お嫌いですか?
マスター名:みずきのぞみ
シナリオ形態: ショート
EX
難易度: やや易
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/04/30 21:06



■オープニング本文

●春駒亭
 昼時、というにはやや遅い時間。
 ギルドの近くにある馴染みの食堂の一つに華 真王(iz0187)が姿を現していた。
「はぁ。今日も目を通す報告書が山よねー…」
 つるつるとうどんをすすりつつ、傍に置いた書類に汁が飛ばないように気をつける。昼休みが押して、食事を取りにきたものの、仕事も持ち込んだようだ。
「それにしても。こんな働いているあたしにうどん一杯ってどういうこと」
「文句を言うなよ。マオ。こっちはまかない分を分けてやってるんだ」
 卓を拭きながら店主が答える。気心が知れた親父は、昔からの知り合いだ。
「知らない間に品書きが増えたって聞いたから期待してきたのに。売り切れ、だなんて。すごく期待して損した…」
「おかげさまでてんてこ舞いだよ。俺まで手伝いに借り出されてる」
 そういいながら店の奥から出てきたのは、この食堂「春駒亭」の店主の息子である。
「あら、恭ちゃん?!」
「恭ちゃん、じゃないよ。どうしたの、真(しん)。久しくあってない間に‥お前そんなだったっけ?」
「今は『マオ』っていうらしいぞ」
「なにそれ‥マオ?」
「昔は色男だったんだがなぁ、何がどうなった」
「‥‥‥今だって別に色男だって誉めてくれていいのよ?」
 うどんをすする手をとめて、不満げに春駒亭の親子を見つめる。
 報告書によると、依頼でこの「春駒亭」を借りて三太のためにいろいろな料理を作ったことから、品書きに加えてみたところ大当たりしたようだ。
 盛況のせいか、昼時を過ぎると定食を出し切った店内はがらんとしている。
「ふぅん。‥この空いてる時間を使わない手はないんじゃない?」
 店内を見渡しながら、マオが面白そうなことを考えるのであった。



●お好きじゃない?
「甘味を出す?!」
「そう。甘いもの。恭ちゃん菓子職人でしょ。戻ってきたんならここで出してみれば」
「出戻りみたいに言うな‥それに甘味ならそこらに店がある」
「わかってないなぁ! 男性限定に出すんじゃない」
「はぁ? 男は食べないだろ、あんまり」
「そこ! それなのよ。なんで女子には許されてて、男子には甘くておいしいものを心静かに、心置きなく、心ゆくまで味わう空間がないの?」
「なんでおまえがそんな必死なんだ‥‥」
「作るべきだと思うのよ。女子に遠慮せず食べられる所が!‥おもしろそうじゃないの。ギルドへの報告帰りの開拓者に甘いものは必要よ!」
「‥う、‥うーん?」
 首をひねりながら恭一郎(きょういちろう)が悩んでいると、がらりと入り口が空いた。
「あーもう今日は売り切れで‥」
 反射的に振り返った店主が、小さな人影を見つけて言葉を切った。
「おや、三太君」
「おじゃましますなのじゃ! また注文にきたのじゃ」
 ひょこひょこと店主のところに近寄って、背伸びをするとことりと重箱を置く。三太の通っている寺子屋でも先日の饅頭やらが評判で、定期的に差し入れのため三太の家から注文されるのであった。
「わかったよ。あさってになるけどいいかい」
「よろしくお願いしますのじゃ。母上が厨房に入るのを許してくれればのぅ‥」
 自分の家でも作ってみたかったのだが、一人で作るには難しいし、危ないと母からは駄目だしされたようだ。どことなくしょんぼりしている。
「‥‥ちょっと。かわいい‥‥」
 うどんそっちのけで不穏な呟きをマオがもらしていることに、いち早く恭一郎が気づいた。
「ちょっと待て、マオ‥‥! 親父!!」
「?」
 店主が意味を図りかねていると、三太がマオに捕まった。
「わあ?!」
 高い高いの要領で三太が持ち上げられた。草履が片方脱げて足がぷらぷらしている。
8歳のお子様一人を難なく持ち上げてマオはにっこり微笑む。
「三太ちゃん! 一緒にお店やらない?!」
「お、お、お店?」
「お手伝いでいいのよ。ちょっとここのお店手伝ってみて!」
(女の人? 男の人?)
 派手な感じの見知らぬ人物にそういわれて、どうしたら良いのか分からない三太である。
 しかし、きゃあ、かわいいわ、などとひとしきり撫でられるとやっと開放される。
「甘くて美味し〜いものが、沢山食べられると思うのよね‥」
 ギルドの職員であることを告げたマオの聞こえよがしの呟きに三太の耳がピクリと動いた。
「開拓者への依頼に三太君は関係ないんじゃ‥」
「可愛い子にお手伝いされた方がいいにきまってるじゃない」
 振り返ったマオの言葉が恭一郎の疑問を斬って捨てる。
「正式に営業する前に開拓者達に試食とかしてもらって色々提案してもらうのよ!」
「うちの店をどうする気だ‥」

 店主とその息子は張り切っているマオをみて長いため息をついたのであった。



■参加者一覧
神咲 輪(ia8063
21歳・女・シ
エルディン・バウアー(ib0066
28歳・男・魔
アレクセイ・コースチン(ib2103
33歳・男・シ
マルカ・アルフォレスタ(ib4596
15歳・女・騎
八十島・千景(ib5000
14歳・女・サ
リリアーナ・ピサレット(ib5752
19歳・女・泰


■リプレイ本文

●春駒亭の春
「集まる‥もんなんだな」
 恭一郎は猛者ぞろいのと噂を聞き、もっとこう‥ごつい輩が集まると勝手に想像していた。
 だが目の前に揃ったのは、いずれも見目麗しい開拓者達。
「ここが依頼のお店ですね!」
 エルディン・バウアー(ib0066)が笑顔で楽しそうに店内を見渡す。
もとより女性が入ってくるような店ではなく、春駒亭は質素一本やりである。雰囲気の改装も必要ありそうだ。
「男性用の甘味とは面白いことを考えますね」
 アレクセイ・コースチン(ib2103)は執事服に身を包み、背筋を伸ばして優雅にお辞儀した。
「普段、人目を気にして食べたくても食べにこれないチキ‥失礼。奥ゆかしい天儀の民を対象とした良い考えかと‥」
「はぁ」
 恭一郎もつられてお辞儀を返したが、この先がとんと分からない。恭一郎とて、天儀以外の菓子、という言葉につられただけである。
「皆揃った?」
 店に入ってきたのは、三太を連れてきた華 真王(iz0187)である。休憩時間に抜け出してきたようだ。
「皆様、初めましてなのじゃ」
 お手伝いといわれて、ギルドからついてきた三太がマオに背中を押されて店内に入るとぺこんと勢いよくお辞儀した。
「まぁ、可愛いこと!」
「マオさんから守らないと」
 マルカ・アルフォレスタ(ib4596)と神咲 輪(ia8063)が慌てている。
「?」
 三太がマオを見上げると、まぁ失礼ね、とマオが膨れていた。
「お前の場合、なりと言動が問題だからな‥それより、女性の人たちも手伝ってもらうってことでいいんだよな」
「もちろん!でも男性が気兼ねなく、なので男装してもらいまーす」
 ぺら、と依頼文を引っぺがして持ってきたマオがお返しとばかり恭一郎に見せる。
「おまえ‥」
 それを見てがくりと恭一郎がうなだれる。女性がいたほうが華やかじゃないのか。
「美味しいものを食べて且つ目の保養なんですがね〜」
 女性の目など気にしない。甘味好きを公言して憚らない神父であるエルディンはしごく残念そうに同意する。
「女性の目を気にせず食せる、ということで面白いと思いますよ」
「殿方向けの甘味処、楽しそうじゃないですか」
 男装の件についても了承済みの八十島・千景(ib5000)とリリアーナ・ピサレット(ib5752)が顔を見合わせて頷く。
「意図は正しく伝わったのね。感動したわ」
 マオがすんと鼻を鳴らす。女性開拓者達は男装を了承済みである。
「もちろん試食も頑張ります」
 ね、と千景に声をかけられて三太の顔が明るくなる。
「では、この貧相な店を改装〜」
「貧相ってなんだ貧相って!!」
 恭一郎は親父の店がどうなるのか怖くなってきたのであった。


●改装中
 味気のない土壁。昼は雑多にごった返す三十席ほどの定食屋。それらを昼下がりから寛げる店に変えるべく、最小限の手を加えて、甘味処に仕立て上げる。
「机を少し減らして、端に寄せましょうか」
 ゆったりした空間を確保するために千景が卓と椅子の配置を考えている。
「藍染の布をおいてみましょう。あと小さな器に一輪飾ってみません?」
 輪は卓や椅子に布をかけて統一感を出そうと試みた。
「お花は季節ごとに変えて‥ああ、そうでしたわ!」
 大事な事を忘れていたとマルカが恭一郎になにやら書付けを渡す。
「じいやに書いてもらったレシピですの」
「れしぴ?」
 恭一郎がそれに目を落とす。ジルベリアの菓子に職人として興味津々になった。
「小麦粉、玉蜀黍、かすたーど‥は、卵と砂糖‥うん、あるな」
「揚げてもくどくなりませんの。季節の果物を入れていただければ」
「ありがとうマルカさん」
 恭一郎が嬉しそうにレシピを受け取った。作ってみたくて仕方がないようで、早速厨房へと入ろうとする。
「私もお手伝いしましょうか」
 それを見ていたアレクセイが配置換えを手伝っていた手を止める。
「え。作ってもらえるのか」
「はい。あと、チェリータルトなどいかがでしょう。特に甘さを効かせて。この際、並の‥いえ、他のお店では食べられないほど甘いものを」
「果物か‥親父に市場に買いにいかせるかな」
「私もレパートリーを広げたいので他のお菓子もお手伝いしますよ」
 アレクセイが楽しそうに微笑む。この際、極上の甘いお菓子たちを、と。
「じゃあ、わたくしからはジャムを提案ね」
「じゃむ?」
 恭一郎がリリアーナに聞き返すと、小さな瓶を持ってやってきた。ぱかりと開けると瓶に詰まっているのは宝石のような艶やかな赤。ほのかに甘い匂い。
「舐めてみて」
 言われるまま、さじをちょんとつけて恭一郎が一口。
「甘っ‥これ苺?」
「砂糖で煮詰めると果物本来の甘さがより際立つの。もちろん、季節ごとの果物で作れるわ」
 ジャムの使用方法についてリリアーナが披露すると恭一郎が真剣な眼差しで聞いている。
「あ。でも天儀のお菓子も食べたいですよ?‥きっと」
 千景が品書きに忘れられないように付け足しに来る。
「あんみつ、心太、お汁粉‥。あと、『天儀風パフェ』なんてどうでしょう」
「ぱふぇ? それはどんなものなんですか?」
「白玉とクリームとあんみつを重ねて一緒にするんです」
「まぁ、パフェですか。いいですね」
 マルカが同意する。へぇ、と恭一郎が驚いた。
「千景さん、大丈夫よ。天儀のお菓子に欠かせない抹茶も持ってきましたし」
「まぁ!お茶を立ててくださるんですね。楽しみです」
 千景とリリアーナが嬉しそうに微笑みあっている。
「抹茶の白玉もつくってみるか‥? あと、いっそマルカさんの甘春巻きにも‥」
「そうですよ、恭一郎さん! いろんなものが食べたいですし」
 千景がぽむと両手を合わせて、創作意欲を見せる恭一郎を応援する。
「よし!教えてもらえますか、アレクセイさん」
「仰せのままに。喜んで」
 恭一郎とアレクセイが熱心に話し合いながら厨房に消えていった。


「ふっ。どうです。弘法すら畏れおののくこの達筆さ!」
 エルディンが立ち上がり、己が書いた書を離れてまじまじと見返す。
 藍染の暖簾に『男も甘味』の文字。男らしく生き生きとした文字の入魂の力作である。
「エルディン殿、すごいのじゃ!」
 習字が大好きな三太はそれを輝く目で見つめている。
「これをかければ取り外し簡単、でお店が切り替わるでしょう」
「これでお八つの店になるのじゃな!」
 かっこいいのぅ、と『男も甘味』を見て興奮が冷めやらない三太である。実用的な習字を初めて見たというのもあるのだろう。
「三太君も書いてみますか」
「い、いいのか?!」
 何度も硯と筆を見直す三太にエルディンの頬が緩む。
「じゃあ一緒に『メニュー』をかきましょう!」
「はいなのじゃ!」
 黒板に白墨でメニューを書くというお手伝いをすることになった三太は、エルディンの傍にちょこりと座らせてもらい、うきうきと腕まくりをするのであった。


「うーん、店外にも宣伝しないと」
 店外用に少し出された卓と椅子を見ながら輪が思案する。男性客に利用してもらいたいのだが、「男専用」という暑苦しさを前に出さず、さらっと入りやすい店にならないか。
 男性が利用していますよ、という勧誘は‥
「―――これはやはりマルカさんと楽しむべきね!」
 ニヤリとした輪は、再び店内に戻ってくるとエルディンと楽しげに習字にいそしんでいる三太を見て、更に閃いた。
「三太君!ここここ!」
「?」
 勢いよく自分の近くの椅子を叩く輪に、三太が筆をおき、小首を傾げながら寄ってきた。輪は三太を椅子に座らせるとお盆を持たせ、ちんまりと膝の上で手をそろえさせた。
「動いちゃ駄目よ」
「う? うむ」
「三太君人形を用意して飾れば‥!」
 高速の動きで紙に人形案を書き起こす。今日が無理でも営業日までに、と。
 マオが丁度衣装を準備し終わって奥から出てくると、輪の行動を目にした。慌てて、奥に引っ込むと白いものを持ち出してきた。
「割烹着は大きいし、前掛けだけだとちょっとね〜と」
「『えぷろん』ですの‥?」
 マルカが目ざとく見つけ思わず呟いた。三太用の小さいエプロンである。
「神崎様、お待ちになって!」
 思い切りマオの手からマルカがそれを奪うと三太に着せようと試みた。
「はい、ばんざーい」
といわれ、三太が手をあげると頭からすぽんと被せられる。
「これはなんじゃ‥?」
 三太が端をつまんでみる。その間にぎゅ、と後ろで大きく蝶々結びをされていることなど三太は知らない。
「可愛らしいこと‥!」
 マルカと輪が思わず抱きしめて頭を撫で回す。
「なんだか‥すこーし、ですが、面白くない気もします‥」
 いえ、神に仕えるものとしてあってはならないのですが。と付け足しつつも女性二人に可愛がられている三太をみてエルディンが嘆息する。
「あたしが着せようと思ってたのにぃ‥」
 マオの傷心の呟きなども勿論耳に入らない二人であった。



●開店準備?
 店内は席数を減らしてゆったりとし、壁には暖簾と同じ藍染の布がかけられる。
 恭一郎から天儀の衣装、マオから泰国の衣装を借りて、女性開拓者達がさらしで胸を隠し、本営業想定で身支度をする。
 その間にエルディンが暖簾をかけかえて、アレクセイが器を用意する。三太も微力ながらお手伝い。
 店内にただよう、甘い香り。
 夕刻にもならんという時間になっていたが、甘味は次々と作り出されていく。
 リリアーナが改めてさらしを巻いて執事服を着込んで出てきた。髪は軽くなでつけ、小ぶりな眼鏡をかけている。束ねた髪は白いリボンでまとめた。
 あとに続いて出てきたのは千景。こちらは刺繍鮮やかな泰国の旗袍に着替え、髪は後ろでまとめて玉をあしらう。巫女袴以外の格好がもの珍しいのか回ってみる。
「へぇ、変わるもんだね」
 恭一郎が二人を見て驚いた。若く小奇麗な男に見える。
「でしょー」
 なぜか得意げにマオが胸をはる。マオも旗袍に変えて、男に戻る。‥いや、元から男なのだが。
 恭一郎が皿を並べながら脱力した。
「普段からそうしてろよ」
「今日はお客役なんだからやむを得ずなの!」
 さぁて、と厨房から運ばれてくる甘味に一同が目を輝かして席に着く。
「あれ、お二人は?」
 準備を終えたアレクセイが気づいた。
「マルカ殿と輪殿は先に外へでられたのじゃ」
「‥‥外?」
 三太の言葉に皆が首を傾げるのであった。


 夕刻のギルド界隈。開拓者の間を、二人の若者が仲良く通り抜ける。一人は琵琶を抱えて男装の楽師に扮した輪であり、もう一人は恭一郎の一張羅を借りた書生風のマルカである。
 なにやら仲むつまじい?若者が春駒亭方面へ歩き出す。
「春駒亭で甘味でもどう?」
「いいね。君と食べられるなら」
 立ち止まっては見つめあい、意味深に笑うと指を絡めて歩き出す。
 手っ取り早く宣伝してまわろうと、普段女性たちが甘味処にいくまでに騒いでいることを男装してやってみた。
 いささかやりすぎ‥かもしれないが、ともかく二人は春駒亭を連呼して歩くのであった。



●お嫌いですか?
 落ち着いた雰囲気に流れる琵琶の音。コトリとおかれる抹茶。
「精一杯つくってみたけど」
 恭一郎がアレクセイと共に創った力作である。
 一同がおお、とどよめく。卓に溢れんばかりの目にも美しい甘味。まずは眼福。
 団子、みつ豆、あんみつ、ところてん、しるこ、善哉、黄粉餅、葛餅‥
「んん‥!」
 一口放り込んだエルディンが打ち震えた。
「天儀から離れがたきは、もふらさまとこの甘味‥!!」
 しかしまだまだ続く。
 チェリータルト、甘春巻き(抹茶渦巻きもあり)、天儀風パフェ、ジルベリアパフェ‥もちろんクリームとジャムは自分で追加できるよう別皿である。
「至極の甘さ‥」
 アレクセイが出来栄えに口元を押さえ何度も頷く。軽めなどといわず、がつりと主張しつつかつ引き際は鮮やか。
「抹茶白玉が絶品‥。この甘春巻きも苺が‥!!」
 千景は少しずつ味わってはゆるむ頬を押さえてじたじたする。間の濃茶もたまらない。
「ジャムをここでつかいましたか‥!」
 女子を唸らせてこその甘味。リリアーナが得心したように眼鏡を押し上げた。
「じいやにも食べさせたいですわ‥」
「持ち帰りメニューはありかしら‥!」
 吐息まで幸せに染まりながらマルカが堪能する横で、輪が真剣な顔で持ち帰りを主張し始める。が、それを聞いて、千景の手が止まる。
「しまったわ、このお店男性のみでした‥」
 通うには男装してくるしかないのではないだろうか。
「うう〜旨いのじゃ!」
「恭一郎! あんた才能あるじゃない」
 さっきから感想もそこそこにひたすら食べているマオと三太は嬉しくてしょうがない。特に見たこともない異国のお菓子に三太ははしゃぎまくりである。

 そして、感想を述べ合って、メニューの検討に入ろうとしたとき、だった。

「やってますか?」
 カラカラと控えめに開けられる戸。そういえば暖簾もかけていたのであった。もしかしなくても、くだんのサクラ効果でやってきたようだ。
「うわぁ、すごい」
「きゃー!」
 メニューを見て、店内を見て、甘味を見て、居並ぶ美しい男性面子を見て、色めき立つ女性達。
「当店は甘味好きの男性のための店でして‥」
 切り替えの一番早かったエルディンがささっと立ち上がり、優しい微笑みでやんわりと断る。えー、と言われる傍で、気づけば三太が撫でられもみくちゃになっている。
「うわ、三太君!」
 慌てて救出したエルディンに三太がしがみついて涙目になった。給仕どころではない。
「こわいのじゃ‥」
「やっぱり男性にはゆっくりとできる甘味処が必要ね〜」
 マオがうんうんと鷹揚に頷く。しっかり片手にタルトを持っているが。
 神父と執事に極上の笑顔でなだめられ、しぶしぶ引きあがる女性達。

 すると入れ替わるように、今度はギルドの職員がやってきた。
「よっ。出来たか? もう外まですごいいい匂い」
「今日は試作だってば」
「えー腹減ったよ。甘味喰いたいー」
 すっかり昼食を食べ損ねた職員が、マオの担当の依頼を思いだして春駒亭に寄ってきたらしい。
「‥どうする?」
「いいんじゃないか。試作だし」
 恭一郎が苦笑しながら席を空けだした。
「やったー!」
 どやどやと入ってくるギルド男性職員。準備のつもりが最初のお客様が来店することになった。
「俺、善哉と団子と、このパフェ!」
「甘春巻きと薄茶!‥あーちくしょ、このタルトもいいな」
 一気に活気付く店内。甘味にパクつきながら幸せをかみ締める男性陣。
 気兼ねがないって素晴らしい。
 マオが苦笑しながら開拓者たちを見る。だが、皆も一通り食べたし、給仕にも協力してくれた。店員が男性というのも寛げるようだ。
「うん、成功!」
 マオが満足げに頷いた。

 皆の意見を吸い上げれば、もっといい店になるだろう。
 店外席でお茶をたてるのもいいかもしれない。

 女子からの来店希望も高まりそうだけど、ここはひとつ。

 男子ご満悦の甘味処、春駒亭(午後の部)を今後ともよろしくお願いいたします。