枯れ井戸スコープ
マスター名:村井朋靖
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/06/23 17:36



■オープニング本文

●刃馬と弥次郎
 北面の都・仁生まで出てきた草崎刃馬(iz0181)は、久々に刀屋巡りを堪能した。
 その手には一振りの刀が握られている。それをまざまざと見つめているところを見ると、どうやら満足のいく買い物ができたようだ。
「鋒両刃造りの刀は、あんまり趣味じゃないけどなー。ま、使い込めば、独特の味が出るんだろう」
 鞘に品のいい装飾が施された刀を衝動買いした刃馬は、そう言い聞かせて自分を必死に騙した。ずいぶんと値の張るものを買ったらしい。
 そのうち「家に帰れば、良識ある兄に叱られるんだし」とすっぱり諦め、小腹の満たすために露店のある方へと足を向けた。

 この頃すでに昼を過ぎており、露店は晩御飯の支度に取り掛かろうとする者で賑わっている。
「買ってすぐのを盗まれるとやだし、今日は果物で済ますかな」
 そんなことを考えていると、ある若者が刃馬の名を呼ぶ。あまりにデカい声で、周囲の者たちが驚くほどだ。
「おおー、刃馬ぁ! 元気にしとるかー!」
 少し訛りのある喋りだが、本人はまったく気にしない。屈託のない笑顔を浮かべながら、刃馬の元へ駆け寄る。
 この若者、見た目は完全に行商人。実にたくさんのものを背負っている一方で、なぜか腰に刀を差していた。
「仁生でそんなデカい声出せるのは、弥次郎くらいなもんだな!」
 このふたり、どうやら知り合いらしい。
 弥次郎と呼ばれた青年は、刃馬が買った刀を見て「ああ!」と声を上げた。
「まーた、刀を買うたんか! そんなもん買うんなら、俺の迅鷹用鳥籠を買うてくれや!」
「それは鷹匠にでも売れよなー。弥次郎はサムライだから、商売が下手なんだよな‥‥」
 どうやら弥次郎なる男も、実は志体持ちらしい。しかし刀を振るって戦うことをせず、普段から仁生を練り歩き、商売に励んでいるのだ。
 しかし商才が目覚めることはなく、大金を手にすることは非常に稀。なんとも要領は悪いが、どこか憎めない男なので、だいたいの人に好かれている‥‥それが弥次郎だ。
「おお、忘れとった! 今度、ここの外れにある村の井戸を修繕するんじゃ!」
 せっかく心配してやったのに、デカい儲けの話を聞かされた刃馬は「やるじゃねぇか!」と一緒になって喜んだ。
「ほんでもよ、修繕する前に‥‥アヤカシ退治をせなあかん」
 ここまで声を張っていた弥次郎がしょぼんした声を出すとともに、がっくりと肩を落とす。刃馬は何事かと話を聞いた。

 問題の井戸は昔からあり、長く村の生活を支えてきた大きく立派なものだ。
 最近になって老朽化が激しくなったので、村長は安全を確保するためにも弥次郎に修繕を依頼。本人も準備を整えた。
 しかし数日前、ふとしたことで「中止」の連絡が入る。張り切っていた弥次郎は「なぜに!」と騒ぐと、村長はこう答えたという。
「なんでも、テラテラと肌の光る蝦蟇が3匹ほど棲みつきよったそうじゃ‥‥」
 刃馬は村の位置を聞いた時から、やたらと川から遠いのが引っかかっていた。
「アヤカシがいいとこ見つけた、ってことか」
「そうじゃ。水を汲もうとすると、長い舌を飛ばして村のもんを食おうとするらしい。これをなんとかせんと、修繕できん」
 刃馬は「お前は機転が利かんな!」と呆れた。
「餅は餅屋というだろ? そういうのは開拓者ギルドに頼めばいいんだ」
「そんなこと言うたら、俺の‥‥俺の取り分が、減るだろがぁ!」
「それは別料金に決まってんだろ! 村長だって、依頼料くらい別に用意するって! ああ、めんどくせぇ! もう俺に任せろ!」
 いつの間にやら腹の減ったことを忘れた刃馬は、弥次郎の袖を引っ張って開拓者ギルドへと向かう。そこで自分もアヤカシ退治に名乗りを上げ、村長の説得も行うことにした。

●煌く井戸?
 一方、問題の村。
 村長は窮地を救わんとする開拓者がやってくるまで、井戸には近づかないように指示を出す。水は別の方法で調達し、当面はそれで持ちこたえることになった。
 井戸の中は、蝦蟇の油でキラキラと幻想的に光っている。時折、蝦蟇が顔を出し、勝ち誇ったかのように「ゲコゲコ」と鳴いていた。
 この連中はずっと待ち伏せを狙っていたが、村人が覗きに来ないと知れば、今度は村に出てくるかもしれない。
「ゲコゲコ、ゲコゲコ‥‥」
 漆黒の闇に、蝦蟇の鳴き声が不気味に木霊する。


■参加者一覧
葛城 深墨(ia0422
21歳・男・陰
倉城 紬(ia5229
20歳・女・巫
ペケ(ia5365
18歳・女・シ
エルディン・バウアー(ib0066
28歳・男・魔
ジークフリード(ib0431
17歳・男・騎
羽喰 琥珀(ib3263
12歳・男・志
レジーナ・シュタイネル(ib3707
19歳・女・泰
笹倉 靖(ib6125
23歳・男・巫


■リプレイ本文

●万華鏡対策?
 アヤカシ在中の危険な井戸も、開拓者なら近づくことができる。
 そこでレジーナ・シュタイネル(ib3707)は恐る恐る、葛城 深墨(ia0422)は何気なく井戸の中を覗いた。
「油、でしょうか。テラテラ光って、万華鏡みたい‥‥です、ね」
「アヤカシがいるんでなけりゃ、村の子どもにも見せてやりたいがね」
 これは蝦蟇の偵察も兼ねているので、深墨は目を細めたりして水面をじっくり確認した。

 その間、ペケ(ia5365)は村人にお願いして、大きな風呂敷を借りてくる。
 みんなで蝦蟇を誘き出したはいいが、また井戸に引っ込まれると厄介だ。そこで住処に戻るのを防ぐため、風呂敷で蓋をしてしまおうと考えたのである。
「目の前にあるのに使えないって状態は、井戸に限らずウザイですよね?」
 近くにいた男3人が「そりゃそうだ」とばかりに、「うんうん」と頷く。
 ひとりはギルドに依頼を出した草崎刃馬(iz0181)。その刃馬を相手に遊んでいるやんちゃな羽喰 琥珀(ib3263)、そしてキセルで一服中の笹倉 靖(ib6125)である。
「刃馬にしてみりゃ、ネギよかマシか? ネギも蝦蟇の油も、万病に効くっていうけどね」
「どっちもアヤカシ製だから、信用できねぇけどな!」
 靖は刃馬の物言いを聞き、「まーねー」と同意する。さすがにアヤカシの油を塗れば、傷が悪化しそうだ。
 怒りの剣・グニェーフソードを抜いて戦いの時を待つジークフリード(ib0431)は、毒にしかならない敵の討伐を誓う。
「蝦蟇退治ってのは締まらないけど、被害が出る前になんとかしないとな!」
 退治に向けた作業も進んでいる。井戸の修繕を担当する弥次郎は仕事の準備を、倉城 紬(ia5229)は井戸の周辺に水を撒いていた。
 いつも水の中にいる蝦蟇が陸に立った時、暑さを感じて逆戻りするかもしれない‥‥ここに向かう道中、エルディン・バウアー(ib0066)が懸念を口にした。紬も「なるほど」と納得した上で、村人から桶と柄杓を借り、せっせと水撒きを手伝っている。
「すみませんね、紬殿の手を煩わせてしまって」
「あ、いえ。ど、どうも‥‥」
 不意に神父から声をかけられると、紬の顔は一気に紅潮する。そしてさらに俯きがちな体勢になり、水撒きに没頭した。
 エルディンは少女の仕事を邪魔せぬよう、適当なところで仕事を切り上げ、仲間の前で幼少の思い出を語る。
「蛙といえば。沼地に棒切れのような釣竿とバケツを持って、蛙釣りをしたことがありました」
 神父の意外な過去に、琥珀や靖は「へぇ〜」と興味を示す。エルディンは身振りを交えて、当時の様子を再現。ホーリースタッフを釣竿に見立てて、くいくいっと動かして見せる。
「本当は鶏肉あたりをぶら下げるといいらしいのですが‥‥」
 それを聞いた深墨が、なぜか笑いを堪えながら神父の目の前を通過する。
「今回は6尺くらいあるから、そのくらい上等な餌がいるかもな。ああ、釣竿はそれでいいか?」
「そ、そんな大きな蛙ですって! い、今のは懐かしきイメージなのでっ!」
 ここにいる者よりもデカい蝦蟇を釣ろうなんて、なんと現実味のない話であろうか。
 しかし琥珀はすっかり乗ってしまい、弥次郎に「鶏肉とか持ってない?」と聞きに行く始末。神父は必死に首を振った。
「こ、今回は予定通り、深墨殿の立てた作戦で参りましょう。各個撃破です」
 靖は「ホントにそうする?」と意地悪に聞けば、エルディンも「ホントにそうします」と必死に返した。

●不気味な蝦蟇
 作戦は3班に分かれて行われる。
 1匹目を【甲】班、2匹目を【乙】班、3匹目を【丙】班が担当。最後に動く【丙】班は2匹目までの誘き出しを担当し、さらに最後の1匹が出た瞬間に井戸を塞ぐ役目も負う手はずだ。

 肝心の誘き出しは【丙】班のペケとジーク、刃馬が担当。さっそく井戸を覗き込んで挑発を開始する。
「俺は牙無き民の剣、ジークフリード・マクファーレン! アヤカシども、出て来い!」
 威勢のいい声に反応して、さっそく1匹目が巧みに壁を蹴って上がってくる。ペケは活発な蝦蟇の姿を見た瞬間、思わず褌が下がった。
「!! な、何コレ?!」
「驚くのも無理はねぇけどよ。さっさと褌上げて隠れろ!」
 そういう刃馬も慌てて刀を抜くところを見ると、どうやら想像を絶する外見らしい。この時、他の班は心中穏やかではなかった。
 ペケは埋伏りで、井戸の脇に潜む。これで3匹目までやり過ごそうというのだ。

 敵の出現を察知するや、紬は【甲】班の前衛に立つ琥珀と靖に神楽舞『脚』を舞って、移動力と回避を増強。さらに靖も神楽舞・攻を琥珀に施す。
「みんな、あんがとー!」
 屈託のない笑顔でお礼を述べた琥珀は、【甲】班の先頭に立って蝦蟇に対峙する。血色の悪そうなお肌に、逆効果の油がついたデカい蝦蟇の姿は、誰が見ても絶叫ものだ。
「おー、カエルもこんだけデケーと迫力あんなー」
 琥珀は朱天の柄に手をかけ、そのまま攻撃‥‥と思いきや、後方で待機していた深墨がすかさず呪縛符を飛ばす。妖精が蝦蟇に向かったと思えば、そのまま束縛を始める。
「‥‥よし、ちゃんと援護するから。あとは前衛に任せたぜ‥‥」
 相手の姿を見て、深墨はゾッとした。同じ感想を靖も抱いていたが、これを倒さないと話が進まない。やむなく破邪の剣で攻撃を始めた。
「ゴゲッ! ゲゴッ!」
「井戸から引き離すためとはいえ‥‥うっはぁ、気持ち悪いな」
 白き刃はアヤカシの体を切り裂き、なんとも珍妙な悲鳴を引き出す。靖が蝦蟇を誘導する際、琥珀は先回りして待機。敵の視界に入るよう、うまく調整する。
 こんなにチョロチョロされると、蝦蟇もイライラする。そこで「ゲゲッ!」と舌を伸ばし、琥珀の動きを抑制しようと反撃した。
「それを待ってたっつーの!」
 琥珀は伸びてくる舌を避けると、そのまま雁金でカウンターを狙う。舌の前に刃があることを知って蝦蟇は驚くが、もはや後の祭り。
「ゴゲッゴゲェー!」
 蝦蟇は慌てて舌を巻き戻し、口をごもごもさせる。手応えはあったが、切断には至らず。琥珀はすかさず銀杏を駆使して納刀した。

 舌を傷つけられた時の悲鳴を聞きつけ、2匹目の蝦蟇が顔を覗かせた。仲間は苦戦しているが、餌だらけという状況はなんとも魅力的。彼も地面に足をつけた。
 それと同時に、2匹目担当の【乙】班が動き出す。紬の神楽舞『脚』は、レジーナに与えられた。
 敵が井戸から離れたと見るや、エルディンは蝦蟇をアムルリープで眠らせる。そこへレジーナが旋蹴落で、強烈なお目覚めの一撃を放った。
「‥‥逃がしません、よ」
 脳天をドツかれた蝦蟇は痛さにビックリして起きたが、今度はめまい状態になる。神父はホーリーアローを放ちながら、蝦蟇に対して不満をぶちまけた。
「なんて‥‥ぶっさいくな! この美しい私に退治されてしまいなさい!」
 不細工だわ、下品だわ、そのくせデカいんだわ‥‥誰もが思ったことを代弁してくれたエルディンに賛辞を送る者が絶えない。
 井戸から出てきていいとこなしの蝦蟇は、レジーナに驚きの跳躍力から放たれるキックで反撃する。しかしよく見ると、これはもはやヒップアタックも同然だ。
「さっ、さすがにこれは‥‥」
 普段は冷静なレジーナも、この時ばかりは気合いを入れて回避。井戸から遠い場所に向かって前転し、すぐさま背拳で【甲】班が相手する蝦蟇の動きにも注意を払った。

●瘴気となれ!
 外の騒ぎを察知したのか、肝心の3匹目が出てこない。これでは井戸の防衛が難しくなる。息を潜めるペケや、戦闘を受け持つジークに焦りの色が見え始めた。
 すると紬がやってきて、奥の手を使う。なんと井戸の中に向かって氷霊結を行使したのだ。
「と、冬眠しない程度に‥‥」
 井戸の奥からはパリパリという音が響いたかと思うと、奥から「ゲゲッ!」という蝦蟇の声が続いて聞こえた。苦悶の声である。
「むっ、そろそろか?」
 ジークが剣を構えて待っていると、ちょうど正面に3匹目が現れた。彼はオーラで橙色の輝きをまとい、じりじりと後ろへ下がる。
「ガードも使いたかったが‥‥それがなくても耐えるぜ」
 ジークの派手さを感じ取った蝦蟇は、そのまま彼を襲う。しなる舌に体当たりという連続攻撃は、大いにジークを翻弄。初撃の舌こそ避けたが、体当たりは食らってしまった。
 しかしそれでも、ジークは気丈に振る舞う。
「こうなったらこっちのもんだ! こいつは任せろ!!」
 その一声を合図に、ペケと刃馬が動く。ペケは奔刃術を駆使し、すぐさま井戸の口を大風呂敷で覆った。
「刃馬さん、荒縄を早く!」
「おお、やってるぜ! あ、こっちの端を持ってって、そっちで括ってくれ!」
 ふたりで手早く仮住まいの玄関を塞ぎ、蝦蟇は各班で孤立させた。これであとはアヤカシを倒すだけ。
 孤軍奮闘するジークの元に刃馬が助太刀に入り、さらに紬がジークに神楽舞『脚』でフォロー。いよいよ本格的な討伐が開始した。

 深墨は【甲】班が受け持つ1匹目に呪声を聞かせ、蝦蟇を大いに翻弄する。傷ついた舌を出して叫べないのが、いかにも苦しそうだ。
「そんなに無理すんなって!」
 琥珀は居合で油の少ない目を狙う。もはや我慢ばかりの状態になった蝦蟇に勝機はない。靖も容赦なく剣を振りかざした。
「急に近づかれると心臓に悪いからさ。もう勘弁してほしいね」
 そう言いながら突き立てた刃は、深々と蝦蟇の腹を切り裂いた。蝦蟇はそこから瘴気となって、どんどんその形を失う。

 残すは2匹。深墨はレジーナが相手する蝦蟇に呪縛符を放ち、行動の抑制を狙う。
「こっちは片付けたから、俺たちが手伝うよ。まぁ、俺は木の影からだけどさ」
 よほど敵に近づかれたくないらしく、深墨はギリギリの距離を保っての援護を続ける。その気持ちが符にも乗ったのか、蝦蟇の束縛に成功した。
 さらにエルディンが「もう見ていられません!」と悲しい表情をしながら、動きが鈍くなった敵に向かってアイヴィーバインドで捕らえる。さらに動けなくなった蝦蟇は、もはやサンドバックも同然。
 レジーナは最後の1匹を警戒すべく、再び背拳を使った後、遠慮なく敵に拳を振り下ろす。
「強く、ならなくちゃ‥‥」
 金色の一閃が瞬くたび、蝦蟇の口から嗚咽が漏れた。ついでに目からは涙、体からは油がダラダラと流す。あまりの醜さに、あの神父様が閉口した。
 そこへ再び靖の神楽舞・攻の効果を帯びた琥珀が乱入。アヤカシも必死の抵抗で舌を鞭のように伸ばすも、このふたりには命中しない。
 最後はレジーナが気合いのこもった突きで決着がついた。
「ゲゲ! ロゲェェ‥‥」
「ジークフリードさんと、刃馬さんの援護に‥‥」
 レジーナはすぐさま【丙】班の援護を呼びかけ、同じく全員が動き出した。

 仕掛けを終えた【丙】班は、すでに戦闘態勢に切り替えている。ジークと刃馬が前衛に陣取り、ペケが隙を狙って打撃で攻めるという戦法だ。
 しかし蝦蟇も仲間が消えたと知るや、必死の反撃を繰り出す。オーラで目立ったジークを狙っての攻撃が多く、ここまでにもう一撃をもらっていた。そのたびに刃馬が前に出るが、簡単に目標を変えてはくれない。
「どうやらネギにしか好かれねぇらしいな、俺は」
 ジークへの攻撃を自分に向けたい刃馬だが、思うようにいかない。それは神出鬼没の攻撃を繰り出すペケも同じで、なかなか戦況を好転させるのは難しかった。
 そこへ蝦蟇退治に成功した2班が合流、一気に形勢が逆転する。深墨はおなじみとなった呪縛符を使った束縛を、エルディンは醜いアヤカシを貫くホーリーアローを放った。
 紬はジークに閃癒を施して怪我の治療を行い、琥珀・靖・レジーナは続けざまに攻撃を当てていく。
「ジークフリートさん‥‥危険な役割、ありがとうございます。もう、大丈夫です」
 その声に奮起したのか、ジークは蝦蟇の反撃を耐え抜き、ポイントアタックで目に一撃を見舞う。
「これでも騎士だぜ! 井戸も人も、護るのは俺の仕事だ!」
 気合いの入った一撃を食らった蝦蟇は、目を押さえながら「ゴゲーゴゲー」と苦悶の声を上げた。そしてよろよろと逃げ出そうとするが、いかんせん視界がよろしくない。敵は木にぶつかってその場に倒れこんだ。
 深墨は「やれやれ」と言いながら、霊青打を施したショートスピアを持って現れる。
「逃げるっていうのなら、仕方ない。俺がトドメを刺すか」
 蝦蟇にこの一撃を耐える元気はなく、舌も油も等しく瘴気となって消え去る。3匹の蝦蟇討伐は、成功を収めた。

●油を取るには?
 アヤカシの脅威は消えたものの、蝦蟇の油で万華鏡のように見える井戸をそのまま使わせるのは、なんとも心苦しい。
 レジーナと靖は協力して、表面に浮かぶ油を汲んでは捨てたが、いかんせん井戸が大きくて作業が追いつかない。そこで琥珀が「なんか紙みたいなので吸ったら?」と言い、エルディンが村長から和紙をもらって実験を開始する。これなら井戸についた油も、水面に浮かぶ油もきれいさっぱり回収できた。
「うんうん、何度かやればきれーになるぜ!」
 琥珀は神父とハイタッチして喜ぶ。作戦の成功を見届けたレジーナと靖は、村人と一緒に近くの川まで新鮮な水を汲みに行くことにした。
「ま、すぐさま井戸が直るってわけじゃねーだろうからな」
「本格的な修理は‥‥弥次郎さんが、がんばられるでしょうし」
 今の今まで準備に追われていた弥次郎は白い鉢巻をして登場。気合い十分で井戸の修繕に着手する。
「その辺は俺に任せとけ! きちっと直しとくぞー!」
 そんな彼の力強い言葉を聞いた深墨も、村人と茶をすすりながらではあるが「がんばってくださいね!」と声援を送る。村人からは拍手も起こった。

 仕事の仕上げにと、エルディンはきれいになった井戸の水を汲み、そそくさと刃馬に差し出す。
「ね、刃馬殿。飲んでみてください。やだなぁ、毒見させようなんて思ってませんよ」
 毒見と聞いた仲間たちの行動やリアクションは早い。
 ペケはすかさず物陰に逃げ、ジークは団子を喉に詰まらせた。紬は「誰が飲むのでしょう」と、周囲の状況を上目遣いに伺う。
「ちょっとさ、テカってるように見えるのはさ‥‥俺の気のせ」
「気のせいです」
 神父が断言すれば、周囲もつい納得してしまうというもの。孤立無援となった刃馬は覚悟を決め、ぐいっと飲み干した。
「ぷはぁー! ま、まぁ、飲めるんじゃないか? 普通に水の味がするし‥‥」
 彼の勇気ある行動に、誰もが拍手を送った。
 しかし刃馬は気づいていない。その唇が油でテカっていることに‥‥それを見たエルディンは、琥珀と弥次郎に「刃馬殿が行ったら、もう少しやりましょう」と耳打ちした。

 今はこの状態でも、この井戸が以前のように使われる日は近い。メンバーも村人たちも、それを確信した。