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■オープニング本文 「あけましておめでとうございまするのじゃ!」 小さな三太が寒風と共にギルドに飛び込むと、よいしょとギルドの受付に片手をかけた。年の初めのギルドも、もちろん依頼はあるが通常よりは少な目のようで、ギルドの職員は小さなお客様をほほえましく出迎えた。 以前に兄に仕返しがしたいといってきて以来、ギルドが気に入ったらしく、寺子屋のかえりなどにお邪魔してはいろいろな開拓者達の様子を見るのが楽しみになっている三太である。 もちろん、齢八歳にしてさほどギルドに依頼があるわけでもなく。 ただ単に雰囲気が好きなのである。 「今日はどうしたの?」 顔なじみになってきた受付嬢がのりだしながら、走ってきた三太に笑いかける。 「母上からお届けものなのじゃ。いつもお世話になっているのでお持ちしなさいといわれたのでな!」 元気よく三太はそういうと、右手を目一杯伸ばして、持っていた風呂敷包みを受付卓に置いた。 「御節なのじゃ!」 「まぁ、こんなに! ありがとう」 風呂敷をあけると三段重ねの本格御節である。書類を持ってあたりをせわしく動いていた職員達も足を止めて覗き込んだ。 伊達巻、田作り、黒豆、栗きんとん、数の子、お煮しめ、くわい‥海老まで豪華に入っている。 「うわああ、おいしそう!」 「お茶入れようお茶!」 「おーい、御節だぞー」 正月も働いている職員達がぞろぞろとあつまってきた。早速手でつまもうとする者を待て待て、とはしゃぎながら職員達が笑う。 「早速みんなでいただくわね。三太君も食べてく?」 「うー‥。ワシはよいのじゃ」 「こんなにおいしそうなのに?」 「確かに母上の御節は美味しいのじゃが、三日間食べたのでな」 「あ。そうなんだ。そうか、じゃあ食べたいものある?」 「食べたいもの?!」 三太の背筋がピクンと伸びた。 「あれが食べてみたいのじゃ!」 「あれ?」 「一度兄上と市で食べてたことがあるのじゃが、ほかほかふかふかの白い饅頭のようなものに、熱々のひき肉などが入っていたやつが食べたいのじゃ!」 「‥んーと。泰国の料理かしら? 蒸かしたやつよね」 「たぶんそれなのじゃ!はふはふだったのじゃぁ‥」 思い出すだけできゅうと頬を押さえる三太である。よほど美味かったのだろう。 「じゃあ、開拓者もいろんな国でいろんな料理を食べてきているから聞いてみるといいわね」 ふむ、と受付嬢は思案すると、一筆したためた。 豪華御節のお駄賃と、ギルドの職員からのお年玉の意味も込めて。 おいしそうな泰国料理を三太たちと作るという依頼をぺたりと掲げたのであった。 |
■参加者一覧
風雅 哲心(ia0135)
22歳・男・魔
紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)
18歳・女・泰
モハメド・アルハムディ(ib1210)
18歳・男・吟
羽喰 琥珀(ib3263)
12歳・男・志
寿々丸(ib3788)
10歳・男・陰
常磐(ib3792)
12歳・男・陰
八十島・千景(ib5000)
14歳・女・サ
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔 |
■リプレイ本文 ●たすきがけ! ギルドの近所の食堂で、高い椅子に座り、たすき姿で草履の足をぷらぷらさせて待っている子供がいる。定休日の食堂で、朝から開拓者たちの集まりを待っている三太であった。 「心配なのじゃ‥」 開拓者達が手伝ってくれると聞いて大喜びしてやってきたのだが、内心、不安だらけになってきたところである。 「明けましておめでとうございまするぞ、三太殿」 「よ、元気だったか!」 食堂の暖簾の下から、店に入ってきた寿々丸(ib3788)は三太を見つけると元気よくお辞儀をした。羽喰 琥珀(ib3263)はにかりと笑って手をあげる。 「寿々丸殿! 琥珀殿!」 勢いよく椅子から飛び降りると三太は顔を輝かせて駆け寄る。 「息災じゃったかのぅ!」 懐かしい顔に会い、抱きつかんばかりに喜んでいる三太だったが、続々と入ってくる開拓者達に目を丸くする。都合八人の開拓者が店に入ってくると、店のオヤジも顔を出してきて、へぇ!と唸った。 サムライ志望の三太としては、すらりとして凛たる風雅 哲心(ia0135)をみて、これぞ憧れとばかり目をキラキラさせている‥哲心は志士なのであるが。 「よろしくお願いいたしますね」 「よろしくなのじゃ!」 可憐に笑う八十島・千景(ib5000)。こちらがサムライなのであるが、巫女袴が見目麗しく映え、巫女様じゃ、とすっかり思いこんでいる三太である。 「オヤジさん、道具みせてくれ」 「蒸篭の数も確認しないと〜☆」 「おう? よし、全部だすよ! いっとくれ!」 前掛けで手を拭きながらオヤジが顔を引っ込める。どうやら常磐(ib3792)と紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)の言葉に感じるものがあったようだ。厨房で大掛かりに物を捜索している音がする。 「二人は料理人だからね。あたしは麦粥と卵焼きくらいしか出来ないけど」 「――すごいのう。‥ワシは‥何も出来ないのじゃ」 「ああ、落ち込まない! あたしだって姉ちゃんに教わってきたんだから。一緒に頑張ろう!」 「そうか、そうなのじゃ!」 リィムナ・ピサレット(ib5201)が元気よく励ますと、三太も照れたように笑う。その様子をほほえましく見ていたモハメド・アルハムディ(ib1210)と目が合うと、おずおずと三太が歩み寄った。 「ヤー、三太さん」 「や、『やぁ』?」 ギルド見学でもあまり見たことのない服装と、珍しい言葉に声がうわずる。 「私の遠い祖先の言葉です。呼びかけるときに使うのです」 「天儀と違う郷もあると習ったぞ。なるほどそれじゃな! ヤー!じゃな!」 寺子屋で皆に教えてやるのじゃ!とヤーヤー言い出した。激しく使い方が間違って伝わるかもしれない。 「さて、料理で必要なものは自分の足で探しに出ることが大事だ。黙ってても向こうから来るわけじゃないしな」 「え? 材料はないのか?」 哲心を見上げ、三太がきょとんとした。すっかり開拓者達が持ってくるものと思っていたようである。 「市場にいくぞ」 「買出しだな!」 「ナァム、賛成です」 哲心の言葉に琥珀とモハメドも頷いた。 ●朝市 オヤジに場所をきいて、市場にやってきた。比較的遅い時間までやっているのは、今日が丁度大規模な市の日だからだ。 近くで取れた新鮮な野菜だけではない、異国の食材を扱う店も立っている。ガヤガヤと売り買いをする人の声や行き交う音が絶えない盛況さ。 「ああ、アレが食べたいのじゃ‥」 鼻をくすぐる匂いに、これから料理を作るというのに腹が鳴って仕方がない。 「だめだぞ、三太。自分で作るものは自分で選ぶんだ」 露店に吸い寄せられそうな三太の襟首を猫のように掴んで哲心が前へ戻す。ぷぅ、と膨れてはみたが、すぐに興味は次へと移る。 「何を買えばいいのかの!」 「調味料はありましたね。基本的な具材‥豚肉、椎茸、葱、大蒜、生姜なども一応店に持参はしました」 「すごいでござる、千景殿。あと、甘いものも入れたらおいしくなりそうですな」 「ちゃんと餡子もありますよ。‥うーん、量が心もとないでしょうか‥」 「千景殿、甘いのもあるのかの!あつあつのほかほかの甘々なのかの!」 ひゃあ、と寿々丸と三太が想像してつばを飲み込んだ。 「あたし考案の『もふら饅頭』もちゃんとあるからね☆」 「もふら饅頭とな?!」 「もふらさまは神様なのでござるよ、三太殿」 「寿々丸殿はやはり物知りなのじゃ! さても紗耶香殿の神様のお饅頭とは楽しみな!」 「色んな味があるのよ。選んでもらおうと思って生地と餡は作っておいたからちゃんとお腹あけといてね〜☆」 「うー! 早く食べたいのぉ」 三太は頬を上気させて興奮する。 泰国の料理人である紗耶香が店の野菜を手に取り始めた。するとその様子に気づいた常盤がぴんと耳をたててスッと並ぶ。言葉はぶっきらぼうだが気配りは人一倍だ。 「紗耶香、白菜とか買い足す?」 「点心もつくっちゃおうかな、と思って。常盤さんは?」 「卵がいるかな。あと、モハメドは豚肉がだめだから、何か他のものをと思う」 「ショクラン(ありがとう)、常盤さん。アーニー、私はサンブーサという料理を紹介したいのです。香辛料があればいいのですが‥」 「あるある! 香辛料ならもってきたよ!」 「本当ですかリィムナさん! 分けてくださると助かります」 「大丈夫! 任せといて。あとあたしは羊の肉と、果物がいるんだけど‥」 「アーヒ(嗚呼)、私もです! ルホーム(肉)とフワーキホ(果物)はどこかな‥」 「おいおい、みんなバラバラになったら――」 哲心の心配をよそに、フラフラと目当ての物を探しに雑踏に消えていく。 「よーし!こうなったら、買い物がてら皆を探そうぜ。きっと目当ての店の前で気づいて待ってるよ」 「琥珀殿の言うとおり、買い物競争なのじゃ! 行こう哲心殿!」 「寿々もお手伝いするのでござる。いかに見つけるかの競争ですな!」 「お前達、違う気がするぞ‥」 己の変り種の食材も買いたい哲心だったが、はぐれてはならじ、としっかと三太に袴の裾を握られて、諦めの長息をつくしかなかった。 ●腕まくり! 「三太、白菜はどれにする?」 「これなのじゃ!」 「それはダーメ。こっちのほーが緑が綺麗で重いだろ? こういうのがいいんだよ」 琥珀から両手に一つずつ白菜を渡されて、同じ大きさなのに明らかに重い白菜に驚く。 「自分で選んだのを料理すると美味しいんだぜ!」 「そうじゃな。それに買い物も楽しいのじゃ!」 「だろ?‥お、常盤だ!」 琥珀の声で隣の店にいた常盤に気づくと、寿々丸が駆け出した。 「どうしたでござるか」 「――あ、寿々。海老餃子も良いな、と思って」 「そうか、海の幸でござるな」 ずらりと取れたばかりの魚が並べられており、時折にゅるにゅると蛸の足が這い出してきては店主に蓋を閉められている。 「ここで決めるか」 「常盤殿、海老は赤いのがいいのじゃ!」 「‥‥?」 三太が興奮気味に説明する。 「色が綺麗で真っ赤で重いやつが美味しいのだ!‥じゃが、ここのは色が美味そうではないのじゃ‥」 ちらりと生の海老に目をやって唇をとがらせる三太。ケチをつけられた店主も開拓者も呆然としたが、ぷっと吹き出して笑い始めた。常盤も下を向いて肩を震わせて笑っている。 「なんじゃ、なにがおかしいのじゃ!」 「海老は熱で赤くなるんだよ。元から赤いのもいるが」 「い、色が変るのじゃと?! 本当か?!」 信じられないといった顔で海老を観察するとつついたりひっくり返したりする。三太にとっては衝撃の事実だらけの市場である。 「この分じゃあ、買い終わるのはいつになることやら」 「でもきちんと値切りも教えないとな! 哲心、交渉にいこうぜー」 「‥容赦ないな、琥珀」 といいながら、ちょっと面白くなってきたと思っている哲心であった。 肉も野菜もつい買い足し、卵、羊肉、果物などを手に手に無事合流した開拓者達が食堂に戻ってきたのはすでに昼前であった。これだけの食材を使いきろうとすると、結構な数の蒸し饅頭や餃子が出来上がることになるのだが‥。 「言われたとおりにこねといたよ」 食堂にあったうどん粉が丁度よいとして、オヤジに少し先にこねてくれるようお願いしていた常盤は、ぬれふきんをめくると、生地のやわらかさを確かめて頷いた。 「寿々、みじん切り手伝ってもらっていいか?」 「精一杯がんばるでござるよ」 「三太もなのじゃ!」 食堂の卓に背が届かないので座敷のあがりを借りて、まな板と包丁を用意してもらった。黒いたすきと前掛けをつけた常盤が三太の後ろから手をとって、包丁の持ち方と材料の押さえ方を教えてやる。葱を手に持って、いざ勝負。 「ぷ‥ぷるぷるするのじゃ」 「包丁を持ってない方の手は曲げる。手を切るなよ」 寿々丸も常盤の説明を聞きながら、そろそろと白菜を切り始めた。黙々と切る三人の横で、打ち粉を振った台で紗耶香が生地を小さくちぎって丸く伸ばす。少し麺棒を転がすだけで、山のように大小様々な大きさの皮ができていく。 「器用なものだな」 「やってみれば覚えますよ。哲心さんもどうぞ〜☆」 「泰国の料理は機会があれば覚えてみたいと思っていたところ。やってみるか」 「これだけ餡があると、皮は沢山必要ですわね」 常盤の傍らにある野菜を見て、たすきと前掛けをかけると、千景と哲心は一心に生地と皮を作り始めた。 「三太さんはどの味が好きでしょうか?」 紗耶香が、篭に並べた皮と餡を見せると、三太がうわぁと声を上げた。皆も一斉に手を止めて覗き込む。 「黒は黒ゴマ、緑はよもぎ、紫は紫芋‥。あと、餡は南京やずんだもありますが」 「全部なのじゃ!」 「え?」 「ワシは全部食べたいのじゃ、綺麗じゃのう!」 「でも肉饅頭や餃子もつくりますよ?」 「ギョウザ、とな! それも食べたいのじゃ。うぅしかし、もふら様饅頭も捨て難い。紗耶香殿、だめかのう‥?」 ちまりと正座して、上目遣いで紗耶香にねだる。 「仕方ないなぁ。つくりましょうかね〜☆」 「三太って欲張りだねぇ」 リィムナが林檎の皮を剥きながら、楽しそうに笑った。 「兄上に食べ負けてしまうので、今日は美味いものをたらふく食いたいのじゃ‥」 「ああ、お兄さんがいるんだ。あたしは四人姉妹なんだよ! お姉ちゃんがいるんだ」 「姉上殿か。うらやましいのぅ。ワシには年の離れた二人の兄がおるのだ」 とことこと三太がやってきてリィムナの近くにおいてある小さな瓶を見つけて手に取った。 「中の粉はなんじゃ?」 「香辛料だよ。泰の屋台で売ってるやつみたいに羊肉を焼いて餡にしようと思って。あと焼いた林檎を入れたやつも作るから『すぱいす』を使うんだ」 「粉に味があるのか?」 「体にもいいし、美味しくなるんだから。絶対食べてみて」 「林檎を焼くとな‥」 平底の鍋で炒めはじめたリィムナの横では、これまた玉葱をクタクタになるまで炒めているモハメドがいる。 「モハメド殿の郷でも、泰国料理はあるのかの?」 「ラ(いいえ)、似たような食べ物はあります。羊肉や玉葱、果物などが入っています」 皮で具を包むのは同じですね、と説明する。 「林檎を炒めて‥あ、羊肉もありかな〜」 紗耶香も饅頭を作りながらリィムナとモハメドの料理を興味深そうに見ている。ちゃっかり手は動いているあたりが本職であるが。 「三太さん、みじん切り終わった?」 「あ! いかんのじゃ、ついつい!」 慌てて三太が自分の持ち場にもどる。 それぞれが切ったり炒めたりした餡を並べると壮観であった。 「切りすぎたかな‥」 「こうなったら包みたおすしかないでしょうね」 常盤の呟きに千景が意を決したように竹べらを配った。 餡と皮が乾かないうちに包まなければ。 この頃になると、店主まで出てきて総出で積み上げた蒸篭の番である。 常盤が餃子を焼き、紗耶香がもふらの形を描いた色とりどりの饅頭は綺麗に並べられ、大きな蒸篭が次から次へと蒸しあがっていった。 「いっせーの、で!」 蓋を開ける際に全員で声を合わせて。 勢いよくあいた蒸篭から、もわっと柔らかな湯気が立ち上る。 「ひゃぁあ!」 「きゃ〜☆」 「うわぁ!」 それぞれが幸せそうに頬をゆるませる。 次々と蒸篭を開けていくと、三太にあわせた小さな肉饅頭も現れた。 「三太用だな!」 琥珀がからかうように蒸篭を傾ける。 「ずるいのじゃ、ワシのだけ小さいのか?」 「違いますよ、沢山色んなものが食べたいでしょう? でも市で食べたのはこれですか?」 「そうなのじゃ! ふかふかの白い蒸した肉饅頭‥」 千景の言葉に、つん、と指で押してみる。 「あつつ。‥でもほわほわじゃのう!」 「大きいのが食べたいなら半分請け負ってやろう」 ほら、と哲心が半分に割って三太に渡してやる。あちち、といいつつ三太がかぶりつく。 「ふはひのひゃ(うまいのじゃ)!!」 「まだありますよ〜」 「こちらもどうぞ」 サクとした食感に、中から果物や肉の香りがあふれ出す。泰国の餃子に似たモハメドの料理に、全員が手を伸ばす。 リィムナのスパイスの味もしんなりしつつシャリとした林檎と相性がよいことに皆が感嘆する。 もちろん、肉饅頭にも餃子にも手がのびる箸がのびる。 「もう一つとってください」 「寿々は海老餃子が」 「あたしはもふら饅頭もう一つ!」 「俺が作ったのは火傷するから少し冷めてから喰うんだぞ」 「俺のも食後で。杏仁豆腐つくっといたぞ!」 哲心の餡の黒蜜を分けてもらい、琥珀の杏仁豆腐にかけることにする。 「三太美味いか」 「‥‥(ごくん)旨いのじゃ! 市で売っていたやつよりもずっとずっと旨いのじゃ!」 満面の笑みの三太である。 「紗耶香の焼売旨いな。今度教えてもらっていいか」 「もちろん。あと、私はモハメドさんの料理が楽しかったわ」 「ショクラン(ありがとう)、紗耶香さん。常盤さんも。海老餃子おいしいです」 酒がなくても、十分楽しく皆で食事が出来た。 食べる方に夢中になって、蒸かしているのを忘れそうなぐらい賑やかに盛り上がる。 「お腹がいっぱいじゃぁ!」 「残してはなりませぬな」 「せっかくだから、ギルドの職員さんにもお持ちしましょうか」 「そうだな、千景のいうとおり!」 店のオヤジがこれまた好意で竹皮や風呂敷を貸してくれた。 皆で道具を洗って片付け、最後にオヤジにもお裾分けを渡す。 「いや、今日はいいもん見せてもらった」 えびす顔のオヤジの様子からすると、店のお品書きも増えるかもしれない。 肉饅頭、餃子、サンブーサ、黒蜜饅頭、もふら饅頭‥杏仁豆腐は小鉢にいれて。 三太はもちろん、全員手に手に土産の風呂敷をもって。 渡した相手の喜ぶ顔を想像しながら、 「ごちそうさまでした、なのじゃ!」 気持ちも心も温まり、にこやかに互いに笑いながらギルドへの道のりを歩いていったのである。 御節とはまた別の、ほかほか湯気があたたかい正月料理であった。 |