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■オープニング本文 ●手習い中 「サンタ。これ洗濯」 習字の練習をしているというのに、ばさりと頭にかけられる胴着。 「サンタ。この本返しに行って来て」 どさりとお手本の上に置かれる大風呂敷の包み。 「‥‥‥あにうえ‥‥」 せっかく、字の手習いを始めたというのにぷるぷるとのたうつ墨の線。 「『うー』? なんだ読めんな」 「‥どれ、『う〜』‥?」 ぷるぷるぷる。 三太(さんた)の小さなつま先は正座してきちりとそろえられたまま。 その怒りに震える手元を覗き込む兄二人。 「―――ちっとも読めぬな」 長兄のだめ押しの言葉に三太の中の何かが切れた。 「『うー』ではありませぬ! 『うし』でございまする!」 「ああ、うし、な。いや‥それにしても」 「一助兄! 胴着の洗濯は母上にお願いなさりませ!」 ぶん、と筆をもったままの右手で払いのける。あたりに墨が飛び散り、一番上の兄である一助(いちすけ)が、危ない危ない、とよけている。 「二助兄! ご本はご自分でお返しなさいませ!」 すっくと立ち上がり、左手で風呂敷包みを指し示す。二助(にすけ)は濡れ縁からひょいと庭におりて、まぁまぁと笑っている。 「ワシは手習いの途中なのじゃ! 邪魔しないでくだされ!」 ふん、と小さな鼻の穴から息を噴き出し、言ってやったとばかり薄い胸を張る。 年の離れた兄達の雑事に追われる身から開放され、己に磨きをかけるべく、勉学にいそしみはじめて早や三日。 「いろは」からはじまり、今日のお題文字は「うし」。 近所の隠居した爺様が勉強を教えてくれるというので、通い始めたところである。忘れないうちに、とおさらいを繰り返す三太の背後には、さまざまな『うし』が散らばっている。 「ま、面白いのも最初のうち」 筋肉馬鹿、といわれている長兄は、道場で稽古をしてきたかえりに、末弟の様子をからかいに来たようである。 「教わりたいのなら僕が教えるものを」 理屈っぽくて勉強に秀でている次男は、ぽんぽん、と風呂敷の本を叩いてみせる。 「ぐっ‥‥そ、そんなくだらない本はごめんなのじゃ!」 「はいはい。じゃ、よろしくね」 ひらひらと手を振りながら、長い廊下をスタスタと歩き始めた。 はっ、しまった、と三太がていよく押し付けられたことに気づいたとき、一助がにやりと笑った。 「急がないからな。まったく俺ってばやさしい〜」 がははは、と笑いながら二助と反対方向へ消えていく一助。 「ま、待つのじゃ! ひきょうもの!」 一助の背中にやっとの強がりをいってみせたものの、振り返った一助が三太の足元を指差した。 ――――筆からぼたぼたと床に墨がたれている。 しまった!と気づいたときには遅かった。あわてて硯に戻して、書き損じた紙でごしごし拭き取る‥よけいに畳の目に入って広がった。 「まぁ、三太、にぎやかですこと‥」 すらりと上品に開いた障子の向こうに、茶菓子を運んできた母がいた。 その視線が、『うし』だけではなく、ふすまや畳に注がれる。 「‥‥‥三太‥あれほど気をつけなさいと‥」 「違う! 母上! 聞いてくだされ!‥兄上が―――‥」 あたふたと、廊下の両方をそれぞれ指差しながら説明をしようとしたが、もう遅い。 三太―――! という母の怒鳴り声に、肩をすくめて笑っている兄二人。 年の離れた弟ほど、面白いものはない。 ●弟の恨み 「‥というわけなのじゃ、恨みを晴らしてほしいのじゃ」 真っ赤になった目をこすりながら、ギルドにやってきた幼い子供。しかし子供同士‥しかも兄弟同士のケンカにギルドがおいそれと無報酬で出て行くわけには行かない。 「ええと、‥いいにくいのよね、ギルドも報酬っていうお駄賃みたいなのが必要でね‥」 「駄賃ならあるぞ、ほら!」 じゃら、と持ってきたいくばくかのお金。 「んー。じゃあ、足りない分はそのおにいちゃん達からいただけばいいのかしらね?」 「そうなのじゃ、こらしめてほしいのじゃ!」 受付の台にやっと背が届いている8歳の子供に精一杯の虚勢でそういわれて、ギルド職員はクスリと笑った。 さて、サムライ志望のお子様の兄達に対する報復やいかに? |
■参加者一覧
水津(ia2177)
17歳・女・ジ
朱麓(ia8390)
23歳・女・泰
シルト・マーズ(ib3087)
12歳・男・騎
獅咆(ib3156)
10歳・男・泰
羽喰 琥珀(ib3263)
12歳・男・志
寿々丸(ib3788)
10歳・男・陰 |
■リプレイ本文 ●仲間 「今日は友達と勉強をしたいのじゃ。母上、構わぬだろう?」 三太は勉強がえりの風呂敷包みを背負ったまま、開口一番元気よくそう言ったのだった。 「お友達?」 花を活けていた母が、手をとめて不思議そうに言った。 「そうじゃ。仲間――ち、ちごうた、友達なのだ!」 少し口ごもったが、嬉しそうにいう三太に母の顔もほころんだ。 「それはよきこと。お友達ができるのは母も賛成ですよ」 「実はもうそこまで連れてきておるのじゃ。今すぐ連れてくる!」 言うが早いか、三太が消えたかと思うと、複数の足音がもどってくる。障子に映る不思議な人影。 「初めまして、シルトと申します」 見たこともない青い髪を垂らしたシルト・マーズ(ib3087)がぺこんとお辞儀した。その後に続いて、獣人の二人が続いて挨拶する。 羽喰 琥珀(ib3263)が虎の縞模様をした尻尾をぴんと立てて、 「俺は羽喰。三太はまかせとけ」 と胸を叩いて見せた。 あ、と一同が思ったが、疑問をはさまれないよう、寿々丸(ib3788)が素早く挨拶する。 「寿々丸と申しまする。三太殿とは勉強仲間でございまする」 こちらは狐のふさふさした尻尾をもつ少年である。 「まぁ。いらっしゃい!」 三太の母は可愛いらしいお客に声を弾ませた。 「奥の部屋をお使いなさいな。きちんと勉強するのですよ、三太。あとでお菓子をお持ちしますわ、皆さまよろしくね」 微笑みながら三太よりいくつか年上の子供達の頭を撫でた。当然彼らが開拓者だとまったく気づきもしない。 三太はにかりと笑うと、こちらじゃ、と案内した。 奥の部屋は客用の間として使っており、庭に出入りが出来るようになっている。作戦を詰めるのにはもってこいだった。 「今じゃ」 あたりを窺いながら、庭にある勝手口を開ける。そこから別の三人の開拓者達が入ってきた。 「同じ読書好きとして二助さんを落としいれ‥もとい仕返しをしておば様に怒られるよう仕向けることですね‥」 水津(ia2177)が眼鏡をくいとあげて不敵に笑った。依頼内容を聞いてすでに手中にネタを仕込んできているもようだ。 「水津‥漏れてるよ。さて、あたしは一助を担当しようかねぇ」 朱麓(ia8390)が水津を横目で見ながら呟いた。だが、落ち着くよう制した朱麓自身からも微かに笑みが漏れている。 「じゃ、イタズラしていいんだな? そうなんだな?」 獅咆(ib3156)が待ちきれずそわそわしている。 三太は年の近い兄や姉が出来たようで、六人が自分のためにあれやこれやと考えてくれると思うと心強い。 「兄様のことは大好きでございますが、流石の寿々にも限界がございまする‥!尻尾を掴むのは止めてくだされと言っているのに!」 「同じ兄ちゃんでもイイお兄とワルイお兄がいるんだな」 「兄弟姉妹で下の子はいつまでも上のいいなりになると思ったら大間違いですよ‥全くおねえさまったら‥‥」 開拓者自身のため‥でもあるかもしれない。 ●兄様 一助はいつもどおり走りこみを終え、弓道場に赴くと愕然とした。弓弦がみな切れているのである。 「―――誰がこんな事を!」 もちろん全ての弓弦を切ったのは、羽喰である。あわてぶりを確認すると、羽喰は屋敷の壁に足をかけ、ヒラリと乗り越えた。 その姿をちらりと一助に見せながら。 「おまえか! 待て!」 一助が羽喰に気づいて声を上げた。犯人は耳と尻尾があるヤツだと脳裏に叩き込む。 全力で庭を横切り勝手口を目指す。 「おや、一助兄、どうなさいました?」 三太が目ざとく声をかけるも全く耳に入らない。相当頭に血が上っているようだ。 一助が勢い込んで外に出ると、屋敷の角で飛び跳ねている少年がいた。 「やーい。一助のろま〜」 羽喰と入れ替わったのは獅咆。耳と尻尾の色が違う。 だがそんなことに気づく一助ではなかった。 「おのれー!」 一助が捕まえに駆け寄った。だが、そんなことで野生児なみの獅咆が捕まるはずもない。 すかっと空気を捕まえている一助をかわしながら、 「脳筋バカだ〜」 といって走り出した。 もちろん一助は三太ほどの子供を全力で追いかける。大人げなどあるわけもない。 が、その距離は近づかず、しかも獅咆は後ろ走りをしながら一助が追いついてくるのを腿あげで待っている。 「鈍亀〜」 むかむかっと腹が立つ言葉を連呼して、である。 「待て!」 屋敷をぐるぐると回っていると息があがってきた。一助がバテてきたのをみると獅咆が屋敷の壁を登った。塀の上で一助がやって来るのを待ち構えるとあっかんベーをして屋敷の中へ消える。 丁度弓道場のあたりだ。 「‥ちくしょう」 ぜぇはぁ、と息を切らしつつ、また弓道場へむかう一助。 そこには、怪しい衣装に身を包んだ朱麓が待っていた。 「くくく、ようやく来たか‥‥待ちわびたぞ、小僧!」 「何だよ、あんた!」 漆黒の外套に骸骨のついた巨大な漆黒の斧。その顔までも金属製の骸骨で覆われている。不気味なオーラをまといつつ、驚く一助に近づく朱麓。 「ふはははっ!我が黒き刃にて打ち砕かれるが良い!」 勢いよく振り下ろされた刃が一助の影に盛大にめり込む。もちろん手加減はしているのだが。 その威力に一助が青ざめる。 「ちょ‥まてっ」 次々と繰り出される攻撃に、寸手のところでかわす一助。弦の切れた弓では対抗することも出来ず、力で防ごうにもどう考えても迫力‥いや、ケタ違いな気がする。 「どうしたどうした!!」 哄笑しながら、朱麓が一助を追い詰めていく。 「汝に良いことを教えてやろう。我を呼んだのは汝の弟。頭では上だと証明できるが力ではなぁ。そこで‥くくっ。この先は言わんでもわかるだろう?」 クイと斧の先で一助のあごを持ち上げると、朱麓の目に愉悦の光がともる。 「‥教えてほしいか?」 そう言った朱麓の背後に雷鳴剣のイカヅチが落ちた。不気味な姿に更なる迫力が加えられる。 「ひ、ひぃぃ!」 とうとう一助が身を翻して逃げ出した。振り返ることなく母屋の方へと一目散である。 「麓姉、すごいのだ」 隠れていた獅咆が小躍りしながら近寄ってきた。 「流石にこういうのは慣れてないから緊張したなぁ。‥まああの怯えてる表情はなかなかのものだったから良かったけどさ♪」 すっきりした、とばかりに兜をはずして朱麓が感想をもらす。 「一助は部屋にもどったぞ」 羽喰が三太たちのもとへ急いでもどってきて開口一番そういった。 「すごいのじゃ。羽喰殿!」 一助に勝ったことのない三太は頬を紅潮させて喜んだ。 「じゃあ自分と水津殿の出番ですね」 シルトが立ち上がり、先ほどの三太の母の部屋を目指す。水津はといえばすでに二助の部屋に潜入中である。 もちろん、二助が留守であり、誰かが部屋に来ないかどうかは、寿々丸の「人魂」による式が鼠となって見張っている。 「ほほう。かようなご趣味ですか‥」 水津はつい二助の蔵書を読み漁りそうになる自分を抑えつつ、袖に隠しておいた大切な書物を取り出した。人情本「百合」である。 「ふっふっふ‥母親にこの手の本が見つかった時の気まずさといったら‥これは恥ずかしいですよ‥」 あえて手近に積み上げてある書物の上から三冊目あたりにはさんでおく。目印に一番上の本をずらしておいた。 「ふふ‥まさか犯人が17歳の乙女‥?とは思わないでしょう‥」 含み笑いをしながら、立ち去りかけては「ぬ、これは!」などと二助の本に足止めをくらいつつ、水津はなんとか部屋を後にした。 「そうそう、そうなんですよね」 三太の母と話がしたいとシルトは言い出した。もちろん母親を足止めする為である。 「そうなのよ。二助は小さい頃から本ばかり。健全な肉体にこそ健全な魂は宿るというのに。でも一助は肉体を鍛えることしか興味がないの」 「へぇ〜そうなんですか」 「‥あら、お茶入れましょうね」 母親が茶をいれようと立ちあがった。シルトが慌てて引き止める。 「お構いなく。自分はお手伝いができたら嬉しいですから」 「‥三太にも見習ってもらいたいわ。まだあの子は遊んでばかりで」 よろしくね、というと母はニコリと笑った。それぞれの子供に愛情を持っているのは良く分かった。シルトは手伝いがしたいと申し出て、一助、二助の部屋の片付けをかってでた。 「本当にいいの?」 「ええ」 「じゃ、お言葉に甘えて。一番近いのは二助の部屋ね」 案内されて二助の部屋にシルトが入ると、その書物の多さに圧倒された。一番手前に書見台と行灯。本好きというのは本当らしい。 「本は触るなというのよ。無理よねぇ」 「じゃあ、そっと掃除しましょう」 シルトはそう提案すると、はたきを借りた。 パタパタと上から埃を払うようにして、水津の合図がある本の山を見つける。 「あ、いけない」 力加減を間違えたフリをして、手前の本の山を崩した。バサバサと音を立てて盛大に本が散らばる。 「二助殿の大切な御本が‥!」 「あらいいのよ、どうせ二助の持ち物ですもの‥」 構わないわ、と言おうとして母の声が止まった。 ―――その視線が例の本に注がれる。 「この本がなにか‥?」 「いえ、ななななんでも」 「母上! 何か三太もお手伝いするのじゃ」 元気溌剌、お子様筆頭の三太は、そんな二人の後ろでスパーン!と力一杯障子を開け放つ。ひょっこりと覗く寿々丸と羽喰。 「二助兄の本の整理じゃな。どれワシも」 「あああなたはいいのよ、三太」 「寿々もお手伝いいたしまするぞ」 「俺も!」 羽喰が人情本「百合」を手にとった。 「そそそれは置いて、皆さんお部屋に戻りましょ‥」 腫れ物にさわるがごときか細い声で母が言う。 「何を人の部屋で騒いでいるのです?」 頭をかきながら二助が部屋に戻って来た。もちろん屋敷に帰ってきたことは寿々丸の式によって分かっていたから全員で移動したのだが。 「あ! 俺の本―――」 あくまで、畳の上に散乱した書物のことをいったのであって、羽喰が持っている本のことではないのだが‥母の中で何かががらがらと崩壊していく音がした。 「二助、この本はなんなの!」 羽喰の手からもぎ取って二助に押し付ける。 なんなのといわれても、なんなのであるが。 「はぁ?」 ぱらぱらとめくって、二助の顔から血の気が引いていく。 「三太も見たいのじゃ!」 「お前は見なくていい!」 「ずるいのじゃ! いつも本を読めとワシにいうておるのに! 三太も少しは読み書きができるのじゃぞ! なになに、ゆ――」 表紙に書いてある題名を読もうとして、母と兄から口を塞がれた。 「二助‥!」 「違う、俺の本じゃない――」 やっとホントのことを言った二助であるが、この衆人環視の状況で苦しくも言い訳するとしたらそれぐらいだろう。 しかし、やはり言い訳にしか聞こえない。違う意味で。 「行きますよ、三太!」 三太と開拓者達を連れて母が足早に引き上げていった。 二助はというと自分が勘違いされていることに合点がいくと、赤くなったり青くなったり忙しいのであった。 「こんなことをたくらむヤツは―――」 体力バカの超直球野郎しかいない。三太にはこの手の本の入手自体が無理だろう。 二助は長兄に対する怒りをめらめらと燃やし始めたのであった。 ●お覚悟! 「どうじゃろうかの!」 自分の部屋に開拓者達と戻った三太は興奮していた。 「三太殿の『ありばい』とやらは寿々がずっと一緒におりましたので疑われることもないですしな」 「そうか。寿々丸殿は頭がいいのぅ」 ウキウキしながら『ありばい』とは塩梅の仲間じゃな、と思っている三太である。 「そろそろだと思うんだけど」 ちら、と障子を開けて羽喰が廊下の端同士にある一助と二助の部屋の様子を窺う。すると、計ったように双方から起きる怒鳴り声。 「二助ぇ!!」 「一助――!」 バンと乱暴に障子が開く音がしてドスドスと二人が廊下を歩いてきた。丁度三太の部屋の前で二人がぶつかるように出会うと、お互いに胸をそらし、睨みつける。 「自分が非力だからって化けもん雇うとはな!」 「稀本とは姑息な手段に出たもんだな!」 何のことだか相手の主張はさっぱり分からないが、ますます腹が立つ。 「弓の弦まで切りやがって!」 「悪趣味なもん仕込みやがって!」 胸ぐらを掴んだと思ったら、一助が二助を先に投げ飛ばした。寿々丸が三太を避難させ、飛んでくる二助にあわせてシルトと羽喰が障子をあける。 そこには、たっぷりと準備していた墨がたらいに用意されていた。二助がそこにぶつかり、派手に墨が飛び散った。 「このぉ!」 部屋に入ってきた一助に飛びかかると二助が馬乗りになり、殴りつける。力で勝る一助が形勢を逆転しては、気力で馬鹿力を発揮する二助が盛り返す。 取っ組み合いのケンカに墨や筆が飛び散り、硯は柱に当たって割れる。 直したばかりのふすまや障子に黒々と墨を飛ばし、二人も墨まみれである。 「こっちです!」 シルトがすかさず、頃あいを見計らって母を呼んできた。 母が絶句する。せっかく修理したのに。三太がやったのはかわいいものだと言わせるくらい、凄惨な現場であった。 表具は張りなおすだけで済みそうもない。折れて外れている。墨だらけの二人は年甲斐もなくまだ暴れている。 母がすう、と息を吸い込んだ。 ―――一助! 二助! そこへなおりなさい!! 三太が今まで聞いたことのない母の怒りであった。 さんざん母に説教をされ、おかしい、と自分達の身に起こったことに兄達が気づいたのはもっと後のこと。 「しっかりと反省していただかねば」 寿々丸がとくとくと弟の気持ちで説明する。 三太といたのは開拓者達であると明かされて、やっと一連の出来事に得心のいった二人である。しかし、気持ちとしてはおのれ三太‥と思わないでもない。 「いんがおーほーってヤツだな。少しは三太の気持ちわかったか?」 その気持ちを感じ取った羽喰がぷんと頬を膨らませて怒る。だからだめなんだよ、ちゃんと謝れよ、と念を押す。 「今回のは弟を大事にしなさい、って意味での仕返しなんだからさ」 朱麓が静かに斧を持ち上げた。 「また同じ事をやったら‥その時は容赦しないよ?」 不穏な気配を感じて、二人の兄は反論できずがくりとうなだれた。 「反省してくれれば、それでいいのじゃ!」 三太は嬉しそうに兄姉のような開拓者たちに向き直った。それでいいというわりには、派手に懲らしめた感があるが。 このあと、修理代(とギルドからの依頼料)として請求された金額をみて、ますます落ち込む兄二人であった。お灸はきつくすえられたようだ。 「うむ! これで勉強にはげむのじゃ!」 お子様三太は綺麗になった部屋で今日も勉学にいそしむのであった。 水津がほっとした顔で持ち帰った本が気にならなくもないが‥面白い本なのであればいつか借りてみようなどと思う三太であった。 |