【希儀】門の前の三人
マスター名:御言雪乃
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 難しい
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/10/11 08:31



■オープニング本文


 武天の砂浜に漂着した一隻の飛空船――それは、どこの国のものともつかぬ調度品を積んだ古い大型船であった。
「結局どこからの船なんだろう」
 船着場、飛空船を率いて周辺空域を護衛するコクリ・コクル(iz0150)はひょいと首をもたげた。波が打ちつけるたび波止場には滴が飛び、かもめがみゃあみゃあと遊んでいる。
「一応秘密なんだよね……うーん?」
 コクリの手元には、やれ宝船だの呪いの幽霊船だのと書きたてられた怪しげな瓦版があった。やはり、これだけの大事件だ。隠しきれるものではないらしい。
「おい、誰かいるか!」
 タラップを駆け上がり、ゼロが、姿を現した。
「こいつはどうもでかいヤマだ」
「どうしたんですか?」
「西に未知の儀がある! 新大陸だよ!」
 思わず立ち上がり、コクリは息を飲んだ。開拓者ギルドにおいては、朝廷文武百官と各国王の連名のもとに新大陸探索の命が下されていた。天儀暦1012年、夏も暮れのことであった。

●東房国
 資料から魔神のいる遺跡が東房国にあるとわかり、開拓者ギルドは至急人員を派遣した。
 その中の1人、雲輪円真は血気盛んな東房国の僧兵を纏めるという名目でこの場にいる。
「円真様。先に向かった者達が戻って参りました」
 出来るだけ準備は行う。
 そう円真が発言した事を受け、数名の者達が遺跡に向かっていた。
 そして今、その彼等が戻って来たと言う。
 彼等は円真の前に立つと、急ぎ報告を始めた。
「遺跡の入口を3つ発見しました。簡単ではありますが、それぞれを調べた所、内部はかなり複雑に分かれているとの結果が出ています」
「そうか……」
 円真はそう零すと思案気に後方を振り返った。
 開拓者ギルドからの人員を含め、此処には多くの者達が控えている。
 これならば行けるだろう。
「人手を3つに分け、対応する……」
「承知」
 円真の声に多くの者達が頷きを返す。
 こうして東房国内で発見された遺跡に、開拓者等を含む多くの者達が足を踏み入れる事となった。


 三つの入り口。
 その左を進んだ先に大きな門があった。前には三つの影。薄物をまとった女だ。
 一人は貴族めいた高貴な顔立ちの美女であった。もう一人は銀髪の秀麗な娘。三人目は黒髪の楚々とした美少女だ。
 と――
 三人の前に数人の男達が姿をみせた。遺跡荒らしのようだ。
「お前たちが我らを解き放ってくれるのか」
 高貴な顔立ちの美女が問うた。これは名をててぃすという。
 男達が戸惑って顔を見合わせた。このような洞窟の奥に、これほどの美女がいるのはおかしいと思ったのである。が、すぐに彼らの獣欲がその疑問を打ち消した。いきがけの駄賃に女もいただこうと思ったのである。
「さあ、我らを解き放ってくれ」
 銀髪の美女が歌を歌い始めた。これは名をれだという。
 すると、すぐに男達の顔が恍惚としはじめた。よろよろと黒髪の美少女に歩み寄り、まるで恵みを請うように手をさしのばす。
 優しく微笑むと、美少女は男の一人の唇に自身のそれを重ねた。そして、そのまま身を横たえていった。他の男達も美少女の肌に口づけする。
 そして一息、二息。
 美少女が立ち上がった。後には木乃伊のように干からびた男達の骸が転がっている。
「どうじゃ、ゆりてぃあ。男達の味は?」
「あまの美味しくはございませんでした」
 ゆりてぃあと呼ばれた美少女が冷淡にこたえた。
「我らが解放されるのは、まだ先のことになるようじゃの」
 ててぃすは溜息を零した。


 鞍馬堂の中に一人の男が立った。
 天輪王。東房を治める王である。
「蔵馬」
 天輪王が呼んだ。すると、その背後にすうと人影が現れた。ここ不動寺においても一部の者しか立ち入ることのできぬ鞍馬堂の主、蔵馬である。彼は天輪王の懐刀ともいえる人物であった。
 天輪王は苦く笑った。彼ですら蔵馬の気配をとらえることができなかったからだ。
「遺跡に三つの入り口がある。そのうちの一つ、左の道であるが。どうも嫌な予感がする。蔵馬、ぬしが同行し、顛末を見届けてはくれぬか」
「承知しました」
 あるかなしかの微笑を、その端麗な美貌にうかべ、蔵馬はうなずいた。


■参加者一覧
天津疾也(ia0019
20歳・男・志
梢・飛鈴(ia0034
21歳・女・泰
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
柚乃(ia0638
17歳・女・巫
リューリャ・ドラッケン(ia8037
22歳・男・騎
フィン・ファルスト(ib0979
19歳・女・騎
カルロス・ヴァザーリ(ib3473
42歳・男・サ
長谷部 円秀 (ib4529
24歳・男・泰
叢雲 怜(ib5488
10歳・男・砲
雪刃(ib5814
20歳・女・サ


■リプレイ本文


 依頼者の名は蔵馬といった。不動寺の僧で、微かな微笑を口元にはいた美麗な若者である。
 その蔵馬をちらりと見やり、苦々しげに舌打ちしたのは竜の神威人であった。引き締まった肢体の持ち主である。が、どこか荒涼とした翳があった。
 名をカルロス・ヴァザーリ(ib3473)というその男は忌々しそうに呟いた。
「ふん、見張りか……信用が無いな」
「蔵馬さん、不動寺からでるんだ」
 首を傾げたのは銀髪蒼瞳の、可愛らしい顔立ちの少女であった。これは名をフィン・ファルスト(ib0979)という。
「小娘、あの若造を知っているのか」
「うん、って、あたし、小娘じゃないよ。フィンって名前があるんだから!」
 ちっ、と胸の中で舌打ちし、カルロスは再び問うた。
「こむす……いや、フィン。おまえ、あの蔵馬を知っているのか」
「はい。一部の偉いお坊様しか入れない鞍馬堂の主だって聞きましたよ。噂では天輪王様の懐刀だとか」
「ほう」
 カルロスがニタリと笑った。天輪王ほどの者がわざわざ懐刀なる男を寄越したのだ。よほどのものが遺跡の奥に存在するに違いなかった。
「フィン姉ちゃん」
 ふい、とフィンの顔を覗き込んだ者があった。女の子のような綺麗な顔立ちの少年。叢雲怜(ib5488)であった。
「どうしたのだ? なんか、いつもと違って顔が暗いのだ」
 気遣わしげに怜はいった。若年ながら、この少年はなかなか鋭いところがある。
「わ、わかっちゃった? ……実はちょっと落ち込んでて」
 珍しくフィンは溜息を零した。
 先日のことだ。フィンはアルベルトという若者を捕らえる依頼を受けた。結果は失敗である。
「遺跡探検による気晴らしっていうか、未知の遺跡探検とかワクワクするかなって思ったんだけど」
「そうなのだ」
 怜は蒼と紅の瞳を輝かせた。
「フィン姉ちゃん、落ち込んじゃだめなのだぜ。遺跡にはきっと何かがあるのだぜ。俺はね〜…きっと、見たことがない事や物があると思うから、ドキドキなのだ♪」
「そうだね」
 フィンはようやくにこりと微笑んだ。
「うん、今はこの件に集中する。いざ行かん、未知なる儀へ! ってね」
「そうですよ」
 フィンの肩に優しく手をおいたのは飄然とした若者であった。ただ、その眼は猛禽のそれのように鋭い。長谷部円秀(ib4529)である。
「遺跡。それが次へと繋がるなら切り開きに行きましょう。それでこそ、開拓者、でしょう?」
「はい」
 フィンは大きく肯いた。ようやくフィンは本来の明るさを取り戻したようである。
 と、フィンはやや離れたところに孤影凛然と立つ娘に気がついた。
 銀狼の神威人。雪刃(ib5814)だ。
「雪刃さんも参加してたんですか」
「うん」
 冷然と雪刃は肯いた。
「新しい儀、興味があって。やっぱりこういうのは先頭に近いところにいたいから」
「ですよね」
 雪刃の傍らに立つ、まるで人形のように可憐な美少女がこたえた。柚乃(ia0638)という名の吟遊詩人であるのだが、その美少女はすぐに眉をひそめた。以前から彼女は儀そのものに対して疑問に思っていたことがあったのだ。
「何故、新しい儀に関連する遺跡が東房…天儀にあるのでしょう。星の宝珠の時もそう。やはり…遥か昔は、嵐の壁はなかった…?」
 柚乃は疑問を口にした。が、その問いに答えられる者は誰もいなかった。



 人工物らしき石の壁と道が延々と続く。
 遺跡内部。唯一の灯りは精悍、かつ生真面目そうな風貌の若者がもつ松明の光のみだ。
 羅喉丸(ia0347)。それが若者の名であった。
「明るい陽光の下で見るのもいいが、松明の光に照らされた姿もなかなか」
 ニンマリし、銀髪の、どこかふてぶてしい印象のある若者が眼をむけた。その視線の先、泰国のものらしき衣服をまとった娘の姿があった。巻いた布では覆いきれぬ乳房が覗いているところからみて、かなり豊満な肢体の持ち主であるらしい。
 若者――天津疾也(ia0019)が何気なく手をのばし、娘――梢飛鈴(ia0034)の肩を抱こうとした。が、眼にもとまらぬ速さで動いた飛鈴の手が、それをひねりあげた。いたた、と顔をしかめる疾也を尻目に、飛鈴はどこかうかぬ顔だ。
「魔神ねぇ…ああいうのを見ると笑い飛ばす気が無くなるナァ」
 呟く。その間も油断なく飛鈴は周囲の気配を探り続けていた。
 戦闘勘というのだろうか。胸が目立つ衣服であるのも敵の集中を阻害することが目的なのである。
「なんかイヤな予感ガ、するのだゼ」
「ああ」
 肯いたのは冷然と歩をすすめる少年だ。年齢は十七歳ほどだろうか。静かな裡に膨大な熱量をはらむ、休火山を想起させる少年である。名は竜哉(ia8037)。
「何かある」
 竜哉は訝しげに眉根を寄せた。
「何か……だと?」
 カルロスが当惑した眼をむけた。この時、彼は異変を未だ捉えてはいなかった。
 ああ、とこたえたのは羅喉丸である。この若者もまた闇にとけた蜘蛛の糸のような微細な何かを知覚しているのであった。
「気をつけた方がいいぞ」
 松明を高く掲げ、羅喉丸が慎重に足を進めた。
 待ってください、と柚乃が仲間を制止したのはどれほど時が経った頃だろうか。この少女のみ、闇のむこうにある気配を捉えていた。
「何か……、いえ、誰かいます」
「何?」
 羅喉丸は松明を突き出した。仄かな光に三つの人影が浮かび上がる。
 それは三人の美女であった。黄金、銀髪、黒髪とそれぞれに違う髪のも主であるが、共に薄物をまとっている。眼を凝らせば乳房や股の翳りが透けて見えた。
「……おいおい」
 ごくりと疾也が唾を飲み込んだ。飛鈴が睨みつけたが仕方ない。男なら誰しもそうせざるをえないような美女揃いなのである。
 が、怜のみは別のようである。眼をぱちくりさせると、
「うよ…門の前に綺麗な姉ちゃん達が居るけど、何してるのだろうな?」
「あたしたちより先に来た人達かなあ」
 フィンが首を傾げた。そのような情報は聞いていないが、可能性が皆無というわけではない。
 声をかけようと足を踏み出したフィンを、素早く竜哉が制した。
「気をつけて。味方であるとは限らない」
「ちゅーか、こんなトコに開拓者でもない、ンな格好した女が普通いるわけがあるまいガ」
 飛鈴が美女の周辺に視線をはしらせた。幾つもの骸が転がっている。木乃伊のように干からびた骸が。
「いや」
 首を振ったのは円秀だ。不可解ではあるが、まだ敵と決まったわけではない。
 その時である。黄金の髪の美女が問うた。無論開拓者は知らぬことであったが、これは名をててぃすという。
「お前たちが我らを解き放ってくれるのか」
「解き放つ?」
 雪刃が切れ長の眼を怪訝そうに眇めた。その言葉を額面通りに受け止めれば、彼女達は捕らえられてきた者達であると考えられる。が、何かおかしい。
 雪刃の手がすうと大太刀――殲滅夜叉の柄にのびた。見たところ三人の美女は鎖などで繋がれてはいない。それで解き放つとはどういうことなのか。
 するとててぃすが再び口を開いた。
「さあ、我らを解き放ってくれ」
「解き放てか……乞われずとも、そうするさ」
 カルロスがニヤリとした。
 ててぃすのいう解き放つの意味はわからない。が、カルロスにとって解放と即ち死を意味する。毀すことはカルロスにとって望むところであり、それが美女であるなら尚更興がのる。
 その時、銀髪の美女が歌を歌い始めた。これも開拓者は知らぬことであったが、名をれだという。
「これは!?」
 羅喉丸は愕然として眼を見開いた。脳、というより精神そのものに異変を感じたからだ。何かが――そう、見えぬ手のようなものが侵食してくる感覚。
 咄嗟に羅喉丸は気力を振り絞った。侵食してこようとする触手をはねのける。
 気づけば他の開拓者がよろよろと黒髪の美女――ゆりてぃあに歩み寄ろうとしている。


「柚乃殿!」
「羅喉丸様、あなたも正気のままなのですね」
 柚乃がこたえた。
 その時である。疾也がゆりてぃあの唇に吸い付いた。飛鈴はその磁器のように白い頬に舌を這わせている。竜哉は薄物を引き裂いて桃色の乳首を口に含んだ。フィンと怜は秘所に舌をのばし、カルロスは尻を揉みしだく。円秀はもう一方の乳房に顔をうずめ、雪刃は細い首筋をちろちろと舌で舐め始めた。
 ゆりてぃあが喘いだ。群がる開拓者達の身体を撫で回す。
「なるほど……歌か」
 蔵馬の唇に薄く微笑がはかれた。他に特段することはない。じっと開拓者達の様子を観察している。
 すると柚乃が悲鳴に似た声を発した。
「見てください、羅喉丸様。皆の様子がおかしい」
 柚乃が開拓者達を指し示した。その言葉通り、開拓者に異変が生じ始めていた。全員顔色が蝋のように白くなっている。まるで生気そのものが吸い取られているみたいに。
 咄嗟に柚乃は横笛を取り出した。練力を込め、吹き鳴らす。
 ゆりてぃあを弄ぶ開拓者達の動きがとまった。膜のかかっていたような彼らの眼に光が蘇る。
「きゃっ」
 悲鳴をあげてフィンがゆりてぃあの股間から顔を離した。自身が何をしていたのか気がついたのである。
「みんな、離れろ。そいつの近くは危ない」
 羅喉丸が叫んだ。はじかれたように開拓者達が跳び退る。
「おのれ!」
 円秀が悔しげに唇を噛み締めた。ゆりてぃあの乳房を噛んだ心地がまだ口の中に残っている。
 ほう、と感嘆の声をあげたのはててぃすであった。
「れだの歌声を防ぎおったか。たいしたものだ。娘、お前だな」
 ててぃすの頭上で黄金色の光が散った。髪を長大な針へと変え、放ったのである。
 あっ、という愕然たる呻きは誰の発したものであったか。その場の誰も距離がありすぎ、柚乃を庇うことはできない。
 チン、という無数の澄んだ音が響いたのは次の瞬間であった。石の地面に金色の針が落ちている。ててぃすの放ったものだ。
 そして柚乃の前には一人の少女の姿があった。盾を掲げたフィンである。
 驚くべし。フィンは一瞬にして距離を詰め、オーラにより全ての針を弾き飛ばしたのであった。
「た、たはは、守ろうとしちゃうのはもう習性かなー」
 フィンは苦笑した。対するててぃすはニンマリした。
「お前達なら我らを解き放ってくれるかもしれん。れだ!」
 ててぃすが叱咤した。するとれだの歌声がさらに高まった。
「ぬん!」
 疾也が丹田に気を込めた。精神に食い込もうとする不可視の触手をはねとばす。
「わるいんが俺を誘惑したいんなら飛鈴よりいい女になってからにしてくれや」
 なあ、と飛鈴に疾也に笑みをむけた。
 刹那、拳が疾った。飛鈴の拳が。
「何っ」
 疾也の喉元を凄まじい衝撃が貫いた。疾也の身体が軽々と吹き飛ぶ。石の地を削るようにして疾也は踏みこたえた。
「な、何でや」
 掠れた声で疾也は呻いた。咄嗟に跳び退らなかったら喉をへし折られていたところだった。
「まだ操られているんだ」
 雪刃が抜刀した。それより抜刀しているのはカルロスだ。悪鬼の如く笑うと、カルロスは刃を閃かせた。
「死ねえ、小娘!」
「私の名は雪刃だ!」
 雪刃もまた刃を閃かせた。
 空を裂く二筋の風刃。次の瞬間、喰いあったふたつの熱量が炸裂し、空間を震わせた。
「れ、怜君!?」
 フィンがひび割れた声を発した。その眼前、怜の姿があった。その手のマスケット――魔弾の銃口は柚乃の胸をポイントしている。
 フィンは身構えた。が、攻撃することはできない。怜は操られているだけなのだから。
 可憐に微笑むと怜はトリガーをひいた。
 雷鳴にも似た射撃音。ぱらぱらと砕けた石片が降りかかる。
 怜の銃口は天井をむいていた。はねあげたのは蔵馬であった。
「えい!」
 柚乃が怜の口に梅干を突っ込んだ。むにっと怜が顔をしかめる。
「これ以上、好き勝手はさせないよ!」
 円秀が地を蹴った。優美な獣のようにれだに襲いかかる。
「させぬ!」
 ててぃすの髪が鞭のようにうねりのびた。が、それは横からのびた手によって掴みとめられている。羅喉丸だ。
 そして竜哉はゆりてぃあに。
 竜哉の槍――魔槍ゲイ・ボーが月輪のように弧を描いた。ゆりてぃあの足を払う。
 が、ゆりてぃあは猫のように槍を軽々と飛び越えると竜哉に迫った。竜哉に両手両足をからませ、抱きつく。そして竜哉の口に自身のそれを重ねた。
 人外のゆりてぃあの力に、さしもの竜哉も振り払うことができない。急速に竜哉の意識が遠のいていった。


 瞬く間に円秀はれだとの間合いを詰めた。そして足をはねあげた。れだの喉めがけて。
 誰が想像しえただろうか。円秀の脚が空をうとうとは。
「動きが迅い。しかし」
 再び円秀の蹴りがれだを襲った。今度は頭部めがけて。
 重い炸裂音を発して円秀の足がれだの喉にめりこんだ。頭部を狙ったと見せかけた円秀の策略であったのだ。
 れだの歌声がやんだ。素早い足運びで後方に跳び退っていく。
「逃がさへんで。お前だけは」
 滑るように地を疾り、疾也がれだの懐に飛び込んだ。たばしらせた刃がれだの胸を浅く切り裂く。
「それではゆるい!」
 ぐん、と。風のように、いや風よりも迅く疾也を追い抜いていった者がいる。雪刃だ。
「ぬん!」
 雪刃がれださえも追い抜いた。白光がはしり、さらにその後でれだの胴がふたつに割れた。

「お姉ちゃん」
 怜がゆりてぃあの側頭部に銃をむけた。すでにゆりてぃあは全裸といっていい有様で、夢中になって竜哉の口の中を舐めまわしている。その裸から顔を背けるには怜は天真爛漫に過ぎた。
「さようならなのだ」
 怜はトリガーをひいた。

「おのれ!」
 ててぃすの髪が無数の鞭となって羅喉丸を襲った。さすがの羅喉丸も全ての髪の攻撃を避けることはできない。幾条もの髪が羅喉丸の手足にからみつき、その動きをとめた。
「まだ、ダ」
 猫族の身ごなしで飛鈴がててぃすに迫った。ててぃすの髪の毛ではその動きを追いきれない。
「あたしが解き放ってやるヨ!」
 破壊力を増幅させた拳を飛鈴はててぃすの腹にぶち込んだ。苦痛など感じないのか、ててぃすは微笑った。それは安らかな笑みで。
 が、次の瞬間、その微笑は凍りついた。後ろからのびた刃がててぃすの首を切り裂き始めたからだ。
「浮気は許さんぞ。お前を解き放つのは俺だ」
 カルロスの口の端が鎌のように吊り上がった。


「……彼女達は何だったのでしょう」
 仲間を癒しながら、ふと柚乃が呟いた。
 炎の粒子と化して消えていった三人の女。結局のところ正体はわからない。誰にとらわれていたのか。ただわかっているのは彼女達が門番であったということだけだ。
 竜哉は思う。次に生を受けた時、彼女達が自由であればいいと。
「……俺達、解放してやれたのかなあ」
 哀しそうに俯いたのは怜だ。
「もしそうなら、今度は自分の好きな場所に行ってくださいなのだぜ」
「いけますよ、きっと」
 蔵馬は天使のように笑った。そして三人の美女が守っていた門に手をのばした。
「鬼が出るか蛇が出るか。それとも」
 希望という言葉を冠した新たな世界への扉が開かれた。