言う。すると弥次郎はさらさらと筆を走らせ、あっという間に「でけたぞ!」と答えた。
 刃馬はあまりの早さに「どうせ、へのへのもへじでも描いたんだろう」と見てみると‥‥
「こ、これはうまい! お前まさか、そういう才能があったとはなぁ‥‥」
 武芸も商才もイマイチの弥次郎が見せた天性の画力に、刃馬は舌を巻いた。
「今は墨一色じゃが、花を描く時は色も入れてちゃーんと描くぞ! おお、妖精もおったらまとめて描かんといかんのぉー!」
「イノシシのご機嫌取りするみんなも、ちゃんと描いてくれよ」
 村の外れの崖に咲く紅い花と、村を守るご機嫌斜めな大猪。さらには、この季節に現れるという白い妖精。このすべてを収めることはできるのか。


■参加者一覧
朱麓(ia8390
23歳・女・泰
和奏(ia8807
17歳・男・志
利穏(ia9760
14歳・男・陰
Kyrie(ib5916
23歳・男・陰
キサラ・ルイシコフ(ib6693
13歳・女・吟
闇野 ハヤテ(ib6970
20歳・男・砲
ハシ(ib7320
24歳・男・吟
リリアーナ(ib7643
18歳・女・魔


■リプレイ本文

●出発の前に
 村に集まった開拓者たちは、まず神と崇められる大猪と会う準備を始める。
 商売屋の弥次郎は、手頃な大八車を引き、「この上に載せるんじゃ!」と声をかけた。そこへ朱麓(ia8390)が、手に持った干し芋や干し柿を載せる。
「目的は紅い花と妖精だけど、喋る大猪ってのも面白いね」
「妖精はどうか知らんが、大猪は絶対におるからな。気をつけていかんと!」
 弥次郎の心配は、全員が知るところである。聞き込みするメンバーも、村人から情報を得ようと必死だ。キサラ・ルイシコフ(ib6693)は羽ばたくようにして村長のところに行き、神の怒りの原因を探る。
「お〜きな猪さんは〜、どうして怒ってるんですの〜?」
 小首を傾げて考えるキサラに、村長は答えた。
「うーん。考えられるのは、夏に餌が取れなかったことだが‥‥」
 小さく頷きながら一生懸命に聞くキサラの後ろに、一角獣の乙女・リリアーナ(ib7643)がやってくる。彼女は丁寧な自己紹介をし、詳しい話を聞いた。

 その間、別の場所でも利穏(ia9760)とKyrie(ib5916)が、守り神である大猪を祭る行事がないかを確認する。
「なるほど‥‥春先にお供え物を決められた場所に置くのですね。そうなると、腹ペコが原因なのでしょうか」
「春先に捧げられたものを、何らかの都合で夏が終わるまでに食べ切ってしまった。だから秋から今にかけて機嫌が悪い‥‥なるほど、辻褄は合いますね」
 Kyrieも納得した上で、村人から大猪に捧げる供物を聞く。すると村は総出で、該当の食物を用意してくれた。特に珍しい食物はなく、どれも畑で採れるものばかりである。
「じゃあ、僕は供物をきれいに並べますね」
 なるべく餌っぽい雰囲気を消すため、利穏は大八車の上に乗って、見栄えのする配置をせっせと作る。Kyrieは村で親しまれている音楽を教えてもらい、これを集中して覚えた。

 そんな最中、村のど真ん中に咲く優雅な花が一輪。その名はハシ(ib7320)。
 遠き地のアル=カマルを思わせる布が、軽やかなステップで美しく舞う。そしてクルッとターンして、決め台詞とポーズで周囲の視線を奪った。
「白い、妖精‥‥参ッ上!」
 わずかに覗かせる濃ゆいアイメイク、なびく髪はベリーショート。そして何よりも増してビックリなのが‥‥声がしっかり男だということ。素朴な暮らしに慣れている村人には、少し刺激が強かったらしく、不意に準備した供物を地面に落とす者が続出する。
「はいっ、この事件はぁ〜、解☆決! さぁ見て! 描いて! 捕まえてっ!」
 ハシにとっての不幸は、妖精の話が村人に伝わっていないことだった。村の大事は、大猪の怒り。それをすっかり忘れてるオネエに向かって、草崎刃馬(iz0181)が冷静なツッコミを入れる。
「お前な、子どもたちがポカーンとしてるだろ。ほらほら、仕事しろよ」
「あらやだ、さっそく素敵な出会いが! 聖夜に刃馬ちゃんを予約しちゃう☆」
 ハシは至ってマイペース。狙った獲物の頬をツンと人差し指でつつくと、今度は「あたしという妖精さんを、捕まえてごらんなさ〜い」と村中を駆け巡る。
 ご予約された刃馬は無理に追いかけることはせず、準備が整いつつある大八車へと足を向けた。そこには村の周辺について聞き込みした和奏(ia8807)がいる。
「お、そっちはどうだった?」
「昨年や一昨年に比べて、村総出で行った猟の獲物が少ないそうです。やはり空腹による苛立ちかと‥‥」
 一定の結論を導き出したところで、供物の飾りつけも終了。音楽を奏でて穏やかな心にするメンバーも準備万端だ。
「それじゃ、そろそろ行こうかね」
 朱麓は出発を宣言すると、大八車は音を立てて動き出す。村人も「がんばってくだされー!」と口々に応援。彼らを見送った。

●獣道を行く
 村を出ると、さっそく獣道に入る。分かれ道は少なく、迷うことはないそうだ。先頭は和奏と利穏、そして闇野 ハヤテ(ib6970)が歩き、すぐ後ろにハシが続く。オネエの目的は周知の事実だが、なるべくその辺には触れないように歩いた。
 キサラとリリィは大八車の後ろに乗り、「白い妖精」なる存在について話す。
「キサラ、妖精さんみつけて、一緒に遊びたいの〜」
「ええ、きっと見つかりますわ」
 リリィの美しく整えられた髪が、やさしい微笑みとさわやかな答えとともに揺れる。そんなお姉さんを見たキサラは、すぐに「うん」と頷いた。

 刃馬と弥次郎はせっせと大八車を引く。とっくの昔に紅葉は終わっており、頭上を覆う木々の枝にも葉は少ない。
「こりゃ〜、どんぐりもろくに成っとらん感じやなぁ。大猪であれなら、小動物はもっと厳しいかもしれんぞ」
 後ろを警戒する朱麓は「そんなにひどいかい?」と声をかけた。すると弥次郎は、渋い表情を見せる。
「大猪様は、餌を探しとるだけかもしれんな〜。村からの供物だけでなんとかなっとったんなら、今は相当に気が立っとるぞ!」
 村での予想に間違いはないとわかった時点で、演奏者たちはゆっくりと気持ちを作っていく。いつ大猪に出会ってもいいように、楽器の準備も怠らない。ここは相手の庭だ。こちらが油断して先手を取られたら、まさに目も当てられない。坂を上るたび、緊張の度合いが少しずつ高まった。

●大猪、出現!
 獣道を登ると、頭上が少し開けてきた。前方を見やれば、この先に問題の崖があるではないか。
 ハシは「あれじゃないのぉー!」と騒ぎ、この機に乗じてハヤテの背中に抱きついた。ふっふっふ、作戦成功‥‥と思いきや、相手はすぐさま身構える。崖の前を、大きなケモノが横切ったからだ。
「そして、あれが大猪ですか‥‥」
 大猪はがっちりとした巨体を揺らしながら、悠然と歩く。そして見慣れない連中を見つけると、すぐさま向きを変えた。その大きな鼻には、土や泥がついている。
「ココハ、我の土地ナリ。用がナクバ、早々ニ立ち去レ」
 口を開けば、人語を巧みに操る。なるほど神格化されるわけだ。全身肝っ玉の朱麓も、これには「へぇー!」と感心しきりである。
 しかし、動作はケモノっぽさが先行している。理知的に立ち退きを訴えているのに、もう前足で地面を何度も蹴っている。かなりの距離があるのに、鼻息の荒さはここまで聞こえるほどだ。やはり苛立っているのだろう。
 そこで先頭を歩いていたハヤテが、ゆっくりと大猪の前へ歩み出る。そして朱藩銃を持つと、すぐに遠くへ投げ捨てた。
「武器はありません‥‥話をしていただけませんか‥‥?」
 両手を広げてアピールするハヤテを見て、大猪はふと足を止める。
「我ノ前に立つカ。サレド、蛮勇トハ思えヌ」
 相手の興味がハヤテに向かったところで、朱麓は口笛を吹きながら干し柿を持ってハヤテの隣にまで出る。そして地面にどっかりと腰を下ろし、胡坐をかいて説得を開始した。
「ご覧の通り、あたしゃ裸も同然の格好をしてるんだよ? こんな無防備な女が、あんたみたいな強そうな奴に戦いを挑むと思ってかい」
 そう言いながら、干し柿を目の前に出し「自家製だよ」と大猪に勧める。
 続いてキサラも後ろから出てきた。少女はスカートの裾を持ってちょこんとお辞儀すると、まずは口笛で大猪の気持ちを落ち着かせる。
「おっきぃですの〜。落ち着いてほしいの〜」
 そこへハシが心の旋律を奏で、心に秘めた熱いパッションを歌に乗せる。
「ジュデ〜ム、だって愛してるから〜♪」
「我トハ、初対面ダト思うガ‥‥」
 さっきまでの怒りはどこへやら、大猪は大いに戸惑う。ここがチャンスと、ハシは偶像の歌にスイッチ。熱弁を振るう。
「もう、細かいことは気にしないのっ☆ 暴れたい気持ちはぁ、あたしにかもん! すべて受け止めるわ‥‥でも、優しくシテネ☆」
 どこまでが本気かわからない説得に、大猪の怒りはすっかり冷めてしまった。そして「意表を突かれた」と言わんばかりに鼻を振るう。
 するとリリィが前へ進み出て、大猪の前で淑女の礼を披露した。
「リリアーナ・ロードナイトと申します。無作法にもお邪魔してしまい、申し訳ありません。どうかお気を静めてくださいませんか?」
 うら若き一角獣の娘の後ろからは、いつものメイクを落としたKyrieが巫女の正装で現れる。そして利穏が飾った供物を見せ、自らは精霊の唄を捧げた。村人が教えてくれた言葉を大切に歌い上げ、さらに神の平穏を願う気持ちさえも伝える。

 この頃には、大猪はすっかりおとなしくなっていた。
 グッと落ち着いたのを見計らって、利穏が一礼をして近づき、用意した毛ブラシを使って大猪のブラッシングを始める。さっきまでなら跳ね飛ばす勢いだったケモノも、今では嫌がる気配すら見せない。利穏のやりたいことを、黙ってやらせている。それを見たキサラは「キサラもするの〜」と、お手伝いを始めた。
 もう遠慮はいらないだろうと、朱麓は干し柿を口元に差し出し、彼の本音を聞き出そうとする。
「で、怒ってた原因はなんだい?」
 大猪は短く嘆息し、理由を語り始める。
 大方の予想通り、今年の夏の暑さで餌となる動物が激減したのが原因だった。秋には村人から頂戴した供物も底を尽き、空腹で苛立っていたという。知性を持つ彼は状況を把握していたが、「人々に祭られている存在が餌をねだるのは格好がつかない」と悩んでいたのだ。
 これを聞いた和奏は、思わず「それは災難でしたね‥‥」と素直な感想を述べる。朱麓や利穏も、気の毒そうな表情で彼を見た。遭遇した時に見えた鼻先の泥は、餌を探るのに必死だった証拠である。
「ならば、これを捧げます。どうぞお納めください」
 Kyrieは供物のひとつを大事そうに持ち上げ、大猪の前に差し出す。正気に戻った彼は「ナラバ頂戴シヨウ」と、干し柿と一緒に食べ始めた。
「今度からは、村人にお願いするのがいいと思います‥‥みんな心配してましたから‥‥」
 ハヤテがそう切り出すと、大猪もひとつ頷く。
「人心荒れるハ、望むトコロではナイ。恥を忍ンデ頼むトシヨウ。青年、感謝スル」
 大猪から感謝されたハヤテは、その気持ちを素直に受け止め、心からの笑顔を見せた。

●紅い花への近道
 見事にひとつの難題を片付けたメンバーだが、仕事はまだ残っている。「紅い花に妖精がいるのか」を確認しなければならないのだ。和奏とハヤテは荒縄を持ち、崖の上を目指そうとするが‥‥その時、腹を満たそうとお食事中の大猪から、意外な言葉が飛び出す。
「ソノ上を目指すノカ。ナラバ、我に続ケ」
 なんでも崖を登るよりも安全に上へ行ける迂回路があるらしい。幼いキサラやリリィの身を案じ、大猪が自ら先導する。刃馬は喜んで大八車を押した。

 少し時間はかかったが、なんとか崖の上へと到着。その先には紅い花が、まるで身を寄せ合うように咲いている。それは燃えるように赤く、花びらはなぜか桜のような形をしていた。
 朱麓は「確かに珍しいねぇ」と言いながら、その脇へと近づく。彼女は「妖精がいたら儲けもの」くらいの気でいたので、寝転がってゆっくりと紅い花を愛でるつもりだった。
 ところが不意に、紅い花の中からひょいっと小さな物体が飛び上がる。こちらは真っ白な存在で、茎のストローを咥えていた。しかも、それは2体。ふわふわと空中を浮いている。
「あれ〜? こんなとこに何か用?」
「あんたたちを探しに来たんだけど‥‥もしかして、白い妖精?」
「うん、あたしたち、妖精だよ。みんなも蜜を飲みに来たのー?」
 大猪とは打って変わって、妖精さんはフリーダム。無警戒もいいとこである。
 しかし、キサラにとっては好都合。嬉しそうに駆け出し、妖精さんと友達になろうとがんばる。キサラは小鳥の囀りを使って小動物たちを呼び寄せ、楽しい時間を演出。妖精たちも「うわぁ〜!」と感心しきりだ。好奇心旺盛な妖精は、キサラの傍を飛び回る。もうキサラと妖精は、すっかりお友達になった。

●大猪と紅い花と白い妖精と
 あまりにもあっけなく見つかって拍子抜けだが、ひとまず目的を達した。
 ハヤテは蜜を吸う妖精を見ながら、白の色紙で妖精を折っている。目の前に実物がいるので、出来栄えもまた格別だろう。
 弥次郎は絵筆を取り、さっそく紅い花と白い妖精を描き始める。その後は大猪も描き、こちらは村人に手渡す予定だ。
「バッチリ描かんとな、バッチリ!」
 意気盛んな弥次郎に、リリィは膝掛けを渡す。
「こちらをどうぞ。晴れているとはいえ、じっとしていると冷えますから」
「お、ありがとな!」
 さらにリリィはみんなにお茶も振る舞い、しばし紅い花と白い妖精を愛でた。

 大猪の近くにはKyrieと和奏が控え、皆で遠くから妖精を見ている。
「アレが妖精ナル存在カ‥‥」
 ケモノの彼も妖精のことはあまりご存知ではないらしく、不思議そうに眺めていた。
 すると、Kyrieがあるお願いをする。
「大猪様、あの花は妖精たちの憩いの場でございます。この場は荒らさずに‥‥」
「ワカッタ。我ノ生キル間は、ソウ扱うトシヨウ」
 自分の怒りで周囲を破壊したことへの償いも兼ねて、とは大猪の弁である。和奏も「それがいいと思います」と答えた。

 本物の白い妖精に出会ったハシは、さっそく3人目の妖精となるべく、熱烈な自己アピールを開始。熱気ムンムンのダンスが、紅い花以上の華やかさを添える。
「花に妖精が‥‥って、発想がお花畑だけど、乙女チックでいいわよね〜。嫌いじゃないわ〜、うふふ〜♪」
 キサラと遊んでいた妖精がハシに近づき、大きな布が動く様をじっくりと見つめる。
「よーせいに‥‥なりたいの?」
「そうよ、あたしは白い妖精‥‥参ッ上!!」
 タメにタメた決め台詞を吐き、ピタッと止まるハシ。
「あー、あのね、キサラちゃんの次でいいなら、友達になってあげるよ!」
 エキセントリックなアピールが理解しづらかったのか、妖精さんは無難な返事をした。だが、ハシは妥協案を呑もうとはしない。
「ううん〜☆ 友達じゃないってばぁ〜☆ あたしを妖精にしてぇ〜♪ 夜咲く花にして〜☆」
 あくまでも仲間入りを目指すハシを見ながら、朱麓は「しょうがないねぇ」と寝そべったまま笑う。その隣には、リリィにもらった茶をすする利穏が座っていた。
「ところで、この噂の妖精というのは、いったいどういう存在なのでしょうかね?」
 利穏は素朴な疑問を口にすると、もうひとりの妖精が飛んできた。そして人差し指を口元に持ってきて、かわいく答える。
「ひーみーつー♪」
 本人が言うのだから、本当に秘密があるのだろう。利穏はますます首を傾げた。
「これは妖精に一本取られたね」
 朱麓はまた笑うと、しばし目を瞑って昼寝を楽しむ。大猪と紅い花と白い妖精がいるこの場所は、まだしばらく賑わうはずだ。