まるごと★かーにばる!
マスター名:村井朋靖
シナリオ形態: ショート
無料
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/11/06 21:41



■オープニング本文

●弥次郎ふたたび
 北面の片田舎にある屋敷の縁側で、草崎刃馬(iz0181)がのんびりと昼のひとときを過ごしていた。
 ここは草崎兄弟の自宅。口うるさい兄上は留守なので、堂々と客間に刀を並べ、それぞれの使い心地を確認している。
 刃馬は次から次へと新しい刀を買うもんだから、家に保管してある分の感触を忘れてしまうので、休日はこんなことばかりしていた。
「ま、諏訪の都合もあるから、留守番してないといけないんだけどさ〜♪」
 そう言いながら、あれやこれやと刀を抜いては何度か振っていると、庭先に賑やかな来客が乱入する。
「おー、刃馬ぁ! ちょっと手ぇ貸してくれー!」
 屋敷中に響くようなデカい声で喋るのは、友達の弥次郎。今日は迅鷹の鳥籠を背負わず、身軽な姿で登場する。
 肩で息をしているところを見ると、どうやら急いできたようだ。薄汚れた黒い着物姿で走り続けるのは、いくら志体持ちでも苦しい。
「あーあー、お前汗だくだな。水持ってくるから、ちょっと待ってろ!」
「すまんのぉ、刃馬ぁー」
 弥次郎は刃馬の気遣いに甘え、どっこらせと縁側に座って一息ついた。そこへ水がやってくると、うまそうに飲み干す。
「ぷはぁー! たまらんのぉ!」
「堪らんのはこっちだ。そんなに急いでどうした?」
 刃馬は息も整った友達を見下ろし、用件を尋ねる。まぁ、彼の口にする話といえば、だいたい儲け話と相場が決まっているが。
「仁生から南に行ったところに、もふら様の牧場があるんじゃが、今度そこでお祭りをすると聞いてのぉ」
 以前に比べて金になる話をするようになったところを見ると、いよいよ商才が開花したのだろうか。ひとまず刃馬は「よかったじゃねぇか」と喜ぶ。
 すると弥次郎は「まぁ、仕事はな‥‥」と言いつつ、視線を横に向けた。なるほど、ここからが本題らしい。
「今度の仕事は、着ぐるみをすっぽり被って、子どもたちの相手をするんじゃ! 例によって人手が足らんから、またギルドに頼んでくれや!」
 自分で仕事は取ってこれるようになったが、一通りの段取りをが組めないのはご愛嬌である。刃馬も「しょうがねぇなぁ」と口を利くことにした。
「ギルドに納める金の工面は、ちゃーんと村長に伝えてあるんじゃ!」
「そりゃ大きな進歩だな。俺も助かるよ」
「お前の分も用意してあるから、大船に乗ったつもりでおれよ!」
 弥次郎のいらぬ気遣いに、刃馬は思わず「それが余計だ!」と言いそうになるが、ここは敢えて堪えた。
 褒めたすぐ後に説教するというのは、あまりよろしくない。尊敬する兄上にも、「常日頃から人心をつかむ術を会得するために努力すべし」と言われている。
「な、なるほど。俺は弥次郎のために一肌脱げばいいんだな?」
「そういうことじゃー。今回は余計に一枚着る感じになるがのぉー! はっはっは!」
 弥次郎がドヤ顔で笑う間、刃馬は「やっぱり怒っていいかな?」と大いに悩んだ。

●お祭りの仕事
 翌日、刃馬は弥次郎に連れられ、村の倉庫へと足を運んだ。
 お祭りに使う楽器や衣装は、ここに保管されているという。刃馬はひとつずつ箱を開け、中身を確認する。
「着ぐるみって、何かと思えば『まるごとなんとか』のことかよ‥‥」
 刃馬は「まるごとじんおう」を取り出し、おもむろにそれを着ようとした。しかし、雇い主がそれに「待った」をかける。
「刃馬ぁ、お前はこれじゃ〜」
 弥次郎が手にしているのは、緑と白の色合いが鮮やかなネギの着ぐるみだった。
 刃馬はシノビの本能を全開にし、弥次郎の背後に忍び寄り、腕を使って音もなく首を絞める。
「お前はアホか! なんで俺にこれを用意するんだ! もういい! 死ね、死ぬのだ!」
「ぶ、ぶへ‥‥お、お前の兄貴に、これを用意せぇと言われて‥‥」
 信じていた兄上も敵かと思うと、刃馬の心はあっという間に荒んでいく。
「俺は兄上と違って、まだネギがダメなんだ!」
「そっ、それを治すのに、お、お前に必要だって言っとった! ウソじゃない! ぐ、ぐるじび‥‥」
 兄の配慮とあらばやむを得ぬ‥‥刃馬はしぶしぶ拘束を解いた。
 一方の弥次郎は「本気で絞めよった」と恨み節を言いながら、時間をかけて息を整える。
「雇い主の俺に手を出したんだから、お前はまるごとネギを着て商売に励むんじゃ!」
「はいはい、わかりましたよ‥‥」
 これも人心掌握と同じ修行と考えれば、少しは気も晴れるのだろうか‥‥ネギ恐怖症の刃馬にとっては苦しいが、村人にとっては楽しいお祭りだ。弥次郎には「当日は笑ってくれよ」と念を押される。
「ギルドから来るみんなには、まるごとなんとかを持ってきてもいいって伝えてくれ。お気に入りのがあったら、それを着たらええんじゃ」
 あとはみんなでお祭りを盛り上げるだけ。弥次郎は「どうじゃ、楽しかろう!」と同意を求めるも、すでに刃馬は拗ねていた。


■参加者一覧
小伝良 虎太郎(ia0375
18歳・男・泰
趙 彩虹(ia8292
21歳・女・泰
不破 颯(ib0495
25歳・男・弓
洸 桃蓮(ib5176
18歳・女・弓
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
玖雀(ib6816
29歳・男・シ
神爪 沙輝(ib7047
14歳・女・シ
嶽御前(ib7951
16歳・女・巫


■リプレイ本文

●まるごと準備
 もふら牧場の入口で、手持ちの祭太鼓がトントンと小気味いい音を奏でる。いよいよお祭りの始まりだ。
 今は昼下がり、とてもいい天気。これをご飯の合図と勘違いしたもふら様が、入口に大挙。これがお客の出迎えとなった。なんとも巧妙な仕掛けである。

 弥次郎は集まった開拓者たちを、牧場の片隅にある小屋へと通した。ここが今日の控え室である。
 ところが約一名、「まるごとにんけん」に着替えたものの、いつまでも部屋の片隅でうなだれている男がいた。玖雀(ib6816)である。
「はぁ‥‥なんで俺がこんなものを着る羽目に‥‥」
 彼の脳裏に、あの日の記憶が鮮やかに蘇る。籤で当てた着ぐるみを部屋の隅に投げつけたあの時、まさか仕事で着ることになろうとは思ってもいなかった。
 玖雀がヘコんでいると、「まるごとひつじ」を着た神爪 沙輝(ib7047)が近くにやってくる。なぜかこのひつじ、白虎らしき尻尾がひょこっと顔を出していた。
「あ、あの‥‥刃馬さんがそろそろだと‥‥」
「ああ、わかったよ」
 玖雀は草崎刃馬(iz0181)の苦悶の表情と身を震わせるネギ姿を思い出し、「俺とアイツは似てる」と小さく呟いた。少しビターな大人の世界のセリフだったのか、沙輝は小首を傾げる。
 そこへ耳と尻尾は自前の「まるごときつねさん」を着た洸 桃蓮(ib5176)が、残る演者を呼びに来た。
「皆さん、早くいらしてください。子どもたちが待ってますよ」
 純真無垢がゆえに何をするかわからない子どもたちに戦慄する玖雀。これを境に、彼の気質は犬へと変貌していく。

 この時すでに「まるごと隊」は大人気で、親子連れにもウケがいい。弥次郎は「大盤振舞じゃ〜!」と叫びながら、近づいてきた子どもに煎餅を配った。
 少し小柄な「まるごとこうりゅう」を着た小伝良 虎太郎(ia0375)は、たまに翼をはためかせて風を起こす。着ぐるみのかわいさも手伝って、虎太郎の無邪気さが存分に反映されていた。
「ぎゃーお、ぎゃーお!」
 そこにもふもふ歩いてくるのは、「まるごともふら」にもふらターバンと春風の羽を装備し、アル=カマル風のフェアリーもふらとなった不破 颯(ib0495)である。
「もふもふ〜、もふら妖精もふ〜」
 異国情緒あふれるもふらの登場に、本物のもふら様も「どちら様もふか?」と聞いてくる。このやり取りが子どもたちにウケた。
 颯が屋台に近づけば、その愛嬌で横入りしようとする子どもやもふら様に「ちゃんと順番にするもふ〜」とやんわり注意する。妖精さんの説得力はすさまじく、みんな素直になってしまう。颯もまんざらでもない気持ちになった。
 順番待ちをしている人々を盛り上げるのは、ジルベリアに住んでいるという二本足で歩くネズミ。これはリィムナ・ピサレット(ib5201)が、「まるごとねずみ」を着て演じている。
「やあ! ボク三月ー! みんな元気でちゅーか?」
 この魔法少女は「三月ねずみの伝説」に即して演じているというが、誰も知らないところを見るとかなりローカルなネタらしい。それでもリィムナの明るい性格が、みんなをどんどん笑顔にさせていく。
 列に並んでいない子どもの手を引き、軽快なステップでダンスを披露。それに疲れると手で仰ぎながら、妖精もふらの背中にドンと座ってソファー代わりにするなど、とにかく話題を振りまく三月ネズミのリィムナである。
 ここにまるごと着ただけ状態の玖雀と刃馬が通りがかり、まるで示し合わせたかのように溜息を漏らした。
「俺たちゃ、あそこまでがんばれないよ‥‥」
 だが子どもたちは無情にも、ネギと忍犬に狙いを定める。ネギにはパンチを、犬にはお手を。ふたりのプライドは音を立てて崩れ、その瓦礫は金槌で粉砕されていく。
「おとーちゃん! にんけんってかしこいんでしょー?」
「そうだよ。だからご主人様の言いつけを守れるんだ。ほら、次はお座りを試してごらん」
 親子の団らんに、異論を差し挟む余地はない。玖雀は心で泣きながら、次の芸を披露した。たまに嗚咽にも似た声で鳴くが、お客さんにはご愛嬌に聞こえているだろう。

●まるごと打ち合わせ
「何! 俺がやられ役だって!」
 いったん控え室に戻った刃馬を待っていたのは、舞台で行う『まるごと劇』の打ち合わせだった。
 桃蓮はデカいネギから顔を背けながら、冷静を装って説得を続ける。
「露骨に嫌がるのはわかります。だから宴会では、お酌に付き合いますから‥‥」
 いくらヘソを曲げようとも、さっきまで子どもたちに殴られていたのは揺るがしようのない事実である。現実は無情‥‥刃馬は「わかったよ」と了承した。
 それを見た桃蓮は「ご心痛をお察しします」と、やけに神妙な口調で呟く。虎太郎はこの一部始終を「ネギ怖い、ネギ怖い」と言いながら、物陰から伺っていた。

 説得成功と知り、鍛冶屋で強化を重ねた「まるごととらさん」を脱ぐ趙 彩虹(ia8292)。ここから先は未改造版を着て、舞台に挑む。
「まるごととらさん愛用者として、しっかりと役目を果たす!」
 気合いが入りまくりの彩虹を、ひつじさんの沙輝がじーっと見つめていた。少女は「もしかしたら同じ部族のお姉さん?」と思っていたが、簡単に脱いだのを見て驚く。
「そう、なんだ‥‥」
 ちょっぴり悲しそうな声を出すが、すぐに気を取り直して刃馬の元へ。沙輝は不要な騒動を起こさぬよう、彼にアドバイスを送る。
「草崎さん。ご自分の格好をできるだけ見ないように、そして考えないようにがんばってください」
 刃馬はハッとした。確かに自分を客観的に見てばネギだが、脚だけ見れば白いタイツを履いているだけのこと。無駄に艶かしいスタイルと思えなくもない。
 ネギは沙輝のおかげで、少し気を取り直した。しかしそれを阻止する奴がいることを、刃馬はまだ知らない。

 ステージ近くでは、客寄せよろしく「まるごとにゃんこ」に身を包んだ嶽御前(ib7951)が動いた。彼女は子どもたちにキャンディボックスから飴を出して振る舞っている。
 その時に「これから劇をしますけど、いろいろ動きますから。ちょっと離れて見てくださいね」と注意事項を伝えた。ただの一般人が開拓者の暴走に巻き込まれてはひとたまりもない。嶽御前はそれを防ぐため、早くも予防線を張っていた。
 そこにたまたまリィムナが通りがかると、ネコとネズミの睨み合いに発展。嶽御前が「ふしゃー!」と牽制すると、三月さんは子どもの後ろに隠れてビクビクする。舞台が始まる前から、観客席は盛り上がっていた。

●まるごと劇!
 夕暮れが迫る頃。いよいよ「まるごと劇」の幕が上がる。
 まず登場したのが、この村を征服しようとやってきたアヤカシのネギ魔人、通称「アヤネギ」の刃馬。自分の姿をイメージしない戦法が功を奏し、今はうまく演技に集中できている。
 そこに駆けつけたのが、正義の着ぐるみ軍団。中央で悪役を気取る刃馬を、上手と下手から挟み撃ちにした。ただ数体、直視を避けているまるごとさんが存在しているが。
「止まるんだネギィ〜。このまま止まらなかったら‥‥お料理、し・ちゃ・う・ぞ☆」
 フェアリーもふらが山姥包丁とフライパンを持ち出して討伐を宣言すると、虎太郎も「そーだそーだ!」と勢いに任せて声を上げる。それを見た観客の子どもたちも一緒になって拳を振り上げた。
 ここで予想外‥‥いや、想定内のハプニングが発生。リィムナが扮する三月さんが前へ出たかと思うと、手品のように長ネギを取り出したではないか!
「やあ、これ立派な長ネギステッキ! 正義の力でアヤネギを倒す武器だちゅー!」
 刃馬はおろか、虎太郎と桃蓮にも戦慄が走る。これは聞いていない。面越しにでも、焦りの表情が見て取れた。
 リィムナはホーリーコートで長ネギステッキを発光させ、常に視線を外さないように演出。ネギ嫌いの皆さんにプレッシャーを与えていく。
「今がチャンスちゅー! ぽち、にんけんアタック!!」
 三月さんに指示されるも、玖雀はまったく気乗りしない。自然と首を傾げようとしたが、不意に子どもたちの熱い声援が聞こえて自重。そして複雑な気持ちを胸の奥にしまいこむように「‥‥わん」と吠え、懸命に両手両足を動かしての体当たりを敢行する。
「こんな動作したことないから、加減がわからん‥‥」
 手探りの状態で攻撃するも、アヤネギにはダメージあり。そこへ尻尾の長いひつじさんの沙輝が抜足で近づき、刃馬の耳元までジャンプして手を叩く。
「えいっ」
「うぉあっ! ビックリしたー!」
 まさか技能を駆使するとは思ってなかったのか、刃馬は大いに驚く。実はこの時、嶽御前が沙輝に対して神楽舞「速」を付与していたのだ。彼女の舞は、まるで猫のダンスにも見える。
 ネギがやられているのを見たからか、それとも長くネギを見すぎたからか‥‥きつねさんの桃蓮は、仲間たちにさらなる奮起を促した。
「皆さん、がんばってください! 憎きネギはマッサツです!」
 それを聞いた刃馬は桃蓮の方を見て、思わず「そりゃねぇよ!」と叫んだ。お客さんには「アヤネギも死にたくないのかー」と受け止められるので、問題はない。劇はそのまま進む。
 そこで生まれた隙を、リィムナは見逃さない。すばやくアヤネギの後ろに回り込み、低い体勢からお尻に向かって葱突を敢行。アヤネギのお尻に聖なるネギが刺された!
「ほぐわっ! お、お尻にネギが! ネギが刺さったー!」
 今まで意識して見ないようにしてたネギを意外な形で見せられ、刃馬は完全に錯乱状態になった。彼は顔を露出しているので、ダメ状態になったのは丸わかりである。
 すぐさま全員が動き出す。ひつじさんの沙輝は早駆を使って、アヤネギの周囲を走る。尻尾がピンと立ち、懸命さを表していた。
「めーめーです!」
 彼の視線が下へ向いたのを確認し、ぽちの玖雀は体を預けるようにタックルを仕掛けた。
「わんわん!」
「のうわ!」
 アヤネギは頭を舞台の奥に向かって倒れ、しこたま顔面を打ちつけてしまう。そこはにゃんこの嶽御前が神風恩寵で即座に回復。舞台で血を見せぬ配慮が光った。
 刃馬の顔の前へ、まるごととらさんの彩虹が駆け寄る。それを見た虎太郎が「あれをする気だ!」と察知。自分も同じ方向へと走った。
「荒ぶる虎のポーズ!」
 彩虹が両手を振り上げて百獣の牙のポーズを仕掛けると、アヤネギはビクッと身を硬くした。
 間髪置かず、虎太郎も昇竜の翼のポーズを披露する。
「まるごとこうりゅうのポーズ!!」
「ひにゃあぁぁぁ!」
 刃馬に暴走とは別の症状が出始めたので、三月さんはアムルリープで決着を狙う。
「葱塵睡波でちゅー!」
「ビクン! ふあぁぁ‥‥」
 うまくアヤネギが眠ったので、着ぐるみ軍団は観客に対して勝利をアピール。万雷の拍手の中、劇は無事に終了した。
 颯はせっせと刃馬をロープで縛り、それを加えて「さ、料理もふ〜」と怖いセリフを呟きつつ、舞台から退場。すっかり人気者になった軍団も一度は袖に引っ込んだ。

●まるごと宴会
 日が暮れると、牧場の一角は色鮮やかな提灯で照らされた。そろそろ子どもたちは、家に帰る時間である。
 彩虹は白虎を模した改造版に着替えなおし、子どもたちと手をつないで出口まで歩いた。この姿で戦うおねーさんは、すっかり人気者。この場に欠かせぬ存在となった。
 また耳と尻尾がリアルに動くきつねさんの桃蓮、ひつじさんらしからぬ尻尾を持つ沙輝も女の子に人気。劇で見せたこうりゅうのカッコよさに惹かれた勇ましい男の子は虎太郎、心優しい少年たちは忠犬ぽちの玖雀と一緒に歩く。
「じゃあ、気をつけて帰ってくださいね」
 彩虹がそういうと、三月さんのリィムナもにゃんこの嶽御前も仲良く並んで手を振る。
 フェアリーもふらの颯は、少しだけ前に歩み出てから「またね〜もふ!」と見送った。彼の後ろには、本物のもふら様たちが一緒になって手を振っている。
 親である大人たちは丁寧にお辞儀をして、子どもの手を引いて家路へと向かった。

 この後はお祭りの関係者だけが楽しむ時間だ。つまり打ち上げの宴会である。
 仕事が終わったと知るや、玖雀はさっさと普段の姿に戻ってひとりで酒を煽った。それを見つけた弥次郎は「一人酒はいかんじゃろ!」と隣に座る。彼の隣には刃馬もおり、なんとも神妙な面持ちでイカ焼きを淡々と食らっていた。
「‥‥お互い、仕事とはいえ苦労するな」
 玖雀は眉間を押さえながら、刃馬の肩に手をやった。
「実はさ、劇のアレ‥‥ちょっとだけ刺さってた」
 衝撃の告白に、玖雀と弥次郎は地面に杯を落とす。不運にもお酌の約束をした桃蓮もここだけはしっかり聞いてしまい、ネギのごとく顔面蒼白。思わず酒瓶を割ってしまうところだった。
 その後、刃馬を励ます会が盛大に催される。みんなの乾いた笑いに包まれては、刃馬は酔うに酔えない。つい水を差すような本音を口にしてしまう。
「みんな‥‥実はやさしいんだなぁ」
 刃馬の一言が、みんなの胸に突き刺さる。桃蓮はその空気に耐えかねて「孤独にがんばってたんですね‥‥」と言い残し、彩虹たちの輪へと逃げた。
 そこには妖精のままで酒を飲む颯と遠慮なく食べるもふら様たちが車座になっている。その近くに虎太郎やリィムナ、そして彩虹と沙輝がいた。
「あれ、嶽御前さんは‥‥?」
 桃蓮がそう言うと、虎太郎が「はいはーい!」と手を上げて返事する。
「あー、おいら知ってる! 悪酔いしたオジサンに解毒してた!」
 彼女は納得の表情をすると、彩虹のところへと向かった。その隣には、沙輝がちょこんと座っている。
「桃蓮様、ご覧になって。沙輝様は本当に白虎さんなんです!」
 そう言われた沙輝は、恐縮に思ったのか慌てて頭を下げる。
「でも、彩虹さんが今着ているまるとらもご立派ですよ」
 桃蓮がお酌をしながらそう言うが、彩虹は少し寂しげに話す。
「戦闘に耐えられるように少しずつ改造したり、憧れの白虎を模してみたり。本物ではないからこそのこだわりとか‥‥あるんです」
「私も本物じゃないですけど、よかったら参考に‥‥」
 沙輝が勇気を振り絞ってそう切り出すと、彩虹は急に「いいの?!」と嬉しそうに言った。注がれたお酒がいい具合に回ったらしい。自分のまるとらと沙輝を見比べる作業が、この後しばし続いた。
 その様子を見ながら、激しくお食事していたリィムナと虎太郎が感想を述べる。
「やっぱり好きって違うよねー。あれ? 虎太郎って、ネギ食べられるんだ?」
「見るのはヤだけど、料理されたのは大丈夫だよ〜」
 えっへんと胸を張る虎太郎に対して、リィムナはまた本物のネギを取り出す。それに驚く虎太郎。また病人が出たのかと飛んでくる嶽御前‥‥お祭りの大騒ぎは、まだ終わりそうにないらしい。