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■オープニング本文 かあさま、かあさま。 月が明こうございまする。 かじかむ手を擦り合わせながら、こそりと庭に出た小さな影が夜空を仰いだ。 かあさま、かあさま。 いずこのお星にいらっしゃいますか。 沙紀が見えておりますか。 心の中で問いかけて、しばらく夜空を見上げていたが、応えがない。 幼い沙紀(さき)はそっと膝を抱えるようにしてうずくまる。 沙紀の後ろでガタゴトと慌てて鎧戸が開くと、父親が沙紀を見つけて小さく息をついたが、すぐさま険しい表情に取って代わる。 そして父親は、できるだけ平静を装って静かに切り出す。 「沙紀、早く中に入りなさい」 「とうさま…」 ゆっくりと立って父を振り返ると、寂しそうに沙紀が顔を伏せる。 「かあさまとお話がしたいの」 「おうちの中でもできると言っただろう。おうちに入りなさい」 「だって、閉めきってばかりで、かあさまのお星が見えないもの」 「沙紀。聞き分けなさい。早くお戻り」 父親の苛立ちに沙紀がしゅんとして唇を尖らせる。 母親が死んで、お星様になったと教えてくれたのは父親だった。 なのに、ここのところ――夜は特に、沙紀を閉じ込めてばかりだ。 「……もう少し、お外にいたい」 「駄目だ、戻りなさい――」 子供らしい我侭を冷静に聞いてやれない父親が、沙紀を連れ戻そうと庭に降りる。 その時。 月に背を向けるように沙紀の背後に降り立った影。 獲物を見つけた昂揚で、一瞬大きな体躯に炎が点る。 禍々しい炎を散らしたあと、アヤカシが長い腕で沙紀の体を背後から易々と抱え込んだ。夜を溶かして固めたような漆黒の体毛、波打つ長い尾。人と同じ二足歩行。 牙を主張するかのように、笑ったように見えた。 寂しさに反応して、子供ばかりを攫って――その絶望と柔らかな身体を喰らう火猿。 「……とうさま……!」 何が起こったのかわからないまま、恐怖のあまり、それきり沙紀は言葉を結べない。 「だめだ! 連れて行くな!…沙紀!沙紀!」 怖れていた事が起こってしまった。 父親は果敢にアヤカシの腕に飛びついたが、火猿は腕に炎を点すと大きく真横に凪いだ。人間など吹き飛ばすのに造作も無い。 沙紀の目には両手を炎に焼かれて転がる父が映る。 (とうさま……!) 次いで、跳躍して攫われる沙紀の目に一瞬映ったのは、夜を皓々と照らす月。 星が見えない。 (かあさま……!) 「沙紀――ッ!!」 絶叫に近い叫びを上げて、這い起き、精一杯手を伸ばすが、火猿の姿は塀の向こうへと消えた。 「沙紀!…まさかこんな…!!」 噂は本当だった。 あれほど警戒して、閉じ込めて、外に出さないようにしていたのに。 ほんの少しの油断が。 「ああ…ッ!!」 悔やんでも悔やみきれない。 父親は片方だけが残された小さな草履を拾うと、焼けた手できつく握り締めた。 火猿は今宵もまた一人、獲物を携えて塒(ねぐら)に戻るのであった。 囚われた子らの、悲しみと恐怖に満ちた泣き声が洞穴で待っている。 人間が果実が熟すのを待つように、人の子の絶望が熟成されるまで待つのだ。 月の光も、陽の光さえも咎めることのない洞穴の番人として。 |
■参加者一覧
黎阿(ia5303)
18歳・女・巫
千代田清顕(ia9802)
28歳・男・シ
ジークフリード(ib0431)
17歳・男・騎
レジーナ・シュタイネル(ib3707)
19歳・女・泰
蒼井 御子(ib4444)
11歳・女・吟
ファムニス・ピサレット(ib5896)
10歳・女・巫
神座亜紀(ib6736)
12歳・女・魔
仁志川 航(ib7701)
23歳・男・志 |
■リプレイ本文 ●遺されたもの 沙紀の父は、心ここにあらずである。 「落ち着いて。焦る気持ちは判るけど…助けたいなら落ち着きなさい」 黎阿(ia5303)が背筋を伸ばして沙紀の父親に座るように進める。 思案して歩き回っていた沙紀の父は、黎阿に言われてはっとし、ようやく座った。手の火傷には無造作に布切れが巻かれ、血が滲んでいる。 「あの…傷は大丈夫ですか」 ファムニス・ピサレット(ib5896)がそれに目を留めると、そっと手を翳す。ふわりとした風が両手を包んだかと思うと、父親の火傷が癒えた。手を動かしても痛みが無く、その効果に目を瞠る。 「ありがとうございます。開拓者の力がこれほどとは……」 「どういたしまして。沙紀さんは絶対に助け出します」 ファムニスが元気付けるように微笑んだ。 「そうですね。どうか、早紀を…子供達を助けてください」 目を離した悔しさを押し殺しながら父親は頭を下げる。疲れた声。目の下のクマが色濃い。再び癖のように草履を握り締めている。 「そんなに自分を責めるものじゃないよ。亡くなった奥さんがきっと守ってくれてるさ」 一呼吸置いて、千代田清顕(ia9802)が肩を叩き、諭す様に語りかけた。父親は顔を上げると、力強く首肯した。 「そうそう、辛い事は我慢しないほうがいいんじゃない?」 仁志川 航(ib7701)も父親に力を抜くように助言した。 「ツライ思いを溜め込んじゃうと、あのアヤカシみたいになるよ」 人の負の感情は強すぎて、アヤカシになってしまったりする事はよくあることだった。 「騎士、ジークフリード・マクファーレンだ。よろしく頼むぜ」 ジークフリード(ib0431)は頼もしい笑顔を見せて挨拶すると、火猿に関する情報を尋ね始める。 「子供が攫われた場所、時間など詳しいことを教えてください」 慎重にレジーナ・シュタイネル(ib3707)も耳を傾けた。このあとの捜索を順調にするために、範囲、手順を整える情報が欲しい。 話によると、沙紀と前後して攫われた村の子供達は合計4人。親が目を話した隙に、黄昏から夜にかけて、火猿は一人ずつ攫ったらしい。 父親は思い出したように地図を持ってきた。村から西方にある魔の森までの道の大まかな地図である。 ただ、魔の森の中は流石に判らないらしく、方角を見当に森の際あたりに×印がつけられていた。 「火猿を追いかけた村人は誰一人帰ってきていません……」 再び落ち込む父親に、黎阿が口角をきゅっとあげて静かに笑んだ。 「いきましょう。そして必ず助けるの」 黎阿の一言で、父親の目に生気が戻る。開拓者たちも大きく頷いた。 「任せとけ、必ず助けだしてやっからよ」 「沙紀さんも、他のお子さんも必ず無事に帰します」 ジークフリードとレジーナも口々に励ます。 (親子が死に別れるなんて辛いことさ。どうか間に合ってくれ。) 父親の寂しい背を見て、清顕は心の中でそう願うのであった。 ●心の裡にあるもの 「あぁ、もう。こんなに怒ったの、どれぐらいぶりだろう……!」 憤りを隠せないのは蒼井 御子(ib4444)であった。 「『アヤカシはある意味動物』なんてお師さん言ってたケド。コレは…」 被害にあった親達から話を聴くにつれ、火猿の酷さに憤りを覚える。 火猿の容貌や犯行の様子が村人達に聞き込みをする中で明らかになった。子供ばかりを攫う巨大な体躯。大人たちが歯向かっても自由自在に火炎の出現を操り、また、馬鹿力で返り討ちにあっていた。 「住処を探すのは日があるうちがいいな」 捜索の範囲を割り当てるべく地図を覗き込んで航がそう提案する。火猿は早く見つけたほうがいい。 だが、捕まっている子供達と火猿が一緒とも限らない。すぐには食べず、閉じ込めておいてその恐怖を味あわせているのでは…と村人が口ごもっていた。 ―――捜索の優先は住処か火猿自身か。 神座亜紀(ib6736)は思案した結果、囮を設けてはと提案する。開拓者達は相談し、捜索しながら、囮によって子供達を発見する方法も試すことにした。 御子、ファムニス、亜紀の三人が囮になることを了解した。塒に連れて行かれるまでは反撃しないことに決める。 段取りをきめると、鬱蒼とした魔の森を目指し一斉に繰り出した。南側の道を清顕・ファムニス・亜紀・航の一班、北側の草原を黎阿・ジークフリード・レジーナ・御子の二班が捜索に向かった。 洞穴の出口が岩で塞がれ、手も届かない遙か頭上にある僅かな隙間から夕陽が差し込んでいる。 四人の子供達が洞穴の一番奥で固まって互いに身を寄せ合っている。 「とうさま…」 沙紀はますます寂しくなった。手にあんなに火がついて大丈夫だろうかと思うと悲しくて仕方ない。 先に捕まっていた子は呆然として、何も喋らない。洞穴にあるおはじきやお守りが誰のものかは知らなかった…。 そんなことよりもゴトリと岩が動いて火猿に覗かれる度、子供達は怖くて恐ろしくて泣き叫ぶ。 日が落ちる。 明日が来るのだろうか、と小さな心に不安が押し寄せるのだった。 二班は枯れた背の高い叢を掻き分けながら進む。時折地図を確かめつつレジーナが辺りを見渡した。御子は清顕と聴覚で音が拾えるギリギリまで離れて、状況を連絡し合っている。 「テストテスト…聞こえる? この辺ぐらいまでかな。…うん。こっちは特にそれらしき証拠はないよ…」 各人の範囲を広くして、更に草むらを入り、点在する樹の陰を隈なく捜す。爪跡や足跡がないか、隠れられそうなところはないか。 黎阿が瘴気を探ろうと試みるも、手ごたえがない。 ややして、大きく草木がなぎ倒された獣道らしきものを発見したが、それは森へと続いていた。 目の前に迫るのは魔の森。 瘴気が強い場所にこの時間から入ることは危険だったが、火猿は村にもおらず、遭遇もしていない。 短い黄昏の中、急かされるような心持ちで、八人は歩を早めた。 覚悟を決めて魔の森に入る。慣れたくはないが、彼ら彼女らが最もよく知る空気である。 辿った獣道は危惧したとおりに消え、手がかりの糸がふつりと切れた。火猿は木々のあるところでは地上で移動しないのだろう。 開拓者達は放り出された気分になって、途方にくれる。 「ボクの母さんはボクが攫われたらどんな風だったんだろう…」 森の中にいる子供達とその母らの様子に亜紀が自分を重ね合わせる。亜紀は生まれてすぐ母を亡くしていた。 「そんな事は考えないくていいよ。母親は誰だって手放したくないし、心配するさ。……ああ、うん。こっちの話」 清顕が御子の呼びかけに応えながら、片目を瞑った。亜紀がその優しさにそうかなと小さく笑った。 その視界に影が落ちてくるのと、開拓者の動きが止まったのが同時。 「?!」 亜紀の目の前には見上げるほどの巨大な猿。瘴気の中に紛れて気配を消していたらしい。 「亜紀さん…っ!」 ファムニスが引きとめようと手を伸ばすが、ファムニスを見た亜紀の瞳には決心が宿っていた。 成すがまま易々と亜紀は抱き上げられ、火猿に連れ去られたのであった。 ●闇に囚われたもの 火猿の塒へと誘うのは亜紀が目印に落としていったキャンディだった。一班から二班へ火猿の出現を報告すると、遠くなる亜紀の泣き声と目印を辿り始める。 魔の森に不気味な声が木霊する。 一班が木々を抜けたところで大きな岩が出現した。岩の前にキャンディがばらりと撒かれている。 微かに漏れる子供の声。ファムニスがより強い瘴気の塊を探すが、洞穴の傍には引っかかってこない。 二班が合流してきた。 「亜紀は大丈夫?」 黎阿が心配そうに言うと、岩の上部から、微かに光が漏れ、洞穴の中から子供達と亜紀が歌う声が聞こえてきた。 『もうすぐ助けが来るよ!』 亜紀の励ましに歌声は力を増した。子供達に声をかける様子が見えかのようで、レジーナもほっと胸をなでおろす。 開拓者達が力を合わせて岩を洞穴の出口から動かすと、子供達を無事に助け出すことができた。 沙紀のほかに、似たような年頃の男の子が一人と女の子が二人。外に出てまず大きく息を吸い込んだ。 「…………」 呆然としている女の子の頬を軽く黎阿がはたいてやると、びっくりしたように焦点が合った。見上げるその瞳に見る見る涙が盛り上がる。 「頑張ったわ。もう安心」 ゆっくり手を握って抱きしめてやると黎阿の腕の中でやっと泣き声をあげた。 そのまま沙紀達を村へ連れ帰ろうとした時、二度目の気配に開拓者一行が振り向いた。 「…悪いけど、もう誰も攫われる予定はないから」 御子が小さな手を引きながら、嫌悪感を顕わに樹上の影に言った。 火猿は子供達が外に出ていることを理解すると、激昂したかのように炎を全身から発して飛び降り、即座に後ろ足を蹴って突っ込んできた。 「泣かすだけで親を気取るつもり? 笑わせないで」 女の子に下がるようにいうと黎阿が扇を翻しながらその腕を流した。 「アタシに触れていいのはイイ男かイイ女だけ」 近寄ることも許さない。そう言いたげに黎阿が襟元を直す。 子を失くしたその記憶のまま子供に感応して襲うアヤカシに、もはや同情の余地はなかった。 「来い!俺が相手になってやるっ!」 身体の前で剣を構えたジークフリードが猛進して正面からぶつかる。 アヤカシに負けるわけにはいかない。その気概がオーラとなってその勇姿から立ち上っている。 火猿は剣を掴んで振り回そうとしたが、ジークフリードに刃を引き抜かれて叫び声をあげる。 間髪あけずジークフリードが火猿の腕を狙う。切り裂かれる感覚に火猿の鼻面に皺が寄った。驚くように後方へ退く。 (そうさ、騎士って言うのは負けちゃなんねぇんだ…) 騎士はひるむ事を知らず。 「特にガキの前じゃなあっ!」 裂帛の気合で振り下ろした切っ先は大きく火猿の右腕を裂いた。 ジークフリードに呼応するようにレジーナが気孔波で後押しをする。 火猿は悔し紛れに岩を投げつけた。亜紀、御子、ファムニスは子供の手をとって岩の破片から逃れる。 火猿が、馬鹿力で樹を引き抜き、盾にして進んできた。 「絶対に通しません!」 棍を手にレジーナが不退転の意を表し、間に割って入ってきた。ブンと樹を振り回す度レジーナが棍棒の先で受け止めて勢いを殺し、腕を突いて跳ね上げる。開いた身体に深く踏み込んで胴に短く一撃。猿の呼吸が詰まる。樹が落ちた。 「無事につれて帰るって沙紀さんのお父さんと約束したんです…!」 唇を引き結ぶとレジーナの棍はなお空気を裂いて唸った。二撃目。次いで脚を後ろに引いて反転し右肩から斜めに振り上げ、手首を返し螺旋の軌跡を描く。手首の回転で棍は勢いよく火猿の首筋にめり込んだ。 「グぁ…ゥ…ッ!」 衝撃と共に前へニ三歩進んだ火猿は、眩暈を起こしつつも何とか踏みとどまる。 なかなか倒れない。そのまま航が立ちはだかる。 航は薙刀で打突を繰り出し、腕や脛に深く切りつける。横に凪いだ瞬間、両腕に炎を生やした火猿が腕を大きく広げて捕まえるが、抱き込まれる前に即座に航が逆手に持ち替える。石突を前にして踏み込み、全重をかけて鳩尾に突き立てた。 「…熱…っ」 航は炎にあぶられながらも、粘りながら心臓めがけて雷鳴を放って離脱した。黎阿が急いで白霊癒を航に施す。少し服が焦げてはいたが、大きな火傷までは至らなかった。火達磨はごめんだねと航は肩をすくめてみせる。 「ウグァアアア…!!」 火猿が思うとおりに動かなくなった体を呪うように咆哮を上げた。震える空気が耳朶を打つ。なりふりかまわず子供めがけて前衛を突破せんとする。 御子がそれに拮抗するように精霊の競走曲を奏でた。潰れてしまえと精神をかき乱す。亜紀のホーリーアローが火猿に突き立った。 素早く後衛の前にとって返した清顕が、土くれを火猿の眼に投げつけた。 「!!」 視界を奪われて火猿がひるみ、ファムニスによって空間ごと猿の体が歪められた。捻られるような苦しさにでたらめに手足を振り回す。樹は折れ、地面は激しく抉れる。 牙をむき出しにして、再び凶暴な咆哮を上げる。 見えてはいないだろう。だが、子供達へと手をのばす。子供達が震えながら身を隠す。 清顕が痺れる聴覚を叱咤しながら懐へと滑り込み、火猿の腕を押さえて喉笛に肘を打ち入れ、咆哮をとめた。 火猿にさほど力が残っていない。ボロボロの体を引きずるのはこの辺りまでが限界なのだろう。 清顕が忍刀を抜き放つと、ズ、と躊躇わず刃先を火猿の心臓に突き立てた。 「悪いが、お前のような親を増やすわけにはいかないのさ…あの世で自分の子を抱きしめてやりなよ」 少し悲しげな表情を作って言うと、捻り抜く。 膝折れる火猿の傷口から大量の瘴気が黒い靄となって噴出し、妄執の闇に落ちた猿の姿を一瞬形作ったかに見えた。しかし、それもまた清顕に見送られ霧散していった。 こうして火猿は討伐され、子供達は無事に保護されたのであった。 航やジークフリードに抱きかかえてもらい子供達は大はしゃぎであった。 ただ時折、首や肩に回された小さな手がぎゅうと確かめるように体を掴むたび、二人は苦笑する。 洞穴にあった玩具や護り刀などの遺品も忘れず航が回収して帰っていた。懐にあるのは、帰りたいという想いの塊。 「それなあに?」 「忘れ物だよ」 と何でもないように言って、航が子供に笑った。 沙紀は、父親は無事であることを知ると心底ほっとした笑顔になった。 「お父さんはお好きですか?」 手を引くレジーナが尋ねると、コクリと沙紀が頷く。 「とうさまのことは好き。でも…かあさまのことをあまりお話してくれなくて…」 「ボクは母さんの思い出がないから、沙紀ちゃんが羨ましいな。でもボクを思ってくれる家族がいるから、寂しくないよ。」 もう片方の手を引いていた亜紀がそっと沙紀に微笑みかけた。レジーナも静かに微笑む。 「お父さんも、お母さんと離れて沙紀さんと同じくらい、寂しいと思います。だから…大事に、してあげてください」 「うん。…とうさまの傍には沙紀がいて、沙紀のそばにはとうさまがいるんだものね」 「それでも泣きたい時は思いきり泣いて、落ち着いたら空を見上げるの。きっと『いつまでも泣いているんじゃありません』って聞こえるわ。そしたら…泣き止めばいいわ」 黎阿が秘密、と口元に指を立てた。 「――うん!」 沙紀の笑顔は晴れやかであった。 「じゃあ、沙紀さんの家に戻って、お迎えがくるまで皆で一緒に遊びましょう」 ファムニスがふふと笑いながら持ってきた鞠やお手玉を差し出した。 子供達に、少しでも楽しいことをしてもらって笑顔で居てもらいたかった。 夜の魔の森を抜けて、村に点された明かりを見つけると子供達が駆け出した。 ただいま!という声の大合唱に笑いながら開拓者も加わって、家人たちのお帰りの声を待つのであった。 |