【殲魔】火災【浪志】
マスター名：御言雪乃
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| ■オープニング本文 ●種火 その商人が神楽の都に現れたのは、つい最近のことであった。 名を、羽間屋嘉兵衛という。 すらりと身なりが良く、都の一角で宿を一件借り上げ、いつも数人の従者を連れて歩いていたことから、相当の資産家であるように思われた。 一方、商人としては金を惜しむ吝嗇家ではなく、逆に湯水の如く金を使うでもない。時と場を鑑みて必要な金を必要に応じて使う、商人としてはまことに堅実な様子で、彼との商談に臨んだ商人は皆一様に好印象を持った。 商いは材木、燃料、保存食などの陣立てに必要な物ばかりで、彼の語るところによれば、冥越の地でアヤカシに対する合戦が起こされると聞き、己も財の力でこれを支えたいと思ったのだという。 出身は解らない。話題に上ったことはあるが、ご容赦をと微笑む様子が爽やかで気品もあり、多くはそれ以上追求しなかった。 「ふん。まともな輩ではないな」 柳生有希（iz0259）が眉を寄せた。 真田悠（iz0262）が腕を組み、渋い顔を浮かべた。二人の前では、一人の女性が肩を震わせている。 「構わない。話を続けてくれ」 「はい……」 女性は、搾り出すようにして話を続けた。 彼女にはひとり、交際中の男性がいた。その名を佐次という。嘉兵衛が借り上げた宿に出入りしていた薬屋で、浪志組にも『つなぎ』として協力していた。 その佐次が、姿を消した。二日前のことである。彼は大事な預かりものであるからと彼女に文を一通渡し、明日になったらこの文を浪志組の屯所に持っていけと告げて出かけた。 そして、それっきりだった。 『羽間屋嘉兵衛に不審の儀これあり』 文の中にはただそれだけ記されていた。 おそらく、生きてはいまい。 ●浪志組屯所 「これで全員揃ったな」 浪志組屯所にある広間。其処に集められた幹部等を視界に、真田は渋面を浮かべた状態で呟いた。 「何かありました？ 貴方がこうして至急幹部を集めるの、珍しいですよね？」 何かなくて呼ぶ筈はない。 場の空気を読まずに放たれた天元 恭一郎（iz0229）の声に真田が深い溜息を零す。けれど誰も其処に突っ込む気配はない。 真田は何かを言い淀む様に息を呑むと、静かにそれを吐き出した。 「てめぇらを集めたのは他でもねぇ――不穏分子が動きやがった」 ドスの利いた低い声に幹部等の顔が上がる。 「現在、開拓者を含めた実力者が冥越へ向かっている事は承知しているな。敵はその裏を掻き、我等が拠点である神楽の都に目を付けたようだ」 そう言葉を零すのは、真田と共に情報元である女性の話を聞いていた柳生だ。 「俺達がする事は只一つ。奴等の動きを阻止する事だ」 「真田さん、質問ー。敵の狙いは何なんですか？」 真田や柳生の様子を見る限り、既に敵の目論みは割れている筈。そう問い掛ける天草翔（iz0237）に真田の表情が一気に険しくなった。 「奴等の目的は、この神楽の都に火を点ける事だ」 人手が手薄な今、都に火を点けられれば如何なるか。そんな事は容易に想像が出来る。 「良いか！ これは俺達に託された最後の仕事と思って動け！ 神楽の都を――民を護るのは他人じゃねぇ。俺等が護るんだよ。気を引き締めて行け！」 ● 久しぶりの荒事を前に、しかし翔はどこか不満顔だ。理由は首謀者である羽間屋嘉兵衛をぶん殴ることができないからで。羽間屋嘉兵衛を捕らえるのは天元 恭一郎率いる隊の任務であった。 「あいつじゃ仕方ねえか」 口を尖らせつつ、しかし翔は恭一郎の実力を認めている。頭の切れと腕の冴えは浪志組の中でも群を抜いていた。おまけに常に沈着冷静ときている。首謀者捕縛の任をうけるのもむべなるかなだ。 「今回は火付け野郎をとっ捕まえるだけで我慢するか」 翔は刀を腰におとした。目指すのは火付けの下手人が潜んでいるはずの蔵だ。 「よし。いくか」 開拓者とともに翔は駆け出していった 夜半。 立ち並ぶ蔵のひとつの中に、女の姿があった。妖艶な美女である。 と、女の背後で異様なものが蠢いた。大きな獣の尾である。 「もうすぐじゃ。もうすぐ都は火の海となる」 女はにたりと笑った。それは人間にはつくりえない魔性の笑みであった。 |
■参加者一覧
柚乃（ia0638）17歳・女・巫 
星風 珠光（ia2391）17歳・女・陰 
秋桜（ia2482）17歳・女・シ 
ユリア・ソル（ia9996）21歳・女・泰 
ルーンワース（ib0092）20歳・男・魔 
フィン・ファルスト（ib0979）19歳・女・騎 
ケイウス＝アルカーム（ib7387）23歳・男・吟 
刃香冶 竜胆（ib8245）20歳・女・サ 
来須（ib8912）14歳・男・弓 
ミヒャエル・ラウ（ic0806）38歳・男・シ |
| ■リプレイ本文 ● ニャ、ニャニャニャニャー。 夜道を駆けながら、可愛らしい猫が鳴いた。意味は、 「神楽が大火に…なんて未来は絶対にあってはなりません。なんとしても…必ず阻止しなければ、です」 だ。が、 「うん？」 松明をもつ娘が首を傾げた。華奢な肢体の持ち主であるが、駿馬のような躍動感に満ちている。 名はフィン・ファルスト（ib0979）というのであるが、無論彼女には猫が何をいっているのかわからない。猫の正体が柚乃（ia0638）という少女であるとは知ってはいても。 そう。猫の正体は柚乃であった。とはいっても変身しているのではない。姿は本来の豊満な美少女のまま。ただ、魔法により見た目を変化させているのだ。すなわち人から猫へ。 「何いってんですか、柚乃さん」 「ニャニャニャ」 「腹減ったとかいってんじゃねーの」 ふふん、と。笑ったのは輝くばかりに美しい少年だ。 浪志組一番隊隊長。天草翔（iz0237）である。 「フギー」 猫が毛を逆立てた。 「何か怒ってるみたいですよ」 と、フィン。 そのやりとりを小さく一瞥し、ルーンワース（ib0092）は小さな声で呪文を唱えた。座標軸を固定し、術式起動。ルーンワースの眼前に冷たい炎の塊が出現した。 「これで少しは走りやすくなるかな。急がないと。都燃やされちゃたまらないし」 ルーンワースは独語した。その鋭さをひめた語調からは普段のぼんやりしたところは見受けられない。 「確かに火付けは良くないよねえ」 うんざりしたように、その十七歳ほどの少女は肩をすくめてみせた。 背の中ほどで鮮やかな紅の髪を括っている。少女特有の可愛らしさと老成した聡さが同居した独特の雰囲気をもった少女だ。名は星風珠光（ia2391）。 その珠光のすぐ側には光が舞っていた。蛍のように見えるが、それにしては光度が高すぎる。 式。珠光が召喚した呪術的存在であった。 「でも」 フィンが小首を傾げた。 「よりにもよってこんな時にアヤカシに協力するような真似をするなんて……普通の人間ならまず協力するような理由が思い当たらないんですよね」 「ふふん」 サウブの裾をひるがえして走る娘が嘲笑った。 色気のある娘で、金色の瞳に独特の艶がある。修羅のサムライ、刃香冶 竜胆（ib8245）であった。 「都の者など」 いいかけて竜胆は言葉を切った。彼女は修羅であり、基本他種族は誰も信用していない。有り体にいえば都がどうなろうと知ったことではなかった。が、それを口に出さぬだけの分別をも竜胆はもっていたのである。 「……確かにフィン殿のいうとおりでありんす。大戦を前に火付けとは酔狂な賊でありんすが、此の時機と言うのが気になりんす。穿った見方をすれば冥越に戦力を集中させぬ為の陽動策等、幾らでも策謀の可能性が出て来そうでありんすが」 「策謀か」 小さく男は唸った。 三十代後半。口髭をたくわえた落ち着きのある紳士である。ただその身のこなしは猫のようにしなやかであった。 男――ミヒャエル・ラウ（ic0806）は続けた。 「確かに相手は頭のまわる奴のようだな。商人に扮して燃料を運び込み、火付け……。いかにも用意周到だ。資金は実力行使で奪ったものなのかは不明だが」 「まあ、いろいろあるだろうが」 ケイウス＝アルカーム（ib7387）が微笑んだ。見る者の心がふっと軽くなるような、そんな優しい笑み。 夜空に瞬く星を見上げ、アルカームはいった。 「俺はここが好きだよ。だから、この都もここに住む人にも傷付いて欲しくないんだ」 こくり、と。 その十七歳ほどに見える少女は独り頷いた。言葉には出さないが、しかしこの可憐な外見の少女――秋桜（ia2482）もアルカームと思いは同じであった。 この利口な少女には敵の思惑は透けて見えている。開拓者のいない時期を狙っての火付け。おそらくは開拓者に対する陽動であろう。 その場合、敵の首魁の想像もつく。アヤカシ掃討戦においてアヤカシに利する行為を働く者。考えられるのはアヤカシか古代人だ。 そうまで読んで、秋桜は腹をたてていた。どのような策であろうと、無辜の民を巻き込んでいいはずがない。 「火を起こすなら楽しめる花火にしてほしいものね」 皮肉たっぷりに笑ったのは流麗な娘だ。これで既婚者とはとてもこと見えない。 ユリア・ヴァル（ia9996）。魔術を操る拳士であった。 ● 「もうすぐだぜ」 立ち止まり、翔は告げた。 場所は蔵の立ち並ぶ一角。明かりなどはなく、辺りは闇に黒々と沈んでいる。 「天草さん」 ルーンワースが小声で呼びかけた。 「具体的に蔵はどれなのかわかっているのですか」 「そうそう」 フィンも頷く。 「本命の蔵はわからないんですか」 「いや」 翔はこたえた。件の蔵がこの中のどれかだとまでは監察方が調べ上げたが、時が足りなかった。わかっていのはそこまでだ。 「なるほど」 ルーンワースは闇に眼をむけた。 敵は都を混乱に陥れる事が可能なほど大がかりな火付けを企んでいる。ならば同時に複数の場所で騒動を起こせるだけの手と材料を揃えているはずだ。具体的には荷車や見張りの有無である。この深夜に人の出入りがあるのは不自然であった。 「秋桜、ラウ、どうだ？」 翔が問うと、秋桜とラウが眼を眇めた。瞳に呪紋が浮く。 瞬間、二人の視力は常人のそれを凌駕した。暗中にあってなお、彼らの視界は良好である。 秋桜がいった。 「います。蔵の前に人が」 「どうやら男だけでなく、女もいるようだな」 と、ラウ。ふーんと翔は鼻をならすと、 「美人か？」 「美人だ」 ラウはこたえた。 女は細面で切れ長の目をもっていた。夜目にも鮮やかな朱唇はやや厚い。妖艶といえる美女であった。 「そうか」 翔がニタリと嫌らしく笑った。すると猫が翔に噛み付いた。 「また柚乃さん、怒ってるみたいですよ」 と、フィン。猫はふんと顔をそむけると、ニャゴと鳴いた。いや、呪文を唱えた。 次の瞬間である。猫――柚乃を中心とした円形に結界が展開された。 それはアヤカシの存在を探る結界。呪術的に指向性を与えられて増幅した彼女の感覚はアヤカシを見ずとも存在そのものを感知できるのであった。 ミャウ。 猫が鳴いた。アヤカシはいないという意味だ。 「まだだよ」 今度はアルカームが耳を澄ませた。ラウもまた。 この時、二人の聴覚は超人的な領域まで高められていた。今の二人なら十数メートル離れたところに落ちた針の音すらも聞き取ることが可能であったろう。 「うん？」 アルカームは眉をひそめた。 彼が確かめたのは伏兵の有無であった。それは、ない。ないが、それよりも別に彼は異変を察知した。当然ラウも。 二人は蔵の前に潜む者達の呼吸音を聞き取ることができた。が、である。女の呼吸音を聞き取ることはできなかった。 世に息をしない人間が存在しうるだろうか。 否。もしいるとしたら、それは人間ではない。 「アヤカシかよ」 翔が悔しそうに舌打ちした。 ● 蔵の屋根の上。潜んでいた珠光が死神が携えているかのような巨大な鎌をぶんと振った。 舞ったのは小さな蛍。式だ。 蛍は光を零しつつ、件の蔵にむかって飛んでいった。これで戦闘の一助となるだろう。 「敵が襲撃されると同時に火を放つと厄介ですからね」 秋桜とラウが闇に身を溶け込ませた。音もなく闇を疾走。蔵の裏に接近した。 ラウが耳を澄ませた。蔵の中に音はない。が、敵中にアヤカシがいると判明した以上、無音はあてにならなかった。 蔵の壁に向き合うと、ラウは秋桜を促した。すると秋桜がラウの肩の上に乗った。窓から覗き込み、内部を窺う。 たくさんの樽が見えた。おそらく中には油が満たされているのだろう。もしかすると火薬の類もあるかもしれなかった。 人の姿はない。が、蔵の戸は開いているので外から中は丸見えだ。 秋桜とラウの姿が消えて幾許か。ユリアは小声で呪を唱えた。 現象面における座標軸固定。汲み出され、仮に固定されていた呪力を開放する。 次の瞬間である。蔵の側で荷車に座していた男が項垂れた。眠ってしまったのである。 「おい」 やや離れたところに佇んでいた男が項垂れた男を小突いた。はっとして男が眼を覚ます。 「居眠りすんな、馬鹿が」 男が舌打ちした。それを聞いたユリアは、思わず唇を噛み締める。一時に全員を眠らせでもしないかぎり、アムルリープでの制圧は難しい。 「なら一気に斬り捨てるしかねえな」 刀の柄に手をかけ、翔がニヤリとした。荒事が楽しくてたまらぬようだ。 ちらりとアルカームが翔を見やった。さすがに浪志組一番隊隊長をつとめているだけあって、天草翔という少年はなかなかの使い手であるようだ。が、相手はアヤカシである。剣の技量だけですべてが決まるとは限らない。 「注意した方がいい。敵はどんな力をもっているかしれないからね」 「確かにそうでありんすな」 竜胆の繊手がすうと刃を抜き払った。肉厚の漆黒の刀身に金色の刀紋をもつ両刃の直刀。霊剣、御雷だ。首魁に刃を届かせるためには、まずは雑魚を始末しなければならなかった。 「いきますよ」 フィンが突進した。あとにユリアとルーンワース、竜胆と翔が続く。 「ぬっ」 女が開拓者達に気づいた。女もまた夜目が効くようであった。 「邪魔者がきた。殺せ！」 女が叫んだ。男達が鞭打たれたかのように一斉に抜刀する。 「そっちこそ邪魔するなぁ！」 フィンの手から何かが飛んだ。 礫。それはフィンの怪力をもってすれば恐るべき凶器に変貌する。重い一撃を受けたかのように男の一人がよろめき倒れた。 「くそっ」 別の男が剣をふりかぶった。が、それっきり動かない。 男の前に竜胆が立っていた。かまえもしていない剣をさげている。それだけで男の身は恐怖で凍りついていたのだった。 竜胆の剣が閃いた。腕を斬られ、男が剣を落とす。大根でも斬るような無造作な斬撃であった。 「おい。俺の分もおいとけっての！」 翔の刃が煌めいた。走りすぎた後、三人の男が地に這っている。 「くっ」 女が歯噛みした。火付け役として用意した男達では相手にならぬようである。 男の腰にさがっている種火を女は奪い取った。 「な、何を」 「お黙り」 女が蔵の中に火種を放り込んだ。中には大量の油と火薬がある。火をつければ大爆発を起こすはずであった。 と、火種が地に落ちた。叩き落とされたのである。闇の中に小さな影が佇んでいた。 「そのようなこと、させるわけにはまいりませぬなあ」 秋桜がニィと嗤った。 「しゃあ！」 女が後方に跳んだ。その背後、揺れる異様なものがある。 獣の尾。それは七つあった。 「やつばりアヤカシか」 ふふん、アルカームが笑った。 「よっぽど自信があるのかもしれないけど、敵地のど真ん中に出てくるなんて、ちょっと大胆過ぎるんじゃない？ 簡単に思い通りになると思ったら大間違いだよ」 「そうです。観念しなさい！」 フィンが殺到した。が―― 見えぬ巨腕にはたかれようにフィンが吹き飛んだ。蔵の壁に激突する。ぴしり、蔵の壁に亀裂がはしった。 「何が」 愕然としてユリアが息をひいた。何が起こったのかわからない。 女がニタリとした。魔性のみがつくりえるおぞましい笑み。 瞬間、他の開拓者が吹き飛ばされた。さらに、さらに――。 「邪魔なのよ、虫けらども」 かっ、と女が口を開いた。紅蓮の炎を吐く。のびる炎の舌が樽をなめた。 「まずい！」 ルーンワースが術式を発動した。精霊を合成、作り上げたもの混沌だ。 刹那、火のついた樽に重なるようにして灰色の光球が現出した。 「何っ」 女が呻いた。それは見たのだ。灰色の光球に触れた瞬間、樽が消える様を。 その女の眼前を美麗なものが舞った。 蝶。それは幻想的な光景で。 「ぐがっ」 女がまたもや呻いた。瘴気でつくりあげたはずの身体が毒に悲鳴をあげている。 屋根の上で珠光が問いかけた。 「どう、ボクの式の味は？」 「ぐあっ」 女が吼えた。珠光の身体が吹き飛ばされる。いや、女の身もまた。それが背後から――柚乃が放った水球の仕業であろうと誰が知ろう。 「おのれっ」 女が身を翻した。思いの外損傷を受けている。その攻撃力に比して女の耐久力は低かったのであった。 闇の中を、女は獣並の――いや、獣以上の速度で走り去っていった。もはや追っても及ぶまい。 「くそっ」 翔が地団駄を踏んだ。弱い奴をぶちのめしたところで何も面白くない。 女が走り去った闇を見つめ、ぽつりとユリアが呟いた。 「最近手口が巧妙化してきてるわね。アヤカシ個体の趣向という感じじゃないわ。本当の意味でアヤカシと人との存続を賭けた戦いになって来たって事かしら」 ● かくして火付けは阻止された。火付けを企んでいた男達は捕縛されたが、得られた情報はない。彼らはある種の精神的支配下におかれていたのだ。 「で、どうします？」 秋桜が問うた。その前に座した娘は黙したままだ。 服部真姫。浪志組、副長である。 「アヤカシの跳梁ぶり。存在をかけた最後の戦いが始まろうとしているのだと私はふんでいる。その嵐の中で浪志組に何ができるか」 真姫は秋桜の眼をじっと見据えた。 呼びとめられ、女は足をとめた。 「あなたは？」 女が問うと、眼前に佇んだ娘はユリアと名乗った。 「佐次さんのことで」 「佐次さんの！」 「そう」 ユリアは語り始めた。佐次が行ったことを。何のために死に、そして何を成し遂げたのかを。 それは女が生涯誇りをもって子供達に伝えることになる物語であった。 |
