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■オープニング本文 ●いにしえのはらから 口の重たかった古代人・唐鍼であったが、尋問などの担当を開拓者らと交代して後は、少しずつではあるものの、疑問への答えを口にし始めた。 その詳細は他に譲るものの、その記録は整理され、順次関係機関へと送られていく。 唐鍼は言う。我々は護大を奉ずる者。護大派であると。 ならばと問う。護大とは何か――護大とは空と呼ばれる全だ。世界の尽くを滅ぼし、破壊の後に再生を始める存在。護大は全てを兼ね備え、あらゆる対立概念を内包する。故に、全にして渾沌である。 絶対的存在、なのではない。護大とは、絶対そのものであると。 「世界は、滅びを受け容れねばならない」 「なにを……」 「全ては滅び、滅びの先に再生が始まる。それが護大の不朽の愛(アガペー)だ」 思わず喰って掛かりそうになる開拓者を、他の者が押し留める。 「何か手立てはないのか?」 「元より護大を滅することなど不可能だ。ある訳がない」 末端の一員に過ぎない自分に解る筈ないと首を振る唐鍼に、開拓者たちは声を揃えた。それでもいい。可能性は自分たち自身の手で探るから、少しでもいい。知っていることを教えてくれと。押し黙る唐鍼であったが、彼は、やがて小さく口を開いて―― そこは薄闇の世界であった。濃密な瘴気が渦巻いており、まるで黒い霧が満ちているように光を閉ざしている。 一言でいえば朽ちた世界。何時のものとも知れぬ瓦礫がところどころ顔を覗かせていた。 とはいえ見渡す限り荒野というわけではない。所々木々が生えているし、また池や川らしきものも見えた。が、それらはすべて瘴気の塊といえた。もし天儀の者が口にすれば生き腐れてしまうだろう。 黄昏。 そう。旧世界は滅びを待つ世界であった。 ● 冥越の地を攻略したことにより、魔の森は大部分がまだ残されてはいるものの、天儀の人々は幾つかの里と狗久津山の遺跡を押さえることに成功した。 しかし、である。古代人である唐鍼から、護大の心臓は破壊したところで問題の根本的解決にはならないのだ、との情報がもたらされた。また、彼ら古代人は旧世界から来たのだと。 ここに至り、ついに朝廷はある決断をくだした。旧世界への道を探すという一事である。時を同じくして、遺跡の最深部に精霊門が発見された。 これこそ唯一旧世界へ到達できる精霊門ではないか。そう推測した朝廷は精霊門の開放を決定。最深部を徘徊する古霊兵らを排除し、ついに開拓者達は精霊門の開放を成し遂げたのであったが―― 「此度の依頼は、旧世界の探索である」 朝廷の使者は告げた。 実はこの時、朝廷は焦っていた。唐鍼より、護大を破壊しても一時凌ぎにしかならないことを知らされていたからである。 そこで朝廷は開拓者の力を借り、さらに護大について唐鍼に問い重ねた。結果、朝廷は護大の眠る墓所なる存在を知る。そして、そこには三つの封印と、それぞれに対応した三柱なる存在が安置されていることを。 朝廷の使者は開拓者を見渡した。 今回の依頼は簡単なものではない。先日派遣した先遣隊の情報より、そのことを使者は理解していた。 旧世界には瘴気が満ち満ちているという。唐鍼に教えられたように先遣隊は真っ直ぐ北にむかったのであるが、彼らは密林に行き着いたらしい。そこは方向感覚を狂わせる場所であるらしく、先遣隊の者達は迷い、幾人かが脱落した。 それでも残る先遣隊の者達はさらに北に進んだ。その行く手を遮るように瘴気の渦や足をとられる砂地、沼などが彼らを待ち受けていた。それに時間をとられ、先遣隊の食料や水は尽きた。生きて戻った者は三人に過ぎなかったという。 「行く手を遮る障害の発見のみを優先した先遣隊の報告は、これが全てだ。おそらく食べ物だけでなく、飲み水すら得ることは不可能となる」 使者は言葉に詰まると、不意に首を振って続けた。 「が、それでも天儀の未来のため、誰かがやらねばならぬ重大事である。旧世界に降り立ち、護大の墓所を確認せよ。無理に接近せずともよい。大まかな位置さえわかれば問題ない。護大派との交戦も避けよ。これが開拓者の使命である」 朝廷の使者はいった。 |
■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067)
17歳・女・巫
北條 黯羽(ia0072)
25歳・女・陰
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
アーニャ・ベルマン(ia5465)
22歳・女・弓
Kyrie(ib5916)
23歳・男・陰
ユウキ=アルセイフ(ib6332)
18歳・男・魔
アムルタート(ib6632)
16歳・女・ジ
ケイウス=アルカーム(ib7387)
23歳・男・吟
呂宇子(ib9059)
18歳・女・陰
黎威 雅白(ic0829)
20歳・男・シ |
■リプレイ本文 ● 「精霊の門の先、旧世界は瘴気に覆われた世界だったのですね」 ぽつりと十七歳ほどの少女が呟いた。美少女ではあるが、どこか儚げな雰囲気がある。名は柊沢霞澄(ia0067)。 「私のこの術は、このような時の為に配されたのかもしれません……」 ある種の感慨を込めて霞澄は独語した。 彼女がいるのは遺跡の最深部である。辺りはひやりとした、やや湿った空気が満ちている。その静寂の中に精霊門はあった。 「みんな」 二十歳ほどの若者が他の開拓者が見渡した。実直そうな若者で、体躯は巌のようにがっしりとしている。名は羅喉丸(ia0347)といった。 「先遣隊の話を覚えているか」 羅喉丸が問うた。 先遣隊の情報によると様々な困難が待ち受けているらしい。それがどれほどのものであったかは生き残りが三人であっという事実が示している。 だからこそ入念が準備がいるのだ。困難な事態に対する方法のみならず食料や水の確保は絶対条件のひとつであった。 「……話を聞く限り、魔の森と同等か、それ以上に人に優しくない環境みたいだけど」 十八歳ほどの少女が喉から押し出すように声をもらした。可愛い少女である。が、人間ではなかった。赤い髪の中から生えているのは左右で大きさの違う角である。 修羅。少女の名は呂宇子(ib9059)といった。 「……そうですね」 おっとりとした声で頷いたのは元気そうな娘であった。可愛い相貌の中、大きな蒼の瞳が好奇心できらきらと輝いている。 でも、と娘――アーニャ・ベルマン(ia5465)はさらに瞳を輝かせると、旧世界と叫んだ。 「怖い所とか瘴気だらけとか聞きますが、私は見たいです。好奇心のほうが勝るのです。古代人の都市とか墓所はどんな姿なのかなとか考えたらわくわくが止まらないのです」 「私もだよー」 楽しくてたまらぬように少女が手をあげた。十六歳ほどの華奢な少女で、肌は透けるほどに白く、独特の艶がある。 アムルタート(ib6632)というエルフの少女であるのだが、まるで友達のように嬉しげにアーニャに笑いかけた。 「うは〜、大冒険って感じだね! 目的地まで頑張るー♪」 「ですねー」 アーニャもまた手をあげた。ぱしんと派手な音をたてて二つの手の平が重なる。 すると、くすくすと若者が笑みをもらした。二十歳をわずかばかり過ぎた飄然たる若者である。名はケイウス=アルカーム(ib7387)。 「アーニャとアムルタートを見ていると心配しているが馬鹿らしくなってくるな。まあどのような状況でも楽しむのが俺の主義でもあるのだけれど」 「なら、そろそろいきましょうか」 端正というか、むしろ妖美といってよいほど妖しい美貌の若者が精霊門を見上げた。 「旧世界が私達を待っています」 若者が足を踏み出した。名はKyrie(ib5916)。黒白の陰陽師であった。 ● そこは薄明の世界であった。 瘴気が満ちており、まるで薄霧に包まれているようだ。空は鈍色の雲に覆われている。 「……ここが、唐鍼の居た世界なんだね」 感慨をこめてケイウスが辺りを見回した。 荒野の只中。遥か彼方に森林のようなものが見えている。とはいえ色彩に乏しく、影絵のようであった。 その時、ケイウスの脳裏にある光景が蘇った。夢語り部の間で見た『始まりの地』の光景だ。 「……ここは、あの場所に似ている気がする」 ケイウスが呟いた。その傍らではアーニャとアムルタートがもの珍しそうに周囲をキョロキョロと眺めている。 「これが旧世界なのですね」 「古代人の住む世界かあ」 アーニャは溜息をもらし、アムルタートは歓声をあげた。が、すぐに二人は顔をしかめた。少し気分が悪い。 「こいつのためだね」 落ち着いた声で、その艶っぽい女はいった。北條 黯羽(ia0072)である。 彼女の言うこいつとは瘴気のことであった。あまりにも濃密なそれにより身体機能が狂わされているのである。 「私に任せてください」 霞澄が手を合わせた。そして祝詞を唱える。 「てんしょうじょう、ちしょうじょう、ないげしょうじょう、ろっこんしょうじょうと、はらいたまう」 「へぇ」 謎めいた濃紺の瞳の若者が驚いたような声をあげた。名は黎威雅白(ic0829)。彼は突如、身体が軽くなったような気がした。霞澄の冥護の法により瘴気に対する対抗力が高まったためだろう。 「とはいえ、これでは先が思いやられるね」 瞳に理智の光をうかべた少年が肩をすくめてみせた。端正な顔立ちで名をユウキ=アルセイフ(ib6332)というのだが。 覚悟していたとはいえ、着いてすぐに術の世話にならなければならないとは、何と旧世界とは過酷な世界だろうか。 「まあ」 ニヤリとし、黯羽が黎威を見た。 「黎威が居るンで心強いさね」 「ふふん」 黎威もまた不敵に笑み返す。その額には二本の角が見えていた。この若者もまた修羅である。 「嫌な空気だな……さっさと終わらせて帰れりゃぁ良いんだが」 「確か先遣隊が向かったのは、北だったな」 羅喉丸が方位磁針に視線をおとした。針は森林とは反対の方向を指している。 「ともかく北を目指そう」 「その前に」 呂宇子が一枚の紙片を手にした。呪紋と呪字が描かれている。呪符だ。 彼女は小さく呪を唱えた。術式の封印解除の引き金となる呪である。 瞬間、符が鳥に変化した。まるで生き物のごとく翼をひろげ、空に舞い上がっいく。 「ふーん」 呂宇子が鼻を鳴らした。彼女の視覚は飛ばした鳥――式とつながっている。すなわた彼女は上空から旧世界を眺めていた。 「周囲は荒野ね。南には森林。東に小川のようなものが見えるわ。人や動物の姿は見えないわね」 「よし」 黎威が肯いた。 「俺が先にいって様子を見てくる。合図をしたら来てくれ」 「おい」 黯羽が黎威を呼びとめた。 「黎威のことだ。しくじりはねえと思うが……俺の大事な娘が泣かねェよう、十全に気を付けてくれよ?」 「わかっている。俺を誰だと思ってるんだ」 ニッと笑み、黎威は背を返した。 ● 霞澄はゆっくりと足をおろした。 「大丈夫みたいです」 霞澄は振り返った。かんじきをつけた足はそれほど深く砂中に沈み込むようなことはない。それではと羅喉丸やアーニャもかんじきを付け始めた。 「いくら砂地でも歩き方を工夫すれば」 かんじきを用意していなかったケイウスが足を砂に下ろした。するすると砂の中に足首まで埋まる。 「うーん」 ひとつ唸り、ケイウスは眼前に広がる砂丘を見渡した。時間をかければ踏破はできるだろうが、それでは体力がもたない。 「仕方ないね」 ユウキが呪文を唱えた。高密度の術式だ。次の瞬間、鉄の壁が現出した。 「これ、押し倒してもらえるかな」 ユウキが羅喉丸を見やった。この中で最も腕力があるのは、おそらく彼だろう。 やれやれと羅喉丸は頭をかくと、黎威に手伝ってくれと呼びかけた。 鉄の壁を飛び移りつつ、砂丘を踏破してどれくらい経った頃だろうか。式を飛ばしていた黯羽が異変をとらえた。 「あれは……瘴気の渦かい」 黯羽がため息をこぼした。 開拓者の前方。かなり大きな瘴気の渦がある。避けた方が無難であろうが、それでは遠回りとなってしまう。 「無理は禁物です」 Kyrieがいった。 ここは未知の世界なのである。できるだけ危険は避けた方がよい。 開拓者達は瘴気の渦を迂回した。渦はまるで竜巻のように見えた。もし踏み込んでいたらただでは済まなかっただろう。 とはいえ時は余計にかかった。まあ開拓者はすでに時の感覚は失われていたのだが。 「これは」 ユウキが足をとめた。 瓦礫が見えた。何かが朽ちた痕のようである。石のようであるが、ユウキの知らぬものであった。 「何だろう、これは?」 「さあ」 アーニャが首をひねった。彼女も知らぬ材質である。 するとケイウスが瓦礫に印をつけた。帰りの目印とするためである。 と、アムルタートは周囲の様子は変わっていることに気がついた。暗くなってきたのである。 「夜はあるみたいね」 呂宇子が辺りを見回した。するとKyrieが荷をおろした。 「みんな疲れています。この辺りで野営しましょう」 羅喉丸が持参した松明に火をつけ、開拓者たちは食事をとりはじめた。が、腹が満ちるまで食うというわけにはいかなかった。 霞澄の冥護の法の有効時間の関係から期限は六日と定めてはいるものの、どのような事態が起こるかわからない。もしもの場合に備え、食料と水だけは確保しておかなければならなかった。この世界で、これだけは決して手に入らない。 その霞澄は手帳にペンをはしらせていた。道筋の記録である。 「これ、どうぞー」 アムルタートがチョコレートを差し出した。ケイウスが破顔する。甘いものは疲れた身体にとってはありがたいものであった。 「ありがとう。しかし、アムルタートは気が利くね」 「うん?」 アムルタートは首を傾げた。彼女自身、自分は気がきくとは思ってはいなかったからだ。実際、何も考えてはいない。ただ、アムルタートには恐るべき直感があった。瞬時にして物事の本質を見抜く直感が。 「隊長さん、あいつからだ」 黎威が黯羽にクッキーを手渡した。 「ちゃんと帰って来ねぇと許さねぇってよ」 「だったら死んでも帰らないとねぇ」 黯羽が苦笑する。これではどちらが姉だかわからない。 「僕は」 松明の赤い火にぬれながら、ユウキが口を開いた。 「護大とは何なのか、今でも正直よく分からないんだよね……。今までの戦いで見て来たのは……、アヤカシはその大きな力を手にしようとして――、結局は制御出来ずに、アヤカシなのかよく分からない、とんでもない怪物になったりしてるから……。存在してはいけないモノ、だから消さなければいけない、と思うんだけど……。……正しい答えなのか、よく分からない。今回の調査で、護大も、古代人についても、些細な事でも何か知る事が出来ると良いね……」 「そうさね」 がらにもなく黯羽が遠い眼をした。 歴史というか世界というか、何かとてつもない大きなものの転換点にいる。そのような感慨があった。 「天儀が出来る前、私達の先祖は一体どこに住んでいたのでしょうね〜」 と、アーニャが北に向かい、恵方巻にかぶりついた。 「墓所が発見できますように〜」 「それって違ってはいませんか」 Kyrieが注意すると、アーニャは何でもないという風に笑った。 「気持ちの問題です。さあ」 アーニャが立ち上がった。天幕を張る用意をする。 布一枚の内外。何がどう変わるというものでもなかろうが、外の空気を吸いながら眠りたくはなかった。 「じゃあ、最初は私が見張りにつくわね」 呂宇子が立ち上がった。するとケイウスもまた。 「僕も付き合おう」 ケイウスは耳を澄ませた。超人域にまで高められた彼の聴覚には異変はとらえられなかった。 ● 翌日。おそらくは昼過ぎであろう。開拓者の眼前に驚くべきものが現れた。 密林だ。鬱蒼とした木々が生い茂っている。ただ、それは緑ではなかった。黒灰色をしている。 「ここだと、これも瘴気の塊みたいなモンなのよね。わーお、壮絶」 呂宇子が慨嘆した。まさに天儀人にとっては毒の世界だ。 「この中は方向感覚が狂うのでしたね」 アーニャが確認した。密林で迷い、多くの先遣隊の者が命を落としたはずだ。 彼女は純白の弓身と銀に輝く弦を持つロングボウを手にした。北にむけて矢を放つ。 練力を込めた矢は流星のように飛んだ。そして一本の木をすり抜け、地に突き立った。つけてあった荒縄は切れている。 「命中ー!」 双眼鏡で行方を追っていたアムルタートが叫んだ。アーニャが頷く。矢は障害物をすり抜けたが、荒縄はそうではなかった。 開拓者達は縄を伝い、矢のもとまで進んだ。アーニャが矢を拾い上げるのを見つつ、Kyrieが問うた。 「方位磁針は?」 「だめだ」 羅喉丸が首を振った。方位磁針が狂ってしまっている。 「こうなったらアーニャの矢頼みだねえ」 黯羽が苦く笑う。いつもはふてぶてしい彼女であるが、過酷すぎる事態がさすがにこたえはじめているようだ。 さらに開拓者をうちのめす事態が起こった。食料と水が瘴気に汚染されはじめたのである。ほんのわずかではあるが。 事態はさらに過酷の度を増した。これからはさらに食料と水を節約しなければならないだろう。 その時だ。樹上で潜んでいたはじかれたように黎威が振り返った。彼の超聴覚が異変をとらえたのである。 木々の間からぬっと姿をみせたものがあった。アヤカシだ。巨大な漆黒の虎のように見えた。ただ上あごからは剣のような二本の牙がぞろりと生えている。尾は三つあり、蛇であった。 「アヤカシだ!」 黎威が叫んだ。 その瞬間である。アヤカシが飛びかかった。霞澄にむかって。 「させないわよ」 素早く呂宇子が印を切った。 ガツッ。 重く硬い音が響いた。霞澄の前に立ちはだかった漆黒の壁が砕け散るより早く、アヤカシは地に降り立っている。 「がぁ」 アヤカシの口から漆黒の炎が噴出した。瘴気を変換させてつくりあげた冷たい炎だ。 広角度で吐かれた炎はさすがに躱しようもなく、幾人もの開拓者が炎にあぶられる。 「急急如律令、疾ッ」 Kyrieが印を組んだ。瞬間、その身から光が発せられる。癒しの光だ。 「アイシスケイラル」 ユウキが呪文を唱えた。虚数界面に描かれた事象を現象界に固定。それは何ものをも貫く氷の槍であった。 「ぐぎゃあ」 槍に貫かれたアヤカシが身悶えた。その眼前、羅喉丸が迫る。 「とどめだぁ!」 羅喉丸がアヤカシに拳をぶち込んだ。と―― 虎の内から光が噴出した。まるで瘴気でつくりあけらた漆黒の身体を切り刻むように黄金の光が。 「五神天驚絶破繚嵐拳」 羅喉丸が告げた瞬間、アヤカシは黄金の粒子と化して、消えた。 ● 「へぇ……コレが古代人の都市か…面白そうだな」 黎威がニィと笑った。 四日めのことである。ついに開拓者達は古代人の都市にたどり着いた。彼らの眼前にはドーム型の巨大な建物があった。 「古代人がいますー」 双眼鏡を覗いたアムルタートが声をもらした。都市の外に数人の男女の姿を見出したのである。 「なら、これ以上は近寄れねえな」 式を飛ばした黯羽がいう。式であることを見抜かれた場合、古代人がどう出るかわからないので、式はあくまでも遠距離においてある。 木々の間。霞澄が双眼鏡をめぐらせた。都市に隣接するように建つ建物がある。唐鍼からの情報によると、あれこそが護大の墓所であった。 「とうとう見つけましたね」 霞澄が弾む声をもらすと、同じように双眼鏡を覗いていたアーニャが紙を取り出した。 「あれが古代人の都市? 墓所? 記録に残さなくちゃ。スケッチしましょう」 「……護大をなんとかすればここに住む人達も滅びなくて済むのかな」 独語すると、ケイウスは瞳にしっかりと古代人の都市の映像を焼き付けた。 |