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■オープニング本文 ●安須大祭 石鏡、安雲の近くにある安須神宮にて二人の国王‥‥布刀玉と香香背は賑々しい街の様子を見下ろしてはそわそわしていた。 「もうじき大祭だね」 「そうね、今年は一体何があるのかしら」 二人が言う『大祭』とは例年、この時期になると石鏡で行なわれる『安須大祭』の事を指している。 その規模はとても大きなもので石鏡全土、国が総出で取り組み盛り上げる数少ない一大行事であるからこそ、二人が覗かせる反応は至極当然でもあるが 「はしゃいでしまう気持ちは察しますが、くれぐれも自重だけお願いします」 「分かっていますよ」 だからこそ、やんわり淡々と二人へ釘を刺すのは布刀玉の側近が滝上沙耶で、苦笑いと共に彼女へ応じる布刀玉ナあった。人それぞれに考え方はあるもので、石鏡や朝廷の一部保守派には派手になる祭事を憂う傾向もあり、一方で、辛気臭い祭事より盛大なお祭りを望むのが民衆の人情というもの。 様々な思惑をよそに、お祭りの準備は着々と進みつつあった。 ● 地方の街。 街路を疾駆する者があった。 若者。壮年。男。あるいは女。様々だ。共通しているのは、いずれも開拓者であるということである。 彼らの目的はある少年を捕縛すること。確かではないが、どうやら少年は人間ではないらしい。鬼――つまりはアヤカシであるらしいのだが、ある噂では瘴気は感知されなかったという。謎であった。 ともかくも開拓者達は街路を馳せ―― 幾人かが足をとめた。眼前に人影が立ちはだかったからだ。 深編笠をかぶっているために顔はわからない。長身でしなやかな肢体の持ち主だ。腰に二本の刀をおとしている。 「どけ」 一人の開拓者が口を開いた。 「どかぬ」 人影がこたえた。声は若い男のものだ。男は続けた。 「と、いったら?」 声に笑みが滲んだ。 数人の開拓者の顔が怒色に染まった。声に嘲弄の響きを感じとったからだ。 と、一人の開拓者が促した。 「放っておけ。先を急ごう」 「いいのか」 男が横をむいた。街路は祭りのため人で溢れている。 突然、男は傍らに立つ若者をはたいた。 あっ、と。驚愕の叫びを発したのは誰であったか。 若者が軽々と吹き飛んだ。まるで巨人の手に払われでもしたかのように。男は軽くはたいたとしか見えなかった。 一斉に開拓者達は飛び退った。眼前の男が尋常ならざる存在であることに気づいたのだ。男が今見せた業は人のものというより、むしろアヤカシのそれに近い。 開拓者の一人が問うた。 「貴様、何者だ」 「羅生丸」 こたえると、男――羅生丸は楽しそうに笑った。 「さあ、祭りのはじまりだ」 |
■参加者一覧
万木・朱璃(ia0029)
23歳・女・巫
秋桜(ia2482)
17歳・女・シ
鈴木 透子(ia5664)
13歳・女・陰
ゼタル・マグスレード(ia9253)
26歳・男・陰
不破 颯(ib0495)
25歳・男・弓
カルロス・ヴァザーリ(ib3473)
42歳・男・サ
桂杏(ib4111)
21歳・女・シ
ルー(ib4431)
19歳・女・志 |
■リプレイ本文 ● 「さあ、祭りのはじまりだ」 一筋の光流が噴出した。羅生丸が抜刀したのだ。 人々の間に満ちていたざわめきがどよめきに変る。が、まだ逃げはしなかった。 その時、一人の開拓者が動いた。 華奢で小柄の少女。まだ十を幾つも過ぎてはいまい。可憐な相貌の持ち主だが、どこか表情が鈍く、ぼんやりとした印象がある。 名は鈴木透子(ia5664)といい、陰陽師であるのだが、その動きは思いの他素早かった。 「あの」 どぎまぎした様子で透子は羅生丸に張り飛ばされた若者を抱き起こした。 「大丈夫ですか」 若者に問う。が、返事はなかった。気を失っているようだ。 透子は若者の身を再び横たえた。周囲を見回す。小さな子供の姿が幾つも見えた。 「離れて下さい!」 我知らず透子は叫んでいた。普段の彼女を知る者ならば耳を疑ったかもしれない。透子はそのような目立つ真似をする少女ではなかったからだ。 が、ある衝動が透子を突き動かしていた。それは孤独に対する嫌悪である。 透子は陰陽の師とともに放浪の旅を続けていた。教えは厳しかったが、その他では優しい師であった。一つ術を覚えるたび、微笑んで頭を撫でてくれた。その手の温もりは今も覚えている。 その師とは死に別れた。それ以来透子は天地間にたった独り。寂しさはその魂に氷の棘となって突き刺さっている。 もう死に別れを見るのは嫌だ。誰よりも孤独の辛さを知る透子はそう思うのだ。 「そうだ。退れ!」 別の声が叫んだ。 こちらは男だ。二十歳半ば。白銀の髪とアイスブルーの瞳をもっているところからみてジルベリア人であろう。 「これは見世物ではない。命が惜しい者は疾く立ち去れ」 若者は声を低めて告げた。が、見物人達が立ち去る様子はない。 若者は心中舌打ちした。民人を守りながらの戦闘は不利であるからだ。 しかし―― 若者は羅生丸に眼を転じた。 いったい羅生丸とは何者であろうか。無辜の民に躊躇い無く手をあげるところからみて、まともな者であるとは思われないが、それにしてもあの力は何だ? 「何が目的にしろ‥‥気に入らないな」 羅生丸、と若者は呼んだ。 「僕はゼタル・マグスレード(ia9253)。開拓者だ。知っているんだろ」 「ふふん」 羅生丸はこたえない。ただ笠の内から笑いがもれた。 ゼタルは眼を眇めると、 「君は何者だ。力の求道者気取りか。それとも恐怖した人の魂を食らうアヤカシの類か。何にせよ、ともかく君は僕らの仕事の邪魔をしている。そのことがわかっているのか」 「わかっているとしたら、どうする?」 笑みを含んだ羅生丸の声が流れ――その響きが消えぬうち、羅生丸が動いた。 あっという声は見物人達の間から起こった。彼らの眼前から羅生丸の姿が消失してしまったからだ。が、開拓者達のみ羅生丸の姿を捉えていた。 疾駆。 常人には消失したとしか思えぬ迅さで羅生丸は疾走していた。ゼタルが言葉を発している間、他の開拓者達が四方をかためるように動いていたことを察知した故である。 羅生丸は疾風と化して襲った。標的は無論開拓者である。 一人の若者がはじかれたように手の弓を上げた。 美しい若者であった。背に流れる長い黒髪は濡れたよう。金色の瞳は謎めいて妖しい。 名は不破颯(ib0495)。弓術師である彼の手が、瞬間、視認不可能な速度で動いた。矢を番えたのである。 もはや狙っている余裕はなかった。一瞬後、矢を放つ。いや―― 矢が飛ぶより早く、羅生丸が肉薄した。刃で朱鳥めいた美しい弓をはじく。同時に左の拳を颯の腹にぶち込んだ。 まるで爆発が起こったようだった。軽々と颯の身が吹き飛ぶ。地に叩きつけられた時、半ば颯の意識は消えていた。 「大丈夫ですか」 一人の娘が駆け寄った。煌く金髪に彫りの深い美麗な顔立ちからして混血であろうか。 娘が颯を抱き起こした。一瞬、娘の顔が曇る。颯の内臓の破損を危惧したのだ。 この場合、しかし娘の瞳に太陽の光がやどった。万木朱璃(ia0029)という名の開拓者の辞書に絶望の文字はない。 「きっと助けます」 朱璃の手がある符形を形作った。刹那、彼女の身から白い燐光が散った。 わずか後のことだ。うっと呻き、颯は息を吹き返した。 「どうやら手数をかけたようだなぁ」 颯は苦く笑った。 「やれやれ。変わった少年鬼を捕まえるだけかと思ったら、とんだのが出てきたなぁ」 唇の血を拭い、颯は羅生丸を見た。その時、羅生丸の前には一人の開拓者が立ちはだかっている。桂杏(ib4111)だ。 ええ、と朱璃は肯くと、 「あの男‥‥一体何者なんでしょうか」 「さて。随分と人間離れした力だけどねぇ。アヤカシっぽくはないが、ご同業・・でもないよなぁ」 「目的は何でしょうか。こんな騒ぎを起こせば目をつけられることも分かっているでしょうに」 「案外、それが狙いかもなぁ」 ニヤリとすると、ゆらりと颯は立ち上がった。 ● 桂杏はやや短い刀をかまえた。 刃は鞘の内。羅生丸の正体、そしてその目的がわからぬ間は抜刀するつもりはない。 それは余裕――ではない。むしろ羅生丸に対して恐怖に近い感情を抱いている。 が、その恐怖を抑える強靭な精神――本人は意識してはいないのだが――がこの二十歳の娘にはあった。 「引き下がれません、開拓者の名にかけて」 桂杏は告げた。彼女にとって一歩の後退は、敬愛する兄から遠ざかることである。断じて退るわけにはいかなかった。 羅生丸は、ほうと声をあげた。その眼は足元の地に突きたった手裏剣を見下ろしている。羅生丸の追撃を阻むために桂杏が投擲したものであった。 「やるな、娘。だが俺を本当にとめられると思っているのか」 「貴方の業からは何か禍々しきものを感じます。捨て置くわけには参りませぬ」 その時、羅生丸がちらと振り返った。その背に灼熱の殺気が吹きつけられたからだ。 殺気の主は小柄の娘であった。身体の線を浮き立たせるほどぴたりと合った水着を着ている。猫族のものに似たしなやかな身体の動きからみてシノビであろう。 秋桜(ia2482)。普段は朗らかである彼女の顔からは今、笑みは消えている。怒っているのだ。牙もたぬ者に対する羅生丸の狼藉に対してである。 「力を持たぬ相手に力を誇示しようとは笑止」 秋桜はすうと忍刀に手をのばした。 「喉元に牙を立てたいと、蝮が鞘の中で飢えておりますな」 眼に殺気をやどらせたまま、秋桜は視線を流した。その先には一人の男の姿がある。 カルロス・ヴァザーリ(ib3473)。竜の神威人だ。 分厚くはないが、鋼の筋肉の持ち主。その身体に蔵した戦闘力はかなりのものであると秋桜は推察しているが、どうも信用できぬところがある。 現に今も独りだけ様子がおかしい。戦闘力の知れぬ相手に対するには包囲殲滅が常道だ。が、カルロスだけ包囲の陣には加わらず、うっそりと立ち尽くしていた。 秋桜は叫んだ。 「カルロス様、左をおさえてください」 「ふふん」 カルロスの頬に嘲りに似た笑みが刻まれた。 「鬼の小僧を斬ったら何色の血が流れるのかと楽しみにしていたが‥‥気が変わった。お前の相手をしよう。此方のほうが面白そうだからな」 カルロスは抜刀した。木枯らしの吹く胸の中で、熱泥の如きものが蠢いている。 暗黒の魔物。それを目覚めさせたのは羅生丸のもらした嘲弄の笑みであることは間違いなかった。 「どうでるかな」 カルロスが刃を振り上げた。 「待って!」 反射的に秋桜は叫んでいた。カルロスが地断撃を放つつもりであることに気づいたからだ。かわされた場合にとめることのできぬ地断撃は衆人の只中で使う業ではなかった。が―― 秋桜の叫びをかき消すようにカルロスの口から鋭い呼気が迸り出た。渾身の力を込めて刃を振り下ろす。大地を引き裂きつつ、雷光にも似た青い波動が疾った。 一瞬遅れて羅生丸もまた刃を振り下ろした。 轟、と。風が吼えたとしか思えぬ唸りを羅生丸の刃は発した。 爆発が起こった。誰しもそう思ったであろう。それほど凄まじい衝撃波の激突であった。 吹きつける突風を払いつつ、カルロスは走っていた。その眼が殺戮の喜悦に濡れ光っている。 羅生丸を観察し、おおまかであるがカルロスはその能力について判断を終えていた。 迅さ、力において羅生丸は人のそれを遥かに超えている。その力の源泉は羅生丸の身体そのものだ。もはや化け物の部類に入る強靭無比な筋肉や骨格が超人的な戦闘力を生み出しているのである。 「何らかの術でないならば」 笑みすら零しつつ、カルロスは縦一文字に刃を振り下ろした。 ギンッ、と。 澄んだ金属音と火花を散らし、カルロスの刃は受け止められた。羅生丸の刃によって。 カルロスの眼が驚愕に見開かれた。彼の必殺の刃を受け止められる者などざらにはいない。が、驚愕すべきことはそれだけではなかった。 ぐん、とカルロスの刃が押し戻された。カルロスとしては支えているのが渾身の業だ。それほどの圧力を羅生丸はたった左手一本のみにて与えているのであった。 「お前は」 カルロスほどの男の口から喘ぐかのような声がもれた。 「何者だ? その力はどこで手に入れた? 人の交媾で生まれた存在か。人ならざるものとの混血か。それとも‥‥喰ったのか」 「俺は、俺よ」 羅生丸の手が腰の小刀にのびた。そうと知りつつ、カルロスにはどうすることもできない。 その時、気配が動いた。透子だ。 「あたしは鬼の少年の捕縛に向かいます」 透子は背を返した。 刹那である。カルロスを胴斬りした羅生丸が跳ね飛んだ。重力を無視した身軽さで、背面を地にむけて空を舞う。 「ゆかせるかぁ!」 二刀を両手に羅生丸が舞い降りた。それは兎を襲う猛禽にも似て。 「やはり」 透子は振りかえった。羅生丸の動きは彼女の想定の内にある。すでにその指には一枚の呪符が挟まれていた。 「何っ!?」 呻く声は宙であがった。羅生丸の口から発せられたのである。羅生丸の眼前に白い壁が現出していた。 「ええいっ」 壁を足場に、さらに羅生丸は空に舞い上がった。 風を引く裂く音はその時響いた。地に羅生丸は飛鳥のように降りたち――わずかに遅れて、深編笠がかさりと彼の足元に落ちた。 「やりやがったな」 伏せていた顔をあげ、羅生丸が振り向いた。その視線の先、美麗な顔が薄く笑っている。颯だ。その手には弓が握られていた。 と―― 颯の笑みが凍りついた。彼は見たのだ。羅生丸の額にぞろりと生えた二本の角を。 「鬼? アヤカシか」 「いや」 ゼタルが首を振った。 陰陽師たる彼にはわかる。羅生丸からは禍々しき気は感じ取れない。 「神威人、か?」 「修羅よ」 羅生丸がニヤリとした。若い狼のような精悍な相貌の中で金色の瞳が光っている。 「修羅?」 聞きとがめた朱璃が眼を見開いた。 「修羅とは何なのですか?」 「人の夢に殺された者だ」 「人の夢? 鬼の少年もまた修羅なのですか」 「うるせぇ!」 羅生丸が地を蹴った。いや―― ぴたりと足をとめた。その眼前には一人の娘が立ちはだかっている。 ルー(ib4431)。角なしの一角馬の神威人だ。 開拓者達ははっと息を飲んだ。ルーが無手であったからだ。羅生丸相手にその行為は自殺に等しい。 が、羅生丸は動かない。ルーもまた。 二人は互いの瞳を見つめあっていた。そこに――その奥に、二人は同じものを見出していた。 哀しみ。虐げられた者のみ知る涙の光だ。 ここに―― 彷徨う哀しき二つの魂は邂逅を遂げた。その行き着く先は知らず―― ルーは喉にからまる声を押し出した。 「‥‥場所を移さない? 貴方の目的は私達を止めること。時間を稼ぎたいなら場所を移すのはそちらにとっても損はない、でしょう?」 「娘。お前は利口だな」 羅生丸は苦笑した。が、すぐに笑みを消すと、 「しかしそうはいかない。多対一。地の利を手放すわけにはいかない」 「だめよ。祭というなら不幸や怪我を振りまいちゃ、いけない。貴方はそんなヒトじゃないはず」 「これは戦いなんだ。哀しいが、な」 羅生丸が刃をあげた。ルーもまた。すでに二人は互いの間合いの中だ。 きりきりと二人の間の空気が硬質化し――殺気の圧に抗しかね、砕けた。 刹那、二人は動いた。疾る二振りの刃は影すら残さぬ迅さだ。 そして―― 刃がとまった。ルーの首寸前で。 そしてルーの刃もとまっていた。羅生丸の肩寸前で。 「何故とめたの?」 戸惑ったようにルーが問うた。まともに羅生丸の一撃を喰らっていたら只ではすまなかったろう。 「お前も」 羅生丸もまた問うた。が、ルーの答が返るより早く、再び羅生丸が刃を振り上げた。 「だめだよ」 颯が矢を放つ。驚くべきことに三連射。 さすがにたまらず羅生丸が飛び退った。矢をかわす。が、もとより颯に射抜く意図はない。牽制が目的だ。 同じ時、朱璃はのばした人差し指を羅生丸にむけていた。指先に煌くのは精霊光である。すでに精霊砲を放つだけの精霊力は満ちているのだが――狙いがつかない。 その朱璃の動きに気づいたか、羅生丸が彼女にむかって馳せた。 「させませぬ!」 秋桜が追う。桂杏もまた。が、羅生丸の迅さにはかなわない。 「兄様、私に力を」 桂杏が跳んだ。 想いにはどれほどの力があるのだろうか。一瞬だが桂杏の疾走速度が増した。鞘におさめたままの刃を羅生丸に叩き込む。 その一撃を羅生丸の右の刃がはねた。さらに翻ったそれは桂杏を斬り払っている。羅生丸にとっては造作もないことだ。が、そこに一瞬の隙が生じた。 瞬間、秋桜は羅生丸との間合いを詰めた。練気が彼女の脚組織そのものを強化したのだ。 秋桜は羅生門の腕に飛びかかった。足をからめ動きを封じ―― 羅生丸がぐんと腕をのばした。秋桜の刃が空をうつ。羅生丸がニンマリし、秋桜を刃で薙いだ。 「この羅生丸の力、見誤ったようだな」 「そうじゃない。一人の勇気がみんなの力になるのよ!」 絶叫とともに朱璃が精霊砲を撃った。白光が羅生丸の腹を貫く。秋桜を振り飛ばし、羅生丸は一気に十数メートルの距離を飛び退った。精霊砲の一撃は、強靭無比たる羅生丸にとっても無視できぬ損傷を与えていたのだ。 苦痛に顔をゆがめる羅生丸の眼が左右に走った。 その瞬間だ。羅生丸の左に漆黒の、そして右に白い壁が現出した。 「人質はとらせないよ」 冷然たる声音でゼタルが告げた。透子もまた肯く。ふっ、と羅生丸が溜息を零すかのように笑った。 「ここまでのようだな」 羅生丸が跳んだ。軽々と街路に面した商家の屋根に舞い上がる。 弓を上げたが、颯は撃つのをやめた。羅生丸を殺すのが目的ではない。たちまちのうちに羅生丸は姿を消した。 再び街路は喧騒に満たされた。鬼の少年捕縛のため、開拓者達は駆け去っている。後にはルー一人のみ残されていた。 「修羅‥‥。貴方は一体何者なの」 羅生丸の幻影を追うように、ルーはずっと空を見上げていた。 |