【魍魎】迎撃
マスター名:御言雪乃
シナリオ形態: シリーズ
危険
難易度: 難しい
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/03/29 00:10



■オープニング本文

前回のリプレイを見る



「居所はつかめたか?」
「いまだ」
 諏訪顕実の問いに、庭に片膝ついた男はこたえた。諏訪シノビである。
 顕実が問うた居所とは雷に関してであった。情報を操るに長けた諏訪シノビの業をもってしても、いまだ雷の行方は杳として知れなかったのである。
 雷の目的が陰殻そのものであることは開拓者の探索によって知れた。奴らが操る蛇ならば、そのことも可能であるかもしれない。
 その事実を、いまだ顕実は他の上忍三家には伝えられずにいた。情報を知った時、かれらがどうでるか判断できかねているからだ。
 諏訪の危機が即ち陰殻の危機ととらえてくれればいい。が、好機ととらえはしないだろうか。
 陰謀。策略。それが陰殻の法だ。その法にのっとり、今までシノビ達は暗躍してきた。疑心暗鬼こそシノビの本性といっていい。
 その本性に従った場合どうなるか。陰殻は雷に蹂躙されるのを待つまでもなく、内部から崩壊してしまうだろう。
 やはり諏訪のみで対処するしかない。
 そう顕実は結論づけた。
 ならば、どうするか。次の段階に顕実の思考はすすんだ。いかに雷を抹殺するかという点について。
 雷の居所はつかめない。それは彼らの潜伏場所を奇襲するわけにはいかないということである。
 であるならば、残された手はひとつだ。雷を待ち受ける。彼らは必ずや残る諏訪一族を狙い、襲ってくるだろう。
「開拓者を」
 顕実はいった。


 風に吹かれ、その若者は立っていた。
 端正な相貌の持ち主。冴えたその瞳に宿るのは憂愁の光である。
 と、突如、その背後に気配がわいた。が、若者に動じた様子はない。気配の主を知っているからだ。
「陰殻も慌しくなってきたな」
 気配の主がいった。仮面のために声はややくぐもって聞こえた。くくく、という忍び笑いも。
「黄泉とかいう大アヤカシ退治に乗り出したからだろう」
 冷然と若者がこたえた。すると仮面をつけたモノは、今度こそはっきりと笑みを含んだ声で、
「ならば今が好機というわけだな」
「そういうことだ。ゆくぞ乱童」
「おお」
 むくりと巨漢が起き上がった。と、仮面のモノの足元にぽとりと何かが落ちた。
 細い黒縄のようなもの。蛇である。
「まずは我が術を仕掛ける」
 仮面のモノがいった。


■参加者一覧
北條 黯羽(ia0072
25歳・女・陰
大蔵南洋(ia1246
25歳・男・サ
九法 慧介(ia2194
20歳・男・シ
孔雀(ia4056
31歳・男・陰
劫光(ia9510
22歳・男・陰
ラシュディア(ib0112
23歳・男・騎
レイス(ib1763
18歳・男・泰
巳(ib6432
18歳・男・シ
高尾(ib8693
24歳・女・シ
乾 炉火(ib9579
44歳・男・シ


■リプレイ本文


 山裾に広がるその里には柔らかな陽光が降り注ぎ、ひどく穏やかに見えた。
 諏訪シノビ、碓氷一族の里である。
 その里の奥。寺があった。
 門から続く階段。そこを降りるのは宿として離れを借りた五人の男女であった。
 一人は女。むっちりとした肉体の持ち主で艶っぽいといっていいのだが、どこか物騒な雰囲気がある。陰陽師、北條 黯羽(ia0072)であった。
 残る四人は男である。
 一人は二十歳ほどの若者で、鋭利な刃物のような印象がある。もう一人は小柄で細身の若者だ。見た目の印象はまるで違うのだが、その瞳の奥には同じ光があった。守るべき何かのためには命をかけることができる者のみ持ちうる光が。
 三人めはすらりとした長身の若者だ。女性的といっても良い美貌の持ち主で、ひどく優しげである。が、何やらその若者は不気味であった。
 そして四人め。真っ白な肌のその若者の名は巳(ib6432)というのだが、その名のとおり、ぬめりとした得たいの知れぬところがあった。
「今回は女する必要はねえみてぇだな」
 くかか、と笑い、巳は三人の男――劫光(ia9510)、ラシュディア(ib0112)、レイス(ib1763)をちらりと見やった。
 その巳の耳には衣擦れの音が聞こえている。常人にはとらえることのかなわぬ微小な音。おそらくは見張りの碓氷シノビであろう。
「ふふん。ご苦労なこったぜ」
 巳が仲間にちらりと視線を送った。下手なことを口にするなという合図だ。
 その後、五人は散策を装い、碓氷一族頭領である碓氷才助の館へとむかった。館は里のほぼ中心にある。
「ここか」
 劫光が館を見つめ、つぶやいた。それから背後を見た。ここまで歩いて感じた里の雰囲気。そこにはおかしなものはない。
「まだ雷は術を仕掛けていないか、それとも誰も気づかぬほど巧妙なものか」
「または標的が違うか、でしょうね」
 冷静にレイスが指摘した。確かにその可能性ある、と黯羽が頷く。そして、ちらりと館の周辺に視線をはしらせた。近くに待機できそうな酒場らしきものはない。
 ぎりっ、とラシュディアは歯を軋らせた。
 前回、まんまと雷が目的を達成するのを許した。が、今回は何としても止める。最大秘術である夜を使ってでも。
 と、劫光が巳を呼んだ。
「あんたなら、どう見る?」
「そうだな」
 巳が周辺を眺めた。劫光のいう「どう見る」とは、雷の侵入経路と脱出経路である。
 館を取り囲むのは高い土塀。侵入するとなればおそらくは裏からだろう。
「では夜まで時間をつぶしますか」
 ふらりとレイスが背を返した。


 同じ時、仁科一族の里には五人の開拓者の姿があった。大蔵南洋(ia1246)、九法慧介(ia2194)、孔雀(ia4056)、高尾(ib8693)、乾炉火(ib9579)の五人である。
 その五人中、南洋と慧介は宿として借りた納屋の持ち主の来訪を受けていた。老婆である。
「造作をかける」
 礼をのべると、南洋は厳然たる顔をゆるめた。慧介は持ち前の無邪気な様子で茶を啜っている。
「ところでお婆殿」
 茶碗をおくと、南洋が老婆に眼をむけた。
「魔の森への侵攻にともなって、あちこち騒がしくなってきているが、自分達のような者が訪れてくる事は、この里でも珍しくなくなってきているのであろうか?」
「そういうことはないのう」
 老婆がこたえた。やはり余所者は目立つようだ。
 老婆が立ち去った後、南洋はふうむと唸った。
「蛇なる技を用い、抜けさせている事は分かった。ならば、何時如何なる手段で蛇とやらを体内に仕掛けたのか」
「どのような術なんだろうな、それ」
 とん、と慧介は茶碗をおいた。里人すべてに仕掛けることのできるほどの大規模な術。慕容王ですらそのような術が使えるとは思えない。
「そうよな。が、問題はその仕掛け方だ。例えば水源に仕掛けをし、村の総ての者が口から自然と式のような物を取り込むなど、何か手段があるのではないか?」
「うーん。面倒くさい」
 慧介はごろりと横になった。
「仕事してる身で何だけど、謀略とか面倒くさい。あんまり考えるの苦手なんだよね…だから、今回の仕事は結構素敵」
「主という男は」
 南洋は苦笑した。
 慧介という男。このようにのほほんとしているが、剣をもてば随一の腕前。いざとなれば頼りになる存在であることを南洋は良く知っていた。

「ここが仁科一族頭領、仁科大膳の館か」
 大柄の男が、風に青い髪をなぶらせつついった。炉火である。
「雷の奴ら、四家とは別の第五勢力にでもなりてぇのかね…?」
「口数の多い男だねえ」
 甘い花の香りを漂わせた、妖艶な女が顔をしかめた。高尾である。
「ここはシノビの里だ。どこに耳があるか知れたもんじゃないんだよ」
「わかってるさ」
 くかか、と豪快に笑い、炉火は館に歩み寄っていった。下働きの娘でもいればたらしこもうと考えているのだ。
「たらしこみに成功したなら襲撃ねぇ方がオイシイ…って依頼的にはそうもいかねぇか」
 再びくかかと笑う。この男、どこまで本気であるのか、底が知れぬところがあった。
 その背を見送り、高尾は眼を伏せた。その美麗な面には濃い憂愁の色がある。
 今回の依頼。計算高い高尾からすれば悪いものではない。諏訪の弱みを握ることもできるし、また報酬も良い。けれど――
 金を見ても虚しいのだ。金銭を無上のものとして生きてきた彼女が。あるのは、穴があいたような喪失感と怒りだけ。
 高尾は首を振った。そして心中自分に言い聞かせた。
 そう、あたしはもともと、復讐の鬼だったはずだよ。昔と何も変わりやしない。鬼はずっと、鬼のままなのさ。
「ふふん」
 薄ら笑いし、その高尾を背後からじっと見つめている者がいた。濃い化粧を施した男。孔雀である。
 その視線に気づき、高尾が孔雀を見返した。
「さ、今回も手を組んで、たんまり報酬をもらおうじゃないか」
「そうねえ」
 孔雀がニンマリした。その視線と高尾の視線が空でからみあう。
 高尾は胸の内の憎悪と殺意を必死になって抑え込んだ。彼女の愛したアルベルトの首を切断したのは他ならぬ孔雀であったからだ。
 何としても復讐したい。が、その想いを決して孔雀に気取られてはならなかった。
 そして一方の孔雀は――
 高尾の奴…恐らくアタシの隙を突いて仕掛ける気でいるわね。
 心中、呟いた。そして嘲笑う。
 ンフフ。でも、今はアンタと遊んでる暇は無いの。
 視線をふりほどくと、孔雀は背を返した。


「来る」
 闇の中、巳の眼がぎらりと光った。
 もの凄い迅さで疾駆する音。ほとんど無音であるが、シノビの耳は誤魔化せない。
 と、疾風の如き馳せる二つの影がぴたりと足をとめた。
 一人はすらりとした若者である。端正な相貌にはどこか翳があった。
 もう一人は巨漢だ。巌のように筋肉をまとっており、片目は糸のように閉じられていた。
「諏訪シノビか」
 若者が冷然といった。すると巨漢がうんざりしたように苦く笑った。
「里の入り口近くにいた奴らは全部始末したのによ。虫けらみたいにわいてきやがって」
「誰が虫けらですか」
 レイスが闇から姿をみせた。あえて前に出る。瞬間、レイスの眼前に巨漢が現出した。
「遅えんだよ」
 巨漢が拳を叩き込んだ。岩すら砕きそうな重い一撃。
 それをレイスは身を斜めにしてかわした。かすめただけで火ぶくれのできそうな一撃がレイスの顔面をかすめて過ぎる。
「ほう、やるじゃねえか」
「はっ」
 レイスが迫った。その頬には血の筋が一筋。巨漢の拳が切り裂いたのだ。
 レイスの拳と脚が閃いた。どれも急所を狙った必殺の一撃だ。暗殺者として育てられた彼にはわかっていた。手加減できる相手ではないことが。
 ほぼ同時に三撃。その二つまではかわされた。が、拳の一撃のみ、巨漢の喉にきまっている。
「うっ」
 呻く声はレイスの口から発せられた。彼の拳は鉄塊を叩いたかのような感触を伝えている。
「忍法、肉鎧」
「くっ」
 レイスが跳び退った。が、それよりも早く巨漢が迫る。
「逃がすかあ!」
 恐るべき破壊力を秘めた拳がレイスをとらえた。

「遅えなあ」
 炉火があくびをかみ殺した。
 仁科大膳の館からやや離れた物陰。下働きの娘をたらしこむのにしくじり、隠れているのであった。
 館の中にはすでに高尾が入り込んでいる。男をたらしこむのは天才的といっていい。
「こっちははずれじゃねえか」
「かもしれぬが」
 考え込んだ南洋であるが。はっとして眼を開いた。
「もしかすると」
 南洋が慧介に眼をむけた。


 黒い破片が飛び散った。漆黒の壁が砕け散ったのだ。その間、レイスはさらに後方に跳び退っている。
「させねえぜ、でかぶつ」
 黯羽がニヤリと笑った。すると巨漢もまたニヤリとした。
「北斗。お前は館へいけ。こいつらは俺に任せろ」
「乱童、殺すなよ」
 冷たく言い捨てると、北斗と呼ばれた若者が跳んだ。軽々と土塀を躍り越える。
 それを、あえてラシュディアは見逃した。シノビとしての彼の冷徹な判断だ。
「その身体がご自慢のようだな」
 素早く黯羽が印を結んだ。すると彼女の前方の地に輝く呪法陣が現れた。
 すう、と。呪法陣の中に異様なモノが現出した。黯羽に良く似た人のようなモノ。が、それは顔に白面をつけていた。
 瘴気の尾をひき、地をすべるようにしてソレ――式が乱童に襲いかかった。咄嗟に乱童が跳び退る。
「ぬうっ」
 地に着いた時、乱童の顔色が変わった。内臓を灼くような痛み。損傷を受けたのだ。忍法、肉鎧が効かない!
「やりやがったな」
 乱童が吼えた。瞬間、その身体からとてつもない闘気が迸り出た。
 刹那、開拓者達は見た。乱童の身体に不気味な紋様が浮かび上がるのを。
「くらいやがれえ」
 乱童の両手が視認不可能な速度で動き、無数の光がばらまかれた。

「こっちだよ」
 慧介が歩を進めた。
 里を取り囲む森の中。慧介の超人的聴覚は異音をとらえていた。と――
「仁科のシノビ……いや、違うな」
 木々のむこうから声が聞こえた。すると、はじかれたように炉火が地を蹴った。木々をすり抜け、声の主のもとへと殺到する。
 木立ちの中。うっそりと立つ人影があった。
 走りながら炉火が印を結んだ。人影の足元から針が噴出する。が――
 針が消えた。それは、仮面をつけたソレの手に中にあった。
「こんなもの、俺には効かぬ」
「なら、こいつはどうだぁ!」
 炉火が宝珠銃――メレクタウスの銃口をソレにむけた。トリガーをひく。
 すう、とソレはわずかに身じろぎした。それだけで弾丸をかわす。
「ちいいい」
 横殴りに炉火が煙管でソレを払った。が、再びソレはわずかに身じろぎした。煙管をかわす。
「うん?」
 ソレの動きがとまった。その足に何かがからみついている。
 影。それは慧介の足元からのびていた。
「今だ、南洋さん!」
「おお!」
 南洋が刃をたばしらせた。それは幾つも剣影を舞わせ、やがてひとつに収束した。
 一切の手加減抜きの一撃。南洋の刃はソレの胴を両断した。
 やったか。
 南洋が振り向いた瞬間であった。ソレの上半身がはじけ、空に何かが躍り上がった。
 あっ、と思った時は遅かった。三人の開拓者の首に牙が突き立てられた。
 蛇。
 牙の主の正体を見とめた瞬間、三人の開拓者の意識は闇に沈んだ。
「殺してやってもよいが、それでは北斗の奴めがうるさいからな」
 倒れた三人の開拓者を見下ろすソレの足元。ぬらりとした漆黒の蛇がぼとりと落ちた。


 乱童が放ったもの。それは無数の針であった。開拓者達を貫き、同時に式をも消滅させる。
「今だ」
 ラシュディアが素早く印を結び、素早く組み替えた。印形は夜。
 次の瞬間、ラシュディアの身は吹き飛んだ。地を転がり、立ち木にぶつかり、ようやく止まる。
 起き上がろうとし、ラシュディアは吐血した。折れた骨が内臓を傷つけているのだった。
「ふふん。俺達に夜は効かないぜ」
 乱童が笑った。次の瞬間、乱童の姿が消えた。
「なにっ」
 黯羽がかっと眼を見開かせた。彼女の眼前、ぬうと乱童が立ちはだかっている。開拓者の眼にもとらえることのできぬ迅雷の襲撃速度であった。
 が、その襲撃を予期している者があった。巳だ。非物理攻撃をつかう黯羽を乱童が狙うと推測していたのであった。
 乱童の足元から針が噴出した。が、この時点での乱童は超人である開拓者をすら凌駕する化け物であった。造作もなく手で針をはじく。忍法、肉鎧だ。
「邪魔なんだよ、てめえは」
 乱童の拳が黯羽の顔面をとらえた。血と折れた歯をばらまき、黯羽が地に叩きつけられた。頬骨が粉砕されている。
「今度はてめえだ」
 乱童が巳に殺到した。巳が跳び退る。同時に結印。その手から雷気を凝縮させた手裏剣を放つ。
「ぐうっ」
 避けもかわしもならぬ手裏剣をうけつつ、しかし乱童はとまらない。爆発的に賦活化された彼の体力は底なしといえた。
「おのれっ」
 劫光の手から符が飛んだ。それは空を疾りつつ、術式を発動。鎖様の式が現出し、乱童の手足にからみついた。
「むだだ」
 乱童が式を振り払った。さらに速度を増し、巳に迫る。巳ですら対応不可能な速度で。
「死ねやぁ!」
 乱童の拳が疾った。それは巳の顔面を粉砕――しなかった。乱童の足がとまっている。
「紋様が消えかかっている?」
 レイスは気づいた。乱童の異変に。まさに乱童の全身を覆っていた紋様が消滅しつつある。
「ううぬ。しまった」
 苦しげに乱童が膝をついた。その隙をレイスは見逃さない。
「勝機」
 レイスが空に身を舞わせた。踵を鉈のように乱童の首筋めがけてぶち込む。
 咄嗟に乱童は横に跳んだ。が、それは乱童らしくもない鈍い動きで。
 レイスの足がはねあがった。乱童の喉に蹴りを放つ。浮き上がった乱童の後頭部にさらにレイスは肘を打ち下ろした。
「仲間に気づかれないうちに運ばないと」
 倒れた乱童を、レイスは怖気の滲む眼で見下ろした。


 翌日のことであった。
 仁科一族の里を去る三つの人影があった。南洋、慧介、炉火の三人である。
「そろそろあたしも行こうかしら」
 孔雀が足を踏み出した。と、彼を呼びとめる声がした。高尾の声だ。
「お待ちよ。髪が乱れてるじゃないか」
 高尾がそろりと孔雀に歩み寄った。その顔に、一瞬だけ恐いものが蠢いた。
 次の瞬間だ。孔雀を炎が包み込んだ。じりじりとその全身を灼く。孔雀の悲鳴を耳にしながら、高尾が哄笑をあげた。
「殺しはしない。あたしと同じく、大切なものを頂くだけ。顔も髪も焼き爛れればいい」
「相変わらず馬鹿な女ねえ」
 嘲る声が響いた。ぎくりとして高尾が振り返る。そこには薄ら笑いをうかべた孔雀の姿があった。
「幻……か。くっ」
 高尾ががくりと膝を折った。全身が痺れてしまっている。
「彼の中には二人いたわ。アンタが求めていたのは本当にアルベルトだったのかしらねぇ…フフフ」
 鮫のように笑うと、孔雀は背を返した。

 その日の夜のことである。諏訪顕実の屋敷に縛められた乱童の身が運び込まれた。