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■オープニング本文 魔槍砲。 それは本来アル=カマル製の特殊銃を指す。 宝珠が組み込まれた長銃身型であり、先端には槍のような刃が装着可能。宝珠近くの樋口から火薬や専用の薬品を詰め込む構造を持つ。 しかし魔槍砲には銃口が存在しない。そして多くの魔槍砲は弾丸を込める手順さえ必要とせず、練力消費によるスキルを代替えとする。 銃身の先端から時に放たれる火炎、爆炎は一見すれば精霊魔法のようだが物理的な攻撃能力を有す。 これまで改良が続けられてきた魔槍砲だがここにきて停滞気味。アル=カマルの宝珠加工技術の行き詰まりが原因といわれている。 このような状況下で朱藩国王『興志宗末』と万屋商店代表『万屋黒藍』は魔槍砲に注目していた。 ●炎の馬 「作っては見たものの―――とんだじゃじゃ馬には変わりがない、てことか」 朱藩、興志王は感慨深げに呟いて立ち上がる。 改良が施されて納められた試作品の魔槍砲を一丁手にとり、両手で持つと試しに的に狙いをつける。 引き金を絞ると長銃の先についた宝珠が淡く光る。 錬力が吸い取られる感覚と共に、薬室の火薬と宝珠の欠片へ伝導し、銃口もない先端から轟音とともに火炎弾が放たれる。試射で慣れたはずの反動を逸らしながら連射を想定して肩で銃を押さえ込む。 だが、そこにあった普通の射撃用の的は跡形もなく吹き飛んでいた。 据えられた的を正確に射抜くというよりは、的ごと破壊したといったほうが正しい。 そして、魔槍砲の最大の特徴として、其の威力と引き換えに、志体もちの錬力をごそりと持っていく。 アル=カマル製のものから天儀で加工した宝珠へと交換され、工夫も施されてはいるものの、その仕組みは変わらない。 これを改良し、銃の扱いに長けている砲術士はもとより、どんな職の者であれ、志体もちが錬力を糧に物理攻撃を行うことが出来るようにしたい。 既に魔槍砲の開発のために、アル=カマルにおいて魔槍砲の買付と技術者の招聘(しょうへい)が行われ、試作品のために宝珠が潤沢に集められた。 今ここに、アル=カマルの原型をもとに、試作として納められた魔槍砲は全部で三種類。 原型から削りだしたこれらを元として、更に改良に次ぐ改良が求められる。 「実際に投入して見なければ始まらんか‥」 止まっている的を撃つだけでは、得られる情報は少なすぎる。実戦においてはこの強力な武器を制し、動くアヤカシを撃破しなくてはならないのだ。 興志王は魔槍砲を眺めてしばし考えていた後、傍に控えていた者を呼んだ。 この魔槍砲を実戦に投入し、使用した者たちからの報告を次の改良の糧にしたい。 こうして、魔槍砲の実装を主眼においた興志王からの依頼が出された―― ●鎧たる鳥 家の中は静まり返っていた。 村長の家に肩を寄せあい、柱に捕まり、じっと嵐が過ぎるのを待つように黙りこくっていた。 屋根に落とされる岩に屋根が耐えてくれるか。 それだけを祈りながら、アヤカシの襲来に怯えていた。 しかし、そう村人が警戒し、アヤカシへの被害を少なくしようと身構えるほど、皮肉なことにアヤカシの襲来は目に見えて多くなった。 「‥‥俺が倒してやる!」 「馬鹿!無茶はやめろ!」 銃を持って飛び出そうとした青年を父親が必死で止めた。 村人達は獣の肉を使っておびき出したアヤカシを仕留めようと、もう何度となく試みた。 だが女の顔をした怪鳥のアヤカシは弓矢と弾を弾き、ニタリと赤い唇を引き上げただけだった。 そのまま、返り討ちにあった村人の叫び声だけが耳に残っている。 「どうやったらあいつらを倒せるんだ‥」 青年は鳥銃を放り出すと拳を柱に打ち付けた。こんな銃で撃ち取れないことは解っている。それでも一矢報いたかった。 悔しさをかみ殺す頭上で、好き勝手に村人の家に岩を落とす音が聞こえ始めた。 恐怖に耐えかねて出てくる村人を待っているのだ。 このままでは狩りも農耕もできず、村は全滅を待つだけである。 「どうしたらいいんだ‥!」 「―――開拓者、とやらに頼むしかあるまい」 村長が意を決して立ち上がった。 並の攻撃では歯が立たない敵を、開拓者達ならば何とかしてくれるに違いない。 こうして、アヤカシが立ち去るまでまんじりともせず夜を明かした村人たちから、開拓者ギルドへと怪鳥退治が依頼されることとなる。 ギルド職員はこの依頼内容を見てしばし考えると、興志王の依頼文を探し出してを読み返した。 そして二つの依頼は一つになって貼り出されるのであった。 |
■参加者一覧
志藤 久遠(ia0597)
26歳・女・志
御凪 祥(ia5285)
23歳・男・志
新咲 香澄(ia6036)
17歳・女・陰
ジルベール・ダリエ(ia9952)
27歳・男・志
アーシャ・エルダー(ib0054)
20歳・女・騎
アレクセイ・コースチン(ib2103)
33歳・男・シ
ウルシュテッド(ib5445)
27歳・男・シ
ミル・エクレール(ib6630)
13歳・女・砂 |
■リプレイ本文 ●炎馬招請 ギルドから貸与されたのは、見たこともない種類の長銃であった。 おそらくは銃、という言い方が正しいのかもしれない。 引き金はあるが銃口がないそれらの先端には、槍として使えるように刃がつけられている。試作品でもある無骨な線を描く魔槍砲の銃身は、どこか暴れだしそうな力を封じ込められているようで一種独特の雰囲気を醸していた。 八人全員がそれを肩に担ぎ、あるいは両手に持ち、夜明けと共に村に現れた。 見たこともない武器を持った開拓者に村人の期待は高まった。 「それ‥持ってみていい?」 おず、と子供が興味津々で尋ねる。こら、と兄らしき少年がその頭を小突く。 「はは。いいよ」 ウルシュテッド(ib5445)が手を貸してやりながら持たせてやると、その重さに驚きながら小さな手足が必死に魔槍砲を支える。 「うぁ、重い!すごいなぁ」 「俺達も使えるのかな‥」 「魔槍砲ていうんや。うーん。引き金ひいても多分弾は出んやろな」 他の子供達にも注意して持たせてやりながらジルベール(ia9952)が苦笑する。 志体持ちの錬力を糧とする魔槍砲は、一般人には撃てない代物である。 まだ試作品であり、その威力も安定しないのだが、ひとまず三種類の魔槍砲は開拓者に希望通りに貸与された。 アル=カマルの原型から、天儀の宝珠加工技術を取り入れ、錬力消費率を上げた汎用的壱式。 一発の火力を最大限に引き出すことに特化した弐式。 火力を抑制し連射性を重点に開発した参式。 注意として、錬力が大幅に使用されることは聞かされていた。 興志王からの実戦投入依頼に、無茶をすると思いながらも‥興味と好奇心が勝った。 アヤカシを討伐することにもちろん失敗は赦されない。そこへ魔槍砲という不確定要素を投入する――― 開拓者たちには自然と緊張がみなぎっていた。 獣の肉でアヤカシをおびき出すことに村人も賛成し、出来るだけまとまって避難することにした。 村長から伝えられ、野良に出ず、狩猟にも商易にも村から出ることは禁止された。 「作戦を知らずに残っている者がいないか、確認するか」 「そうですね。村の方にも手伝ってもらって、揃っているか確認してもらいましょう」 御凪 祥(ia5285)と志藤 久遠(ia0597)が分かれて避難している家に出向いて村人に確認させた。 アヤカシの脅威が身に滲みているのか、言われた通りに避難先で互いを確認しあい、祥と久遠に、邪魔にならないようどうすればいいかと訊ねてくるものもいた。 そして、怪鳥のアヤカシは皮膚を硬質化させることができ、普通の槍や弓では歯が立たないことも聞かされた。 アヤカシに岩を落とされて屋根が傷んでいる民家を待機中のジルベールとウルシュテッドが器用に修復する。 「ちょっとの間辛抱してな。俺らがアヤカシやっつけたるから」 頭を撫でられた子供達が目をきらきらさせて仰ぎ見た。 「前へ踏み出す力を求めながらもお互い弓は手放せないものだな」 笑いを含んだウルシュテッドの声にジルベールもふと手を止めたが、予備の武器を見て顔を上げると全くな、といっておかしそうに笑った。 「ではアーシャお嬢様、いってまいりますので大人しく、は無理でもせめて余りはしゃがれません様に」 アレクセイ・コースチン(ib2103)が周辺の偵察に出かけるため、アーシャ・エルダー(ib0054)にかしづいて手の甲に軽く口付ける。 「はしゃ‥‥?!主をフォローするのが執事の役目なんだからねっ。私がカッコよく決めないと執事としてもカッコ悪いでしょ!」 魔槍砲を手にやる気満々だったアーシャが少しむくれつつ、離れることを許す。 「人形師としては、魔槍砲のからくりにちょっと興味あるよね。メインはアヤカシ退治だけどしっかり威力も見てこよう」 新しい武器に興味津々な新咲 香澄(ia6036)は手にした魔槍砲をじっくりと眺めながら構えを取ってみた。 「今回で二回目、だね」 香澄の横で同じようにミル・エクレール(ib6630)も魔槍砲を手に士気を高める。一度は手にした魔槍砲であり、開発に携わった身としてはその力が気になっている。 再装填後の展開を経験してみたかった。 戦うべきはアヤカシ。 だが、この暴れ馬を制することもまた、戦いであった。 ●怪鳥召喚 アヤカシが襲来してくるという森をにらみ、村の周辺を偵察する。 木を切り出して加工するため、森の一部を切り拓いている作業場があった。 森へ逃げ込まれないようかつ魔槍砲の射程を確保するため、開拓者はここを戦いの場と決めた。 万一の延焼を抑えるために、村人が桶に水をくんで家々の軒下に準備している。 村に逃げ込まれないよう、村を背に森へ向かって魔槍砲の種類ごとに班を構える。一番森側に班を構えるのは弐式の久遠と香澄。 その左に壱式を構える祥、ジルベール、ウルシュテッド。 右に参式を構えるミル、アーシャ、アレクセイ。 「じゃあ、肉をおくよ」 ミルが村人から分けられた獣肉を森の方へ向かい投げた。捌いたばかりの肉は骨も皮もついたまま、血が滴っている。 柄杓の水で手についた血を洗い流し、開拓者達は村を背にして各々布や蓑を被って身を潜める。 風にのって血の匂いが届くのに、さして時間はかからなかった。 大きな禿鷲型のアヤカシが一羽頭上を旋回し始めたと見ると、その数が増えていった。 「古典的な‥しかしあの程度の輩であれば丁度いいのかもしれませんね」 アレクセイが魔槍砲の感触を確認しつつちらりと視線をやる。 舞い降りた禿鷲が肉をついばみ始めると、大きな異形の影が中空に現れた。 女の上半身を持つハーピー型の怪鳥は鉤爪を鳴らしながらギョロリとあたりを見回す。 風を地面にたたきつけながら宙にとどまるほどの翼力を見せつけつつ。 口火を切ったのは扱いに一日の長があるミル。 起き上がって構えるとためらいもなく引き金を絞る。 耳朶を打つ轟音とともに炎弾が禿鷲の羽根を破壊する。片翼を吹っ飛ばされた禿鷲がけたたましく鳴く。 「‥く。やっぱり少し重いな」 反動による軌道修正を確認する。 「さて試射。といっても、当てるけどねぇ!」 香澄がハーピーめがけて弐式を放つ。肩が抜けそうな反動とともに轟炎が空を走る。僅かにかわしたアヤカシの羽根を掠った。 どっと来る錬力消費の脱力感に魔槍砲を全力で抑えた香澄が息をつく。凄まじい威力である。 開拓者達の砲撃に、舞っていた禿鷲が降下し始める。 知恵のあるハーピーはそれに従わず、上空でいつもと違う雰囲気を眺めている。 「銃でも弓でも、要は当てりゃエエんやろ!」 開拓者を獲物と認識し向かってくる禿鷲をジルベールが迎え撃った。壱式は前の二つの原型に近い威力。 引き金を絞る瞬間に力が持っていかれる感覚。 炎の軌道は狙った頭から逸れながら、それでも一羽を墜落させた。 「なん‥ちゅうじゃじゃ馬や、後ろに吹っ飛びそうやで!」 くらりとした感覚に頭を振る。錬力の変換効率が悪いのだろう。 「二兎を追うもの‥とはいえ、俺はその力を望むね」 ウルシュテッドが安定した構えを見せて炎撃を放つ。魔槍砲の跳ね上がる反動にやはり狙いが逸れるが、それでも当てたのは流石である。 ただ、こちらも普段はありえない量の錬力をそがれる感覚を味わう。それも予想以上に、だ。揃ってこれも宝珠の性質のせいだろう。 「なんてこった。でもクセのあるやつは嫌いじゃない」 旧友の二人は宝珠にやたらと喰われる錬力を補う梵路丸を用意しながら笑うと、もう次へと狙いを定めるのであった。 「威力が低くても、錬力を喰おうとも、使いこなさなければ帝国騎士の名折れ!」 勢いよく布を跳ね上げたアーシャが狙いを定めると、言葉とは裏腹に参式とは思えない火力が弾き出され、逃げようとした禿鷲をきりもみにさせた。 「お嬢様‥」 初手から最大火力で撃ち放った主にアレクセイが絶句したが 「―――この武器、ちょっと楽しいかも♪」 と当のアーシャは反動を抑えながらも爽快感に語尾を上げた。宝珠の力が強いのだろう。 此処まで来ると、禿鷲も流石に逃げ始めた。 「低俗なくせに‥逃げられると思わぬよう」 外見に反して武力派の執事が優雅な仕草で構えると禿鷲を撃ち抜き始める。 腕の中で錬力を喰って暴れる魔槍砲にうるさそうに目を細めながら。 反動を逃がしながら弾が途切れないようアーシャ、アレクセイ、ミルが連射を行う。 「アレクセイ、村に逃げ込むのを阻止しなさい!」 「御意」 銃の角度をやや上に向け、アーシャの言葉通りに村に逃げ込もうとする禿鷲をアレクセイの火線が捕らえる。 「村人達が味わった恐怖をお返ししますわ!」 数を撃つために錬力を少し抑え目にしてアーシャが迎撃する。 ミルは慎重にリロードの手順を踏んで再度の射撃に備える。 「もう外さないよ」 ピンと張り詰めた糸のような緊張感がミルを包む。己の錬力の限界と魔槍砲の力との一騎打ちである。 威力が抑えられている分、狙いは合わせやすくなる。軌道のずれをミルは完璧に掴み始めていた。 参式班の牽制と攻撃に禿鷲は次々と撃ち落とされ、瘴気と化していくのであった。 ●制炎求むる力 そしてハーピーが森へ戻ることを許さないために祥が魔槍砲を構える。 「降りて来い」 短くそう言い放つとハーピーの動きを牽制する。 削られる錬力は炎となって空を駆け、退路を縫う。 「さぁ、次からは本番だよぉ。くらえっ、主砲発射!」 香澄の豪砲が空から弾き落とさんと、再びハーピーに襲いかかる。一撃に重きをおく弐式を使いこなせるだけの錬力がそのまま力となる。 「もぉいっちょうー!」 後ろに吹っ飛びそうな反動にしがみつくようにして踏みこたえつつ炎を撃ち出す。 盛大な炎の舌は機敏なその翼を捉えた。 灼かれた片翼の先を折りたたみながら、ハーピーが急降下する。 落ちているのではない。降りてきている。 それを知った瞬間、壱式が吼えた。 「はずすなよ、ジル!」 「よっしゃエエ子や。俺の錬力くれてやるからあいつを‥ぶっ飛ばせ!」 奥歯で梵路丸を噛み砕きながらウルシュテッドとジルベールが地面すれすれで向きを変えたハーピーの胴を撃ち抜いた。 一撃の衝撃に耐えた硬質化の皮膚も続けざまの二撃目には耐え切れなかったらしい。 醜い声をあげながら、怒りの形相で地表に降り、炎を上げる体をこすり付けて消火する。 再び空に這い上がろうと足掻くハーピーに更に祥の壱式が喰らいつく。 暴れて巻き起こす真空の刃に炎の威力は削られつつも、雷撃が弾道を追う。 アヤカシの身体が雷で痙攣したのを見届けると祥とウルシュテッドが駆け出した。 「あとは任せてや」 弓に持ち替えてジルベールが二人の援護をかってでる。 「技が仕えるだけ、槍の方が楽だが‥」 祥が試すのは魔槍砲の槍としての機能。重さの均一でないそれの重心を探り片手で回転させ、爪をかわしながら銃床を傷口に叩き込む。腰を落とし足を伸ばしながら止まったそれを回転させて振り戻し、銃先の刃を深く突き刺す。 近接する攻撃を望むウルシュテッドが同じく回転させて槍としての感触を確かめる。刃は翼を切り裂き、銃身は激しくハーピーを殴打した。 「これが魔槍砲‥面白い」 前衛にも後衛にも応える銃器なら戦場で役に立つ。刃の強度にやや不安を残しつつも折らないように慎重に取り回す二人であった。 機動力を奪われたハーピーは、間髪なく繰り出される攻撃と砲撃で受けたダメージに皮膚の硬質化が間に合わない。援護の弓矢もまともに受けて、翼は動かなくなった。 赤い唇から空に戻れない怨嗟の声を漏らしながら、鋭い鉤爪で地面を掴んでなお踏みこたえていた。 だが、動きの止まった的に最早躊躇うことはない。 「撃てても一発‥!」 ブレが大きい弐式を扱うため、そう決めていた久遠。 こらえてきた力を魔槍砲に集中するべく確実に当たる距離まで駆け寄った。 弾道上から仲間が退いたことを素早く確認し、腰を落として魔槍砲を構える。 引き金に手をかけると恐ろしい勢いで錬力が吸い込まれていく。 アヤカシがこちらに気づいて威嚇の声をあげる。 「―――遅い」 最大火力に持っていかれるであろう錬力を予見しながらも、更に命中力を上げるため久遠がスキルを上乗せで発動。 欲しいだけ錬力を喰らわせた。 銃先の宝珠が呼応の光を放つ。 それに久遠が驚く暇もなく、炎は凄まじい音とともに魔槍砲から放たれた。 火炎は塊となって膨れ上がるとハーピーめがけて駆け抜ける。 ハーピーの胸元から胴にかけてを大きくぶち抜くと、一瞬遅れてその身体を炎に包みこんだ。 ギャアアアと耳を劈きかすれゆく断末魔とともに、グズグズとその身は瘴気に還った。 「‥‥‥は‥」 たった一発に消費された錬力に息をつきながら、久遠は魔槍砲を杖のようにしてずるずると座り込む。 その威力に久遠本人が一番驚いたが、残りの開拓者達も目を瞠った。 宝珠の変換効率のなせる業か。 不安低な魔槍砲はそれゆえにまだ開発の余地がある。 今の一撃は脅威だが、加減がきかないとそのあとの開拓者の体がもたない。 「ふむ、いろいろなタイプで実験ってわけだね。安定性が出ればそれにこしたことはないんだろうけど」 香澄が面白そうに魔槍砲を見つめた。 「錬力使いましたからね、おなか空くのです」 もう一歩も動けないという風にアーシャも魔槍砲を杖にしてへたりと座り込む。 「ご無事で何よりです、お嬢様。戻りましたら甘味でもいかがですか。丁度天儀風の甘味のレシピを入手しまして‥」 手を差し伸べつつアレクセイが微笑んだ。 興志王が所望しそうな情報は揃えることが出来た。 連射もある程度こなせたし、錬力の限界を感じるまで撃つことができた。 何より実戦に臨んだ情報は貴重なはずだ。 互いの無事を確認しつつ、かろうじて残った錬力に慄きつつ。 開拓者達はこの暴れ馬を制す日が近づくのを感じるのであった。 |