【槍砲】妄執と死の追走
マスター名:みずきのぞみ
シナリオ形態: ショート
EX :危険
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/06/07 19:58



■オープニング本文

 魔槍砲。それは本来アル=カマル製の特殊銃を指す。
 宝珠が組み込まれた長銃身型であり、先端には槍のような刃が装着可能。宝珠近くの樋口から火薬や専用の薬品を詰め込む構造を持つ。
 しかし魔槍砲には銃口が存在しない。そして多くの魔槍砲は弾丸を込める手順さえ必要とせず、練力消費によるスキルを代替えとする。
 銃身の先端から時に放たれる火炎、爆炎は一見すれば精霊魔法のようだが物理的な攻撃能力を有す。
 これまで改良が続けられてきた魔槍砲だがここにきて停滞気味。アル=カマルの宝珠加工技術の行き詰まりが原因といわれている。
 このような状況下で朱藩国王『興志宗末』と万屋商店代表『万屋黒藍』は魔槍砲に注目していた。



●集められるもの
 その依頼は風信器によっていち早く神楽の都の開拓者ギルドにも伝えられた。
 依頼文には魔槍砲のために宝珠を集められたしと記されている。依頼主は興志王。
 儀に散らばる宝珠をかき集めるという依頼に開拓者達が色めきたつ。
 新しい武器の開発がうまくいけば、いずれ開拓者自身もそれを手にする機会が出てくるであろう。より強く、より新しい。その武器の開発の一端に携わることが出来る、という気持ちが開拓者達の心を高揚させる。

 既に魔槍砲の開発のために、現地アル=カマルへ赴いて、出来うる限りの魔槍砲の買付と技術者の招聘(しょうへい)もギルドに依頼され、開拓者が募られている。
 もちろんそれだけでじっとしている興志王ではない。
 技術者も呼んでの本格的な開発を考えれば、次の手として魔槍砲の作成に不可欠である宝珠を準備するのは当然のこと。

 神楽の都のギルドに集まった依頼を見て、開拓者達が思いつく限りの宝珠の発掘場所を思い浮かべるのであった。



●管理人
 闇雲に人づてに話を聞いて歩いても、と思った開拓者達は、神楽の図書館を訪ねた。
 入り口付近に陣取り、相変わらず黙々と記録を読んでいる管理人紫音(iz0209)に声をかける。
「‥‥宝珠の発掘?‥‥‥」
 いぶかしそうに言って顔を上げた。だが、興志王の依頼である旨を告げると、既に聞き及んでいるのか、ああ、それでと得心する。
「できるだけ多くの宝珠を採ってきたいのだが」
「‥強力なもの一つより、数、なんだろう。‥‥‥お前達が探していそうなのは‥‥」
 ぐるりと図書館内を見渡してぴたりと視線がとまる。
「探し物は‥二階の蔵書の突き当たりの書架。『三宝珠越天記』という冒険譚の中に出てくる。見てくるがいい」
 それだけを言い残して、紫音が本を抱えて図書館の奥に消えた。勝手に読んでいけということだろう。
 開拓者達は勧められた本を見つけて手にすると覗きこんだ。



●宝珠の眠るところ
 泰国の山岳部「天山」。天山は一年中霧に覆われており、近づくのが難しいとされている。化石が多く取れる泰国においては、まれに宝珠も発掘する。だが、書物によると、宝珠のみが発掘された洞窟があり、それにまつわる恐ろしい話が記してある。
 いわく、『宝珠を持ち帰ろうとしたものに、後ろから呼びかける声あり』と。
 仲間の声であり、愛するものの声であり、恐ろしい獣の声であり。
 振り返ったものは、命を落とす。
 怖くなって発掘した全ての宝珠をかなぐり捨てたものだけが帰る事が出来たという。

――――以後、その洞窟の入り口にはしめ縄が張られ、立ち入り禁止となっている。

 ここにいけば、掘削も出来、もしかしたら多くの宝珠が骸の傍に落ちているだろう。

 物語のとおり誰も手付かずならば、いくしかあるまい?
 のるかそるかはあなた次第。

 さてどうする?




■参加者一覧
天津疾也(ia0019
20歳・男・志
空(ia1704
33歳・男・砂
水月(ia2566
10歳・女・吟
ラシュディア(ib0112
23歳・男・騎
五十君 晴臣(ib1730
21歳・男・陰
東鬼 護刃(ib3264
29歳・女・シ
ジレディア(ib3828
15歳・女・魔
リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386
14歳・女・陰


■リプレイ本文

●化石の山
 時折、何かを思い出したようにふらりと外の者が訪れる。
 宝珠を集めたいのだといって協力を求めてくる。御伽噺の一つだと、鼻で笑いながら足を踏み入れるものも居た。
 その度に、村人は危険だと止めてきたのだが‥誰も結末は知らない。ただ、二度と目にしていないという事実だけが真実。
 だが、八人の開拓者は村を訪れると『猫車』を借りたいといってきた。首を傾げながら運搬用に使う一輪の手押し車を村人が納屋から出してくる。
「化石を運ぶのに使うからあるが‥。何をするつもりだ?」
「おおきに!これこれ! 取れば取るほど儲けも多いからなぁ」
 うはははーと天津疾也(ia0019)が揉み手をして喜んでいる。もはや猫車に銭の山がのっている幻が見えているようだ。
「儲け‥?」
「案内と指南も頼めるかの。出来るだけの宝珠を持って帰りたいのでな」
 東鬼 護刃(ib3264)は顎に手を当てて、ふむと槌と鏨を見詰めている。
「ちょっと待て、あんた達まさか」
「まさかもまさか。興志王の頼みだよ。これほど名誉なこともないだろ?」
 青ざめている村人にラシュディア(ib0112)が爽やかに肯定してみせた。
 村人達は、もしかしたら、とひそひそと話し合っている。今までせいぜい数人が徒党を組んでいただけだが、今回は‥。
「山には採掘の為の穴が沢山口を開けているが、一つだけ、足を踏み入れない」
 若い青年が意を決したように面をあげる。
「そこまで案内しよう。中には入れないが‥」
「なに、十分じゃ」
 護刃が承諾の目礼を返す。
 物語のとおり、アヤカシに出会ったならそれまでのこと、と八人は腹を決めているのだから。



●妄執の痕
 洞窟は冷気にも似た空気が漂っていた。
 闇に音も塗り込められたかのように静寂だけが耳朶に届く。
 壁に刻まれた鏨の、さざなみのような規則的な痕。
 だが、奥にいく程、段々抉られたような鋭い痕跡も触れてくる。
 点、と幽かに足元に光がともる。
 五十君 晴臣(ib1730)が松明を掲げ、それを拾って見せた。手のひらで淡く輝く。宝珠、だ。
 そう言おうとした所、一緒に見ていた水月(ia2566)が顔を伏せ、慌てて晴臣の袖を引く。
「?」
 灯りに照らされるのは散らばる無数の骨。踵の下でパキリと乾いた音で割れるのも、それではないか。
「どいつもこいつも欲の皮がつっぱらかってやがんなァ」
 おもしれェ、と笑いながら空(ia1704)が骸の下敷きとなった宝珠を見つけてゴロリと足で蹴りだす。暗闇でも見える骸の数に、不遜な笑みが浮かぶ。
―――ここにあるは、全て業と欲の成れの果て、である。
「入り口まで持ってきてくれているのは、助かるわよね」
 骸なんて気にしない、とばかりリーゼロッテ・ヴェルト(ib5386)は光を放っている宝珠を数え始めた。
「伝説どおりであればこの奥にアヤカシも…」
「居場所を押さえて動かないとね」
 ラシュディアと晴臣は顔を合わせると頷き、調査をかって出る。ラシュディアは音を拾おうと集中し、晴臣の指先からは白い隼が結出する。
「どこや…」
 疾也が目を閉じ、感覚に集中する。
 可視も不可視も全てを捉えんと開拓者達が全力を注ぐ。
 少し先の三叉。
 そして右への隘路、左の本道。真ん中の隋道。
 三叉への距離をつめる開拓者に、かすかな驚き。
「右、は行き止まりや。距離も短いな」
「左の本道。…奥、宝珠の光を遮る大きな影の塊が視える」
「音はしないな」
「悪いヤツほどよく眠るってェことか」
 三叉の分岐点に改めて辿り着き、八人は思案する。
「ここから先は名も呼ばぬほうがよさそうじゃな」
「足止め班と採掘班に分かれるのですよね」
 ジレディア(ib3828)が手順を確認するように呟いた。とはいえ、ラシュディアが心配で、一緒にいるよう志願したのだが‥。
「俺は運搬に回る。出来るだけ拾ってくるぜ」
「私も行く。担架でまず、ここへ集めてこようか」
「猫車でそれを外へだそうかの‥合図は頼めるか?」
 連れ立っていく空と晴臣の背を見送ると、名前を極力呼ばないようにして、護刃が首をかしげる。水月が呼子笛を手にしてこくこくと頷いた。


 アヤカシが居ないと思われる隘路には宝珠は発見できず、次に真ん中の道の宝珠の回収に向かう。
 左の一番広い道の奥には、ぼんやりと宝珠で道が浮かんでいるが‥。
「して、なぜ洞窟に宝珠が」
 確か、宝珠が出てくるのは遺跡ではないのだろうか。あたりの岩や土からは、宝珠が丸ごと出てくるとは考えにくい。
「―――逃げた輩の傍にしか落ちてやがらねぇ。ここからは採掘できないってことか」
「数も少ないね。‥やはり飛び込んでくるところに口を開けて待っているのかな」
 天幕を使って二人が隋道から分岐点まで宝珠を運び出す。アヤカシを警戒しつつ、ジレディアとリーゼロッテは松明を借りてあたりの宝珠を拾ってくる。
 それらはゴトリゴトリと猫車に積まれた。これで引き返しつつ道々の分も回収すれば、依頼は達成である。
 手押し車を持ち上げかけて、後ろ髪を引かれる思い。
 左の本道と思われる奥には、ぼぅと光が点っている。
――この奥に、何が。
 その思いが、背を向けようとした者に降りかかる。
「それを持って帰れば重畳。――やけどな、銭がかかった俺は違うで」
 その辺の冒険者とは訳が違う。ギリギリのところまで踏み込めばより多くの宝珠が手に入る。手押し車を下ろし、開拓者達であるがゆえに見分けた先へ踏み込む。
 再び、全神経を集中する。

 最も宝珠があり、最も危険である左の本道へと―――



●番人の追走
 振り返るな。口を開くな。
 その衝動を増幅するは、心の隅に押し込めた僅かな恐怖。
 宝珠に報いられるだけの強さを持ちたる者か。
 己に問うた瞬間、恐怖は滴り落ちる。
 水面に落ちるのはほんの一滴でいい。
 
―――眠りを妨げるのには、それで十分だ。


カツン。

 小さな音に、ラシュディアが反応した。
 鏡面に爪を降ろす様な硬質な音。それがパラパラと重なり始める。
「起きた‥」
 警戒しつつジリジリと宝珠を回収していた開拓者達は、粘度を変えた空気にゆっくりと身構える。
 空が天幕ごと宝珠を晴臣に渡すと、三叉へと戻るよう首を振る。
 晴臣は腰に結んでおいた荒縄を自ら切った。
 縄を一生懸命手繰っていた水月は手ごたえが消えたことに、呼子笛を加える。
 ジレディアに退くようにラシュディアが目配せするが。
「私も残ります!」
 きっと無茶をすることを予想して、精一杯主張する。
「先に逃げておいで。後から必ず合流する」
「そんなこといって―――」
 不安で泣きそうな気持ちをどう伝えればいいのか分からず、杖を握り締める。
 だが、事態は待ったなしであった。
 撤収を決めた護刃と水月の呼子笛が二度鳴る。
 雨のように聞こえていた足音が明らかに数と速度を増した。
「お出ましやでぇ!」
 ガガガガ、と周りを抉りながらその巨体は現れる。赤い身体に無数の足。
 うねりながら推進力を増した巨大な装甲は宝珠の光で不気味に輝く。
 目標を確認すると一度足を止め、大ムカデは大きく口を開いた。
 空とラシュディアが投擲した苦無が、幾つか足を千切るも身体は貫けずに弾かれる。
 余るほどある足は瘴気を漂わせるが止まらない。
「走れ! 全力で!」
 空の声に全員が後退する。
「力強き礎の精霊よ‥我が意に応え壁となれ!」
 ジレディアの石の壁が導き出され、アヤカシの行く手を阻む。
 突進に耐えたように見えたが、石壁が揺れたあと、横にある岩肌に赤い足が見えた。
 ぐるりと螺旋を描いて逆さまになりながら壁を乗り越え始める。
「!!」
 開拓者達が一斉に洞窟を引き上げる。
 猫車に乗っている宝珠がガタガタと揺れながら山を崩す。ゴロリと落ちていく宝珠を拾い上げつつ、走る。
 懐にねじ込み、腕で抱え、可能な限り持ち返るのだ。
 が、その重さで速度が落ちる。宝珠を諦めない限りアヤカシが追いついてくる。
 その背後でアヤカシが口を開く。
「助けて‥」
 か弱く響くジレディアの声。ラシュディアの足が止まる。
「振り向くでない!」
 護刃の声が叱咤する。護刃の傍にジレディアがいるのが見えるのだ。
「置いていくのか‥」
 今度は護刃の声。
 大ムカデが声質を真似て、過去に聞いてきた台詞を喋る。
 名を呼ばれる以外は振り返らないと決め、洞窟に入ってから互いの名を呼んではいない。
 誰一人の声音にも開拓者達は振り返らない。
「―――名前を呼んでみてよ」
 笑んだ声音は反撃の狼煙。
 晴臣が眼前に構えた符に五芒星の光が走る。白隼が視界を防ぎに滑空し、アヤカシの前で大きく翼を広げた。
 間髪入れず水月が足止めがわりに真っ白な猫を大量に召還した。
 ぶわと現れて全身にまとわりつく猫に一瞬大ムカデがひるんだ。見たこともない生物なのだろう。それを振り払い再び開拓者に追い縋る。
「肉体労働は嫌いなのよね」
 リーゼロッテが精霊の力を借りて地面から大量の蔦を召還する。足を絡めとられ、地に縫い付けられたように大ムカデの追走が止まる。
 ギシギシと引きちぎりながら、それでも獲物を追いかける意欲は衰えない。
 宝珠を運び出す開拓者の背に喰らいつこうと口を鳴らす。
―――チャリン。
 銭の落ちる音。それに続いてザラザラと大量の銭が落ちる残響。
「‥‥‥ッ」
 これに反応したのが疾也である。罠である。明らかにそうであるが‥。
 ばっと後ろを振り向いて足を踏ん張った。アヤカシが頭を向けた。振り向いたものから襲う習性があるようだ。
「金のかかった俺をとめられるもんやったらとめてみいやああ!!」
 疾也の抜刀は素早かった。顎の下、装甲の薄い部分に狙いを定める。一撃が至らずとも確実に痕をなぞる。
 空とラシュディアが苦無を手に加勢する。
 蔦を振り切りながらムカデの後方の胴体が反動をつけて旋回してきた。ラシュディアはそれを跳躍でかわしながら装甲の継ぎ目に細針を突き立てる。しとめることは敵わなくとも、その力を着実に殺いでいく。
 空はギリギリのところで足をかわしながらその体に飛び乗り苦無を穿つ。精霊力を帯びたその武器に、火傷をしたように大ムカデがのたうった。
 傷から瘴気が浄化の煙を上げる。
 急旋回したアヤカシの牙が空の足を引っかけた。
「チィ! 蟲がァァ!」
 片足で着地し、追撃の爪を跳躍で避けたが、即効性の毒に空は顔をしかめる。
 狙いを逸らそうと疾也が太刀で顎を弾き、空いた胴に刃を潜りこませる。更に力を込めるとブツリと皮をぶち破って肉に至る感触。
「今治療を!」
 空の力だけでは追いつかないと見ると、水月が駆け寄り解毒に協力した。受けた傷も回復する。
「どいて!」
「いきます!」
 リーゼロッテとジレディアが声をかけた互いを見て頷いた。
「遠き故郷に住まいし雪の精霊、我が声に応じ具現せよ!」
 冷気が渦を巻き、ラシュディアと空が穿った針と苦無にまとわりついた。
「避雷針、ありがとね」
 リーゼロッテが片目をつぶると、目標物に導かれるように凍った金属に強力な雷撃が落ちる。その威力に大ムカデが痙攣して動きを止めた。ぶすぶすと音を立てている。
「やった、のか?」
 護刃が息を呑んだ。

 しかし、一瞬の停止を見せただけで、アヤカシは大きく身体をひねって暴れた。
「‥‥! 逃げてください!」
 晴臣が声をかける。目の代わりとなる隼は、アヤカシの残撃に耐える仲間の安全を確認しながら旋回する。
 アヤカシは全力を振り絞るかのように、武器を生やした胴をねじり、残った足で足掻いた。
 洞窟の壁を抉り、骨と宝珠を蹴散らしながら。
 反転して胴を振った一撃で、己が住みかである洞窟の一部の壁をぶち抜く。
 真ん中の隋道とは違う、反対側の壁。
 ガラガラと岩壁は崩落する。
 その向こうに見えるのは、更に眩しい宝珠の輝き。
「まさか‥」
 護刃と晴臣の白隼が、それを見た。
 アヤカシが巣くっていたここは、遺跡と繋がった穴。
 洞窟はその先で遺跡の一部を掘り当てたものらしい。そのために宝珠とアヤカシが出てきたのだ。
 だが今、遺跡は一瞬の姿を見せて、再び崩落する岩にまた埋められる。
「往生せぃやぁ!」
 崩落する岩をかい潜りながら、燐光を放つ疾也の閃光がアヤカシの胴を切り裂いた。
「冥府魔道は東鬼が道じゃ、わしの水はその身をじわりと蝕むぞ?」
 印を結んだ護刃から、一度ごぽりと水が浮かんだ。
「‥‥遺跡を守るも巣くうも役目、か」
 哀れみのように目を細めた後で。
 勢いよく指差す方向へ、命じられるまま水が疾走する。
 その頭を水に覆われ、暴れるアヤカシの傷から大量の瘴気があふれ出る。
 洞窟の頑丈なはずの岩肌も衝撃に耐え切れず、隋道が崩れていった。
「崩れる‥退け!」
 空の叫びと共に、アヤカシは崩落する岩に飲み込まれていった。



●伝説の結末
「本道さえ埋まらんかったらぁ‥」
 猫車に満載の宝珠を押しながら、しょぼんと肩を落とす疾也。
「まあ、私は沢山拾えましたけどね」
 晴臣は懐から大事そうに取り出した宝珠を見て苦笑すると、猫車の山にぽんと一個追加する。
 水月も微力ながら、抱えられるだけ抱えて護刃と微笑んだ。
「取れなかった分を考えると落ち込んじゃうけど、まぁいいんじゃないかしら♪」
 足取りも軽いリーゼロッテが、報酬を考えてうふふと笑みを浮かべる。
「誰より沢山持ち帰ったなら、死んだ奴らも成仏するってもんよ」
 皮肉げに言って、空は天幕に包んでぶら下げた宝珠を掲げてみせる。
 崩落は三叉の手前で止まり、何とか生き埋めにならずにすんだ。最初にアヤカシに出会った地点でずっと戦っていたら間違いなく埋まっていただろう。
 本道で拾った宝珠も乗せて、何とか無事だった猫車を押して洞窟を後にする。
 これで魔槍砲の改良と量産に大きく貢献できる。依頼の成果としては上出来だろう。
「とにかくジレディーが無事でよかったよ‥」
 ほっとラシュディアが胸をなでおろす。解ってはいてもジレディアの声を聞いた瞬間、全身が固まったのである。
「ら、ラシュディアが‥!」
「うん?」
「な、なんでもない‥っ」
 無茶をしないか心配だったのはこっちなのに‥と思いジレディアがそっぽを向く。
「若いのう‥」
 護刃がぽんぽんと宝珠をお手玉にしながら二人の様子を見て苦笑する。


 だけど、と誰もが思うのは遺跡の姿を見てしまったこと。
 知らなければ‥手放しで喜んだが、知ってしまった後では、岩に埋まるその先にある遺跡に興味が湧いてくる。
 伝説の洞窟は、その正体を垣間見せたところで、再び新しい伝説へ。
 図書館の管理人に伝えたら、なんと補足するだろう。

 あのアヤカシは岩の下。
 けれども後ろ髪を引かれるのはなぜだろう。

 その先にある伝説へ。
 いつか開拓者はその名を刻んでいく。
 今はまだ、力を蓄えておこう。

 そう思い、一同は振り返らずに進むのであった。