【恋旗】請い願う一つ星
マスター名:みずきのぞみ
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/11/07 16:40



■オープニング本文

カラン、コロンと太鼓橋を渡る間延びした下駄の音。

「ああは言ってしまいましたけど‥」
 欄干にもたれてため息をつくと、足音も止まる。
 環(たまき)は先ほどまでの女同士の会話を思い出した。
 楽しかった時間はあっという間に終わって、寂しさが募ってきたところである。
「―――本当は羨ましいですわよ。あんな素敵な殿方を射止めるなんて」
 川の流れを見ながら、ぽそりと呟いて口を尖らせる。
 友達が大事そうに、懐から絵姿を取り出したのをきっかけに。
 恥じらいながらも、愛おしさが収まらない馴れ初めの話を聞いて、さんざん冷やかしたりからかったりして、はしゃいでいた。
 そこまでは良かったのだが。
『まぁ、環さんの良い人は、どういう感じなの?』
 突如、環自身の話になり、環は詰まりながらも理想像を語ったつもりだったのだが‥。
 キラキラ期待した眼差しについつい、とても素敵な彼氏がいることになってしまった。
「あり得ない、訳ではないのですわ‥‥‥‥。きっと‥‥!」
 なぜか両の拳が握りこぶしになっているが、巾着を川に落としそうになって慌てて引っ込める。
(恋なんてものは―――素敵で劇的で意外性に満ち満ちてなければならないのですわ。)
 愛読している読本の記事を熱く頑なに信じている環に、やはり彼氏はいないのだった。


「おい、あれ、でいいのか?‥見目はいいが、なんかぶつぶつ言ってっぞ?」
「あれだろ。伊集院トコの一人娘。迎えと待ち合わせ中だ‥いただきだな!」
 呆れた口調で交わされる男達の手には、ごそごそと縄や袋が携えられる。
 頷きと目線で合図を出すと、一人の男が環の下へとふらりと近寄る。
「あんた、伊集院 環さん、だね?」
 単刀直入に、答を求めない低い声。
 鈍く光る刃物に環が息を呑んで後じさった。
「なんなの‥! 名乗りなさい」
「名乗れといって名乗るヤツはいねぇぜ‥」
「キャアアッ!!強盗?!」
 傍にいた通りすがりの女の方が、それに気づいて不用意な声を上げた。
「チッ!通行人が気づきやがった! 兄貴!」
 加勢のつもりか、刃物をかざした先ほどの青年に四人の男が集まってきた。
 環のことはさておき、橋を往来していたその他大勢は一目散に逃げ出す。
「こうなったら――」
「‥‥‥‥!」
 ギラリと光る眼光に環が身構えると、男がぬっともう片方の手を差し出す。
 仲間が何かを渡した。
「俺が『那我零菩死(ながれぼし)』一番星隊長、一ツ星 流! 流した星は追わない主義だぜ! 諦めて大人しく誘拐されるんだな!」
「あぁ、名乗っちまった‥‥!!」
「前言撤回した‥遠慮ねぇ‥‥!」
 その手に遠慮なくはためく旗には、星が一つ。巷で有名な窃盗団だった。
「誘拐ですって‥‥!!」
 それ即ち劇的な展開。
 環が口元に手を当てた。
(これですわ! 今ここで素敵な男性が私を―――!)
 だが残念なことに環がきょろきょろと辺りを見回したが、『らしき』人が見つからない。
「―――やり直しを求めます、わ」
「? なに言ってるんだ。家に帰りたければ大人しくしろ!」
「駄目です!」
「気の強い女だな! 流(ながれ)の兄貴を前にして‥」
「‥事情が事情なのですわ。誰か、誰か――!」
 環の必死の叫び声に、「おい待て」と一人の男が割って入った。
「!」
「誰だてめぇ!」
「名乗るものじゃぁないが‥」
「面倒だ! たたんじまえ!!」
 電光石火の連携で、恐らくは環を助けに入った男性が、殴る蹴るを受け地面に倒れた。
 あっさり失敗に終わった救出劇に、環もどうしていいかわからなかったが、ちらりと男性を見ると
「‥あなたじゃないですわ」
と。
 つい、目をそらしたのであった。
「なんか調子が狂うが、とりあえず来い!」
 きゃあと声を上げる環の口を塞ぐ。

 身代金を要求するため、窃盗団『那我零菩死』はまんまと白昼堂々、誘拐をやってのけたのであった。


■参加者一覧
キース・グレイン(ia1248
25歳・女・シ
リューリャ・ドラッケン(ia8037
22歳・男・騎
ニーナ・サヴィン(ib0168
19歳・女・吟
羽喰 琥珀(ib3263
12歳・男・志
繊月 朔(ib3416
15歳・女・巫
サイラス・グリフィン(ib6024
28歳・男・騎


■リプレイ本文

●伊集院家の困惑
「遅せぇなあ‥」
 上流から荷を乗せて川を往く小船を見送りながら、空に向かって男が呟く。
「おい、伊集院の家にちゃんと身代金受け渡し場所と金額、伝えたんだろうな」
「へぃ、もちろんでさ、兄貴。しっかりとこの足で行ってきました!」
 流の言葉に、男が毛むくじゃらの足を上げてぺちと叩く。嫌なものをみた流の眉間に皺が寄った。
「きっと、迷っているのですわ」
 手と足を縛られている環がつまらなさそうに相槌を打つ。
「そうだな‥誰を寄越すか、もめるだろうな。命賭けだしな」
 懐から出した手で顎を擦りながら、ふふんと流がしたり顔で頷く。
「ちょっと今、ここに居るのが苦痛に思えましたわ‥」
 環が嘯く。当事者に含めてほしくない感じである。
 常識人を自負する伊集院家が『那我零菩死』(ながれぼし)を読めず、いたずらかと思って迷っていたことなど流達が知る由はない。
 帰ってこない環が本当に誘拐されていたと知って、伊集院家は慌ててギルドに救出を依頼したのだった。


「それで環さん、縁談断ってばかりで、どうするつもりなのかしら」
 伊集院家で環の人となりを聞きこんでいたニーナ・サヴィン(ib0168)が、もう‥と小さく溜息をもらす。環の容姿は十分美人で通るだろうに。
「それは手前共も心配しておるのです。何が不満かあれに聞いておるのですが」
 噴出す汗を拭き取りながら、環の父親が落胆した。
「ずっと手元に残すつもりではないのよね?」
「まぁ環は大事な娘ですから嫁ぎ先は吟味を――」
「嫁いでほしいのよね?」
 輝く笑顔でニーナが念を押すと、唸るように父親が返事をした。環に早く嫁に行けと直截的には言えないらしい。
「身代金はこれか」
 風呂敷に包まれている金を見て、竜哉(ia8037)がやや呆れた顔になる。誘拐一つで大金が手に入れば、真っ当に働く気がないのは当然である。
「お金は一番上だけで‥あとは古い瓦版で埋めましょう」
「え? それでは‥」
「勿論、びた一文渡すつもりは無いです」
 竜哉が環の父の心配をよそに、自信満々に答えるとしゅるりと風呂敷をほどき始めた。
「環が誘拐されたときの状況って何か聞いてるのか?」
 羽喰 琥珀(ib3263)が茶菓子をぽいと口に放り込んで改めて聞いてみる。
「使用人が、迎えの場所に環が居ないので待っていたのですが‥環が野蛮そうな男達に連れて行かれた、とあたりの行商から噂をきいて血相変えて帰ってきましてね」
 父親は嘆きと一緒に『狼は預かった。(中略)那我零菩死 与利』という酷い文字で書かれた文を幾つか見せる。最後の署名と思しき辺りは画数が多いのに加えて墨が滲んでいて判然としない。
「おおかみ、になってるぞ?」
 琥珀が誤字にかくりとうなだれる。
「娘のことだと思います。謎賭けみたいになっていて私どもも何がなんだか――」
 混乱を極めて何がなんだか―――と開拓者達も言いたくなったが、ぐっと堪えておく。
「那我零菩死‥センスがない名前ですね、かっこいいと思っているんでしょうか」
 つい、繊月 朔(ib3416)がぼそりと感想を述べてしまったが。
「助けようとした方がいたようなのですが。酷い目に合わされてたようなのです。環の様子からして、知り合いではなかった様子ですが」
「まぁ、そんな方が?」
「知り合いじゃない、って?」
 ニーナと琥珀に同時に尋ねられ、ぐっと環の父が言葉につまる。
「目をあわさなかったそうなので‥‥あれのことですから、興味がなかった、かと‥」
「‥‥‥‥‥」
 今度こそ開拓者に落ちた沈黙。

 身代金受け渡しの刻は、刻一刻と迫っていた。



●全力にて
「どこに行っても、どうしようもない馬鹿はいるものだな」
 キース・グレイン(ia1248)がやるせない気持ちを吐露しつつ、拳布をきつく巻き直した。致命傷まで至らないように加減するとしても、誘拐犯は懲らしめなければ。
 少しは名が知れているのなら、悪事を重ねて来たに違い、とキースは考えるのだった。
「しかし身代金で一稼ぎなぁ‥そんなんで大金得ても身につかんだろうに」
 キースと並んで歩くサイラス・グリフィン(ib6024)は、誘拐現場で聞き込んできた情報を総合すると、理解不能だなと頭を掻く。
 通行人の目にも、誘拐犯側の手際がいいようにも映らなかった様子‥なのに巻き込まれた男性、とやらに同情を禁じ得ない。
 キースとサイラスが伊集院家で聞き取りをしていた仲間と合流し、町外れの蔵へと向かう。
 相手がソレで時間通りに行くのも―――と全員が思ったかどうかは定かではないが、じらした方が交渉には有利だろうと、誘拐された令嬢を助けに行くにしては、泰然とした足取りであった。


「来たぜ兄貴! あれだ! でかい風呂敷もってらぁ!」
「ひい、ふう、み‥あん? 誘拐された女より上玉がいるじゃないか‥ぃだッ?!」
 環の下駄が飛んできた脛をさする。
「他に隠れてるやつが居るかも知れねぇ‥手分けしろ」
 珍しく鼻が利いた流の指示に、那我零菩死一番隊の面々は散開した。


 商人が船着場の仕入荷を貯蔵している大きな蔵の一つが受け渡しに指定された場所だった。
 荒事で鳴らしている窃盗団相手に、現場が近づくに連れ緊張感が高まる。朔と竜哉が伊集院家の使いを装い、サイラスが護衛のフリをする。
 琥珀、キース、ニーナは受け渡し場所周囲の物陰から、範囲を狭めるように目的の蔵へ歩を進めていた。
「こっちに一人いた‥危ねーな」
 琥珀が瞳を開いて集中を解いた。壁に張り付いている琥珀から少し離れて、蔵近くの通路に潜んでいる影を見つけた。銃を持っている。身代金を持った三人を背後から包囲しようとしているようだ。
 キースも己のすぐ側、蔵の横に積まれた木箱に腰掛けて短剣を磨いている男に気づく。二人の合図に、ニーナが頷くとそっと息を潜めて近くの荷車の影に隠れる。
「遅かったな、オイ。お前ら確かに伊集院家の使いか?」
 見張りの男が、竜哉達に歩み寄った。
「ご主人に頼まれまして、参った次第でございます」
 竜哉がゆっくりとした動作で腰を折って挨拶する。確かに頼まれたが、救出を、であることは笑みで省略した。
 男達が勘違いするのは勝手である、というのは竜哉談。
「さあ、これが身代金です。周りにばれないように厳重に包みました!」
 ずしりとした包みを朔が叩いてみせる。瓦版が詰まっているとは思えない厳重さであり、大金を想像したのか、男がごくりと唾を飲んで手を伸ばす。
「‥お嬢さんを先に返していただきましょう」
 竜哉が風呂敷包みを持つ手を脇にどけると、男が舌打ちする。
「あの人質なら早々に引き渡したいぜ。兄貴、兄貴―!」
 さっさと金を受け取りたいのか、男はあっさり流を呼ばわった。
「やっと来たか」
 現れた流の傍に、手下が環を連れてきた。気丈そうに立っている環にひとまず開拓者は安堵する。
 環の方は、見覚えがない使用人達に‥期待を込めた眼差しになった気がする。
「お気に召さなくても、やりなおし、てのはきかないけどな」
 サイラスが現場での聞き込み情報を思い出して、さりげなく予防線を張る。
「金を先に渡してもらおう!」
 それを聞いて、竜哉が幾重にもくるんでおいた風呂敷の間に手を入れる。ピッと一枚を指に挟んで取り出した。
「お嬢さんが先」
 勿論本物である。
「ぬぬ‥」


「はぁ。もういいだろ」
 短剣を磨いていた手を止め、そっちが先だ、やれ同時だ、ちょっと待ちなさいよと言い合っている隊長と使用人と人質のやりとりに飽きた隊員はのそりと立ち上がった。
 使用人共を後ろから捕まえて金を巻き上げろ、と命令されていた。
 人質と金の交換に気が向いている今だ、と構える。
「‥‥お前ら、自分達が何をしているか分かってるんだろうな」
 キースが始終を見届けて、静かな口調で制しながら陽の下に出た。
「なんだ、お前!」
 いきなり声をかけられて狼狽した男は、反射的にキースに向き直り、姿勢を低くして構えた。
「今までにしでかしたこと、洗いざらい話してもらおうか」
 キースが何も持っていないと知り男は笑ったが、近づくにつれ今まで感じたこともない威圧感に気圧され始める。
 短剣の切っ先は落ち着かず、知らずに足はジリジリと後退する。これ以上は危険、と判断した間合いで、男はキースめがけて短剣を素早く繰り出した。
 脇、足と順にしとめる筈の攻撃は、キースにことごとく看破される。左手で弾かれた。
 内が空いた。右の拳が腹に叩き込まれ、肘が強烈に男の鼻っ柱にめり込む。
 一瞬男は息が詰まる。早い。
「‥‥っ」
 痛みを言葉にもできず、鼻を押さえた男の襟を掴んで立たせながら、キースが覗き込む。
「人相手だからといって手を抜く気などないが、反省してもらおう」
「‥‥は、はぃたふ‥者‥?!」
「よく分かったな。俺が開拓者だ」
 キースが笑った気がした。


「?」
 妙な声音が聞こえた。断末魔のような。
 不審に感じつつ、短銃を構えて男が路地の壁に背を預ける。
「ご苦労さん」
 蔵の角に差し掛かったところで下の方から声がした。正確には脇腹の辺り。ぎょっとして見ると、琥珀がぴこんと耳を立てて見上げていた。
「取引、邪魔しちゃだめだよなー」
 琥珀は背負っていた刀をスラリと抜き放ち、冴えた刀身を突きつけた。
「‥くそ!」
 壁に弾むようにしてぶつかりながら、逃れて距離をとり、男が片手で琥珀の頭に狙いを定める。
「本気?」
 標的に無邪気に尋ねられて、引き金の指を引くのが遅れる。
 それを見逃す理由もなく。
 小さく、琥珀が息を吐いた。風が走る。上段に閃いた孤は短銃を勢いよく弾き飛ばし、返す刀はすれ違いざま力強く振り抜かれた。
 男は受けた衝撃に壁をずるずると這い落ちて気を失った。琥珀は鞘に刀身を納めて、男が志体持ちではなかったことに脱力する。
 ニーナがそろりと近寄ってきた。
「大丈夫、峰打ち」
 ニカっと笑って琥珀が親指を立てる。殺すと後味が悪い為、生け捕りにした。ニーナの表情がほぅっと晴れた。
「じゃあ‥お役人に渡す為、縛っちゃいましょう♪」
 荒縄を手にニーナが可憐に笑うのであった。



●輝く星に
 なかなか飛び出してこない仲間に、両脇に立って環の肩を抑えている男達にも焦りの色が見えた。
「あいつら寝てんのか?」
「兄貴の話が長いからだろ」
 小声でやり取りしている隊員達の言葉に、環が苛立ちをつのらせる。
「もう私が先でも後でもよいのですわ」
「―――人質はだまってろ!‥と。どこまで話したっけ。とにかく!流れる星にとやかく言わないのが男の浪漫、だ!」
 流が金の使い道の説明に力を込める。
 長広舌に辟易していたサイラス達が、気は済んだかと嘆息する。
「受け取ってみろ!」
 竜哉が空に向かって包みを放り上げる。
 流が落ちてくるそれを仰ぎ見て、前へ出た。
 三人が駆け出す。
 気づいた流とサイラスの視線がかち合った。袖に手を突っ込んだ流の凶刃が閃く。させじとサイラスが長剣で素早く薙ぎ払った。
 サイラスの剣勢に引きずられ、流が跳躍する。
「女性に生臭い場面はみせたくないな」
 片手を地面について勢いを殺す流に、余裕すら見せるサイラスの配慮。流の頭に血が上る。無言で地を蹴る。サイラスがわざと空けた隙と知って流は突っ込んできた。
 一点へ。
 両者が攻めの気合で刃を交える。
 キィン、と甲高い響音を残して、流の刃が折れた。
「誰だ、お前ら‥」
 今更な問いに答える者も居ない。伊集院家の使用人ではないことは確かだった。


 環はというと、左側に立つ男の顎下に、竜哉の銃口がピタリと止まるのを見た。
「流れ星、それを名乗るにしては遅すぎます」
 見切ったとばかり、丁寧な口調と裏腹に銃床を打ち付ける。
「華奢に見えるかもですが、私も戦えるんですよっ!」
 朔がカミナギを構えて環の右側の男に凄んでみせる。男はその速さに目を丸くしたが、相手が女性と見くびったのか喉元の木刀を払いのけようとする。
 しかし、予想に反してびくともしない。
「?!」
 ともかく後ろに逃げようと身体を引いた。そのとき、男の耳に流れ込んできたのは不思議な旋律だった。ニーナが透き通った声で歌う。聴く者の意識をしじまに誘う伸びやかで柔らかな声。
「‥なに‥?」
 男が眠りに落ちて倒れる。そこまでは環も見届けた。
 ここからがいい所なのに‥と騎士達の勇姿を脳裏に刻み付けつつ、環の意識もぼやけていった。
「ちく、しょう‥」
 流が毀れた武器を取り落としながら、目を細める。声から逃れようとしたところでサイラスの追撃をかわしては頭を振る。
 那我零菩死の一番星隊長も、この挟み撃ちには抗えるはずもなく、力尽きた。


 担ぎこまれた環が眠っているのを見て、伊集院家は上を下への大騒ぎであった。
 頬を叩かれてぼんやりと覚醒した環の前に座っている開拓者達。
「夢、ではありませんでしたの‥?」
 確か素敵な殿方達が助けに来てくれた気がしている環であった。
「環さん、お話があります」
「はい?」
 自分の家で、見知らぬ少女にきちりと膝詰めで話をされることなど思いつかない。ただ、身代金を持ってきた時の、と環の中で朔が合致した。
「ま、恋に夢見るのは乙女の特権だしね♪ 悪くはないのだけど‥」
 こちらも神妙な顔になったニーナがずい、と身を乗り出す。
「‥女もね、あまり悠長なことは言ってられないのよ」
 ぽむと肩に手を置かれる環。
「もっと現実みましょう!小娘の意見ですが、これでも開拓者として経験はあるんです!」
恋愛はまだですが、と聞こえない音量で朔が付け足す。
「ええと‥?」
「まずはちょっと素敵かも、って思う方とお友達から始めてみては?」
 環の父親が部屋の隅で涙ぐみながら頷いている。父様、と環の眉が小さく跳ねたが、冤罪である。
「助けよーとした相手の事も気遣えないんじゃ、どんなにいい奴が現れても好きになってくれねーぞ?」
「そ、それは‥」
 琥珀のような少年に言われると、環も流石に悪いことをしている気になってきた。
 確かに誘拐される時に誰か助けに来てくれた人がいたのは覚えている。‥誰だか人相風体を覚えてはいないけど。
「‥‥‥‥」
 本当に声ぐらいしか覚えていないので環は閉口した。
 居並ぶキース、竜哉、サイラスの印象の方が強い。心なしか三人は視線を合わせないが。
「そうですわ、ね‥。もう少し人の話は聞いたほうがいいですわね‥」
 万年夢見がち女子である環が譲歩を見せた。
「では、続きはあちらで!」
 ニーナががしと環の腕を取った。うふふ、と口元に笑みがこぼれている。
「ちょっ‥誰なの、貴女達‥」
 環が尤もらしいことを言うと、朔とニーナが顔を見合わせた。
「じゃ、それもあちらで!」

 にこやかな二人に別室に連れられていく環に、男性陣はほんのちょっぴり同情したのであった。


 恋に落ちるまで、あと幾星霜かかるのやら―――