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■オープニング本文 ● 「誰かおらぬのか」 声が響き、ややあって障子戸が開いた。 現れたのは初老の男である。身ごなしが只者ではない。 と、男の眼がぎらりと光った。 闇に紛れて異臭がある。血臭だ。 「何者だ」 男が衣服をするりと撫でた。すると男の手に異変が生じた。いつの間にか指の間に手裏剣が挟まれている。左右、あわせて八本の手裏剣が。 「ここを原田勘助の屋敷と知ってのことか」 「その勘助に用がある」 応えは闇の奥からした。 土塀、そして庭の木の枝、さらには庭。人影がある。 闇の中であるが、夜目のきく勘助にはわかった。土塀の上にいるのは巨漢、枝の上は痩せた美丈夫、庭にいるのは美少年だ。 「俺を原田勘助と知っているとは……うぬら、卍衆か?」 「卍衆?」 くくく、と美少年が笑った。 「卍衆なんぞと一緒にしてくれるなよ」 「何!?」 勘助は怪訝そうに眉をひそめた。卍衆の他に命を狙う者に心当たりはない。 「まあ、よい。一人だけ生かし、うぬらの正体と目的、聞き出してくれる。慕容王様側近たるこの原田勘助を敵としたことこそうぬらの不運」 刹那、勘助が跳び退った。同時にその手から光流が放たれた。 数は八。それはすべて複雑な軌道を描き、様々な角度から美少年を襲った。美少年に逃れる術があろうとは思えない。 「見たか、忍法八方崩し。――あっ」 勘助の口から愕然たる呻きが発せられた。彼が放った八つの手裏剣すべてが地に落ちている。 「おのれ、砂防壁か」 「ふふん。この般若丸をただの砂防壁使いと思うなよ」 般若丸と名乗った美少年が手をあげた。 その時、勘助は異変に気づいた。般若丸の身体に光る紋様が浮き出ている。 瞬間、般若丸の足元で渦が巻いた。砂だ。大量の砂がまるで意志あるかの如く蠢いているのであった。 この時に至り、ようやく勘助は悟った。敵の超絶なる実力を。いかに慕容王様側近たる彼の実力をもってしても、単独では敵うべくもない。 咄嗟に勘助は跳んだ。ましらのように、ひらりと屋根の上に。着地と同時、さらに勘助は屋根瓦を蹴った。 その時だ。 「口寄せの術」 声がした。声の主は屋敷の外にいる。空から勘助が見下ろしているのだが、その声の主は地に屈みこんでいた。そして―― 声の主を中心として巨大な呪法陣が展開された。 次の瞬間である。呪法陣が輝き、異様なモノが現出した。 それは蛇であった。巨木のような胴体をもつ、数十メートルはあろうという大蛇である。 かっ、と大蛇が口を開いた。地から鎌首を持ち上げざま、勘助をくわえる。 「ばーか」 声の主が立ち上がった。それは十七歳ほどの娘である。少女はふんと鼻を鳴らすと、 「もう少しで逃がすところだったじゃないのよ」 「誰が逃がすだと」 美丈夫が口をゆがめた。すると大蛇に咥えられ、身動きならぬ勘助の足がぴくりと動いた。その足に何かが巻きついている。 糸だ。髪の毛よりも細い鋼の糸が何時の間にか勘助の足にからみついているのであった。 「相変わらずお前は手が早いな」 苦笑すると巨漢が地を蹴った。重力を無視したかのように身軽に空を舞い、大蛇の頭に降り立つ。 その巨漢の顔を見とめるや、勘助が驚愕の声を発した。 「うぬは――乱童!」 「知っていたか、俺のことを」 乱童と呼ばれた巨漢がニヤリとした。乱童とは名張の抜け忍で、執拗な追跡を振りきり、のみならず追っ手全てを皆殺しにしたという恐るべきシノビであった。 「な、何故、うぬがここに……」 「訊いているのは俺達の方だ。大人しく答えれば苦しまぬように殺してやる。答えねば地獄を見ることになるが」 乱童の隻眼の奥に陰惨な炎が燃え上がった。 ● 「勘助が」 妖艶ともいうべき美貌の女が絶句した。それきり二の句が継げない。慕容王である。 はい、と肯いたのは生真面目そうな顔立ちの娘であった。年齢は二十代半ばほど。慕容王の懐刀と呼ばれている鬼灯である。 「昨夜。屋敷において殺害された模様。家人全て殺害されておりました」 「しかし」 慕容王は怪訝そうに眉をひそめた。原田勘助は手練れであり、家人も相当の使い手が揃っているはずある。それが皆殺しにされようとは―― 「下手人は?」 「わかりません」 鬼灯がこたえた。敵の正体並びに目的は闇の中である。 「これでは手のうちようがないな」 「はい。卍衆も動かせませんしね」 鬼灯が溜息を零した。卍衆は慕容王直属シノビ集団である。が、ある事情があって今は調査のために彼らを任務につけるわけにはいかなかった。 と、はっと鬼灯は眼を見開いた。 「開拓者を使うのはいかがでしょうか。事が事ゆえ、上忍四家の手を煩わせるわけにもいきませんし」 「よかろう」 少し迷ってから慕容王は肯いた。 |
■参加者一覧
緋桜丸(ia0026)
25歳・男・砂
音有・兵真(ia0221)
21歳・男・泰
孔雀(ia4056)
31歳・男・陰
亘 夕凪(ia8154)
28歳・女・シ
グリムバルド(ib0608)
18歳・男・騎
レイス(ib1763)
18歳・男・泰
蒔司(ib3233)
33歳・男・シ
緋那岐(ib5664)
17歳・男・陰
キャメル(ib9028)
15歳・女・陰
山茶花 久兵衛(ib9946)
82歳・男・陰 |
■リプレイ本文 ● 陰殻。 シノビの国。 そこは慕容王の居城であった。面会を求め、入城を許されたのは四人の開拓者である。 一人は二十代後半の女。軽やかで艶のある身ごなしでありながら、どっしりとした重厚さをあわせもっている。 もう一人も女。こちらは十代半ばの少女だ。桃色の髪の良く似合う美少女で、触れれば折れそうな風情である。 そして残る二人。こちらは男である。 一人は三十歳ほど。浅黒い肌に無数の傷を刻んでいる。 そして、もう一人。こちらは老人であった。岩のようにごつい顔つきだが、不思議と愛嬌がある。 それぞれに名を亘夕凪(ia8154)、蒔司(ib3233)、キャメル(ib9028)、山茶花久兵衛(ib9946)という。 「‥相変わらずか、陰殻って国は」 夕凪が吐き捨てるように呟いた。すると蒔司が苦く笑って、 「それはそうと千鶴はどうしちょる?」 「元気さ」 夕凪はこたえた。 千鶴というのは鴉一族生き残りの娘で、今は妹として夕凪と共に暮らしている。 蒔司は安堵の吐息をもらした。 「そうか。それならよかったぜよ」 「シノビというもの、どうも長生きはできそうもないなぁ」 蒔司の傷痕を眺め、呆れたように久兵衛が笑った。 その時である。部屋の扉が開いた。 現れたのは二十代後半ほどの娘であった。怜悧な美貌の持ち主であり、切れ長の眼に艶がある。 「私は鬼灯。慕容王様に成り代わり、差配をしています」 「あの」 キャメルが口を開いた。 「お尋ねしたいことが。敵は不明、そして生存者もいないというような惨劇だったのよね。そのような状況で、どうして鬼灯しゃんは次に狙われるであろう者を特定したの?」 「理由は簡単です」 鬼灯が告げた内容はこうだ。 慕容王の氏族は上忍四家と違い、血縁に由ってはいない。当代の慕容と慕容に繋がりを持った者たちによる、一代限りの断続的な氏族を形成していたのだ。そして原田勘助、塚原才蔵、保科十内、光村帯刀の四人はその中でも最高の有力者であった。 「敵は何者で、何故に原田勘助を狙ったのかはわりません。しかし、これがもし慕容王様に危害を加えんとする企みであるならば、次に狙われるのは当然四天王の残りの三人」 「これは弱ったのお」 久兵衛が苦笑した。 「で、だ。ひとつ提案がある。対象三名が分かれておってはどうも守るにつらい。三人を一箇所に集めることはできないだろうか」 「一日ほどなら何とかなりますが、数日ともなれば無理ですね」 鬼灯は冷然と告げた。 ● 「これは……惨いの」 キャメルが顔をそむけた。 原田屋敷。彼女の前には惨殺された原田勘助その人と、そして家人たちの骸が横たえられている。 同じように見下ろしている夕凪、蒔司も声はなかった。が、ただ一人、薄笑いをうかべ、瞳を輝かせて骸を見つめている者があった。 男――孔雀(ia4056)は真っ赤な紅を塗った唇を濡れた舌でなめまわした。欲情しているのである。 「アタシもこんなふうにメチャクチャにされたい。いえ、するのもいいかも」 孔雀はいった。彼が見つめている原田勘助の骸は拷問でもされたのか損傷がひどかった。 その孔雀の独語を耳にし、久兵衛が顔をしかめた。 「気味の悪い男だな…もっとしゃきっとせんか」 「人はそれぞれさ。気にしなさんな」 洒脱に笑って夕凪が身を屈めた。 「どうやら何かを聞き出そうとしたようだねえ」 「うん?」 他の骸を検分していた蒔司が声をもらした。 「傷痕が違う」 家人らしき者の傷。鋭利なもので切断されたもの。窒息。首をへし折れた等―― 「傷口から察するに、敵は三人か」 「いいえ、なの」 恐々勘助の骸を覗き込んでいたキャメルが首を振った。 「大きな牙の痕があるの」 ● 塚原才蔵屋敷。 その周囲をぶらりと歩いている者がいた。真っ赤な髪を風にゆらし、薄く笑みをはいた相貌はつかみ所がない。 緋桜丸(ia0026)である。 「シノビ屋敷か。確かに守りにはかたそうだが……華がねぇな」 軽く呟いてから緋桜丸は裏から屋敷内にもどった。すると庭先にゆったりと座している男の姿が見えた。 一見のんびりしているようだが、隙のない身ごなしはただものではない。――グリムバルド(ib0608)であった。 と、一人の娘が茶を運んできた。グリムバルドと緋桜丸にすすめる。 「すまねえな」 縁に座し、緋桜丸が茶を含んだ。そして娘にむかって、 「原田勘助が殺されたことは知っているな。それで俺達開拓者がこちらに来たのだが。――原田、そしてお前の主である塚原才蔵の命を狙う者に心当たりはないか」 「卍衆ではないでしょうか」 「やはり卍衆……か」 グリムバルドは苦く笑った。 「変なしきたりがあるのな、この国」 「それが、この国ですから」 「力だけがすべて、か。何ともはや、ひどい国だな」 「変えたいとは思わないのか」 緋桜丸が問うた。すると娘は寂しそうに笑うと、 「無理です。この国を変えることなんて」 「無理かどうかはやってみないとわからない。諦めない限り、そこには可能性が残されているんだからな」 緋桜丸が笑った。すると、何かを思い出したのか、娘が眼を見開いた。 「……そういえば、昔、この陰殻を変えたいといった人がいたっけ」 「ほう」 グリムバルドが眼を輝かせた。 「こんな国にも面白そうな奴がいたんだな」 「でも」 娘は顔を曇らせた。 「その人、北斗というのだけれど、殺されてしまったわ」 同じ時、孔雀は奥座敷にいた。痩せた壮年の男と相対している。男は塚原才蔵であった。 「で、教えてもらえないかしら。王位簒奪の歴史、そしてもしあるなら明らかにされていなかった陰殻の合戦のこと」 「わしも多くは知らぬのだが」 伝承である、と前置きし、才蔵が話し出した内容とは―― 慕容の名が登場するのは、およそ九百年前のことである。当時、陰殻国には慕容という名の祭神がいた。生贄を求める荒ぶる神であったという。 ある時、そうした陰殻の地に燕という名の女性が流れてきた。彼女はたいへんな神通力を持っており、その話を聞くと慕容の下へと赴いた。そして燕は条件をたてて慕容に勝負を挑んだのである。その条件とは即ち、慕容が勝てば燕を喰らい、燕が勝てば慕容の力を彼女に譲るというものであった。 結果、燕は慕容を討ち果たした。その後、燕は慕容の力を手にし、慕容燕と名乗り、そして宣言したのである。我を殺せた者に慕容の名を譲る、と。 「なるほどねえ。それが王位簒奪の歴史……でも、それだけじゃわからないわえ。何故、原田勘助が狙われたのか」 孔雀がぽつりと呟いた。 ● さらに同じ時。 光村帯刀の屋敷に三人の開拓者がいた。夕凪、蒔司、キャメルの三人である。 「理由、のう」 温厚そうな相貌の男がふうむと唸った。帯刀である。 そう、と肯いたのはキャメルであった。 「キャメル、気になってる事があって。今は叛だけど、玉座を狙ってるのなら側近一人を殺害すればで済むよね。でも家人は皆殺し。それは何故なのかなって……。もしアヤカシ絡みなら護大や龍脈、人なら秘伝書とか……若手より年配襲撃が先だった理由があると思うの」 「確かに謎は多い。護大はいつらめさまを祭る神社に封じられているといわれているが、これも伝承にすぎぬしな」 「えっ」 驚いたようにキャメルが声をあげた。 「護大が封じられているの!? 神社に?」 「ああ。が、これもまた伝承にすぎん。実際のところ、本当に護大があるか、またどこに封じられているのか誰も知らぬのだ」 「ところで光村殿」 夕凪が帯刀の顔を真正面から見据えた。 「主への忠誠を持たず、ただ金で雇われ殺しを請け負う一派は在りましょうか?」 「いや」 帯刀は否定した。 「いかにシノビであっても、それなりの忠誠を持っている。ぬしのいうようなシノビがいるとするなら、それは抜け忍であろうな」 「抜け忍……」 夕凪がちらりと視線をはしらせた。蒔司が肯く。彼らは同じ想像をしていたのだ。 かつて斃した夜叉夜叉一族。が、たった一人、頭数が合わぬ者がいた。それは―― 「乱童という男、ご存知でありましょうか」 「知っている」 帯刀が大きく首を縦に振った。 「名張の抜け忍じゃ。追っ手を振りきるどころか、皆殺しにしたという恐るべき手練れ。その乱童がどうかしたのか」 「おそらくは此度の下手人の一人」 「何と!?」 愕然として帯刀は息をひいた。 「確かに乱童ほどの手練れならば。……今、ぬしは下手人の一人といったか?」 「はい。下手人は少なくともあと二人」 「二人、とな。乱童ほどの抜け忍でわしが知るのは笑師右京だが」 「笑師右京」 不気味な旋律を伴って、その名は夕凪の胸に響いた。 ● 「家人を屋敷から遠ざけたそうだな」 怪訝そうに、その十代半ばほどの少年はいった。荒い口調であるが、その相貌は驚くほど繊細で。緋那岐(ib5664)である。 「さして驚くにはあたらぬよ」 厳しい顔つきの初老の男もまた微笑した。保科十内である。 「敵は恐るべき手練れと聞く。無駄に死なせることもあるまい。それに、わしの命はお前達が守ってくれるのであろうが」 「ふふん。食えねえ爺だ」 可笑しそうに笑い、緋那岐は立ち上がった。 「安心しな。俺達が絶対あんたを守ってやる」 月が雲間に隠れるのと同時に彼らはやってきた。 すう、と障子戸が開く。庭に二人の男が立っていた。 「ふふふ。一人で待つとは……殊勝な心掛けだな、保科十内」 隻眼の巨漢が笑った。 「うぬらが原田勘助を手にかけた曲者だな」 「そうだ。俺の名は乱童」 「般若丸だ」 美少年が名乗った。そして嘲弄するように口の端をつうと吊り上げ、 「お前に訊きたいことがある。慕容燕はどこにいる? 現慕容王四天王たるうぬであれば知っていよう」 「馬鹿な」 十内は嘲笑した。 「慕容燕は九百年も前に死んだ。それが生きていようはずがない」 「やはり身体に訊くしかないようだな」 乱童が足を踏み出した。すると―― 「待て」 声が発せられた。久兵衛である。緋那岐の放った人魂により、すでに彼らは敵の接近を感知していたのであった。 「何だ、爺。先ほどからこそこそと隠れていることはわかっていたが」 「さすがは……。と、待て。こっちに来てはならぬ。怪我をすることになるぞ」 「ぬかせ。貴様如き爺が何を」 はじかれたように乱童が跳び退った。その顔が苦痛にゆがんでいる。久兵衛の仕掛けた呪法罠が作動したのであった。 「だから待てととめたのじゃ」 久兵衛が不敵に笑った。すると乱童の眼が憎悪に蒼く光った。 「爺。まずは貴様を血祭りにあげてやる」 ● 「やれますか」 庭にひらりと舞い降りた若者がいった。整った顔立ちといい、冷たい瞳といい、人形をおもわせる。レイス(ib1763)であった。 「貴方が乱童、ですか? 噂は聞いていますよ」 「久しぶりだな」 もう一人、飄然と庭に現れたのは鍛え抜かれた身体をもつ若者であった。名は音有兵真(ia0221)。 ぎらり、と乱童の隻眼にやどる蒼光がさらに強まった。 「貴様か。この眼の恨み、忘れたことはない。――般若丸、手を出すなよ。この若造は俺が殺る」 「殺れるか」 兵真の姿が消失した。一瞬後、その姿は乱童の眼前に現出している。兵真の掌が乱童の腹部にぴたと密着した。 「ぬんっ」 「馬鹿め。忍法肉鎧に掌打が効くかぁ。――ぐっ」 呻いて、乱童が跳び退った。その口からたらりと鮮血が滴り落ちている。衝撃が鋼と化した彼の皮膚を透過し、内臓に損傷を与えたのだ。 「暗勁掌。貴様のために用意しておいた業だ」 兵真がニッと笑った。 「若造ォ!」 乱童の全身をぬらりと紋様が覆った。まるで脈動しているかのように紋様が光る。刹那―― 乱童の姿が消えた。同時に兵真の姿も。 次の瞬間だ。兵真の身が床に叩き伏せられた。あまりの衝撃のために兵真は息もつげない。 「くっ。なんて迅さだ」 「図に乗るなよ、若造」 乱童がとどめを刺すべく拳を振り上げた。その時、肉薄する影があった。レイスだ。 「させませんよ」 レイスの腕が視認できぬほどの速さで動いた。驚くべきことに一瞬間に彼は拳を三度乱童の身にぶち込んでいる。が―― 呻く声はレイスの口からもれた。彼の拳は岩を叩いたかのように痺れてしまっている。 「まずい」 緋那岐の手から符が飛んだ。それは意志あるように空をすべり、兵真の身にひたと張り付いた。 「そのくらいにしておけ、乱童」 般若丸が叫んだ。その身が発光している。何時の間にか般若丸の身にも不気味な紋様が浮き出ていた。 「遊ぶなといわれていたはずだ。あとは俺がやる。――忍法、砂地獄」 般若丸が印を結んだ。 次の瞬間である。緋那岐の符によって回復した兵真を含めた四人の開拓者と十内の足に激痛がはしった。 彼らの足に異様なものがからみついている。砂だ。気づけば床一面に砂が堆積していた。 「動けまいが」 般若丸が冷笑した。 刹那である。久兵衛の手から符が飛んだ。 「そうれ。美味しそうな餌があるぞい」 術式発動。織り込まれた呪法が再構築され、それは式――鴉へと変じ、般若丸を襲った。咄嗟に般若丸が手で眼を庇う。 「はっ」 鋭い呼気は空に響いた。無理矢理砂から足を引き抜いたレイスが跳躍したのである。砂を手で叩いて。 無論、足首はへし折れている。が、蹴りは脚一本あれが事足りる。鉈の重さと鋭さをこめて、レイスの踵が般若丸の頭蓋めがけて振り下ろされた。 が―― 踵はとまった。般若丸の頭上に展開された砂の防護膜によって。 「今だ。逃げろ、保科さん!」 叫ぶ緋那岐の指の間に符が現れた。座標軸固定。乱童の眼前に漆黒の壁が現れた。 おお、と十内が飛んだ。足首が砕けてしまっているが、緋那岐の放った符によりすぐさま傷は完治している。 「逃がすか」 乱童が吼えた。が、その前にまたもや漆黒の壁が現れた。同時、数体の鴉が般若丸を襲う。 「ううぬ。邪魔だ!」 今度は般若丸が吼えた。その瞬間、砂がはじけた。無数の飛礫と変じたそれは鴉を粉砕し、そして開拓者を打ちのめした。 「十内は?」 「気配はない」 乱童が舌打ちした。そして身を起こしつつある開拓者をじろりと睨んだ。 「殺すか?」 「いや。十内を逃した以上、俺達のことは知れる。今更こやつらを始末したとて……。それに無駄な殺しを奴は許すまい」 ぎりりと般若丸が歯を軋らせた。その身がすうと消えていく。同じく乱童の身も。 完全に消失する寸前、乱童が告げた。 「若造。いずれ決着はつけてやる。それまで死ぬなよ」 「それはこっちの台詞だ」 兵真が不敵に笑みをむけた。 ● 「敵中に乱童、そして般若丸がいると?」 報せをうけた端麗な美女が呻いた。慕容王である。 二人の抜け忍については慕容王も知っていた。かなりの使い手。それほどの抜け忍が何故―― が、その疑問より、鬼灯の次に告げた言葉が、慕容王の眉をひそめさせた。 「彼らの狙いは慕容燕」 |