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■オープニング本文 ●年の瀬の 「年の瀬も迫ってくると、母上のご機嫌も斜めなのじゃ…」 まったく、と大人の真似をして廊下の端でお子様が唇を尖らせる。 ちょっと友達と剣術で遊んでいただけなのに、いつのまにやら掛け軸が外れて落ちていただけなのに…久しぶりに母親から雷が落ちてしまった。 一度雑巾がけの足が止まると冬の寒気が三太の背筋にすうっと侵入してくる。ぶるっとたすき掛けの薄い肩をすくめて三太は急いで日なたに移動する。 「ほらほら、サボってると家中の雑巾がけをやらされるぞ」 雑巾を持ってうずくまっている弟をひょいとまたぐのは、長兄の一助(いちすけ)であった。その両手にはうず高く御近所への年末始の御挨拶の品が積まれている。 「あー、兄上っ! またがないで下され! 背が縮みまする!!」 通り過ぎた兄に噛みつくようにして勢いよく立ちあがると、八歳の三太が精いっぱい虚勢を張る。 「伸びない上に、縮んだら最悪だな、確かに」 ぽす、と半紙の大きな束を三太の頭の上にのせながら、もう一人の兄である二助(にすけ)が横を通り過ぎて行った。 「二助兄っ?!」 がぁっ!と怒りながら三太が頭の上を払う。が、その手は手ごたえもなく空を切る。 「はは、いい台があったと思って、つい。あ、おまえのこの書き損じも燃やしとくな」 「それは、わしの手習い……!! 駄目なのじゃ、それは年明けにお飾りと一緒に燃やすのじゃ!!」 猛烈な勢いで追いかけた三太が、二助の手から半紙の束を取り返そうとぴょんぴょん跳ねる。 「…ゴミじゃなかったのか」 二助の心の底から出た一言であった。 「ごみではありませぬー!」 背の高い兄に登る様にしがみつきながら、必死で習字の作品を取り返すと三太が鼻息も荒く言い返す。 「もうっ、お二人は早く先生方への御挨拶にいってらっしゃいませっ!」 「はいはい」 「あんまり怒ってると、サンタクロースが来ないぞ?」 年の離れた弟をさんざんからかっていた当の兄達が、留守番の三太に皮肉げに言う。 「さんたくろーす? お客人が来るのか?」 「いい子にしてないと、プレゼントがもらえないってやつだ」 「????」 「―――本気か。子供のくせに疎いなお前…」 「!! 子供ではありませぬ! これでもサムライのはしくれ! 馬鹿にしないでくだされ!」 いつもの小競り合いが続いたあと、二人の兄は三太にあることないことを吹き込むと、笑いを必死でこらえながら挨拶の為に家を後にしたのであった。 ●還暦の御仁 「というわけで、何やら年の瀬のある一晩に、赤い服を着た御老体が子供の枕元に忍びこんでやってくるというのだ…」 神妙な顔で寺子屋の子供達の輪の中にいるのは、三太である。 しかも、物知りの次男の話からすると、煙突から入ってくるという侵入路まで決まっており、子供の足袋に欲しがっているものをねじ込んで、家人に見つからず、かつ子供を起こしもせずにジルベリアに帰るという。 「忍びなのじゃな。きっと! そして特別な鍛錬を積んだそのような人知を超えた技を惜しげもなく使い、しかも無償で贈り物まで施すとは。ああ、何と徳の高い方なのじゃ……」 感動のあまり、三太が声を詰まらせた。 世の中には何と、不思議で素晴らしく奥ゆかしい老人がいるのだと目を輝かせている。 もはや、勝手に揺るぎなきサンタクロース像が三太の中でねつ造されている。 「サンタ殿も子供がたくさんいてお忙しいはずじゃ、わしも志高くお手伝いをして差し上げたいのじゃ!!」 「三太、それって普通、子供はサンタを待ってて贈り物を貰う側だぞ?」 「あ、俺知ってる! サンタクロースって、実は父ちゃ…」 「―――とにかく!! わしはサンタクロースになりたいのじゃ!!!」 仲間達の止める声も聞こえず、サムライ志望だったはずの三太は、ちょっと浮気してこの冬だけは忍び(注:サンタクロースのことらしい)を目指そうと心に決めたのであった。 それにしても、技を教えてもらうにも、その老人の風体を真似するにも何からどうすればよいのか判らない。 (兄上達に教えてもらうのも癪だのう…) うーんと散々悩んだ挙句、ひとまず、報酬は小遣い程度しかないが、開拓者たちからサンタクロースについて教えてもらえないかギルドへ相談に行くことを決めた三太であった。 「うむ…赤い服とひげ…ということは、還暦の御仁の格好かのう…」 若干、すでに違ってきているサンタ像だけが膨らむ三太の脳内であった。 |
■参加者一覧
羽喰 琥珀(ib3263)
12歳・男・志
寿々丸(ib3788)
10歳・男・陰
カメリア(ib5405)
31歳・女・砲
サフィリーン(ib6756)
15歳・女・ジ
ディラン・フォーガス(ib9718)
52歳・男・魔
リーズ(ic0959)
15歳・女・ジ |
■リプレイ本文 ●準備万端? 「お届けに参上よ!」 春駒屋の暖簾が跳ね上がって、勢いよく戸が開き「休み」とかけてあった札が外れて飛んだ。 「おまえかよ…」 ギルド近くの定食屋「春駒亭」の恭一郎が、ギルドからの使いであるマオに向かって溜息をつく。 「サンタの服だけ置いてギルドに戻れ」 「ちょっとぉ! 依頼の担当はアタシよ?!」 お前がいるとややこしい!と衣装だけを受け取り、恭一郎はマオをぐいぐいと店外へと追い出した。 「どうしたのじゃ?」 三太が奥からひょっこりと顔を出す。 「何事でございまするか?」 寿々丸(ib3788)と羽喰 琥珀(ib3263)がその後ろからぴょこぴょこと段々に頭を出す。恭一郎は何でもないと手を振った。 小麦粉を広げた台の上には、棍棒で薄くのばされた卵色の生地が載っている。 三太の依頼の為に集まった開拓者は、プレゼントのクッキーを作ろうと店を借りていた。 「カメリアお姉さん、量ってこれで良いんだよね?」 サフィリーン(ib6756)が揺れる天秤に不安になりながら粉袋を引っ込める。 「こんな感じ…でしょうか」 カメリア(ib5405)が粉をサラサラと片方に足すと、重りとピタリと釣りあう。 「すっごーい!」 サフィリーンと皆がぱちぱちと拍手をする。 「正確な分量と手順が大事、火薬の合成と一緒ですもの」 カメリアは見本のもふらさまクッキーを手にほわりと優しく微笑んだ。 「よぉし、じゃんじゃんクッキー作ろうねっ…て、あれ?」 リーズ(ic0959)がくすりと笑いながら、三太の頬に付いていた粉を前掛けで払ってやる。 「ん、なにかついておるのか?」 「あ、三太くんその手じゃ…!」 リーズが止める間もなく三太が粉まみれの手で自分の頬を触った。 「―――! ひげだ髭!!」 琥珀がそれを見て笑いながら、もう片方もすーっと引いてダルマ髭にしてやった。腹を抱えて大笑いする。 「なんじゃ、琥珀殿!」 ぷぅ、とフグのように膨らむと一層皆の笑いを誘った。寿々丸まで堪らず噴いた。 「むぅ。お返しなのじゃー!」 ダルマ髭三太が二人に髭を描こうと追いかける。 「自分でやったんだろっ!」 「三太殿、今日は良い子にしていないと駄目ですぞ!」 「皆ダルマになるのじゃ〜」 台を掴んでガタガタと右へ左へ暴れる三人。 「あーん。クッキーが困った顔にっ…」 揺らしちゃだめだよう、とサフィリーンが泣きそうになる。生姜風味の可愛い人型のクッキーをつくろうと張り切っているのにとんだ邪魔である。 「だめですよう。きちんとプレゼント作ってから遊びましょう?」 後ろから粉まみれの両手首を捕獲され、万歳状態でカメリアにぶら下げられる三太。 「お茶でもしま…」 言いかけながら、振り返る三太をみて、カメリアが口を結んで笑いを堪える。 「カメリア殿まで…!」 そうして何度もお茶と休憩を挟み、プレゼント作りに存外時間がかかってしまったのは…言うまでもない。 「クリスマスは元々、ジルベリアの神教会の祝祭だが…」 遠く天儀にまで伝わっているとは感慨深いものがあるなと思いながら、ディラン・フォーガス(ib9718)が一戸また一戸と軒を訪ねる。 「え? 今日の夜鍵を開けとけって?」 警戒もされたが、ギルドの依頼書を見せて開拓者であることと依頼主を明かすと、皆が協力を約束してくれる。といっても本当に泥棒にあわないよう、出入りするところをディランが細かく打ち合わせておく。 「子供達には内密に。そうだ、もし手伝ってもらえるなら…」 サンタの力を見せる為に協力してほしい、と何やら数人の大人達に手伝いを要請した。 「寿々も、去年は贈り物を貰いましたぞ。良い子にしていましたら、贈り物を貰えると大兄様が言っておりました!」 クッキーの袋にきゅ、とリボンを結びながら寿々丸が胸を張る。 「いいのう。わしは貰ったことがないのじゃ…煙突がないからかのう…」 「そうか。三太くんはお兄さんから話を聞いたんだよね? 天儀のサンタさんがどんなのか聞きたいなっ」 「どんなって…足袋に贈り物をねじ込んで風のように去っていく老練の忍びなのじゃ!!」 「へ、へぇ…。ボクの知ってるサンタより凄そうだね…」 リーズが少し困った顔で笑う。ジルベリアの精霊なのだろうが、所変われば印象も違う…と納得する事にする。 「…たくさんの子供に配らねばなりませぬから、さんたくろーす殿もたくさんおるのですな。きっと」 こほん、と寿々丸が気遣いを見せる。 「皆に教わってお手伝いを頑張るのじゃ」 照れくさそうに三太がプレゼントのリボンを結んだ。 「見って見て―☆」 「着てみましたよ」 奥の部屋から軽やかな足音がして、サンタの衣装に身を包んだサフィリーンとカメリアが現れた。 「ミニスカートにしてみ・ま・し・たー♪」 ひらりんとサフィリーンの裾が軽やかに回る。大きな上着だけを着てベルトで絞ってスカートに見立てたのだ。もちろんきちんとスカートも一枚はいているが。 カメリアはぶかぶかしている衣装の袖と裾を折りながら、はにかんでいる。 「! 女性のサンタ殿もいらっしゃるのか?!」 軽く衝撃を受ける三太八歳。世界は広かった。 「三太、俺達も着てみようぜ!」 俄然面白くなってきた、とばかりに琥珀が三太をミニサンタにしようと試着室へと連れて行った。 「火の用ぉー心!」 すっかり夜も更け、表に人の気配が消えた頃。 待ち合わせ場所に集まっていたのは、カンテラや梯子を手にしたサンタの集団、開拓者たちである。 「?! もしや、ディラン殿は本物のサンタクロースなのか?!」 衣装を着て渋く決めているディランを見て、三太が目を輝かせている。髭まで蓄えているのだから、条件は完璧であった。 「サンタクロースではないが…」 「ないが…?」 ディランが期待の眼差しの三太の頭を撫でてやる。 「よく知ってはいる。三太の手伝いを、きっと喜んでくれるだろう」 「そ、そうかの!」 くすぐったいような気持になってぎゅうとプレゼントの袋を持つ手を握り締めると、直後、ほわと小さな体に嬉しさをにじませる。 (少しはお役に立てるかの…) 「頑張ろうぜ、三太!」 「お手伝いしますからね」 聖夜の衣装に身を包んだ開拓者達がさあ行こうとカンテラを掲げる。もう一方の手にたくさんのプレゼントが入った袋を持って。 「―――よろしく頼むのじゃ」 ぺこんと頭を下げた三太の手を引いて、サンタクロースの集団が三太の町へと消えていった。 ●メリークリスマス! どんな家にも、サンタはやってくる。 全員で相談して、手分けしつつ出来るだけプレゼントを配ることにした。 「…っと!」 助走もなく数歩で土壁を駆け上がって手をかけると、赤い裾がふんわりと柔らかく舞った。一瞬で壁の向こうにサフィリーンが消える。 やがて、確認が済んだのかギィィ…と門が開くと、にぱっと笑ったサフィリーンがそこから手を振っていた。 「お姉さん開いたよ〜」 「身軽ねぇ」 感心しながら、お邪魔します、とカメリアが丁寧にお辞儀をして入る。 「えっと、『芽利依栗寿増』ってこれであってるんだよね?」 サフィリーンは、天儀の人にあわせて書いたクリスマスカードをプレゼントに添える。 「こちら女性が多い家だから台所とかかしら」 カンテラで明かりを調整しつつ、見つけて驚いてもらえるような場所を考えてカメリアがプレゼントを置く。 悩んでいる寝顔を見れば、幸せになりますようにと祈りつつ、ほほえましい寝顔を見れば温かい気持ちを貰いながら二人は家々を回る。 「メリークリスマス」 よく眠っている双子をじっと見つめ、カメリアがそっと枕元にクッキーを置く。喧嘩しないように、きちんと同じ色のリボンのものを二つ選んだ。 「幸せがいつも一緒にいますように」 「メリークリスマス。来年も幸せでいてね☆」 何もなかったように扉や門をそっと閉めて、サンタは笑顔で去っていくのであった。 「サンタ殿はいつもこんなに大変な目に会うのかの?!」 「足元危ないよっ!」 梯子を抑えながら、リーズが三太に声をかける。 「琥珀殿、これはバレてしまわないのか?」 手首の鈴をリンと鳴らしながら、三太が心配する。 「さすがにソリは無理だからなー。せめてベルだけでも鳴らそうぜ」 琥珀も同じベルをつけているが、ディランが事前に打ち合わせ済みなので、鈴の音に何事かと寄ってくる者はいないらしい。 「サンタだって、最初は見習いだと大変だ…だが、上達すると」 パチンとディランが指を鳴らすとぽぅ、と幻想的な灯りが浮かび上がる。 更にススッと家の奥へ続く扉と障子が次々と勝手に開いていく。実は魔術と大人達の連携技であるが。 「おお、すごい技じゃ!」 三太が、いそいそと友達の部屋へ向かうが、鈴の音も付いて来る。 「夢ですぞ、これは、夢ですぞ〜」 寿々丸が二人の後をついて行きながら、寝たふりの大人に小声で言い聞かせる。大人は可笑しくてしょうがないが、タヌキ寝入りを決め込んで、肩を震わせながら耐えている。 ようやく友達の部屋にたどり着いたリーズが「何これっ?」と叫びそうになってあわてて声を絞る。 かい巻きでぐるぐる巻きになって柱にもたれて寝ている兄弟がいる。 「友達じゃ。サンタに会うと言っておったのじゃ…」 「で、寝てしまったクチだな」 やれやれ、とリーズとディランが見合わせて肩をすくめる。天儀でのサンタの人気は絶大らしい。 ディランが傍に延べてある布団に兄弟を運び、風邪をひかないようにしっかり布団の中に入れてやる。 リーズは兄弟がいた場所に雪だるま型の饅頭を代理に置き、プレゼントを持参したぬいぐるみに持たせて枕元へ置いてやった。 目が覚めたら喜ぶかな?とほっぺをちょいとつついてリーズが笑った。 友達の家も手分けしていくつか回るとくたくたになり、三太の瞼が重くなってきた。 「あとは、三太の家族へのプレゼントだな!」 「我が家は別に良いのじゃ…」 「駄目でございまする。ちゃんと用意しましたぞ!」 琥珀と寿々丸に言われてそろりと母親の部屋へ三太が入る。ほら!と二人に急かされて、軟膏と簪をそうっと母親の枕元に置く。 「いつもありがとうなのじゃ。めりーくりすますなのじゃ…」 微かに、母親の肩が感動で動いた気がするが、「来年はちょっとくらい怒らないでほしいのじゃ」と願い事を続けるとぴたりと止まった。 「三太、願い事は正月と七夕だ!」 「そうでございまするよ、感謝だけですぞ!」 琥珀と寿々丸が慌てて三太の両脇に手を入れて引き揚げる。 「三太の母ちゃんまたな!」 三人が出ていくと、ふふと小さく母親が笑った声がした。 問題は三太の兄達である。 当然、三太よりも年上なだけあって、起きている可能性がある。寿々丸の視界と繋がる子ネズミが三太の家の梁を勢いよく駆ける。 「一助殿は…寝ている。二助殿は起きて…いや、机に突っ伏して寝ておりまする」 「じゃあ行動開始! 二助は気をつけないとな!」 三太の部屋でベルを外すと、一助、二助の順で部屋に忍びこむ。冬場なのに暑苦しそうなサンタとトナカイもどきのやけに精巧な人形を、大いびきをかいている一助の目の前に置く。 起きた時の顔が見ものだなーと心底楽しそうに琥珀が笑った。 「ん…」 (やばい! 二助が起きる!) 尽きかけていた紙燭の炎を吹き消すと、部屋の出口を照らすために寿々丸の式が蛍のように点る。三人が部屋を出るとガッタン!!と盛大に文机で膝を強打している音が背後で聞こえた。 「あ、夜光虫…」 しまったと寿々丸が呟いたが、琥珀はびし!と親指を立てている。ほのかに下から照らされたトライアングル・サンタの威力が炸裂したらしい。 「こんなことをするのは絶対……!!」 二助が三太の部屋へ怒鳴り込みにやってきたが、三太が布団で丸まって寝ているのを見て、あれ?と二助は首をかしげる。 「…一助、か?」 しょうがないなと二助の足音が引き上げていくと、ほう、と押入れから琥珀と寿々丸が這い出てくる。 「あっぶなー。三太、もういいぞ」 しかし、芝居ではなく、三太は本物の寝息を立てていた。 「寝ているようでございまするな」 仕方ないなと二人が座り込んでいると、サフィリーンとカメリア、リーズとディランも三太の部屋に合流してきた。報告をしに来たのだが、結局、寝おちてしまった三太を起こすことができず、一同は衣装だけを着替えさせて帰ることにする。 「でも、皆用意してるんですよね」 ふふ、とカメリアがこそりと袋から三太へのプレゼントを取りだした。カメリアはもふどてら、ディランは虹色のもふらセーター、リーズはマフラーを取り出す。寒い冬空の下で頑張った御褒美だ。 「あと、飴で出来ている刀もありますぞ」 「では、これを根付としてつけよう」 幸運を呼ぶというもふらさまの根付をディランが足してやる。 「俺は筆と硯。三太は習字が好きだからなー」 「一番いい顔のクッキーをとっておいたよ♪」 全く起きる気配がない三太を覗き込んで、皆でにんまりと笑いながら、一つの箱に贈り物を納めて綺麗にリボンをかけた。 『お疲れ様。お手伝いありがとう。』と書いたメッセージもきちんと添える。 六人のサンタはどこの子の家でもしたようにそっと一礼して 「メリークリスマス。三太」 と声を揃えて良い子を褒めたのであった。 ●あけてみて! 「あー!これ欲しかったコート!」 「え、一助兄がやったんじゃなかったのか?」 「は?オレ? 二助にそんな高いもの贈るかよ」 翌朝、子供のようにはしゃいでいたのは、コートを手にした一助と文机を撫でまわす二助である。奇妙な人形にはビビったが、メッセージにあった『本物はこっち』のプレゼントに感動しているようだ。 「三太!起きろよ!」 「む…?」 「サンタが来たぞ。お前のとこにもな」 「さんた…? !!」 がばぁっと起き上がった三太が枕元の箱と自分の寝巻姿を見て呆然としている。 「母も貰いましたよ」 ほら、と軟膏と簪を母親が持っているのを見て、三太は昨日の出来事は夢ではないと思い出す。 (わしはサンタ殿のお手伝いをしておったのに…?) ふるふるとしながらメッセージに目を通し、宝箱のような大きな箱から次々と溢れてくる贈り物に頬が上気する。 「三太、よかったわね。…大事にしなさい」 母に言われて、三太が頷く。大好きなものたちを両手に抱いて、顔をうずめて、何度も何度も母の言葉に頷いた。 師走のギルドには宛て先に困った手紙がよく届く。 数は控えめだけど、毎年届くお礼の手紙。 今年は三太からも、サンタさん達へ、と手紙が届いた。 勢い良く書かれた筆の文字。 『サンタさん、ありがとう。』 心にきらりと点った嬉しい気持を金色のお星様にして同封する。 来年、その星を飾ったクリスマスが楽しいものであることを祈りつつ。 めりー・めりー・くりすます! |