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■オープニング本文 ● 「これは!?」 愕然たる声を発したのは開拓者の一人であった。 御所の地下。広大な空間が開けている。篝火があちこちに配置されており、内部はそれほど暗くなかった。 見えるのは幾本もの巨大な石柱だ。複雑な呪紋が描かれたそれは円状に建てられている。さらにその中心には異様なものがあった。 巨岩のようなもの。良く見ると、それは骨の欠片のように見えた。数は数十ある。 「護大だ」 男はいった。御所の貴人の一人である。 「大アヤカシ黄泉より回収した護大のひとつはすでに封印された。残るもうひとつは御所にむかっている。それが届けばさらに封印を強化できるのだ。が、それ以前にもし封印が破れるようなことがあれば、どうなるか。長年蓄積された大量の瘴気が解き放たれてしまうだろう。そうなった場合、一体何が起こるのか御所においても想像すらつかぬ。なればこそ、この封印は絶対に護らなければならぬのだ」 男はいった。 その脳裏をよぎる不吉な噂がある。何者かが御所を窺っているというのだ。気のせいであるとされてはいるが…… 念のため、その事実を男は開拓者達に告げた。 ● 「護大を奪う」 突如現出した男はいった。生真面目そうな相貌。見た目は二十歳ほどに見えるが、雰囲気はどこか老人めいていた。 その声のあと、桜が舞い上がった。どうやら男は迅雷の速さで動けるらしい。 「御所ね」 女がいった。こちらは十七歳ほどに見える可憐な美少女だ。が、男と同じようにどこか老成した雰囲気があった。 「でも御所には結界がはられているんでしょ」 「それがどうした」 男はニヤリとした。その腕に黒い炎のようなものがまとわりついた。超高圧の瘴気だ。 「俺達の力をもってすれば破れぬ結界などない」 「そうね」 はじかれたように女が振り向いた。同時に片手を突き出した。 次の瞬間である。突き出した片手の指先――鋼の光沢をおびた五指の先端から無数の何かが噴出した。前方の木々がズタズタに裂け、倒壊する。 舞い上がった桜花と粉塵のむこう。巨大な人影があった。 がっしりとした体格の男。その衣服はぼろきれと化しているが、露出している肉体には傷ひとつなかった。 「危ねえなあ、遥琉。俺じゃなかったら今頃死んでたぜ」 「そっと近づくから悪いんじゃない、雄仁菱」 ハルと呼ばれた美少女が笑った。オニビシと呼ばれた男もまた笑う。 と、すぐに笑いを消すと、遥琉は生真面目そうな男に眼をむけた。 「でも、いいのかな、悪多繰。護大はきっと封印されてるんでしょ。もしそれが破れたら、大量の瘴気もまた解き放たれてしまう。そうなったら」 「仕方あるまい」 アクタクルと呼ばれた男は厳然たる口調でこたえた。 「護大を取り戻さなければならない。それが世界のためなのだ」 |
■参加者一覧
三笠 三四郎(ia0163)
20歳・男・サ
柚乃(ia0638)
17歳・女・巫
大蔵南洋(ia1246)
25歳・男・サ
孔雀(ia4056)
31歳・男・陰
亘 夕凪(ia8154)
28歳・女・シ
フィン・ファルスト(ib0979)
19歳・女・騎
成田 光紀(ib1846)
19歳・男・陰
笹倉 靖(ib6125)
23歳・男・巫
エリアス・スヴァルド(ib9891)
48歳・男・騎
蜂矢 ゆりね(ic0105)
32歳・女・弓 |
■リプレイ本文 ● 「ここが最終防衛線か」 広大な御所外苑をみやり、厳しい顔つきの男が呟いた。大蔵南洋(ia1246)である。 すると、華奢に見える若者が苦く笑った。 「御所の護衛の割には物凄く手薄で、開拓者頼み…。正直、キナ臭い依頼ですが、此処が最終防衛線として死なない程度にやるだけ…やってみます」 「死なない、か」 がっしりとした体躯の男が若者に眼をやった。一切の無駄な肉を排した、戦闘用に完全に仕上げられた肉体の持ち主。 男の名はエリアス・スヴァルド(ib9891)。そして若者の名は三笠三四郎(ia0163)といった。 それからエリアスは視線を転じた。一人離れたところに立っている男にむけて。 それは異様な男であった。濃い化粧を顔に施しており、どこか油断のならない雰囲気をもっている。名は孔雀(ia4056)といった。 エリアスはわずかに顔をしかめた。腐れ縁というものだろうか。ここのところ、孔雀という男と良く依頼が一緒になる。が、はっきりいってエリアスは孔雀という男が苦手であった。 そのエリアスの思いをよそに、孔雀はエリアスに微笑みかけた。その残虐性とは別に、いや残虐性ゆえに孔雀は相手の力量を的確にはかる能力があったからだ。 「ンフフ…此の男、使えるわね」 孔雀は独語した。敵を捕らえるにはエリアスの力が必要だ。 「さて」 ふふん、とその青年は尊大に、そしてつまらなそうに笑った。 「武帝がいた時よりも程度の低い警備ではなかろうかね。何を考えているのやら……」 青年――成田光紀(ib1846)はいった。その言葉通り、彼は一度御所に侵入したことがあった。 「柚乃(ia0638)もそう思います」 綺麗な青い髪の少女が同意した。やや垂れた大きな双眸の可愛らしい美少女である。 「要所たる御所の護りに、志体なし少数で警護だなんて…何かひっかかります。不審者の正体を突き止め、時間稼ぎをせよ…とでも? それとも御所を護る結界が破られる事はない、と考えているのでしょうか…」 「あたしたちは捨て駒ってわけかい?」 からからと女が笑った。年は三十ほどだろうか。白い髪に碧眼、そして角――修羅であった。 女――蜂矢ゆりね(ic0105)は不敵に言い放った。 「だとしても、アレを見せられちゃあ、やるしかないってもんさね」 御所の地下。そこに封印されている大量の護大。もしその封印が解かれるようなことがあればどうなるか。この豪快な女にとって、自身が駒とされることにそれほど憤りはないようであった。 「そうですね。理由はともあれ、侵入を許すわけにはいきませんっ」 きっぱりと。柚乃もまた宣言した。 ● 偶然であろうか。 ゆりねと同じ思いを抱いている者がいた。 同じ女であり、年も同じほど、そしてこの女もまた豪放な気風がある。 亘夕凪(ia8154)。シノビであった。 「駒は駒の役割を果たすだけさね」 夕凪は呟いた。そして他の開拓者達のもとへとむかった。側には三人の男女がいる。 男の一人は警護者であった。そして、もう一人の男。こちらは開拓者であった。へらへらと薄く笑っており、ゆらりと風に吹かれるがまま自由無碍に歩いている雰囲気がある。名は笹倉靖(ib6125)。 残る女であるが。これは十八歳ほどの娘であった。華奢であるのだが、生きる強さ――生命力が漲っている力強さがある。フィン・ファルスト(ib0979)といった。 「あんな大事なものをこんだけの人数で警護って、おにーさん苦労人?」 仲間のもとへもどってのち、おどけた口調で靖がいった。それから口調をあらためると、 「万が一、ここが襲撃された場合のことをきいておきたい。どのようにして追加の警備等が来る手筈なんだー?」 「追加の警備などない」 抑揚を欠いた声で警護者の男がこたえた。思わず開拓者達が顔を見合わせる。追加の警備がないということは、今ある戦力がすべてということだ。 「それなら」 フィンが真っ直ぐな眼差しを警護者の男にむけた。 「緊急時の場合、内苑まで踏み込むことを許してください。罰ならいくらでも受けますから」 「わかった」 至極あっさりと男が了承した。そして背を返す。その姿を見送り、ぽつりと夕凪が声を漏らした。 「そういや穂邑さんが狙われた時と同じやな…正体の知れぬ何者かが窺ってるてのは。あの時は神代、此度は護大か。ちいとばかり、引っ掛かるねえ」 「お前もそう思うか」 エリアスが重そうな口を開いた。夕凪の懸念、彼もまた持っていたのである。 それは少し前のことであった。浪志組一番隊隊長である天草翔が穂邑を窺う存在を感知した後、穂邑が襲われた。夕凪の指摘通り、神代と護大と標的こそ違えども、同じ感触があった。 「あの時、襲撃者は二人いた。男と女だ。女の額の目は千里眼で、鋼の腕の男は精霊力を弾き、瘴気弾で攻撃してきた。さらに二人共に人を超越した跳躍力を持っていた」 「確か」 柚乃が警護者の男に墨と紙を頼んだ。さらさらと筆を走らせる。 「アヤカシなのかい、そいつら?」 ゆりねが問うと、夕凪が首をを振った。 「わからない。力はまさにアヤカシと同じだ。けどねえ」 夕凪は言葉を切った。 剣を交えた感触。それはアヤカシとは違った。むしろ人間に近いものを夕凪は感じ取っている。 「よっし」 ごつん、と。フィンは拳を打ち合わせた。 正体不明の、強力な敵。が、その事実にフィンが臆することはない。眼前に立ちふさがる壁が高ければ高いほど、この娘は奮い立つのであった。 「この封印が破られたら、護大が……きっちり、守らないと」 ● 明々と篝火がたかれている。その光に浮かび上がっているのは三四郎だ。床几に腰掛け、握り飯を頬張っている。 その背後。夕凪が歩きすぎた。 「手はずはどうですか」 三四郎が問うと、夕凪は足をとめた。 「皆配置についたよ」 「異常は?」 「今のところは」 耳を澄まし、夕凪はこたえた。彼女の聴覚は今、超人的に領域にまで高められている。針が落ちる音すら見逃すことはないのだった。 その時、ぴいん、と澄んだ音が鳴り響いた。鏡弦。ゆりねが弓の弦をはじいているのだ。呼子笛が鳴らないところをみると、敵の存在は感じ取っていないのだろう。 「荒御魂、鬼御魂、九の御魂――」 靖が呪を唱えた。すると靖の足元に光る呪法円が浮かび上がった。 次の瞬間である。一気に呪法円が広がりも、消えた。 同じ時、柚乃もまた呪文を唱えていた。 「黒の梟、その眼をもちて、より来る者を知らしめよ。ムスタシュィル」 詠唱終了。虚数空間の熱量を現象空界に転換。柚乃にある特定のベクトルをもつ限定的超感覚を授けた。 同じ時、御所外苑側面で待機するフィンは懐中時計に視線をおとしていた。 ド・マリニー。瘴気の流れを読む懐中時計である。 外苑は広大であった。数人で護りきるのは困難である。このような特殊道具が必要なのであった。 御所後方の外苑。そこに南洋はいた。篝火の光が照らす広大な庭園をじっと見渡している。 敵の正体。それはわからない。その目論見も。 ただ懸念がひとつだけあった。御所側の思惑である。 十人の開拓者のみで護り得るとの判断が正しいものであればよい。が、もしそうでなかったら。 御所を護る結界がいかに強力であろうと、操るのは人である。十の力と相対した時、精神力の弱い方が負けるのだ。そも開拓者とは限界を振り切ることのできる者であった。 ● はっ、として柚乃は眼を見開いた。 彼女の超感覚。それは侵入者の存在をとらえていた。 それは夕凪も同じであった。外苑に足を踏み入れた者の足音をとらえている。数は二。左方と右方だ。 「俺には感じられないぞー」 相変わらず飄々と靖がいった。となれば相手は瘴気を発散しない者、即ち人間ということになる。 「私はエリアスさんのところにいく」 「じゃあ、あたしはフィンのところだね」 夕凪とゆりねが左右にわかれて駆け出していった。 「何か……来た!?」 呼子笛を一度長く吹くと、フィンは盾をかまえた。そして剣を抜き払った。 眼前、巨漢が殺到してくるのが見える。 「おおおおお!」 フィンの全身からゆらめく炎の如きものが立ち上った。具現化した闘気である。 びきびきと異音を発してフィンの筋肉が強靭になっていく。その圧倒的な熱量に周囲の礫がすうと舞い上がった。 「どけい!」 巨漢――雄仁菱が拳をたたきつけた。強化改造された彼の拳は岩すら砕く。小娘一人を粉砕することなど造作もないことであった。 が―― 轟、と音たてて雄仁菱の拳はとまっている。盾でうけたフィンの足はわずかに地を削ったのみだ。 「ば、馬鹿な」 愕然として雄仁菱が呻いた。するとフィンがニッと笑った。 「あんた達にどんな崇高な目的があるか知らないけど……知らないからこそ、好き勝手にやらせられないね。まして、そのために災禍を引き起こす真似をするって言うなら……悪いけど、砕いてでも止めるよ!」 刹那である。空を裂いて矢が疾った。それは雄仁菱の顔に吸い込まれ――カツッ、と音してはじかれた。 「無駄だ。俺に矢など効かない」 雄仁菱がニヤリとした。 可憐な美少女――遥琉が右手を突き出した。これも強化改造した指先から瘴気弾を撃ち出し、ばらまく。 「くっ」 盾をかまえ、エリアスは身を低めた。絶え間ない着弾の衝撃に盾が震えている。保持しているのがやっとだ。 「これでは動けん」 さしものエリアスは歯噛みした。その間、遥琉は御所にむけて馳せている。 「動かないで! あっ」 遥琉が足をとめた。その眼前、立ちはだかった人影がある。夕凪だ。 「どいて!」 遥琉が瘴気弾を乱射した。樹木すらズタズタに引き裂いた威力をもつ攻撃だ。それは盾ももたぬ夕凪の身に集中し―― ● 「来ます。正面!」 柚乃が叫んだ。はじかれたように三四郎が三叉戟をかまえる。その時、すでに第三の襲撃者は三四郎の眼前にまで迫っていた。 若者だ。端正な相貌の持ち主。悪多繰である。 「迅い!」 呻きつつ、しかし三四郎は三叉戟を突き出した。が、その一撃を、悪多繰はかわしてのけた。三四郎の一撃を疾風とたとえるなら、悪多繰の動きはまさに迅雷。 雷光のように三四郎の傍らを悪多繰は駆け抜けた。 「させん!」 振り向きざま三四郎が吼えた。魂すら振るわせる咆哮。が、悪多繰はとまらない。瞬く間に内苑に到達する。 「砕けろ!」 悪多繰が拳を空間に撃ち込んだ。 刹那だ。雷鳴のような轟音が響き、御所を覆う半透明の結界が浮かび上がった。 きりりりりりり。 結界に亀裂が入った。 ゆりねが矢を放った。雄仁菱がはじく。 「ええい、邪魔だ」 雄仁菱が跳んだ。その巨体からは想像もつかぬほど軽々と。化鳥のようにゆりねを襲う。 地鳴りめいた音が響いた。雄仁菱の拳がまたもやとまっている。瞬時に走り来たったフィンの盾によって。 「負けないんだから」 膝をおり、しかしフィンは耐えた。 「助かったよ。後は任せな」 ゆりねが矢を番えた。放つ。矢は命あるもののように飛んだ。不規則な軌道をえがく。 「こんなもの――うっ」 雄仁菱の腕をかいくぐり、彼の眼を矢が射抜いた。 瘴気弾がはじかれた。寸鉄おびぬ夕凪の身によって。 忍法、砂防壁。 「そんな」 さすがに遥琉の顔色が変わった。その眼前、夕凪が迫る。 「来るな。来るなぁ」 遥琉が両手を突き出した。怒涛のように瘴気弾を夕凪にぶち込む。 「ま、まだだ」 夕凪が刃をたばしらせた。必殺の一撃。生かして捕らえられるような生易しい相手ではないことは肌身にしみて理解している。 遥琉が跳び退った。朱の線が遥琉の身体にはしっている。 「浅かったか」 呻いた刹那、夕凪の身が吹きとんだ。暴風にも似た瘴気弾の乱射に砂防壁が破れたのだ。 なおも瘴気弾は乱れ飛んだ。が、もう夕凪の身を護るものはない。 空に飛び散る砕片。それは突如出現した壁であった。 あっ、と遥琉が思った時、砕片を蹴散らしてエリアスが殺到した。盾を叩きつけ、遥琉をねじふせる。 「殺しはせん。大人しくしてもらおうか」 「やったわね」 喜悦の声をあげると、孔雀が符を放った。遥琉の顔が苦痛にゆがむ。全身が痺れつつあった。 「ここまでのようね。私は捕らえられるわけにはいかないの」 静かな声で遥琉はいった。 次の瞬間だ。遥琉の身体が青い炎で包まれた。 さらに悪多繰が拳をひいた。 「これでどうだ。ぬっ」 悪多繰の拳がとまった。その全身に鎖状のものが巻きついている。式神だ。 傲岸不遜に顎をあげ、光紀が悪多繰を見下した。 「ここには俺がいるのだ。勝手な真似ができるとでも思ったか」 「殺しちゃだめよ!」 孔雀が叫ぶ。 古代人、護大、神代。そして大アヤカシである黄泉が最期に残した言葉。護大が元は一つの存在であるならば、彼らは護大を集め一体何を起こそうとしているのか。それを知るためには何としても襲撃者を生かして捕らえなければならない。 「ええいっ」 悪多繰が式神を引きちぎった。 瞬間、薄闇が青白い光に引き裂かれた。疾るのは雷光。柚乃のアークブラストだ。 「ぬうっ」 悪多繰が右手で魔道の稲妻をはじいた。散りしぶく紫電が周囲の地を灼く。返す拳を再び悪多繰は結界に――。 「させませんよ」 三四郎が三叉戟を繰り出した。片手のみの刺突であるが、体重をのせた一撃はあまりにも鋭い。さしもの悪多繰も避けることはかなわない。 咄嗟に悪多繰は右掌を突き出した。三叉戟をはじく。 「馬鹿め」 悪多繰が跳んだ。飛鳥のように空を舞い、結界に拳をぶち込んだ。 「何っ」 呻く声は悪多繰の口から発せられた。何も起こらない。 結界の上、信じられぬもののように悪多繰は己の右手を見つめた。強化改造された拳に狂いが生じている。超高圧の瘴気を発することはできなくなっていた。 「おい」 ぷかりと紫煙を吐き、靖が声をかけた。すでに仲間には癒しを与えてある。 「ここに何があるかわかった上での襲撃なんだよな? アヤカシ側か? 違うならどんな変わった事情があるんだよ。おにーさんに話してみなさい」 「貴様達に話すことなど何もない」 悪多繰は蔑むように靖を見下ろした。そして、哀れむようにいった。 「俺達の意志は世界の意志だ。滅びるならば、それもまた運命。おぼえておくがいい」 悪多繰が結界の上をはしった。そして跳ぶ。 空に悪多繰。地に南洋。 南洋が跳んだ。そのあまりの速さに空気が摩擦により燃える。赤い炎の尾をひいて悪多繰とすれ違う。 斬った。 心中快哉をあげたとき、地に悪多繰が叩きつけられた。空にあるとき、神速をしぼり出す彼の足は無意味となったのである。 片足を失った悪多繰はニヤリとした。一瞬後、その身体が青い炎に包まれる。 駆けつけた孔雀は舌打ちした。結局のところ、誰一人捕らえることはできなかったのだ。 運命の歯車。それがまたひとつ動いた瞬間であった。 |